俺達のブチャラティが童貞なわけないだろ!いい加減にしろ!   作:点=嘘

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【悲報】JOJO要素、地名のみ

——五年前:とある”遊び場”の一角——

 

 

 夜の帳はとうに下り、街々を宵闇が覆っていた。

 

 日中を良く遊び、或いは良く学び、或いは良く働いて過ごした善良なるネアポリスの市民達はこの時間、その殆どが明日に備えて寝静まる。

 南ヨーロッパの温暖な気候で日々を過ごす彼らの一日は日没と共に終わりを迎えた。

 

 そして、それが意味するのは乱れ切った裏の社会にとっての”夜明け”だ。

 賭博、裏取引、水商売。真っ当な生き方を知らない爪弾き者どもが寄り集まり、その野卑な欲望が夜闇を拭う街並みの明るさとなる。

 

 ただ当然の事ながら、影の濃さに強弱があるように、夜の街にも”深度”の違いというものはある訳で。

 これは一般市民も気楽に立ち寄る事ができる、とあるスナックバーでの一幕である。

 

 

 


 

 

 

——スナック”トゥッティ•ジョル二”——

 

 

 スナックという単語を聞いた事も無いという人はあまり居ないだろうが、どういった意味であるかまでは知らない、という人も居るはずだ。

 説明しよう。“スナックバー”とは何か? 

 

 スナックバーは”バー”の形態の一種であるが、その実明確な線引きがあるという訳でもない。“スナック”の概念は世界中に存在し、国や地域によって定義も様々だという。

 その上で一般的な共通認識を明言するとするならば、ズバリ「女性が接待してくれる飲み屋」となるだろう。

 

俗な言い方でまとめると、

•お姉さんとお酒を飲んだり、軽食をとったりする

•お姉さんに話を聞いてもらえる

•(場合によっては)彼女らの飲み代は客が支払う

といった感じで間違いない。

 

 “トゥッティ•ジョル二”はこういったスナックバーのルールに漏れない、比較的健全な飲食店として認められている。裏社会の人間よりかは、ハメを外した表社会の大人達が思い切って遊びに来るような場所に近い、と言えば分かりやすいだろうか。当然「そういう関係」を斡旋(あっせん)する行為などは違法とされている。……そういった取引の絡まない、純粋な本人らの関係のもとに行われる場合はまた別の話だが。

 

 裏社会との繋がりといえば、ここら一帯を仕切るギャング”パッショーネ”にスナックとしての「みかじめ料」を払っていることぐらいで、それにしてもこの辺りで商売をやっている店にとっては当たり前のことだ。特筆すべき点とは決して言えない。

 

 そんなぬるま湯のような”遊び場”は、いつもと同じように幾らかの客で賑わっていた。

 

「うーい……ボクの地元じゃさァ、みんなしてお酒はこーやって飲んどったモンだよ。ちょっとホラ、見て見て!」

 

 カウンターテーブルを挟んでいるのは二人の男女。

 中華系の脂ぎった顔をアルコールで真っ赤に染め上げた中年の男と、それを向かいに座って接待している店員の()()だ。

 

「ええ、見ていますわ。……どうなさったのかしら?」

 

 レースをあしらった長手袋(ロンググローブ)と赤いドレスに身を包む彼女は、その顔立ちから二十歳(はたち)には満たないだろうと推測されるものの、物腰は柔らかく、大人びた印象を持たせる。

 ブロンドの髪がややくすんで見える事を差し引いてもその容姿は端麗で、透き通るように薄い金色の瞳は殊更に目を引いた。

 

 中途半端にウイスキーを注いだグラスを持って何をするつもりなのだろうか? 興味深そうな表情で注目する彼女を満足げに横目で見つつ、男はおもむろにビールの缶を手に取り、それを先のグラスに注ぎ始めた。

 

「蒸留酒を〜……醸造酒で、割る……」

 

