今回は眠いので注意書きだけして帰ります。
あ、何か途中に書いてあるけど無視して良いですよ。
作者の過度な妄想、願望で出来てる。
作者の好きな物ばかり入ってる。
オリ主二重人格になるかも。
天野河、檜山に対するオリ主の態度がすごいから気をつけて。
天野河、檜山に対するアンチ、ヘイトがスゴいよ。
天の河、檜山が好きな物好きな方は閲覧をお控え下さい。
そろそろ天ノ川がオリ主に殺されそう。
輪廻君が何言ってるか解らなくても気にしないで。
東方要素が出てきたぞ!。
呼吸が出てきたぞ!
何か輪廻君のヒロイン十五人ぐらいになりそう!(現時点)
輪廻君むっちゃちーと。
それでもいいよと言う方のみご覧下さい。
「えへへ、うへへへ、くふふふ~」
同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、輪廻と問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。
「……キモイ」
見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。
「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、輪廻さんの初デレですよ? 見ました? 最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」
シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってハジメとユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。
「「……ウザウサギ」」
「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」
「「……」」
「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。Repeatahuta-mi-、シ・ア」
必死に名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に今後の予定について話し合いを始める輪廻とハジメとユエ。それに「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」と涙目で縋り付くシア。旅の仲間となっても扱いの雑さは変わらないようだった。
そんな風に騒いでいると(シアだけ)、霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメに課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。
シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として会っていなかったのだ。たった十日間とはいえ、文字通り死に物狂いで行った修行は、日々の密度を途轍もなく濃いものとした。そのため、シアの体感的には、もう何ヶ月も会っていないような気がしたのだ。
早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、シアは話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。
歩み寄ってきたカムはシアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線をハジメに戻した。そして……
「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」
「ボ、ボス?と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」
父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。
「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」
ハジメの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ハジメの疑問に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。
「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」
「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」
「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」
「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」
「見せしめに晒しとけばよかったか……」
「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」
「ハジメェ、これ完全にやりすぎだろォ、俺がいない間に何やってんだよォ。」
不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに物騒な戦闘報告をする。
それを呆然と見ていたシアは一言、
「……誰?」
その後大樹に向かった、輪廻とハジメ達。
雑談しながら進むこと十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。
大樹を見た輪廻の第一声は、
「……なんだこりゃァ」
という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。三人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。
しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。
大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
輪廻やハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。
「これは……オルクスの扉の……」
「……ん、同じ文様」
石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。
「やっぱり、ここが大迷宮の入口みたいだな……だが……こっからどうすりゃいいんだ?」
ハジメは大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみたりするが、当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。
その時、石板を観察していた輪廻とユエが声を上げる。
「ハジメ……これ見て」
「ん? 何かあったか?」
「ここだァ」
ユエと輪廻が注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。
「これは……」
ハジメが、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。
すると……石板が淡く輝きだした。
何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「……どういう意味だ?」
「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」
「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」
頭を捻るハジメにシアが答える。
「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」
「……なるほど。それっぽいな」
「……あとは再生……私?」
ユエが自分の固有魔法〝自動再生〟を連想し自分を指差す。試しにと、薄く指を切って〝自動再生〟を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化はない。
「いやァ、恐らくは神代魔法の中に、再生に関するものがあるんだろうよォ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
その後何やかんや有り、樹海の境界でカム達の見送りを受けた輪廻、ハジメ、ユエ、シアは再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。位置取りは、ユエ、ハ輪廻、シア、一人でハジメの順番である。以前、ライセン大峡谷の谷底で乗せた時よりシアの密着度が増している気がするが、全く気にしない、輪廻。反応でもしようものなら前に座っているユエに即バレである。
