具体的にペルセウスとの衝突(今回)、ルイオスとの会合、
ペルセウス戦、後日談といった感じで書いていきます。
今後も応援お願いします。
「いけない!」
レティシアの様子を見て、彼女の様態が悪いことは明らかだ。
それどころか悪化は顕著で恩恵、霊格の摩耗の域に達していた。
そこまで想像したところで黒ウサギは躊躇いを感じていた。
仲間を疑うことが仲間への最大の裏切りだとよく知っていたがために。
その短い葛藤が生死を分けた。
レティシアを助ようとする黒ウサギの跳躍が、十六夜の蹴りにワンテンポ遅れてしまっていた。
十六夜の全力と黒ウサギの全力は速度という一面で言えば、ほぼ同等。
理論的に言えばこれでは十六夜が飛ばした槍が先に到達するだろう。
しかし上空に向け上昇する槍はすでに原型を失い、風の抵抗を受けやすく僅かに減速していた。
そのため黒ウサギは絶望的に間に合ってしまった。
文字通り自らを犠牲にする形で。
突き飛ばされた。その事実を体全体で受けた衝撃と空中での不安定な体制が物語る。
しかしなぜ?彼女がその思考に埋もれる前に、分かりやすい形で答えが提示された。
髪に、顔に、腕に、服についたそれ。
それは冷たいという感覚であり、ドロッとした感触、いやそんなものが無くても分かる。鼻腔をく
すぐる鉄の匂いは吸血鬼にとって最愛の液体なのだから。
顔を引き攣らせ、今にも泣きそうな表情で頭上を見上げる。
彼女の目に映るのは、槍の破片を深々と左肩に食い込ませた同志の姿。
どうやら本体の部分は躱したようだが、そんなものは何の足しにもならない。
「く・・ろうさ・ぎ?・・・・黒ウサギッッ!!」
幼い容姿の吸血鬼の叫びは月をバックに幻想的に散っていった。
「出血は止まったが、派手にやられっちまったな」
そんな軽口をうそぶくのも憚られる様態の訳だが、黒ウサギが求めるのは心配されることではない
事を十六夜は知っている。
「申し訳ありません、ご迷惑をかけて」
「全くだ、お陰で学ランの片腕を止血に使っちまった」
口調とは裏腹に黒ウサギの手当ては大部分が十六夜の尽力によるものだ。
「私が悪い、私が本当のことを隠していたから」
そんな中、空気を読まずに自責の念を吐露する声。
「レティシア様は悪くありません。黒ウサギの腑抜けが招いた事故です」
そこに怪我人がフォローする。
そんな悪循環が出来つつあったが、しかしそれは無粋な横槍で掻き消される。
「今夜は随分客が多いじゃねェか」
その声にハッと振り向く黒ウサギとレティシア、既に気付いていたのか十六夜だけは正確に敵のい
る空中をゆっくりと見渡す。
「何者だ!コミュニティの敷地を無断で徘徊する恥晒しが、名を名乗れ」
今まで見せなかった怒気を全身から湧き出し、敵に殺意を向ける。
「名無しが何様・・・いや所有物のお前こそ何様だ吸血鬼」
冷静に観察すると、お客様は皆レティシアに敵意を向け他は雑草のように気にしていない。
そしてレティシアはこの声に僅かだが心当たりがあった。
「まさかお前たちは・・・」
「如何にも誇り高きペルセウスのコミュニティだ」
十六夜も一方通行も詳しいことは一つも知らない。しかし目の前の相手がレティシアが現在いるコ
ミュニティなのだろうと容易に推測できる
ならばレティシアをすぐに差し出し、お引取り願うのが定石のだろう。
しかし
「そっちの事情に律儀に付き合うほど今日の俺は寛容じゃねぇぞ」
十六夜からしてみれば、よく理性に手綱を引かせたと感心するほどだ。吸血鬼の来客に、2度の仲
間の負傷、そして新たに殺気を覗かせる客。我慢のし過ぎは爆発という形で返すのが十六夜流だ。
この十六夜の宣言により平和的解決は遥か彼方に消え去った。
まるで自分たちを見下すような少年の態度に空中にいる面々は嘲笑し、憤った。
