暗黒騎士物語 非公式外伝   作:眠気覚ましが足りない

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前話同様、なろう版から削られた部分を改稿版に復帰させて細部を調整したものです。
今回は全て改稿版で書き下ろされたものなので、なろう版の設定を踏まえて加筆したのみです。


キシュ河下りIF(新旧合作版)

 翌朝、レイリアの誘いでアリアディア共和国の公用船の護衛につくことがなった。

 レイリアによると、

 

「詳しくは話せないのですが、高貴な人がテセシアに立ち寄っていて、レーナ神殿経由で使えるよう打診されたそうで」

 

 と曖昧な説明をされただけだ。

 どのみち、共和国とテセシアを往復することの多いシズフェ達にとっては歩かなくて済むので幸いだった。

 レイリアに率いられて公用船に乗ると、シズフェ達よりも強そうな自由戦士がたくさん乗り込んでいた。

 こっちはレイリアの伝手で乗れたシズフェ達と違い、きちんと依頼を受けて乗っている人たちだろう。

 

「へっ。みんな弱っちそうだ」

 

 そんな自由戦士達を見てニヤニヤしながら、そう言うのはノヴィスだ。

 そりゃあ確かにノヴィスからすれば皆弱いだろう。

 ノヴィスは仮にも勇者の一角と認められた戦士なのだから。

 シズフェ達が船に乗ってすぐ、船は出発した。

 シズフェ達が最後だったわけではないはずだが、遅かった方なのかもしれない。

 

「ノヴィスのせいだからね」

「ん? なんか言ったか?」

 

 レイリアは気にしないでと言ったが、船に乗るのが遅れたのだとしたら、それはノヴィスが寝坊したせいだ。

 普段は仲間とはいえ、今回レイリアは神殿の戦士として船に乗っている。そのレイリアのお陰で公用船護衛の仕事をもらえた以上、許可してくれた上司に挨拶しないわけにはいかない。本当は出航前が良いのだが、こうして出航してしまっている以上は仕方ない。

 シズフェは一人で神殿の仲間のもとへ戻るレイリアに付いていき、上司に挨拶した。上司を含め神殿の戦士達は既に護衛としての仕事を全うしている最中だったので、シズフェはすぐにお暇して戻ってきた。

 

「お? どこ行ってたんだ?」

 

 そのノヴィスは、離れていたシズフェを目敏く見つけて声をかけた。

 その表情はホッとした様な顔だ。

 その横でがニヤニヤしている辺り、また何か言ったのだろう。

 小さくたケイナめ息を付きながら近づくと、シズフェの方に顔を向けていたノヴィスの表情が変わった。

 

「? どうしたの?」

 

 シズフェが視線から離れて隣に立っても、目線の先は変わらない。

 

「シロネ様だ」

「え?」

 

 そう言われて、シズフェもノヴィスが見る方へ向いた。

 その先には確かにシロネ様らしき後ろ姿が見えた。

 近くにはキョウカ様達もいる。

 

「あれ?」

 

 しかし、昨日の従者のような男性はいなかった。

 

「あの人、いない」

「あぁ、ノヴィスが殴り飛ばしたヤツか」

「これは弟子入りのチャンスだな!」

 

 ノヴィスはそう言うと、勝手にシロネ様の方へと歩き出した。

 

「ちょっと! 待ちなさいノヴィス!」

 

ノヴィスのことだ。昨日起こした事などとっくに記憶から失くなっているに違いない。

 シズフェはノヴィスを止めるために、すぐに追いかけるしかなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 シロネ達は、自由都市テセシアからアリアディア共和国へと戻ることになった。

