とある炎剣使い達は世界最強   作:湯タンポ

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こんちわ湯たんぽです。
今回はサクサクッと行きますよー

最近感想が減ってきて、ちょっと寂しさを感じる今日この頃。

注意書き

作者の過度な妄想、願望で出来てる。
作者の好きな物ばかり入ってる。
オリ主二重人格になるかも。
天野河、檜山に対するオリ主の態度がすごいから気をつけて。
天野河、檜山に対するアンチ、ヘイトがスゴいよ。
天の河、檜山が好きな物好きな方は閲覧をお控え下さい。
そろそろ天ノ川がオリ主に殺されそう。
輪廻君が何言ってるか解らなくても気にしないで。
東方要素が出てきたぞ!。
呼吸が出てきたぞ!
何か輪廻君のヒロイン十五人ぐらいになりそう!(現時点、後に更に増える。)
輪廻君むっちゃちーと。
輪廻君の愛子への当たりが結構強いよ。

それでもいいよと言う方のみご覧下さい。


第三章
第11話 フェーレンと再開


中立商業都市フューレン

 

 

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

 

 

 そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞くハジメ達。話しているのは案内人と呼ばれる職業の女性だ。都市が巨大であるため需要が多く、案内人というのはそれになりに社会的地位のある職業らしい。多くの案内屋が日々客の獲得のためサービスの向上に努めているので信用度も高い。

 

 

 

 輪廻達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

 

 

 

 そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

 

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「そりゃそうか。そうだな、飯が上手くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」

 

 

 

 リシーは、にこやかにハジメの要望を聞く。最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。しかし、続くハジメの言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

 

 

「あの~、責任の所在ですか?」

 

「ああ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかということだな。どうせならいい宿に泊りたいが、そうすると備品なんか高そうだし、あとで賠償額をふっかけられても面倒だろ」

 

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

 

 

 

 困惑するリシーにハジメは苦笑いする。

 

 

 

「まぁ、普通はそうなんだろうが、うちの主の連れが目立つんでな。観光区なんてハメ外すヤツも多そうだし、商人根性逞しいヤツなんか強行に出ないとも限らないしな。まぁ、あくまで〝出来れば〟だ。難しければ考慮しなくていい」

 

 

 

 ハジメの言葉に、リシーは、輪廻の周りに座りうまうまと軽食を食べるユエとシアとミレディに視線をやる。そして、納得したように頷いた。確かに、この美少女三人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアの方は兎人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

 

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

 

「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだヤツってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」

 

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 

 

 

 完全にハジメの意図を理解したリシーは、あくまで〝出来れば〟でいいと言うハジメに、案内人根性が疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、ユエとシアとミレディの方に視線を転じ、三人にも要望がないかを聞いた。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。

 

 

 

「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」

 

「あ〜、ミレディちゃんも、お風呂は欲しいかなぁ〜、勿論混浴貸切で、あ、ハジメンはダメだよ?」

 

「えっと、大きなベッドがいいです」

 

 

 

 少し考えて、それぞれの要望を伝えるユエとミレディとシア。なんてことない要望だが、ユエとミレディが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。そして、チラッチラッと輪廻とユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

 

 

 

 ちなみに、すぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中が「視線で人が殺せたら!」と云わんばかりに輪廻を睨んでいたが、どうでもよかったので、輪廻は普通にスルーした。

 

 

 

 それから、他の区について話を聞いていると、輪廻達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエとミレディに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアとミレディだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

 

 

 

 ハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアとミレディを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 

 

 ハジメが、「面倒な」と思うと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。輪廻やハジメが逃げる事などないだろうが。

 

 

 

 リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともブタ男が目立つのか、傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 

 

 

 ブタ男は、輪廻達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアとミレディをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかった輪廻とハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

 

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪2人はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて、ブタ男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエとミレディは自分のものになっているようだ。その瞬間、その場に凄絶な殺意威圧が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死に輪廻とハジメから距離をとり始めた。

 

 

 

 ならば、直接その殺気を受けたブタ男はというと……「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

 

 

 ハジメが本気の殺気をぶつければ、おそらく瞬時に意識を刈り取っただろうが、それでは意味がないので十分に手加減している。輪廻の場合は、本気の殺気を出したら多分死にます。殺気が盛れ出してるだけです。

 

 

 

「ハジメ、ユエ、ミレディ、シア、場所を変えるぜェ、」

 

 

 

