戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第36話 神去りし後

統一言語が解放されたからといって、何かが変わったという実感はなかった。世界は相変わらず多数の言語に溢れているし、第六感が発達したわけでもない。ましてや人類が念話に目覚めたわけでもなかった。

それでも人々の思いは晴れやかだった。心の奥底にある澱のようなものが消え去ったように見える。

向かってくる装者たちを適当に捌きながら、俺はそんなことを考えていた。

サンジェルマンたちの助力を得て、キャロルが手ずから仕上げを施したシンフォギアは、確かに性能が格段に上がっていた。

飛んでくるガトリング弾の射線上にマリアを蹴飛ばす。小さい悲鳴が聞こえてきた。

アダムは意外なほどおとなしくなっていた。飄々とした態度はいつも通りだが、覇気が薄れている。燃え尽き症候群かもしれない。

突進してくる奏をいなして、同じく別方向から突進してくる響ちゃんをこかして踏みつける。蛙が踏み潰されたような声が足の下から聞こえてくる。

日本と米国の共同で月遺跡を調査する計画が持ち上がっているらしい。サンジェルマンも一枚噛んでいるようだ。これまで裏社会との繋がりはあったが、表とのパイプは細いものだった。この機会に恩を売りつける腹積もりだろう。

セレナの操作する短剣をハッキングして、そこら中にビームをまき散らす。装者たちがタップダンスを踊るように慌てふためいている。

錬金術の学び舎計画は、やはり難航しているようだ。意識改革が難しいらしい。錬金術の必要性や存在意義を問うような壮大な議論に発展しているとか。

飛翔音をたてて接近する鋸刃をライナーで切歌の方へと打ち返す。負けじと切歌も打ち返そうとするが、それは叶わず後方へと吹っ飛ばされた。

切歌が目を回したところで訓練は終了となった。

 

 

 

「また勝ってしまった。敗北を知りたい」

「――クッ! その余裕が鼻につくッ!」

マリアが眉根をよせて憤慨した。冗談が通じないなぁ。

「まあ実際のところ、俺と君たちのギアにそこまでの性能差はないんだよ」

「紫音さんの言ってること、全然分かりませんッ!」

「今回ばかりはそのバカの言う通りだぜ。ここまでボコボコにされた後に言われてもな。説得力がねぇよ」

「そうデスッ! 敵に塩を塗るとはこのことデスよッ!」

「……切ちゃん。それを言うなら傷口に塩だよ」

調がツッコミながら嘆息する。

「要するに、『合気』と『踏み込み』ですか?」

「流石は翼さん。目の付け所が違うね」

小さい頃から武術の指南を受けているだけはある。

「あー、どういうことだ翼。あたしにも分かるように説明してくれ」

「うん。つまりね……」

翼さんは、そこで一度言葉を切った。俺を含めた全員の視線が自分に向いていることに気づいたのだろう。一瞬たじろいだものの、咳払いをひとつしてから続きを口にした。

「つまり、呼吸を合わせるということよ。普通は味方同士で使う言葉だけど、神宮寺さんは私たちの呼吸を読んで、そこからさらに踏み込んできた。それは常に後の先を取られている形になる……ということよ」

「な、なるほど……」

「おいバカ。おまえ、ちゃんと分かったのか?」

「酷いよクリスちゃん。あれでしょ、後出しジャンケンみたいなことでしょ」

かくん、とクリスちゃんの肩がこけた。

ニュアンス的には間違ってないのだが、言い方がな。

「間違ってはいない。いないのだが……」

翼さんが唸る。責任感の強い彼女のことだ、もっと上手く説明できなかったのかと自分を責めているのだろう。

感想戦もそこそこに、話題は次第に女子会のノリに転じてきた。世界的な難事が解決したせいか、彼女たちの心も軽いようだ。

サンジェルマンから連絡が入ったのは、そろそろ解散となった頃合いだった。

例の遺跡が見つかった、と。

 

 

 

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