エリス・アイスナーのフォドラ奮闘記   作:ゴアゴマ

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微かな不穏~前編

「…何か言いたい事は」

 

「い、いや、あのですねベレス。これには理由が…」

 

「黙れ女狐。貴様の意見など聞きたくもないわ。恥を知れ」

 

「…うぅ…」

 

現在、無事生還した俺の前にはカリスマの欠片もなく正座させられている大司教がいた。他にも、大司教の暴走を止めなかったとして、セテスとカトリーヌまでもが向き添えを食らっていた。

 

「…なぜ私もなのだ…?」

 

「レア様が謝罪するくらいならアタシが謝るけど…理由がアイツなのが何か腑に落ちない…!!」

 

「貴様らも口を慎め。貴様らの腑抜けた管理が原因で、我が主がこの様な傷を負ってしまったのだ」

 

「…」

 

(…不味いですよセテス…ベレスが激昂状態です…私まともに目を見れません)

 

(おぃぃぃぃぃ!? しっかりしてくれレア!! そもそも独自であんな課題を出すからこんな事になってるのだろうが!!)

 

(し、仕方ないでしょう!? だって私もここまでの事が起きるだなんて思ってもいませんでしたもの! とにかくエリスのイメージを払拭したかったのですよ私だって!!)

 

(思えぇぇぇぇぇぇ!! そして隠すなァァァァァァ!! 一司教がこんな物を一人で断行するなぁァァァァァァお陰で某生徒からクーデター起こされそうになってるだろうがァァァァァァァァ!!)

 

何を言ってるのかさっぱり聞こえないけど、物凄く焦って面白い顔になってるのだけは伝わった。

 

いや、にしても帰ってきたら大変だったな。

気絶してるって言うのに約2名ほどの発狂ぶりが伝わってくるし。

目覚めたら目覚めたで一人の生徒から泣きつかれるし。

もう一人の教師に死ぬかと思われる程抱擁されるし。

アッシュまで過保護になるし。

上記2名がふと顔が無になったと思うと、いきなり大司教の名前を狂ったように叫び出して血祭り寸前まで追い込むし。

 

誰も止めねぇし。

 

 

誰も止めねぇし。

『大事な事なので2回言ったね』

 

いやと言うかさ、まだいいのよ。この3人が俺の事をめっちゃ心配してくれるのは分かるし、全然理解できるのよ。

 

でもさ、

 

「大体貴様らはエリス様を兵器かなにかと勘違いでもしているのか? あちらこちらを見やればウンザリするような視線を浴びせる奴等まで出てきておる…。

 

即刻我が打首にしても良いのだが?」

 

「お 前 は 何 故 に?」

 

「む? 如何なされましたか? エリス様。お身体の具合が悪いのでございますか?」

 

「兄さんほら、立ってるのが辛かったら私の背中に」

 

「いやもう乗せてるじゃないか…。

 

いやそうじゃなくて!! ライゼル! お前までベレスに混じって何やってんだ!?」

 

「? 愚者共の制裁ですが? 何か至らぬ点でもありましたでしょうか?」

 

「大アリだわ!! いきなりこの前パッと出てきて強敵倒したと思ったら、何サラッと過保護団体に混じってんだ!! 説明足らな過ぎて渋滞してんだこっちは!!」

 

「私達は無視ですか!?」

 

「ハッ!? 申し訳ございません! 我、エリス様の身を案じるあまり自分の事をすっかり抜けさせておりました。

 

名前はライゼル。身長は高め。体重は普通。筋肉質は…」

 

「誰がいっちばん初っ端から説明しろって言った!? 普通に素性を明かせば良いだろ素性を!! 何で説明って言われて自分の体の仕組みの説明から聞かされるんだよ!!」

 

「申し訳ございません! 漸くお目にかかれた嬉しさで上手く口が回りません!」

 

「うん! だからその理由を言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。何でこんなツッコミで疲れなきゃ行けないんだ…。というか怪我人にツッコミをさせる雰囲気を作るな…。

 

『お疲れ様だね。代われるなら代わってあげたいけど、諦めてね』

 

なら何でその関連の話を持ち出した…?

