エリス・アイスナーのフォドラ奮闘記   作:ゴアゴマ

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死神の鎌

「おい、そっちはどうだ」

 

「誰も居ないな。情報によると今日は儀式みたいなのをやるんだろ?

だってのに、この警戒の薄さは異常じゃないか?」

 

「まぁいいんじゃないか。サクッと目標達成出来れば」

 

「それもそうか。なら、早速乗り込もうぜ」

 

周りを不自然な程に警戒する集団が、ひっそりと身を潜めながら建築物の中へと忍び寄る。非常に慣れた様子で人からの視界から逃れる間隔で、引き込まれるように。

 

 

 

 

 

それで済めば彼等にとってはどんなに良かった事か。

 

「本当に誰もいねぇな……」

 

「…」

 

「? おい、どうした?」

 

「…ぁ…」

 

「? おい?」

 

アババババババババババババババ!?

 

「は!? おい、どうしたアババババババババババババババ!?

 

油断怠慢。即ち撃退されし。僅かな効果音が鳴らされると、雷が落ちたかのような威力の電力が集団の身体を回り、踊りを踊るように手足をくねらせながら、眩い光を放出する。

 

やがて踊りを終えると、プツンと操る糸が切れた傀儡の様にぺたりと座り込み、力なくへたれこんでしまった。

 

「ば、馬鹿な…トラップだと…? 明らかに仕掛けられる罠の威力では…な…がは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し、これでここのポイントは完了だな…。

 

 

にしても、レアも難題を言うもんだ…こんな回りくどいやり方を進めるなんてな…さ、さっさと済ませてベレス達の援護に向かうか…」

 

上より彼等を狙った影の刺客は、誰かに聞こえたかも分からない呟きを残し、消える様に立ち去った。

その場には、罠の雷によって黒く染められたブリキの様に動かない人達の微かに呻く声のみしか響き渡らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

sideエリス

 

課題当日より前の夜。俺はあの騒がしい夕食の後直ぐにレアの元へと向かった。

 

レアは俺を見つける前は、優雅な聖母の様な様子で窓からの夜景を眺めていた。しかし、俺を見つけると無邪気な子供のような、けれどもどこか落ち着いているような表情の早足で俺を出迎える。

 

…本当に子供見てぇだな…。失礼かこれは。

 

「良く来てくれましたね。エリス。さ、此方に。紅茶は要りますか?」

 

「ん…折角だから貰おうか。ありがとう」

 

『少し気取ったね君。カッコつける程余裕がある相手でも無かろうに』

 

落ち着けてるんだよ察しろテメェ。もう少しはベレスみたいに普段の大人しさを出せよ。アイツもそんなんでもないけど。

 

(呼んだか兄さん?)

 

呼んでねぇ。先程暴走した子はお帰りください。

 

(…シュン)

 

口でシュンとか言う時代だっけ此処。そういう所可愛…あざといと思うがな。

 

『コイツ可愛いって言いかけたよね絶対』

 

「…どうかしましたか? エリス。何か粗相を致しましたでしょうか」

 

俺が想像の中の人物との妄想乱闘を繰り広げている様を、レアは自分が何かしてしまったのかと不安げに瞳を淀ませながらこちらを見る。

粗相も何もお前は何もしていないと思うのだが…。何故お前は俺を、いや俺達をそこまで気にかける?

 

『…油断しないでねエリス。彼女の事は父も言っていただろう。何か裏があるとしか思えない』

 

…それは承知の上だ。だが、それを引っ括めてコイツの思考が読めない。だから不思議なんだよ。

 

あの力を使ってもいいだろうが、何故かわからないがコイツにあの力を使うのは危険のように感じてならないし…。

どうすればいいんだこれは。

 

「…いや? この紅茶、美味ぇと思ってな」

 

「あらあら…それは良かったです。二つの意味で」

 

「二つの意味で…? まぁいいか。うん、余り甘いのは好まないからな。もしかして、俺が甘いのを好まないの知ってたのか?」

 

「えぇ。普段の立ち振る舞いから貴方が苦手なものは大体把握しているつもりです」

 

俺の素朴な疑問に胸を張って自慢げに鼻を鳴らす。

この辺りにカトリーヌとかがいれば褒めの嵐なのだろうが、俺は背筋がスゥっと寒くなる様な悪寒を感じていた。

レアは基本的に呼び出し以外ではあまり会う事がない。それも俺が会おうとしない限りは尚更。誰かに聞いてもお仕事だと言ってあまり彼女の行動は不明なのだ。そんな中で俺の動向の把握…。

 

 

一体いつ把握する時間があったのだ?

