とある炎剣使い達は世界最強   作:湯タンポ

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今回でハジメ達の無双シーンまで描きたいと思ってた時期が私にもありました。
取り敢えず合流まではたどり着けたんじゃ…

注意書き

作者の過度な妄想、願望で出来てる。
作者の好きな物ばかり入ってる。
オリ主二重人格になるかも。
天野河、檜山に対するオリ主の態度がすごいから気をつけて。
天野河、檜山に対するアンチ、ヘイトがスゴいよ。
天の河、檜山が好きな物好きな方は閲覧をお控え下さい。
そろそろ天ノ川がオリ主に殺されそう。
輪廻君が何言ってるか解らなくても気にしないで。
東方要素が出てきたぞ!。
呼吸が出てきたぞ!
何か輪廻君のヒロイン十五人ぐらいになりそう!(現時点、後に更に増える。)
輪廻君むっちゃちーと。

それでもいいよと言う方のみご覧下さい。


第15話 魔人族と魔物

輪廻達は現在、ホルアドに居た。

 

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われているんだ」

 

 

 

 ハジメは、そう言いながら自分のステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

 

 

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

 

 

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

 

 

「き〝金〟ランク!?」

 

 

 

 冒険者において〝金〟のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、〝金〟のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての〝金〟ランク冒険者を把握しており、ハジメのこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

 

 

 その声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメ達を凝視する。建物内がにわかに騒がしくなった。

 

 

 

 受付嬢は、自分が個人情報を大声で晒してしまったことに気がついてサッと表情を青ざめさせる。そして、ものすごい勢いで頭を下げ始めた。

 

 

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

 

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」

 

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

 

 

 放っておけばいつまでも謝り続けそうな受付嬢に、ハジメは苦笑いする。ウルで主が軽く戦争し、フューレンで裏組織を壊滅させるなど大暴れしてきた以上、身分の秘匿など今更だと思ったのだ。

 

 子連れで美女・美少女ハーレムを持つ、見た目少年達の〝金〟ランク冒険者に、ギルド内の注目がこれでもかと集まるが、注目されるのは何時ものことなので割り切って受付嬢を待つ輪廻達。注目されることに慣れていないミュウが、居心地悪そうなので全員であやす。

 

 やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、輪廻達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

 輪廻とハジメと清水は、その人物に見覚えがあり、こんなところで再会するとは思わなかったので思わず目を丸くして呟いた。

 

 

「「「……遠藤?」」」

 

 

輪廻とハジメの呟きに〝!〟と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。

 

 

 

「南雲ぉ!十五夜ぁ! いるのか! お前達なのか! 何処なんだ! 南雲ぉ!十五夜ぁ! 生きてんなら出てきやがれぇ! 南雲ハジメェー!十五夜輪廻ェー」

 

 

 

 あまりの大声に、思わず耳に指で栓をする人達が続出する。その声は、単に死んだ筈のクラスメイトが生存しているかもしれず、それを確かめたいという気持ち以上の必死さが含まれているようだった。

 

 

 

 ユエ達の視線が一斉に輪廻達の方を向く。ハジメは、未だに自分達の名前を大声で連呼する遠藤に、頬をカリカリと掻くとあまり関わりたくないなぁという表情をしながらも声をかけた。

 

 

 

「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

 

「!? 南雲! どこだ!」

 

 

 

 ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメは思わずドン引きする。

 

 

 

 一瞬、ハジメと視線があった遠藤だが、直ぐにハジメから目を逸らすと再び辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 俺には姿が見えないってのか!?」

 

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

 

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 

「三回中二回は開かないのか……お前流石だな」

 

「そこまで言ってねえわ」

 

 そこまで言葉を交わしてようやく、目の前の白髪眼帯の男が会話している本人だと気がついたようで、遠藤は、ハジメの顔をマジマジと見つめ始める。男に見つめられて喜ぶ趣味はないので嫌そうな表情で顔を背けるハジメに、遠藤は、まさかという面持ちで声をかけた。

 

 

 

「お、お前……お前が南雲……なのか?」

 

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ」

 

 

 

 上から下までマジマジと観察し、それでも記憶にあるハジメとの余りの違いに半信半疑の遠藤だったが、顔の造形や自分の影の薄さを知っていた事からようやく信じることにしたようだ。

 

 

 

「お前……生きていたのか」

 

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

 

「何か、えらく変わってるんだけど……見た目とか雰囲気とか口調とか……」

 

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ? そりゃ多少変わるだろ」

 

「そ、そういうものかな? いや、でも、そうか……ホントに生きて……」

 

 

 

