とある炎剣使い達は世界最強   作:湯タンポ

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こんばんは湯たんぽです。
今回は1番長いよ。
優花ちゃんには、チョロインになってもらった!ごめんなさいこれぐらいしか思い付かなかったんです。

輪廻君のちーとにさらに磨きがかかった。

あと今アンケートやってまぁす。魔人族襲来は霊夢達視点でやりますけど、その他はまだ未定ですので。見たい方が多ければやります。

注意書き

作者の過度な妄想、願望で出来てる。
作者の好きな物ばかり入ってる。
オリ主二重人格になるかも。
天野河、檜山に対するオリ主の態度がすごいから気をつけて。
天野河、檜山に対するアンチ、ヘイトがスゴいよ。
天の河、檜山が好きな物好きな方は閲覧をお控え下さい。
そろそろ天ノ川がオリ主に殺されそう。
輪廻君が何言ってるか解らなくても気にしないで。
東方要素が出てきたぞ!。
呼吸が出てきたぞ!
何か輪廻君のヒロイン十五人ぐらいになりそう!(現時点、後に更に増える。)
輪廻君むっちゃちーと。
輪廻君の愛子への当たりが結構強いよ。

それでもいいよと言う方のみご覧下さい。



第12話 黒竜と偽善

 

 

 

 

「はっ、皆さん南雲くん達を追いかけますよ!」

 

北の山脈地帯

 

 

 標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

 

 

 

 また、普段見えている山脈を越えても、その向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっている。現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域である。何処まで続いているのかと、とある冒険者が五つ目の山脈越えを狙ったことがあるそうだが、山を一つ越えるたびに生息する魔物が強力になっていくので、結局、成功はしなかった。

 

 

 ちなみに、第一の山脈で最も標高が高いのは、かの【神山】である。今回、ハジメ達が訪れた場所は、神山から東に千六百キロメートルほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識あるものが目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見することができる。ウルの町が潤うはずで、実に実りの多い山である。

 

ハジメは輪廻たちと合流した。

 

ハジメ達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。ならば、ウィル達冒険者パーティーも、その辺りを調査したはずである。そう考えて、ハジメは無人偵察機をその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。

 

 

 

 おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのだ。

 

輪廻は、ハジメとユエとミレディとシアを連れて山道から逸れて山の中を進む。シャクシャクと落ち葉が立てる音を何げに楽しみつつ木々の間を歩いていると、やがて川のせせらぎが聞こえてきた。耳に心地良い音だ。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。

 

 

 

 そうしてハジメ達がたどり着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。索敵能力が一番高い輪廻とシアが周囲を探り、ハジメも念のため無人偵察機で周囲を探るが魔物の気配はしない。取り敢えず息を抜いて、輪廻達は川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。途中、ユエが、「少しだけ」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむというわがままをしたが、大目に見る。どこまでもユエ達には甘い男である。ついでにシアも便乗した。

 

 

 

 川沿いに上流へと移動した可能性も考えて、ハジメは無人偵察機を上流沿いに飛ばしつつ、ユエがパシャパシャと素足で川の水を弄ぶ姿を眺めている、自分の主を見ていた。シアも素足となっているが、水につけているだけだ。川の流れに攫われる感触に擽ったそうにしている。ミレディは「やっぱり久しぶりの水遊びはいいねぇ。」等と言いながら、手で水を掬ったり、足でパシャパシャとしている。

 

そんな中で、

 

「ん?これは…」

 

「何か見つけたかァ?」

 

「ええ、川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれません、行きましょう。」

 

「アァ、ユエ、シア、ミレディ、行くぞ。」

 

「ん……」

 

「はいです!」

 

「分かったよぉ〜」

 

 ハジメ達が、阿吽の呼吸で立ち上がり出発の準備を始めた。ハジメ達が到着した場所には、ハジメが無人偵察機で確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。

 

 

 

 ハジメ達は、注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。輪廻は、シアに全力の探知を指示しながら、自らも感知系の能力を全開にして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

 

 

 

 先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

 

 

「輪廻さん、これ、ペンダントでしょうか?」

 

「遺留品かもな。確かめよう」

 

 

 

 シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットのようだと気がつく。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところか。大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近のもの……冒険者一行の誰かのものかもしれない。なので、一応回収しておく。

 

 

 

 その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 

 

 

 未だ、野生の動物以外で生命反応はない。ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、ハジメ達は逆に不気味さを感じていた。

 

 

 

 しばらくすると、再び、無人偵察機が異常のあった場所を探し当てた。東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったのだ。輪廻は全員を促してその場所に急行した。

 

 

 

 そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

 

 

 

 そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

 

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

 

 

 

 ハジメの言うブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。大した知能は持っていないが、群れで行動することと、〝金剛〟の劣化版〝剛壁〟の固有魔法を持っているため、中々の強敵と認識されている。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずである。

 

 

 

 輪廻は、しゃがみ込みブルタールのものと思しき足跡を見て少し考えた後、上流と下流のどちらに向かうか逡巡した。ここまで上流に向かってウィル達は追い立てられるように逃げてきたようだが、これだけの戦闘をした後に更に上流へと逃げたとは考えにくい。体力的にも、精神的にも町から遠ざかるという思考ができるか疑問である。

 

 

 

 ハジメは、無人偵察機を上流に飛ばしながら自分達は下流へ向かうことにした。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。

 

 

 

 ハジメの推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。

 

 

 

 すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。と、そこで輪廻とハジメの〝気配感知〟に反応が出た。

 

「ハジメ、間違いじゃ無けりゃ、生きてるぜェ」

 

「! これは……」

 

「……輪廻?ハジメ?」

 

 

 

 ユエが直ぐ様反応し問いかける。輪廻とハジメはしばらく、目を閉じて集中した。そして、おもむろに目を開けると、驚いたような声を上げた。

 

 

 

「おいおい、マジかよ。気配感知に掛かった。感じから言って人間だと思う。場所は……あの滝壺の奥だ」

 

「生きてる人がいるってことですか!」

 

「アァ、」

 

 シアの驚きを含んだ確認の言葉に輪廻とハジメは頷いた。人数を問うユエに「一人だ」と答える。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。

 

 

 

「ユエ。」

 

「……ん」

 

 

 

 輪廻は滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけで輪廻の意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

 

 

「〝波城〟 〝風壁〟」

 

 

 

 すると、滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。高圧縮した水の壁を作る水系魔法の〝波城〟と風系魔法の〝風壁〟である。

 

「行くかァ。」

 

滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。

 

 

 

 その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

 

 

 

唸り声を上げる青年だが、ハジメは手っ取り早く青年の正体を確認したいのでギリギリと力を込めた義手デコピンを眠る青年の額にぶち当てた。

 

 

 

バチコンッ!!

 

 

 

「ぐわっ!!」

 

 

 

 悲鳴を上げて目を覚まし、額を両手で抑えながらのたうつ青年。涙目になっている青年に近づくと端的に名前を確認する。

 

 

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

 

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

 

 

 状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に、ハジメは再びデコピンの形を作って額にゆっくり照準を定めていく。

 

 

 

「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に威力を二割増で上げていくからな」

 

「えっ、えっ!?」

 

「お前は、ウィル・クデタか?」

 

「えっと、うわっ、はい! そうです! 私がウィル・クデタです! はい!」

 

 

 

 一瞬、青年が答えに詰まると、ハジメの眼がギラリと剣呑な光を帯び、ぬっと左手が掲げられ、それに慌てた青年が自らの名を名乗った。どうやら、本当に本人のようだ。奇跡的に生きていたらしい。

 

 

 

「そうか。俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。(俺の都合上)生きていてよかった」

 

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

 

 

 尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。先程、有り得ない威力のデコピンを受けたことは気にしていないらしい。もしかすると、案外大物なのかもしれない。いつかのブタとは大違いである。それから、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。

 

 

 

 要約するとこうだ。

 

 

 

 ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

 

 

 漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

 

 

 ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

 

 

 何となく、誰かさんの境遇に少し似ていると思わなくもない。

 

 

 

 ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。

 

 

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

 

 

 洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。輪廻は既に違う方向見ながらその声を聞いており、ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。ミレディも「どうしたもんかねぇ」と言っている。

 

 が、ウィルが言葉に詰まった瞬間、意外な人物が動いた。ハジメだ。ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。そして、息がつまり苦しそうなウィルに、意外なほど透き通った声で語りかけた。

 

 

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

 

「だ、だが……私は……」

 

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

 

「……生き続ける」

 

 

 

 涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し、自分に向けて「何やってんだ」とツッコミを入れる。先程のウィルへの言葉は、半分以上自分への言葉だった。少し似た境遇に置かれたウィルが、自らの生を卑下したことが、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われているような気がして、つい熱くなってしまったのである。

 

 

 

 もちろん、完全なる被害妄想だ。半分以上八つ当たり、子供の癇癪と大差ない。色々達観したように見えて、ハジメもまだ十七歳の少年、学ぶべきことは多いということだ。その自覚があるハジメは軽く自己嫌悪に陥る。そんなハジメのもとにツカツカと傍に寄って来た、輪廻はハジメの肩に手を置いた。

 

 

 

「……大丈夫だァ、おめぇは間違ってねぇ、それにお前はまだ17年しか生きてねぇ、そう言う葛藤もあるだろうよォ。」

 

「……主…」

 

「……全力で生きて。生き続けろ。生き続けて俺に仕えるんだろォ?」

 

「……ははっ、当然です。何が何でも生き残って主に仕えますよ。」

 

「…アァ、それでいい、それが何時ものお前だァ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

しばらくカオスな状況が続いたが(ハジメの暴走のせい)、何とか皆気を持ち直し、一行は早速下山することにした。日の入りまで、まだ一時間以上は残っているので、急げば、日が暮れるまでに麓に着けるだろう。