それなら何も言わないでいた方がまだ良かった…!

 

「あー、えっとですね。実は我、貴方様が傭兵として活動なさっている際に助けて頂いた者の中の一人でして…その時から貴方様に心酔しているのです」

 

…ん? …そうか。まぁ、こう言われると信憑性も増してくるから何も言えないな…。

いや待て…。それだけの理由でここまでの忠誠心的なのを持つものなのか? いや、持つものか。前例が前例だからな。リシテアとベレスだものな。

 

「? どうした兄さん。膝枕が所望か?」

 

「ちが…分かった部屋帰ったらしてもらうから。そんな絶望した雰囲気を出すなっつーの。

 

…なあ、そろそろ身体の限界が近いから、部屋に帰ってもいいか?」

 

「…え、いやあの、エリス。もう少しだけいて貰えませんか? 本当に用事があるのと、この空間に貴方が居ないのはちょっとキツイ」

「全ては主の御身のままに。ささ、私がお送り致しますのでエリス様の部屋に戻りましょう」

「また私は居ないものですか!?」

 

俺が少し弱音を吐くと、怯え気味のレアに代わりライゼルが俺の要件を快諾する。すると、何の不自然もなさそうな慣れた動作で俺を背負い、そのまま扉を出ていこうとする。

 

「ちょっと待ってくれ。私が兄さんを背負っていく。だから貴方は代わりに要件を聞いて欲しい」

 

「は? 何を言ってるのかさっぱりだが小娘。お前よりも我の方が確実にエリス様をお送りする事が出来る。お前が話を聞け」

 

「兄さんも普段から一緒にいた妹の方が安心出来る。だから貴方が聞いて欲しい」

 

「ほう? 聞き捨てならんな小娘。我の方があの方を安心させる事が出来る。その確証もある。高々数十年過ごした身で思い上がるな」

 

「貴方だって出会ったのは私達が立ち寄った何処かで救われたと言った。私とそこまで年数は変わらない筈だ。そもそも、その言葉からは危険な匂いがしてならない。兄さんを任せるのは些か肯定しかねる」

 

「…死にたいようだな小娘」

 

「…邪魔しないで」

 

『わぁ。修羅場だ修羅場だ。僕修羅場ダイスキ。

 

ヤッタネエリス君今度は3代表修羅場が見られるヨ』

 

お前が壊れるなァ!!!! 俺だけでこれを扱いたくない!!

 

何方にしても着いてくるのは溺愛組なんだよな…。ベッドに入るまで動かせてくれないだろうし… いったらいったで強制的に寝させられるし…。ライゼルに関してはもうその予感しかしないのが怖い。

まだ1回もされてないのに。

 

『1 お兄ちゃん大好きベレスちゃんに手取り足取り甘々コース

2 初対面? なのに忠誠心MAXなライゼル君の何でもしてくれるコース

3 ドキドキ! 助っ人召喚大作戦!!

 

どれがいいと思う?』

 

勝手に! 選択肢を! 増やすなぁァァァァァァ!!

 

待ってくれよ…。1番を選んだら何か貞操関係で危機を感じるし…2番を選んだら新たな道開かれそうだし…。

いや2人ともそんな気は全くないとは思うんだけど…今見れば分かる程に気が立ってるからなぁ…。連れてっても残しても何かしらやらかす可能性しかないんだよなぁ…。

 

…ここは大体結末分かってるけど、呼ぶしかないかな。

 

『エ リ ス 君 は(心の中で) 仲 間 を 呼 ん だ !』

 

心の中で呼んだだけで来るものなのか…? いや来るものか。だってこの大修道院エスパーいっぱい居るんだもん。来るわ絶対。

 

耳が微かな地を踏む音を捉える。それも少しの早めな音で。

…これはまさか、本当に…?