 汚い液体が漏れ出しているので、輪廻はハジメ達に声をかけて席を立つ。本当は、即殺したかったのだが、流石に声を掛けただけで殺されたとあっては、輪廻の方が加害者だ。殺人犯を放置するほど都市の警備は甘くないだろう。基本的に、正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては半殺し程度を限度にしようと輪廻は考えていた。別に殺してもいいんだけどね。

 

 

 

 席を立つ輪廻達に、リシーが「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。リシーがハジメの殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ〝威圧〟の対象外にしたからだ。周囲に気づかせずにモットーにだけピンポイントで〝威圧〟した時の逆バージョンである。鍛錬のたまものだ。リシーからすれば、ブタ男が勝手なことを言い出したと思ったら、いきなり尻餅をついて股間を漏らし始めたのだから混乱するのは当然だろう。

 

 

 

 ちなみに、周囲にまで〝威圧〟の効果が出ているのはわざとである。周囲の連中もそれなりに鬱陶しい視線を向けていたので、序でに理解させておいたのだ。〝手を出すなよ?消すぞ?〟と。周囲の男連中の青ざめた表情から判断するに、これ以上ないほど伝わったようだ。

 

 

 

 だが、〝威圧〟を解きギルドを出ようとした直後、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

 

 

 その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

 

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

 

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

 

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

 

 

 どうやら、レガニドと呼ばれた巨漢は、ブタ男の雇われ護衛らしい。輪廻から目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。珍しい事にユエ達は眼中にないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついているようだ。

 

 

 

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 

 

 レガニドはそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだ。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。

 

 

 

「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」

 

「〝暴風〟のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

 

「金払じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」

 

 

 

 周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察したハジメ。天職持ちなのかどうかは分からないが冒険者ランクが〝黒〟ということは、上から三番目のランクということであり、相当な実力者ということだ。だが、輪廻にそんなのは関係ない。

 

「ォイ!ハジメェ、また糞餓鬼共が喚いてるぜェ、殺していいよなァ」

 

「えぇ、いいんじゃ無いでしょうか?あっちから攻撃してくるんですから、正当防衛が通じますよ。」

 

「じゃァ早速殺すとするかァ。」

 

レガニドから闘気が噴き上がる。輪廻が、これなら正当防衛を理由に半殺しにしても問題ないだろうと、刀を振るおうとした瞬間、意外な場所から制止の声がかかった。

 

 

 

「……輪廻、待って」

 

「どうしたユエ?」

 

 

 

 ユエは、隣のシアを引っ張ると、輪廻の疑問に答える前に、輪廻とレガニドの間に割って入った。訝しそうな輪廻とレガニドに、ユエは背を向けたまま答える。

 

 

 

「……私達が相手をする」

 

「えっ? ユエさん、私もですか?」

 

「えー、でもミレディちゃんがあれ使えば直ぐ終わっちゃうよー?」

 

「……それでいい。」

 

 シアの質問はさらり無視するユエ。ユエの言葉に、輪廻が返答するよりも、レガニドが爆笑する方が早かった。

 

 

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ? 夜の相手でもして許してもらおうって『……黙れ、ゴミクズ』ッ!?」

 

 

 

 下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れたようだ。レガニドは、ユエの言葉通り黙り込む。ユエの魔法が速すぎて、全く反応できなかったのだ。心中では「いつ詠唱した? 陣はどこだ?」と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

 

 

 

 ユエは何事もなかったように、輪廻と、未だ、ユエの意図が分かっていないシアに向けて話を続ける。

 

 

 

「……私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

 

「……そう。せっかくだから、これを利用する」

 

 

 そう言ってユエは、先程とは異なり厳しい目を向けているレガニドを指差した。が、輪廻から制止が掛かった。

 

「おいユエェ、お前らは黙って守られとけェ、それに試して見たい事も有るしなァ。」

 

ユエも輪廻にそこまで言われては反論出来ない。と言うか後ろの3人は、揃って顔を紅潮させている。

 

「……ん、輪廻がそこまで言うなら。…」

 

「仕方ないなー、ミレディちゃんも殺りたかったけど、輪廻がそう言うなら仕方ない。」

 

「し、仕方無いですぅ、輪廻さんがそこまで言うなら仕方ないですぅ!」

 

「お前ら、表情隠すのに必死じゃねぇか。」

 

ユエ達は、輪廻に守る宣言されて嬉しそうだが、必死にそれを隠している。

 

「話し合いは終わったかい?坊主達。」

 

「アァ、てめぇらから来いよォ。」

 

「なら、行かせて貰うぞ。竜巻剣!」

 

ガキィン、

 

「ちっ、ならこれだ!来風剣!」

 

かれこれ5分、全ての技を出し切った、何とかコンとか。

 

