恋姫†無双 島津伝   作:新名択捉守

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第2話

「義弘」

 

 襲撃してきた人物に思い当たる節があるという次元ではなく、顔を見た瞬間にそれが誰であったか理解した。

 

 最期に見たときからは大きく印象が変わって若々しい姿になってはいるが、戦国の世でオレを支え続けてくれた最愛の弟のひとりだったのだから。

 

「義弘、お前もいたのか」

 

 オレのその問いかけに襲撃者---弟、島津義弘も自分が誰を攻撃したのか分かったようだった。

 

「あ、兄者っ!?」

 

 先程までの兄であるオレですら惚れ惚れするほどの凛々しさが嘘のように「大丈夫か!? 怪我はないか!?」と、激しく狼狽している。

 

 その姿を見て、力が抜けたオレは大きく息を吐いてドカッと床に腰を下ろした。

 

 そんなオレの態度に不安になったのかすぐさま駆け寄り必死になってペタペタとオレの身体が傷ついていないか確認する義弘に対し、大丈夫、大丈夫と声をかけながら無事をアピールし何とか巨体を退かす。

 その後は土下座の見本を見ているかのような綺麗な土下座で謝り倒し、それでも自分自身に納得いかないのか終いには義弘が「知らなかったとはいえ兄者を斬りつけてしまうとは言語道断! 義姉者(あねじゃ)や皆に顔が立たん! ワシは切腹を持って」などと武具を脱ぎ捨てながら言うものだから「アホか。そんなことで腹なんぞ斬るな」とポカリと頭に拳骨を落としてやめさせる。

 

 頭を叩かれたことによって、少し頭が冷えたのか。もう一度「本当に済まなかった」と頭を下げ、義弘の思考回路は正常に戻り始める。

 

「・・・兄者。ワシらはどこへ来てしまったのだろうか」

 

 ここは黄泉か? 夢か? 幻か?

 それとも(うつつ)か?

 

 そう尋ねてくる弟に対して、オレは答えを持ってはいなかった。

 だが、弟は答えなど求めてはいなかったのかもしれない。いや、求めてなどなかったのだろう。

 

 オレが口を開くことを待たず義弘は独白を続けた。

 

「ワシは兄者が鹿児島で逝ったあとも20年ほど生きた。我ら兄弟の中でも最も長く生きてしまった」

 

「その間も色々あったが、兄者が残した言葉を忠実に守って本家とそして日ノ本を盛り立てた」

 

「織田幕府は北進政策を続け、樺太島や千島列島まで出兵をしたが、我ら島津が呼ばれることはなかった。兄者と信長殿の盟約があったからだ」

 

「兄者の知ってのとおり、島津はいずれ来るであろう欧米列強に備え、琉球・高山の防衛と海軍力増強に従事するというものだ」

 

「なぜなら、琉球・高山の更に南では既に西班牙(ヒスパニア)が侵略し植民地を持っていた。その脅威に対抗するため、我々島津は欧州で西班牙と敵対している英吉利(イングランド)へと使節団を派遣し、薩英同盟を持ちかけた」

 

「とはいえ距離が距離であるために直接、軍事行動を共にとれるわけもない。相互不可侵とどちらかが西班牙と戦争になったら、その背後や補給路を攻撃するといった内容だ」

 

「その後、どうなったかはワシは知らん。実際に戦争が起こる前にワシは死んだからな」

 

「その死んだ記憶がつい3日前。最期は安土の佐賀島津邸だった」

 

 参勤交代なんぞなければ、佐賀城か兄者と同じように故郷の薩摩で逝きたかったなぁ、と最後に本音を零した。

 

 

 義弘の独白が終わりどれくらい時間が経っただろうか。

 

 30分は経っただろうか。いや、実際はそれほど時は流れていなかっただろう。

 

 精々数分か。

 

「そうか。よくやってくれた」

 