 

扉が勢いよく開けられる。本当に召喚されたようだ。そして、その扉とエリスの希望を開いたのは…

 

「失礼します! エリス先生が呼んでいると確信を得たので、参りました!!」

 

あらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

選択肢その3(New!先生だいちゅきリシテアちゃんの全肯定プレイ!)だった。

 

いや知ってたよ。だと思ったよそんな都合のいい話しあるわけないと思ったよ! 謀ったなイージス!?

 

『そもそも君がこういう状況で美味い汁を啜れる確率なんてゼロに等しい!!』

 

等しくねぇよ俺の半身的立ち位置なら庇えぇぇぇぇぇぇ!!

やへぇよ自分で地雷引いちゃったよ…。これ完全に3代表修羅場成立しちゃったじゃん。イージス大歓喜じゃん。

 

『やったぜ』

 

止めろよ!? 無理だけど! 無理なのはわかってるけどこれどうすりゃいいのさ!?

 

「…もう、お二人共いい加減になさったらどうですか? 話はよく分かりませんが、エリス先生が決めた事ならエリス先生の判断に任せるべきでしょう?」

 

…あれ?

 

「…そうだね。確かに、少し不満があるけどリシテアの言う通りだ」

 

「…そうだな。エリス様のご意見こそ、我等の判断基準。出過ぎた真似を致しました」

 

…俺は何か勘違いをしているのか? いつも通りだと思われたリシテアが、両手を腰に当ててお姉さん感を丸出しにしながら、2人を宥めている。

…あの暴走娘でお馴染みのリシテアがか?

 

「あ、あのすみません」

 

「? なんでしょうか先生!」

 

リシテアは俺に呼ばれると、子犬のようなキラキラした目で、ないはずなのに見える尻尾をブンブンと振るわせながら俺から出る言葉を待ち望んでいる。

? ここはいつも通りだな…。

 

「あ、貴方は本当にリシテアなのですか…?」

 

「? よく分かりませんが、貴方のリシテアですよ?」

 

うん。これは完全にリシテアだわ。天然+爆弾発言なのはベレスとリシテアだけだからな。しかも、不思議そうな顔をしながら上記の子犬のような行動?の一つ一つは継続中である。

 

…んー。此処は一番マトモそうなリシテアにするべきかな?

 

「 …悪いが、今日はリシテアに送って行ってもらおうかな。2人も多分、レア達と話したい事があるだろうし、今日は話を聞いて貰えるか?」

 

「…………………………分かった。本……………当に心配だから、早めに話して戻るから」

 

「…御意。非っっっっっっっ常に不服でありますが、貴方様のご意向に従いましょう」

 

…何とか話を呑んでくれた。タメに溜めたけどな。

…ふぅ。なんか益々力が抜けてくみたいだ。早めに送ってもらおうかな。

 

「分かりました先生! では、参りますよ〜!!」

 

…なんで既に背負われてるかは不問にしておくよ。

何やら俺の返答に希望も欠片もないと呆然とした顔のレア一行を敢えて見ないようにして、俺は背負われるがままに退出した。

 

取り敢えず、帰るまで何事もなく進んで欲しいものだ…。

いや、グッスリするまでかな?

 

 

 

 

 

 

 

『…多分そうなる可能性低過ぎると思うけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

No side

 

「…さて、取り敢えず言いたい事は後にして、その要件を聞くかな。

…次は何をするの? いや…

 

 

何を兄さんにさせる気なのかな? レア」

 

エリスが立ち去り、しんと静まり返った空間に再び、耳に恐ろしく響くソプラノボイスが放たれた。その手は、おかしな事を抜かせば何時でも振り下ろせるようにと天帝の剣を当てている。

その様子にセテスは少し顔を強ばらせて指摘しようとしたが、こればかりは言う通りだと言わんばかりにライゼルが1歩前に踏み出す。

黙れと言っているようだ。

 