肩越しにシアが質問する。
「輪廻さん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」
「あ? 言ってなかったかァ?」
「聞いてませんよ!」
「……私は知っている」
得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。
「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」
「次の目的地はライセン大峡谷だァ」
「ライセン大峡谷?」
輪廻の告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。その疑問を察したのか輪廻が意図を話す。
「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからなァ。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだしなァ、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろォ?」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」
思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近、一族が全滅しかけた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。
輪廻は、密着しているせいかシアの動揺が手に取るようにわかり、呆れた表情をした。
「お前なァ、少しは自分の力を自覚しろよ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらねぇよ。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だぞ? 身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ俺と同じで独壇場だろうが」
「……師として情けない」
「うぅ~、面目ないですぅ」
ユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシア。話題を逸らそうとする。
「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだがなァ。」
輪廻やハジメとしてはいい加減、まともな料理・・を食べたいと思っていたところだ。それに、今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。
「はぁ~そうですか……よかったです」
輪廻の言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ハジメが訝しそうに「どうした?」と聞き返す。
「いやぁ~、輪廻さんやハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんは輪廻さんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんもまともな料理食べるんですね!」
「当たり前だろ! 誰が好き好んで魔物なんか喰うか! ……お前、俺達を何だと思ってるんだ……」
「プレデターという名の新種の魔物?」
「OK、ハジメ、そいつを縛り上げて首輪をつけとけ。
街まで引きづってやる」
「了解しました。おい残念ウサギ、今からお前にこれを付けるから大人しくしてろよ。」
「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」
「……自業自得」
ある意味、非常に仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む4人。
数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、〝戻ってきた〟という気持ちが湧き出したからだ。ユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメと同じ気持ちなのだろう。横にいたユエと目が合い、お互いに微笑みを浮かべた。
「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます?輪廻さん? ハジメさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」
輪廻とユエは微笑みあった。
街に入った輪廻達は。
シアの怒鳴ることもなく、ただジッと涙目で見てくるので、流石に気になって溜息を吐くハジメ。楽しい気分に水を差しやがって、と内心文句を言いながらシアに視線を合わせる。
「どうしたんだ? せっかくの町なのに、そんな上から超重量の岩盤を落とされて必死に支えるゴリラ型の魔物みたいな顔して」
「誰がゴリラですかっ! ていうかどんな倒し方しているんですか! 輪廻さんやハジメさんなら一撃でしょうに! 何か想像するだけで可哀想じゃないですか!」
「……脇とかツンツンしてやったら涙目になってた」
「まさかの追い討ち!? 酷すぎる! ってそうじゃないですぅ!」
「これです! この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! 輪廻さん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」
シアが怒っているのは、そういうことらしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられたことが相当ショックだったようだ。もちろん、輪廻とハジメが付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束するような力はない。それは、シアもわかっている。だが、だとしても、やはりショックなものはショックなのだ。
それに対して輪廻は面倒くさそうに
「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろォ? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞォ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだァ?」
言い訳あるなら言ってみろやゴラァ! という感じで輪廻を睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。
「も、もう、輪廻さん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」
調子に乗って話を盛るシアの頬に、ユエの黄金の右ストレートが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった頬をさすりながら起き上がる。
「……調子に乗っちゃだめ」
「……ずびばぜん、ユエざん」
「後、その首輪、きっちり特定量の魔力を流すことで、ちゃんと外せるからなァ?」
「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいという輪廻さんの気持ちというわけですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」
「……調子にのるな」
「ぐすっ、ずみまぜん」
そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。
ハジメは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。
ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、ハジメは、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。
ハジメ達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない四人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。
「さて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」
ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。