 

 

 

 ブルタールの群れや漆黒の竜の存在は気なるが、それはハジメ達の任務外だ。ウィルも、足手まといになると理解しているようで、撤退を了承した。黒竜やらブルタールの群れという危険性の高さから、結局下山することになった。

 

 

 

 だが、事はそう簡単には進まない。再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

 

 

「グゥルルルル」

 

 低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 

 

 

 

「はあ、はぁ、はぁ、ようやく追いつきました。」

 

そんな時、愛子たちが勝手に着いてきたのだ。

 

「チッ、このクソ餓鬼が!だから来んなつっただろうがボケェェ!」

 

その竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。

 

 

 

空中で翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。だが、何より印象的なのは、夜闇に浮かぶ月の如き黄金の瞳だろう。爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。

 

 

 

 その黄金の瞳が、空中よりハジメ達を睥睨していた。低い唸り声が、黒竜の喉から漏れ出している。

 

 

 

その圧倒的な迫力は、かつてライセン大峡谷の谷底で見たハイベリアの比ではない。ハイベリアも、一般的な認識では、厄介なことこの上ない高レベルの魔物であるが、目の前の黒竜に比べれば、まるで小鳥だ。その偉容は、まさに空の王者というに相応しい。

 

 

 

 蛇に睨まれた蛙のごとく、愛子達は硬直してしまっている。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。脳裏に、襲われた時の事がフラッシュバックしているのだろう。

 

 

 

 輪廻とハジメも、川に一撃で支流を作ったという黒竜の残した爪痕を見ているので、それなりに強力な魔物だろうとは思っていたが、実際に目の前の黒竜から感じる魔力や威圧感は、想像の三段は上を行くと認識を改めた。奈落の魔物で言えば、ヒュドラには遠く及ばないが、九十層クラスの魔物と同等の力を持っていると感じるほどだ。

 

 

 

 その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

 

 

 

キュゥワァアアア!!

 

 

 

 不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。ハジメの脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスが過ぎった。

 

 

 

「ッ! 退避しろ!」

 

 

 

 輪廻は警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。ハジメは勿論、ユエ達も付いて来ている。だが、そんなハジメの警告に反応できない者が多数、いや、この場合ほぼ全員と言っていいだろう。

愛子や生徒達、そしてウィルもその場に硬直したまま動けていない。愛子達は、あまりに突然の事態に体がついてこず、ウィルは恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった。

 

 

「チッ!しゃあねぇ!ハジメ達!お前たちはガキ共のお守りをしてろォ!」

 

「チッィ、了解です。!!」

 

「ん、分かった!」

 

「了解ですぅ!」

 

「分かったよ〜」

 

〝念話〟で指示をされたハジメは〝縮地〟で一気に元いた場所に戻り、愛子達と黒竜の間に割り込む。本来なら放って置くところだが、見捨てられるほど愛子に対しては悪い感情を持っていないし、何より、奇跡的に生きていたウィルを見捨てては何のためにここまで来たのか分からない。生きていたら連れ戻すのが引き受けた〝仕事〟なのだ。投げ出すわけには行かない。

 

 

 

 ハジメは〝宝物庫〟から二メートル程の柩型の大盾を虚空に取り出し、左腕を突き出して接続、魔力を流して大盾の下部からガシュン! と杭を出現させる。そして、それを勢いよく地面に突き刺した。

 

 

 

 直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でハジメの大盾に到達したブレスは、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。

 

 

 

「ぐぅ! おぉおおお!!」

 

 

 

 ハジメは、気迫を込めた雄叫びを上げてブレスの圧力に抗う。ハジメの体と一緒に、大盾はいつの間にか紅く光り輝いていた。ハジメの〝金剛〟である。だが、ブレスは余程の威力を持っているらしく、しばらく拮抗した後、その守りを突破して大盾に直撃した。

 

 

 

 大盾は、それでもブレスに耐えた。ハジメの〝金剛〟すら突破する威力と熱に徐々にその表面を融解させていくが、壊れそうになるたびに、ハジメが〝錬成〟で即座に修復し、その突破を許さない。

 

 

 

 固定のために地面に差し込んだ杭が圧力に負けて地面を抉りながら徐々に後退していく。ハジメは靴からスパイクを錬成し、再度、金剛を張り直してひたすら耐えた。大盾と連結した左腕を突き出し、更に右腕も添える。

 

 

 

 ハジメが取り出した大盾は、タウル鉱石を主材にシュタル鉱石を挟んでアザンチウムで外側をコーティングしたものだ。錬成師であるハジメならば、仮にアザンチウムの耐久力を超える攻撃をされても、数秒でも耐えられるなら直ちに修復することができる。仮に突破されても、二層目のシュタル鉱石は魔力を注いだ分だけ強度を増す性質を持つので、ハジメの魔力ならまず突破はされない。

 

 

 

 故に、アザンチウムの突破すら出来ていないブレスは大盾そのものを破壊する事は出来ないだろう。だが、その威力を持って大盾の使い手を吹き飛ばすことなら出来ないわけではないようだ。事実、人外の膂力を持つハジメですら徐々に押されている。地面には、差し込まれた大盾の杭とハジメの踏ん張る足で深々と抉られた痕がついていく。

 

 

 

 このままでは、ハジメ自体は大盾と〝金剛〟がある上、耐久力も人外の領域なので大したダメージを受けないだろうが、ハジメという盾をなくした愛子達は、為すすべなくブレスの餌食となりこの世から塵一つ残さず消滅することになるだろう。

 

 

 

 ハジメが、若干の焦りを覚えたとき、不意に背中に柔らかな感触が伝わった。チラリと肩越しに振り返れば、何と、愛子がハジメの背中に飛びついて必死に支えていた。どうやら、ハジメがブレスを防いでいる間に、正気を取り戻し、徐々に押されるハジメの支えになろうと飛び込んできたらしい。それを見て、生徒達やウィルもハジメを支えるため慌てて飛び出してきた。

 

 

 

 ブレスは未だに続いている。周囲にあった川の水は熱波で蒸発し、川原の土や石は衝撃で吹き飛びひどい有様だ。ブレスの直撃を受けて、どれほどの時間が経ったのか。ハジメは、永遠に等しいほど長い時間だと感じているが、実際には十秒経ったか否かといったところだろう。歯を食いしばりながら、そんな事を考えていると、遂に、待望の声が聞こえた。

 

 

 

「OKだ、ハジメ良くやった。」

 

「グゥルァアアア!」

 

「うるせぇぞ、クソトカゲ!永遠の眠りにつかせてやらァ!」

「卍解、『残火の太刀』」

 

そこには、全体が焦げたような刀を持った輪廻がいた。

 

「直ぐに終わらせるぜぇ、まァ弱めで行くがなァ、残火の太刀 東 旭日刃」

業ッ

 

ギャァァァァァァ、なんなのじゃこれは!?

 

「あん?てめぇ竜人族かァ?」

 

〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ?”だからそのお腹に刺さってるそれを抜いてたも

 

「……なぜ、こんなところに?」

 

 ユエが黒竜に質問をする。ユエにとっても竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている。

 

そうすると、黒竜が話し始めた。

 

〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

 

 

 黒竜の視線がウィルに向けられる。ウィルは、一瞬ビクッと体を震わせるが気丈に黒竜を睨み返した。輪廻の戦いを見て、何か吹っ切れたのかもしれない。

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

〝うむ、順番に話す。妾は……〟

 

 

 

 黒竜の話を要約するとこうだ。

 

 

 

 この黒竜は、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。

 

 

 

 竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石に、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、議論の末、遂に調査の決定がなされたそうだ。

 

 

 

 目の前の黒竜は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態になって。

 

 

 

 と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

 

 

 当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。そう、例の諺の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

 

 

 

 では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……

 

 

 

〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟

 

 

 

 一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げる黒竜。しかし、輪廻は冷めた目でツッコミを入れる。

 

「要するに、調査に来たのに丸一日、洗脳されているのにも気付かず寝てただけじゃねぇかァ。」

 

全員の目が、何となくバカを見る目になる。黒竜は視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。

 

 

 

 その後、ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そして、ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。

 

 

 

 で、気がつけば輪廻にフルボッコにされており、このままでは死ぬと思いパニックを起した。それがあの魔力爆発だ。

 

 

 

 そして、洗脳された脳に強固に染み付いた命令に従って最後の特攻を仕掛けたところ、シアの一撃を脳天にくらって意識が飛び、次に、腹に物凄い衝撃と、熱がが走って一気に意識が覚醒したのである。正気に戻れた原因が、脳天への一撃か腹への一撃かはわからない。

 

 

 

「……ふざけるな」

 

 

 

 事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

 

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

 

 

 どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へ怒声を上げる。

 

 

 

〝……〟

 

 

 

 対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないのか

 

 

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

 

 

〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟

 

 

 

 なお、言い募ろうとするウィル。それに口を挟んだのは輪廻だ。

 

 

「うるせぇなァ、人間が四、五人死んだだけでピーピー喚いてんじゃねぇよ、ガキが。」

 

「ゲイルさんが、ナバルさんが、レントさんが、ワスリーさんが、クルトさんが!死んだんですよ!」

 

「知らねぇよ、大体なァ、冒険者に死っていうのは着きもんだァ、それはそいつらも分かってるはずだァ、そんな奴らの名前を出すのは、ただの死者への冒涜だァ、お前、冒険者向いてねぇな。」

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

 頭では黒竜の言葉が嘘でないと分かっている。しかし、だからと言って責めずにはいられない。心が納得しない。ハジメは内心、「また、見事なフラグを立てたもんだな」と変に感心しながら、ふとここに来るまでに拾ったロケットペンダントを思い出す。