「はぁ、はぁ、」

 

「おいィ、ちまちました小ネタはもう品切れかァ?」

「ひっ」

「何だよその面はよォ、こっちのテンションが下がっちまうだろうがァ。なァ!」

ドゴォォォォォォォォン

「喜べよォ、いいベットが見つかったぜェ!」

ドガァァァァァン

「がハッ」

輪廻はレガニドの胸に手を置いたままこう言った。

「人間の身体の中に生体電気ってのが流れてるの知ってるかァ?ちょっとばかし、弄ってやったから楽しめよォ!」

ビリビリビリビリ

「がァァァァァァァァァァごフッ。」

「ちっとは楽しそうな顔しろよォ、まァ無理かァ、このベットは寝心地悪そうだもんなァ。」

 

苛烈にして凶悪な攻撃に、後ろで様子を伺っていたハジメ達をして「おぅ」と悲痛な震え声を上げさせたほどだ。

 

 

 

 あり得べからざる光景の二連発。そして容赦のなさにギルド内が静寂に包まれる。誰も彼もが身動き一つせず、輪廻達を凝視していた。よく見れば、ギルド職員らしき者達が、争いを止めようとしたのか、カフェに来る途中で輪廻の方へ手を伸ばしたまま硬直している。様々な冒険者達を見てきた彼等にとっても衝撃の光景だったようだ。

 

 

 

 誰もが硬直していると、おもむろに静寂が破られた。輪廻が、ツカツカと歩き出したのだ。ギルド内にいる全員の視線が輪廻に集まる。ハジメの行き先は……ブタ男のもとだった。

 

 

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

「……地球の全ゆるキャラファンに土下座して謝れェ、ブタがァ」

 

 

 

 輪廻は、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。

 

 

 

「プギャ!?」

 

 

 

 文字通り豚のような悲鳴を上げて顔面を靴底と床にサンドイッチされたプームはミシミシとなる自身の頭蓋骨に恐怖し悲鳴を上げた。すると、その声がうるさいとでも言うように、鳴けば鳴くほど圧力が増していく。顔は醜く潰れ、目や鼻が頬の肉で隠れてしまっている。やがて、声を上げるほど痛みが増す事に気が付いたのか、大人しくなり始めた。単に体力が尽きただけかもしれないが。

 

 

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次は消す。」

 

 

 

 プームは輪廻の靴底に押しつぶされながらも、必死に頷こうとしているのか小刻みに震える。既に、虚勢を張る力も残っていないようだ。完全に心が折れている。しかし、その程度で、あっさり許すほど輪廻は甘くはない。〝喉元過ぎれば熱さを忘れる〟というように、一時的な恐怖だけでは全然足りない。殺しの選択が得策でない以上、代わりに、その恐怖を忘れないように刻まねばならない。

 

 

 

 なので、少し足を浮かせると、輪廻は錬成により靴底からスパイクを出し、再度勢いよく踏みつけた。

 

 

 

「ぎゃぁああああああ!!」

 

 

 

 スパイクが、プームの顔面に突き刺さり無数の穴を開ける。更に、片目にも突き刺ささったようで大量の血を流し始めた。プーム本人は、痛みで直ぐに気を失う。ハジメが足をどけると見るも無残な……いや、元々無残な顔だったので、あまり変わらないが、取り敢えず血まみれのプームの顔が晒された。

 

 

 

 輪廻は、どこか清々しい表情でユエ達の方へ歩み寄る。ユエとシアとミレディも、微笑みで輪廻を迎えた。そして、ハジメは、すぐ傍で呆然としている案内人リシーにも笑いかけた。

 

 

 

「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むよ」

 

「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」

 

 

 

 ハジメの笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシー。その表情は、明らかに関わりたくないと物語っていた。それくらい、ハジメ達は異常だったのだ。ハジメも何となく察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒なので、リシーを逃がすつもりはなかった。ハジメの意図を悟って、ユエとシアがリシーの両脇を固め、ミレディが後ろに付く。「ひぃぃん!」と情けない悲鳴を上げるリシー。

 

 

 

 と、そこへ彼女にとっての救世主、ギルド職員が今更ながらにやって来た。

 

 

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 

 

 そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員が輪廻達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。

 

 

 

「そうは言ってもな、あのブタが俺の主の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから主が返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

 

 

 ハジメがそう言いながら、周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。

 

 

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

 

「当事者双方……ね」

 

 

 

 ハジメはチラリとプームとレガニドの二人を見る。当分目を覚ましそうになかった。ギルド職員が治癒師を手配しているようだが、おそらく二、三日は目を覚まさないのではないだろうか。

