問題児達と第一位が異世界に来るそうですよ   作:デクナッツ

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第十一話 キャッチボール

薬品と湿布の入り混じった臭いの部屋で彼は目を覚ました。

 

「ようやくお目覚めですか?」

 

目の前に現れた人形が心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

「あァ、問題はねェ」

 

頭に軽く痛みが残るものの、これといった不自由は無かった。

 

「そうですか。でも今日は安静にしていてくださ…何立ち上がってるんですか!?」

 

「別に怪我もしてねェから寝ている必要はないだろ」

 

それにもう一つ確認したいこともあったのだ。

 

壁に立てかけられていた杖を腕に嵌めて、ベッドごとを区切ったカーテンを2枚(・・)開けた。

 

「コイツの体は大丈夫なのか?」

 

隣のベッドにいたのは、華奢な一人の少女。

 

「…見ての通りの重傷ですよ。意識もまだ戻っていませんし、ただ黒ウサギさんが言うには命に別状はないそうですよ」

 

そこに眠っているのは先のゲームで傷ついた春日部耀だ。

 

「マスターもあまり気に病まないでください。あの後飛鳥さんたちの活躍でゲームにも勝てたんですよ、それはあなたたち二人の貢献があったからこそです」

 

「…行くぞ逆廻達にも生存報告は必要だろ。それに」

 

今話題にしているゲームの真の悪党についても聞いておかなければならない。

 

 

 

「これはどういう状況だァ?」

 

応接間のドアを勢いよく開けたものの、眼前の光景には首を傾げることしかできなかった。

 

黒ウサギは驚き尻餅をついている。

 

逆廻十六夜は無警戒という様子で乾いた笑みを見せている。

 

そして二人の視線の先には窓ガラスを割って侵入してくる金髪美少女がいた。

 

「昔のノーネームに所属していたレティシアだ。よろしく」

 

窓を割って入って来たにしては優雅な一礼だった。

 

 

 

「つまりガルドとのゲームはレティシア様が仕掛けたものだったというのですか!?」

 

様付けはよせと笑っているものの肯定しているようだった。

 

「新ノーネームを崩壊させたかったのか?」

 

先ほどとは打って変わって真剣な顔の逆廻の問いかけ。

 

「いや、確かめたかったんだ。君たち新しい加入者の実力を」

 

逆廻に習うように真剣な表情でレティシアは答える。

 

「テストってことか、それにしては随分危険だったんじゃねェか」

 

最後に久遠とジンが勝てなければ文字通り全滅だっただろう。

 

それにはレティシアと名乗る少女もばつの悪そうな顔で

 

「そこの男が打倒魔王だなんて宣言しなければ、こちらもあそこまでしなかったさ」

 

何でも昨晩やってきた暴漢に魔王の相手を引き受けると宣言していたらしい。

 

それを聞いた黒ウサギの顔はどんどん青くなっていく。

 

「ヤハハ、それはともかく確かめたんだろ?テストの結果はどうだったんだよ」

 

どうやら逆廻はこの話題を続ける気はないようだ。

 

ふむと顎に手をかける仕草をしてから

 

「その前にそこの白い貴方に詫びよう、申し訳なかった」

 

一方通行(アクセラレータ)の方を向き頭を下げてきた。

 

「謝罪先を間違えてるぞ。俺は怪我どころかあやうく…」

 

あやうく仲間を殺すところだったのだ。

 

「そんな思いをさせてしまったことにだよ。本当にすまない」

 

気まずい空気にしたくなかったのか少女は口早に逆廻への返答をした。

 

「あの少女二人は難しいな。小さいほうの子は確かに一流のギフトだ索敵、戦闘共に優れている。ただ彼女自身戦闘経験がないのだろう、あの事故の原因はそこだ」

 

彼が重傷を与えたときのことを言っているのだろう。

 

