戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第31話 氷雪の館

あの男について考えていた。いや、男か女かは分からないが、なんとなく男だろうと予想する。

シェム・ハに殺されたアヌンナキの一柱。正確には死の寸前に、自らの意識を星と一体化させることで死から逃れた。言葉に自分の意識を潜らせるシェム・ハの手法と似ているが、シェム・ハのように復活はできない。彼は星の一部となっても、シェム・ハのことを懸念していた。人類を愛していた彼らと、人類を生体端末としてしか見ていないシェム・ハとの対立はある種の必然だったのだろう。

人類には原罪が刻まれている。その身体にも魂魄にも。だから彼は悠久の時をかけて器を造った。そして魂魄は、原罪に犯されていない別の世界から引っ張ってきた。

何故俺だったのか、理由は説明されなかった。勝手に宝くじに当選したようなものだろうと当たりをつけた。宝くじを買った覚えはなかったが。

まあ、第二の生を貰えたのは僥倖だったと思えなくもない。酷く面倒な人生を受け入れられればだが。

神の事や使命の事など忘れて、どこかに逃げるというには踏み込みすぎている。シェム・ハが復活してもなお知らんぷりをするというのは、さすがに無責任にすぎるだろう。復活させないのが最上なのだが、全ては確率の問題でしかない。

確率を論ずるのは、意味のないことだろう。1%だろうと99%だろうと、突き詰めて考えればそこに大きな違いはない。いつだって信頼できる数字はふたつしかない。

たったふたつ。つまりは、0%と100%。

サンジェルマンは旅に出ようとした。贖罪と救済の旅だ。だが俺が引き止めた。自ら動くよりも、統率をとれと言った。実際彼女には人を束ねる才覚があるように思えた。あの自由気ままな統制局長よりはずっと。カリオストロとプレラーティも交えて話し合った結果、彼女はその案を受け入れた。役職も正式に『統制局長代理』となり、辣腕を振るっている。アダムは半隠居状態だ。まあ、これは元からかもしれんが。

新たにトップとなったサンジェルマンは、この機会に結社を一新すると宣言した。人体実験まがいのことをやっている非人道的な錬金術師たちを粛清しているようだ。今までは自分たちが人間狩りのようなことをやっていた負い目もあって、強く出られなかったらしい。

「黄昏ているところ悪いが、そろそろ手伝ってほしいワケダ」

「そう言われてもな。俺にできることは、精々荷物運びくらいだろ」

背後からトゲのある声が聞こえた。

皮肉りながらも、彼女の顔には喜色が見える。このチフォージュ・シャトーの建造には彼女も関わっていたようで、そこに手を入れるのはまんざらでもないのだろう。

そう、俺は今チフォージュ・シャトーに居る。キャロルの降伏後、各国政府からの要望で、ワールドデストラクターを始めとする武装解除を行っているところだ。トリガーパーツであるヤントラ・サルヴァスパは既にS.O.N.G.へと返却してある。錬金術の知識に乏しい俺に出来ることはほとんどないのだが、キャロルに引っ張られて連れてこられた。

「なら、レイアの指示に従って荷物運びをやってもらいたいワケダ」

「ん、了解」

ひらひらと手を振って玉座の間へと足を運ぶ。そこにはふたりのキャロルが大きな荷物を運んでいた。近づいて、ひょいっとそれを持ち上げる。

「フィア、ノイン、大きいものは俺が運ぶから、ふたりは小さいものを頼むよ」

「……うん」

「……分かった」

ふたりはトコトコと次の荷物を取りに行った。最初は返事すらしてくれなかったが、接点が増えるにつれて多少のコミュニケーションはとれるようになった。正直なところ、見分けがつかないのでナンバーの腕章を付けてもらっている。

いや、彼女たちの名誉のために言っておくが、全く同じというわけではない。俺も最初は同じ顔にしか見えなかったのだが、よくよく見れば細部に違いがあるのが分かる。性格にしてもそうだ。判を押されたように同じというわけではない。声にも若干の違いがある。