 オレの死んでからの約20年間。それが義弘にとってどれだけ大変だったのかは正直わからない。

 簡単にわかってやれるほどのものでもないだろう。

 

 だからこそ、オレはそんな言葉しかかけてやることができなかった。

 

「あぁ、ワシは兄者のその言葉だけで十分報われる・・・ワシは果報者だ」

 

 できれば歳久や家久、他の皆にも聞かせてやりたかったなぁと涙ぐみながら言葉を紡ぐ弟を見て、自分の知っていた弟とは変わり涙もろくなった姿は若くなれど心は老いたのだなと感慨深くなってしまった。

 

 オレはそんなしんみりとした空気を打ち破くように声を張った。

 

「義弘! オレは決めたぞ。歳久と家久を探す旅に出よう! ここがどこだか知らないが、一度死して尚こうやってお前とまた会えたんだ。ならばもうふたりの弟に会えない道理は何処にもないだろう!!」

 

 そして義弘もオレに続く。

 

「応よ! 兄者、そうと決まれば早速出発しよう。歳久も家久も兄者のことを首を長くして待っているに違いない!」

「あぁ、そうだな。歳久のことだ。きっとどこかで拠点を持ってオレたちのことを探しているだろうな」

「ならば家久はじっと待つことはできずに兄者のことを探しまわっていることだろう」

 

 そう言ってオレたちは弟たちのことを想い、笑いあった。

 

 

 

 

 

 村人たちと賊の亡骸の山に火を放ち黙禱を捧げ、廃村を後にした。

 

 その後、オレたちは太陽に背を向け、ただただ北に進んだ。

 

 ここがどこなのか分からず。

 

 ここで何を成せばよいのかも分からず。

 

 何の確信もないまま、ただただ愚直に弟たちを見つけるためだけに北に進んだ。

 

 その先に兄弟がいるかなんて分からない。そもそも本当に自分たち以外の兄弟がいるのかもわからない。

 

 でも、自分たちが行く先に弟たちがいることを信じて進むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 オレ、島津義久と弟の義弘は馬に乗って北上していた。

 

 その道中、いくつかの村に立ち寄り情報を集めている内にここがどこなのか理解した。

 

 2世紀後半の中国。漢王朝の時代。

 

 最近では黄巾を身につけた賊が各地で散見し始めたという。

 

 案の定、その奴らと出くわしたことも何度かあった。

 

 何分こちらは武士の甲冑姿。珍しさでは他に引けはとらないだろう。

 それにこちらは2人。

 

 十数人で一斉にかかれば追剥できると考えているのか毎度、囲まれ襲われた。

 

 もちろんその度に全ての敵を返り討ちにしてやった・・・義弘が。

 

 義弘の愛刀である斬馬刀『琉球兼光』の横一閃で対峙していた賊たちが一斉に散っていく様は圧巻だった。

 

 賊の十数人程度、戦国最強と呼ばれた義弘にとっては軽い準備運動にすらならない。

 しかし、一瞬で戦闘とは呼べない蹂躙を終えた義弘は不完全燃焼だと不満気だ。

 

 

 

 そんな賊の襲撃を退けながら、村や街があれば立ち寄り情報収集をし北上を続けるという生活にも慣れ始めていたある日のこと。

 

 黄巾賊の集団に襲われている村を発見した。

 

 それを見たオレと義弘は顔を見合わせ、無言で頷き駆け出した。

 

 

 

 

 

「この村の出入り口は東西に1つずつ。黄巾党も二手に分かれて門に殺到中。いまは星ちゃんが東門、稟ちゃんが西門を抑えてくれてはいますが・・・」

 

 まぁどちらかが崩されたらあっという間に飲み込まれてしまうでしょうねぇ、と呟く童女。

 

「あとは狭い村の中を東奔西走してくれている――さんの頑張り次第といったところでしょうか」

 

 戦況はこの童女が言ったように芳しくない。

 

 芳しくないというよりも絶望的と言った方が正確だ。

 

