脳髄。   作:はせがわ

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脳髄。その5

 

 

「うわぁぁぁ! 逃げろぉぉーーーーーッッ!!」

 

 住民たちが、わき目も振らず逃げまどいます。

 

「“肉食系女子“が来るぞぉぉーーー!! 逃げろぉぉーーーーーーッッ!!」

 

 濁流のように、人の波のように、誰もが必死になって逃げまどいます。

 今その後ろから、物凄い砂煙をあげながら人々を追いかけてくる、一人の女性の姿が。

 

『SEXさせろこらぁぁぁああああーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

「ぎゃぁぁあああーーーッッ!! みんな逃げろぉぉぉーーッッ!!」

 

 我先にと逃げまどう人々を、雄たけびを上げて猛追するその女性。

 彼女はとても見麗しい、すごく愛らしい女の子なのですが……怒りで顔面を真っ赤に染め、目を血走らせながら追いかけてくるその姿に、住民たちはこの上ない恐怖を感じます。

 

『エッチさせろこらぁぁぁあああああーーーーーーーッッ!!!!』

 

「うわぁぁあああーーーーッッ! お母ちゃーーーんッッ!!」

 

 走る――――肉食系女子が走る!

 ターミネーターもかくやというガチ走りで、若き燕たちを追い回します。エッチをする為に!

 

 その途轍もない迫力に押されたかのように、今ひとりの幼き少年が石に躓き、バタリと倒れ込んでしまいました。

 

『うぉぉぉぉおおおおおッッ!! うぉぉぉぉおおおおおおおーーッッ!!』

 

「わああああーー!!」

 

 群れからはぐれたバンビちゃんは、肉食獣の餌食になる。それが世の理。サバンナの掟!

 そう言わんばかりに肉食系女子は、地面に倒れた男の子へと襲い掛かります。

 男の子はただただ顔を伏せ、「南無三!」とばかりにギュッと目を瞑ります。

 

『――――キャッチ&リリーース!!』

 

「わぁぁーーっ!!」

 

 するとどうでしょう! とつぜん肉食系女子は男の子を抱え上げ、傍にいたお父さんらしき男性の方へ〈ポイッ!〉と放り投げたではありませんか!

 男の子が怪我をしないよう、この上なく優しく!!

 

『――――坊や、大きくなるのよっ! ちんちんに毛が生えたらまた会いましょう!!』

 

「!?!?」

 

 とても良い笑顔で〈パチン☆〉とウインクをした後、肉食系女子は再び走り出して行きます。

 

『騎乗位させろコラァァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』

 

「うわぁぁぁああああ!! 逃げろぉぉぉおおおーーーッッ!!!!』

 

 再び逃げまどう、住民達。

 肉食系女子は弾丸もかくやという速度で、男達を猛追していきます。

 

『対面座位しろコラァァァァアアアアーーーーッッ!!

 寝バックしろコラァァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』』

 

「いやぁぁぁあああーーーーーーーッッ!!!!」

 

 ――――死ぬ。捕まったら死ぬ!!

 そう言わんばかりに男達は逃げまどいます。

 特に愛する妻子がいる男、年収が1千万を超えて居たりする男達は、もう必死こいて力の限りに走りました。

 

『おっぱい吸えコラァァァァアアアアーーーッッ!!

 揉めコラァァァァアアアアーーーーーーーッッ!!!!』』

 

「助けてぇーー!! 助けってぇぇぇえーーーんッ!!」

 

 自慢のFカップをブルンブルンしつつ、肉食系女子が住民に襲い掛かります。

 屋根に上がる者、コンビニに駆け込む者、電信柱によじ登る者……みんな必死に肉食系女子から逃げまどいます。

 いま大阪府天王寺市は、地獄のような光景です。

 

『――――ふぅぬごッッ!!』ズボォ!