 

「ウィル、ゲイルってやつの持ち物か?」

 

 そう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

「あれ? お前の?」

 

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

 

「マ、ママ?」

 

 予想が見事に外れた挙句、斜め上を行く答えが返ってきて思わず頬が引き攣るハジメ。

 

 写真の女性は二十代前半と言ったところなので、疑問に思いその旨を聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。輪廻と女性陣はドン引きしていたが……

 

 

 

 ちなみに、ゲイルとやらの相手は〝男〟らしい。そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。名は体を表すとはよく言ったものである。

 

 

 

 母親の写真を取り戻したせいか、随分と落ち着いた様子のウィル。何が功を奏すのか本当にわからない。だが、落ち着いたとは言っても、恨み辛みが消えたわけではない。ウィルは、今度は冷静に、黒竜を殺すべきだと主張した。また、洗脳されたら脅威だというのが理由だが、建前なのは見え透いている。主な理由は復讐だろう。

 

 

 

 そんな中、黒竜が懺悔するように、声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。

 

 

 

〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟

 

 

 

 黒竜の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。自然と全員の視線が輪廻に集まる。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているようだ。実際、黒竜に止めを刺そうとしたのは輪廻なので、決断を委ねるのは自然な流れと言えるだろう。

 

その輪廻の答えは、

 

「てめぇの都合なんて知らねぇ、以上、さっさと死ね。」

 

そう言って刀を振りかぶった。

 

〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟

 

 

 

 輪廻は冷めた目で黒竜の言葉を無視し刀を振るおうとした。だが、それは叶わなかった。振るおうとした瞬間、ユエが輪廻の首筋にしがみついたからだ。驚いて、思わず抱きとめる輪廻の耳元でユエが呟く。

 

 

 

「……殺しちゃうの?」

 

「……アァ。」

 

「……でも、敵じゃない。殺意も悪意も、一度も向けなかった。意志を奪われてた」

 

 

 どうやら、ユエ的には黒竜を死なせたくないらしい。ユエにとっては、竜人族というのは憧れの強いものらしく、一定の敬意も払っているようだ。

 

 しかも、今回は殺し合いになったと言っても、終始、黒竜は殺意や悪意を輪廻達に向けなかった。今ならその理由もわかる。文字通り意志を奪われており、刷り込まれた命令を機械の如くこなしていたに過ぎない。それでも、殺しあった事に変わりはないが、そもそも黒竜はウィルしか眼中になく、輪廻と戦闘になったのは、輪廻が殺意を以て黒竜に挑んだからである。

 

 

 

 更に言えば、輪廻達の都合上ウィルに死なれては困るので、ウィルを狙ったという点では確かに敵と言えるかもしれないが、その意志は黒竜の背後にいる黒ローブの男だ。敵と言うなら、むしろこっちだろう。

 

 

 

 それに、止めた理由はもう一つある。

 

 

 

 ユエとて、輪廻のスタンスは知っている。しかし、ユエの眼には、かつて殺してきた〝敵〟と黒竜が同じには見えなかった。吸血鬼族の王であって、手痛い経験もあるユエの人を見る目は確かだ。そのユエの目は、己の心に黒竜の本質を 〝敵〟とは伝えていなかった。ユエは、輪廻には出来るだけ〝敵〟以外の者を殺して欲しくなかったのだ。

 

なぜなら、

 

「……自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」

「……………………チッ今回だけだぞ。」

 

その……申し訳ないのじゃがな、取り敢えずお腹に刺さってるのだけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ〟

 

 

 

「ん? どういうことだ?」

 

 

 

〝竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。人間の腹に炎を纏った刀が貫通しておるのじゃぞ?……妾が数分も生きていられると思うかの?〟

 

「……絶対に無理だね。」byミレディ

 

 

〝でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ…流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ〟

 

 その弱々しい声音に本当に限界が近いようで、どうやら輪廻が考えている時間はないらしい。

 

「チッ、抜くぞ。」

ズシャァァと言う音をたてながら輪廻は刀を抜いた

「ハァ、ハァ、本当にそれは痛いのじゃ。」

黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお腹を押さえて居る、黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと青くなった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて苦痛の表情を浮かべている。

 

 

 

 見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張し、今にもこぼれ落ちそうになっている。シアがメロンなら、黒竜はスイカでry……

 

 黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになってしまった。このまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にGを見る目と大差がない。

 

黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、苦しそうにしていたが……

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

 ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

 

 魔物を操ると言えば、そもそもハジメ達がこの世界に呼ばれる建前となった魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは愛子達も一緒だったのか、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測したようだ。

 

 しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。

 

 

 

 黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。

 

 

 

 と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。

 

 

 

 そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……

 

 

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

 

 

 

 ハジメの報告に全員(輪廻達を除く)が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

 

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

 

 

 事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。なので、愛子の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。

 

 

 

 と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。

 

 

 

「あの、輪廻殿達なら何とか出来るのでは……」

 

 

 

 その言葉で、全員が一斉に輪廻の方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。

 

 

 

「そんな目で見るなよ。俺達の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

 

 

 

 ハジメ達のやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。

 

 

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

 

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

 

 

 愛子は、ハジメの言葉に、また俯いてしまう。そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。生徒思いの愛子の事だ。このような事態を引き起こしたのが自分の生徒なら放って置くことなどできないのだろう。

 

 

 

 しかし、数万からなる魔物が群れている場所に愛子を置いていくことなど出来るわけがなく、園部達生徒は必死に愛子を説得する。しかし、愛子は逡巡したままだ。その内、じゃあ南雲が同行すれば…何て意見も出始めた。いい加減、この場に留まって戻る戻らないという話をするのも面倒になったハジメは、愛子に冷めた眼差しを向ける。

 

 

 

「残りたいなら勝手にしろ。俺達はウィルを連れて町に戻るから」

 

 

 

 そう言って、ウィルの肩口を掴み引きずるように下山し始めた。それに慌てて異議を唱えるウィルや愛子達。曰く、このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、ハジメ達なら大群も倒せるのではないか……

 

 輪廻が、溜息を吐き苛立たしげに愛子達を振り返った。

 

「いい加減にしろやァ、高々二十数年しか生きてねぇクソ餓鬼共がァ、んなこたァ知らねぇよ、大群をどうにかしたけりゃ自分達で殺れ、黒ローブの正体?んなもんどうでも良いわ、俺達なら倒せる?そんなもん当たり前だ、だけどやりたくないから無理、人任せにも程がある。」

 

「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

 押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。若干、輪廻に対して変な呼び方をしそうになっていた気がするが……気のせいだろう。愛子も、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。

 

 ティオが、魔力枯渇で動けないので輪廻がおんぶしている。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、何故か輪廻が運ぶことになった。

 

一行は、背後に大群という暗雲を背負い、急ぎウルの町に戻る。

 

 

 

ウルの町に着くと、悠然と歩くハジメ達とは異なり愛子達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。ハジメとしては、愛子達とここで別れて、さっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたのだが、むしろ愛子達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。

 

 

 

 町の中は、活気に満ちている。料理が多彩で豊富、近くには湖もある町だ。自然と人も集う。まさか、一日後には、魔物の大群に蹂躙されるなどは夢にも思わないだろう。ハジメ達は、そんな町中を見ながら、そう言えば昨日から飯を喰っていなかったと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町の役場へと向かった。

 

 

 

 ハジメ達が、ようやく町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 

 

 

 普通なら、明日にも町は滅びますと言われても狂人の戯言と切って捨てられるのがオチだろうが、何せ〝神の使徒〟にして〝豊穣の女神〟たる愛子の言葉である。そして最近、魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視などできようはずもなかった。

 

 

 

 ちなみに、車中での話し合いで、愛子達は、報告内容からティオの正体と黒幕が清水幸利である可能性については伏せることで一致していた。ティオに関しては、竜人族の存在が公になるのは好ましくないので黙っていて欲しいと本人から頼まれたため、黒幕に関しては愛子が、未だ可能性の段階に過ぎないので不用意なことを言いたくないと譲らなかったためだ。

 

 

 

 愛子の方は兎も角、竜人族は聖教教会にとっても半ばタブー扱いであることから、混乱に拍車をかけるだけということと、ばれれば討伐隊が組まれてもおかしくないので面倒なことこの上ないと秘匿が了承された。

 

 

 

 そんな喧騒の中に、ウィルを迎えに来たハジメがやって来る。周囲の混乱などどこ吹く風だ。

 

 

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

 

 

 

 そのハジメの言葉に、ウィル他、愛子達も驚いたようにハジメを見た。他の、重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメに不愉快そうな眼差しを向けた。

 

 

 

「な、何を言っているのですか? ハジメ殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

 

 

 

 信じられないと言った表情でハジメに言い募るウィルにハジメは、やはり面倒そうな表情で軽く返す。

 

 

 

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ? 観光の町の防備なんてたかが知れているんだから……どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」

 

「そ、それは……そうかもしれませんが……でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません! 私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿も……」

 

 

 

 〝ハジメ殿も協力して下さい〟そう続けようとしたウィルの言葉は、ハジメの冷めきった眼差しと凍てついた言葉に遮られた。

 

 

 

「……はっきり言わないと分からないのか? 俺の仕事はお前をフューレンに連れ帰ること。この町の事なんて知ったことじゃない。いいか? お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら……手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」

 

「なっ、そ、そんな……」

 

 

 

 

 

