ま、不味い…。非常に不味い。
「…あ…先生の鼓動も…早くなってますね…こう言った事をすると心臓は早く動くのでしょうか…?」
そりゃあね? 人にいきなり馬乗りにされたらドギマギするでしょう。しかも年頃の異性だぞ…? 不可抗力でそうなるのは仕方が無いとは言える。まだ言うて好きな人もいないのに…。
「ふふ…なんかリード? してるみたいで嬉しいです。まぁ、お姉さんですから当然かと思われますが」
クスクスと、少し赤らめた頬を隠す気も無く彼女は笑う。俺は青ざめる。まさか数ヶ月の間に2度3度と貞操の危機が迫るとは思ってもなかった。…1回皆の頭の中でレアに汚されたけど…。
「…先生? 今、私の顔どうなってますか? 余り良い顔はしてないと思うのですが…見苦しい顔もしてないと思います。体全部が熱いので、少し赤いかもしれませんけど。ふふっ」
…これは…マジでどう切り抜けるのが正解なの? イージスはさっきから黙ったままだし。なんで肝心な時はいないんだアイツ!? 今こそ口煩くするべきだろう!?
「あの、先生。1回私の事も触って見てください。どんな感覚になるのか教えてあげないと…」
…えこれ、楽しんでない? え、どっち? 弄ばれてるの? それとも本当の厚意? え、え?
俺の焦燥とは逆に、もはや止まるという動作を忘れたようにリシテアは俺の手を自らの腹部へと当てる。…なぜ腹部?
「…! あ…こ…これは…ん…」
「…無心無心無心無心」
俺は無心、無心…。当てられた瞬間に柔らかい感触と共に、僅かに悶える声が耳に入ってきたなんて俺は知らない…!
「…中々に…心地良いですね…ふふ…あ、あまり撫で回さないでくださいね…? 触らせておいてなんだと思いますけど、あまり自慢出来る体つきでは無いですし…何より…
あ、あまり強いとその…まだどうなるか分からないので…///」
ほんのり紅に染まっていた頬から、全身へと赤みが強くなり、広がる。
まるで恋人との一時を楽しむかのように、俺の全身をいじり、自身の体をいじらせる。
リシテアは恥ずかしながらも楽しんでるとは思うが、俺はちっとも思考が働かない。動かしたら意識が飛びそうだからである。
仕方ねぇだろこんな事に耐性あんまねぇんだから…。ベレスだって一線は引いてたよ。あんな過剰なやつでも。
でも彼女は違う。恐らくこのまま止めずにいると、親父が言う最後まで、という所までされる可能性がある。内容はよく分からないんだけど、とりあえず何か危機が迫ってる事だけは確かだ。
「…先生…
別のところも…触れてみますか…?」
あ…これはダメだ…。
「不安で早く来てみれば、やはりか…」
「あ…」
「っ…何時も何時もいい所で…」
俺の心の中の悲鳴に応えるように、部屋の扉が豪勢に開けられる。そこから顔を表したのは、ベレスのみであった。
余程焦ってきた様だが、その顔には一切の疲労のそれは見られなかった。…体力的には右に出るものは居ないのだろうか。
「お、おうベレス。もう話は終わったのか?」
「あぁ。あまり長居をする訳にも行かなかったのでな。兄さんが寂しい思いをする前に抜け出したかったのだが、何とか間に合ったようだな」
「…別に私が居るのですから寂しい思いはさせないと思いますが」
「…危険が伴うのだから寂しいを通り越して任せてられないだろう」
はい、奮闘記恒例、修羅場のお時間がやってまいりました。
…1回入れないと気が済まないのかな本当。
『それは言っちゃダメなやつだエリス』
お前はなぜこのタイミングで復活する!? 急に無言になるのマジでやめろ!!
『あ、あぁすまない。少し彼女に罪悪感が出てきてね』
は? …お前、頭でも打ったのか? お前とアイツは話したこと一度もないだろ?
『直接的じゃないさ。…君があまりにも鈍すぎるからこっちが恥ずかしいんだよ』
酷くね!? その罵倒はちょっと頂けないわ!
分かると思うけど俺物凄く狙われてるからね!? それで鈍いってどういう事よ!
『…意味を履き違えてる』
…?
