とある炎剣使い達は世界最強   作:湯タンポ

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こんばんわ湯たんぽです。
今回は長く語りません、悲しいので。

注意書き

作者の過度な妄想、願望で出来てる。
作者の好きな物ばかり入ってる。
オリ主二重人格になるかも。
天野河、檜山に対するオリ主の態度がすごいから気をつけて。
天野河、檜山に対するアンチ、ヘイトがスゴいよ。
天の河、檜山が好きな物好きな方は閲覧をお控え下さい。
そろそろ天ノ川がオリ主に殺されそう。
輪廻君が何言ってるか解らなくても気にしないで。
東方要素が出てきたぞ!。
呼吸が出てきたぞ!
何か輪廻君のヒロイン十五人ぐらいになりそう!(現時点、後に更に増える。)
輪廻君むっちゃちーと。

それでもいいよと言う方のみご覧下さい。



第16話 元無能と元敗者の無双

「へ? ハジメくん? って南雲くん? えっ? なに? どういうこと?」

 

 

 

 香織の歓喜に満ちた叫びに、隣の雫が混乱しながら香織とハジメを交互に見やる。どうやら、香織は一発で目の前の白髪眼帯黒コートの人物がハジメだと看破したようだが、雫にはまだ認識が及ばないらしい。

 

 

 

 しかし、それでも肩越しに振り返って自分達を苦笑い気味に見ている少年の顔立ちが、記憶にある南雲ハジメと重なりだすと、雫は大きく目を見開いて驚愕の声を上げた。

 

 

「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの? えっ? なに? ホントどういうこと?」

 

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

 

 

 香織と同じく死を覚悟した直後の一連の出来事に、流石の雫も混乱が収まらないようで痛みも忘れて言葉をこぼす。そんな雫の名を呼びながら諌めるハジメは、ふと気配を感じて頭上を見上げた。そして、落下してきた金髪の女の子ユエをお姫様抱っこで受け止めると恭しく脇に降ろし、ついで飛び降りてきたウサミミ少女シアも同じように抱きとめて脇に降ろす。ミレディは自分で降り、清水は普通に着地した。

 

 

 最後に降り立ったのは全身黒装束の少年、遠藤浩介だ。

 

 

 

「な、南雲ぉ!おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」

 

 

 

 文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。

 

 

 

「「浩介!」」

 

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

 

 

 

 〝助けを呼んできた〟その言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。そして、改めてハジメ達を凝視する。だが、そんな周囲の者達の視線などはお構いなしといった様子で、ハジメは少し面倒臭そうな表情をしながら、全員に手早く指示を出した。

 

 

 

「ユエ 、、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ、ミレディはそこで倒れてる白髪の剣士を見てくれ。」

 

「ん……分かった」

 

「了解ですぅ!」

 

「はいはーい。」

 

 ユエは周囲の魔物をまるで気にした様子もなく悠然と歩みを進め、シアは驚異的な跳躍力で魔物の群れの頭上を一気に飛び越えて倒れ伏すメルドの傍に着地した。ミレディも普通に歩いていた。

 

「ハ、ハジメくん……」

 

 香織が、再度、ハジメの名を声を震わせながら呼んだ。その声音には、再会できた喜びを多分に含んではいたが、同じくらい悲痛さが含まれていた。それは、この死地にハジメが来てしまったが故だろう。どういう経緯か香織にはわからなかったが、それでも直ぐに逃げて欲しいという想いがその表情から有り有りと伝わる。

 

 ハジメは、チラリと香織を見返すと肩を竦めて「大丈夫だから、そこにいろ」と短く伝えた。そして、即座に〝瞬光〟を発動し知覚能力を爆発的に引き上げると、〝宝物庫〟からクロスビットを三機取り出し、それを香織と雫の周りに盾のように配置した。

 

 突然、虚空に現れた十字架型の浮遊する物体に、目を白黒させる香織と雫。そんな二人に背を向けると、ハジメは元凶たる魔人族の女に向かって傲慢とも言える提案をした。それは、魔人族の女が、まだハジメ達の敵ではないが故の慈悲であった。

 

 

 

「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」

 

「……何だって?」

 

 

 

 もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返す魔人族の女。それに対してハジメは、呆れた表情で繰り返した。

 

 

 

「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」

 

 

 

 改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」とハジメを指差し魔物に命令を下した。

 

 

 

 この時、あまりに突然の事態――――特に虎の子のアハトドが正体不明の攻撃により一撃死したことで流石に冷静さを欠いていた魔人族の女は、致命的な間違いを犯してしまった。

 

 

 

 ハジメの物言いもあったのだろうが、敬愛する上司から賜ったアハトドは失いたくない魔物であり、それを現在進行形で踏みつけにしているハジメに怒りを抱いていたことが原因だろう。あとは、単純に迷宮の天井を崩落させて階下に降りてくるという、ありえない事態に混乱していたというのもある。とにかく、普段の彼女なら、もう少し慎重な判断が出来たはずだった。しかし、既にサイは投げられてしまった。

 

 

 