 ハジメの醸し出す雰囲気から、その言葉が本気であると察したウィルが顔を青ざめさせて後退りする。その表情は信じられないといった様がありありと浮かんでいた。ウィルにとって、ゲイル達ベテラン冒険者を苦もなく全滅させた黒竜すら圧倒したハジメは、ちょっとしたヒーローのように見えていた。なので、容赦のない性格であっても、町の人々の危急とあれば、何だかんだで手助けをしてくれるものと無条件に信じていたのだ。なので、ハジメから投げつけられた冷たい言葉に、ウィルは裏切られたような気持ちになったのである。

 

 

 

 言葉を失い、ハジメから無意識に距離を取るウィルにハジメが決断を迫るように歩み寄ろうとする。一種異様な雰囲気に、周囲の者達がウィルとハジメを交互に見ながら動けないでいると、ふとハジメの前に立ちふさがるように進み出た者がいた。

 

 

 

 愛子だ。彼女は、決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げる。

 

 

 

「南雲君、十五夜君。君達なら……君達なら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」

 

 

 

 愛子は、どこか確信しているような声音で、ハジメ達なら魔物の大群をどうにかできる、すなわち、町を救うことができると断じた。その言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めく。

 

 

 

 愛子達が報告した襲い来る脅威をそのまま信じるなら、敵は数万規模の魔物なのだ。それも、複数の山脈地帯を跨いで集められた。それは、もう戦争規模である。そして、一個人が戦争に及ぼせる影響など無いに等しい。それが常識だ。それを覆す非常識は、異世界から召喚された者達の中でも更に特別な者、そう勇者だけだ。それでも、本当の意味で一人では軍には勝てない。人間族を率いて仲間と共にあらねば、単純な物量にいずれ呑み込まれるだろう。なので、勇者ですらない目の前の少年が、この危急をどうにかできるという愛子の言葉は、たとえ〝豊穣の女神〟の言葉であってもにわかには信じられなかった。

 

 

 

 ハジメは、愛子の強い眼差しを鬱陶しげに手で払う素振りを見せると、誤魔化すように否定する。

 

 

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ? 見た感じ四万は超えているんだぞ? とてもとても……」

 

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」

 

「……よく覚えてんな」

 

 

 

 愛子の記憶力の良さに、下手なこと言っちまったと顔を歪めるハジメ。後悔先に立たずである。愛子は、顔を逸らしたハジメに更に真剣な表情のまま頼みを伝える。

 

 

 

「南雲君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

 

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

 

 

 ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、愛子は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。近くで愛子とハジメの会話を聞いていたウルの町の教会司祭が、ハジメの言葉に含まれる教会を侮蔑するような言葉に眉をひそめているのを尻目に、愛子はハジメに一歩も引かない姿勢で向き直る。

 

 

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

 

 

 愛子が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

 

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

 

 

 ハジメは黙ったまま、先を促すように愛子を見つめ返す。

 

 

 

「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

 

「……」

 

「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

 

 

 一つ一つに思いを込めて紡がれた愛子の言葉が、向き合うハジメに余すことなく伝わってゆく。町の重鎮達や生徒達も、愛子の言葉を静かに聞いている。特に生徒達は、力を振るってはしゃいでいた事を叱られている様な気持ちになりバツの悪そうな表情で俯いている。それと同時に、愛子は今でも本気で自分達の帰還と、その後の生活まで考えてくれていたという事を改めて実感し、どこか嬉しそうな擽ったそうな表情も見せていた。

 

 

 

 ハジメは、例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに〝先生〟であり続ける愛子に、内心苦笑いをせずにはいられなかった。それは、嘲りから来るものではない、感心から来るものだ。愛子が、その希少価値から特別待遇を受けており、ハジメの様な苦難を経験していない以上、「何も知らないくせに!」とか「知った風な口を!」と反論するのは簡単だ。あるいは、愛子自身が言ったように、〝軽い〟言葉だと切り捨ててしまってもいいだろう。

 

 

 

 だが、ハジメには、そんな事は出来そうになかった。今も、真っ直ぐ自分を見つめる〝先生〟に、それこそそんな〝軽い〟反論をすることは、あまりに見苦しい気がしたのだ。それに、愛子は一度も〝正しさ〟を押し付けなかった。その言葉の全ては、ただハジメの未来と幸せを願うものだ。

 

しかし、だ、その未来や幸せと言うのは愛子が勝手に想像したものだ。ハジメが何を本当に望んで居るかは分からない、だからこそ、正しさ、は押し付けていないが、自分が想う、未来、と、幸せ、を押し付けている。

それに、彼の正論も出てきた。

 

「分かったような口を聞くんじゃねぇ。クソ餓鬼。」

 

「何ですか十五夜君?」

 

「お前たちの様な奴が居るから、1部の人間は心の殻から出られなくなるんだよ。他人の未来に口出ししない?そんなのあたりめぇだ。お前の言う幸せってのはなァ、結局お前が望む幸せだ、自分が想う幸せが全て他人に共通すると思うな!日本に帰って何故生活を変える必要がある?どの人間だってそうだァ、他人に形振り構ってる暇はねぇ、結局はなァ、自分が1番大切に思ってるやつ以外は切り捨てるしかねぇんだよォ。邪魔をする奴は消す。それが当たり前だ。そう言う生き方が出来ないなら、出来るようにする。今更日本に帰って、元の生活に戻れるゥ?んなわけねぇだろうが、学校は慈善団体じゃねぇ、唯の教育所だァ。そんな所が、異世界に召喚されて、帰ってきました、って言う奴を置いとくわけがねぇだろうが。例え、学校に通えたとしても、特別教室か何かに決まってんだろ?それにこっちに来て出来た力もある。それを隠蔽しないで、元の生活なんて送れるわけねぇんだよォ。分かったらいい加減に現実を見ろォクソ餓鬼。お前の言ってることは全て偽善だ。お前が偽善って言われて何も思わなくてもなァ、周りに影響は確実に出る。それが今回は起こっただけだァ。アーアァー清水が可哀想だぜェ。」

「何故そこで清水君が出てくるのですか?」

「は?お前人の話を聞いてたかァ?今回の騒動の黒幕は清水で、その原因はお前達や、ゴミ共だァ。そう言ってるんだ、その現実を見ろって言ってんだ。チッこれだから餓鬼の子守りは嫌いなんだ。」

「十五夜君、前から思ってたんですが!何故私達の事を餓鬼と呼ぶのですか!?貴方は私より歳下でしょう!?年上には敬意をはらいなさいって、゛親御さん“に言われなかったんですか!?」

「…ァ?誰がてめぇより歳下だってェ?」

「十五夜君です!」

「ほう。じゃァてめぇは餓鬼じゃねぇな。」

「そうです!分かればいい…「餓鬼じゃ無くてババアだなァ。」……今何と?「だから、推定2500歳のババアだなって言ったんだよォ。」何ですってー!」

「だって、俺より歳上なんだォ?だったら少なくとも2535歳ってことになるんだかなァ。違ったかァ?」

「全然違います!25です!貴方は十七歳でしょう!?」

「てめぇこそ何言ってんだ?俺は歳で言うと五百三十四歳だ、生きた年数で言うと二千五百三十四年だ。」

「え?」

 

と言う騒動があったが、結局ウルは守る事になった、なぜかと言うと……

 

「ハジメ、ここの街守るぞォ。」

「………主よ、変な物でも食べましたか?」

「……んなわけねぇだろうが。俺も嫌だが、ここの街の米料理は守らなきゃ行けねぇ。」

「そういう事ですか、ならどうしますか?主1人でやった方が速いと思いますが?」

「アァ、俺もここに長居するつもりはねぇ、直ぐに終わらせる。」

「分かりました、では此方は避難させておきますね。」

「アァ!頼んだぜェ。」

「お任せを。」

 

と言うわけで米料理のオマケでウルの街を守る事になった。

ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

 

 この〝外壁〟はハジメが即行で作ったものだ。魔力駆動二輪で、整地ではなく〝外壁〟を錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。

 

 

 

 もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので、それほど高くはない。大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。

 

 

 

 町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。

 

 

 

 当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

 

 

 だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。愛子だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。畑山愛子、ある意味、勇者より勇者をしている。

 

 

 

 冷静さを取り戻した人々は、二つに分かれた。すなわち、故郷は捨てられない、場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通り、救援が駆けつけるまで逃げ延びる避難組だ。

 

 

 

 居残り組の中でも女子供だけは避難させるというものも多くいる。愛子の魔物を撃退するという言葉を信じて、手伝えることは何かないだろうかと居残りを決意した男手と万一に備えて避難する妻子供などだ。深夜をとうに過ぎた時間にもかかわらず、町は煌々とした光に包まれ、いたる所で抱きしめ合い別れに涙する人々の姿が見られた。

 

 

 

 避難組は、夜が明ける前には荷物をまとめて町を出た。現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。居残り組の多くは、〝豊穣の女神〟一行が何とかしてくれると信じてはいるが、それでも、自分達の町は自分達で守るのだ! 出来ることをするのだ! という気概に満ちていた。

 

 

 

 ハジメは、すっかり人が少なくなり、それでもいつも以上の活気があるような気がする町を背後に即席の城壁に腰掛けて、どこを見るわけでもなくその眼差しを遠くに向けていた。その隣にはユエ達を周りに座らせている輪廻がいる。

 

 

 そこへ愛子と生徒達、ティオ、ウィル、デビッド達数人の護衛騎士がやって来た。愛子達の接近に気がついているだろうに、振り返らない輪廻達にデビッド達が眉を釣り上げるが、それより早く愛子が声をかける。

 

「南雲君、準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」

 

「いや、問題ねぇよ、先生むしろ準備はいらねぇ。」

 

