さあ、どうぞご覧ください。
風夜編~夜中の歌声はきみを思い出させる愛の歌~1
病室の真ん中にきみはいた。
薄桃色の髪は、外の月の明かりに照らされ光り、俺にその美しさを教えてくれた。
もう開かないであろう瞳。
何色だったか。
きみはあんなにもまぶしく笑っていたのに。
「・・・ユウコ」
彼女の名前を呼んで、そっと手を握った。
死んだ彼女の体温は冷たくて、まるで・・・氷のようだ。
しかし、そんな氷のような冷たさは彼女にはなく、いつも明るく陽気な彼女は、俺を明るくしてくれた。
くそ生意気なガキの面倒を見ることになってしまった俺は、彼女によって癒やされたと言っても過言ではない。
『もう一度』、歌ってあげよう。
聞こえなくても、せめて心は込めて。
「――――♪」
歌詞も曖昧なこの声は彼女に届いているだろうか。
彼女はこの歌で喜んでいるだろうか。
そんなことを思いながら歌い、そして。
俺はそのまま眠りについた。
と、ここで意識がはっきりしてきた。
さっきのは夢だったのかな?
俺は、頭を押さえ、その頭に響くような痛みを押し込めた。
痛い。
何が原因かは知らない。けど、ただ痛い。
「・・・幽々子は、起きているかな。なんか、無性に会いたい」
俺はのそりと動き出す。
部屋を出て、真っ先に向かうのは西行妖のある庭。
少し広いその庭を、妖夢ちゃんは一人で世話してるのだという。
すばらしい限りだ。
なんて、前にも言ったようなきがする事を思いながら、西行妖・・・枯れたような巨木の前にたたずむ『薄桃色の髪の女性』に話しかけた。
「や、幽々子」
「あら、風夜」
軽く挨拶を交わし、俺は幽々子の腰に手を回す。
また小さく、「あら」と声をこぼした幽々子のあごをつかんで、引き寄せる。
重ねた唇の暖かさが、なんだかとても嬉しかったり。
まあ最も、幽々子は亡霊だから暖かさなんてないけど・・・そう、思えるんだ。
「んっ・・・急になぁに?」
「・・・したかったから、じゃだめかな?」
「あらもう、風夜ってば♪」
上機嫌になった幽々子が、俺の肩を軽くたたき、照れる。
かわいい。だけれど、このやりとり、どこかでしたような・・・?
まあいいかとそんな思考を飛ばし、再び口づける。
赤い唇をついばむように、数回。
『俺も』、亡霊なのだ。
ここ、白玉楼は俺ら亡霊の集う場所。
何となく、此所こそが俺の居るべき場所なんだと確認する。
「・・・なあ」
「なぁに?」
「・・・愛してる」
「ええ、私もよ♪」
これも軽く行う。
俺らにとっては共通認識。
本来なら言葉なんていらない。ただ、俺らは確認したいだけなんだ。
それだけだから、問題は無い。
木の幹に幽々子を寄りかからせて、一息つかせてあげる。
・・・いや、俺が疲れた。
こういう感覚はだいぶ俺に残ってきているようで、なんだかんだ強がりはするが、久しぶりの疲労感だったりすると、俺は翌日起きれなくなる。
疲労すると、眠りが深くなるのは、変わらないようだ。
起きれなかったりする日の翌日は、決まって理桜に怒られる。
『自己管理をちゃんとしろ』と。
あのときは、くそ生意気なガキだとは思ってが、此所まで考えてくれるとなると、感動で涙が出るよ。
普段のつんけんした態度も、好意の現れだとすれば、かわいいものである。
「もー、風夜?また理桜のこと考えてる」
「おっと。すまないな」
「いいのよ♪」
すねた幽々子にキスをして謝ると、すぐ機嫌をよくする。
どうやら、俺は理桜のことを考えると、すぐ顔がにやけるらしい。
それを当人に聞かれたときは、「気持ち悪いんだけど」と真顔で言われてしまったが。
あはは、さすがに傷ついたね。
「・・・風夜、変な夢見た?」
「ん?・・・ううん、見てない」
「そう、ならいいのだけれど」
幽々子の表情が曇る。
そんな顔してほしくないなぁ・・・。
俺は、幽々子の頬を撫で、ほほえんでみせた。
幽々子は一言、「そう」といって、木の幹を離れ、屋内へ入っていってしまった。
「・・・お休み、幽々子」
その声は聞こえないだろう。
西行妖を見上げれば、夜の空気が澄んで、景色はとても綺麗だと言うことを認識できた。
なんで、こんな当たり前のこと。
この世界はそもそもが、死ぬ前の世界とは明らかに違っている。
比べる事なんて、この世界に失礼だ。
「・・・」
ふと、西行妖のその向こうから、妖気がある気がした。
「・・・きみかい?」
「ばれてしまったわね、西岡風夜」
「八雲紫、だったよね。何か用かい?」
笑んでいた紫さんは、ふと俺の言葉に表情を消した。
・・・地雷というわけではなさそうだった。
それでは、何なのか?
「・・・あなたは、幽々子をなんだと思っているの?」
「・・・?亡霊で、愛する人」
「争う。・・・じゃあ、ユウコは?」
「!!」
紫さんから告げられた名前は、夢に出ていた名前で。
何で知っているのか問おうとしても、口は動かない。
ゴクリ、と俺は息をのんだ。
「――――――あなた、なんで思い出さないの?
え?初っぱなからいちゃつかせんなって?
これが本来の幻想招待録なんだよ!
風夜さんのお話、まだ続きますが、お楽しみに。