詭弁ですよ!ヤオヨロちゃん!   作:名は体を表す

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ヴィランに手を差しのべる系ヒーローが流行ってるので、ヒーローに手を差しのべる系ヴィランがいても良いじゃない!

あ、これ面倒なツンデレってヤツだ!


記者会見ですよ!

 記者会見が始まった。

 先生達が揃って深くお辞儀をする。あ、流石に髭剃ってるね相澤せんせーは。

 

「……まるで悪者扱いだな。プロヒーローも最善を尽くしただろうに」

 

「……」

 

 お前らヴィランがそれ言うのか……。

 テレビでは謝罪から始まり、その後すぐ問われた質問に答えているところだ。

 ……雄英の基本姿勢は、体育祭の時と変わらない。『あえて開催することで強気の姿勢を見せる』だ。マスコミはその事を知りながら、再び説明させようとしている。無関係な奴らは、()()()()()()()()()なら鬼の首を取ったように騒ぎ、糾弾する。そこに過程なんて考慮されはしない。

 

 ほんの少しぼやっとしてると記者会見は進み、新たな質問が出た。

 

『今回攫われた生徒である詭弁くんは、かなり問題行動の多い生徒であると伺ってます。同年代、年上年下関係なく、多くの女性とお付き合いに等しい関係を結んでいるとか』

 

「詭弁くん、本当ですか?」

 

 怖っ。トガちゃんの首がいまグリンって回った。そしてクレヨンで塗り潰したような真っ黒な瞳が俺の目を貫く。

 

「嘘だよ。俺は誰ともお付き合いしてないし」

 

 中学生の時は多くの女の子に告白されたが、結局その全て断っているのだから。

 

「お付き合いに『等しい関係』とはどういう意味ですか?」

 

「……俺が知りたいな」

 

 まさか日常的にセクハラしてる事……な、訳ないか。ないよね?

 

『失礼ですがそのような事実はありません』

 

『彼の同級生達からの証言があります。更に体育祭で、あれほどまでに大怪我を負ってまで暴れる精神性に目を付けられ狙われたとして、もし詭弁くんが悪の道に染まってしまったとしたら?詭弁くんがヴィランにならないと言い切れますか?』

 

 根拠のない暴論、その言葉に酷い()()を感じた。

 ただ先生を怒らせて、『売れる言葉』を引き出したいだけのクソッタレの論理だ。

 

「まあ体育祭のアレで目を付けられたのは間違いじゃねえけど」

 

 言って、自嘲する。それこそ()()()()なら、あの怪我で動き回ることなんて『ありえない』。そして()()()()()()()()を糾弾することに、人は思った以上に抵抗感がない。

 

 全身酷い傷だらけの俺を排斥するのは、至極当たり前の事だ。

 今までもそうだった。これからもそうだろう。この世界は『歪』に敏感だ。姿形の話じゃない、内面の話。だから俺は……

 

『体育祭での彼の行動は、生徒を預かる身として許容するべきものではなかったかもしれません』

 

 テレビの向こうで相澤先生が頭を下げる。

 

『しかし、あれは彼の『成長』であると我々は捉えています。彼は複雑な事情を抱え、迷いながらも尚自ら思い描いたヒーローへの道を歩んでいる。誰かを想う心があり、援けたいと願う心を持っています。皆さんに見える形がどうであれ、そこは変わりません』

 

『彼はヒーローに向いている。敵になることはありえません』

 

「……昔さ、俺、友達一人と、あるヴィラン共に身代金目的で攫われたことがあってな。そん時からヒーローに憧れてたもんだから、ヴィランなんかに負けるか、って友達と一緒に抵抗したんだよ。そん時にさ、ヴィランの前でポロっと友達の個性バラしちゃったんだよね。それからは酷いもんでな。ヴィラン相手に子供二人で何とかなる訳が無かったんだ。友達は厳重に拘束されて強制的にヴィラン共の資金源作りさせられて、俺は言う事を聞かせるためだけに生かされ続けた。友達が少しでも失敗すると、俺の身体に鉛玉撃たれたり、ただ虫の居所が悪いからって鉛玉撃たれたり、んまぁ散々さ。そんな生活が……結局どんだけ続いたんだ?俺自身なんでそんなんで生きてられたのかも分かんねえけど、ある日、友達の親が雇った傭兵とプロヒーローが俺達が監禁されている場所に来たんだ。俺も、その友達も、ようやくこの地獄から抜け出せるって喜んだ。だけど……ヴィラン共は俺達の予想よりも遥かに強かった。俺達の目の前で、何人も人が殺されていった。アイツは化け物みたいな強さだった。俺達が助かったのは、あの化け物の気まぐれに過ぎないって今でも思う。そうして助かって……俺は、もう純粋な気持ちでヒーローを目指せなくなった」