「…え、えっとですねベレス。わ、私は本当に彼に対して危害を加えたいと考えている訳ではなく…」

 

「良いから答えて。自分でも驚くくらい、今日の私は少し獰猛だ。

いくら迎え入れてくれているからと言えども、兄さんに何かをする気なら私はその先を実行する覚悟がある」

 

無表情。されど殺気を充満させた眼光で対象を射抜く。どんなミステリアスに保とうとしたレアであっても、これには狼狽える他無い。

番犬は当然噛み付こうとしたが、それもまた同じ目を持つものが制す。

 

この場に置いて、大司教側、という立場は用意されていない。

ただ殺意に囚われた者達による静かな拷問である。

 

「…安心して下さいベレス。 次は、この様な真似は一切ありません。王国領に出向き、賊を討伐していただきたいのです」

 

「…賊?」

 

「…その族は、ファーガス貴族のゴーティエ家から、英雄の遺産 破裂の槍を盗み出した。そして、その頭目の名は…マイクラン。廃嫡されたゴーティエ家の子息だという」

 

「…要はその破裂の槍を回収しろということか? …貴様ら、我が主を雑用か何かと勘違いしているのか?」

 

「あぁ? アンタはアンタで何言ってんだ? 重要物の回収を任されてるんだぞ。アタシは信頼の証だと思うけどね。…非常に不服だけど」

 

睨まれてもなお、番犬はイレギュラーに噛み付く。幾ら警戒している男に肩入れする者だからといって、此処まで嫌うものなのだろうか。

ベレスはそれらを無いものとして扱う様に、要件を続けるようにレアへ促す。

 

「…続きは?」

 

「…英雄の遺産は、紋章を持たぬ者には危険すぎる代物です。そしてマイクランは、紋章を持たぬが故に廃嫡されたと…

 

この意味が分かりますね?」

 

「…あぁ」

 

「本来であれば、騎士団が挑むべき難題ではある。が、女神再誕の儀の際に襲来した西方教会の背教者共を粛清すべく、大修道院を離れている最中だ。そこで、英雄の遺産に対抗する武器の一つ、天帝の剣を所持した君と…

 

…魔術に非常に長けているエリスこそが適任であると考えたのだ」

 

苦虫を潰したような表情を浮かべながら、言い分を述べるが如くの切り出し方で説明を行っていくセテス。その仕草全てから、彼が如何にエリスを警戒しているかが伺えるが、彼はあくまでも頭の側近的存在。

露骨に出す訳にも行かないらしい。もう無理だとは思うが。

 

「…英雄の遺産は説明の通り、かなりの代物です。貴方達二人の力があれば、大抵の苦難は退けられると思いますが」

 

「…話は分かった…ならレア。私から一つ願いがある」

 

「えぇ。何でも仰ってください」

 

 

 

 

「今回の課題には兄さんは参加させないでもらえるか。何か、もっと危険に身を出さないような課題に当てて欲しい」

 

再び、しんとする音が響いた。それも、数分前よりもかなり重厚的な。

 

「…今、なんと?」

 

「兄さんはこの討伐課題には繰り出させないでくれ。

 

 

 

 

 

この課題には、私が行く」

 

妹の願いが、心情が、爆発した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

side エリス

 

微かな希望を持ち、リシテアが完全なマトモになったと喜びながら、俺はゆらりと変わる風景と空を楽しんでいた。

…少し気持ちが柔らかくなったから見てみたが、背負われながら見る空ってのもなかなかにいいかも知れない。

今度、ベレスに背負われながら一緒に見ようかな。きっとアイツの事だ。兄さんと一緒に見る景色はより輝いて見える…的な口説き文句を言うに違いない。…ははっ。本当にあいつは兄離れが難しそうだ。

 

「…先生。何か、よからぬ事を考えてませんか?」

 