 現在は鍛冶神ヘイボスからの連絡待ちであり、急いでアリアディア共和国に戻る必要もないため、レーナが用意させた船を利用することにした。

 白塗りに金の模様が入った河船は、大きくて豪華だ。

 この船はアリアディア共和国が所有する公用船で、船乗りの神であるトライデンの神殿が管理しているのをレーナ神殿が借りたのだ。

 自分達が崇める神がお忍びとは言え、降臨している。

 無礼があってはいけないと考え、トライデン神殿にお願いしたのであった。

 シロネはその船の縁から、ぼんやりと水面を見ていた。

 時刻は昼を迎え、河面が太陽の反射光がキラキラと美しく輝いている。

 その光の中、視線を上へ移すと多くの川船が見える。

 大河であるキシュ河はミノン平野の物流の大動脈であり、多くの船が荷を積んで行き交っている。

 シロネ達を乗せた川船が、横から多くの櫂を漕ぐ川船とすれ違った。

 河川水運を上る時は櫂を漕ぐ必要があるので大変だ。  

 アリアディア共和国は下流にあるため、流れに任せれば良いので楽に進める。  

 河に吹く風が、シロネのポニーテールをなびかせていた。

 その風に揺られるようにシロネは横目で後ろを見た。

 船首の方に数名の自由戦士達が集まっている。

 自由戦士達の恰好は一般人に比べると派手だ。

 なぜ、派手かと言うと、それは彼らが明日をも知れない生き方をしているからだ。

 戦士の生は短く、今を何よりも楽しむ。

 装飾品や刺青で自身を飾り、金があったら酒等にすべてをつぎ込む。それが戦士の生き方だ。

 そんな自由戦士を乗せているのは護衛のためだ。

 キシュ河では今も未討伐のリザードマン達が輸送船を襲っている。

 そのため、行き交う船は念のために護衛として自由戦士を乗せるようになった。

 もっとも、船を沈められたら意味はない。

 それでも、いないよりはましだろう。

 本当は海のマーマンを退治した後、リノがリザードマンの相手をするはずだった。

 しかし、エウリアが迷宮に攫われて、そちらの救出を先にしたので、結局後回しになってしまっていたのだ。

 シロネの視線は自由戦士達の中の1人で止まった。

 その戦士は鉄仮面をしており、シロネから背を向けるように船の行く方向を見ている。

 それを見てシロネは溜息を吐いた。

 

「どうしましたの、シロネさん? 溜息を吐いて」

「そうですよ。何か悩まれているようですが?」  

 

 声を掛けられ、シロネは後ろを振り返る。  

 そこにはキョウカとカヤが立っていた。

「ああ、キョウカさんとカヤさんか……。特に……、何でもないよ」

「そんな事はないはずですわ。何か悩んでいる事があるのでしょう?」  

 

 そう言うとキョウカとカヤも鉄仮面の戦士を見る。

 

「あの鉄仮面の殿方。どう見てもシロネさんの幼馴染の方ですわね」

「うん……。そうだねキョウカさん。間違いなくクロキだ。でも、どうしてここに来てるんだろう? 何で正体を隠しているのだろう?」  

 

 鉄仮面の戦士が幼馴染みのクロキの変装であることはシロネ達にはバレていることではある。  

 でも、シロネは何故そんな格好をしているのか、クロキに詳細を聞けずにいた。

 

「確かにここにいる理由がはっきりしませんし、正体を隠している経緯も謎です。ですが、彼が手助けをしてくれるのなら、レイジ様達の助けになるのも確かです。ここは彼の手を借りるべきでしょう」  

 

 カヤがそう言うとシロネは頷く。  

 テセシアに居た時はレイジ達を早く助ける事に気が向いてしまったが、迷宮都市が一筋縄ではいかないのは確かだった。  

 しかも、シロネ達だけではレイジ達を助けるのは難しい。  

 クロキの助けはぜひ欲しい所だ。

 

「それに、今はあの白銀の魔女もいません。絶好の機会です」  

 

 続けてカヤが言う。  

 シロネ達が聞いたリジェナの話では、クロキは白銀の魔女クーナに半ば操られている状態だが、完全に操られてはいないらしい。  

 もしそうなら、リジェナは白銀の魔女によって殺されていただろう。  

 でも、クロキは白銀の魔女に逆らってリジェナを助けた。  

 つまり、自分の意志がしっかりとあるのだ。

 そして、今はその魔女がいない。  

 洗脳を解く絶好の機会である。  

 しかし、問題はシロネが近づこうとすると、クロキが逃げてしまうのだ。   

 そんなクロキの態度にシロネは積極的に追いかける事ができずにいた。

 

「確かに……。そうだねカヤさん。でも……」    

 

 シロネは歯切れが悪い答えをする。  

 そもそも、この世界に来る前からギクシャクした関係となっているのだ。  

 白銀の魔女に操られていたとは言え、クロキはレイジに致命傷を与えている。  

 でも、シロネ達も知らなかったとは言え、クロキを瀕死の状態まで追い詰めている。  

 ヴェロスやアルゴアで会った時、白銀の魔女の存在がクロキとの距離を感じさせた。  

 その上、昨日の件もあって、シロネを完全に拒絶してしまったのだとしても仕方がない。  

 その事にシロネはショックを受けていた。  

 もう一度近づいたら、強く拒絶されるかもしれない。  

 それがシロネはとても怖いのだ。  

 そのため、積極的になれずにいた。

 