 あっけらかんとしたハジメの態度に困惑する遠藤だったが、それでも死んだと思っていたクラスメイトが本当に生きていたと理解し、安堵したように目元を和らげた。いくら香織に構われていることに他の男と同じように嫉妬の念を抱いていたとしても、また檜山達のイジメを見て見ぬふりをしていたとしても、死んでもいいなんて恐ろしいことを思えるはずもない。ハジメの死は大きな衝撃であった。だからこそ、遠藤は、純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったのだ。

 

 

 

「っていうかお前……冒険者してたのか? しかも〝金〟て……」

 

「ん~、まぁな」

 

 

 

 ハジメの返答に遠藤の表情がガラリと変わる。クラスメイトが生きていた事にホッとしたような表情から切羽詰ったような表情に。改めて、よく見てみると遠藤がボロボロであることに気がつくハジメ。一体、何があったんだと内心首を捻る。

 

 

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

 

「まぁ、そうだな」

 

遠藤の真剣な表情でなされた確認に肯定の意をハジメが示すと、遠藤はハジメに飛びかからんばかりの勢いで肩をつかみに掛かり、今まで以上に必死さの滲む声音で、表情を悲痛に歪めながら懇願を始めた。

 

 

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!」

 

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全くわからないんだが? 死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

 ハジメが、普段目立たない遠藤のあまりに切羽詰った尋常でない様子に、困惑しながら問い返す。すると、遠藤はメルド団長の名が出た瞬間、ひどく暗い表情になって膝から崩れ落ちた。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。

 

 

 

「……んだよ」

 

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

 

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

 

「……そうか」

 

 

 

 癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、ハジメはただ一言そう返した。

 

 

 

 

「と言うか俺たちの存在を忘れるな」

 

「同じく」

 

「十五夜!?…はあんまり変わってないな、うん。それよりお前清水か!?めっちゃ変わったじゃないか!」

 

「うん、まぁ、なんか色々とあったんだよ色々と。」

 

「そ、そうか。」

 

という事が有りつつも

 

 

 

「で? 何があったんだ?」

 

「それは……」

 

 

 尋ねるハジメに、遠藤は膝を付きうなだれたまま事の次第を話そうとする。と、そこでしわがれた声による制止がかかった。

 

 

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

 

 

 声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。その眼からは、長い年月を経て磨かれたであろう深みが見て取れ、全身から覇気が溢れている。

 

 

 

 ハジメ達は、先程の受付嬢が傍にいることからも彼がギルド支部長だろうと当たりをつけた。そして、遠藤の慟哭じみた叫びに再びギルドに入ってきた時の不穏な雰囲気が満ち始めた事から、この場で話をするのは相応しくないだろうと判断し大人しく従う事にした。

 

 

 

 おそらく、遠藤は既にここで同じように騒いで、勇者組や騎士団に何かがあったことを晒してしまったのだろう。ギルドに入ったときの異様な雰囲気はそのせいだ。

 

 

 

 ギルド支部長と思しき男は、遠藤の腕を掴んで強引に立たせると有無を言わさずギルドの奥へと連れて行った。遠藤は、かなり情緒不安定なようで、今は、ぐったりと力を失っている。

 

 

 

 きっと、話の内容は碌な事じゃないんだろうなと嫌な予想をしながらハジメ達は後を付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔人族……ね」

 

 

 

 冒険者ギルドホルアド支部の応接室にハジメの呟きが響く。対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤浩介が座っており、遠藤の正面に輪廻が、その両サイドにユエとミレディが、ユエの隣にシアが、ミレディの隣にティオが座っている。ハジメ達輪廻の従者は優花以外立っている。ミュウは輪廻の膝の上だ。

 

 

 

 遠藤から事の次第を聞き終わったハジメの第一声が先程の呟きだった。魔人族の襲撃に遭い、勇者パーティーが窮地にあるというその話に遠藤もロアも深刻な表情をしており、室内は重苦しい雰囲気で満たされていた。

 

 

 

 ……のだが、輪廻の膝の上で幼女がモシャモシャと頬をリスのよう膨らませながらお菓子を頬張っているため、イマイチ深刻になりきれていなかった。ミュウには、輪廻達の話は少々難しかったようだが、それでも不穏な空気は感じ取っていたようで、不安そうにしているのを見かねて輪廻がお菓子を与えておいたのだ。

 

 

 

「つぅか! 何なんだよ! その子! 何で、菓子食わしてんの!? 状況理解してんの!? みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「ひぅ!? パパぁ!」

 

 

 