「…ん? 何もよからぬことは考えてねぇけど? ただ、背負われながら見る空もいいかなーってな。

 

 

…悪ぃ。大変なのに浮かれちまって」

 

「うぇ!?いえいえそんな気にしなくていいんですよ! 私が好きでやってる事なんですから!むしろ、私の背中でそういう風に思ってくれた事が嬉しいと言いますか

 

「…ん? なんて?」

 

「い、いえ? 私だって頼れるお姉さんなんですから、そんな事いちいち気にしなくていいって事です!」

 

「…そうか。お姉さんか。ははっ、それは確かに頼ってもいいかもな」

 

「えぇぇちょっと笑わないで下さいよ〜! 先生も私を子供扱いするんですか〜!?」

 

俺の少し洒落気味た笑い声に過剰に反応すると、少し意地悪に揺らしながら、リシテアはぷくっと顔をふくらませる。

…お姉さんは無闇矢鱈にそんな顔はしないのでは無いかと思ったのは心の中に留めておくとするか。リシテアの名誉の為にも。

 

『僕には筒抜けだけどね』

 

「そんな顔するなって。お姉さんならもっと堂々としてろ。姉さん? なんつって」

 

「! も、もうしょうがないですね先生は! 私はお姉さんなんですから堂々としてますよ!」

 

ははは…。やべ、多分これバレたらベレスにめっちゃ怒られるな。

アイツそういった所でめっちゃ厳しいからな…。

 

「さ、着きましたよ先生。やっとゆっくり休めますね」

 

俺が心境の中で怯えてると、目の前には見慣れた扉があった。

周りにいるヤツらは物珍しい目で俺達を見ているが、お構い無しにリシテアは扉を開けて俺を休めさせる。

 

「さ、先生。ベッドに横になって下さい。私が眠くなるまで付きっきりでお世話しますから」

 

「あぁ。ありがとうリシテア…ん? 付きっきり?」

 

「えぇ。そうですよ? あの二人が居ないんです。私がついてるしかないじゃないですか」

 

「…待て。お前はまさか…それを見越して…?」

 

「全く…大変でしたよ。私もあの争いに参加しようとしたのを我慢して、あくまで大人な対応で場をやり過ごそうとするのは。そうして流れを作らないと、ライゼルって人はまだ分からないですけど頑固じゃないですか。

…本当は私だってどれだけ先生の生徒だってことを伝えたかった事か!」

 

黒だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

何がリシテアが真面目になっただ数分前の俺!! バリバリ策士じゃねぇかコノヤロウ!! 2人を出し抜くために嘘まで着く悪い子になっちまったじゃねぇか!!

 

「それに、先生に邪魔と言われる筋合いはありませんよ?

…どれだけ私が胸を痛めたと思ってるんですか」

 

「う…それを言われると俺も何とも言えない…」

 

「私が課題から帰ってきた時、先生が意識不明と聞いて…地面が崩れたのかと思った私の気持ち…

 

本当に…苦しかったんですよ?」

 

「申し訳ございませんでした」

 

看病をせっせと行い、時々悲しそうに手を止めながらリシテアは俺に説教をし始める。普通なら反論になるところだが、完全に俺が悪く、心配をかけさせてしまったので何も言わずに彼女の気持ちを受け止める。

 

少し吐き出しただけでは彼女の苦しみは消えることは無く、リシテアは暫くにかけてどれだけの事をしたのかを訴えてくる。

 

元々体力がないのに、あそこまで身体を酷使したらどうなるか分かったんじゃないか。

どうしてあの時一人で行動したのか。いくらあの司教の言う事だからって一人で出来る事には限界がある。

理由があるとはいえ、あんな血だらけで、ボロボロになるまで戦って、他の人達がなんとも思わないと思うのですか、と。

 

確かに自分で言うのもなんだが、俺の行動原理は何もおかしいことはない。ないのだが、それでも彼女に不快感を抱かせる行動だったのは間違いない事だった。

 