 

「…あ、決して怪しい事をした訳ではありませんよ? 私もこの大修道院に居るものです。噂や情報はかなり耳に入ります」

 

「いや、別に気にしてるわけじゃねぇからお前も気にすんなよ」

 

「えぇ。貴方がそう言うなら。…ふふ、初々しいですね…」

 

嘘だけどな。さっきから警戒しっ放しだ。よくこんなミステリアスで誰も不思議に思わないよな大修道院の奴ら。親父が言ってたのも理解はできる。

 

『ああ。それに、アイツは君が警戒しているのを楽しんでいる様だ。

疑ってくれと言っているようなものだろう』

 

心の中の会議室で疑いを濃くしていく俺達とは反対側に、どこか楽しそうなレアは早速ですがと本題に入っていく。

 

話された内容はやはり、今期の課題についてのものだった。

何やら今回は、女神再誕の儀式と言うものを行うという。その為に、これまでの課題でも現れたレアの首を狙う組織の介入が予期される事態だという。

 

これを課題にしたいのだと言うが、それとは別に俺にはまた違った任務を与えたいのだという。

 

それが

 

「今回は個別に活動…だと?」

 

「はい。貴方の体力を考えるとそれは確かに無謀なお願いではあります。しかし、私は貴方の技量を理由にこの課題を貴方に成し遂げてもらいたいのです」

 

「いやいやいやいや…分かってる? 俺チョロっと走っただけで膝が笑っちゃうクソ体力なの。そんな俺が単独とか死ねと?」

 

「えぇ。しかしそれは…肉体的な面では、ですよね?」

 

「…」

 

確かにそうなんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

いや確かに、今まで見てきてた奴等なら何でそこそこ体力使うはずの魔法はどんだけ使っても大丈夫なんだとか言う奴ら居るとは思うけど!

思うけどもさぁ!! 仕方ないじゃん俺も原因不明なんだよ!

 

『いや冷静になりなって…レアは別にそんな事言ってないじゃないか。それよりも更に危険な状態になったって自覚してる?』

 

それはしてるけどさ…!!

誰も言ってこなかったタブーなんじゃないか問題に直球で踏み込んできやがったからなコイツ…。

 

ヤベぇよ鬼の目だよコレ…絶対扱き使われるよ丸められて捨てられるよ…!!

 

「あら…そんなに怯えた顔をしなくても酷い事はお願いしませんよ?

ただ、魔法が貴方の身体を蝕まない唯一の手段であるとするのなら、それを有効活用してこの課題を成功させて欲しいな…という私の些細な願いです」

 

うん。酷いお願いはしてないね。酷い言い回しだけどね…!!

綺麗に言い替えただけで俺をボロ雑巾になるまで使い古すつもりだよね…!?

 

「…別にビビってねぇけど…何故そうまでして俺にやらせたいんだよ…何か理由でも?」

 

「…それは…」

 

…戸惑いを見せたな。矢張りやましい事でもあるのか?

あっきらかに目の泳ぎ方が尋常じゃねぇけど…冷や汗ダラダラだけど…なんか既視感のある膝の動きが加わってるけど…。

 

『シャミアのあれは少し異常だったよね。膝が面白いくらいにブルブルしてたもんね。あの顔で…ぶふっ』

 

 

 

「…カトリーヌの件をシャミアから聞きました。貴方に粗相を働いたと」

 

…。

 

あ、それ?

 

なんだ警戒して損した…。下心丸出しの腹黒内容かと身構えた俺が恥ずかし。

 

「あの子に悪気が無いのも事実です。しかし、それが何の罪もない貴方を巻き込んでしまったという事実も。

…あの子は、自分で言うのもアレですが…私を第一に考える子です。それが故に、中々対人関係が上手くいかない事を良く耳にしておりました。

…カトリーヌだけではありません。大修道院の私に信頼を持っているごく一部の方々が貴方を目の敵にしているのです。

 

多くはカトリーヌと同じ警戒心からですが…中にはその体力だけを見据え、貴方を見下す者達も少なからず居る…」

 

「…別にそんなのは気にしなくても良いけどな? 俺はもう慣れてるし。俺は親父とベレスが」

 

「そんな悲しい事は仰らないでください…!」

 

「っ?」

 

…参ったな。そんな顔を歪めて止められるとは思わなかった。

俺の中のレアという人物像が回転し始めたんだが…。

 

「確かに貴方を嫌う者達も居ることでしょう。しかし、今朝のあのリシテアを見たでしょう? あの子は、ここ数ヶ月という月日で貴方をとてつもなく信頼した一人なのです。

私が何もしないと言った時でも、貴方を案じて引こうとしなかったあの子の事です。そんな言葉を聞いてしまったら…何と思うでしょうか?」

 

「…驚いた。まさかそこまで言われるとは思わねぇもんで…」

 

「…失礼いたしました。ですが、あまりこの様な事は仰らないでください。…あの時を思い出して…胸が締め付けられてしまう

 

「…?」

 

…なんだ? 少し警戒心が薄れて…?