 やはり振り返らずに簡潔に答えるハジメ。その態度に我慢しきれなかったようでデビッドが食ってかかる。

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」

「は?何でてめぇらみたいな、脳味噌カッスカスのクソ餓鬼に言わなきゃなんねぇんだよ?お前らみたいな幼稚な奴に銃の設計図渡したって分かるわけねぇだろ?そんな事も分からねぇ何て、ただの馬鹿だろ?見逃してやるだとォ?何で関係ないてめぇらに見逃してもらう必要がある?もう1回言うぜェ?クソ餓鬼は黙ってろ。」

 

どーチャラこーちゃら、

 

話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出て輪廻に声をかけた。

 

「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

 

「 …………………………………………………………ティオか」

 

「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……。」

 

 聞き覚えのない声に、思わず肩越しに振り返った輪廻は、黒地にさりげなく金の刺繍が入っている着物に酷似した衣服を大きく着崩して、白く滑らかな肩と魅惑的な双丘の谷間、そして膝上まで捲れた裾から覗く脚線美を惜しげもなく晒した黒髪金眼の美女に、一瞬、訝しそうな目を向けて、「ああそういえば」と思い出したように名前を呼んだ。

 

「で?なんだァ?」

「んっ、んっ! えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」

 

「断る」

 

「……よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

 

「帰れ。むしろ土に還れ、それにお前、色々やる事あるだろ? その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」

 

〝竜人族の調査〟とやらはどうしたと返す輪廻。

 

「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ……では妾は、貴方を主様と呼び、一生仕えます。主様にとってもいい事じゃろ?」

「まァ、別にいいんだかなァ」

「ありがとうございます。」

「うわ、ユエさん、ミレディさん、もう敬語になってますよ?」

「……ん…流石輪廻、溢れ出るカリスマパワーが止まらない。」

「さっすがー輪廻君〜すごいねぇ〜。」

 

「……来たな」

「! ……来たか」

 

 輪廻とハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていない(輪廻を除く)が、ハジメの〝魔眼石〟には無人偵察機からの映像がはっきりと見えていた。輪廻は煙草を吸いながら遠くを見ていた。

 

 それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群である。

 

 

 

 更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。おそらく、黒ローブの男。愛子は信じたくないという風だったが、十中八九、清水幸利だ。

 

「…主よ…」

 

「……輪廻」

 

「輪廻さん」

 

「…輪廻君…来たね…頼んだよ…」

 

 ハジメの雰囲気の変化から来るべき時が来たと悟るユエ達が、輪廻に呼びかける。輪廻は視線を後ろに戻すと一つ頷き、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。

 

 

 

「来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ、死にたく無けりゃさっさと失せろ。俺1人で十分だァ。」

彼はそう言って、踏み込みダァァァァンと吹っ飛んで行った。

 

 

「チッ、そろそろアイツを殺しに行く周期かァ、さっさと終わらせるぜェ。」

 

「卍解・残火の太刀。」

 

「行くぜェ!残火の太刀 南 火火十万億死大葬陣」

 

(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)

 

 

 

 ウルの町を襲う数万規模の魔物の大群の遥か後方で、即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めている少年、清水幸利は、目の前の惨状に体を震わせながら言葉を失った様に口をパクパクさせていた。ありえない光景、信じたくない現実に、内心で言葉にもなっていない悪態を繰り返す。

 

 そう、魔物の大群をけし掛けたのは輪廻が行った通り、行方不明になっていた愛子の生徒、清水幸利だった。とある男との偶然の末に交わした契約により、ウルの町を愛子達ごと壊滅させようと企んだのだ。しかし、容易に捻り潰せると思っていた町や人は、全く予想しなかった凄絶な迎撃により未だ無傷であり、それどころか現在進行形で清水にとっての地獄絵図が生み出されていた。

 

ウァァァァァァァァ

 

黒い骸骨の様なナニカが、魔物を次々と葬っていくのだ。

既に、その数は一万を割り八千から九千と言ったところか。最初の大群を思えば、壊滅状態と言っていいほどの被害のはずだ。しかし、魔物達は依然、猪突猛進を繰り返している。正確には、一部の魔物がそう命令を出しているようだ。大抵の魔物は完全に及び腰になっており、命令を出している各種族のリーダー格の魔物に従って、戸惑ったように突進して来ている。

 

しかも、彼がとうとう動き出したのだ、今まで、骸骨に敵を倒させていたが、痺れを切らしたのだろう。

と、思っているうちにもうかなり近くまで来ている。

 

 

「チッ、相変わらずおせえなァ、もういいやァ、こっちから出るかァ。」

輪廻はそう言うと、超高速で魔物達がいる所まで接近してきた。

そして、南を解き今度は。

「残火の太刀 西 残日獄衣」

西だ。

「天地一閃」

ズジャァァァァァ

彼が斬魄刀を一振すると、魔物が跡形もなく全て消えた。

そして清水を確保し、街まで戻ってきた。

清水幸利にとって、異世界召喚とは、まさに憧れであり夢であった。ありえないと分かっていながら、その手の本、Web小説を読んでは夢想する毎日。夢の中で、何度世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えたかわからない。清水の部屋は、壁が見えなくなるほどに美少女のポスターで埋め尽くされており、壁の一面にあるガラス製のラックには、お気に入りの美少女フュギュアがあられもない姿で所狭しと並べられている。本棚は、漫画やライトノベル、薄い本やエロゲーの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いていた。

 

 

 

 そう、清水幸利は真性のオタクである。但し、その事実を知る者は、クラスメイトの中にはいない。それは、清水自身が徹底的に隠したからだ。理由は、言わずもがなだろう。ハジメに対するクラスメイトの言動を間近で見て、なお、オタクであることをオープンにできるような者はそうはいない。

 

 

 

 クラスでの清水は、彼のよく知る言葉で表すなら、まさにモブだ。特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。話しかけられれば、モソモソと最低限の受け答えはするが自分から話すことはない。元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた。当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。鬱屈した環境は、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さを清水にもたらした。そして、ますます、創作物や妄想に傾倒していった。

 

 

 

 そんな清水であるから、異世界召喚の事実を理解したときの脳内は、まさに「キターー!!」という状態だった。愛子がイシュタルに猛然と抗議している時も、光輝が人間族の勝利と元の世界への帰還を決意し息巻いている時も、清水の頭の中は、何度も妄想した異世界で華々しく活躍する自分の姿一色だ。ありえないと思っていた妄想が現実化したことに舞い上がって、異世界召喚の後に主人公を理不尽が襲うパターンは頭から追いやられている。

 

 

 

 そして実際、清水が期待したものと、現実の異世界ライフには齟齬が生じていた。まず、清水は確かにチート的なスペックを秘めていたが、それは他のクラスメイトも同じであり、更に、〝勇者〟は自分ではなく光輝であること、その為か、女が寄って行くのは光輝ばかりで、自分は〝その他大勢の一人〟に過ぎなかった事だ。これでは、日本にいた時と何も変わらない。念願が叶ったにもかかわらず、望んだ通りではない現実に陰湿さを増す清水は、内心で不満を募らせていった。

 

 

 

 なぜ、自分が勇者ではないのか。なぜ、光輝ばかりが女に囲まれていい思いをするのか。なぜ、自分ではなく光輝ばかり特別扱いするのか。自分が勇者ならもっと上手くやるのに。自分に言い寄るなら全員受け入れてやるのに……そんな、都合の悪いことは全て他者のせい、自分だけは特別という自己中心的な考えが清水の心を蝕んでいった。

 

 

 

 そんな折だ。あの【オルクス大迷宮】への実戦訓練が催されたのは。清水は、チャンスだと思った。誰も気にしない。居ても居なくても同じ。そんな背景のような扱いをしてきたクラスメイト達も、遂には自分の有能さに気がつくだろうと、そんな何処までもご都合主義な清水は……しかし、ようやく気がつくことになる。

 

 

 

 自分が決して特別な存在などではなく、ましてご都合主義な展開などもなく、ふと気を抜けば次の瞬間には確かに〝死ぬ〟存在なのだと。トラウムソルジャーに殺されかけて、遠くでより凶悪な怪物と戦う〝勇者〟を見て、抱いていた異世界への幻想がガラガラと音を立てて崩れた。

 

 

 

 そして、奈落へと落ちて〝死んだ〟クラスメイトを目の当たりにし、心が折れた。自分に都合のいい解釈ばかりして、他者を内心で下に見ることで保ってきた心の耐久度は当然の如く強くはなかったのだ。

 

 

 

 清水は、王宮に戻ると再び自室に引き篭ることになった。だが、日本の部屋のように清水の心を慰めてくれる創作物は、ここにはない。当然の流れとして、清水は自分の天職〝闇術師〟に関する技能・魔法に関する本を読んで過ごすことになった。

 

 

 

 闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。清水の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。

 

 

 

 そして、浮かれた気分などすっかり吹き飛んだ陰鬱な心で読んだ本から、清水は、ふとあることを思いついた。闇系統魔法は、極めれば対象を洗脳支配できるのではないか? というものだ。清水は興奮した。自分の考えが正しければ、誰でも好きなように出来るのだ。そう、好きなように。清水の心に暗く澱んだものがはびこる。その日から一心不乱に修練に励んだ。

 

 

 

 しかし、そう簡単に行く訳もなかった。まず、人のように強い自我のある者には、十数時間という長時間に渡って術を施し続けなければ到底洗脳支配など出来ない。当然、無抵抗の場合の話だ。流石に、術をかけられて反応しないものなど普通はいない。それこそ強制的手段で眠らせるか何かする必要がある。人間相手に、隠れて洗脳支配するのは環境的にも時間的にも厳しく、ばれた時のことを考えると非常にリスクが高いと清水は断念せざるを得なかった。

 

 

 