 

「おぉやったぞ! 穴に落ちたぞ!」

 

 突然肉食系女子がズボッと穴にはまり、住民達が歓声を上げます。

 そう、これは近年の肉食系女子たちがもたらす被害を鑑みて、市が肉食系女子対策として仕掛けていた捕獲用トラップです。

 見事に落とし穴にはまり、その足を止めた肉食系女子の姿を、住民達がそ~っと上から覗き込みます。恐る恐るといった様子で。

 

『 だっしゃぁぁぁああああーーーーッッ!!!! 』

 

「うわぁーーッ!!」

 

 その時! 突然肉食系女子が穴から飛び出します!

 勢いよく、ロケットのように、人間とは思えない身体能力で!

 

『待てこらぁぁぁーーーーッッ!! SEXさせろコラァァァァアアアア!!!!』

 

「駄目だぁ! 逃げろぉぉーーーッッ!!」

 

 甘かった――――住民達は甘く見ていたのです。

 そう! 肉食系女子の想いを! 彼女がどれだけ強く「えっちしたい」と思っているのかを! 見くびっていたのです!

 

 人は所詮、己を基準にしてしか物を考えられない、そんな生き物です。

 ゆえに彼らには、分かろうハズもなかった。理解出来ようハズもなかったのです。

 この肉食系女子である彼女が、どれだけ「めっちゃエッチしたい」と思っているのかなど!!

 

『――――お゛ごぁッ!!』ガッシーン!

 

「やった! また罠にかかったぞ!」

 

 再び走り出そうとした肉食系女子の足が、大きなトラバサミに引っ掛かります。

 これも市が仕掛けたトラップ。近年増加傾向にある肉食系女子の被害を押さえるべく、血税によって設置された対肉食系女子用のトラップです。

 

『 ふぅぅんぬぁぁぁぁあああああーーーーーーッッ!!!! 』

 

「うわーっ! やっぱり駄目だぁぁーー!!」

 

 しかし、それすらも肉食系女子は脱出し、再び住民達に襲い掛かっていきます。

 この肉食系女子は、そこいらの肉食系女子とはワケが違う。まさに市民の天敵とも言える強力な個体でした。

 誰にも責任などあろうハズもない、ただただ不幸な事態だったのです。

 

『遺伝子よこせコラァァァァアアアアーーーッッ!!

 こくまろ精子出せコラァァァァアアアアーーーーーーーッッ!!!!』

 

 鋭い八重歯をむき出しにし、まさに肉食獣の如く男達に襲い掛かる肉食系女子。

 ――――しかし突然この場に現れたもう一人の女性が、肉食系女子の肩をガシッと掴みました。

 

「そこまでよ、肉食系女子。アンタの悪行はあたしが止めるわ」

 

『!?!?』

 

 いま肉食系女子の前に雄々しく立ち塞がる、婦人警官らしき恰好をした一人の女性。

 

「おぉ! あれは肉食系ポリス!」

 

「肉食系ポリスが来てくれたぞ!!」

 

 住民達が歓喜の声を上げる中……グラマラスな身体をミニスカ警官服に包んだ“肉食系ポリス“と呼ばれた女性が、肉食系女子と対峙します。

 

『……馬鹿なッ!? 貴様、我が“同胞“のハズ!?!?』

 

「ふっ! そうね……あたしも肉食系女子よ」

 

 驚愕の表情を浮かべる肉食系女子。しかし肉食系ミニスカポリスは微笑を浮かべ、やんわりとそれを受け流します。

 

「肉食系女子を止められるのは、肉食系女子のみ――――

 覚悟なさいな、お嬢さん。

 何の因果かマッポの手先……この肉食系ポリスが、アンタを倒すわ」

 

『ぬぅぅぅッッ!!!!』

 

 彼女こそ、肉食系でありながら国家側に着いた、対肉食系女子最大の抑止力となる存在。

 時にはパンチ! 時にはキック! ファックしちゃぞっ♪

 ――――肉食系ポリス。人は彼女をそう呼ぶ。

 

『えいしゃオラ! えいしゃぁぁぁああああーーーーーーい!!』

 

「クッ! ……馬鹿なッ! このあたしとした事がッ!!」

 

 しかし肉食系女子の渾身の正拳突きにより、肉食系ポリスは地に膝を着く。

 

『同胞を裏切り、国家の犬と成り下がった貴様などにッ!