 

 

 

「あれが目を覚ますまで、ずっと待機してろって? 被害者の俺達が? ……いっそ都市外に拉致って殺っちまうか?」

 

 

 

 ハジメが非難がましい視線をギルド職員に向ける。典型的なクレーマーのような物言いにギルド職員の男性が、「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろぉ」という自棄糞気味な表情になった。そして、ぼそりと呟かれたハジメの最後のセリフが耳に入り、慌てて止めに入る。

 

 

 

 ハジメが、仕方なく、プームとレガニドの二人に対して激痛を以て強制的に意識を取り戻させるかと歩み寄ろうとし、それを職員が止めようと押し問答していると、突如、凛とした声が掛けられた。

 

 

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。

 

 

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

 

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、輪廻達に鋭い視線を向けた。

 

 

 

 どうやら、まだまだ解放はされないようだ。

 

その後、あの時のギルドのおばちゃんの手紙が、有効過ぎて騒いだりして、何やかんや有り、輪廻達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。輪廻の返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

 

 

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。輪廻君、ハジメ君、ユエ君、シア君、ミレディ君、……でいいかな?」

 

 

 

 簡潔な自己紹介の後、輪廻達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。輪廻も握手を返しながら返事をする。

 

 

 

「アァ、構わねぇ。名前は手紙かァ?」

 

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

 

「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」

 

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

 

 

 どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったようだ。随分と信用がある。キャサリンを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。ユエのの隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。

 

 

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

 

「……キャサリンすごい」

 

「すごいねぇ。」

 

「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めておこう」

 

「アァ、それ以上触れるのは辞めておけェ。」

 

 聞かされたキャサリンの正体に感心するハジメ達。想像していたよりずっと大物だったらしい。もっとも、ハジメは若干、時間の残酷さに遠い目をしていたが。

 

 

 

「まぁ、それはそれとして、問題ないならもう行っていいよなァ?」

 

 

 

 元々、身分証明のためだけに来たわけなので、用が終わった以上長居は無用だと輪廻がイルワに確認する。しかし、イルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」と輪廻達を留まらせる。何となく嫌な予感がするハジメ。

 

 

 

 イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書を輪廻達の前に差し出した。

 

 

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「受けてやってもいいぜェ。」

「本当かい?それなら「但し条件着きだァ」……なんだい?」

「アァ、そんなに難しいことじゃねェ。ユエとシアとミレディにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ることォ。この二つだなァ」

 

「それはあまりに……」

 

「出来ねぇなら、この話はなしだァ。もう行かせてもらう。」

 

 

 席を立とうとする輪廻とハジメに、イルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。一つ目の条件は特に問題ないが、二つ目に関しては、実質、フューレンのギルド支部長が二人の冒険者の手足になるようなものだ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。

 

 

 

「何を要求する気かな?」

 

「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ? ただ俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられると……いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっとそう思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」

 

「指名手配されるのが確実なのかい? ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君とミレディ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」

 

 

 

 流石、大都市のギルド支部長。頭の回転は早い。イルワは、しばらく考え込んだあと、意を決したように輪廻とハジメに視線を合わせた。

 

 

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」

 

「まぁ、そんなところだろうな……それでいい。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

 

 

 輪廻やハジメとしては、ユエ達のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 

 

 

 問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、輪廻達の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので、輪廻は、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。

 

 

 

 イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。

 

 

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……輪廻君、ハジメ君、ユエ君、ミレディ君、シア君……宜しく頼む」

 

 

 

 イルワは最後に真剣な眼差しで輪廻達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 

 

 

 そんなイルワの様子を見て、輪廻達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

 

 

「さっさと行くぜェ。」

 

「あいよ」

 

「……ん」

 

「はいはーい。」

 

「はいっ」

 

ウルの街に向かって居るのだが………

 

「行くぞハジメェ!米じゃ! 米じゃ!戦争じゃァ!」

 

「おう!かっ飛ばすぜえ!」

 

これ絶対、両方ともバイクのスピード時速三百キロ超えてるわ。

 

「……こんなハジメと輪廻見たことない。」

 

「おう、ミレディちゃんもそう思うぞい。」

 

「これ絶対テンション可笑しくなっちゃってる奴ですぅ!」

 

 

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 

 

 悄然と肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして教師、畑山愛子だ。普段の快活な様子がなりを潜め、今は、不安と心配に苛まれて陰鬱な雰囲気を漂わせている。心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすら、いつもより薄暗い気がする。

 

 

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

 

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 

 