「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうだったのか」
オバチャンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。
「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。
「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」
「可愛い子二人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
「一応俺の連れだァ。」
「…ん、私はハジメじゃなくて、輪廻の物」
「ちょ、一応って何ですか!」
「騒がしくてすまんなァ。」
「いやいや、いいんだよ。」
「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。
「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルである。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。
「そうか。まぁ、助かるよ」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
「アァ、そうするぜェ。」
オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」
後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。
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ハジメ達が、もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が〝まさか〟なのか気になったというのもあるが……
宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だァ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいかァ?」
輪廻が見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
「アァ、一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼むわァ」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たる輪廻やハジメとしては譲れないところだ。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 一人部屋から四人部屋が空いてますが……」
ちょっと好奇心が含まれた目で輪廻達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思うハジメ。ユエもシアも美人とは思っていたが、想像以上に二人の容姿は目立つようだ。出会い方が出会い方だったので若干輪廻の感覚が麻痺しているのだろう。
「アァ、一人部屋二つと2人部屋1つで頼むわァ。」
輪廻が躊躇いなく答える。周囲がザワッとなった。女の子も少し頬を赤らめている。だが、そんなハジメの言葉に待ったをかけた人物がいた。
「……ダメ。二人部屋二つで」
ユエだ。周囲の客達、特に男連中が輪廻に向かって「ざまぁ!」という表情をしている。ユエの言葉を男女で分けろという意味で解釈したのだろう。だが、そんな表情は、次のユエの言葉で絶望に変わる。
「……私と輪廻で2人部屋。シアとハジメは別室」
「あぁ、俺はそれでいいぞ、主とユエの邪魔はしたくないからな。」
「ちょっ、何でですか! 私も輪廻さんと同じがいいですよ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」
猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。
「……シアがいると気が散る」
「気が散るって……何かするつもりなんですか?」
「……何って……ナニ?」
「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」
ユエの言葉に、絶望の表情を浮かべた男連中が、次第に輪廻に対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラと輪廻とユエを交互に見ていた。ハジメが、これ以上主が怒る前に、止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。
「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! 輪廻さんと私で一部屋です!」
「……ほぅ、それで?」
指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアは訓練を思い出したのかプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。
「そ、それで、輪廻さんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」
静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発することなく、物音一つ立てない。今や、宿の全員がハジメ達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥から、女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。
ユエが瞳に絶対零度を宿してゆらりと動いた。
「……今日がお前の命日」
「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」
「……師匠より強い弟子などいないことを教えてあげる」
「下克上ですぅ!」
ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。まさに修羅場、一触即発の雰囲気に誰もがゴクリと生唾を飲み込み緊張に身を強ばらせる。
次の瞬間。
「おぃてめぇら、そんなに戦いたかったら俺が相手になってやらァ、それでもここで騒ぐってのかァ?アァ!?。」
と言う言葉と共にユエとシアに雷(怒り的な意味で)が落ちた。
ゴンッゴンッ
「ひぅ!?」
「はきゅ!?」
鉄拳が叩き込まれる音と二人の少女の悲鳴が響き渡った。ユエもシアも、涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。二人にゲンコツを叩き込んだのは、もちろん輪廻である。
「さっさと寝るぞ、それから2人部屋2つで頼むわ。」
翌朝
朝食を食べた後、輪廻は、ユエとシアに金を渡し、旅に必要なものの買い出しを頼んだ。チェックアウトは昼なのでまだ数時間は部屋を使える。なので、ユエ達に買出しに行ってもらっている間に、部屋で済ませておきたい用事があったのだ。
「用事ってなんですか?」
シアが疑問を素直に口にする。しかし、輪廻は、
「アァ、ハジメがちょっと作っておきたいものがあるらしいんだよォ。構想は出来ているし、数時間もあれば出来るはずだ。ホントは昨夜やろうと思っていたんだが……何故か妙に疲れて出来なかったんだとよ。」
「……そ、そうだ。ユエさん。私、服も見ておきたいんですけどいいですか?」
「……ん、問題ない。私は、露店も見てみたい」
「あっ、いいですね! 昨日は見ているだけでしたし、買い物しながら何か食べましょう」
サッと視線を逸らし、きゃいきゃいと買い物の話をし始めるユエとシア。自分達が原因だと分かってはいるが、心情的に非を認めたくないので、阿吽の呼吸で話題も逸らす。
「……お前等、実は結構仲良いだろう」
そんなハジメの呟きも虚しくスルーされるのだった。
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色々あったが、ライセン大渓谷に出発した輪廻達。
死屍累々。
そんな言葉がピッタリな光景がライセン大峡谷の谷底に広がっていた。ある魔物はひしゃげた頭部を地面にめり込ませ、またある魔物は頭部を粉砕されて横たわり、更には全身を炭化させた魔物や、魔物だった灰のような物、死に方は様々だが一様に一撃で絶命しているようだ。
当然、この世の地獄、処刑場と人々に恐れられるこの場所で、こんなことが出来るのは……
「一撃必殺ですぅ!」
ズガンッ!!