キャロルはチフォージュ・シャトーが完成したおりに、彼女たちを廃棄処理する腹積もりのようだったが、そうならなくて良かった。

『廃棄躯体』だの『出来損ない』などと言われているが、俺にしてみれば錬金術師の理屈など、納得できないものが多すぎる。

錬成陣の上に荷物を置くと、次の荷物を取りに行く為に、俺はふたりの背を追いかけた。

 

 

 

最近思うのだが、こいつら俺を働かせすぎじゃないか?

「シャトーの件はあーしらが頼んだわけじゃないし、サンジェルマンが寝る間も惜しんで働いてるのは、アナタにも責任があるんじゃないのぉ」

「大体シャトーでおまえは言うほど役に立ってないワケダ」

ちょっと愚痴ったら辛辣な答えが返ってきた。サンジェルマンが働きすぎなのはあいつの性格のせいだろ。これだから真面目にすぎるやつは。

「治療もやっただろ。たぶん100人以上はやったぞ」

「まさかほとんど頭部しか残ってない生体を完治させるとは思わなかったワケダ」

「たしかにあれは吃驚したわね」

首から下のほとんどがファウストローブに換装されてたんだっけか。まるっきりサイボーグだったな。重症度でいえば、奏に次いで歴代二位だろう。

犠牲となった被験者たちの姿を思い出す。どこにでもろくでなしはいるものだ。

俺は嘆息しながら、後ろを見やった。

俺たちの後ろには黒いローブを羽織った錬金術師たちが続いている。俺は【八咫鏡】を、カリオストロとプレラーティはファウストローブを纏っているので寒さは感じないが、彼らは普通の防寒具だ。いや、錬金術でなにがしかの保護はしているだろうが、それでも寒そうにしているのが見てとれる。

しかしなあ、この黒一色のローブはどうにかならんものかね。サンジェルマンにもうちょっとマシな制服でも作るように提言するか。

「で、この先に目的のものがあるのか?」

「そうよぉ。スレグ、スネグ……なんだっけ?」

「スネグーラチカのウシャンカ。分かりやすく言えば『雪女の帽子』ってワケダ」

「そうそう。たしか民間伝承が人々の信仰を受けて哲学兵装化したのよね」

「絶対零度を自在に操ると報告を受けているワケダ」

まあ、厄介なのは間違いないんだろうけど、絶対零度以下の負の温度を散々ぶつけられてきた身にすれば、さほどの脅威とも思えないんだよな。超々高温度の火球とかもばら撒かれたし。

しばらく歩みを進めていくと、白一色の景色の中に黒い建物が飛び込んできた。それなりに大きく、それなりに広い。崖下の館を見下ろしながら、プレラーティが何やら部下たちに指示を出している。

「じゃあプレラーティ、手筈通りによろしくね」

「了解なワケダ」

そう言って、プレラーティたちは俺とカリオストロから離れていった。事態を理解していないのは俺だけらしい。

「手筈通りってなんだ?」

「プレラーティたちがやつらを逃がさないように包囲する。あーしとアナタが突入する。オーケー?」

「オーケーオーケー。だが次からは事前に教えてほしいね」

半眼でぼやく。だが、カリオストロは全く気にしていない。

「男が細かいことに拘らないの。十分後に突入するわ」

きっかり十分後、俺は念のために確認する。

「突入方法は?」

「結界に踏み入れば、どこから入っても同じよ。正面玄関でも、裏口でも、上空からでもね」

そう言って、カリオストロは館に向かってダイブした。

 

 

 




キャロルのナンバーズホムンクルス。原作では詳しくは言及されていなかったように思います。
廃棄躯体11号という名称から、他に10体いることは推察できるのですが、本作ではエルフナインを含め12体ということにしています。
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