 元気のない愛子に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の園部優花だ。周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に愛子を気遣うような言葉をかけた。

 

 

 

 クラスメイトの一人、清水幸利が失踪してから既に二週間と少し。愛子達は、八方手を尽くして清水を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

 

 

 当初は事件に巻き込まれたのではと騒然となったのだが、清水の部屋が荒らされていなかったこと、清水自身が〝闇術師〟という闇系魔法に特別才能を持つ天職を所持しており、他の系統魔法についても高い適性を持っていたことから、そうそう、その辺のゴロツキにやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

 

 

 元々、清水は、大人しいインドアタイプの人間で社交性もあまり高くなかった。クラスメイトとも、特別親しい友人はおらず、愛ちゃん護衛隊に参加したことも驚かれたぐらいだ。そんなわけで、既に愛子以外の生徒は、清水の安否より、それを憂いて日に日に元気がなくなっていく愛子の方が心配だった。護衛隊の騎士達に至っては言わずもがなである。

 

 

 

 ちなみに、王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来るようだ。清水も、魔法の才能に関しては召喚された者らしく極めて優秀なので、ハジメの時のように、上層部は楽観視していない。捜索隊が到着するまで、あと二、三日といったところだ。

 

 

 

 次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は内心で自分を殴りつけた。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配であることに変わりはない。しかし、それを表に出して、今、傍にいる生徒達を不安にさせるどころか、気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか! と。愛子は、一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

 

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 

 

 無理しているのは丸分かりだが、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。騎士達は、その様子を微笑ましげに眺めた。

 

 

 

カランッカランッ

 

 

 

 そんな音を立てて、愛子達は、自分達が宿泊している宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿だ。名を〝水妖精の宿〟という。昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来だそうだ。ウルディア湖は、ウルの町の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

 

 

 〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。内装は、落ち着きがあって、目立ちはしないが細部までこだわりが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。また、天井には派手すぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。〝老舗〟そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

 

 

 当初、愛子達は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、〝神の使徒〟あるいは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始めている愛子や生徒達を普通の宿に止めるのは外聞的に有り得ないので、騎士達の説得の末、ウルの町における滞在場所として目出度く確定した。

 

 

 

 元々、王宮の一室で過ごしていたこともあり、愛子も生徒達も次第に慣れ、今では、すっかりリラックス出来る場所になっていた。農地改善や清水の捜索に東奔西走し疲れた体で帰って来る愛子達にとって、この宿でとる米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

 

 

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

 

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

 

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

 

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

 

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

 

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 

 

 極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、ウルディア湖で取れる魚、山脈地帯の山菜や香辛料などもある。

 

 

 

 美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

 

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

 

「あ、オーナーさん」

 

 

 

 愛子達に話しかけたのは、この〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオである。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

 

 

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

 

 

 愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

 

 

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

 

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 

 

 カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返した。

 

 

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

 

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

 

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

 

「それは、心配ですね……」

 

 

 

 愛子が眉をしかめる。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。フォスは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

 

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

 

「どういうことですか?」

 

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 

 

 愛子達はピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ。同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのである。騎士達の頭には、有名な〝金〟クラスの冒険者がリストアップされていた。

 

 

 

 愛子達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男2人の声と少女三人の声だ。何やら少女の一人が男の1人に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスだ。

 

 

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

 

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

そうこうしている内に、5人の男女は話ながら近づいてくる。

 

 

 

 愛子達のいる席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになって更に目立つようになったため、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 

 そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

「もう!だから私を放置しないでください!そうやって直ぐにユエさんやミレディさんと、三人の世界を作らないで下さい!"ハジメさん”達も何か言ってくださいよ!」

 

「主よ、少しはシアの事を見てあげるべきでは?。」

「そーだよ〜少しはシアちゃんの事も見てあげなよ〜”輪廻”。」

 

「チッ、めんどくせえなァ、」

「輪廻、メッ」

「シャアねぇなァ。」

その会話の内容に、そして少女の声が呼ぶ名前に、愛子の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。彼女達は今何といった? 少年を何と呼んだ? 少年の声は、〝あの少年達〟の声に似てはいないか? 愛子の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあったように硬直しながら、カーテンを視線だけで貫こうとでも言うように凝視する。

 

 

 

 それは、傍らの園部優花や他の生徒達も同じだった。彼らの脳裏に、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった、とある少年達が浮かび上がる。クラスメイト達に〝異世界での死〟というものを強く認識させた少年達、消したい記憶の根幹となっている少年、良くも悪くも目立っていた少年達。

 

 

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、愛子がポツリとその名を零した。

 

 

 

「……南雲君?十五夜?」

 

 

 

 無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

 

 

シャァァァ!!