「もう一人の子は、正直ギフトの検討もつかなかった。木々や草花を操るかと思いきや、ゲームの剣のギフトにも効果があるようだし…戦闘向けでない気はするのだがな。それと本人の経験不足も否めん」

 

「随分辛烈なご感想じゃないか。まぁ的を射ていると思うが」

 

少女の意見は逆廻も薄々感じていたことなのかもしれない。

 

「そして白い君だが、どうやらゲームの選択を誤ったようだな」

 

参ったよという体のジェスチャーを見せてくる

 

「それは活躍しすぎてか?それともあまりに残念すぎてか?」

 

苦笑いという表現が最も正しいと思える顔で逆廻は問いかける。

 

それに対してどちらでもないと頭を横に振る。

 

「単純に私には理解できなかったんだよ君の能力が」

 

「出し惜しみしていた記憶はねェんだがな」

 

それに対しも横に振る

 

「そういう意味じゃない、君のギフトが万能すぎるのだよ」

 

そうだろうかと彼は首を傾げる、彼の能力は触れたものの向き(ベクトル)を操るだけで使い道は限られていると言える万能にはほど遠いものだ。

 

そんな彼を見て少女は、では例を挙げようと言い出した。

 

「始めはガルドの突進から身を守った、次に背中から二本の竜巻を生み出した、さらには傷ついた少女の手当までやってのけた。これが一つのギフトではあまりの大盤振る舞いだ」

 

指を突き出して説明している彼女を見て彼も何となく納得した、理屈が分からなければ能力の関連性は全く見えてこないのだと。

 

「ンなもん簡単に手の内晒す訳ねェだろォが」

 

バレて困ることもないが一から説明するのも億劫というものだ。

 

「つまり君たちのギフトは複雑すぎるのだよ。これでは評価のしようがない」

 

また先ほどのように参ったのポーズをとる。

 

彼はこの話はこれで終わりだと席を立とうとした、隣のバカの余計な一言が無ければ。

 

「ヤハハ何難しいこと考えてんだよ」

 

逆廻がレティシアに向かって笑いながら話しかけていたのだ。

 

「理解できなければ試せばいい、なんで分かりませんでした締めようとしてるんだよ」

 

この場面での試すとはゲームをしようぜの意訳だろう。

 

「ほう、その考えはなかった」

 

手をポンと叩き首肯して見せた。

 

このままでは巻き込まれると直感した彼はすぐさま退室しようとするも

 

「お前も参加に決まってんだろ」

 

逆廻に先手を打たれていた。何でだと目で問いかけるが

 

「さっきの話でお前のギフトに興味持ったからだよ」

 

あまりに自分勝手な意見で反論する気もわかなかった。

 

 

 

 

ギフトゲーム名「メネラオスとパリスの一騎打ち」

 

ゲームマスター レティシア=ドラクレア

 

プレイヤー 逆廻十六夜

      一方通行

 

クリア方法 槍で相手を討つ

 

敗北条件 相手からの槍を受け止められないまたは投げれない

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                                   印

 

 

 

「トロイア戦争関連か・・・ふ~んゲームは単純な力比べでいいんじゃないか」

 

要約すると槍を使って三角キャッチボールをするということらしい。

 

「順番は今いる立ち位置で構わないな?」

 

異論がないのを確認した少女は翼を出し空中に飛んだ。

 

箱庭の吸血鬼は空まで飛べるのかと呑気な声が聞こてくる。

 

因みに順番はレティシア→一方通行→逆廻十六夜という一周で行われる。

 

「ジャッジは黒ウサギが行うので不正はできませんよ!」

 

無駄に元気な声が開始の合図だった。

 

 

 

 

上空から見た景色は彼女がいた二年前からは想像もできない荒地になっていた。

 

本当はノーネームの解散させるように言いに来たのだがなと心の中で思う。

 

しかし伝えることができなかった。言い淀んでしまったのだ。

 

彼ら彼女らがコミュニティを再建できるではという僅かな希望に。

 