 この我が倒せると思うたかッ!!!!』

 

「ッッ!?!?」

 

 エッチしたいねん。どんだけエッチしたい思うてんねん。

 そうとてもイノセントな想いを拳に乗せ、肉食系女子が肉食系ポリスを吹き飛ばす。

 

 国家試験の勉強に励むより、SEXに励みたいんじゃいッ!!

 力なく地面に倒れ伏す肉食系ポリスに向かい、つまらなさそうに言い捨てる肉食系女子。

 

「おぉ……もう終わりじゃ……。

 この村はもう終わりじゃ……肉食系女子によって滅ぼされてしまうのじゃ……」

 

 杖をついた、なにやら村長的な雰囲気を漂わせている老人が、悲しそうに空を見上げる。

 

 おぉ神よ! なぜ神は肉食系女子にだけ、かような強大な力を与えたもうたのか!!

 そう天上の父に問いかけるも、答えは無い。老人はただただ「おぉぉ……」と嗚咽を漏らし、力なく地面に蹲る。

 

『!?!?』

 

 そんな老人の嘆きを聞き届けたかのように、救いの手が差し伸べられる。

 突如この場に響いた〈ゴゴゴゴ……!〉という地鳴り、轟音。

 驚く肉食系女子を余所に、やがてこの場に色とりどりの沢山の“戦車“が集まり、彼女の周りを取り囲んだ。

 

「――――投降しろ! 肉食系女子ッ! 貴様は包囲されているッ!!」

 

 そう英語で呼びかける声が、戦車のスピーカーから響く。とてもネイティブな発音で。

 

『ふっ……まさか合衆国が出てくるとはね』

 

 こんな小娘ひとりに、アメリカがお出ましとは。とても名誉な事だわ――――

 そう肉食系女子は苦笑し、そして雄々しくアメリカ軍に向かい直る。

 

 

『カマーーン! アメリカのふにゃチン共よ!!

 この肉食系女子たる我を止められる物ならば、止めてみせぇぇいッッ!!」

 

 

 轟く砲声。人々の叫び声

 

 いま学生服にニーソックス姿の肉食系女子が、雄たけびを上げながら猛然と戦車隊へと突っ込んで行く。

 

 

『童貞という童貞を殺すッ!!

 TENGAを所持する者を、一人残らず殺していくッ!!

 我がFカップによってッッ!!』

 

 

 まるでボールのように戦車が吹き飛び、次々にビルや家々が崩壊する。

 

 勝利を祝うかのような彼女の高笑いが辺りに響く中……やがて空から、視界を覆い尽くさんばかりの沢山の“天使“が地上へと舞い降りてくる。

 

 白く大きな羽。一糸まとわぬ姿。ハート型をした矢じりの弓。

 ――――そう、いまこの空を埋め尽くすようにして現れたのは、“肉食系天使“。

 

 日本の少子化、そしてセックス不足に悩む女性達の為に降臨した、肉食系女子の為の天使たちである。

 

 白い羽の彼女達は一斉に地上の男達へと襲い掛かり、そのハート型の弓矢によって次々に草食系男子たちを駆逐していく。童貞を駆逐していく。

 

 辺り、いや日本中のいたる所で……哀れな男性たちの悲鳴が響く。

 やがてその叫び声が、この世界全土を覆い尽くすだろう。

 

 

 

『好きとか嫌いとか、最初に言い出したのは誰なの?

 ――――いいからペッティングだッッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天使たちが空を舞い、地上の童貞共を駆逐する中……肉食系女子の笑い声が木霊する。

 

 

 

 救いなど、ありはしない。

 

 人間は、決して許されないのだ――――

 

 

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