 カラカラと、どっからか引っ張り出したプラスチック製の安っぽいマドラー(カクテルなどをかき混ぜるために使う棒みたいなもの)を酒に突っ込み、男は得意げに講釈を垂れていく。

 

「こーするとォ〜? ……度数がさっ、ビールの味わいのままでェ……ブッたまげるほどに上がるのよっ! 『爆弾酒』の出来上がりってね——これを飲めなきゃあ男じゃないぞォ!!」

 

「まあ、タンさまは何でも知ってらっしゃるのね。素敵ですわ」

 

 少女の微笑みを伴った素直な称賛に自尊心を満たされて気を良くしたのか、名前を呼ばれた男はニタリと笑った。

 

「——そのとぉりだ! ボクは何でも知ってんのよォ? だってぇのにこの国のクソ野郎どもと来たら、コゾってボクを馬鹿にしやがる……ボクは賢いんだぁ! 頭も良ければ顔も良い!」

 

「まったくその通りです。周りの方々が間違っていますのよ。見る目というものがありません」

 

 側から見ればバカバカしい会話だが、少なくとも男にとっては深刻な話題らしい。

 

「そうだ!! 今に見てろ、あのッ、あのカスどもォ……いつか絶対にぶっ殺す……嘘やハッタリじゃないぞッ、これからァ、男ってのがどういうものかを見してやる……!!」

 

 そして、この酔っ払いは例の”爆弾酒”をイッキ飲みすることで男らしさを証明できると信じているらしく、一つ深く息を吸い、目一杯グラスを『グーッ』と呷った。

 

「グーッ……ブハァ──! みらかぁ、ボクはすごいやつなんら……」

 

「ええ、素晴らしいですわ。これで誰もが貴方を認めてくれるでしょうね」

 

「キャシーちゃあん……好きっ、好きだよォ……」

 

「ええ、タンさま。私も同じ気持ちです」

 

 クダを巻いた中年の酔っ払いほど醜いものはそうそう無いだろうが、そんなものに愛を囁かれたにも関わらず、”キャシー”と呼ばれた少女は彼にとっての理想的な返事を——嫌悪感など微塵も感じさせない様子で——寄越してみせた。そして、それによって男の眼光がにわかに色めき立つ。

 

 ローマ数学があしらわれた店内の壁掛け時計をチラッと一瞥した後、キョドキョドと辺りを見回しながらこう言った。

 

「ああ〜そうだろぉとも……しかし、キミはなんとゆーか、大丈夫なのかぃ? ()()()()()で働くには、ちょーっと早いんじゃあ……い、いやっ、それを悪くおもってるってわけじゃあないけどさぁ……」

 

 周りの店員と比べ、キャシーは断トツで幼いように見える。話をしている間はそういった事も気にならない程落ち着いた雰囲気をしているのだが、俯瞰してみるとやはりおかしい。

 

 “少女の身の上を案じて”というよりは”そんなものと関わる事によって(こうむ)るであろう自分への不利益を恐れて”といった感じで男が胸中の疑念を吐露すると、キャシーは全く心外だという様子で否定した。

 

「……それ、今日だけであと何回言うつもりですの? もう一度だけ言いますけど、私、今年で十八ですわ。立派な大人ですのよ」

 

「んんっ、いやわかってるさ。ゴメン! さっきのは、うん、忘れてくれ……そんなにツンツンしないでよぉ、ねっ!」

 

 こんなオイシイ目を逃してなるものかと、若干の妄執さえ感じさせる口調で男は目の前の”女”を宥めようとする。

 すると一転、キャシーは瞳を潤ませ、頬を上気させ、上目遣いでこう呟いた。

 

「……めい、してください」

 

「ええ?」

 

「男なら、嘘やハッタリは無しなんですよね? それなら、先程強いお酒を飲んだみたいに、できるはずです。”証明”を」

 

「うん……?」

 