「…このご時世ですから。そのような事が起こることは避けられないとは分かっています。けれど…我儘でも、私は先生が傷付く所は見たくないんです…」

 

「…」

 

あの時は、生きるのに必死だったから皆の事に頭が回らなかった。けれど、よくよく考えてみれば俺のあの時の行動は、自己犠牲から行える行動だった。

もし次同じ事をすれば、今度は泣かれるだけでは済まされないかもしれない。

 

我ながら、信頼されると過保護に囲まれやすいな、と苦笑してしまう。いや、俺が危ならしいから、みんなをそうさせてしまうのだろうか。

 

「ごめん。リシテア。俺もあの時はそうするしかないと思っていたが、あれはいくら何でもやり過ぎた。…気をつける」

 

「…はい。本当に気をつけて下さいね。…もしあの時助かってなかったら、私は…

 

リシテアはまだあの時の事を怖く思っているのか、暗い顔をしながら俺を横にさせる。俺の体に触れる時の手が、服からもわかるようにブルブルと震えていた。

よく見ると顔も青ざめていて、今にも彼女が倒れてしまいそうだ。

…どうやら心配を掛けすぎたらしい。目にはうっすらと黒みが帯びている。

 

その様子に、複雑な気持ちに駆られた俺は、すっと彼女の頭に手を乗っける。まるで、ベレスを宥める時のように。

 

「大丈夫。俺は大丈夫だから。安心してくれリシテア。

俺は此処に居る。不安になるな」

 

「っ…はいっ…此処に居ます…此処に…」

 

リシテアは、俺の手を握り返して何度も、何度も俺の手の感触を確かめる様にふにふにとする。可愛らしさというものは一切なく、どこか必死に縋り付く様に見えてしまい、俺は言葉を発せなくなる。

 

「…あの、先生」

 

「…ん?」

 

「…先生は、生徒がどんな思いで先生に教えを乞うていたとしても、味方でいてくれますか?」

 

俺の手に押されるように、顔が見えなくなるまで俯いてしまったリシテアは、顔の様子が見れないまま、意図の含まれている質問を投げる。

声の調子からは、不安いっぱいになっていることだけは読み取れた。

が、肝心な顔からは何も読み取れない。見えないから。

 

「…どういう事だ?」

 

「…この大修道院には、身分の違いもあれど、殆どの人達が過酷な過去を歩んで来ている。と、耳にした事があります。そういった人達が居るのであれば、一人くらいは利用目的として教えを乞うていたり、友好関係を望んでいたりする者が居たりしても可笑しくはありません。

 

…先生は、そんな人達の事をどう思いますか?」

 

全体を例えとして質問をしてくる場合には、三つの理由に分けられる。

一つは、その通りの理由。

二つは、知人の悩みの為の誤魔化し。

そして三つは、自分の悩みを誤魔化して解決へと導こうとするもの。

 

彼女が果たしてどの理由なのかは分かりはしないが、この反応からして、自分に関わる事なのだろう。だとすれば…過度な甘さと厳しさは要らないかもしれないな…。

 

「…そいつの行動原理の全てを肯定するわけじゃない。行き過ぎだと思うこともあるし、弱すぎるというものもある」

 

「っ…」

 

きゅっと俺の手に被せる手の力が強まる。この反応から、明らかにはなったが、それをいきなり根掘り葉掘り聞くのはあまりにもこの子を傷付けるにほかならない。

 

「…だが、俺を利用するからとか、その程度でそいつ全てを否定して敵に回る、なんて事はしたくねぇな。それがワケありなら尚更だ。

怒ったり、注意する事はあれど、愛想をつかしたりなんかはしねぇよ。

 

その重い過去はそいつだけの物だし、俺らがグチグチ悪く言うような軽軽しいものじゃねぇからな。それを先生がやっちゃ行けねぇだろ」

 

「…!!」

 