 場の雰囲気を壊すようなミュウの存在に、ついに耐え切れなくなった遠藤がビシッと指を差しながら怒声を上げる。それに驚いてミュウが小さく悲鳴を上げながら輪廻に抱きついた。

 

 

 

 当然、輪廻から吹き出す人外レベルの1万倍程の殺気。パパは娘の敵を許さない。

 

 

 

「てめぇ……何、ミュウに八つ当たりしてんだァ?消すぞ!?」

 

「ひぅ!?」

 

 

 

 ミュウと同じような悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤。両隣から「……もう、すっかりパパ」とか「ちゃんとお父さんしてるねぇ〜。」とか「さっき、さり気なく〝家の子〟とか口走ってましたしね~」とか「果てさて、主様はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」とか聞こえてくるが、輪廻は無視する。そんな事より、怯えてしまったミュウを宥める方が重要だ。

 

 

 

 ソファーに倒れこみガクブルと震える遠藤を尻目にミュウを宥める輪廻に、ロアが呆れたような表情をしつつ、埒があかないと話に割り込んだ。

 

 

 

「さて、輪廻。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

「まァ、全部成り行きだがなァ。」

 

 

 

 成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態では断じてなかったのだが、事も無げな様子で面倒くさそうな顔をする輪廻に、ロアは面白そうに唇の端を釣り上げた。

 

 

 

「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった1人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前達が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

 

 

 ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにする。自力で【オルクス大迷宮】の深層から脱出したハジメ達の事を、それなりに強くなったのだろうとは思っていたが、それでも自分よりは弱いと考えていたのだ。

 

 

 

 何せハジメの天職は〝錬成師〟という非戦系職業であり、元は〝無能〟と呼ばれていた上、〝金〟ランクと言っても、それは異世界の冒険者の基準であるから自分達召喚された者とは比較対象にならない。なので、精々、破壊した転移陣の修復と、戦闘のサポートくらいなら出来るだろうくらいの認識だったのだ。

 

 

 

 元々、遠藤が冒険者ギルドにいたのは、高ランク冒険者に光輝達の救援を手伝ってもらうためだった。もちろん、深層まで連れて行くことは出来ないが、せめて転移陣の守護くらいは任せたかったのである。駐屯している騎士団員もいるにはいるが、彼等は王国への報告などやらなければならないことがあるし、何より、レベルが低すぎて精々三十層の転移陣を守護するのが精一杯だった。七十層の転移陣を守護するには、せめて〝銀〟ランク以上の冒険者の力が必要だったのである。

 

 

 

 そう考えて冒険者ギルドに飛び込んだ挙句、二階のフロアで自分達の現状を大暴露し、冒険者達に協力を要請したのだが、人間族の希望たる勇者が窮地である上に騎士団の精鋭は全滅、おまけに依頼内容は七十層で転移陣の警備というとんでもないもので、誰もが目を逸らし、同時に人間族はどうなるんだと不安が蔓延したのである。

 

 

 

 そして、騒動に気がついたロアが、遠藤の首根っこを掴んで奥の部屋に引きずり込み事情聴取をしているところで、ハジメ達のステータスプレートをもった受付嬢が駆け込んできたというわけだ。

 

 

 

 そんなわけで、遠藤は、自分がハジメの実力を過小評価していたことに気がつき、もしかすると自分以上の実力を持っているのかもしれないと、過去のハジメと比べて驚愕しているのである。

 

 

 

 遠藤が驚きのあまり硬直している間も、ロアと輪廻達の話は進んでいく。

 

 

「バカ言わないでくれ……魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

 

「同感だ、そんなに弱いつもりは無い、何せ俺たちは…」

 

「「破壊神の右手と左腕だからな。」」

「おい待てェ、誰が破壊神やァ」

「主です。」「我が君です。」

「揃って言うなやァ。」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか?それに破壊神か…随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者達の救出だろ?」

 

遠藤が、救出という言葉を聞いてハッと我を取り戻す。そして、身を乗り出しながら、ハジメに捲し立てた。

 

 

 

「そ、そうだ! 南雲! 一緒に助けに行こう! お前達がそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

 

「……」

 

 

 

 見えてきた希望に瞳を輝かせる遠藤だったが、ハジメの反応は芳しくない。遠くを見て何かを考えているようだ。遠藤は、当然、ハジメが一緒に救出に向かうものだと考えていたので、即答しないことに困惑する。

 

 

 

「どうしたんだよ! 今、こうしている間にもアイツ等は死にかけているかもしれないんだぞ! 何を迷ってんだよ! 仲間だろ!」

 

「……仲間?」

 