 

 テレビの向こうでは未だに謝罪会見が続いてる。

 

「多分、その友達も純粋な気持ちでヒーローを目指せなくなってると思う。でも、その子が、それでも『ヒーローになりたい』って言うから、俺のせいで地獄を見たのに、本気でヒーローになりたがっているから……俺が、その子を支えないと、俺が、一生を掛けてその子に償わないと、そう思ってたんだ。だから俺は俺自身より、誰かを強くする事に個性を伸ばしていった。雄英に進学したのだって、友達がそこ志望したから以上の理由なんて無かった」

 

 ヴィラン連合の面々がじっと俺の顔を見ている。

 

「クラスメイトは皆が皆本気でヒーロー目指して突っ走ってるし、先生達は殺しに来てるほど厳しいし、笑って誤魔化してるのも難しいしで大変だった。何が大変かって、クラスメイト達が純な目で『お前もヒーロー目指してんだろ?じゃあライバルで仲間だな!』ってな風に見てくるんだよ。……俺の勘違いかも知れねえけどさ。だから俺はずっと自分に言い聞かせてたんだ。『俺は本気でヒーローになる』『ヒーローを援ける最高のヒーローに』ってな……。それが、俺に吐き続けた『嘘』だ……嘘、だった……」

 

 相澤先生の言葉が、再び頭で響く。その言葉に呼び起こされて、職場体験で受けたミルコさんの言葉や、ティアドロップの言葉、オッサンの言葉も想起された。

 

「それは、『嘘』じゃあ……なかったんだよなぁ……。俺の中で死んだ筈の、()()()()()()()()()()()()()だったんだよなぁ……。相澤先生が、ミルコさんが、クラスの皆が、俺に()()してる。んなら、期待に応えなきゃだよなぁ……!違うな、俺が期待に応えたいんだ……!」

 

 俺の中で燻り続けた黒い心は、俺の()()に応える様に晴れてゆく。

 ああ、そうさ。下らない嫉妬なんてしている暇は無かった。偶々一回、モモちゃんが俺以外の誰かに守られたからってしょうもない嫉妬に悩む必要は無かった。ただ、もっと強くならなければならない。

 何故なら、俺は最高のヒーローになるのだから!

 

「死柄木 弔、俺はヴィラン連合に入らない。俺は、ヒーローになるんだ!」

 

「……そうか」

 

 俺の言葉に、死柄木はただ目を瞑って返しただけだ。

 他のヴィラン連合の面々は、それぞれが難しい顔をしていた。

 いつの間にか、記者会見は終わっていたらしい。少し長く自分語りし過ぎたかな?

 

「詭弁くん……今の顔、さっきまでの顔よりすっごく素敵です!新鮮な血の匂いがします!」

 

「ありがとよ、トガちゃん。ただその褒め言葉はどうなの?」

 

 思い返せば、トガちゃんの()()()()()()()って言葉……いつだって逃げたかったのは、過去の俺からなんだ。もう逃げるのは止めだ。過去に、トラウマに向き合う時が来たんだ。

 

「交渉は、決裂だな。残念だ……黒霧」

 

 黒い靄が伸びてくる。また何処かに連れていく気か?だが、問題ない。たぶん!

 

「トガちゃんの横に!!!」

 

「っ!?」

 

 黒い霧に包まれて飛ばされる感覚を覚えるが、数瞬後に見える景色に大きな違いは無かった。

 

「黒霧のワープ個性、かなり凶悪だよな。だがそれって事前に登録したポイントに飛ぶって言うより、リアルタイムで座標を設定してるんだろ?んなら、俺にとって相手の銃口ずらす程度と変わんねえわ」

 

「……成程、私達はまだ貴方の事を見くびっていたようです」

 

「んにぃ……舐めんなよ?迷いのない詭弁さんはスーパーモードだ、負ける気しねえ『こんにちわー!ピザーラ神野店でーす!』はぁーい今出まーす!んなぁんかピザ来たし一旦中断で」

 

「……誰だよピザ頼んだバカは……?」

 

「……っ!マズい、トガ!詭弁を刺せ!」

 