「…第一、利用うんぬんなら俺もそうだしな。生徒をダシにして魔術の特訓をしてるようになっちまうし…

大体師弟って言うのはそう言うもんじゃねぇのかと思うしな。自分の為に相手から知識をもらう。自分の為に相手に知識をあげる。

目的のために他人に教えを乞うたり配ったりするのに悪い事なんてそうそうないと…思うけどな」

 

「…け、けど…」

 

…うーん。コイツもなんだか頑固な奴だな。…ならば、少しバレない程度にやるか。

 

「…例えばリシテアがその子だったとしよう」

 

「!」

 

「利用する為だけに、傷を負った俺を此処まで怒って、心配して、胸を痛める必要があるのか? 利害関係で満足するのなら、そんな感情は一切持ち合わせねぇだろ。

 

安心しろ。思いやる気持ちがある限り、おまえの疑問のようにはならねぇよ」

 

大体、それで言ったら大修道院の連中とかもうオワコンもいい所だろ…。俺の事1つの戦力としてか見てない奴ら居そうだしなぁ…。

そうだとしたらリシテアの疑問の対象の子達は可愛いもんだろ。

 

「…先生っ…」

 

リシテアの手の力が一段と強くなる。しかし、決定的に違うことは強くも弱々しく握るのではなく、少しの強さを取り戻した力と言えようか。

 

うん、何言ってるんだ俺?

 

『…』

 

「…先生。じゃあ、もう1つ聞いてもいいでしょうか」

 

「? ああ、俺に答えられそうなものならバ!?」

 

瞬間、ベッドの上へと飛び乗られ、俺は馬乗りになったリシテアに軽く座られる形へとなってしまう。ん? これ少し不味くね? 腹の上だからまだしも…。

 

「…最近、私の友人が、心の中で密かに何かが囁くと言うんです。

その子が言うには、条件はたった一人の男性に話しかける時、心の中に想う時…だと言います」

 

「…お? おお…それがこの馬乗りとなんの関係ごぉ!?」

 

ずりずりと、でも力は弱く腹から胸にかけて移動される。そして、少し腰を屈められれば顔と顔がくっつきそうな距離へと体を持っていくと、その行動を実施し始める。

 

「…問題はその囁く内容なのですが…欲しい、と頭の中がいっぱい埋め尽くされると言いました…。それも、背中に乗せている時、とかには尚強く…」

 

な、な、な、なんだ!? 今日の後半のリシテアはテンションが定まらないぞ!? 真面目になったかと思いきや怒りんぼになり、悲しい顔になれば思い詰めた顔になり、今度は妖艶な顔つきだと…!?

何が起こっている!? ほわぁ!?

 

「特に…こうやって体に少しでも触れると、頭が壊れてしまいそうになると言いました…ふぅ…」

 

何処でこういう事を教わった? なんかすっごい手つきが滑らかァなんだけど…? シルヴァンか? シルヴァンなのか? でも俺この後の展開全く分からないんだけど? え? 何? 何されるの?

 

「…悩みが吹っ切れてからは、体の急激な火照りと、心拍が激しくなるとも言っていました…

 

あの…先生…」

 

俺は、顔を両手でがっちり捕まれ、目と目がバッチリと会う距離まで詰められる。その瞳は妖しく潤んでおり、ドキッとしたが同時に少しばかり恐怖を感じた。

 

「その子に、その原因がなんであるか教える為に…

 

 

 

私に確かめさせてくれませんか…? この、様子の可笑しさを…」

 

 

 

 

 

誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

皆さんはどのルートを辿って欲しいですか?(このアンケートはあくまで希望調査なので、実際に反映される訳ではありません。最も多かった回答でも反映されないこともあります。ご了承下さい)

  • 紅花ルート(エーデルガルト)
  • 蒼月ルート(ディミトリ)
  • 翠風ルート(クロード)
  • 銀雪ルート(教会)
  • オリジナルルート(前例がない未知のルート)
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