 

『…レア』

 

「あ、どうしても嫌ならベレスと一緒に行動しますか? 手取り足取り支援してくれますよ?」

 

「はっ倒すぞてめぇ」

 

前言撤回だ。シリアスとふざけが転々とするやつだったよコイツ…。

アイツの手取り足取りは手出すな足出すななんだよ。

全部一人でやっちまうんだもんだって。

 

「…あーでもつまり、俺の事を考えてこの課題を作ってくれたって解釈でいいのか?」

 

「えぇ。その通りです。信頼する者の評価を出来る限り上げたいと思うのは、いけない事でしょうか?」

 

…すまんなエリス。今回だけこいつの口車に乗る。未知な領域なのは分かってるが、どうも調子が狂う。

 

『…仕方ないね。背後には注意しなよ?』

 

あぁ。それは注意する。

 

「…分かったよ。その課題、受けさせてもらう。

…心配してくれたようで、ありがとな…?」

 

「!! ぐほっ…!!」

 

「どうした!?」

 

おいおい、何だってんだ!? いきなり鼻と口から赤い液体を噴出しやがった…!!

ちょっと笑っただけでこうなるのか…!?

 

「ご、ごめんあそばせ…少し取り乱してしまいました…」

 

「取り乱したら血を出すのかあんたは!? その先が怖すぎるわ!!」

 

『今更変人のやることなすこと全部突っ込んでたら疲れるよ?

これくらいスルーしなって』

 

うん…もう突っ込むのも怠さが付きまとうわ…。

 

 

血で物騒になった床を拭くのを手伝い、再び綺麗に戻すと、恥ずかしそうにしながら謝ってくる。

直々入れてくるお茶目さに警戒が解けそうになるが、その誘惑には乗らない…がな。

 

「…それにしても、貴方は夜がとても似合いますね。その静かな顔立ちが、美しさをより引き立たせます」

 

「口説いてるのかそれ?」

 

月と共鳴するように潤わせた瞳を此方へと向け、何故か俺に吸い込まれるように手を、顔を近づけ始める。

 

「…やはり貴方は、純粋な目をしています」

 

「っ? 可愛いとはよく言われるが、純粋とは初めて言われたな。そうか?」

 

「えぇ。本当に…

 

 

美しいと感じます」

 

彼女の緩やかな手つきが徐々に、徐々に俺の頬をなぞる。まるで懐かしい何かを触れるように、割れ物を扱う様にそろりと大事そうになぞっていく。

 

「っ…? っ…? な、なんだ? 何を…」

 

「…あぁ…この光にずっと触れたかった…あの日手放してしまったその暖かな光に…私は今触れている…」

 

「あ、あの…レアさ…んん!?」

 

ちょっと!? 手つきが段々と激しくなってるんだけど!? 頬撫で回されて痛いんだけど! 力入りすぎてるんですけど…!!

てか、離れようとしたらもう1つの手でがっちりホールドされて離れられないんですけど…!

 

『本性表したのか…? いや、これはただ暴走してるだけなのかな』

 

冷静に分析してる場合じゃねぇ…!! こんなの見つかったらタダじゃすまねぇぞ!?

 

「…お父様…」

 

「!?!?」

 

「あ…!?」

 

自分でも信じられないくらいの力でレアを振りほどく。今までにないくらい身体が強ばっており、筋が出るくらいに力が入っているのが分かる。

お父様。この言葉を聞いた途端に俺の中の何かが物凄く暴れようとしだしたのだ。悲しい様な、怒りの様な。

 

『…!!』

 

「あ…ご、ごめんなさい。少し、気持ちが昂って…」

 

「…いや、いい」

 

少しぶっきらぼうな言い回しになってしまったのを後悔する暇も無く、

俺は乱暴に立ち上がる。荒さを抑えられないまま扉へと近づいて、そのまま開ける為に力を入れる。

 

「…課題は喜んで受ける。だが、今日はこれくらいにさせてくれ。

俺も少し疲れてしまったんだ」

 