 ハジメは、考え事のため逸らしていた視線を元に戻し、冷めた表情でヒートアップする遠藤を見つめ返した。その瞳に宿る余りの冷たさに思わず身を引く遠藤。先程の殺気を思い出し尻込みするが、それでも、ハジメという貴重な戦力を逃すわけにはいかないので半ば意地で言葉を返す。

 

 

 

「あ、ああ。仲間だろ! なら、助けに行くのはとうぜ……」

 

「勝手にお前等の仲間にするな。はっきり言うが、俺がお前等にもっている認識は一部を除いて唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

 

「なっ!? そんな……何を言って……」

 

 

 

 ハジメの予想外に冷たい言葉に狼狽する遠藤を尻目に、ハジメは、先程の考え事の続き、すなわち、光輝達を助けることのデメリットを考える。

 

 

 

 ハジメ自身が言った通り、ハジメにとってクラスメイトは既に顔見知り程度の認識だ。今更、過去のあれこれを持ち出して復讐してやりたいなどという思いもなければ、逆に出来る限り力になりたいなどという思いもない。本当に、関心のないどうでもいい相手だった。

自分が使えている主が言わなければ。

 

「………ロア支部長、」

「何だ?」

「…今回の奴だが、対外的には依頼の形にしといてくれ。」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「アァ、それからミュウを見る為に一部屋貸してくれ。」

「ああ、それぐらい構わない、」

 

結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵して深く息を吐く遠藤を無視して、輪廻はロアとさくさく話を進めていった。

 

「…ハジメ、清水、今回は実践も兼ねてお前達に任せる。まァ要するにテストだ、合格かは俺が最後の方に言って決める。」

「「了解です、主(我が君)」」

「ユエとシアとミレディはハジメの現場指揮の元、戦え、終わったら褒美をくれてやる、何でもだ。」

「!分かった 」

「その言葉忘れちゃダメだよぉ?」

「!やったるですぅ!」

 

その輪廻の言葉にユエ達は今までにない程の殺る気(誤字ではない)(特にシア)を出した。

ハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。

 

 

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

 

「早く案内しろ、遠藤」

 

「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

 

「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。主からの指名ださっさと終わらせるぞ。」

 

「」

 

 

 

 

 

 迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメと清水の態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れとつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、遠藤は親友達の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

れ「…タイミングを見計らって殺るわよ。」

全員「「「「「…えぇ。」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

 

「そ、そんな……」

 

「や、やだ……な、なんで……」

 

 

 

 隠し部屋から出てきた仲間達が、吊るされる光輝を見て呆然としながら、意味のない言葉をこぼす。流石の雫や香織、鈴も言葉が出ないようで立ち尽くしている。そんな、戦意を喪失している彼等に、魔人族の女が冷ややかな態度を崩さずに話しかけた。

 

 

 

「ふん、こんな単純な手に引っかかるとはね。色々と……舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだ」

 

 

 

 雫が、青ざめた表情で、それでも気丈に声に力を乗せながら魔人族の女に問いかける。

 

 

 

「……何をしたの?」

 

「ん? これだよ、これ」

 

 

 

 そう言って、魔人族の女は、未だにブルタールモドキに掴まれているメルド団長へ視線を向ける。その視線をたどり、瀕死のメルド団長を見た瞬間、雫は理解した。メルド団長は、光輝の気を逸らすために使われたのだと。知り合いが、瀕死で捕まっていれば、光輝は必ず反応するだろう。それも、かなり冷静さを失って。

 

 

 

 おそらく、前回の戦いで光輝の直情的な性格を魔人族の女は把握したのだ。そして、キメラの固有能力でも使って、温存していた強力な魔物を潜ませて、光輝が激昂して飛びかかる瞬間を狙ったのだろう。

 

 

 

「……それで? 私達に何を望んでいるの? わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

 

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう? 中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で? どうだい?」

 

 

 

 魔人族の女の言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は、臆すことなく再度疑問をぶつけた。

 

 

 

「……光輝はどうするつもり?」

 

「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう? 彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

 

「……それは、私達も一緒でしょう?」

 

「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」

 

「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

 

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

 

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

 

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

 

 

 

 雫と魔人族の女の会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。

 

 

 

 それは、つまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。そうなった時、果たして聖教教会は、何とかして帰ってきたものの役に立たなくなった自分達を保護してくるのか……そして、元の世界に帰ることは出来るのか……

 

 

 

 どちらに転んでも碌な未来が見えない。しかし……

 

 

 

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

 

 

