かなりメチャクチャでかなりテキトーです。
「野球をやろう」
会議も終わり、解散となった頃合いに待ったを掛けた議長は声高にそう言った。それを聞いた皆は一様にこう思っただろう。
(なに言ってんだこいつ)
だが議長でもあり、この組織の長でもある彼に対して真っ向から異議を唱える勇者はいなかった。
「なに素っ頓狂なこと言ってんだよ、おっさん。またぞろ変な映画でも見たのか?」
訂正しよう。勇者はいた。銀髪の女勇者は目を細くして、仁王立ちしている赤シャツの魔王に正面切って問責した。
しかして魔王は一切動じることなく、テーブルの下から一枚のDVDを見せつけるように取り出した。DVDである。それだけで古い作品だということが推察できる。
そこから始まる鑑賞会は予定調和と言えるだろう。有無を言わさぬ強引さで、室内の照明が落とされた。
映画の内容は、一言でいえばまさしくB級映画と呼べる物語だった。
宇宙から来た人型の侵略者たちが野球で勝負しろと言い放つ。我らが勝てば地球を爆破する。負ければおとなしく帰ると。
この時点で白衣の生化学者がトイレに行くと中座した。おそらく二時間くらいは帰ってこないだろう。
勝負は三試合。一勝でも出来ればそちらの勝ちでいいという、いわゆる舐めプだ。
一試合目はメジャーリーガーたちを集めたオールスター。早々に試合を決めるつもりだったが、結果は惨敗。一回の裏で10点を取られた時点で敗北を認めた。
何故なら侵略者たちは、見た目こそ人間と酷似していたが身体能力は全く別物だったからだ。投げる球はスピードガンでは計測できず、打球は場外ホームランどころか彼方へと消えていった。
ここで人類側は方針を転換。ヒーローたちに未来を託した。彼らは侵略者が襲来したときに集結していたのだが、野球で勝負となったので静観していたのだ。だが、事ここに至ってはそんな場合ではなくなった。
そうして始まった二試合目。結果は惜敗。
力量自体は拮抗していたのだが、戦略が勝負を決めた。つまりは監督の存在。ヒーロー側には監督がいなかった。もとより個人で圧倒的な力を持つヒーローたちは、組んで戦うという経験が圧倒的に不足していた。そもそもヒーローとしての力を使って野球をプレイすることも初めてだったのだ。
そうして始まる三戦目。人類側は野球IQ320と言われる伝説の超監督を起用した。超監督のもとで一致団結したヒーローと侵略者たちの戦い。それは熾烈を極めた。
熱戦、烈戦、超激戦。野球を超えた野球、いわば超次元野球。人類は辛くも勝利した。勝敗が決した後はお互いに健闘をたたえ合い、夕日をバックにエースのふたりが友情の握手を交わす。そして流れるエンドロール。ザ・エンドってね。
室内に明るさが戻る。まず目に入った少女の反応に、俺は困惑した。
「うう~、スポーツを通じて友情が生まれる。さすがです師匠~。こんな素晴らしい映画があったなんてぇ~」
泣いていた。淡い栗色の髪の少女が、拳を震わせ瞳に涙を溜めて賞賛の言葉を吐いていた。
「友情、努力、そして勝利。基本であり、王道だな。皆で団結し、強大な敵へと立ち向かう。あの英雄たちはまさしく防人だった」
青き長髪を華麗に揺らしながら、納得するように唸る。友情と勝利は分かるが、努力のシーンなんてあったかな? ヒーローたちが超監督の指示のもと練習するところくらいしかなかったような気がするのだが。
「前半は結構地味だったけど、後半は盛り上がったね」
「わたしは黒マスクのヒーローがかっこよかったと思うデスッ! 超新星デストロイスマッシュインパクトが決まったときは鳥肌たったデスよッ!」
あー、あの満塁ホームランね。CGはかなり気合はいってたな。名前の通り超新星爆発がモチーフなんだろう。
「コミックヒーローも侮れないわね。取り入れるべきところはあるかしら……」