 

 

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる5人の少年少女。

 

 

 

 愛子は、相手を確認する余裕もなく叫んだ。大切な教え子達の名前を。

 

 

 

「南雲君!」

 

「あぁ? ……………………………………………先生?」

 

「誰だテメェ?」

愛子の目の前にいたのは、片目を大きく見開き驚愕をあらわにする、眼帯をした白髪の少年と、紅眼の白髪の少年(実際は自分より歳上。)

記憶の中にある南雲ハジメとは大きく異なった外見だ。外見だけでなく、雰囲気も大きく異なっている。愛子の知る南雲ハジメは、何時もどこかボーとした、穏やかな性格の大人しい少年だった。実は、苦笑いが一番似合う子と認識していたのは愛子の秘密である。だが、目の前の少年は鷹のように鋭い目と、どこか近寄りがたい鋭い雰囲気を纏っている。あまりに記憶と異なっており、普通に町ですれ違っただけなら、きっと目の前の少年を南雲ハジメだとは思わなかっただろう。

 

 

 

 だが、よくよく見れば顔立ちや声は記憶のものと一致する。そして何より……目の前の少年は自分を何と呼んだのか。そう、〝先生〟だ。愛子は確信した。外見も雰囲気も大きく変わってしまっているが、目の前の少年は、確かに自分の教え子である〝南雲ハジメ〟であると!

 

 

 

「南雲君…十五夜君…やっぱり南雲君なんですね? 生きて……本当に生きて…」

 

「いえ、人違いです。では」

 

「人違いだなァ。」

 

「へ?」

 

 

 死んだと思っていた教え子達と奇跡のような再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

 

思わず間抜けな声を上げて、涙も引っ込む愛子。スタスタと宿の出口に向かって歩き始めたハジメ達を呆然と見ると、ハッと正気を取り戻し、慌てて追いかけ袖口を掴んだ。

 

 

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

 

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で〝チッコイ〟て意味だ。うん」

 

「流石にそれは無理だなァ。」

 

「それはそれで、物凄く失礼ですよ! ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか? それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

 

 

 

 愛子の怒声がレストランに響き渡る。幾人かいた客達も噂の〝豊穣の女神〟が男に掴みかかって怒鳴っている姿に、「すわっ、女神に男が!?」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 

 

 

 生徒達はハジメと輪廻の姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。それは、生きていたこと自体が半分、ハジメの外見と雰囲気の変貌が半分といったところだろう。だが、どうすればいいのか分からず、ただ呆然と愛子と輪廻とハジメを見つめるに止どまっていた。

 

 

 

 一方で、ハジメはというと見た目冷静なように見えるが、内心ではプチパニックに襲われていた。まさか偶然知り合ったギルド支部長から持ち込まれた依頼で来た町で、偶然愛子やクラスメイトと再会するなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 

 

 あまりに突発的な出来事だったため、つい〝先生〟などと呟いてしまい、挙句自分でも「ないわぁ~」と思うような誤魔化しをしてしまった。愛子の怒涛の質問攻めに内心でライフカードを探るが、〝逃げる〟〝人違いで押し通す〟〝怪しげな外国人になる〟〝愛ちゃんを攫っていく〟という碌でもないカードしか出てこない。特に最後のは意味不明だった。

 

 

 

 と、そこでハジメを救ったのは、自分が全幅の信頼を置いており、忠誠を誓っている、主だった、輪廻はハジメに近づくと、ハジメの腕を掴む愛子の手を叩き払った払った。その際、護衛騎士達が僅かに殺気立つ。

 

「でだァ、結局てめぇは誰だ。」

 

「だ、誰って、先生ですよ?まさか覚えて無いんですか?」

 

「アァ、覚えてねぇ。」

 

「即答!?」

 

「「それよりオーナー、ニルシッシル(異世界版カレー)5人前だ。」」

 

「えぇ、わかりました、ですが、今日は1杯限りとさせていただきます。」

 

「アァ、出来るだけ早くしてくれ。」

 

輪廻達は困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。

 

 だが、当然、そこで待ったがかかる。輪廻とハジメがあまりにも自然にテーブルにつき何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実にわかりやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。

 

 

 

「十五夜、南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

 

 

 愛子の言い分は、その場の全員の気持ちを代弁していたので、ようやく輪廻とハジメが四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の教え子であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も、皆一様に「うんうん」と頷き、輪廻とハジメの回答を待った。

 

 

 