「…えぇ。ゆっくりと身体を休めてくださいね」

 

そんな事を言いたい訳でもない気持ちを不意に抑えてしまい、俺はそれ以上何も言わずに扉を閉めた。

中で響いた声に何も言わずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、奥底に私がまだ覚えられているのですね…

であれば…あの反応は当然でしょう。

 

 

 

私はあの時…どうしようもない怒りを覚えられても仕方の無いくらいの無礼を働いてしまったのですから…拭いきれもしない罪を…お父様に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

現在

 

今思い出してもあの振る舞いは無いわ…。どうこう言える立場じゃないけどさぁ…。

よし、、これで40人目…!

 

ブベベラァァバガァバビビバビヒババ!?!?

 

少し順調に行き過ぎな気もするが、俺はレアの指示通り、天井近くに魔法で浮遊し、上から罠を仕掛けて侵入者を感電させる作戦に出た。

それにより、ある程度の処理は済んでいる。

まぁ、マークしてたルート以外の奴らには侵入されてしまったので、後はベレス達に任せるが…。大分数は減らしてるから苦戦はしないと思うけどな。

 

「さっきからなんだ!? 次々と罠に引っかかるぞ!?」

 

「一体なんだ!? まさか、警備が厳重になってたのか…!?」

 

「いや、しかしこんな高度な罠は無かったはずだ! このフォドラにここまでの技術は…! まさか…天井にバァァァァァァァァァ!?!?

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

危ない危ない…。勘づかれそうになってしまった…。

実際に俺は罠を貼ってる訳では無いからな。であったら態々こんな所に隠れる必要も無いし…。

 

俺がアイツらに仕向けているものは言わば、時限式の魔法弾みたいな物だ。

床に設置されてから数秒で魔法が発動する、少し難易度が高い方法だ。

これには放ちたい魔法を圧縮して固体?にする必要があるのだが、途中で暴発すると普通の暴発よりも威力が倍になるからな…。

リスクは高いが、陰から相手を始末する時にはうってつけな方法故に、今回はこれで行く事にした。

 

『順調そうだね』

 

ああ。ただ、こうやって陰で行動してるのが評価されるのかと疑問に思うが…これでいいのか?

 

『…まぁ、あの娘の事だから何を考えてるかは分からないけど、何かしら説得の機会は与えられるんじゃないかな?』

 

それもそうだな…。さて、じゃあ大修道院外部のルートも見て回るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外の監視の為に外に出た俺は、所々の高台や草むら等に身を隠し、先程の戦術が何時でも繰り出せる様に身構えておく。サンダーを圧縮し、罠を手の上で待機させる。

しかし、嵐は通り過ぎたのだろうか。誰一人として通過する兆しも見られない。

 

(静か過ぎる…。先程の侵入者が嘘のようだ…)

 

伝書フクロウがホウ、ホウ、と穏やかに鳴く音が聴こえる。しかし、此方には今日だけは穏やかとは思えず、何かを警戒させる為に鳴いているようにしか思えなかった。

 

 

 

 

そして、その疑問は的中する。

 

「…!? サンダー!!」

 

物陰に接近する何かに気がついた俺は、瞬時に罠を解いて通常形態にし、近付く物の勢いを殺そうと相対させる。

ギリギリと魔法と武器の対決では有り得ないような音が響く。

やがてサンダーが消えると、俺の肩が熱くジリジリとし始める。

 

「!? ぐぅぅぅぅ!!!!」

 

チラッと見やると、今までにないくらいの血がドバドバと流れていた。どうやら、俺は力の勝負に負けたらしい。

俺と相対する何かの元に帰っていくその鎌を睨み、そう悔やむ。

 

「…感じる。強大な力を…

 

さぁ、愉悦を…愉悦を満たせ」

 

髑髏の禍々しい甲冑が、おどろおどろしい鎌を差し向け俺を嘲笑った。




今回死神騎士はこちら側に来させることにしました。

この方が、無双してる彼には良い相手になるでしょう。

さて、次回はオリキャラが登場します。
ご期待ください。

皆さんはどのルートを辿って欲しいですか?(このアンケートはあくまで希望調査なので、実際に反映される訳ではありません。最も多かった回答でも反映されないこともあります。ご了承下さい)

  • 紅花ルート(エーデルガルト)
  • 蒼月ルート(ディミトリ)
  • 翠風ルート(クロード)
  • 銀雪ルート(教会)
  • オリジナルルート(前例がない未知のルート)
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