脳髄。 作:はせがわ
「うわぁぁぁ! 逃げろぉぉーーーーーッッ!!」
住民たちが、わき目も振らず逃げまどいます。
「“肉食系女子“が来るぞぉぉーーー!! 逃げろぉぉーーーーーーッッ!!」
濁流のように、人の波のように、誰もが必死になって逃げまどいます。
今その後ろから、物凄い砂煙をあげながら人々を追いかけてくる、一人の女性の姿が。
『SEXさせろこらぁぁぁああああーーーーーーーーーッッッッ!!!!』
「ぎゃぁぁあああーーーッッ!! みんな逃げろぉぉぉーーッッ!!」
我先にと逃げまどう人々を、雄たけびを上げて猛追するその女性。
彼女はとても見麗しい、すごく愛らしい女の子なのですが……怒りで顔面を真っ赤に染め、目を血走らせながら追いかけてくるその姿に、住民たちはこの上ない恐怖を感じます。
『エッチさせろこらぁぁぁあああああーーーーーーーッッ!!!!』
「うわぁぁあああーーーーッッ! お母ちゃーーーんッッ!!」
走る――――肉食系女子が走る!
ターミネーターもかくやというガチ走りで、若き燕たちを追い回します。エッチをする為に!
その途轍もない迫力に押されたかのように、今ひとりの幼き少年が石に躓き、バタリと倒れ込んでしまいました。
『うぉぉぉぉおおおおおッッ!! うぉぉぉぉおおおおおおおーーッッ!!』
「わああああーー!!」
群れからはぐれたバンビちゃんは、肉食獣の餌食になる。それが世の理。サバンナの掟!
そう言わんばかりに肉食系女子は、地面に倒れた男の子へと襲い掛かります。
男の子はただただ顔を伏せ、「南無三!」とばかりにギュッと目を瞑ります。
『――――キャッチ&リリーース!!』
「わぁぁーーっ!!」
するとどうでしょう! とつぜん肉食系女子は男の子を抱え上げ、傍にいたお父さんらしき男性の方へ〈ポイッ!〉と放り投げたではありませんか!
男の子が怪我をしないよう、この上なく優しく!!
『――――坊や、大きくなるのよっ! ちんちんに毛が生えたらまた会いましょう!!』
「!?!?」
とても良い笑顔で〈パチン☆〉とウインクをした後、肉食系女子は再び走り出して行きます。
『騎乗位させろコラァァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』
「うわぁぁぁああああ!! 逃げろぉぉぉおおおーーーッッ!!!!』
再び逃げまどう、住民達。
肉食系女子は弾丸もかくやという速度で、男達を猛追していきます。
『対面座位しろコラァァァァアアアアーーーーッッ!!
寝バックしろコラァァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』』
「いやぁぁぁあああーーーーーーーッッ!!!!」
――――死ぬ。捕まったら死ぬ!!
そう言わんばかりに男達は逃げまどいます。
特に愛する妻子がいる男、年収が1千万を超えて居たりする男達は、もう必死こいて力の限りに走りました。
『おっぱい吸えコラァァァァアアアアーーーッッ!!
揉めコラァァァァアアアアーーーーーーーッッ!!!!』』
「助けてぇーー!! 助けってぇぇぇえーーーんッ!!」
自慢のFカップをブルンブルンしつつ、肉食系女子が住民に襲い掛かります。
屋根に上がる者、コンビニに駆け込む者、電信柱によじ登る者……みんな必死に肉食系女子から逃げまどいます。
いま大阪府天王寺市は、地獄のような光景です。
『――――ふぅぬごッッ!!』ズボォ!
「おぉやったぞ! 穴に落ちたぞ!」
突然肉食系女子がズボッと穴にはまり、住民達が歓声を上げます。
そう、これは近年の肉食系女子たちがもたらす被害を鑑みて、市が肉食系女子対策として仕掛けていた捕獲用トラップです。
見事に落とし穴にはまり、その足を止めた肉食系女子の姿を、住民達がそ~っと上から覗き込みます。恐る恐るといった様子で。
『 だっしゃぁぁぁああああーーーーッッ!!!! 』
「うわぁーーッ!!」
その時! 突然肉食系女子が穴から飛び出します!
勢いよく、ロケットのように、人間とは思えない身体能力で!
『待てこらぁぁぁーーーーッッ!! SEXさせろコラァァァァアアアア!!!!』
「駄目だぁ! 逃げろぉぉーーーッッ!!」
甘かった――――住民達は甘く見ていたのです。
そう! 肉食系女子の想いを! 彼女がどれだけ強く「えっちしたい」と思っているのかを! 見くびっていたのです!
人は所詮、己を基準にしてしか物を考えられない、そんな生き物です。
ゆえに彼らには、分かろうハズもなかった。理解出来ようハズもなかったのです。
この肉食系女子である彼女が、どれだけ「めっちゃエッチしたい」と思っているのかなど!!
『――――お゛ごぁッ!!』ガッシーン!
「やった! また罠にかかったぞ!」
再び走り出そうとした肉食系女子の足が、大きなトラバサミに引っ掛かります。
これも市が仕掛けたトラップ。近年増加傾向にある肉食系女子の被害を押さえるべく、血税によって設置された対肉食系女子用のトラップです。
『 ふぅぅんぬぁぁぁぁあああああーーーーーーッッ!!!! 』
「うわーっ! やっぱり駄目だぁぁーー!!」
しかし、それすらも肉食系女子は脱出し、再び住民達に襲い掛かっていきます。
この肉食系女子は、そこいらの肉食系女子とはワケが違う。まさに市民の天敵とも言える強力な個体でした。
誰にも責任などあろうハズもない、ただただ不幸な事態だったのです。
『遺伝子よこせコラァァァァアアアアーーーッッ!!