「 …取り敢えず、もう私が来たから大丈夫だ。リシテアは帰っていいぞ」
「いえ? 先程エリス先生と寝るまでつ き っ き り で看病すると約束しました。なので私は帰ることが出来ません」
「…兄さん?」
「いや言ってねぇよ!? 言っ、ては無いけどなんというか、心配かけ過ぎたのもあって俺も何も言えなかったというか…」
「…だったら私もそうだ。リシテア。今日は申し訳ないが2人で看病するか。迷惑をかけられた者同士、協力しよう」
「…そうですね。乗り気ではありませんが、口車に乗りましょう」
…感覚覚えたなコイツら…。そしてお前は早く胸から降りろ…。
それだけ納得してないだろベレスも。
その後は当然の過保護で時が過ぎていった。俺には罪悪感というものがある為に抵抗をする事が出来ず、食事も体を拭くのも全て2人のサポート付きになった。
「…兄さん。はい。スープだ。良く口を開けて」
「い、いや一人で食べれるから」
「…食べるの」
「…あ、あーん」
「…美味しい?」
「…うん。美味しいデス…」
「! 良かった。なるべく健康を考えて作ったから、いっぱい食べて。私が最後の一滴まで食べさせてあげるから」
「…ゑ。そ、それはちょっと…」
「…駄目なの?」
「ゔぐっ…わ、わかったよ…」
「さ、先生。次はお肉ですよ。 食べやすいようにちゃんと細かく切ってあるので、ゆっくり食べていきましょうね」
「…なあ。これもう介護なんじゃないの?」
「…むぅ…ベレス先生のはあーんしたのに私にはしてくれないんですね…。私はなんでもいいんですか…?」
「あむうん美味いさすがリシテアだな良い子だ」
「! そ、そうですか! なら良かったです。じゃあお腹いっぱいになるまで食べましょうね! まだまだいっぱいありますから!」
「…おー」
「い、いやいやいやいや!! 服は自分で脱げるから!! 体は自分でやれるから!!」
「だめです。こんな魅力的な身体目に焼き付けたゲフンゲフン。
過度な動きは身体に悪いんですよ。さ、タオルを寄越してください」
「今目に焼きつけるとか何とか言ってたよな!? 誤魔化せてないからというかこんなガッリガリな身体の何処に魅力を感じんだ!!」
実際に俺の体はとても健康的とは言えない体つきだ。腕や足も骨に少しばかりの皮が付いているように細く、お腹周りも鎖骨が出ていてとても魅力を感じるようには見えない。
「…? 兄さんは何を言っているんだ? こんなにも美味しそ…華奢で可愛い体を見て魅力を感じないわけないじゃないか」
「そうですよ先生。瞳に映るだけで身体が壊れそうになるくらいの破壊力があるんですから」
「それ駄目なやつじゃないの!? あ、止めろ近づくなぁ!! 身体くらい一人で拭けるってあ、あ、ァァァァァァァヤメテェェェェェ!!」
右と左を挟まれ、俺はあられも無い姿にされて頭やら足やらをもみくちゃにされながら拭かれた。…さりげなく大事な場所をソフトタッチされた気がしなくもないんだが…。目を瞑るか。
「…拭けたよ。兄さん。隅から隅まで。…ふにふに…」
確信犯かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
止めろ此処健全を売りにしてるんだぞ!! いやどこ触ってるかこれじゃ伝わらないし多分俺の勘違いかもしれないけど!!
「…せ、先生どうしましょう…。触れてからずっと頭の中に友人の言っていた囁きが止まらないんです…!!」
止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 二つの意味で止めろォォォォォォォ!!
…散々だった…。世話を建前にしてやりたい放題された…。
俺、婿に行く時なんと言えば良いんだろうか…。
「そんな時はこない。と言うか、私がさせない」
「…なんでしょう先生。今物凄く胸の辺りがグツグツと煮えたぎっている感覚です。特にベレス先生を見ると物凄くいやーになります」
お二人共反応おかしくないですか!?
『君がおかしいんだいい加減この一通りのやつよしてくれないか!?』
そんな事を言われましても私にどうしろと!? 完全に振り回されてたの俺じゃないか!!