「はあ……」

 

 シロネは再び溜息を吐く。

 すると自由戦士達の中から誰かが近づいて来る。

 近付く戦士は2名の男女だ。男は赤い髪をした上半身が裸で、立派な筋肉が見える。その日に焼けた体には刺青が施されている。

 そして、女は明るい茶色の髪を後ろに結び、革鎧を纏っている。顔立ちは整っていて中々の美人だ。

 どちらも若く、シロネ達と同じ歳ぐらいである。

 シロネはその男女に見覚えがあった。

 

「ちょっとノヴィス。やめなさいよ」

「とめるなよシズフェ。頼んでみなきゃわからないだろ」

 

 ノヴィスと呼ばれた戦士がシロネの前に立つ。

 

「えっ? 何?」

「剣の乙女シロネ様! 俺を弟子にして、剣を教えてくれ!」

 

 シロネが何事かと思うとノヴィスが頭を下げる。

 

「あー」

 

 シロネは落ち込んだ様子を隠しもせず、さらに面倒臭そうな表情にもなっていた。

 そもそも、剣を教えて欲しいと頼む者は今までも何人かいた。

 しかし、シロネ自身はとうの昔に教育者に向いていないと悟ってもいるし、結局は足手まといにしかならない門下生を侍られておくことはできない。

 それに、ノヴィスは昨日も頼みにきただけでなく、あんな騒ぎになった元凶でもある。

 

「ごめんなさい。昨日も言ったけど私は弟子は取らないの。剣を習いたいなら他を当たってね」

 

 シロネは覇気の無い笑みを浮かべ、追い払うように手を振って断った。

 

「そう言わず頼むよ! シロネ様が良いと言ってくれるまで、俺はこうするぜ」

「ちょっとノヴィス!」

 

 そう言うとノヴィスは土下座をする。

 横にいるシズフェが慌てた声を出す。

 その様子からノヴィスは本当に動かなそうだ。

 

「そんな事をしたらシロネ様達に迷惑がかかるよ。ごめんなさい、すぐに下がらせますから! さあ行くよノヴィス!」

 

 シズフェが慌てて移動させようとするが、ノヴィスは動かない。

 

「俺は強い! 側においておけば役に立つ! 鍛えておいて損はない!」

 

 ノヴィスは顔を上げ、真剣な目でシロネを見て言う。  

 その顔を見たシロネは困ってしまう。   

 過去にもしつこい者がいて、諦めさせるのに苦労した。  

 ノヴィスは、そのしつこい者に似ている。  

 シロネの心中をノヴィスは察するつもりはないようで、テコでも動きそうになかった。  

 その様子にキョウカとカヤが呆れた目を向ける。

 

「本当に役に立つのですか?」

 

 カヤが冷たい表情で助け船を出した。

 

「ああ、もちろんだ! 今だって腕には自信がある! だけど、シロネ様に剣を教えてもらえばもっと強くなれる」

 

 ノヴィスは上半身を起こすと厚い胸板を叩く。  

 かなりの自信があるようだ。  

 しかし、シロネとキョウカとカヤは顔を見合わせて、溜息を吐く。

 

「疑っているのか! なら、俺の腕を見せてやるぜ! 見ててくれ!」

 

 そう言うとノヴィスは立ち上がると背を向ける。

 

「誰でも良い! 腕に自信がある奴は俺と勝負しろ!」

 

 ノヴィスは集まっている自由戦士達に叫ぶ。

 しかし、名乗り出る者はいない。

 

「おい。どうする?」

「お前、行けよ。腕に自信があるんだろ」

「いやだぜ。ありゃ、赤い猪のノヴィスだ。火の勇者とも呼ばれる奴だぜ。勝負したくねえよ」

「そうだ火の勇者ノヴィスだ。以前あいつと喧嘩になった奴が半殺しになったそうだね……」

「ああ。あんな奴の相手できるか」

「あれに勝てる奴なんて、そうそういないぜ」

 

