戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第25話 黄金の残光

郊外に在る小さな喫茶店。そこを買い取り、既にリフォームも終えてある。開店して数日経つが、客は指折るほどに少ない。広告も打っていないので、好奇心に釣られた地元の客が何人か入る程度だ。一人の来客もない日もあるが、それはそれでいいと思っていた。

その日は珍しく来客があった。しかも開店直後に来て、俺の目の前のカウンター席に腰を下ろした。その女性客はモーニングセットを注文した後、一言も発さない。結局根負けしたのは俺の方だった。

「あの後どうなったんだ?」

「これといって問題はありませんでしたよ」

取り付く島もない。俺があの言葉を口にするまで譲るつもりはないようだ。

「――すまなかった。この通りだ」

カウンターに手をつき、頭を下げる。ややあって、セレナの嘆息する声が聞こえた。

「仕方ありませんねぇ。許してあげましょう」

ようやくセレナに微笑みが戻る。

「あの後、でしたっけ? まあ実際大きな問題はなかったですよ。キャロルさんも協力的で、査問には時間もかかりませんでしたし。むしろ上層部が納得しないというか、疑心暗鬼になって司令もうんざりしてましたね」

そりゃあ今まで散々振り回されたんだ。一応の筋は通っているとはいえ、素直に降伏したことが青天の霹靂だろう。

「軟禁状態が解かれて、制限付きとはいえ自由になったキャロルさんが兄さんに会わせろと要求してきました。その時点で二週間が経ってたんですけど、S.O.N.G.は兄さんの存在を確認できず死亡扱いにしていました。司令は独自に動いていたみたいですけど、とにかくキャロルさんは全然納得してくれなくて、『お前らには任せておけん!』ってシャトーに引き籠ったんです」

「それで見つかったってわけか」

「錬金術って凄いですね。シャトーに残っていた兄さんの毛髪から居場所を特定したみたいですよ」

錬金術ってそんなこともできるのか。犯罪捜査で重宝されそうだな。まあ、本気で隠遁しようなんて思ったわけでもないが。

「そこからまた一悶着あったんですけど、結局兄さんと一番付き合いの長い私が先遣隊として来ることになったんです」

「『隊』って割にはひとりだけどな」

「私が隊員で隊長なんですよ。フフッ」

苦笑して、コーヒーを一口すする。

「キャロルさんから聞きました。兄さんが泥をかぶろうとしてくれたこと」

キャロルのやつ話したのか。黙ってたほうが有利にことを運べただろうに。

「結局はキャロルも利用されていて、裏に真のラスボスがいるってのは、ベタとはいえ分かりやすいからな」

「兄さんは最初から負けるつもりだったんですね。でも本気でやれば勝てたんじゃないですか?」

「勝とうと思えば勝てたさ。例えば未来ちゃんを人質にとるとか」

セレナはトーストを持ったまま固まっている。こいつのことだから、普通に戦って勝てるとでも思ってたんだろう。だが、流石にエクスドライブ八人分に真っ向勝負で押し勝てると豪語できるほど、俺は自信家じゃあない。

「或いは響ちゃんの家族、或いは風鳴八紘、彼は重要度が高いわりに、警護はそこまで厚くないからな。分かるかセレナ。悪党が悪に徹すればそのくらいは普通にやる。あいつらは街のチンピラとは違う。やると言ったらやるし、殺すと言ったら断固殺す。二課の連中は今までノイズの相手ばかりしてたから、そこいらの認識が甘い。二課からS.O.N.G.に変わったことを正しく理解しているやつは何人いるだろうな」

小さく嘆息し、天井をぼんやりと見上げた。

「それでも敢えて敗因を上げるとすれば、目を見てしまったことかな」

「目? 響さんの?」

「怒りとか憎しみとか、そういった負の感情が全く無く、愚直に、一生懸命に、正しい事をしようという心、情念のようなものが流れ込んできた。見惚れてしまった。美しいと思ってしまった。戦場で、心奪われてしまった。気づけば押し負けていた」

そろそろ日も高くなってきた。コーヒーは温もりを失いつつある。

「えーっと、それって響さんを、す、好きになったってことですか?」

「似ていると思ったんだよ」

「……似ている?」

「どうにもならないことを、どうにかしようと必死に足掻いている」

俺は途中で諦めてしまったから。

俺は途中で受け入れてしまったから。

「それが少し、羨ましい」

店内に流れているクラシックが次曲へと移り変わる。重厚ではあるが暗すぎず、むしろ始まりを予感させる曲調だった。

朝の涼やかさは既に過ぎ去り、肌にはじわりとした熱を感じる。

今日も暑くなりそうだ。

 

 

 




主人公の思惑が分かり難かったと思うので、一応まとめておきます。
元々主人公は不審死の調査という仕事でフランスに来ました。
キャロルとの交渉を終えた後、主人公は「詳細は伏せるが事件は解決した」と報告を上げています。
なので途中離脱は職務上ありえないというわけです。
エルフナインとの会話を通して、キャロルの目的を知った時点から、主人公の行動指針は「妥協点を探ること」になります。
キャロル及びチフォージュ・シャトーを制圧するのは最後の手段ですね。(できるかどうかはともかく)
S.O.N.G.側の損害については考慮の外です。序盤はともかく、中盤以降は装者たちを死亡させる目的ではないことは察していたので。
セレナは戦闘に出ないので除外。奏はアスカロンが基底状態にまで陥ると察知することができます。
セレナが参戦した後も、奏と同じく危機的状況になれば(アイアスの状態から)察知することができます。
あと思い出の補給についても一応補足を。
キャロルが確立した「思い出」と称される脳内の電気信号をエネルギーに変換、錬成するシステム。この一連の流れを「焼却」といいますが、主人公はこの過程を無視して、エネルギーをエネルギーのまま直接送り込んでいるということです。簡単に言うと変換器を通すか通さないかということですね。
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