 誰もが言葉を発せない中、意外なことに恵里が震えながら必死に言葉を紡いだ。それに、クラスメイト達は驚いたように目を見開き、彼女をマジマジと注目する。そんな恵里に、龍太郎が、顔を怒りに染めて怒鳴り返した。

 

 

 

「恵里、てめぇ! 光輝を見捨てる気か!」

 

「ひっ!?」

 

「龍太郎、落ち着きなさい! 恵里、どうしてそう思うの?」

 

 

 

 龍太郎の剣幕に、怯えたように後退る恵里だったが、雫が龍太郎を諌めたことで何とか踏みとどまった。そして、深呼吸するとグッと手を握りしめて心の内を語る。

 

 

 

「わ、私は、ただ……みんなに死んで欲しくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

 

 

 ポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ恵里。そんな彼女を見て他のメンバーが心を揺らす。すると、一人、恵里に賛同する者が現れた。

 

 

 

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ? あぁ?」

 

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか? 俺達全員?」

 

「そうじゃねぇ! そうじゃねぇが!」

 

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

 

 

 檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。檜山の言う通り、死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。

 

 

 

 しかし、それでも素直にそれを選べないのは、光輝を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか? という罪悪感が原因だ。まるで、自分達が光輝を差し出して生き残るようで踏み切れないのである。

 

 

 

 そんなクラスメイト達に、絶妙なタイミングで魔人族の女から再度、提案がなされた。

 

 

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

 

 

 

 雫は、その提案を聞いて内心舌打ちする。魔人族の女は、最初からそう提案するつもりだったのだろうと察したからだ。光輝を殺すことが決定事項なら現時点で生きていることが既におかしい。問答無用に殺しておけばよかったのだ。

 

 

 

 それをせずに今も生かしているのは、まさにこの瞬間のためだ、おそらく、魔人族の女は前回の戦いを見て、光輝達が有用な人材であることを認めたのだろう。だが、会話すら成立しなかったことから光輝がなびくことはないと確信した。しかし、他の者はわからない。なので、光輝以外の者を魔人族側に引き込むため策を弄したのだ。

 

 

 

 一つが、光輝を現時点では殺さないことで反感を買わないこと、二つ目が、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い詰めて選択肢を狭めること、そして三つ目が〝それさえなければ〟という思考になるように誘導し、ここぞという時にその問題点を取り除いてやることだ。

 

 

 

 現に、光輝を生かすといわれて、それなら生き残れるしと、魔人族側に寝返ることをよしとする雰囲気になり始めている。本当に、光輝が生かされるかについては何の保証もないのに。殺された後に後悔しても、もう魔人族側には逆らえないというのに。

 

 

 

 雫は、そのことに気がついていたが、今、この時を生き残るには魔人族側に付くしかないのだと自分に言い聞かせて黙っていることにした。生き残りさえすれば、光輝を救う手立てもあるかもしれないと。

 

 

 

 魔人族の女としても、ここで雫達を手に入れることは大きなメリットがあった。一つは、言うまでもなく、人間族側にもたらすであろう衝撃だ。なにせ人間族の希望たる〝神の使徒〟が、そのまま魔人族側につくのだ。その衝撃……いや、絶望は余りに深いだろう。これは、魔人族側にとって極めて大きなアドバンテージだ。

 

 

 

 二つ目が、戦力の補充である。魔人族の女が【オルクス大迷宮】に来た本当の目的、それは迷宮攻略によってもたらされる大きな力だ。ここまでは、手持ちの魔物達で簡単に一掃できるレベルだったが、この先もそうとは限らない。幾分か、魔物の数も光輝達に殺られて減らしてしまったので戦力の補充という意味でも雫達を手に入れるのは都合がよかったということだ。

 

 

 

 このままいけば、雫達が手に入る。雰囲気でそれを悟った魔人族の女が微かな笑みを口元に浮かべた。

 

 

 

 しかし、それは突然響いた苦しそうな声によって直ぐに消されることになった。

 

 

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

 

「光輝!」

 

「光輝くん!」

 

「天之河!」

 

 

 

 声の主は、宙吊りにされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。

 

 

 

「……騙されてる……アランさん達を……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

 

 

 息も絶え絶えに、取引の危険性を訴え、そんな取引をするくらいなら自分を置いてイチかバチか死に物狂いで逃げろと主張する光輝に、クラスメイト達の心が再び揺れる。

 

 

 

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ? いい加減、現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ! 騎士達のことは……殺し合いなんだ! 仕方ないだろ! 一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

 

 

 檜山の怒声が響く。この期に及んでまだ引こうとしない光輝に怒りを含んだ眼差しを向ける。檜山は、とにかく確実に生き残りたいのだ。最悪、ほかの全員が死んでも香織と自分だけは生き残りたかった。イチかバチかの逃走劇では、その可能性は低いのだ。