 自由戦士達の声が聞こえる。

 それを聞いたシロネはノヴィスという戦士がかなり強い事に気付く。

 もちろん、一般的な戦士の中ではの話だ。シロネ達とは比べる事はできない。

 

「おいおい! 誰もいないのかよ! なら俺が選んでやる! そこのお前! 相手をしろ!」

「えっ! 自分!」

 

 選ばれた戦士は戸惑った声を出す。

 それを見たシロネは「あちゃー」と額を押える。

 

「よりによって一番選んではいけない人を選びましたね。彼……」

「そうですわね」

 

 カヤとキョウカが呆れた声を出す。

 ノヴィスが指さした先には鉄仮面を被ったクロキがいるのであった。

 

 

 ◆

 

 河船の最上階の一室でレーナは寛ぐ。  

 周囲にはレーナ神殿に所属する戦士達が控えている。  

 戦士達は全て女性であり、要人である貴婦人等の護衛に駆り出される事もある。  

 彼女達は神官戦士、または戦司祭と呼ばれ、聖職者も兼ねており、人々の尊敬を集めている。  

 その神官戦士達は、レーナに仕える女天使達で構成された戦乙女ワルキューレによって力を与えられた者達だ。

 戦士達の情報は力を与えた戦乙女達の間にも伝わっており、もしもレーナに何かがあれば、主命を受けて地上に降りられない天使達に代わり、レーナを守る使命がために駆け付けるのだ。

 そんなレーナは窓から外へと目を向けた。  

 甲板には自由戦士達の姿が見えるが、船首にいる1人の戦士に注目する。戦士は鉄仮面を被り船の進行方向を見ている。  

 その戦士を見てレーナは溜息を吐く。

 

(さて、どうしようかしら?)

 

 レーナは考えていた。

 クロキがシロネ達の仲間となれば、間接的に自分の騎士と言える。  

 しかし、それではシロネやキョウカと仲良くなりそうな気がするのだ。

 それはレーナにとって面白くない。

 だから、どうしようか迷うのだ。

 

(まあ、良いわ。取り合えず、今はラヴュリュスを何とかしないと不味いもの……。それまではクロキとシロネが近付くのを認めるとしましょう。でも少しもやもやするわね)

 

 レーナはそう結論付けた。

 どうやらクロキはシロネと同じ世界の住人で、かなり深い仲だったようだ。  

 その事を考えると、レーナの心にもやもやした気持ちが生まれる。

 そんな時だった。

 自由戦士達の様子が騒がしくなる。

 

「あれはノヴィスさん! どうしたのかしら?」

 

 レーナの側の戦士が甲板の自由戦士達を見て声を出す。

 その赤毛の自由戦士は真っすぐにクロキへと向かう。

 

「何が始まるのかしら?」

 

 レーナは首を傾げるのだった。

 

 

 ◆

 

(これはどういう状況?)

 

 クロキは置かれた状況に戸惑う。

 河船でアリアディア共和国に戻る途中、ノヴィスという戦士に勝負を挑まれたのだ。

 甲板の上では自由戦士達が円を描くようにクロキとノヴィスを取り囲んでいる。

 戦士達は面白そうな顔をしている。

 

「お前、かなり強いんだろ? お前を倒してシロネ様に俺が役に立つところを見せて、弟子にしてもらうんだ」

 

 ノヴィスは振り返りながら言う。

 その視線の先にはシロネがいる。

 シロネは困ったような呆れたような、それでいて申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 それを見てクロキは溜息を吐く。

 何があったのか聞いてみたいが、シロネとは顔を合わせづらい状況だ。  

 アルゴアでは緊急事態とは言え、森の中に置いて行ってしまった。

 その後、逃げるように去ってしまったこともあってか、再会した時から何だか怒っている様子だった。  

 だから、正面から顔を合わせにくかったのだが、そこに起こった昨日の事件は離れるには良い口実になってくれていた。

 たった今、その原因にまたも絡まれてしまったけれど。

 

「おい鉄仮面の兄ちゃん、少しは頑張ってくれよ!」

「そうだ、勝てとは言わねえ。ノヴィスに少しは痛い目を合わせてくれ!」

「頑張れよ兄ちゃん」

 

 周囲の自由戦士が野次を飛ばす。

 応援しているようだが、勝てるとは思っていないようであった。

 

「おいおい、俺を応援する奴はいないのか」

 

 ノヴィスは周囲を見ると側にいる女戦士を見る。

 クロキの記憶ではシズフェと呼ばれていた。

 

