彼女は一体何者なのか⋯⋯
ブラックジャガーさんが一撃にこだわる度にどうしても頭にちらついちゃって⋯⋯
ここは超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。
その一部分である地方「アンインチホー」にて。
ある日の朝、2人のフレンズが朝食を食べていた。
「き、今日もジャパまんは美味しいねー、マレーバク」
「そ、そうだね、ミナミコアリクイちゃん」
白と黒で彩られたフレンズ、マレーバクとミナミコアリクイはそんな会話を交わす。しかしその声色は両者とも若干の怯えを含んだものとなっていた。美味しい、と言ってる割にはその味もあまり楽しめていないようである。
何故この2人がこんな様子になっているのか。
「⋯⋯めっちゃ見られてるよね」
「う、うん、見られてる」
ちら、と2人は目だけ動かして視界の端にいる人物を見る。そこには木の影に身体を半身隠しながら、こちらを覗き見る1人のフレンズがいた。こちらも着ているワイシャツこそ紫であるが、それ以外の部分は基本的に黒色に染められており、スカートや腕には特徴的な斑点のような模様が浮かび上がっている。
そんなフレンズがこちらを厳しい顔をしながらずっと見ている。
「どうしようミナミコアリクイちゃん⋯⋯」
「どうしようって言ったって⋯⋯」
実は2人はしばらく前からこの黒いフレンズに付き纏われていた。
2人で遊んでいたり、のんびりごろごろしながら日向ぼっこしている時に、遠い木の影や枝の上からこちらをじっと見つめているのである。気味が悪くなって違う場所に移動してみても、そのフレンズはある程度の距離を維持しながらついてくる。ならば、と逆にこちらから近づいてみると今度は霞のようにその場から消えてしまうのである。
しかし、今回については距離が今までよりも随分近い。話しかけようと思えば近づかずとも普通の声量で十分に話しかけられる距離。こんな距離で近づかれたことは無いので、2人も戸惑ってしまう。
「やっぱりこっちに何か用があるんじゃないかな⋯⋯?」
「じゃぁなんで話しかけてこないの?」
「それは分からないけど⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
沈黙。そして張り詰めた謎の緊張感。向こうが話しかけてくる気配も無い。最近は色々な”噂”も耳にするだけに、警戒心もかなり高めである。しかしながらこのままの状態が続いても埒が明かないのも事実。
ミナミコアリクイはいよいよ決心してこちらから話しかけることにした。
「あ、あの〜⋯⋯あたしたちに何か用かな⋯⋯?」
「⋯⋯」
無言。逃げ出されたりはしなかったものの、全くの無言である。更になにか心なしか顔が更に厳しくなった気がする。こわい。
いよいよ恐怖の感情が心を塗りつぶし始め、マレーバクも連れて逃げ出そうかな、と思い始めたその時。
ザッザッ
黒いフレンズが遂に木の影から完全に姿を現し、2人に向かって歩き始めた。
「ひいっ⋯⋯!?」
「⋯⋯!?」
思わず2人は後ずさる。マレーバクはミナミコアリクイの背後に隠れるように動き、ミナミコアリクイはバッと威嚇のポーズを取る。
黒いフレンズは2人のすぐ目の前で立ち止まる。
「な、なんだよう!あっちいけよぉ!」
「⋯⋯っ」
完全に怯えモードに入ってしまった2人。マレーバクは威嚇するミナミコアリクイの後ろで震えている。当然のことながらミナミコアリクイの威嚇のポーズは黒いフレンズには全く効いていない。だがミナミコアリクイは必死にポーズを取り続ける。
再び訪れる静寂。しかし今度は黒いフレンズの方から2人に話しかけようとする。
「⋯⋯その⋯⋯」
瞬間。
⋯⋯ズシン⋯⋯ズシン⋯⋯ズシン⋯⋯!
巨大な足音のような音が周囲に響き渡る。
「⁉︎」
「こ、今度は何⋯⋯?」
3人はその音がする方向に目を向ける。
そこには。
「ひ、ひやあぁ〜〜⋯⋯」
「セ、セルリアン⋯⋯!?」
これまで見たこともないほどの超巨大なセルリアンが顔を見せていた。それはもうかなり大きい。一目で逃げ出さなければならないと分かるレベルのセルリアン。2人の野生的本能が大音量でアラームを鳴らす。しかし幸いながらこちらには気付いていないようだ。
「に、逃げようミナミコアリクイちゃん!」
「う、うん⋯⋯!」
2人は手を繋ぎ、脱兎の如く逃げようとする。だがしかし。
「ま、待ってマレーバク!あの黒い子が⋯⋯!」
動きを止め、黒いフレンズの方を見る。
彼女はその巨大なセルリアンを見上げながら、ただ立ち尽くしており、逃げ出そうという気配が無い。
「っ⁉︎何してるの!早く逃げて!」
マレーバクが必死に呼びかけるも反応は無し。逆にその大きな声によって、セルリアンがこちらに気付いてしまったようだ。顔と思しき部分がこちらを向く。
『————————!』
ズシン⋯⋯ズシン⋯⋯!