 肩を落とす清水だったが、ふと召喚の原因である魔人族による魔物の使役を思い出す。人とは比べるべくもなく本能的で自我の薄い魔物ならば洗脳支配できるのではないか。清水は、それを確かめるために夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、人に比べて遥かに容易に洗脳支配できることが実証できた。もっとも、それは既に闇系統魔法に極めて高い才能を持っていたチートの一人である清水だから出来た事だ。以前、イシュタルの言ったように、この世界の者では長い時間をかけてせいぜい一、二匹程度を操るのが限度である。

 

 

 

 王都近郊での実験を終えた清水は、どうせ支配下に置くなら強い魔物がいいと考えた。ただ、光輝達について迷宮の最前線に行くのは気が引けた。そして、どうすべきかと悩んでいたとき、愛子の護衛隊の話を耳にしたのだ。それに付いて行き遠出をすれば、ちょうどいい魔物とも遭遇出来るだろうと考えて。

 

 

 

 結果、愛子達とウルの町に来ることになり、北の山脈地帯というちょうどいい魔物達がいる場所で配下の魔物を集めるため姿を眩ませたのだ。次に再会した時は、誰もが自分のなした偉業に畏怖と尊敬の念を抱いて、特別扱いすることを夢想して。

 

 

 

 本来なら、僅か二週間と少しという短い期間では、いくら清水が闇系統に特化した天才でも、そして群れのリーダーだけを洗脳するという効率的な方法をとったとしても精々千に届くか否かという群れを従えるので限界だっただろう。それも、おそらく二つ目の山脈にいるブルタールレベルを従えるのが精々だ。

 

 

 

 だが、ここでとある存在の助力と、偶然支配できたティオの存在が、効率的で四つ目の山脈の魔物まで従える力を清水に与えた。と、同時に、そのとある存在との契約と日々増強していく魔物の軍勢に、清水の心のタガは完全に外れてしまった。そして遂に、やはり自分は特別だったと悦に浸りながら、満を持して大群を町に差し向けたのだった。

 

 

 

 そして、その結果は……

 

 

 見るも無残な姿に成り果てて、愛子達の前に跪かされるというものだった。ちなみに、敗残兵の様な姿になっている理由は、輪廻に魔物の血肉や土埃の舞う大地を魔力駆動二輪で引き摺られて来たからである。白目を向いて意識を喪失している清水が、なお、頭をゴンゴンと地面に打ちつけながら眼前に連れて来られたのを見て、愛子達の表情が引き攣っていたのは仕様がないことだろう。

 

 

 

 ちなみに、場所は町外れに移しており、この場にいるのは、愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルとハジメ達だけである。流石に、町中に今回の襲撃の首謀者を連れて行っては、騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。町の残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走している。

 

 

 

 未だ白目を向いて倒れている清水に、愛子が歩み寄った。黒いローブを着ている姿が、そして何より戦場から直接連行して来られたという事実が、動かぬ証拠として彼を襲撃の犯人だと示している。信じたくなかった事実に、愛子は悲しそうに表情を歪めつつ、清水の目を覚まそうと揺り動かした。

 

 

 

 デビッド達が、危険だと止めようとするが愛子は首を振って拒否する。拘束も同様だ。それでは、きちんと清水と対話できないからと。愛子はあくまで先生と生徒として話をするつもりなのだろう。

 

 

 

 やがて、愛子の呼びかけに清水の意識が覚醒し始めた。ボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのか、ハッとなって上体を起こす。咄嗟に、距離を取ろうして立ち上がりかけたのだが、まだ後頭部へのダメージが残っているのか、ふらついて尻餅をつき、そのままズリズリと後退りした。警戒心と卑屈さ、苛立ちがない交ぜになった表情で、目をギョロギョロと動かしている。

 

 

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

 

 

 膝立ちで清水に視線を合わせる愛子に、清水のギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話……というより悪態をつき始めた。

 

 

 

「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

 

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

 

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

 

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

 

 

 反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。その勢いに押されたのか、ますます顔を俯かせ、だんまりを決め込む清水。

 

 

 

 愛子は、そんな清水が気に食わないのか更にヒートアップする生徒達を抑えると、なるべく声に温かみが宿るように意識しながら清水に質問する。

 

 

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

 

 

 

 愛子のもっともな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと笑みを浮かべた。

 

 

 

「……示せるさ……魔人族になら」

 

「なっ!?」

 

 

 

 清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、ハジメ達を除いた、その場の全員が驚愕を表にする。清水は、その様子に満足気な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。

 

 

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

 

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

 

 

 戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

 

 

 

 そんな愛子に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

 

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

 

「……え?」

 

 

 

 愛子は、一瞬何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛子よりは早く意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して清水を睨みつけた。

 

 

 

 清水は、生徒達や護衛隊の騎士達のあまりに強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれて一瞬身を竦めるものの、半ばやけくそになっているのか視線を振り切るように話を続けた。

 

 

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ!お前は、お前は一体何なんだよっ!」

 

 

 

 最初は嘲笑するように、生徒から放たれた〝殺す〟という言葉に呆然とする愛子を見ていた清水だったが、話している内に興奮してきたのか、輪廻の方に視線を転じ喚き立て始めた。その眼は、陰鬱さや卑屈さ以上に、思い通りにいかない現実への苛立ちと、邪魔した輪廻への憎しみ、そして、その力への嫉妬などがない交ぜになってドロドロとヘドロのように濁っており狂気を宿していた。

 

 

 

 どうやら、清水は目の前の少年をクラスメイトだとは気がついていないらしい。元々、話したこともない関係なので仕方ないと言えば仕方ないが……

 

 

 

 清水は、今にも襲いかからんばかりの形相で輪廻を睨み罵倒を続けるが、突然矛先を向けられた輪廻はと言うと、清水の罵倒の中に入っていた「厨二キャラのくせに」という言葉に、実は結構深いダメージをくらい現実逃避気味に遠くを見る目をしていたので、その態度が「俺、お前とか眼中にないし」という態度に見えてしまい、更に清水を激高させる原因になっていた。

 

 

 

 輪廻の心情を察して、後ろから背中をポンポンしてくれているユエ達の優しさがまた泣けてくる。

 

 

 

 シリアスな空気を無視して自分の世界に入っている輪廻のおかげ? で、衝撃から我を取り戻す時間が与えられた愛子は、一つ深呼吸をすると激昂しながらも立ち向かう勇気はないようでその場を動かない清水の片手を握り、静かに語りかけた。

 

 

 

「清水君。落ち着いて下さい」

 

「な、なんだよっ! 離せよっ!」

 

 

 

 突然触れられたことにビクッとして、咄嗟に振り払おうとする清水だったが、愛子は決して離さないと云わんばかりに更に力を込めてギュッと握り締める。清水は、愛子の真剣な眼差しと視線を合わせることが出来ないのか、徐々に落ち着きを取り戻しつつも再び俯き、前髪で表情を隠した。

 

 

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

 

 

 清水は、愛子の話しを黙って聞きながら、何時しか肩を震わせていた。生徒達も護衛隊の騎士達も、清水が愛子の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。実は、クラス一涙脆いと評判の園部優花が、既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。

 

 が、そんなに簡単に行くほど甘くはなかった。肩を震わせ項垂れる清水の頭を優しい表情で撫でようと身を乗り出した愛子に対して、清水は突然、握られていた手を逆に握り返しグッと引き寄せ、愛子の首に腕を回してキツく締め上げたのだ。思わず呻き声を上げる愛子を後ろから羽交い絞めにし、何処に隠していたのか十センチ程の針を取り出すと、それを愛子の首筋に突きつけた。

 

 

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

 

 

 裏返ったヒステリックな声でそう叫ぶ清水。その表情は、ピクピクと痙攣しているように引き攣り、眼はハジメに向けていた時と同じ狂気を宿している。先程まで肩を震わせていたのは、どうやら嗤っていただけらしい。

 

 

 

 愛子が、苦しそうに自分の喉に食い込む清水の腕を掴んでいるが引き離せないようだ。周囲の者達が、清水の警告を受けて飛び出しそうな体を必死に押し止める。清水の様子から、やると言ったら本気で殺るということが分かったからだ。みな、口々に心配そうな、悔しそうな声音で愛子の名を呼び、清水を罵倒する。

 

 

 

 ちなみに、この時になってようやく、輪廻は現実に復帰した。今の今まで自分の見た目に対する現実逃避でトリップしていたので、いきなりの急展開に「ありゃ? いつの間に…」という顔をしている。

 

 

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」

 

 

 

 清水の狂気を宿した言葉に、周囲の者達が顔を青ざめさせる。完全に動きを止めた生徒達や護衛隊の騎士達にニヤニヤと笑う清水は、その視線を輪廻に向ける。

 

「おい、お前、厨二野郎、お前だ! 後ろじゃねぇよ! お前だっつってんだろっ! 馬鹿にしやがって、クソが! これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ! わかったら、さっきの刀を寄越せ!」

 

 清水の余りに酷い呼び掛けに、つい後ろを振り返って「自分じゃない」アピールをしてみるが無駄に終わり、嫌そうな顔をする輪廻。緊迫した状況にもかかわらず、全く変わらない態度で平然としていることに、またもや馬鹿にされたと思い清水は癇癪を起こす。そして、ヒステリックに、輪廻の持つ斬魄刀を渡せと要求した。

 

 

 

輪廻は、それを聞いて非常に冷めた眼で清水を見返した。

 

 

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって……そもそも、そいつ殺さないと魔人族側行けないんだから、どっちにしろ殺すんだろ?しかもこれ、俺じゃねぇと使えねぇからなァ?結局、渡し損じゃねぇか」

 

「うるさい、うるさい、うるさい! いいから黙って全部渡しやがれ! お前らみたいな馬鹿どもは俺の言うこと聞いてればいいんだよぉ! そ、そうだ、へへ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよ。そいつに持ってこさせろ!」