言うまでもなく彼らは十六夜の実力を知らないし、ノーネームは格下の屑だと侮っている。
「よし消えないってことは死んでも文句ないってことだな」
物騒な台詞を当たり前のように吐き、屈んで手の平サイズの石を5個ほど拾い上げる。
その奇行に敵もといペルセウス一行は首を傾げ、多分な隙を作る。
「簡単に死ぬなよ交渉材料」
腕に抱えられていた石は例外なく、第三宇宙速度で敵の腹部に吸い込まれていった。
「貴様よくも同士を」
十六夜の独断とその他諸々で撃ち落とされた敵の5人は死にはしなくとも、地面で伸びている。
「この程度で英雄のコミュニティなのか?俺の中で箱庭の株が大暴落だぜ」
尚も挑発を続ける十六夜はついに敵の琴線に触れた。
それはプライド、自尊心を傷つけられた報い。名無しが相手では尚更だろう。
「英雄を貶めたなガキが、我々のプライドは恩恵を持って返させてもらおう」
ニヤリと十六夜の口角が自然と上がる。
前述のとおり十六夜は今日一日で相当の我慢を強いられた。しかし先に示したのはその半分以下に
過ぎない。
快楽主義を掲げる十六夜にとって今日という日は不完全燃焼なのだ。
ガルドとのゲームは見ているだけ、レティシアとのゲームは期待はずれ、ならば今の十六夜が求め
るものは何だろうか。
答えるまでもない、自分が満足できる相手だ。
結局この挑発は自分の欲求を満たすための口車だった。
「来いよ、英雄の名を語るに相応しいか確かめてやる」
ただし、その目には多大な熱意が爛々と輝いていた。
ペルセウス一団を指揮していたのはリーダーではなく、コミュニティのナンバー2と謳われる男だ。
先ほど十六夜に啖呵を切ったのもこの男。
コミュニティを愛し、誇りを持っている。そのため先ほどのように蔑まれれば憤る。典型的な箱庭
育ちとでも言うべきなのだろう
そしてコミュニティの為なら容赦しないのも典型的といったところか、ギフトカードに忍ばせてい
たネックレスを躊躇無く眼前に持ってくる。
コミュニティ中で最高の恩恵であるソレは勿論彼の私物ではない。現リーダーに渡された吸血鬼捕
獲用の一時的な獲物に過ぎない。
しかし彼の中で捕獲は頭の隅に追いやられ、十六夜を倒すことのみに使用する。
「永久に石のまま人生を終えろ」
猛烈な光が手元より放たれ、ノーネームの4人は土地ごと石化するはずだった。
「ふーん、ヘルメスの鎌とやり合えるのかと思ったが・・・」
頭上の男が発した光は十六夜の期待とは違ったのか少々の落胆が滲んでいる。
「いけない!この光に浴びてはダメだ!」
しかしレティシアの叫びを聞いて十六夜は一つの答えに辿り着いた。
「ペルセウスの浴びてはならない光か、おいおい前言撤回だこの野郎、面白いもの出してくれた じゃねえか」
英雄ペルセウスの伝説の中で最も有名なのは妖怪退治と言える。
その妖怪こそが目を見ただけで相手を石にする力を持つとされる。
そしてその妖怪の力を分かりやすい形で恩恵にしたとしたら。
「ギリシャ神話でもポピュラーな伝説だぜ、今日一日我慢したご褒美には十分だ」
そう言いながら膝に力を込め、光めがけて跳躍する。
十六夜はこの世界に来て一度だけ恩恵を破壊したことがある。
世界の端と言えるべき場所で戦った巨躯の蛇神。
奴は水を操る恩恵を駆使して海水をさながら竜巻のように操作して攻撃してきた。
しかし十六夜は歯牙にもかけず、水の柱を蹴り飛ばした。
それは水という分かりやすい形での攻撃、しかし今回は光という曖昧な形。
逆に言えば形が違うだけで恩恵ということに変わりはない。
銃弾と同じだ。それぞれ銃から放たれるが、口径も威力も違う。
それなら十六夜は異なる銃弾で襲われたときどうするか、勿論等しく潰す。
ならばやることは同じだ。腰を捻り、力を集中させ、解き放つ。