 ハジメは少し面倒そうに眉をしかめるが、どうせ答えない限り愛子が持ち前の行動力を発揮して喰い下がり、落ち着いて食事も出来ないだろうと想い、仕方なさそうに視線を愛子に戻した。

 

 

 

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

 

 

 

 ハジメが視線をユエとシアに向けると、二人は、ハジメが話す前に、愛子達にとって衝撃的な自己紹介した。

 

 

 

「……ユエ」

 

「シアです」

 

「ミレディたんだよぉ〜」

 

「輪廻の女」「輪廻さんの女ですぅ!」「輪廻君の女だよ〜。」

 

「お、女?」

 

 愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」と輪廻と三人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアとミレディを忙しなく見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「おい、ユエとミレディはともかく、シア。てめぇは違うだろうがァ?」

 

「そんなっ! 酷いですよ輪廻さん。私のファーストキスを奪っておいて!」

 

「いや、何時まで引っ張んだァ。あれはきゅ『十五夜君?』……何だチビ?」

 

 シアの〝ファーストキスを奪った〟という発言で、遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の声が一段低くなる。愛子の頭の中では、輪廻が三人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されているようだった。表情がそれを物語っている。

 

 顔を真っ赤にして、輪廻の言葉を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。そして、〝先生の怒り〟という特大の雷が、ウルの町一番の高級宿に落ちる。

 

 

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、さ、三股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、十五夜君!」

 

しかし、輪廻には効果が無かった。

「おいハジメェ、このさっきからクソうるせぇガキは誰だァ?」

 

「な、が、ガキじゃ有りません!いくら恍けるためと言ったって、言って良いことと、悪いことぐらい分かるでしょう!?」

 

「うるせぇっつってんだろうが、"クソ餓鬼”」

 

「お前!愛子になんと言う口の利き方だ!」

 

「うるせぇ、人が飯食ってんだ、黙れやァ、行儀悪りぃぞォ?」

「この!」

「デビットさん、待ってください、まだ聞きたい事が有るんです!。」

 

輪廻とハジメは、目の前の今日限りというニルシッシル(異世界版カレー)。に夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。

 

 

 

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

 

A、超頑張った

 

Q、なぜ白髪なのか

 

A、超頑張った結果

 

Q、その目はどうしたのか

 

A、超超頑張った結果

 

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

 

A、戻る理由がない

 

A、そう言えばハジメ、煙草の使い心地はどうだ

 

A、良いですね。非常に。

 

 

 そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。全く、迫力がないのが物悲しい。案の定、輪廻とハジメには柳に風といった様子だ。目を合わせることもなく、美味そうに、時折ユエやシアやミレディと感想を言い合いながらニルシッシルに舌鼓を打つ。表情は非常に満足そうである。

 

 

 

 その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

 

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

 

 

 輪廻は、チラリとデビッドを見ると、はぁと溜息を吐いた。

 

 

 

「さっきも言ったがなァ、食事中だぞ? 行儀よくしろやァ。」

 

 

 

 全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さない輪廻から矛先を変え、その視線がシアに向く。

 

 

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

 

 

 侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、キャサリンと親しくしていたこと、輪廻の存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。

 

 

 

 つまり、輪廻達と旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し、外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあった。シュンと顔を俯かせるシア。

 

 

 

 よく見れば、デビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなろうと、神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず、亜人族に対する差別意識が強いということでもある。何せ、差別的価値観の発信源は、その聖教教会と国なのだから。デビッド達が愛子と関わるようになって、それなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。

 

 

 

 あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず愛子が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエとミレディが絶対零度の視線をデビッドに向ける。最高級ビスクドールのような美貌の少女に体の芯まで凍りつきそうな冷ややかな眼を向けられて、デビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女達に気圧されたことに逆上する。普段ならここまでキレやすい人間ではないのだが、思わず言ってしまった言葉に、愛しい愛子からも非難がましい視線を向けられて軽く我を失っているようだった。

 

 

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

 

 

 思わず立ち上がるデビッドを、副隊長のチェイスは諌めようとするが、それよりも早く、ユエとミレディの言葉が騒然とする場にやけに明瞭に響き渡った。

 

 

 

「……小さい男」

 

「相変わらず、あれの信者はクソだねぇ。」

 

 それは嘲りの言葉。たかが種族の違い如きで喚き立て、少女達の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。

 

 

 

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

 

 

 無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

 

その瞬間。

 

ガシッ

 

「これを言うのは2度目なんだかなァ、人間の身体の中に生体電気ってのが有るのを知ってるかァ?今回はちょっとじゃなくて、だいぶいじらせてもらったぜェ、せいぜい楽しめよォ!」

ビリィ!