 

 

 

 冷静に返されて、更に喚き散らす清水。追い詰められすぎて、既に正常な判断が出来なくなっているようだ。その清水に目を付けられたシアは、全身をブルリと震わせて嫌悪感丸出しの表情を見せた。

 

 

 

「お前が、うるさい三連発しても、ただひたすらキモイだけだろうに……ていうか、シア、気持ち悪いからって俺の後ろに隠れるなよ。アイツ凄い形相になってるだろうがァ」

 

「だって、ホントに気持ち悪くて……生理的に受け付けないというか……見て下さい、この鳥肌。有り得ない気持ち悪さですよぉ」

 

「まぁ、勇者願望あるのに、セリフが、最初期に出てきて主人公にあっさり殺られるゲスイ踏み台盗賊と同じだしなぁ」

 

 

 

 本人達は声を潜めているつもりなのかもしれないが、嫌悪感のせいで自然と声が大きくなり普通に全員に聞こえていた。清水は、口をパクパクさせながら次第に顔色を赤く染めていき、更に青色へと変化して、最後に白くなった。怒りが高くなり過ぎた場合の顔色変化がよくわかる例である。

 

 

 

 清水は、虚ろな目で「俺が勇者だ、俺が特別なんだ、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ、アイツ等が悪いんだ、問題ない、望んだ通り全部上手くいく、だって勇者だ、俺は特別だ」等とブツブツと呟き始め、そして、突然何かが振り切れたように奇声をあげて笑い出した。

 

 

 

「……し、清水君……どうか、話しを……大丈夫……ですから……」

 

 

 

 狂態を晒す清水に愛子は苦しそうにしながらも、なお言葉を投げかけるが、その声を聞いた瞬間、清水はピタリと笑いを止めて更に愛子を締め上げた。

 

 

 

「……うっさいよ。いい人ぶりやがって、この偽善者が。お前は黙って、ここから脱出するための道具になっていればいいんだ」

 

 

 

 暗く澱んだ声音でそう呟いた清水は、今度はハジメに視線を向けた。興奮も何もなく、負の感情を煮詰めたような眼でハジメを見て、次いで太もものホルスターに収められた銃を見る。言葉はなくても言いたいことは伝わった。ここで渋れば、自分の生死を度外視して、いや、都合のいい未来を夢想して愛子を害しかねない。

 

 ハジメは溜息をつき、銃を渡すならワイヤーを飛ばして愛子ごと〝纏雷〟でもしてやろうと考えつつ、清水を刺激しないようにゆっくりとドンナー・シュラークに手を伸ばした。愛子は体がちっこいので、ほとんど盾の役割を果たしておらず、ハジメの抜き撃ちの速度なら清水が認識する前にヒットさせることも出来るのだが、愛子も少し痛い目を見た方がいいだろうという意図だ。

 

 

 

 が、ハジメの手が下がり始めたその瞬間、事態は急変する。

 

「ハジメ!」

 

「ッ!? ダメです! 避けて!」

 

 

 

 そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。

 

 

 

 突然の事態に、清水が咄嗟に針を愛子に突き刺そうとする。シアが無理やり愛子を引き剥がし何かから庇うように身を捻ったのと、蒼色の水流が、清水の胸を貫通して、ついさっきまで愛子の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

 

 

 射線上にいたハジメが、ドンナーで水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払う。そして、シアの方は、愛子を抱きしめ突進の勢いそのままに肩から地面にダイブし地を滑った。もうもうと砂埃を上げながら、ようやく停止したシアは、「うぐっ」と苦しそうな呻き声を上げて横たわったままだ。

 

 

 

「シア!」

 

 

 

 突然の事態に誰もが硬直する中、ユエがシアの名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、追撃に備えてシアと彼女が抱きしめる愛子を守るように陣取った。

 

「チッどカスがァ!五竜天滅!」

 

ドカドカドゴォォォォォォォォングシャァ

 

魔人族は乗っていた魔物ごと消滅したようだ。

 

「ハジメ!」

 

 

 

普段の落ち着た声音とは異なる焦りを含んだ声でハジメを呼ぶ。

 

 

 

 ハジメは、近くで倒れている清水には目もくれずシアのもとへ駆け寄る。シアは、ミレディに膝枕された状態で仰向けになり苦痛に顔を歪めていた。傍には愛子もおり同じく表情を歪めてユエに抱きしめられている。

 

 

 

「ハ、ハジメさん……うくっ……私は……大丈夫……です……は、早く、先生さんを……毒針が掠っていて……」

 

 

 

 シアの横腹には直径三センチ程の穴が空いていた。身体強化の応用によって出血自体は抑えられているようだが、顔を流れる脂汗に相当な激痛が走っている事がわかる。にもかかわらず、引き攣った微笑みを浮かべながら震える声で愛子を優先しろと言う。

 

 

 

 見れば、愛子の表情は真っ青になっており、手足が痙攣し始めている。愛子は、シアとハジメの会話が聞こえていたのか、必死で首を振り視線でシアを先にと訴えていた。言葉にしないのは、毒素が回っていて既に話せないのだろう。清水の言葉が正しければ、もって数分、いや、愛子の様子からすれば一分も持たないようだ。遅れれば遅れるほど障害も残るかもしれない。

 

 

 

 ハジメは、視線を愛子から逸らすと、躊躇うことなくシアに頷き〝宝物庫〟から試験管型の容器を取り出した。その頃になってようやくハジメ達の元に駆けつけた周囲の者達が焦燥にかられた表情で口々に喚き出す。特に、生徒達やデビッド達の動揺が激しく、半ばパニックになっている。ハジメ達に対して口々に安否を聞いたり、様子を見せろと退かせようとしたり、効きもしない治癒魔法を掛けようとしたり……だが、そんな彼等も、輪廻とハジメの押し殺したような「「黙れ」」の一言に、気圧されて一歩後退って押し黙った。

 

「ハジメ!シアは俺がする、ガキは任せた!」

 

「承知!」

 

輪廻はミレディに膝枕されているシアの元に向かうと、直ぐに神水を創造すると口に含みシアの中に口移しをした。

 

「シア!」

「輪廻…さん」

「チッ我慢しろやァ。」

チュッコクコクコク

「大丈夫か?シア?」(心配するような笑み)

シュトッ

待って、改めて墜ちたような音がしたわ

「…え、え?、だ、大丈夫ですぅ!」

「ならいいんだがなァ。」

「輪廻君〜その顔私にもしてよぉ〜」

「それより、今はあっちだ。」

 

 

 

 

ハジメは、ユエに支えられた愛子を受け取り、その口に試験管を咥えさせ、少しずつ神水を流し込んだ。愛子が、シアを優先しなかったことに咎めるような眼差しをハジメにぶつけるが、ハジメは無視する。今は、愛子の意思より、自分の意志より、シアの意志を優先してやりたかった。なので、問答無用で神水を流し込んでいく。しかし、愛子の体は全体が痙攣を始めており思った通りに体が動かないようで、自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。

 

 

 

 ハジメは、愛子が自力で神水を飲み込むことは無理だと判断し、残りの神水を自分の口に含むと、何の躊躇いもなく愛子に口付けして直接流し込んだ。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 愛子が大きく目を見開く。次いでに、ハジメの周囲で男女の悲鳴と怒声が上がった。しかし、ハジメは、その一切を無視して、愛子の口内に舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やり神水を流し込んでいく。ハジメの表情には、羞恥や罪悪感の類は一切なく、ただすべきことをするという真剣さだけが浮かんでいた。

 

 

 

 やがて、愛子の喉がコクコクと動き、神水が体内に流れ込む。すると、体を襲っていた痛みや、生命が流れ出していくような倦怠感と寒気が吹き飛び、まるで体の中心に火を灯したような熱が全身を駆け巡った。愛子は、寒い冬場に冷え切った体で熱々の温泉にでも浸かった時のような快感を覚え、体を震わせる。流石、神水。魔物の血肉を摂取することによる肉体崩壊すら防ぐ奇跡の水だ。効果は抜群である。

 

 長いような、一瞬のような口付けが終わり、ハジメが愛子から口を離す。僅かに二人の間に銀色の糸が引かれた。ハジメは、愛子を観察するように見る。それは、確実に神水の効果で危機的状況を脱したのか見極めるためだ。一方、愛子の方は、未だボーとしたまま焦点の合わない瞳でハジメを見つめている。

 

 

 

「先生」

 

「……」

 

「先生?」

 

「……」

 

「おい! 先生!」

 

「ふぇ!?」

 

 ハジメは愛子に容態を聞くため呼びかけるが、ハジメを見つめたままボーとして動かない愛子。業を煮やしたハジメが、軽く頬を叩きながら強めに呼び掛けると何とも可愛らしい声を上げて正気を取り戻した。

 

「体に異変は? 違和感はないか?」

 

「へ? あ、えっと、その、あの、だだ、だ、大丈夫ですよ。違和感はありません、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違います! 決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

 

「そうか。ならいい」

 

 ハジメは、非常にテンパった様子で、しどろもどろになりながら体調に異常はないことを伝える愛子に、実にあっさりした返事をすると、愛子を支えていた腕をこれまたあっさり外してシアの方へ向き直ってしまった。

 

「主よ!そっちは大丈夫でしたか!?」

そう聞くと輪廻達がこっちに来ながら答えた

「アァ、問題ねぇ。」

 

 

 

そして、一段落着いたと察した外野が再び騒ぎ始める前に、おそらく全員が忘却しているであろう哀れな存在を思い出させることにした。特に、愛子にとっては重要なことだ。おそらく、愛子は、突然の出来事だったので忘却しているわけではなく理解していないのだろう。

 

 

 