…はぁ。全く。二人同時に来られると疲労も2倍になるのか…。
俺をもみくちゃにした2人は、慌ただしく俺の世話をする事が一通り済んだのか、椅子に座りながら俺の様子を伺っている。
眠れるまで見守っているつもりなのだろうが、そんな獲物を狙う獣のような鋭い眼光で見てくるものだから目を閉じれるもんじゃない。
「…そんなにじっくりと見られても休めないんだが」
「兄さんに危険が迫った時にすぐ対処出来るように準備してるだけだ。気にしないでくれ」
「それを気にしないでいられるのは親父くらいなんだが?」
…そういえば、昔のベレスも良くベッドに横になってた俺の事を飽きもせずに見続けてたっけ…。
自分が眠くなるのも考えずに今のコイツらみたいに俺の世話をすることだけを考えてる所とか…あの頃のまんまじゃねぇか。
…いや、まさかな…。
「…そういや、ベレス」
「なに、兄さん。膝枕の方が寝やすかった?」
「いや、そういう訳じゃなくてな…ただ、レアの連絡事項について話して欲しいだけなんだが…」
「…レア?」
俺の疲労に振り回される視線を必死にベレスへと向けると、彼女はらしくもなく目を極端に細めて俺に対峙していた。
俺はこの目を、知っている。コイツが俺の質問にこの目で返してくる時は、大体周りのヤツら経由で俺に何か関連していることだと言うことを。
まぁ、何時もはアイツが何も訳を話さない時はなるべく触れないようにはしてるのだが、今回に至っては俺も知っておくべき事だからな…。
それに、明らかに先程までリシテアと啀み合いながら俺の世話をうきうきとやっていた時とは雰囲気が変わった。何かしら納得のいかないことかなにかがあったのは目に見えてる。
「別に俺はアイツらに何をお願いされようが構わねぇけどな。あ、でもそうしたらまた周りに心配かけちまうか…。あ、でも俺は」
「うん。そうだね。お願いだったよ。いつもと同じ、課題についてだった」
「…そっか。それで、何て?」
珍しい事もあるものだ、と心の奥でイージスと頷き合う。ベレスが俺の真面目な言葉を遮って自分の言葉を言ったことなんて、ここ最近なかった筈だ。
「…レアも大分反省してたみたい。今回兄さんには余り危ない事はやらせないって言ってた。修道院周辺の族の討伐だって」
「…レアが? ふぅん。珍しい事もあるものだな」
「そうなんですか。何か複雑ですけど、危険すぎる課題じゃなかった事はなんというか、ほっとしたような気がします」
まぁ、司教様も思う所があったんだろうよ。ロナートの件は甘かったけど、実際にせいほうきょーかい? の奴等に対して無慈悲なまでの裁きをやってたやつだぞ? いくら気にいられてるとはいえ、ただで俺の課題だけ軽くする、とか無さそうだしな…。
「…取り敢えずはこんな感じだよ。ほら、暫く兄さんは休んだ方がいい。私、タオル濡らしてくるから少し待ってて」
『…』
「…あぁ」
まぁ、そうだな。まだまだ病み上がりだし、傷の治りが意外と早かったのは助かったけどまだ身体に怠さはあるしな…。
ベレスが立ち上がる音と同時動作として、俺はしっかり定位置に身体を固定する。気を叩く音を耳に受けいれながら、俺は休みの為にその意識を…
「と、いけばお前は理想だったんだろうなベレス」
彼女を引き止める手へと集中させた。
「っ…?」
「ど、どうしたんですか先生? いきなりそんな起き上がったら…」
2人は目を見開いて行動者の俺を見る。行動は大した変化はない。が、
驚いた理由については全くの別物の筈だ。
「…話の中の幾つか変だとは思ったんだよ。あのアッシュに対しても遠回しに対処を仕向けたアイツが、俺の印象優先であの様な無茶振りをやったやつが、いくら反省したとはいえそんな余所余所しい課題なんか出すのか…? とかな」
「…でも、それも憶測だろう? 第一ジェラルトも言ってた通り、あの人は何を考えてるかわからない人だ。気が変わったりすることもおかしくは無いはず…」
「ま、そうだな。その線も有り得ることは有り得る…」
「…じゃあ」
「お前がやたらと俺との会話の主導権を持ちたがる時ってよ、大体俺に聞かれると不味い事があるっていうお前の癖忘れたわけじゃねぇよな?」
「っ!」
「…えっと、2人とも…?」
俺の急な切り替えについていけていない様だが、此処で何も言わないと本当に何も進展がないままで終わってしまう。そうなると俺が得するのではなく、何もかもが良くない方向へ向かうからだ。
俺がベレスの癖に対して鎌をかけたのは別にデタラメでもなんでもない。事実である事だし、何せあれはあの子の性格と、俺に対しての心情等からああなる事は必然であると既に断定してるからだ。
実際に傭兵時代もそうだったからだ。恐らく今回は、俺の事に頭が回りすぎて、自分の発言やら癖何やらに構っている暇がなかった結果なのだろう。
「…大方、またなにか重要任務を任されてたんだろ。けど、前回のようになる事に恐怖を覚えたから俺を外すように訴えた。…当たりだろ?」
「…何でそこまで…」
「ばーかお前コレが初回な訳ねぇからだろ? 同じような事あって俺と大喧嘩したの覚えてねぇのかよ」
そう。俺がここまでベレスの行動を把握しているのは、何もかもが数年前の出来事と同じ事が行われているからである。
勘違いしないで欲しいのが、ベレスは普段、ここまで単純な訳では無い。…俺とのスキンシップ?の時はかなり単純ではあるのだが、それはあくまで休憩としてであり、重要任務の際にはここまで単純な返答は無ぇけどな。
「懐かしいな。前はあれだっけか。そもそも敵と戦うこと自体に反対して親父に直談判しに行ってたっけな。あれよりはマシだけど、ここまで一緒なら俺の意見だって同じなこと分かってるだろ?
