戦姫絶唱シンフォギア -月華の旅人-   作:乾燥海藻類

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第04話 赤い髪の乙女

彼女は小高い丘に倒れていた。決して明けることのない未明の大地に。

黄泉、冥府、極楽浄土。様々な呼び名があるが、要するに死んだ人間が行きつくところだ。ここはその入り口にあたる。

辺りには老若男女、悲しいかな子供の姿もある。皆一様に生気がなく、目の焦点もあっていない。夢遊病者のように、ただ一点を目指して歩いている。

その中で唯ひとり倒れている彼女は酷く目立った存在だった。この中で唯ひとりの生者ともいえる。放っておけば、すぐにでも彼らの仲間入りになるとしても。

身体を屈めて、彼女の顔を覗き込む。その光景を目にして、全身に緊張が走るのを感じた。

――あの時と同じだ。

両の目と口から鮮血が流れ出ている。

死んではいない。まだ死んではいないと思う。なら手遅れではない。正直、ここからの治療など例にないことだが。

治療というよりは再生、再生というよりは創造に近かったが、なんとか治療は完了した。

彼女を抱きかかえ、吹きつける涼風に逆らって進む。気付かぬうちに早足になっていた。

こんな陰鬱な場所からは一刻も早く立ち去りたかった。

 

 

 

ロゼと出会ってから4年が経っていた。ロゼは17歳になり、現在はハイスクールに通っている。

彼女も同じ年頃に見える。おそらく成人はしていないだろう。

「……んん。誰だ? あんた」

どうやら眠り姫が目覚めたようだ。

「俺の名前は神宮寺紫音。君を保護した者だ、一応な。自分の名前は言えるかい?」

「名前? あたしの、名前……?」

予想はしていたが、外れてほしかった。

これまで何人かの重篤者を治療したが、どうも俺の能力は外傷や内臓損傷は治せても、心や精神、脳の深い部分には影響を与えられないようだ。

「それは日本語だな。君は日本人か?」

「日本……。うん、たぶんそうだ。そうだと思う」

「なら大使館に行くのが、一番いいだろうな。だが、君にはビザやパスポートなどの身分を証明するものがない。名前も分からないし、身元確認には時間がかかるだろう。面倒な手続きも必要になると思う」

記憶喪失がどの程度かは分からないが、ロゼと同じパターンなら、こちらの言っていることは理解できるはずだ。

「……なあ」

彼女はしばし考え込んでから、口を開いた。

「アンタは、どんな仕事をしてるんだ?」

「仕事か……まあ、探偵だな」

「ならさ、アンタの仕事を手伝うから、ここに置いてくれないか?」

言葉に詰まる。まさかそんな答えが返ってくるとは予想もしていなかった。

「ダメか?」

「――いや」

この娘が普通ではないことは推測できる。ならば、こちらで保護しておいたほうがいいのかもしれない。

「なら名前を決めないとな」

「それじゃあっ!」

「紅子かルージュだな」

「……ルージュでいいよ」

「いや、日本人だし紅子のほうが」

「ルージュでいいって!」

彼女――ルージュが悲鳴じみた声を上げてこちらを睨みつける。

俺は小さく笑うと、右手を差し出した。ルージュは一瞬呆けたものの、にやりと笑って俺の手を握った。

「よろしくなっ!」

その笑顔はとても輝いていた。

 

 

 




一応、彼女が留まったのには理由があります。記憶の残滓にある人物と、主人公の印象が似ていたからです。
長身、しっかりとした体躯、頼りがいがありそうな雰囲気。
さて誰でしょうね?
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