突然に強大な力を得た人間は、えてして調子に乗りやすいものだ。例えばマフィアの事務所を荒らしまわるような。だが、ルージュはそれに当てはまらないようだった。
その槍捌きは素人のそれではない。思った以上に動けている。いや、戦いなれている。まるで戦闘訓練を受けていたような動きだ。
ルージュの獲物は槍、俺の手には刀が握られている。聖遺物は特殊なエネルギーを発するので、外で派手に動くわけにはいかない。万が一、その波形を探知されると色々とやりにくくなるからだ。ルージュは俺のように内部展開ができないからな。
亜空間の室内に剣戟の音だけが響く。ルージュは楽しそうだ。やはり身体を動かしているほうが性に合っているらしい。
「……今日はここまでにしよう」
「あたしはまだまだいけるぜ!」
「意気軒高なのは結構なことだが、疲労を溜め込むと厄介だからな」
「ん、それもそうか。了解」
一通りの訓練を終えて、ルージュを正式に俺の助手にすることになった。だがいきなり戦場の矢面に立たせるわけじゃない。そもそも最近の依頼はほとんどが要人救出だ。ドンパチなんてそうそうあるものじゃない。
必要な情報も事前に情報屋が抜け目なく仕入れているため、自然とルージュの仕事は地味なものになる。だが文句はでなかった。暇を見つけては戦災孤児たちに菓子を配ったり、一緒に遊んだりしている。言葉も通じないのによく仲良くなれるものだ。それがルージュの美徳なのかもしれないな。
その日常に変化の兆しが訪れたのはある夕食時に流れたニュースだった。
後に『ルナ・アタック』と呼ばれる事件である。
当初は隕石の衝突だの、異星人の攻撃などと様々な憶測が流れたが、最終的には以下のように発表された。
日本に出現した大量のノイズ。そのノイズの攻撃の余波で月が欠けた。ノイズは日本のシンフォギア装者によって駆逐されたが、月の欠片が地球の重力に引かれて落下を開始。その欠片を破壊したのもまたシンフォギア装者だった。
シンフォギアは『対ノイズ兵器』で装者はそれを操る者を指す。各国で極秘に研究されていて、日本も当然秘匿していた。だが今回の事件を切っ掛けに公開へと踏み切ったらしい。
とはいえ、公表したのはシンフォギアに関する情報が主で、装者に関する情報は少なかった。公式発表ではないが、少なくとも三人は装者がいるのではないかと考察されている。
まあ、日米関係や世界情勢など様々な思惑があるのだろうが、結果的には丸く治まったといったところだろう。
多少の混乱はあったものの、俺たちの生活に大きな変化はなかった。本格的な問題が起きたのはその事件から約三カ月後、日本で開催された音楽祭『QUEENS of MUSIC』の映像がテレビで流れた時だ。
「……マリア、姉さん」
ロゼが手にしたフォークを取り落とし、テレビ画面を凝視している。
画面には二人の女性が映っていた。日本のアイドル『風鳴翼』とアメリカの歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。そのマリアがフィーネを名乗り、世界に宣戦布告した。そして、驚いたことにノイズを操っている。
召喚されたノイズは統制がとれており、観客に襲い掛かることもなくその場で整列していた。そこで映像が途切れる。スタジオはざわついて、コメンテーターが益体のないことをのたまっていた。
「ロゼ、アンタ今姉さんって……」
隣に座っていたルージュが声を掛けるが、ロゼは茫然自失だ。しばらく無言の時間が流れたが、ようやくロゼが口を開いた。
「わたしはセレナ。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。全部、思い出しました」
マリアと同じファミリーネーム。では姉妹か。
「――マリア姉さんを止めないと!」
「ちょっ! 落ち着けロゼ!」
ロゼ、いやセレナは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。だが飛び出すより早くルージュに腕を捕まれる。
「でも姉さんが! わたしが、わたしが行かないと!」
「だから、ちょっとは落ち着けって!」
かなり取り乱してるな。まあ一気に記憶が戻って、更に姉がテロリストになっていたらこうもなるか。
こういうときは、相手に同調するよりも、ことさらに冷静になったほうがいい。
「セレナ、今日はもう休め。明日一番の飛行機で日本へ行く」
「……兄さん」
「大丈夫だ。俺たちは家族だろ」
「うん、分かった。今日はもう休むね」
少しは落ち着いたのか、セレナは自室へと戻っていた。
「なんかあたしの立場がないな」
「ああいう時は声を荒げないほうがいいんだよ。さて、チケットを予約しないとな」
「あたしも行くからな」
「なら三人分だな」
まさかこんな形で日本の土を踏むことになるとは思わなかったな。
セレナはアメリカで歌姫になったマリアに気付かなかったの? という疑問もあると思いますが、受験勉強で忙しかったということで。
今さらながら、かなりのサクサク展開です。
本編突入……からの無印をすっ飛ばしてG編開始。