つい最近までは、一緒に行きたいって駄々こねてたばっかりなのに…反抗期少し早すぎるんじゃねぇの?」
「…確かに一緒に戦いたいのは変わらない。けど、兄さんは昔から無茶をする所、やっぱり変わってなかった。…次私が間に合わなくて、この前みたいな事になったら…私は今度こそ耐えられる自信が無い」
…。
「…だから兄さんは」
「…まっったくお前はよ…兄離れ出来ねぇくらいベッタリだなーと思ってたのに昔の事すっっかり抜け落ちてんのな…嫌な記憶はいっぱい覚えてんのに」
「…え?」
…参ったな。完全に一点を考えすぎて他のことに目が付けられなくなってる。過保護になるのはまだ分かるとして、ここまでになっちまうと次の話のステップへ進めるのが中々に厳しくなってきたぞ…。
「…私は、兄さんとの記憶で忘れてることなんか無い」
「…ベレス。お前こそ今日は帰って休め。話はそれからだ」
「! で、でも兄さんが」
「最近のお前は俺の事ばっかりなんだよ。少しは自分の事も見つめ直してみろ。
…そしたら、多分俺が頑なにお前の話に乗らないのにも気が付くだろうな」
俺がそう言うと、何処か腑に落ちない顔をしながら、ベレスはとぼとぼと扉に手をかけた。
「…本当に大丈夫…?」
「はいはい分かったから。1回お前は俺の事を頭から離しなさいな!」
後ろ髪引かれる様に帰るその姿に、罪悪感しか浮かばないがここで引き止めれば彼女の過保護に拍車をかけてしまうため、今回はここでお開きにすることにした。
「…さて、リシテアもそろそろ…」
「今の先生を1人に出来ると思いますか?」
「…まぁ、そうだよな…」
まるでシルヴァンに説教をするイングリットの様な笑顔を振りまきながら、リシテアは俺の部屋から出て行くことを拒否する。
…まぁ、付きっきりで看病すると言われちまったからな。眠るまでお世話になるとしよう。
「…先生、なんで今更ながらベレス先生にあんな事を言ったのですか? …そこまで優先にされることに悪い気は感じてなかったはずですが…」
「…ん? あー…まぁ、普段のアレはあの子のスキンシップとして捉えてるし、あのままでいいんだけどよ…。休暇中だけに限った話じゃねぇからだな。まぁ、察してくれ」
「…成程、確かに四六時中の話ですからね。納得しました」
『まぁそうなのだろうけど、今の君はかなり矛盾しているよ? それは自覚してるのかい?』
…まぁな。我儘だと捉えられても仕方ないとは思う。けど、明らかに今のままだとベレスは前の状態に戻っちまうと考えたからな…。
だから、少しだけ、アイツには兄離れと記憶巡りを体験してもらうつもりで…な?
『…あんまり自重しないと父親に蹴り飛ばされるよ…?』
…まぁ、親父には間違いなくドヤされるだろうが…。納得はしてくれる筈だ。あの人はずっと俺達を見守ってきたし、関わっても来たからな。…多分俺が親父なら納得する。
「…じゃ、おれはそろそろ寝るわ。良さそうだったらお前も寝ていいからな。自分の部屋で」
「はい。おやすみなさい先生。朝食はとびきり美味しいのを御用意しておきますね」
「…居座る気なのは分かったのでもう突っ込まねぇ。おやすみ」
突っ込む気も失せた俺は、イージスの声も濁るまでに意識を夢へと誘い、明日への準備を開始した。
その明日にはまた騒動が構えている事になるのだが、それをどう進めるのかはエリス達次第となる。
こういう展開になると大体ギクシャクしてしばらく顔を合わせないのですが、エリス君もなんやかんや言って妹を大事にしているので、なるべく刺激せずに休む事を要請してます。(あれ? 意外と酷いような…)
皆さんはどのルートを辿って欲しいですか?(このアンケートはあくまで希望調査なので、実際に反映される訳ではありません。最も多かった回答でも反映されないこともあります。ご了承下さい)
-
紅花ルート(エーデルガルト)
-
蒼月ルート(ディミトリ)
-
翠風ルート(クロード)
-
銀雪ルート(教会)
-
オリジナルルート(前例がない未知のルート)