問題児達と第一位が異世界に来るそうですよ   作:デクナッツ

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第十六話 決意

チュンチュンと鳴り響く小鳥のさえずりに、カツンカツンという一定のリズムが混ざり合う。

 

早起きという習慣の無い彼には、少しキツい時間帯ではあるが仕方がない。

 

彼は今、コミュニティの脱退の紙を現当主の部屋に放り投げ、夜逃げの真似事をしているのだから。

 

逃げるならば、それこそ夜の方が良いのではないか?と考える者も居るかもしれないが、このコミュニティには十六夜、耀、黒ウサギと人間離れした五感の持ち主が在席しているため、正直どの時間でもあまり変わりないのだ。

 

それならば、早朝にバタバタと年少組が朝食作りに励んでいる時間の方が、バレにくいのではないかという浅はかな考えで行動している。

 

「よう、こんな早い時間からお出かけか?」

 

勿論、効果があるとは思わなかったが。

 

「チッ・・・春日部も黒ウサギも出て来なかったんだから空気読めよ」

 

女性陣の部屋を通り過ぎて来たのだが、幸い誰とも顔を合わせずにここまで来れたのだ。

 

「ヤハハ、それは悪かった。でもこの時間に杖の音がするのは異常事態だと思ったんでな」

 

冗談めかした言葉とお似合いで、大袈裟に肩をすぼませて話は続く。

 

「いや聞きたいことは山ほどあるんだぜ、何でコミュニティを脱退するのかとか、どうして箱庭に来て間もないお前に、話しかけてくる女がいるのかとか、チラッとその女に瓜二つの容姿の女をペルセウスで見た気がしたんだが、あれが誰だかとか、とりあえず、何で逃げるのにわざわざ杖をついて出ていくんだ?空飛べるんじゃなかったのかよとか」

 

軽薄な笑い声ではあるが、パズルのピースは揃っているとでも主張したいような、長口上を発する。

 

「好きに考えてろ、お前がノーネームにご執心なのと同じで、俺にも目的が出来た。それだけだ」

 

億劫そうな顔はそのままで、右手だけが電極に近付く。十六夜にとっては戦う理由が用意されたような状況だ。はいさようならで、素通りさせてもらえないのは明白だ。

 

「行きたきゃ行けよ、俺はお前の親じゃない。それとも止めて欲しいのか?」

 

戦う意志が感じられないことに虚をつかれ、表情も呆けたものになっているだろう。それほどに十六夜の態度が意外で、その真意が掴めなかった。

 

「コミュニティの脱退は自由だと思うぞ、少なくともこんな零細コミュニティに残るやつは超がつくほどのお人好しだけだ。だがらお前も好きにしな」

 

コミュニティという心の中にあったわだかまりを強制的に開放するような言葉。来る者も去る者も拒まないというのは、去ることを許さない暗部にいた彼には少し新鮮で、しかしその冷めっきた人間関係にはどこか懐かしさを覚えた。

 

元より戻るつもりはない、掲げた目標がそんな余分な思考を許さない。

 

そうかい、と一言だけ残しその場を後にする。

 

自分は甘えすぎたのだ、頼り頼られる人間関係に。

 

「あっそうそう、言い忘れていたが、自分からコミュニティを脱退するやつの再加入は楽じゃないからな」

 

独り言のように淡々とした言葉、だが不思議と耳を傾けてしまう。

 

「もし戻りたくなっても、コミュニティ総出で入団試験だから覚悟しとけよ」

 

「ハッもう少しまともなコミュニティになってから言いやがれ」

 

カツンカツンと振り向きもせず進む。

 

くだらない、甘すぎる誘い、だが全てが終わったならば、そういう未来も悪くないと思える程度には魅力があった。

 

 

 

 

「ふむ、黒ウサギには恨まれてしまうのお」

 

彼がノーネームから向かったのはサウザンドアイズの支店、白夜叉のもとだった。

 

「お前は知ってンじゃねェのか、二万人の妹達が箱庭に召喚させられた理由を」

 

妹達を守るという義務を果たすためにやらなければならないことは多い。

 

だが、大前提である敵さえ彼は知らないのだ。

 

「ふむ、ぬしが言っておるのは、ヘルメスが提示した『箱庭間伝達プログラム』のことかの」

 

手慰みに扇をバシバシと開閉している仕草とは裏腹に、白夜叉の視線ははるか遠くに向いているようだった。

 

「その名前は知らねェが、そいつのコミュニティの客分としてバラ撒かれているはずだ」

 

先の戦いの時に、妹達の一人はたしかにそう言っていた。

 

「ぬしが何をしたいのかは知らぬが、手を出さないほうがいいとだけ言っておく」

 

今までの何処か焦点の合ってないような視線とは異なり、真っ直ぐに眼と眼が合う。深い深い視線だ。その瞳の奥に映るものは長い年月の生、途方もない戦いの数々、その二つを備える白夜叉だからこそ持てる気迫なのだろう。

 

箱庭の上層への介入など身を滅ぼすだけだ

 

あそこは人知の及ぶ場所ではない

 

力、知識、勇気を持って挑んでも敗れる魔境である

 

上等だ

 

「頼む」

 

頭を下げても眼だけは離さず訴える。

 

白夜叉は折れない志を確かめると、嘆息気味に力を緩め提案する。

 

「よかろう、ぬしの企てに少しばかり力を貸そう。なに、私も我を通すばかりの上層で迅速に普及していったのを訝しんでいたのでな、両者ともに利益があるわけじゃの」

 

さあて何からしてみようかの、と再び扇子をバチバチ開閉すること三回、白夜叉は勢いよく立ち上がり、扇子を事らに向けてくる。

 

「よし、まずぬしにはサウザンドアイズの客分の位を授ける、いつまでも無所属ではいられるまい」

 

次に、と口にする白夜叉は口元に薄く笑みを浮かべ、

 

「ぬしにはこれから北の54545外門に向かってもらう、そこのサラマンドラには妹達とやらもいた事だしの」

 

 

 

 




とりあえず、これで連載を中止させていただきたいと思います。
手直し、書き溜めができたら、また投稿していきたいなと思います。
一巻分でしたが今まで読んで頂いて、本当にありがとうございました。

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