「……邪魔」
ゴバッ!!
「うぜぇ」
ドパンッ!!
「双蓮蒼火墜」
ドゴォン
輪廻、ハジメ、ユエ、シアの三人である。ハジメ達はブルックの町を出た後、魔力駆動二輪を走らせて、かつて通った【ライセン大峡谷】の入口にたどり着いた。そして現在は、そこから更に進み、野営もしつつ、【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟も通り過ぎて、更に二日ほど進んだあたりだ。
【ライセン大峡谷】では、相変わらず懲りもしない魔物達がこぞって襲ってくる。
シアの大槌が、その絶大な膂力をもって振るわれ文字通り一撃必殺となって魔物を叩き潰す。攻撃を受けた魔物は自身の耐久力を遥かに超えた衝撃に為す術なく潰され絶命する。餅つきウサギも真っ青な破壊力である。
ユエは、至近距離まで迫った魔物を、魔力に物を言わせて強引に発動した魔法で屠っていく。ユエ自身の魔力が膨大であることもあるが、魔晶石シリーズに蓄えられた魔力が莫大であることから、まるで弾切れのない爆撃だ。谷底の魔力分解作用のせいで発動時間・飛距離共に短くとも、超高温の炎がノータイムで発動するので魔物達は一体の例外もなく炭化して絶命する。
ハジメは、言うまでもない。魔力駆動二輪を走らせながらドンナーで頭部を狙い撃ちにしていく。魔力駆動二輪を走らせながら〝纏雷〟をも発動させ続けるのは相当魔力を消費する行為なのだが、やはり魔力切れを起こす様子はない。
輪廻は、言わなくても分かると思うが、バイク(○ルダの○説の○レワイの○スターバイ○見たいなの。)に乗りながら、破道で魔物を灰にしていく。
谷底に跋扈する地獄の猛獣達が完全に雑魚扱いだった。大迷宮を示す何かがないかを探索しながら片手間で皆殺しにして行く。道中には魔物の死体が溢れかえっていた。
「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」
洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。
「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」
「ま、そうなんだけどな……」
「まァ、しゃァねぇわなぁァ」
「ん……でも魔物が鬱陶しい」
「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」
そんな風に愚痴をこぼし、魔物の多さに辟易しつつも、更に走り続けること三日。その日も収穫なく日が暮れて、谷底から見上げる空に上弦の月が美しく輝く頃、ハジメ達はその日の野営の準備をしていた。野営テントを取り出し、夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、実は全てハジメ謹製のアーティファクトだったりする。
野営テントは、生成魔法により創り出した〝暖房石〟と〝冷房石〟が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれる。また、冷房石を利用して〝冷蔵庫〟や〝冷凍庫〟も完備されている。さらに、金属製の骨組みには〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込んであるので敵に見つかりにくい。
調理器具には、流し込む魔力量に比例して熱量を調整できる火要らずのフライパンや鍋、魔力を流し込むことで〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁などがある。スチームクリーナーモドキなんかもある。どれも旅の食事を豊かにしてくれるハジメの愛し子達だ。しかも、魔力の直接操作が出来ないと扱えないという、ある意味防犯性もある。
〝神代魔法超便利〟
調理器具型アーティファクトや冷暖房完備式野営テントを作った時のハジメの言葉だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技術力である。
ちなみに、その日の夕食はクルルー鳥のトマトハヤシである。クルルー鳥とは、空飛ぶ鶏のことだ。肉の質や味はまんま鶏である。この世界でもポピュラーな鳥肉だ。
それでは、ここで鶏肉を使ったハヤシライスの作り方を、乗せて置きます。(輪廻君独自の作り方なので余り真似はしない方が良いですが、試して見たい方は、近くのスーパーで買ってこよう。)
用意する物は、デミグラスソース(ルーで代用可能)、トマト、鶏ムネ肉、人参、じゃがいも、玉ねぎ、です。
まず、トマトを4分の一のサイズに切り、デミグラスソースと一緒に煮込みます。
煮込んでいる間に、鶏ムネ肉を1口サイズに切り、他の野菜も切ります。ソースが沸騰したら、まずは人参と鶏肉を入れます。その後蓋をして五分ほど煮たら、じゃがいも、玉ねぎを入れ、十数分ほど煮たら完成です。