「がァァァァァァァァァァぐふっ。」

ゴトッ

「デビットさん!?十五夜君!何をしたんですか!?」

 

「ァ?うるせぇんだよォ!クソ餓鬼が!チッ、これでも吸わないとやってけねぇぜ、」

そう言って輪廻は煙草を加え火をつけた。(湯○婆みたいな付け方。指に火を灯して、煙草に付けた。)

「ハジメも一緒にどうだァ?食い終わっただろォ?」

「えぇ。ご一緒させていただきます。」

そう言って輪廻達は煙草に火を付けたまま、外に出ようとする。これが何時ものご飯の後の一服だ。しかし、今回はそれを邪魔するものがいた。

「こらー!何で煙草なんて、吸ってるんですか!ダメですよ!」

愛子はそう言うと、輪廻とハジメが吸っている煙草を取り上げた。

「てめぇ、何時まで俺たちの邪魔をすんだァ!人が何しようが勝手だろうが!このクソ餓鬼が!次に邪魔したら殺すぞ!」

輪廻はそう言うともう一本取り出し火を付けた。

「だから辞めなさいって!」

愛子は輪廻の煙草を取ろうとするが、今度は輪廻は座りながらでは無く、立って吸っているので、どう足掻いても愛子は、身長194cmの輪廻には届かない。

 

そして、輪廻が吸い終わったら、

「そろそろ寝るぞォ。」

と、2階に上がって行った。

 

ーー

 

夜明け。

 

 

 

 月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、輪廻、ハジメ、ユエ、ミレディ、シアの5人はすっかり旅支度を終えて、〝水妖精の宿〟の直ぐ外にいた。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスが用意してくれたものだ。流石は高級宿、粋な計らいだと感心しながら輪廻達は遠慮なく感謝と共に受け取った。

 

 

 

 朝靄が立ち込める中、ハジメ達はウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯に続く街道が伸びているのだ。馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう。

 

 

 

 ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。輪廻とハジメも、ウィル達が生きている可能性は低いと考えているが、万一ということもある。生きて帰せば、イルワのハジメ達に対する心象は限りなく良くなるだろうから、出来るだけ急いで捜索するつもりだ。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

 

 

 幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、ハジメはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

 

 

 

 朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

 

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

 

 

 ハジメ達が半眼になって愛子に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする愛子だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も愛子の傍に寄ってくる。

 

 

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

 

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

 

「な、なぜですか?」

 

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

 

 

 見れば、愛子達の背後には馬が人数分用意されていた。一瞬、こいつ等乗馬出来るのか? と疑問に思ったハジメだが、至極どうでもいいことなのでスルーする。乗れようが乗れまいが、どちらにしろ魔力駆動車の速度に敵うはずがないのだ。だが、ハジメの物言いにカチンと来たのか愛ちゃん大好き娘、親衛隊の実質的リーダー園部優花が食ってかかる。どうやら、昨日のハジメの威圧感や負い目を一時的に忘れるくらい愛ちゃん愛が強いらしい。

 

 

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? 南雲が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

 

 

 何とも的外れな物言いに、ハジメは「はぁ?」と呆れた表情になった。ハジメは説明するのも面倒くさいと、無言で〝宝物庫〟から魔力駆動二輪を取り出す。輪廻も能力を使い、超大型バイクを出す。

 

 

 

 突然、虚空から2台のバイクが出現し、ギョッとなる愛子達。

 

 

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

「ハジメ、俺達は先に行く。そいつらは出来るだけ連れてくんな。そのクソ餓鬼うるせぇから。」

「分かりました、直ぐに俺も追いかけます。」

「アァ。」そう言うと輪廻は前にユエを乗せ、後ろにミレディ、その後ろにシアを乗せて、走り去って言った。

 

「と、言うわけだ、じゃあな、」

 

「待ってください南雲君、先生は先生として、どうしても南雲君からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか? 移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、南雲君の言う通り、この町でお別れできますよ……一先ずは」

しかし、輪廻によって鍛えられた精神力は凄い。

「そんなのは知らねぇよ、そんな事は今俺にとってどうでもいい、今俺が1番に成すべきことは、主の後を追い掛けて、依頼を達成する事。じゃあな、」ブルルルルン

そう言って走り去って行った。

 

 




そして、着いていけなかった、愛子達。

ティオの所まで行けなかったww
冒頭でも書いたけど最近感想が減って来た。みんな忙しいのかしら?
と言うわけで、感想と高評価お願いします。
次回、多分清水君所まで行くと思う。

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