 ハジメは、一番清水に近い場所にいた護衛騎士の一人に声をかけた。

 

 

 

「……あんた、清水はまだ生きているか?」

 

 

 

 その言葉に全員が「あっ」と今思い出したような表情をして清水の倒れている場所を振り返った。愛子だけが、「えっ? えっ?」と困惑したように表情をしてキョロキョロするが、自分がシアに庇われた時の状況を思い出したのだろう。顔色を変え、慌てた様子で清水がいた場所に駆け寄る。

 

 

 

「清水君! ああ、こんな……ひどい」

 

 

 

 清水の胸にはシアと同じサイズの穴がポッカリと空いていた。出血が激しく、大きな血溜まりが出来ている……おそらく、もって数分だろう。

 

 

 

「し、死にだくない……だ、だずけ……こんなはずじゃ……ウソだ……ありえない……」

 

 

 

 傍らで自分の手を握る愛子に、話しかけているのか、唯の独り言なのかわからない言葉をブツブツと呟く清水。愛子は、周囲に助けを求めるような目を向けるが誰もがスっと目を逸らした。既に、どうしようもないということだろう。それに、助けたいと思っていないことが、ありありと表情に出ている。

 

 

 

 愛子は、藁にもすがる思いで振り返り、そこにいるハジメに叫んだ。

 

 

 

「南雲君!十五夜 さっきの薬を! 今ならまだ! お願いします!」

 

 

 

 ハジメ達は、愛子の言葉を予想していたようで「やっぱりか……」や「めんどくせぇ」と呟きながら溜息をつくと、愛子と清水の下へ向かった。そして、愛子に、どんな返答がなされるか分かっていながら質問する。

 

 

 

「助けたいのか、先生? 自分を殺そうとした相手だぞ? いくら何でも〝先生〟の域を超えていると思うけどな」

 

 

 

 自分を殺そうとした相手を、なお生徒だからと言う理由だけで庇うことのできる、必死になれる〝先生〟というものが、果たして何人いるのだろうか。それは、もう〝先生〟としても異常なレベルだと言えるのではないだろうか。そんな意味を含めて愛子にした質問の意図を愛子は正確に読み取ったようで、一瞬、瞳が揺らいだものの、毅然とした表情で答えた。

 

 

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから、南雲君……」

 

「いい加減にしろやクソ餓鬼、今はてめぇの意志なんぞ関係ねえ、別にそいつを助けるのはいい、だがなァ、今回の件は確実にお前らのせいだ。」

 

輪廻はそう言うと、神水を持ち清水に向き直った。

 

「清水、お前を助けてやっても良いがなァ、一つ条件がある。」

「な、何だ?」

「一つ聞きてぇ事があるんだがなァ。」

「な、んだ」

「清水、お前は、勇者になって何がしたかった?」

「え?」

「だからなァ、今やあのゴミ勇者より優秀なお前が、勇者にまでなって、したかったことはなんだァ?」

「し、したかった事?」

「アァ。じゃァ質問を変えるかァ、お前がしたかった事はなんだァ?」

「お、俺は、俺は、認めて欲しかったんだ!誰かに!何でもいいから!それで、1番認めてくれそうなのが勇者だったから。」

承認欲求、それは誰もが持っているもの。そして、それは輪廻が貰えなかったもの。だから輪廻はよく分かる。

「そうかァ、そいつは辛かったなァ、誰にも認められないって言うのは、辛えだろォ?よく分かるぜぇ。清水、お前は誰かに認めて貰いてぇんだろォ?」

「あ、ああ。」

輪廻は清水に神水を飲ませるために近付きながらこう言った。

「それなら俺の下に付かねぇか?」

ゴクゴクゴク

「え?」

「俺の元に部下として付け、そしたら幾らでも褒めてやる、認めてやる。」

「なら!俺は、俺はアンタの下に着く!」

「アァ。よろしく頼むぜェ、清水。」

「 !あぁ!まかせろ!」

輪廻はそう言えばと、思いつつ優花の方に向かっていった。

「おい、園部、ハジメに言いてぇ事が有るなら言っとけよォ。」と小声で言った。

「え?う、うん。」

 

私は何年か前(中学三年生の時)に南雲と出会った、

それはある事件がきっかけだった。

 

ある日、いつものように学校から帰っていると、その当時流行っていた都市伝説の一つである、一方通行(アクセラレータ)を見かけたんだ。その時は一緒にいた友人と盛り上がったけど、すぐ隣に誰か一緒に歩いているのがみえたの。その時は特に気にしなかったんだ。

 

問題なのはこの次の日。

 

この日は一人で帰って居たんだけど、その時当時色んな意味で有名だった悪ガキ(檜山)が、私に襲って来たの

 

「ぐへへへへへ良いだろ!」(溢れ出る小物感)

「きゃぁ!何すんのよ!」

だけどその時、

「クソ!何で輪廻はこんな時に居ないんだ!」

と言いながら檜山を一瞬で投げ倒して意識を刈り取った、南雲(ハジメはこの段階で、空手、柔道、剣道で二段を持っています。普通に強い。)

「大丈夫?」

「えぇ、大丈夫よ、ありがとう」

「ううん、別になんて事ないよ。それより輪廻はどこに行ったんだ?」

「今戻ったぜェ。」

「あ、輪廻、どこ行ってたの?」

「そこにいる奴のお仲間を締めてきた。」

「あ、一方通行!」

「だからなんだよその、一方通行って」

「輪廻知らないの?輪廻の事だよ?」

 

 

 

「それで?結局あんた達は何してたの?」

「コンビニで珈琲と煙草を買いに」

「輪廻の付き添い」

もう飛ばすわ、何が言いたいかって言うと結局優花がハジメに、惚れる切っ掛け!

 

 

 

「ねぇ南雲、」

「ん?何だ園部」

「あん時助けてくれてありがとね。」

「まぁ普通の人間として当たり前の事をしただけだけどな。」

「それでもありがと。」

「まぁ、それでお前が助かったんならいいんじゃねぇか?」

はじめのほほえみ、効果はばつぐんだ。

ストンっ

優花ちゃんって結構チョロくね?

「そ、そうね、でも勘違いしないでね!あんたのことべ、別に好きじゃないから!」

そしてやっぱりツンデレ系。

「何ラブコメしてんだよォ、さっさと行くぞ。」

「ねぇ十五夜、私も連れてってくれない?」

「…………………俺んとこは定員オーバーだからハジメと一緒に行けよ。」

 

その後車内にて。

「なあ、我が君、」

「何だ?」

「園部さぁ、絶対に惚れてますよね?ハジメに」

「アァ、俺もそう思うぜェ。」

 

フェーレンにて。

 

現在、輪廻達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 

 出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

 

 

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

 

 

 以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

 

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

 

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 

 

 イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、輪廻達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。ハジメとしては、これっきりで良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。

 

 

 

 ウィルが出て行った後、改めてイルワと輪廻達が向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々と輪廻とハジメに頭を下げた。

 

 

 

「輪廻君達、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

 

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?」

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君達に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

 

「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアとミレディのステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、三人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」

 

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 

 

 そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを四枚持ってこさせる。

 

 

 

 結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。

 

 

 

====================================

 

ユエ 323歳 女 レベル:75

 

天職:神子

 

自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

====================================

 

 

 

====================================

 

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

 

天職:占術師

 

筋力:60 [+最大6100]

 

体力:80 [+最大6120]

 

耐性:60 [+最大6100]

 

敏捷:85 [+最大6125]

 

魔力:3020

 

魔耐:3180

 

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

====================================

 

ミレディ・ライセン ?歳 女 レベル90

 

天職 ?

 

筋力:3000

 

体力:4000

 

耐性:5000

 

敏捷:3000

 

魔力:30000

 

魔耐:50000

 

技能:全属性適正・全属性耐性・魔力操作・複合魔法・神代魔法

 

====================================

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

 

天職:守護者

 

筋力:770  [+竜化状態4620]

 

体力:1100  [+竜化状態6600]

 

耐性:1100  [+竜化状態6600]

 

敏捷:580  [+竜化状態3480]

 

魔力:4590

 

魔耐:4220

 

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

====================================

 

 

 

 ハジメには及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。勇者が限界突破を使っても及ばないレベルである。

 

 

 

 流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。

 

 

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

 

 

 冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

 

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

 

「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 

 

 

 イルワは、ハジメの質問に非難するような眼差しを向けると居住まいを正した。

 

 

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

 

「……そうか。そいつは良かった」

 

 

 

 ハジメは、肩を竦めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。

 

 

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

 

 

 イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上に、ハジメ達とは友好関係を作っておきたいということらしい。ぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。

 

最後のオマケの輪廻君のステータス

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 

 

 

十五夜輪廻 17歳(534歳) 男 レベル70

 

 

 

 

 

 

 

転職:死神·剣豪·学園第一位·魔神

 

 

 

 

 

 

 

筋力:210000000

 

 

 

 

 

体力:150000000

 

 

 

 

 

 

耐性:210000000

 

 

 

 

 

 

 

敏捷:100000000

 

 

 

 

 

魔力:135000000

 

 

 

 

 

 

 

魔耐:100000000

 

 

 

 

 

  

霊圧:160000000

 

 

 

 

 

 

技能:無から有を創造する程度の能力·運命を決定する程度の能力·創造·浅打創造·超剣技·超剣術·日の呼吸+[爍刀]·斬魄刀+[始解]+[卍解]+[卍解ニ式]+[卍解三式]·鬼道+[縛道]+[破道]·ベクトル操作+[反射]·魔人化+[魔神化]·自己再生·不老不死·霊槍シャスティホル·魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・纏雷[+雷耐性][+出力増大]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・限界突破+[覇潰][+上限突破]·錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]·言語理解

 

 

 

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