誰もが目を疑った。
光は十六夜の足先を石化させようと飲み込もうとするが、足を振りぬいた時には光の根幹のような
ものが砕け散り辺りに振りまかれた。
嬉々として光に突っ込む十六夜を尻目に、レティシア、一方通行はすぐさま防御に徹する。
具体的には一方通行が首の電極に操作するのに対して、レティシアはその背後に隠れる。
十六夜が蹴りぬいた光は散弾のように辺りに放たれ、その一つは一方通行目掛けて突き進む。
しかし能力を使用した彼はどんなものも寄せ付けない、その点レティシアが隠れ蓑にするには最適
の配役と言えたのかもしれない。
光は速度も衰えず、とうとう額に到達する。
一方通行は何も考えず反射を選択し、そのまま何事も無く跳ね返るはずだった。
能力を行使するその瞬間、説明の付かない悪寒と俗にいう嫌な予感というやつが彼に襲いかかる。
一度も受けたはずがない攻撃、しかし彼はこれを知っている。
何故かなんて分からない、ただ彼はこれを知っている。
そしてその光の正体がどういった物なのかを強制的に知らされる。
演算の失敗。
光は180度反転するはずが実際はその半分にも満たない角度に折れ曲がった。
そしてその先にいたのは
その場にいた3人は驚愕に息を飲んだ。
一方通行から屈折した光は寸分違わず一人の少女に駆けていった。
怪我をして安全地帯で横たわっていたウサギの少女に。
黒ウサギが完全に石化するのに1秒も掛からなかった。
レティシアは只々その光景を呆然と見つめ、嘆く。
「どうして・・・なんで・・・」
すぐに一方通行を問い詰めようと睨むも、まるで生気を失ったかのような表情を見て言葉を詰まら
せる。
それは十六夜も同じだ。怒りの矛先をどこに向けるべきか分からいといった風だ。
しかし一人だけ思想を他と共有していない者がいる。
一方通行だけは黒ウサギの事ではなく、光の正体を考える。
先ほどの現象は第三次世界大戦末期に全く同じものと対峙していた。
そうなるとあれは・・・その思考から先に進めないでいた。
そして混乱は敵も変わらない。
「どうしますか?」
光を放ったリーダーの側に控えていた男が顔を白くして問う。
逃げ出した吸血鬼や名を愚弄した少年なら石化しても問題などない。
しかし黒ウサギはある種イレギュラーが過ぎた。
ノーネームの一人であることに変わりはないが、その正体は月の兎であり、箱庭で絶大な力を有す
る審判権限を所持しており、尚且つフロアマスター白夜叉の専属審判をしている。
それはつまり、最悪の場合白夜叉を敵に回す可能性さえ見えてくるのだ。
「・・・箱庭の貴族を拉致する、吸血鬼との交換材料に使える」
一種極限の状態に立つと、人はブレーキの掛けどころを見失ってしまう。
リーダー以外の面子も冷静を保っている者は一人も居らず、正しい行いと信じて突き進むのだった。
混乱に陥ったノーネーム面々を更に追い込む事態が起こる。
突如としてそこにいたはずの黒ウサギが姿を消したのだ。
しかしレティシアだけはこの恩恵を知っていた。
「ハデスの兜だ、奴ら黒ウサギを奪っていくつもりか」
落ち着いて上空を見ると敵の姿も見えない。
完全に手詰まりだった。
レティシアは跪きながら小さく呟く。
「私のせいでこうなったのか?私のせいで黒ウサギは・・・」
「落ち着けよ、黒ウサギを奪っても得はないだろ。相手は交渉の席を設けるはずだ」
既に落ち着きを取り戻した十六夜は先を読み続けるかのように答える。
その目にはペルセウスの光と戦った時とは比べ物にならない熱を灯して。
一つ設定の追加というか確認をします。
一方通行は打ち止めに対して羊皮紙を使っていません。
その為自身の能力が粒子加速装置に酷似していることに気付いていません。
以上です。