セルリアンが呻き声のような声を上げて、巨大な足音と共にこちらに近づいてくる。
「〜〜〜ッ」
「ミナミコアリクイちゃん⁉︎」
ミナミコアリクイはマレーバクの手を解き、黒いフレンズの元へ走り出す。
確かに不気味で怖い子ではあるけれど、同じフレンズである以上見捨てるわけにはいかない。
そんな想いを抱きながら、彼女は黒いフレンズの元へ一直線に駆け抜ける。
「は、早く逃げよぉ⁉︎襲われちゃうよぉ‼︎」
ミナミコアリクイは黒いフレンズの手を取り、共に逃げ出そうとする。
しかし。
「下がっていろ」
「へ?」
黒いフレンズから一言、そう言われて思わず固くなるミナミコアリクイ。
彼女は取られた手を離し、こちらに近づいてくるセルリアンに歩み寄っていく。
まさか戦う気なのか、彼女は。
「ダメだよぉ!勝てるわけがないよぉ!」
例え彼女が腕に覚えがある実力者だとしても、あの大きさのセルリアンには敵う未来が見えない。恐らく他のフレンズやパークの人たちが一致団結してようやく倒せるレベルのもの。それを1人で倒すには無茶がありすぎる。
しかし警告虚しく彼女は歩みを止めない。
どうしよう。どうしよう。
泣きそうになりながら必死に考えるミナミコアリクイ。自分の名前を呼ぶマレーバクの声もどこか遠く感じる。
そしてついにセルリアンが間近へとやってくる。
『————————!!』
セルリアンはその巨大な体躯で黒いフレンズを押し潰そうとしている。それに対し彼女は腕を腰に構えて、拳で応対しようとしている。
次に目に入るであろう光景が予測できたミナミコアリクイは思わず目を瞑ってしまう。同様にマレーバクも両手で顔を覆う。
やられてしまう———。
ブォンッッッッッ————!
何かが風を切るような音がしたその刹那。
パッカアアアァァァ〜〜〜〜ン‼︎‼︎
耳に入ってきたのは押し潰されるような音ではなく、何かが弾けるような特徴的な音。
そしてこの音はこれまでに何回か聞いた事がある。
この音は確か——セルリアンが倒された音。
「ふぅ⋯⋯一撃⋯⋯」
そんな声が聞こえ、目の前で何が起こったかを確かめる2人。
そこには巨大なセルリアンの姿はなく、己の拳を見ながらどこか満足げな顔をしている1人のフレンズの姿のみがあった。
「⋯⋯え?」
言葉を発したのはミナミコアリクイかマレーバクか。先程まで確かにセルリアンはいたはず、それは事実。なのにその姿が完全に消え失せており、周囲にはセルリアンが倒されたときに残るキラキラが漂っている。そして先程の音。
これらが指し示していることはつまり、この黒いフレンズが巨大セルリアンを倒したということである。しかも察するにただの拳の一撃で。
呆然とする2人。
「⋯⋯よしっ」
そう呟くと、改めてその黒いフレンズは2人に顔を向ける、セルリアンと対峙している時よりもっと緊張した顔で。
「⋯⋯あの、その⋯⋯だな⋯⋯」
少し恥ずかしがるような素振りを見せ、決心したような顔になると彼女はこう告げた。
「オレと、おともだちに、なってくれ‼︎」
「「⋯⋯へ?」」
「ねぇ、最近あそこらへんでもセルリアンが出るようになったらしいよ」
「ホントに?最近物騒だよねー⋯⋯。“闇のフレンズ”といい、”密猟者”といい、何だか安心して暮らせないよー」
「そうだね⋯⋯あ、でも最近は良い噂も聞くようになったよ、なんでも”どんなセルリアンでも一撃で倒しちゃうフレンズ”がいるっていう話」
「えっ⁉︎なにそれ⁉︎」
「詳しいことは私も分からないけど⋯⋯パンチ一発で全部やっつけちゃうんだって。向こうが攻撃してきても目にも留まらない速さでそれを回避したり、平気な顔してそれを受け止めたり、中にはもう数え切れないくらい沢山のセルリアンを汗もかかずに全部倒したって話もある。勿論一撃で」
「えー、それ本当?そこまでくると何だか胡散臭いなぁ」
「うーん、でも結構皆の間で流行ってる噂みたいだよ?」
「ふーん⋯⋯その娘は一体どんな姿をしたフレンズなの?もし居たとしたら頼りになりそうだけど⋯⋯」
「えーとね、全身が黒いって聞いたよ、あとなんか斑点みたいな模様が付いてるって」
「へー」
「あ、そうだ、1番特徴的な所があって」
「その娘、頭がツルツルで毛が生えてないんだって」
それは、強くなりすぎたけどおともだちが出来たから普通に現状に満足している1人のアニマルガールの物語———