戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第27話 完全と完成された男

目の前の男に座るように勧めると、俺は改めてこの男、アダム・ヴァイスハウプトについて考えた。知ったのは今朝のことだ。思い出したのはつい先ほどのことだ。

アダム・ヴァイスハウプト。アヌンナキと呼ばれる上位存在、いわゆる神とやらの造った『ヒトのプロトタイプ』。そして『完全と完成していたから』という理由で廃棄されている。本人の思考にも問題あったかもしれないが、別に廃棄することはないだろうに。

「どういうことだ。最後の人間とは」

アダムは多少の冷静さを取り戻したのか、先ほどまでの敵意を収めて対話の姿勢に入った。

「言葉通りの意味さ。俺が普通の人間ではないことは察しているだろう。聖遺物との融合体。造られたのは、おおよそ七年ほど前か」

その器に俺の魂が入り込んだ。時間と空間、世界を越えてそれが起こった。

「違うのは外殻くらいか、俺は人間体で、アンタは人形体だ」

「……そこまで知っているのか」

「復讐といってもどうやるつもりだ? 彼らはもういない。少なくともこの次元には存在しない」

「他次元には存在している、そんな口ぶりだな」

「俺を造った奴はこの星の一部になっているよ。自我はほとんどないはずだ。俺を造ったのも、一種の防衛本能が働いたようなものだろう」

「それは、僕に対してかい?」

違う、と言いかけて思い直した。

「まあそうだ。アンタがこの星や人類に対して脅威と成り得るなら、その意気を挫かせてもらう」

「できるのかい? 君に」

「アンタが完全ではないということを教えてやるよ」

俺がそう吐き捨てると、アダムは肩を揺らして笑った。

 

 

 

場所は移り、戦いは合図もなく始まった。

炎と氷の飛礫、竜巻に地割れ、果ては光熱波や閃光波まで。荒野は更に荒れ果て、大小のクレーターが出来上がっている。視認できない真空の刃を音と勘を頼りにかわしながら、稲妻を帯びた光球をミラーで逸らす。こちらが放った光の矢も、アダムは鼻歌交じりに相殺してみせた。

完全というのも法螺ではないらしい。錬金術師としても一級だ。

「もういいだろう、準備運動は。そろそろ見せてくれ、君の本気を」

「ああ、もったいぶるつもりはない。本気で行くぞ!」

ぐらりっと背後の空間が歪み、黄金の閃光がほとばしる。

「やはり違うね、ヤタノカガミとは。驚いたよ、僕の知識にない聖遺物とはね。――だがッ!」

アダムの掌から尋常ではない熱量の火球が放たれた。こちらも負けじとエネルギー球を打ち放つ。ふたつの圧縮された極大エネルギーの塊がぶつかり合い、空中で爆ぜた。強烈な熱波と爆音が大気を揺らす。聖遺物が無ければ黒焦げになって彼方へと吹き飛ばされていただろう。

白煙を切り裂いて腕が伸びてきた。狙いは頭部。さすがに掴まれるのはマズい。右の太刀を斬り上げる。完全に切断する勢いだったが、腕を弾くだけにとどまった。間髪入れずに左で胴斬りを繰り出すが、それも止められる。肘とももを使った変形の白刃取り。

「――やってくれたね。台無しだよ、一張羅が」

アダムの白スーツはきれいさっぱりと焼失していた。だが、肌には火傷ひとつなく、髪には焦げ跡ひとつない。

右手で突く。狙いは固定されている右肩。同時に金的を繰り出す。だが、どちらも身を引くことでかわされる。

それから幾度かの技の応酬をしたところで、お互いに決め手が欠けていることに気付いた。ならばこちらが先に札を切る。

二刀を重ね合わせ、上段の構えをとる。重なり合った二刀は一本の光の柱となって天へと噴き上がった。膨大な熱量が大気を乱し、破壊の力が一本の巨大な剣を形成する。鎧の背部から伸びた放熱索が、光を帯びて風にたなびいていた。

「これが最後の一撃だ。いいのか、その姿のままで」

暴風にかき消されたかと思ったが、俺の声はしっかりとアダムの耳に届いていた。

「――僕も同じさ。負けられないのは」

半眼でうめく。その声は乾いていた。瞳の奥が鈍く光る。

「負けるはずはない、完全であるこの僕がッ! 完成されたこの僕がッ! この醜い姿を曝そうとも、負けるよりは遥かにいい。負けるよりはァァッッ!!」

アダムの内に潜んでいたエネルギーが膨張する。ほとばしるエネルギーが赤雷となって大地を焼いた。

その姿を一言で表すならば『魔獣』だ。

――まずは、動きを止める。

巨体だからといって、鈍重だと決めつけることは浅はかだろう。相手は尋常の存在ではない。

「――行けッ!」

言葉を発する必要はなかったが、自然と漏れ出ていた。それに応えて、剣身から光の飛礫が雨のように降りそそぐ。だが魔獣の皮膚には傷ひとつ付けられず、硬い音をたてて弾かれた。

「感じないね、なんの痛痒も」

まあそうだろう。そんな期待は、はなからしていない。

「ならこいつだ。存分に喰らえッ!」

「その程度――なんだとッ!?」

影を縫い付けられたように、アダムの全身が動きを止めた。付け焼き刃とはいえ、効果は発揮したようだ。後で緒川君には礼を言っておかないとな。

「――ふざけるなァッ!」

アダムは影に突き刺さった光剣を力任せに引き抜いた。だが、もう遅い。

巨大な光の剣が魔獣の額を打つ。瞬間、大爆砕が起こった。

 

 

 

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