 

 

 

 魔人族側についても、本気で自分の有用性を示せば重用してもらえる可能性は十分にあるし、そうなれば、香織を手に入れることだって出来るかもしれない。もちろん、首輪をつけて自由意思を制限した状態で。檜山としては、別に彼女に自由意思がなくても一向に構わなかった。とにかく、香織を自分の所有物に出来れば満足なのだ。

 

 

 

 檜山の怒声により、より近く確実な未来に心惹かれていく仲間達。

 

 

 

 と、その時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

 

 

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

 

 

 

 メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

 

 

 

 光輝達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いたのは同時だった。

 

 

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

 

「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

 

「抜かせ!」

 

 

 

 メルドを包む光、一見、光輝の〝限界突破〟のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。

 

 

 

 それを見た魔人族の女が、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。

 

 

 

 その宝石は、名を〝最後の忠誠〟といい、魔人族の女が言った通り自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

 

 

 

 メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、魔人族の女は一切余裕を失っていなかった。

 

 

 

 そして、メルドの持つ〝最後の忠誠〟が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。

 

 

 

「喰らい尽くせ、アブソド」

 

 

 

 と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった〝最後の忠誠〟から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。

 

 

 

「なっ!? 何が!」

 

 

 

 よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

 

 

 

 六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は〝魔力貯蔵〟。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。

 

 

 

 メルドを包む〝最後の忠誠〟の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。何だ? とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

 

 

 

 そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

 

 

「……メルドさん!」

 

 

 

 光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 直後、砂塵の刃が横薙ぎに振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失ってドシャ! と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

 

 

 

 咄嗟に、間に合わないと分かっていても、香織が遠隔で回復魔法をメルドにかける。僅かに出血量が減ったように見えるが、香織自身、もうほとんど魔力が残っていないので傷口が一向に塞がらない。

 

 

 

「うぅ、お願い! 治って!」

 

 

 

 魔力が枯渇しかかっているために、ひどい倦怠感に襲われ膝を突きながらも、必死に回復魔法をかける香織。

 

 

 

「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

 

 

 

 魔人族の女が、赤く染まった砂塵の刃を軽く振りながら光輝達を睥睨する。再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。

 

 

 

 檜山が、代表して提案を呑もうと魔人族の女に声を発しかけた。が、その時、

 

「今よ!」

「「「「「「「「スペルカード発動!」」」」」」」」

「霊符『夢想封印』」

「恋符『マスタースパーク』!」

「剣技『桜花閃々』!」

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

「魔符『アーティフルサクリファイス』」

「メイド秘技『殺人ドール』」

「想起『百万鬼夜行』」

「禁忌「クランベリートラップ」

「禁忌「レーヴァテイン」

「禁忌「フォーオブアカインド」

「禁忌「カゴメカゴメ」

「禁忌「恋の迷路」

「禁弾「スターボウブレイク」

「禁弾「カタディオプトリック」

「禁弾「過去を刻む時計」

「秘弾「そして誰もいなくなるか?」

「QED「495年の波紋」

 

ドゴォォォォォォォォングシャァザシュッドギャァァァァァァァァァンドコドコドッカァァァァァァァァン

 

「チッ!これが例の能力持ちの人間かい!だけど私達が対策してないとでも思ったかい?『能力禁じノ結界』『弱体ノ結界』」

 

(なっ!一気にスペルが使えなくなったわ!それに能力が使えない!。チッ、スペルも霊力や魔力の残存量からして皆も打てるのは一回限り、それにフランは分身体を作ってまで打ったから恐らくもう打てないはず、私も夢想封印とかの大技は使えない、なら、私達が隙を作って比較的に妖力が多い妖夢にスペルを打って貰って本体を倒す。)と霊夢が考えてる内に。

 

「……るな」

 

 

 

 未だ、馬頭に宙吊りにされながら力なく脱力する光輝が、小さな声で何かを呟く。満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じ、檜山は言葉を呑み込んだ。

 

 

 

「は? 何だって? 死にぞこない」

 

 

 

 魔人族の女も、光輝の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。光輝は、俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。

 

 

 

 魔人族の女は、光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、馬頭に命令を下す。雫達の取り込みに対する有利不利など、気にしている場合ではないと本能で悟ったのだ。

 

 

 

「アハトド! 殺れ!」

 

「ルゥオオオ!!」

 

 

 

 馬頭、改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、〝魔衝波〟を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押しつぶそうとした。

 

 

 

 が、その瞬間、

 

 

 

カッ!!