桃色髪の歌姫が間違った考察をしていた。それを同じく桃色髪の妹が暖かい目で見守っている。あんなもんはノリと勢いなんだから学ぶべきところはないだろ。
「バッティングってのは、手首の返しが重要だって言ってたな」
銀髪の女勇者は既に素振りを始めていた。確かに超監督がそんなことを言っていたが、真偽のほどは怪しいものだ。なんたってB級映画だし。
「いえ、ちょっと待ってください。むしろ手首は使わないほうがいいと思います。そうしたほうが慣性の力でヘッドが返るので……」
おっと幼女まで参戦してきたぞ。君まで染まってしまうと歯止め役が……ってもうひとりの幼女は……なにしてんだ? なにか書いているようだが。
……こいつッ! 既にオーダー表を書き始めてやがる。隣でいびきをかいている赤髪の女を気にする風でもなく、その目はとても真剣だった。
超監督 キャロル・マールス・ディーンハイム
1番 ⑧ ガリィ・トゥーマーン
2番 ⑥ レイア・ダラーヒム
3番 ③ ファラ・スユーフ
4番 ① 神宮寺紫音
5番 ② ミカ・ジャウカーン
6番
ペンはそこで止まっていた。しかしポジションを番号で書くとは。知っていたのか、それとも映画で覚えたのか。おそらく対戦相手は装者を想定してるんだろうな。つか自分は監督なのか。途中で「代打、オレッ!」とか言いそうだな。
あと、俺を勝手にチーム入りさせるな。せめて許可を取れ。
この喧噪の中で、唯ひとり優雅にたたずむ紫紺色の髪の女性は、少女たちを慈しむように柔和な笑みを浮かべていた。
というわけで、やってきましたチフォージュ・シャトー(の一部を改装した野球場)。
舞台が亜空間ということで、お察しの通りシンフォギア、聖遺物、錬金術、その他異端技術アリアリの超次元野球の開幕です。
まずはオーダー表の交換から。
監督 風鳴弦十郎 マネージャー エルフナイン、小日向未来
1番 中堅手 雪音クリス
2番 投手 立花響
3番 一塁手 風鳴翼
4番 捕手 風鳴弦十郎
5番 遊撃手 マリア・カデンツァヴナ・イヴ
6番 三塁手 天羽奏
7番 二塁手 セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
8番 左翼手 暁切歌
9番 右翼手 月読調
――達筆ッ! しかも筆書きッ! 部屋は汚い(らしい)のに、絵心もない(らしい)のに、何故に字は綺麗なのか。
「神宮寺さん、何か不埒な事を考えませんでしたか?」
「いやいや、達筆な文字に感心していただけですよ」
平静を装い返答する。選手にひとり装者じゃない人がいるようだが、気にしてはいけない。
続いてキャロルからオーダー表を受け取る。
超監督 キャロル・マールス・ディーンハイム
1番 2B ガリィ・トゥーマーン
2番 SS レイア・ダラーヒム
3番 CF ファラ・スユーフ
4番 P キャロル・マールス・ディーンハイム
5番 C ミカ・ジャウカーン
6番 3B サンジェルマン
7番 LF カリオストロ
8番 RF プレラーティ
9番 1B レイア(妹)
守備番号は一見して分かり難いので遠慮してもらった。レイアの妹は本来ならかなりの巨体らしいのだが、武装解除の折に小型ボディに換装したらしい。今ではガリィと同じくらいの背丈しかない。
しかしサンジェルマンたちが付き合ってくれるとはな。誘いをかけた俺が言うのもなんだが、よく了承してくれたものだ。
オーダー表を確認し、交換は終了した。コイン投げの結果、先攻はシンフォギアチームとなった。
「プレイボーーールッ!」
主審の俺は高らかに試合開始を宣言した。塁審は緒川君だ。友里さんと藤尭くんは置いてきた。修業はしたが、はっきり言ってこの戦いにはついてこれそうもない。
鼻息荒く登場したクリスちゃんが意気揚々とバッターボックスに入る。