自分でも無責任だと思っている。ギフトを持っているとはいえ、全く関係ない子供を自分たちの尻拭いに利用しようとしているようなものだ。

 

「難しく考えるな・・・か」

 

もう一度下を見ると軽薄な笑みを一人が向け、気だるそうな顔を一人が向ける。

 

それを見ているとこれからゲームだというのに、考え事をしている自分がバカにしか思えない。

 

「ではいくぞ」

 

今出せる全力を槍に乗せ、白い少年に放った。

 

 

 

「あァー何でこんなことやんなきゃならねェんだよ」

 

やる気の無さを体全体を使って表現するもゲームは始まったらしく、少女が投げた槍は重力も相まって尋常でない速度で落ちてきた。

 

「並みの空力使いよりかはやるじゃねェか」

 

しかし残念ながら彼の予測の範囲内であった。

 

右手を前にかざし、左手で電極のスイッチを押す。

 

こうなると彼は槍の雨が降ろうとも気にせず生活できる。自分に向かってくるそれはハエと同義だ。

 

「ほら・・・パスだ受け取れ」

 

右側にいる逆廻に声をかける。

 

彼の行った行動は目の前まで来た槍に、かざしていた右手で払っただけだ。

 

右手が槍に触れることで下方向に掛けられた運動方向を逆廻がいる右方向に変換された。

 

「さァてどうする逆廻」

 

気だるいといいつつも彼は逆廻十六夜という男のギフトにだけは興味が向けられていた。

 

 

 

「何だよそれ面白れーじゃねえか」

 

一方通行から回ってきた槍は少女が放ったのと全く同じ速度で横向き(・・・)で向かってきた。

 

(ただ力を加えるだけじゃこうはいかない。まるで理解できねえじゃねえかその恩恵(ギフト)

 

一方通行と十六夜はある種同じ狙いでゲームに望んでいた。

 

相手の恩恵(ギフト)のレベルを見極めるその一点で。

 

「ヤハハ考えるのは後回しだ、あんな面白いのを見せられたんだからな応えなきゃ不義理ってもんだ」

 

そう言いながら重心を下げ体を捻る。

 

一方通行(アクセラレータ)から飛来してきた槍は業物と見えるが、本来想定される向きとは明らか異なって力を加えている。そのためだろう柄の部分と剣先は負荷に耐えられず折れてしまい、槍全体も三日月のように湾曲しかけている。

 

掴もうと思えば掴める。だが

 

「それじゃあ面白くない」

 

一方通行(アクセラレータ)が魅せたのは、槍に触れただけで軌道を曲げるという行為。

 

ならば彼とて同様の現象を魅せるべき、その考えに至り実行する。

 

「オラァァァ」

 

掛け声とともに捻っていた体を回し、蹴り(・・)に力を収縮させる。

 

槍と十六夜の足が拮抗するのも一瞬、即座に槍の勢いは衰え、上方向に第三宇宙速度で駆け出した。

 

既に槍には原型は無く球状で吸血鬼のもとに帰っていった。

 

 

 

天高くから観察を続けていたレティシアは彼らの出鱈目加減に驚愕を通り越し安堵を覚えていた。

 

これほどの力があれば有象無象の魔王など蹴散らせてしまうだろう。

 

いや、もしかすればこのコミュニティを崩壊に追い込んだ魔王さへも。

 

そんな思考を巡っている今も十六夜の槍は速度を落とさず、向かってくる。

 

しかし文字通り全力で投擲した彼女には受け止めることはおろか、避けることもままならない。

 

否、今の彼女では万全の状態でも受け止めることは不可能だろう。

 

フッと彼女の口角が自然と上がる。このままでは十六夜が投げた槍が体を潰し絶命するだろう。

 

だがもう十分だった、このゲームで彼女の命と引き換えにコミュニティ’    ’の復興への希望を示したのだから。

 

「冥土の土産には十分過ぎるくらいだよ」

 

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