こくまろ精子出せコラァァァァアアアアーーーーーーーッッ!!!!』
鋭い八重歯をむき出しにし、まさに肉食獣の如く男達に襲い掛かる肉食系女子。
――――しかし突然この場に現れたもう一人の女性が、肉食系女子の肩をガシッと掴みました。
「そこまでよ、肉食系女子。アンタの悪行はあたしが止めるわ」
『!?!?』
いま肉食系女子の前に雄々しく立ち塞がる、婦人警官らしき恰好をした一人の女性。
「おぉ! あれは肉食系ポリス!」
「肉食系ポリスが来てくれたぞ!!」
住民達が歓喜の声を上げる中……グラマラスな身体をミニスカ警官服に包んだ“肉食系ポリス“と呼ばれた女性が、肉食系女子と対峙します。
『……馬鹿なッ!? 貴様、我が“同胞“のハズ!?!?』
「ふっ! そうね……あたしも肉食系女子よ」
驚愕の表情を浮かべる肉食系女子。しかし肉食系ミニスカポリスは微笑を浮かべ、やんわりとそれを受け流します。
「肉食系女子を止められるのは、肉食系女子のみ――――
覚悟なさいな、お嬢さん。
何の因果かマッポの手先……この肉食系ポリスが、アンタを倒すわ」
『ぬぅぅぅッッ!!!!』
彼女こそ、肉食系でありながら国家側に着いた、対肉食系女子最大の抑止力となる存在。
時にはパンチ! 時にはキック! ファックしちゃぞっ♪
――――肉食系ポリス。人は彼女をそう呼ぶ。
『えいしゃオラ! えいしゃぁぁぁああああーーーーーーい!!』
「クッ! ……馬鹿なッ! このあたしとした事がッ!!」
しかし肉食系女子の渾身の正拳突きにより、肉食系ポリスは地に膝を着く。
『同胞を裏切り、国家の犬と成り下がった貴様などにッ!
この我が倒せると思うたかッ!!!!』
「ッッ!?!?」
エッチしたいねん。どんだけエッチしたい思うてんねん。
そうとてもイノセントな想いを拳に乗せ、肉食系女子が肉食系ポリスを吹き飛ばす。
国家試験の勉強に励むより、SEXに励みたいんじゃいッ!!
力なく地面に倒れ伏す肉食系ポリスに向かい、つまらなさそうに言い捨てる肉食系女子。
「おぉ……もう終わりじゃ……。
この村はもう終わりじゃ……肉食系女子によって滅ぼされてしまうのじゃ……」
杖をついた、なにやら村長的な雰囲気を漂わせている老人が、悲しそうに空を見上げる。
おぉ神よ! なぜ神は肉食系女子にだけ、かような強大な力を与えたもうたのか!!
そう天上の父に問いかけるも、答えは無い。老人はただただ「おぉぉ……」と嗚咽を漏らし、力なく地面に蹲る。
『!?!?』
そんな老人の嘆きを聞き届けたかのように、救いの手が差し伸べられる。
突如この場に響いた〈ゴゴゴゴ……!〉という地鳴り、轟音。
驚く肉食系女子を余所に、やがてこの場に色とりどりの沢山の“戦車“が集まり、彼女の周りを取り囲んだ。
「――――投降しろ! 肉食系女子ッ! 貴様は包囲されているッ!!」
そう英語で呼びかける声が、戦車のスピーカーから響く。とてもネイティブな発音で。
『ふっ……まさか合衆国が出てくるとはね』
こんな小娘ひとりに、アメリカがお出ましとは。とても名誉な事だわ――――
そう肉食系女子は苦笑し、そして雄々しくアメリカ軍に向かい直る。
『カマーーン! アメリカのふにゃチン共よ!!
この肉食系女子たる我を止められる物ならば、止めてみせぇぇいッッ!!」
轟く砲声。人々の叫び声
いま学生服にニーソックス姿の肉食系女子が、雄たけびを上げながら猛然と戦車隊へと突っ込んで行く。
『童貞という童貞を殺すッ!!
TENGAを所持する者を、一人残らず殺していくッ!!
我がFカップによってッッ!!』
まるでボールのように戦車が吹き飛び、次々にビルや家々が崩壊する。
勝利を祝うかのような彼女の高笑いが辺りに響く中……やがて空から、視界を覆い尽くさんばかりの沢山の“天使“が地上へと舞い降りてくる。
白く大きな羽。一糸まとわぬ姿。ハート型をした矢じりの弓。
――――そう、いまこの空を埋め尽くすようにして現れたのは、“肉食系天使“。
日本の少子化、そしてセックス不足に悩む女性達の為に降臨した、肉食系女子の為の天使たちである。
白い羽の彼女達は一斉に地上の男達へと襲い掛かり、そのハート型の弓矢によって次々に草食系男子たちを駆逐していく。童貞を駆逐していく。
辺り、いや日本中のいたる所で……哀れな男性たちの悲鳴が響く。
やがてその叫び声が、この世界全土を覆い尽くすだろう。
『好きとか嫌いとか、最初に言い出したのは誰なの?
――――いいからペッティングだッッ!!!!』
天使たちが空を舞い、地上の童貞共を駆逐する中……肉食系女子の笑い声が木霊する。
救いなど、ありはしない。
人間は、決して許されないのだ――――