あんな事件があった割には、日本行きのチケットはすんなりと取れた。だが流石に纏まった席は取れず、離れた一席にはセレナが座ることとなった。どうも一人で色々と考えたいそうだ。そんなわけで、俺たちは今機上の人である。
「で、おまえも何かあったのか?」
何故かルージュも今朝から思案顔だ。
「昨日のテレビでさ。風鳴翼って女が映ってただろ。あたし、あいつを知ってる気がするんだよな」
「日本のアイドルだからな。見たことくらいはあるんだろう」
「んー、そういうんじゃなくてさ」
ルージュは日本人だ。最初から日本語を喋ってたし。だからこそ大使館に連れて行こうとしたんだしな。断られたけど。
「そのうちに会えるだろう。その時話してみるといい」
「何でそう言えるんだ」
「勘だよ」
無論、嘘だ。日本へ行くにあたり、最低限の下調べはしてある。
昨夜のうちに出しておいた調査依頼は、今朝には報告が届いていた。マリアのこと、日本の情勢、その他いろいろと。一晩でよくここまで調べたものだと感心するほどの情報量だった。その中に風鳴翼についての情報も含まれていた。
日本の対ノイズ組織、特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギア装者の一人。表向きはアイドルとして活動している。以前はツヴァイウィングというユニットを組んでいた。俺はその写真を見て息を呑んだ。それはどう見てもルージュだった。名前を天羽奏というらしい。彼女は病気療養の為に引退し、以後はソロで活動している。
「運命ってやつを信じるか? 出会うやつは出会うべくして出会う」
ルージュは一瞬呆けたあと、静かに笑い出した。
我ながら柄にもないことを言ったものだ。
数時間のフライトを終えて、俺たちは無事に来日を果たした。タクシーでホテルに向かい、チェックインして各々の部屋に荷物を置いた後、俺たちは一階のカフェに集まった。
「ではこれからの話をしよう」
相変わらずセレナの顔は険しい。
「マリア姉さんは、優しい人です。いつもわたしのことを気遣ってくれて、本心であんなことをしているとは思えません」
「なら、まずは俺が確かめよう。マリアが自分の意思で行動しているのか、或いは騙されて利用されているのか、それとも洗脳されているのか」
「じゃあ、わたしが――」
「ダメだ。もしマリアが洗脳されている場合、おまえに危害を加える可能性がある」
セレナの言葉を遮り、なんとか抑える。
「焦るな。マリアとは必ず会える。俺がその機会を作る」
「――はい。分かりました」
「俺とルージュは調査に行ってくる。おまえは部屋で休んでいろ。飛行機でも眠れなかったんだろ。少し顔色が悪い。帰りは遅くなると思うから、無理矢理にでも休んでおけ」
俺はコーヒーを飲み干すと伝票を持って出口へと向かった。
「こんな時間から動くのか? もうすぐ日も暮れるぜ」
「ああ、少し移動するぞ」
都心から少し外れた、小高い丘にある寂れた公園。人の姿はなく、すでに周囲は茜色に染まっている。
「ルージュ、アスカロンを展開してくれ」
「……ここでか?」
「ああ、ここでだ」
「ん、了解」
ルージュは怪訝そうに頷いた。まあ普段から余程のことがない限りアスカロンは使うなと厳命しているからな。不思議にも思うだろう。
ルージュの身体が閃光に包まれる。これで向こうから接触してくれるだろう。