「最終チェックOK。いつでも飛び立てるワケダ」
「ああ、お疲れ様、プレラーティ」
荷物の搬入も問題なく終了した。後は本当に、飛び立つだけだ。
「パヴァリアのほうはどうなってる?」
「大きな問題はほとんど落ち着いたワケダ」
「後はこまごまとしたものだけというわけか」
「学び舎計画は、一時凍結となったワケダ」
「そりゃ残念だ」
とはいえ、それほど落胆はしていない。倫理ある錬金術師たちの中でも、意見は割れている。法で裁けぬ悪を裁くとか、弱者を影ながら支援するとか、そういった場合、錬金術は影の存在であった方がいいということだ。結局、錬金術師の問題は錬金術師が解決するしかないということだろう。
「乗員はどうなっているワケダ?」
「俺とキャロルと、オートスコアラーたち四人にホムンクルスたちが六人、それとセレナだな」
「セレナ……ああ、おまえの妹なワケダ」
そういえば、プレラーティやカリオストロは装者たちとほとんど接点がなかったな。
「随分と盛り上がっているようだな」
聞こえてきた声に振り返る。
「最終チェックが終わる頃だと思ってな。その上でオレ手ずからチェックしてやろう。ダブルチェックは基本だからな」
「まるで遠足前の子供のようなワケダ」
プレラーティが含み笑いをしながらつぶやいた。
「貴様こそ随分と饒舌じゃないか。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようだ」
「――ッ!」
「――ッ!!」
相変わらず、仲が良いのか悪いのか。
「今日はレイアじゃないんだな。シャトーのほうはどうなった?」
「シャトーはどこにも属さない独立勢力として活動する予定ですわ。一応S.O.N.G.とは協力関係を結んでいるので、攻められるということはないでしょう。そんな愚か者はいないと思いますが、予備躯体とはいえ、もうひとりの私たちもいますからね」
そう言ってファラは優雅にほほ笑んだ。
「そういえば、予備躯体の動力源はどうなってるんだ? まさかとは思うが……」
「案ずるには及びません。思い出式から反物質電池に換装してあります。多少出力は落ちますが、稼働時間は延びています。いざという時のために外部バッテリーも用意してありますから、後顧の憂いはありませんわ」
どうやら俺程度が考えることは、既に対策済みのようだ。
微苦笑を浮かべ、未だにプレラーティと口論を続けている少女へと目をやった。
女三人寄れば姦しいというが、十人以上もいればそれは賑やかなものだった。テーブルの上には溢れんばかりの菓子や料理が並んでいた。いつもは厳しい顔をしている弦十郎さんも、今日ばかりはにこやかだ。
日頃仕事に忙殺されているサンジェルマンもなんとか時間を作ってくれたようだ。
カラオケマシンも用意されていて、今は調と切歌が不死鳥のフランメを歌っている。
「ボス、一緒に行けなくて悪い。最後まで迷ったんだが……」
奏が申し訳なさそうに声をかけてくる。
「気にするな。俺のわがままに付き合う必要はない。それに焼き鳥の串を持ったまま言ってもしまらないぞ」
「こういうほうが、あたしらしいだろ?」
そう言って奏は笑う。つられて俺も笑った。
「あっちにも挨拶しておいたほうがいいんじゃねえか?」
奏の視線の先にはマリアの姿があった。
「……そうだな」
そう言って奏に背を向ける。マリアの顔は薄紅色に染まっていた。少し飲んでいるようだ。
「マリア、少しいいか?」
「……ええ、どうぞ」
「俺が言うべきことではないのかもしれないが、セレナのことは――」
すまない、と言いかけて、これは違うのではないかと思い至った。ここで口にすべきことは謝罪ではない。
「任せてくれ」
一瞬、面食らったようにマリアの目が見開いた。その後、ぼんやりと床の一点を見つめたまま、つぶやく。
「……別に、恨んでいるわけではないのよ。セレナももう、子供ではないのだし」
マリアは手にしたワインを一口嚥下すると、昔を思い出すように言葉を続けた。
「あの事故の後、セレナの遺体は見つからなかった。絶唱を使った上、瓦礫の下敷きになっていたのだから、酷い状態になっていることは予想できた。だからマムは私にそう言ったのだと思っていたの。でもセレナはしっかりと生きていて、再会できたときは本当に嬉しかった。貴方には感謝しているわ。本当に、感謝してもしきれないくらいに」
マリアの瞳は潤んでいた。本当にセレナのことを大切に思っているのだろう。
「要するに、未練なのよ。でも、私はセレナの足かせにはなりたくない」
再度ワインをあおり、マリアは涙を拭ってこちらに視線を向けてきた。
「心配しないで。当日は笑顔で見送るわ。セレナには笑顔の私を覚えていてほしいから」
カラオケマシンから逆光のフリューゲルが流れ始めた。次に歌うのは、響ちゃんと未来ちゃんのようだ。