 

 

 

 光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ! という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまった。

 

 

 

「ルゥオオオ!!」

 

 

 

 先程とは異なる絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、光輝は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

 

 

ズドォン!!

 

 

 

 そんな大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

 

 

 

 光輝は、ゆらりと体を揺らして、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。

 

 

 

 〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]。通常の〝限界突破〟が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、〝覇潰〟はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

 

 

 

 だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。

 

 

 

 魔人族の女が焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。しかし、光輝は、そんな魔物達には目もくれない。聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。

 

 

 

「お前ぇー! よくもメルドさんをぉー!!」

 

「チィ!」

 

 

 

 大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる魔人族の女を袈裟斬りにした。

 

 

 

 砂塵の盾を作りながら後ろに下がっていたのが幸いして、両断されることこそなかったが、魔人族の女の体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

 

 

 

 背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちた魔人族の女の下へ、光輝が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

 

 

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

 

 

 ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、魔人族の女が諦観を漂わせた瞳で迫り来る光輝を見つめながら、皮肉気に口元を歪めた。

 

 

 

 傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、光輝もそんな暇は与えないだろう。完全にチェックメイトだと、魔人族の女は激痛を堪えながら、右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出した。

 

 

 

 それを見た光輝が、まさかメルドと同じく自爆でもする気かと表情を険しくして、一気に踏み込んだ。魔人族の女だけが死ぬならともかく、その自爆が仲間をも巻き込まないとは限らない。なので、発動する前に倒す! と止めの一撃を振りかぶった。

 

 

 

 だが……

 

 

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

 

 

 愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らす魔人族の女に、光輝は思わず聖剣を止めてしまった。覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく魔人族の女。

 

 

 

 光輝の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

 

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

 

 

 そう、光輝にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている〝人〟だとは思っていなかったのである。あるいは、無意識にそう思わないようにしていたのか……

 

 

 

 その認識が、魔人族の女の愛しそうな表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ〝人〟だと気がついてしまった。自分のしようとしていることが〝人殺し〟であると認識してしまったのだ。

 

 

 

「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 

「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」

 

「お、俺は……」

 

「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の一匹がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

しかし。

「妖夢!今よ!打ちなさい!」

「みょん!」

 

そう言って妖夢は魔人族の女に高速で近付き。

 

「獄神剣「業風神閃斬」!」

 

技を放った、がしかし馬鹿が邪魔をした。

「辞めるんだ!」ガキィィンガシッ

「な、触らないで下さい!」

「やめろ、話し合えばきっと!」

「!アハドド!剣士の女にトドメをさせ!」

「ルオオオオオオオオオ!」

 

壁から帰還してきていた魔物が妖夢の腹と肩あたりに拳をめり込ませた。

ドゴォォォォォォォォン

「ガハッ」

妖夢は片腕が折れ、流血し吐血しながら飛ばされて行った。

「あんた最低だね、自分を助けてくれた仲間を盾にするなんて。」

「ち、ちが!」

「今だ!全員殺しに行け!」

ウォォォォォォォォオ!

そして魔人族の女は「もちろんあたしも殺るからね」と言いながら魔法の詠唱を始めた。〝無拍子〟による予備動作のない急激な加速と減速を繰り返しながら魔物の波状攻撃を凌ぎつつ、何とか、魔人族の女の懐に踏み込む隙を狙う雫だったが、その表情は次第に絶望に染まっていく。

 

 

 

 なにより苦しいのは、アハトドが雫のスピードについて来ていることだ。その鈍重そうな巨体に反して、しっかり雫を眼で捉えており、隙を衝いて魔人族の女のもとへ飛び込もうとしても、一瞬で雫に並走して衝撃を伴った爆撃のような拳を振るってくるのである。

 

 

 

 雫はスピード特化の剣士職であり、防御力は極めて低い。回避か受け流しが防御の基本なのだ。それ故に、〝魔衝波〟の余波だけでも少しずつダメージが蓄積していく。完全な回避も、受け流しも出来ないからだ。

 

 

 

 そして、とうとう蓄積したダメージが、ほんの僅かに雫の動きを鈍らせた。それは、ギリギリの戦いにおいては致命の隙だ。

 

 

 

バギャァ!!

