戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第23話 海底での邂逅

最初は面食らったこのチフォージュ・シャトーも、今では見慣れたものとなっていた。生活空間として捉えるならば、いささかばかり不便とはいえなくもないが、それも慣れの問題だ。製作者の内面を映し出したように、華美よりも実用性を考えて造られている。それはあくまで、錬金術師としての思考の上で、だが。

この見慣れた部屋も、今では多少の愛着を持つくらいにはなっていた。

「譜面は完成した。レイラインマップも手中にある。あとは、あとは……」

部屋の主が、わずかに影のある声でつぶやく。しばらく待ったが、その後に続く言葉が紡がれることはなかった。キャロルは沈痛な面持ちで握った拳を眺めている。

「テセウスの船……か」

「……何が言いたい?」

「何か言ってほしいんだろ? 自分が今まで正しいと思ってきたことを、自ら否定するのは勇気がいることだ。犠牲にみあう成果があるのか、支払う代償に納得ができるのか、得たものに心から歓喜できるのか。まあ、俺から言えることはひとつだ。よく考えて、後悔の無い選択をするんだな」

俺が言葉を終えると、キャロルは座席に背を預けて天井を見上げた。

それから幾ばくかの時が経ち、彼女はこれからの行動を口にした。

「……深淵の竜宮へ行く」

 

 

 

深淵の竜宮。海底に建造された、異端技術に関連する危険物や未解析品を収める管理特区の通称。そこに四人で向かっている。俺とキャロル、そしてレイアとミカ。ファラとガリィは別任務らしい。

深海のダンジョンに四人の足音だけが響く。そこで俺は懐かしい気配を感じとった。

「キャロル、すまない。しばらく別行動をしても構わないか?」

「……理由を聞かせろ」

「知り合いが居るみたいでね。邪魔をされても面倒だ。少し釘をさしてくる」

「こんな場所にか? まあいい、行ってこい」

「ああ、行ってくる。レイア、ミカ、キャロルを頼む」

「フッ、言われるまでもない」

「任せるんだゾー」

「要らぬ心配をするな! さっさと行け!」

俺は軽く手を上げて返事をすると、その場を離れた。

気配を探り、歩を進める。ネフィリムだけが隔離されているのか。それともオマケ付きか。閉じた区画を四つ程ぶち破る。果たして邂逅したのは、オマケ付きのほうだった。

「よう。一別以来だな、ドクター」

「ああ、貴方ですか。妙なところで再会しましたねぇ」

随分と神妙だな。なんだか調子が狂う。

「何故こんな所に? アメリカに収監されたんじゃあないのか?」

「ふんっ! 我が身可愛さの連中がフロンティア事変も僕の活躍も、よってたかってなかったことにしてくれた! 人権も存在も失った僕は人ではなく物、回収されたネフィリムの一部としてこんなところに放り込まれていたのさ!」

お、エンジンかかってきたな。やっぱりドクターはこうじゃないと。

「まだ英雄に拘ってるのか?」

「当~然だろっ! 僕ほど英雄に相応しい人間はいないっ!」

「なあドクター、スポーツは好きかい?」

「スポーツゥ~? あんな脳筋どもに興味はないねぇ~」

まあ、そうだとは思ってたがな。

「昔な、ある金メダリストが言ってたんだよ。『僕は今日、国民にとっての英雄となった。だが、僕にとっての英雄は、今まで僕を支え続けてくれた人たちだ』ってな」

「……持って回った言い方は好きじゃないな」

「マリア、調、切歌。いずれも最初期の敵合係数は酷いものだったらしいな。だが、アンタはLiNKERを改良し、正規適合者とも渡り合えるほどにまで高めた。それは紛れもなくアンタの功績だ。アンタは英雄ってのを人々の導き手みたいに解釈しているようだが、英雄の形はひとつじゃない。アンタは形に拘りすぎなんだよ。もう少し柔軟に考えろ。アンタを必要としているやつらはいる。S.O.N.G.には俺が口を利いてやる。政府の連中よりはマシさ。アンタも知っての通り、お人好しの集まりだからな」

「ふんっ、良く回る口だな。だが、この腕じゃ緻密な作業も……んなっ、僕の腕がッ!」

「腕なら既に治しておいた。何の痛痒も感じなかっただろ?」

今のドクターは正真正銘の人間だ。切り取ったネフィリムは亜空間部屋に押し込んである。

「チッ、お前の思想を押しつけるなよっ! 僕はなぁっ――」

「ここに一生閉じ込められるよりはマシな道じゃないか? それに、S.O.N.G.の連中に協力してやる、或いは利用してやるとでも考えれば多少の留飲も下がるだろ?」

「本当に良く回る口だな。……まあ、いい。今回はその口車に乗ってやるよ」

ドクターは不承不承、了承した。

 

 

 




主人公の言ったテセウスの船について、一応補足しておきます。要するに自分の為に散っていったオートスコアラーたちと、予備躯体のオートスコアラーたちを同一の存在として扱えるのかという、心の問題ですね。主人公の影響で、キャロルは原作以上にオートスコアラーたちに愛着を持っています。それが判断を鈍らせたというお話。
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