 この村から最短のところにある街まで仮に逃げるとしても全員は助かるまい。むしろ、村人の大多数は逃げ遅れる。

 

 かといって、このまま援軍など来るはずもないこの場所で戦い続けるのは愚策だ。童女はそう考えている。

 

 ならば類まれなる武を誇る星ちゃんと、それに引けを取らない――さんを東門から敵陣に突っ込ませ敵が怯んでいる内に馬に乗って脱出しようか。

 

 ・・・うむ、そうしよう。

 

 村の子どもたちを数人連れて逃げるから村の大人たちはそのための犠牲(おとり)になれと言ったら、否とはならないだろう。

 

 元々、我々は旅人なのだ。これまで縁もゆかりもなかったこの村の為に戦っている旅人だ。

 

 これまでの戦果で礼を言われることはあるにしろ、罵詈雑言を浴びる筋合いはないだろう。

 

 この童女たち一行がいなければこの村は一瞬で蹂躙されていたのだから。

 

 村長には挨拶をした。申し訳ないが最期をここで共にはできないと。そういうと村長も分かってくれた。

 

 そして仮の司令部となっている村長宅から交代要員として残っていた男手を全員引き連れて西門へと向かう。

 

 西門の防衛にこの者たちを増員し、稟ちゃんという司令官がいなくなっても西門を突破される時間を少しでも稼いでもらわなければならない。と、考えていたその時だった。

 

「東防衛隊より伝令! 敵後方が混乱状態、この機を逃さず趙雲さん、島津さんの2名が単騎突撃しました! お二方が出撃した後は門を固く閉じています!!」

「おぉ? なんと・・・」

 

 風向きが変わった。そう確信した童女は次にとる行動を変更した。

 

「伝令さん。このことを西門の方にも教えてあげてください。士気があがることでしょう。ついてきてくださったみなさんは東門へ急行です」

 

 各個撃破。

 




戦国時代編ー島津義久ー

弟の義弘が元服したのを祝い、派手に薩摩統一、そしてその祝いに家督を相続した。
その後、歳久、家久を繰り上げ元服させ、戦力の拡充を計った後に大隅出兵。肝付氏と伊地知氏を帰順させて大隅統一を果たす。戦後まもなく伊東氏が島津領へと侵攻開始。そしてそれを撃退(木崎原の戦い)。返し刀で逆に日向へと攻め込み、伊東氏の高原城を攻略、それを切っ掛けに「惣四十八城」を誇った伊東方の支城主は次々と離反し、伊東氏は衰退をする。こうして伊東義祐は豊後国の大友義鎮を頼って亡命し、三州統一が達成された。
九州統一を目指し、肥後の相良氏へと侵攻の最中、豊前豊後の姫大名・大友麟音義鎮が軍勢3万にて南下開始。相良氏との戦線を膠着状態にしてから、耳川の戦いが始まる。舌戦という名の口喧嘩にてこの戦いに勝った方が婿入り若しくは嫁入りするということになり、無事島津方が勝利。大友方が臣下に入り、麟音が妻になる。五州を制覇。
耳川の戦いの結果を知った相良氏が降伏。南肥後を手に入れる。
大友氏が敗れたのをきっかけに龍造寺氏が勢力拡大。筑前筑後肥前を手中に収める。
龍造寺氏から逃れてきた有馬氏の要請を受けて龍造寺氏との決戦に挑む。その道中、北肥後の阿蘇氏を蹴散らして肥後統一。龍造寺氏を沖田畷の戦いにて降す。これにてほぼ九州統一。
朝廷に出向いて九州探題職を受ける。その礼として、琉球王国、高山国(台湾)、耽羅国(済州島)を日ノ本に帰属させると約束をする。
織田家が天下を掌握し、安土に幕府を開く。
織田信長が征夷大将軍として蝦夷地、樺太、千島列島へと出兵を開始する。
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