 

 

 

「あぐぅう!!」

 

 

 

 咄嗟に剣と鞘を盾にしたが、アハトドの拳は、雫の相棒を半ばから粉砕しそのまま雫の肩を捉えた。地面に対して水平に吹き飛び体を強かに打ち付けて地を滑ったあと、力なく横たわる雫。右肩が大きく下がって腕がありえない角度で曲がっている。完全に粉砕されてしまったようだ。体自体にも衝撃が通ったようで、ゲホッゲホッと咳き込むたびに血を吐いている。

 

 

 

「雫ちゃん!」

 

 

 

 香織が、焦燥を滲ませた声音で雫の名を呼ぶが、雫は折れた剣の柄を握りながらも、うずくまったまま動かない。

 

 

 

 その時、香織の頭からは、仲間との陣形とか魔力が尽きかけているとか、自分が傍に行っても意味はないとか、そんな理屈の一切は綺麗さっぱり消え去っていた。あるのはただ〝大切な親友の傍に行かなければ〟という思いだけ。

 

 

 

 香織は、衝動のままに駆け出す。魔力がほとんど残っていないため、体がフラつき足元がおぼつかない。背後から制止する声が上がるが、香織の耳には届いていなかった。ただ一心不乱に雫を目指して無謀な突貫を試みる。当然、無防備な香織を魔物達が見逃すはずもなく、情け容赦ない攻撃が殺到する。

 

 

 

 だが、それらの攻撃は全て光り輝くシールドが受け止めた。しかも、無数のシールドが通路のように並べ立てられ香織と雫を一本の道でつなぐ。

 

 

 

「えへへ。やっぱり、一人は嫌だもんね」

 

 

 

 それを成したのは鈴だ。青ざめた表情で右手を真っ直ぐ雫の方へと伸ばし、全てのシールドを香織と雫をつなぐために使う。その表情に淡い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 鈴は、内心悟っていたのだ。自分達はもう助からないと。ならば、大好きな友人達を最後の瞬間まで一緒にいさせるために自分の魔法を使おうと、そう思ったのだ。当然、その分、他の仲間の防御が薄くなるわけだが……鈴は内心で「ごめんね」と謝り、それでも香織と雫のためにシールドを張り続けた。

 

 

 

 鈴のシールドにより、香織は、多少の手傷を負いつつも雫の下へたどり着いた。そして、うずくまる雫の体をそっと抱きしめ支える。

 

 

 

「か、香織……何をして……早く、戻って。ここにいちゃダメよ」

 

「ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

 

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

 

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

 

 

 

 雫を支えながら眉を八の字にして微笑む香織は、痛みを和らげる魔法を使う。雫も、無事な左手で自分を支える香織の手を握り締めると困ったような微笑みを返した。

 

 

 

 そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う香織と雫を見下ろし、「ルゥオオオ!!」と独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

 

 

 

 鈴のシールドが、いつの間にか接近を妨げるようにアハトドと香織達の間に張られているが、そんな障壁は気にもならないらしい。己の拳が一度振るわれれば、紙くずのように破壊し、その衝撃波だけで香織達を粉砕できると確信しているのだろう。

 

 

 

 今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にして、香織の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。「ああ、これが走馬灯なのかな?」と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた香織だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

 

 

 

 それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって初めて〝好き〟だったのだと自覚した。生存を信じて追いかけた。

 

 

 

だが、それもここで終わる。「結局、また、誓いを破ってしまった」そんな思いが、気がつけば香織の頬に涙となって現れた。

 

 

 

 再会したら、まずは名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を……自然と紡ぐ。

 

 

 

「……ハジメくん」

 

 その瞬間だった。

 

 

 

ドォゴオオン!!

 

 轟音と共にアハトドの頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力を以て飛び出したのは。

 

スパークする漆黒の杭は、そのまま眼下のアハトドを、まるで豆腐のように貫きひしゃげさせ、そのまま地面に突き刺さった。

 

 全長百二十センチのほとんどを地中に埋め紅いスパークを放っている巨杭と、それを中心に血肉を撒き散らして原型を留めていないほど破壊され尽くしたアハトドの残骸に、眼前にいた香織と雫はもちろんのこと、光輝達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。

 

 

 

 戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、崩落した天井から人影が飛び降りてきた。その人物は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかにアハトドの残骸を踏みつけながら降り立つと、周囲を睥睨する。

 

 

 

 そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。

 

 

 

 振り返るその人物と目が合った瞬間、香織の体に電撃が走る。悲しみと共に冷え切っていた心が、いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が、突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めた。

 

 

 

「……相変わらず仲がいいな、お前等」

 

 

 

 苦笑いしながら、そんな事をいう彼に、考えるよりも早く香織の心が歓喜で満たされていく。

 

 

 

 髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目つきが違う。だが、わかる。彼だ。生存を信じて探し続けた彼だ。

 

 そう、

 

「ハジメくん!」




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