ご飯と一緒に、入れましょう、失敗して居なければ、きっと美味しいはずです。
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大満足の夕食を終えて、その余韻に浸りながら、いつも通り食後の雑談をするハジメ達。テントの中にいれば、それなりに気断石が活躍し魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。たまに寄ってくる魔物は、テントに取り付けられた窓からハジメや輪廻が手だけを突き出し発砲して処理する。そして、就寝時間が来れば、四人で見張りを交代しながら朝を迎えるのだ。
その日も、そろそろ就寝時間だと寝る準備に入るハジメとユエとシア。最初の見張りは輪廻だ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にもかかわらず快適な睡眠が取れる。と、布団に入る前にシアがテントの外へと出ていこうとした。
訝しそうなと輪廻に、シアがすまし顔で言う。
「ちょっと、お花摘みに」
「谷底に花はねぇぞォ?」
「り・ん・ね・さ~ん!」
デリカシーのない発言にシアがすまし顔を崩しキッとハジメを睨みつける。輪廻はもちろん意味がわかっているので「悪りぃ悪りぃ」と全く悪く思ってなさそうな顔で苦笑いする。ぷんすかと怒りながらテントの外に出て行き、しばらくすると……
「り、輪廻さ〜ん、ハジメさ~ん! ユエさ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」
と、シアが、魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。何事かと、輪廻とハジメとユエは顔を見合わせ同時にテントを飛び出す。
シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。
「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」
「わかったから、取り敢えず引っ張るな。身体強化全開じゃねぇか。興奮しすぎだろ」
「……うるさい」
はしゃぎながらハジメとユエの手を引っ張るシアに、ハジメは少し引き気味に、ユエは鬱陶しそうに顔をしかめる。シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。
その指先をたどって視線を転じるハジメとユエは、そこにあるものを見て「は?」と思わず呆けた声を出し目を瞬かせた。
二人の視線の先、其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟
〝!〟や〝♪〟のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。
「……なんじゃこりゃ」
「……なにこれ」
ハジメとユエの声が重なる。その表情は、まさに〝信じられないものを見た!〟という表現がぴったり当てはまるものだ。二人共、呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめている。
「何って、入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」
能天気なシアの声が響く中、ハジメとシアはようやく硬直が解けたのか、何とも言えない表情になり、困惑しながらお互いを見た。
「……ハジメ、ユエ。マジだと思うかァ?」
「…………………………ん」
「…………………………はい。」
「長ぇ間だな。根拠はァ?」
「「……ミレディ・・・・」」
「やっぱそこだよなァ……」
〝ミレディ〟その名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。
だがしかし、はいそうですかと素直に信じられないのは……
「何でこんなチャラいんだよ……」
そう言う理由である。ハジメとしては、オルクス大迷宮の内での数々の死闘を思い返し、きっと他の迷宮も一筋縄では行かないだろうと想像していただけに、この軽さは否応なくハジメを脱力させるものだった。ユエも、大迷宮の過酷さを骨身に染みて理解しているだけに、若干、まだ誰かのいたずらではないかと疑わしそうな表情をしている。
「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」
そんな輪廻とハジメとユエの微妙な心理に気づくこともなく、シアは、入口はどこでしょう? と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。
「おい、シア。あんまり……」
ガコンッ!