 締まらないことにこの男、元々鈍いことに加え、酒も回った頭でこの文句を理解することができなかった。

 キャシーにとってもそれは予想外だったらしく、ボケーッとした男を前に内心困惑しながら、何をするでもなく十数秒間見つめ合うという謎の時間を過ごしてしまう。

 

「ですから、その……」

 

 だが、そこは彼女もさるもの。すぐに心持ちを取り成すなり、改めて”誘い”の文句を口にした。

 

 

「今夜はどうか、私を……キャシーを愛してくださらないでしょうか……?」

 

 

 流石にこれで意図を掴めないようなら、もはや人として終わっているといっても過言ではなかろう。

 この男も流石に何を言っているのかを理解し……何なのだろうか、頭をポリポリかいたり、意味もなく周囲をキョロキョロと見回したり。ここに来てやたらと落ち着きのない仕草が目立ってきていた。正直見ていて滑稽ではある。

 

「フゥ〜〜……そっかあー、ン。そーゆーことね、ハイハイハイ……」

 

「あの、どうなさったんですか……?」

 

「あーうん! そーだそーそー分かってるよ。……よぉし、よおおしッ」

 

 普段イタリアの情熱的な男達を相手にしている手前、ここまであからさまな反応を見るのも珍しいのだろう。混迷極まるといった面持ちで動向を見守るキャシーを前に、とうとう踏ん切りをつけたらしい。彼女の手を取るや(いな)や”ずい”と立ち上がった。

 

「行くよキャシーちゃん。……マスター、会計を!」

 

 必要以上にハリ上げた声はヤケに芝居がかっていた。格好つけているんだか何だか知らないが、彼の期待していたであろう効果が得られなかったという事実だけはここに記しておこう。

 そもそもここの店主、別に”マスター”などと呼ばれているわけでもない。その時点で各方面に恥を晒しているわけだが、男がそれを知る機会は永遠に訪れないのだった。閑話休題。

 

「……お客さん、随分と呑んでらしたね。えー、飲み食い合わせて十万五千リラと七十チェンテシミになりますよ」

 

「ああ、これで……確かに」

 

「分かってらっしゃる……ええ、()()()

 

 少々呆気にとられていた様子の店長だが、支払われた”金額”を確認するなり、意味深にほくそ笑んで声を上げた。

 

「おいキャシー! お前さんのお客様がお帰りになられる。ベロベロに酔ってて心配だしよ、送ってやんな! ああ、そろそろ店仕舞いにすっから今日はもう上がっていいぞ」

 

「言われなくてもそうするつもりでしたわ。さっ、タンさま……」

 

「うん、行こうか……!」

 

 駆け寄ってきた彼女の肩をそっと抱くと、男は覚束ない足取りで出口へ歩き出した。

 

 しかし相当に酔っているのが祟ったのか、外へ出たところでボスッと誰かにぶつかってしまう。

 よく見ていなかったが、どうやら自分より相当背の低い相手らしい。……ちょうどこの腕に抱くキャシーと同じくらいだろうか? 何にせよ、諸々の事情で気が大きくなっている男にとって、”自分より小さな相手“というのは”いちゃもんをつける相手”として申し分なかった。

 

「おいガキャァ! どこに目ェ付けて歩いてんだっ!! ぶっとばされてぇ、の、か……?」

 

 ところがどういうわけか、そこには誰もいないのだった。

 辺りを見回すも、そこには耳を押さえるキャシーがいるだけ。そこで男は我に帰った。

 

「ど、どうなさったのですか……?」

 

「あ、あれぇ? 今、絶対何かがぶつかってきたんだけど……き、気のせいかな。ハハッ」

 

 こんなツマラん事で折角の機会をフイにすることはあるまい。そう思い直し、一抹の疑念を残して場を後にするのだった。

 

 

 

(あれ? なんだか体が重いなぁ……すこし太ったかな?)

 

 ——一抹だろうが二抹だろうが、酔った頭にとっては変わりは無いのかもしれないが。

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