「私が応援するわけないでしょ。なにやってんのよ。はあ、でもやめろって言っても聞かないわよね……」

 

 そう言うとシズフェはクロキに申し訳なさそうな顔をする。

 

「ちぇ! シズフェもかよ! まあ良いや! 素手で良いよな。武器はなしだ! 行くぜ!」

 

 にいっとノヴィスは笑うとクロキに向かう。

 その動きはかなり速い。

 しかし、クロキには止まって見える。

 

(さて、どうしよう? シロネは困っているみたいだし……。負けるわけにはいかないな。だけど、勝ちすぎて目立ちたくもないし……)

 

 クロキはそう考えると突進するノヴィスをぎりぎりで躱し、素早く足を引っかける。

 

「何っ!?」

 

 ノヴィスはそのまま転び顔面から甲板に突っ込む。

 その転び方は首の骨が折れてもおかしくなかった。

 大丈夫だろうかとクロキはノヴィスを見る。

 しかし、ノヴィスは何事もなかったように立ち上がる。

 怪我をしている様子はない。

 かなり頑丈な体をしているようであった。

 

「ちっ! 勢い余ってこけちまったぜ!」

「何やってんだノヴィス?」

「勝手にこけてりゃ意味ねーぜ!」

「がはははは」

「うるせー! 後で覚えろ!」

 

 周囲の者達が笑うとノヴィスは外野に向かって怒鳴る。

 自由戦士の誰もがクロキが足を引っかけた事に気付いていないようだ。

 

「今度こそ行くぜ!」

 

 ノヴィスは今度は突進せずにクロキに向かうと拳を繰り出す。

 脇を締めずにぶん殴るといった動作だ。

 速いが、これなら簡単に避けられる。

 クロキはノヴィスの攻撃を軽く左右に飛び、躱し続ける。

 

(このまま。避け続けても良いけど、簡単にはへばってくれなさそうだな)

 

 クロキが見る限り、ノヴィスはタフそうであった。

 反撃をして倒した方が良いだろう。

 そう判断するとクロキはノヴィスの腕を取り投げ飛ばす。

 

「ぐえっ!」

 

 甲板に叩きつけられたノヴィスが呻く。

 かなり強く叩きつけた、この世界の通常の人ならば起き上がるのは難しいだろう。

 

「くっ! やるじゃねえか!」

 

 しかし、ノヴィスは何事もなかったかのように立ち上がる。

 痛そうにしているが、それだけだ。

 

「お前が強いのは良くわかったぜ。だが、技に頼るってことは腕っぷしに自信がないってことだ。そうだろう? 俺は動かねえから殴ってみろよ」

 

 ノヴィスは挑発するように両腕を広げる。

 攻撃を待っているようであった。

 

(見え透いた手だ。おそらく何らかの手があるんだろうな。だけど、どうする?)

 

 クロキは悩んだ末、相手の誘いに乗る事にする。

 そして、クロキは右手で拳を作ると加減してノヴィスの顔面を殴る。

 本気を出せばノヴィスの頭は四散するが、もちろんそんな事はしない。

 この世界の一般的な人より少しだけ強い力しか出さない。

 クロキは普段から力の制御の訓練を欠かさず行っている。人が死なない程度の力の加減も出来るようになっている。

 これぐらいなら、少し吹き飛ぶだけだろう。

 

「えっ?」  

 

 しかし、ノヴィスはクロキの拳を受けても微動だにしないことに、クロキは驚く。  

 拳の影で見えないがノヴィスが笑っているのがわかる。

 

「剛体の魔法だ。この程度の拳じゃ俺は倒れねえよ」

 

 そう言うとノヴィスはクロキの右の手首を掴む。

 剛体の魔法は使用者の肉体の強度を上げる。普通の人の拳ぐらいでは倒れなくなる。

 

「このまま押し倒させてもらうぜ! 剛力の魔法!」

 

 ノヴィスがそう叫ぶと、刺青が光り出し、筋肉が一回り大きくなる。

 そして、クロキをそのまま押し倒そうとする。

 当然、本気を出せばいくら剛力を使ったノヴィスでもクロキを倒す事は不可能だ。

 逆にノヴィスを力づくで引きはがす事も可能である。

 しかし、なるべく本気を出したくないクロキは別の手段を取る事にする。

 

「何!?」

 