マウンドに立つアダルトボディのキャロルの腕が振り下ろされた一瞬後、まさしく刹那にも満たない時間で、白球はミットへとその身を移していた。
「……は? いや、ちょ、おま、まてまてッ! なんだよこれッ!」
クリスちゃんが抗議? の声を口にする。それは例えるなら、バナナで武装した敵に襲われた場合の護身術を教えてやると言われたときのような間抜け面だった。
「不正はなかった。ただのストレートボールだ。というわけでストライクッ!」
まずは様子見ってところかな。何しろ、まだ音速にも届いていない。
「ストライク!」
「ストライク! バッターアウトッ!」
なすすべもなく三球三振。クリスちゃんは肩を落としてベンチへと戻っていった。
「お願いしますッ!」
響ちゃんが一礼してバッターボックスに入る。一球目は、ファール。
「ほぅ。当ててきたか」
キャロルが感心したように呟く。心なしか嬉しそうだ。続く二球目。ボールがミットに収まってから、捕球音と衝撃波が耳朶を打った。音速を超えたか。
結局は二者連続三振。響ちゃんは悔しそうにベンチへと帰っていった。
「お願いします」
響ちゃんと同じように一礼して、翼さんがバッターボックスに入る。そしてすぐさまマウンドの方へと向き直ると、腰を落とし、大刀を水平に構えた。
キャロルは緊張した面持ちで、第一球を投じた。
「――見えたッ! 蒼ノ一閃ッ!」
抜き放たれた一刀は白球の半ばまで斬り進み、そこで刃が返される。天高く舞い上がったボールは分断されて場外へと消えていった。
「ホームラン! ツーホームランッ!」
俺の声に応えて、スコアボードに『2』という数字が燦然と輝いた。
「ちょっとまてッ! ボールが破損した場合はノープレイではないのか!? オレの読んだルールブックにはそう書いてあったぞッ!」
「いや、それを言うなら刀持ってバッターボックスに入った時点で反則だろ。キャロル、これは野球であって野球ではない。細かい物言いは却下だ」
にべもなく言い放つ。だがキャロルが腹を立てた様子はなかった。これは、言質を取られたか?
「そうだな。これはアリアリルールだったな。失念していた」
キャロルはおとなしくマウンドへと戻っていった。その口元は薄く笑っている。
ついに四番。人類最強の男がバッターボックスに入った。
音速を超えた剛速球は、その揺らめきすら捉えることはできない。だが聞こえてきたのは捕球音ではなく、豪快な打撃音だった。
「――甘いッ!」
「――甘いのは貴様だッ! 風鳴弦十郎ォォッ!」
真芯で捉えた打球は一直線にレフト方向へと飛んで行った。それを遮ったのはキャロルが手にしたグラブだ。その反応速度は驚嘆に値するものだった。投球直後、既にキャロルは跳んでいた。
「スリーアウト! チェンジッ!」
攻守交替。
バッターボックスにはメイド服のような青い衣を身に纏った少女が、漆黒のバットを握って立っている。実にシュールな絵面である。
「ガリィ、いっきまーす」
「――全力で来いッ! 響くんッ!」
「はいッ! いくよ、ガリィちゃんッ!」
響ちゃんのしなやかな足が天へと伸びる。その投球動作から投げ出されたボールは十分なエネルギーと運動の方向性を生み出した。
対してガリィはいささかの動揺も見せずにバットを振った。バットがボールに触れた瞬間、急激に周辺の温度が引き下げられる。氷結によって一体化したバットとボールがサードを強襲する。
「――クッ、なめンなぁッ!」
サードの奏はグラブを投げ捨て、槍を振るった。それは狙った通りにバットとボールの接着面を切断する。返す刀で、いや返す槍で一閃。打ち出されたボールは一直線にファーストへと向かっていく。
「これは……間に合うかッ!?」
足場を凍らせて滑走してくるガリィを斜めに見ながら、翼さんが呻く。
ギリギリのタイミングだ。塁審の緒川君は目を見開いて、その一瞬を見逃すまいとしている。
