俺は一度死んで生まれ変わった。元いた時代の先、つまり未来にきたと思っていたが、どうもそうではないらしい。
この世界には「ノイズ」と呼ばれる化物がいる。人を襲う、人だけを襲う化物だ。特異災害と呼ばれている。当然ながら前の世界にはいなかった。
俺が死んだ後に発生したというわけではなく、このノイズと呼ばれる化物は太古の昔から存在しているようだ。
つまり時代が違うのではなく、世界が違うということだろう。別世界、或いは異世界。
何故、転生した?
何故、アメリカ?
何故、こんな能力が?
疑問は次々と湧き上がるが、答えをくれるものは誰もいない。特定の神を信仰していたわけでもない。俺は無神論者だ。
鏡へと目を向ける。そこには見慣れた男の顔が映っていた。間違いなく自分の顔だ。やせ細った骸骨のような、今にも死にそうな顔ではなく、ごく普通の顔。
思わず漏れそうになる溜め息を飲み込むように、思考を切り替える。
例の施設についてだが、情報屋は噂程度のことなら教えてくれた。
あそこは異端技術(ブラックアート)の研究所らしい。
いきなりのオカルトチックな話題に正気を疑いそうになったが、情報屋は至極真面目だった。その手の類は苦手だったのだが、今の俺がオカルトの塊みたいなものだから、一笑に付すわけにもいかない。
異端技術の結晶とも言える「聖遺物」なるものの研究を主としているらしい。どうやらこの世界は、そういったものが明確に存在する世界のようだ。
ロゼは最初の頃に比べれば、よく笑うようになった。今は地元のミドルスクールに通っている。ロゼの学力はそう高くはなかったが、教育を受けていないだけで地頭は悪くないらしく、徐々に成績は上向いてきている。
俺は地味な探偵業をしつつ、情報屋からの依頼で世界中を飛び回っていた。
東にテロリストがいれば打倒し、西に武装海賊がいれば鎮圧し、南に難民がいれば助勢し、北に拘束された人質がいれば救出する。
今回の依頼はとある遺跡を根拠地にしている武装盗賊の鎮圧だ。既に見張りの連中は武器と膝を破壊して無力化してある。
遺跡内部は薄暗く湿っていたが、人の出入りがあるせいか不快感はあまりない。それほど狭くもない回廊を進んでいくと、ふと違和感を感じた。その壁に触れると、ざわりとした感触が肌を刺激する。何の変哲もない石壁のように思えるが、そこをさらに押し込むと、壁がゆっくりと奥へと倒れた。
重い音が響き渡り、埃が舞う。奥の小部屋には石櫃があった。遺跡にはごくありふれたものだ。中には予想通り木乃伊が納まっていた。かぶりを振って蓋を閉める。こういうのは考古学者にでも任せておけばいい。
立ち去ろうときびすを返したところに、背後から意識を引っ張られた。いや、そんな気がしただけだが、こうした直観には従ったほうがいいと経験から学んでいる。
再度、石櫃を調べる。経年劣化が進んでいるが、しっかりと造られた棺だ。生前は大した人物だったのかもしれない。隠し扉の先に安置されているのは疑問だが。
それほど時間をかけたわけではないが、この棺が動きそうだというのは分かった。
ぎぎぃ――と耳障りな音をたてて、棺が動く。下から現れたのは地下へとつづく階段だった。
その先にあったのはまたしても石櫃だった。漆黒の闇にライトの灯りだけが辺りを照らしている。警戒しながら蓋を開けると、中には木乃伊ではなく、場違いなほどの煌びやかな槍が納まっていた。
それがただの槍ではないことは見た瞬間に理解できた。
「これでふたつめか……。よくよく縁があるみたいだな」
それは間違いなく聖遺物と呼ばれるものだった。