戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第39話 未来へのプレリュード

「久しいな、人間もどき」

常闇から漏れ出てきたのは、聞き覚えのある声だった。顔を上げ、声の主を確認する。そこには二度と見ることはないと思っていた女神の姿があった。

「驚愕には値せぬ。精神の世界とは隔離された世界であり、ひとつの結界でもある。消滅したところで行き場などどこにもあるまい。もっとも、貴様があのまま絶命していれば、諸共に消滅していたであろうがな」

「普通に死んだと思っていたが……」

つくづく神様ってのは、常識では測れない存在だな。

「力の大半を失ったのは事実であり、遺憾ではある。対話する意識を確立させるまで、それなりの時を有した。本来ならば、貴様の内から人類の行く末を見届ける予定であったが、まさかこの星から旅立つとは、さすがに思量の埒外であったぞ」

彼女の言葉を反芻して、本当なら出てくる予定はなかったのだなと思い至る。そしてこの女神が、ただ雑談をするためだけに夢にまで出てきたとは思えなかった。

「ひとつの提案がある」

ここで願いとか頼みとか言わないあたりが、彼女らしいと思った。

 

 

 

女神との逢瀬は、さして楽しいものでもなかったが、彼女が世界に影響を与えることはないと悟るには十分だった。

冷や水を浴びせられたように眠気は霧散していた。しかたなく、夜風を求めて外に出る。幸いにして寒気は感じなかった。

この世界に来て、色々なことがあった。わけもわからず放り出されて、楽観して生きれば良いものを、性分なのだろう、殊更にうがった見方をしてしまった。ようやく落ち着いたと思ったところに、使命とやらを叩きこまれた。不思議と反抗する気持ちはなかった。もしかしたら、あれは洗脳だったのだろうかと邪推してしまう。

いずれにせよ、神という信仰の対象と言葉を交わし、戟を交わすとは、さすがに予想だにしていなかった。

星が落ちてきそうな空を見上げ、吐息を漏らす。

どのくらいそうしていたのか、気づけば東の空は白んでいた。

そこに、足音が聞こえてくる。最初は獣かと思ったが、そんな気配ではない。ゆっくりと視線を移す。視界に飛び込んできたのは、見知った顔と見知らぬ顔だった。

「見送りというわけでは、なさそうだな」

「退屈なだけだからね。この星に残っていても。ならば行くさ。面白いほうへね」

最古の人形はあっさりとそう言い放った。

「あれから全く姿を見せないから、サンジェルマンたちも心配してたぞ」

「心配? ありえないね。そんな間柄じゃないんだ、僕たちは。しているとすれば、それは心配じゃなくて憤懣だろう」

意外と自分がどう思われてるかは理解してるんだな。

「アダムを邪険にするなんて、やっぱりあいつらは三級だねっ!」

アダムの腕に絡みついていた少女ががなり立てる。何気に初めて見る顔だな。

「彼女はティキ。僕が作った自動人形さ。惑星の運行や天体図といった、いわば宇宙のスペシャリストだよ。わざわざ連れてきたんだ、役に立つだろうと思ってね」

ティキが腰に両手をあて、どうだとばかりに胸を張っている。

「俺は神宮寺紫音。一応この船の船長だ。よろしくな」

「アダムのお願いだからね。仲良くしてあげるわ。ヨロシクね、シオン」

ティキは笑いながら、俺の右手を握った。

「そろそろ案内してもらおうか、僕の部屋に」

「違うよアダム。あたしたちの部屋、だよ」

「フッ、そうだったね」

気ままな性格は相変わらずのようだ。仕方なくやや広めの部屋へと案内する。広さは十分のはずだが、家具らしい家具はほとんどない。

「追加の家具を運び込むくらいの時間はあるが……」

「君だけの特権ではないのさ、空間操作は」

そう言ってアダムが指を鳴らす。床一面に錬成陣が浮かび上がると、最初にあった家具が消え去り、豪奢なテーブルや鏡面台、ソファーやベッドが出現した。ティキが歓声を上げてキングサイズのベッドへとダイブする。

こういうところは如才ないな。いや、自分本位なだけか。ともあれ手間は省けた。

ちなみに、俺は指パッチンで狙った場所に狙った物を出すなんて器用なことはできない。

朝日が昇る。

旅立ちの時は近い。

 

 

 

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