「ふきゃ!?」
〝あんまり不用意に動き回るな〟そう言おうとしたハジメの眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉だ。
「「「……」」」
奇しくも大迷宮への入口も発見したことで看板の信憑性が増した。やはり、ライセンの大迷宮はここにあるようだ。まるで遊園地の誘い文句の様な入口に、「これでいいのか大迷宮」とか「オルクスでのシリアスを返せ」とか言いたいことは山ほどあるが、無言でシアが消えた回転扉を見つめていた輪廻とハジメとユエは、一度、顔を見合わせて溜息を吐くと、シアと同じように回転扉に手をかけた。
扉の仕掛けが作用して、輪廻とハジメとユエを同時に扉の向こう側へと送る。中は真っ暗だった。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、
ヒュヒュヒュ!
無数の風切り音が響いいたかと思うと暗闇の中をハジメ達目掛けて何かが飛来した。ハジメ達の〝夜目〟はその正体を直ぐさま暴く。それは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んできているのだ、が。
「破道の五十八、闐嵐」
輪廻の竜巻によって飛ばされた。
周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。
〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟
〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟
「「「……」」」
ハジメとユエの内心はかつてないほど一致している。すなわち「うぜぇ~」と。わざわざ、〝ニヤニヤ〟と〝ぶふっ〟の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。特に、パーティーで踏み込んで誰か死んでいたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろう。
ちなみに輪廻は無表情だ。
ハジメもユエも、額に青筋を浮かべてイラッとした表情をしている。そして、ふと、ユエが思い出したように呟いた。
「……シアは?」
「「あ」」
ユエの呟きでハジメと輪廻も思い出したようで、慌てて背後の回転扉を振り返る。扉は、一度作動する事に半回転するので、この部屋にいないということは、ハジメ達が入ったのと同時に再び外に出た可能性が高い。結構な時間が経っているのに未だ入ってこない事に嫌な予感がして、輪廻は直ぐに回転扉を作動させに行った。
果たしてシアは……いた。回転扉に縫い付けられた姿で。
「うぅ、ぐすっ、輪廻ざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」
何というか実に哀れを誘う姿だった。シアは、おそらく矢が飛来する風切り音に気がつき見えないながらも天性の索敵能力で何とか躱したのだろう。だが、本当にギリギリだったらしく、衣服のあちこちを射抜かれて非常口のピクトグラムに描かれている人型の様な格好で固定されていた。ウサミミが稲妻形に折れ曲がって矢を避けており、明らかに無理をしているようでビクビクと痙攣している。もっとも、シアが泣いているのは死にかけた恐怖などではないようだ。なぜなら……足元が盛大に濡れていたからである。
「そう言えば花を摘みに行っている途中だったなァ……まぁ、何だ。よくあることだって……」
「ありまぜんよぉ! うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」
女として絶対に見られたくない姿を、よりにもよって惚れた男の前で晒してしまったことに滂沱の涙を流すシア。ウサミミもペタリと垂れ下がってしまっている。もっとも、出会いの時点で百年の恋も覚めるような醜態を見ているので、輪廻としては今更だった。なので、特に目を逸らすこともなく呆れた表情を向けている。それがシアの心を更に抉る。
「……動かないで」
流石に同じ女として思うところがあったのか、ユエが無表情の中に同情を含ませてシアを磔から解放する。
「……あれくらい何とかする。未熟者」
「面目ないですぅ~。ぐすっ」
「……ハジメ、着替え出して」
「あいよ」
〝宝物庫〟からシアの着替えを出してやり、シアは顔を真っ赤にしながら手早く着替えた。
そして、シアの準備も整い、いざ迷宮攻略へ! と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。
顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ! という破壊音を響かせて粉砕される石板。
よほど腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いでドリュッケンを何度も何度も振り下ろした。
すると、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……
〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟
「ムキィーー!!」
シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。
発狂するシアを尻目にハジメはポツリと呟いた。
「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」
「……激しく同意」
「ここ、壊すかァ?」
どうやらライセンの大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所のようだった。
清水君のアンケートは明日の9時頃に締め切りです。
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次回、ライセン大迷宮の崩壊。
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