「――南無三ッ!」
翼さんは全力で開脚すると、目一杯に左腕を突き出した。捕球を確認すると、翼さんが塁審へと視線を向ける。
「アウトですッ!」
緒川君が拳を振るってそう宣言した。
続いて二人目、レイアがバッターボックスに入る。
「来い、派手に打ち返してやろう」
挑発にのることなく、響ちゃんは振りかぶった。と同時に、レイアの左手が鈍く光る。投球と同時に射出されたコインが軌道上でぶつかり合う。速度を落としたボールはふわりと軌道を変えた。そこにレイアの振るうバットが急襲する。
打球は響ちゃんの頭上を越え、センター方向へと舞い上がった。そこへ狙いすましたように二種類の短剣が、左右より突き刺さる。運動エネルギーをゼロにされたボールはそのまま落下を始めた。ほどなくしてボールはセレナのグラブへと収まる。これでツーアウト。
三人目の打者、ファラが優雅に一礼してバットを構える。
「さあ、お相手いたしますわ」
風が、吹いた。逆風によって球威の落ちたボールはもはや的でしかなく、打ち出されたボールは、上昇気流に捕らわれたように高々と天へと昇っていき、ボールはそれきり落ちてはこなかった。なので、俺はこう宣言するよりほかなかった。
「ホームランッ!」
これで一点差。そしてついに真打登場。
四番ピッチャー、キャロル・マールス・ディーンハイムが、碧眼を輝かせながら打席に立つ。
「何するものぞッ! シンフォギアアアアァァーーッッ!!」
場内は異様ともいえる空気が流れていた。緊張とともに高まったフォニックゲインが響ちゃんに翼を授ける。得も言われぬオーラというべきものが、響ちゃんに更なる力を与えていた。
キャロルはダウルダブラのファウストローブを身に纏い、王者のような風格を漂わせながら、来るべき瞬間に向けて気を整えている。
「いくよッ! キャロルちゃんッ!」
「――来いッ! 立花響ッ!」
ふたりの視線が稲妻を帯びたように交錯する。響ちゃんは翼をはためかせて、大きく振りかぶった。全力を傾けた一球は一筋の光明を放つ。
衝撃は重さとなって表れた。捕球した弦十郎さんの身体は数メートル後退し、俺は彼の両肩を押さえて助勢した。
「ストライク!」
キャロルは無言で構えなおすと、再びマウンドへと視線を戻した。
再度、光の翼が翻る。放たれた一条の光。それがミットに収まることはなかった。
皆がそれに注視していた。ホームベースの真上、丁度打ちごろの位置に停止している白球に。
ダウルダブラのファウストローブより紡ぎ出た光子の糸が、ボールを空中に縫いとめていたのだ。キャロルは口角を上げてバットを振るった。
「ヘルメス・トリスメギストスッ!」
四属性の錬金術が火花を散らす。過剰のエネルギーを内包しきれずにボールは無残に爆発四散。塵となって彼方へと消え去った。
「――ククッ、見たか? 見えたか? シオンよ」
「ああ、無数に散った欠片の内、スタンドインしたのは184個だ。つまり、184点ホームランだ」
その言葉は死の宣告だったのか。マウンドの響ちゃんはくずおれるように膝をついた。
「――諦めるなッ!」
そこに、叱咤の声が届く。
「たとえ万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てが、きっとあるッ!」
「……マリアさん」
「そうだ、立花。膝を折るにはまだ早い」
声が届く。皆の声が。その激励を力に変えて、響ちゃんは立ち上がった。
「キャロルちゃん、わたし諦めないよ。だってわたしは、諦めの悪い女だから」
「――フッ、いいだろう。ならば完膚なきまでに叩き潰してやろう」
覚醒した響ちゃんの腕より放たれたボールは光弾と化し、速さだけではなく、その重さからも打つことは至難だった。ましてや初打席のミカは当然のように三振の憂き目に遭った。
「弦十郎さん、手を見せてください」