 トガちゃんが何処からかナイフを取り出して、入口に向かって駆けた俺に向かって突進する。

 

「『だるまさんが転んだ』!!!」

 

 覇声(ばせい)をトガちゃんとその他ヴィラン連合の面々にかけ、ほんの僅かだけ時間を稼ぐ。その間に俺は扉に向かって一目散に走り抜ける。

 

「俺の後ろにヴィラン1名!さらに少し離れてヴィラン7名!ん後よろしくぅ!!!」

 

 扉に向かって駆けながら飛びこむようにして地面に伏せる。その直後、轟音と共にバーの壁が吹き飛んだ。

 

「無事か詭弁少年!!よく頑張った!!!」

 

「オールマイトぉ!待ってたぜコノヤロー!!」

 

 吹き飛んだ壁からオールマイト、及び実力派プロヒーローが複数人揃って壁から突入してきた。

 

「先制必縛ウルシ鎖牢!」

 

 伸びて来た樹木が、僅か止まってたヴィラン連合全員を一気に捕縛する。

 

「クソッ!!黒ぎr――」

 

「忍法、千枚通し。最も厄介故に眠ってもらおう」

 

 プロヒーロー達が大暴れして、ヴィラン連合を一網打尽にした。

 

「クソッ、クソッ!!何で此処がバレた!?」

 

「……俺の『言葉』って、意外とすげー遠くまで届くんだよ。それこそクソ騒がしいコミケの中とかでも、俺の声が遠くまで届くくらい。そんな特徴的な声でヴィランの名前呼んだり、俺の名前言ったり……分の悪い賭けだったが、まあ終わりよければって奴かね?」

 

「なっ、お前……まさか、最初からっ!!?」

 

「お生憎……叫ぶことしか取柄がねえからな!万が一攫われた時のひゅみゅれーしょんもバッチリよ!!」

 

「詭弁っ!チクショウっ!オレ達を騙したのか!?」

 

「っ……」

 

 トゥワイスが暴れながら俺に言葉の矢を射る。そうだ、相手はヴィランだ。捕まえるって事は、そういう事なんだ。

 ……でも、だからといって『はいそうですか』と切り捨てられるほどあいつ等は悪い奴じゃない。

 

「……カメラはっ!俺が持ってる!!今度は全員で撮ろうッ!!!」

 

「っ!!!チクショウ!!チクショオオオ!!!」

 

 自惚れじゃなければ、あいつ等も俺に友情を感じていた。それなのに、俺の行動は酷い裏切り行為にも思えるだろう。

 もし、あいつ等が罪を償って無事に帰ってきたら、また飯でも作って……ッ!!?

 

「な、脳無!?何もないところから……!!」

 

「クソ、どんどん出てくるぞ!!」

 

 なんだ、コレ……!?喉の中で、()()()が溢れ出る……!

 

「ゴボッ!?んだ、これは……身体が……」

 

「詭弁少年!!?No!!!!」

 

 黒霧のワープとも違う。引きずられるような感覚に襲われながら、口から吐き出された黒い液体に呑まれて俺は何処かに飛ばされた。

 

 

 残されたのは詭弁を呼ぶオールマイトの叫びだけだった。

 

 




迷いを断ち切った詭弁は、また新たな迷いを抱いた。
悪を友とし、詭弁の描くヒーロー像は……?
と体裁整えた癖に行き当たりばったりで書いてます。許して!


詭弁くんが初日から騒いでいたのは、近くを通ったヒーローや警察、或いは一般人に通報してもらうためだったんだよ!!ん~ご都合主義ッ!!

詭弁が最初に攫われた後、彼は全身酷い銃創だらけでした。周りの子供は気味悪がり、その保護者も被害者である詭弁に対してエンガチョ(比喩表現)した所為で更に闇倍率ドン。整形手術によって治っても尚エンガチョ(比喩表現)が続いたため、詭弁は自分の味方を増やす為にかなり意図的に女の子と仲良くなっている部分もあります。(まあ生まれつきの所も多いけど)
それで女の子にモテている詭弁に対し、中学の頃の同級生男子諸君は快く思ってませんでした。男の嫉妬は見苦しいぜ……。


感想欄でストックホルム症候群と書いた方、ネタバレはやめようね!まあ予測出来る展開しか書けない私が悪いね!ゴメンね!でも感想はドンドン送ってね!評価も頂戴!私赤い色が好きだなー!!

次回、悪夢降臨。皆さんお待ちかねの『先生』の御登場になります。

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