 ノヴィスが驚く。  

 クロキは押し倒そうとする力に逆らわないよう、足を移動して腰を回し、逆にノヴィスをうつ伏せに倒す。  

 そして、そのままノヴィスの背に乗り右腕の関節を極める。

 

「があっ、ぐあっ! 何だ! 抜け出せねえ!」

 

 ノヴィスが苦悶の呻き声を上げる。

 その声を聞いてクロキは申し訳なく思う。

 しかし、これ以上戦うのは面倒くさい。  

 だから、ノヴィスの力を測りぎりぎり抜け出せないようにする。

 誰が見ても勝敗は明らかであった。

 

「そこまでです! 勝負はありました! ノヴィスさん貴方の負けです!」

 

 見ていたカヤがそう言うとクロキはノヴィスの腕を離す。

 ノヴィスは信じられない目でクロキを見上げる。負けた事が信じられないようであった。

 

「おい、あのノヴィスが負けたぞ」

「ああ、信じられねえ」

「やるじゃねえか、鉄仮面!」

 

 周囲から驚きの声が聞こえる。

 クロキは自分を称賛する声を聞いていると、なんだか少しスッとした気持ちになってきていた。

 

「カヤ、今のは?」

「なかなか見事な技です。お嬢様。ほぼ力を使わずに相手を倒しました。あそこまで力を制御できるとは……。私もあそこまでは無理です」

「そうだねカヤさん。さすがというか、私だったら腕を引きちぎっているよ」

「そう、力の制御……」

 

 声は遠いがクロキの耳にはシロネ達の感心した声がはっきりと聞こえる。

 実際はクロキも、ここまで力を制御できるようになったのはごく最近のことだ。

 クロキはもちろんシロネ達はこの世界の人間よりもはるかに強大な力を持っている。

 ちょっとした事で大惨事を招きかねない。

 クロキは知らないが、実はキョウカ程ではないもののシロネ達も何度か大変な事件を起こしていたりする。

 

「すごい! ノヴィスに勝つなんて! 最後の技、あれは何ですか!」

 

 シズフェが興奮した声を出し、クロキの側に来る。

 

「いえ、大した事はないです。ちょっとした、なんてことない技を使っただけですよ」

 

 急に大きな声をかけられたクロキは冷静を装いながら淡々と答えた。

 正直に言うと注目を浴びたくないので、騒がないで欲しかったのだ。

 

「いや、大したもんだと思うぜ。ノヴィスはテセシアでも名の知れた戦士だ。あんたはそれに勝ったんだ。誇るべきだと思うぜ」

 

 シズフェの仲間だろうか、褐色の肌の女戦士も側に来る。

 その女戦士の目はクロキではなくノヴィスを見ている。

 誇るべきと言ったのは、ノヴィスを気遣っての事だとクロキは気付いた。

 

「はい、もっと誇るべきだと思います。迷宮の時もそうでした! あのお願いです。私に先程の技を教えてくれませんか! 強くなりたいんです!」

 

 突然のシズフェの弟子入り願いにクロキは戸惑う。

 

(どうしよう……。今度は自分が困る番になったぞ)

 

 クロキはどうやって断ろうかと思っている時だった。

 

「ダメですわ! それは許しません!」

 

 突然キョウカがシズフェの願いを遮る。

 クロキがそちらを見るとキョウカが真っすぐに視線を向けている。

 側にいたシロネとカヤが驚いた様子で顔を見合わせている。

 

「お嬢様? どうされたのですか?」

 

 カヤが心配そうにキョウカに聞く。

 しかし、キョウカはカヤの構わず言葉を続ける。

 

「わたくしが教わるのが先です。力の制御の仕方、教えていただけないかしら」

 

 キョウカはそう言うと期待をするようにクロキの前に立つ。

 今度はシロネとカヤだけでなく、キョウカを除くその場の全ての者が驚く顔をする。

 

「「ええ──!!」」

 

 複数の驚く声が甲板に木霊するのだった。

 

 

 




前書きや前回でも書きましたが、前回に引きずられる形で修正が必要になっただけです。
でも黄昏てるシロネも有りなんじゃないかなぁ、なんて書き加えてて思いました。
でも、どうすればシロネが自分の気持ちに気づくのかは全く解りません。
本当はレンバーの章の前日譚を準備しているのですが、地図が公開されないと書けないため、投稿できません。

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