「ムッ、この程度、何ほどのこともない」
「ケガ人が出た場合、その都度治療することは最初に決めてあったでしょう」
「……まさか俺が最初の一人になるとはな」
グラブを外した左手は真っ赤に腫れ上がり、血に塗れていた。見るからに痛々しい惨状を呈している。
俺が手を翳すと、一瞬にして元の逞しい掌が現れた。
「……凄まじいな。まるで違和感がない」
拳の開閉を繰り返し、感嘆の声を漏らす。おそらくは、回が終わるごとにやることになるだろうな。
点差は183点。生半な攻勢では覆せないだろう。だが方法はある。キャロルがやったように、細切れにしてスタンドに放り込むことだ。
しかしながら、言うは易く行うは難し。ファラの操る豪風が、欠片を阻んで通さない。
波乱は起きず回は進み、ついに最終回、九回表。
ファラは錬金術を使いすぎたのだろう。既にエネルギーは底をつきかけていた。疲労面を公正に保つため、試合中の思い出補給は禁止だ。キャロルにしても、試合前に補給して使用できるエネルギーには制限を設けてある。際限なく使用しては、最悪廃人になってしまうからな。
二死、走者なし、カウントはツースリー。点差は162点。
「次の一球で、全てが終わる。終わらせる」
キャロルは息を荒げてそう言った。消費できるエネルギーを上回った場合、即座に失格とする。そういう取り決めになっている。キャロルは最後の一球と宣言した。つまりは、そういうことだ。
キャロルが唄う。その唇を震わせて、その心を震わせて。まろびいずる歌声は掛け値なしに麗しく、染み入るように心を打った。
70億の絶唱を凌駕するフォニックゲインが、渦紋を描いて昇華する。
響ちゃんが唄う。その唇を震わせて、その魂を震わせて。まろびいずる歌声は掛け値なしに美しく、染み入るように魂へ届いた。
70億の絶唱を凌駕するフォニックゲインと、同調しながら昇華する。
キャロルの手より放たれた白球は、碧の獅子となって牙を剥いた。それはひどく緩慢な動作だった。スピードを犠牲にした投球。技を砕く、圧倒的なパワー。その力の放射に亜空間でさえもが軋み始めた。
「わたしは歌で、ぶん殴るッ!!」
それに臆することなく、巨大な拳のアームドギアが唸りを上げた。ふたつのエネルギーがぶつかり合い、その動きを止める。キャロルはマウンドで膝をつき、訪れる結果を待つだけの状態だ。
押されているのは、響ちゃんだった。じりじりと後退を余儀なくされ、額に汗が浮いている。
「がんばれッ! がんばってッ! 響ぃぃぃッ!!」
輝く未来を予感させるようなその声援は、轟音の中でもよく響いた。
『……撃……槍……ガングニールだぁぁぁぁッッ!!』
光が生まれた。
目を焼くような閃光。
閃耀は一瞬だった。一瞬で弾けて、一瞬ですべてが終わった。
「……どうなったのだ? シオン」
なんとなくは察しているのだろう。キャロルが沈んでいた声で尋ねてくる。
「すべてを確認できたわけではないが、少なくとも300以上の欠片が場外に消えていったよ。どうする、続けるか?」
「……いや、これ以上恥を上塗るつもりはない。認めよう、オレの負けだ」
気づけば、キャロルは小さな体躯に戻っていた。そんなキャロルに響ちゃんが右手を差し出す。キャロルは小さく笑ってその手を取った。
最初の拍手は誰のものだったか定かではない。それは次々と伝播し、拍手は喝采となった。
響ちゃんが笑い、キャロルが笑い、俺も笑い、皆も笑った。
球技を通じて生まれる友情、強まる絆、そういったものは確かにあった。
幻想でもなく夢想でもなく。
「こういうのも、悪くはない……か」
その呟きは亜空間の空へと消えていった。
「なんか綺麗にまとまってるみたいだけどよ。あたしが想像してた野球ってのは、こんなんじゃねぇ!」
「言うな雪音。それはきっと、言わぬが花というやつだ」