「なるほど。……〝敵〟って事でいいんだな?」

 

「てゆうか俺、存在忘れられてね?」

 

 ハジメがそう呟いたのとキメラが襲いかかったのは同時だった。ハジメの背後から「ハジメくん!」「南雲君!」と焦燥に満ちた警告を発する声が聞こえる。しかし、ハジメは左側から襲いかかってきたキメラを意にも介さず左手の義手で鷲掴みにすると苦もなく宙に持ち上げた。

 

 キメラが、驚愕しながらも拘束を逃れようと暴れているようで空間が激しく揺らめく。それを見て、ハジメが侮蔑するような眼差しになった。

 

「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」

 

「いや、ハジメ、大道芸の方がよっぽどマシだ。」

 

「確かにそうだな。」

 

 気配や姿を消す固有魔法だろうに動いたら空間が揺らめいてしまうなど意味がないにも程があると、ハジメは、思わずツッコミを入れる。奈落の魔物にも、気配や姿を消せる魔物はいたが、どいつもこいつも厄介極まりない隠蔽能力だったのだ。それらに比べれば、動くだけで崩れる隠蔽など、ハジメからすれば余りに稚拙だった。

数百キロはある巨体を片手で持ち上げ、キメラ自身も空中で身を捻り大暴れしているというのに微動だにしないハジメに、魔人族の女や香織達が唖然とした表情をする。

 

 

 

 ハジメは、そんな彼等を尻目に、観察する価値もないと言わんばかりに〝豪腕〟を以てキメラを地面に叩きつけた。

 

 

 

ズバンッ!!

 

 

 

ドグシャ!

 

 

 

 そんな生々しい音を立てて、地面にクレーターを作りながらキメラの頭部が粉砕される。そして、ついでにとばかりにドンナーを抜いたハジメは、一見、何もない空間に向かってレールガンを続けざまに撃ち放った。

 

 

 

ドパンッ! ドパンッ!

「ハジメ、俺は長時間の接近戦は向いてねぇ、月の呼吸も最近習得したばっかだから、後ろで援護する。」

「りょーかいだ、さっさと終わらせるぞ! 」

乾いた破裂音を響かせながら、二条の閃光が空を切り裂き目標を違わず問答無用に貫く。すると、空間が一瞬揺ぎ、そこから頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが現れ、僅かな停滞のあとぐらりと揺れて地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 ハジメからすれば、例え動いていなくても、風の流れ、空気や地面の震動、視線、殺意、魔力の流れ、体温などがまるで隠蔽できていない彼等は、ただそこに佇むだけの的でしかなかったのである。

 

 

 

 瞬殺した魔物には目もくれず、ハジメが戦場へと、いや、処刑場へと一歩を踏み出す。これより始まるのは、殺し合いですらない。敵に回してはいけない化け物による、一方的な処刑だ。

 

 

 

 あまりにあっさり殺られた魔物を見て唖然とする魔人族の女や、この世界にあるはずのない兵器に度肝を抜かれて立ち尽くしているクラスメイト達。そんな硬直する者達をおいて、魔物達は、魔人族の女の命令を忠実に実行するべく次々にハジメへと襲いかかった。

 

 黒猫が背後より忍び寄り触手を伸ばそうとするが、

 

ドパンッ!ドパンッ!

「ほいほい!」

清水の援護射撃によって容易く撃ち落とされた。

 

弾けとんだ仲間の魔物には目もくれず、左右から同時に四つ目狼が飛びかかる。が、いつの間にか抜かれていたシュラークが左の敵を、ドンナーが右の敵をほぼゼロ距離から吹き飛ばす。

 

 

 

 その一瞬で、絶命した四つ目狼の真後ろに潜んでいた黒猫が、ハジメの背後から迫るキメラと連携して触手を射出するが、ハジメは、その場で数メートルも跳躍すると空中で反転し上下逆さとなった世界で、標的を見失い宙を泳ぐ黒猫二体とキメラ一体をレールガンの餌食とした。

 

 

 

 血肉が花吹雪のように舞い散る中で、着地の瞬間を狙おうとでも言うのか、踏み込んで来たブルタールモドキ二体がメイスを振りかぶる。しかし、そんな在り来りな未来予想が化け物たるハジメに通じるはずもなく、ハジメは、〝空力〟を使って空中で更に跳躍すると、独楽のように回りながら左右のドンナー・シュラークを連射した。

 

 

 

 解き放たれた殺意の風が、待ち構えていたブルタールモドキ二体だけでなく、その後ろから迫っていたキメラと四つ目狼の頭部を穿って爆砕させる。それぞれ血肉を撒き散らす魔物達が、慣性の法則に従いハジメの眼下で交差し、少し先で力を失って倒れこんだ。

 

 

 

 ハジメは、四方に死骸が横たわり血肉で彩られた交差点の真ん中に音もなく着地し、虚空に取り出した弾丸をガンスピンさせながらリロードする。

 

 

 

 と、その時、「キュワァアア!」という奇怪な音が突如発生した。ハジメがそちらを向くと、六足亀の魔物アブソドが口を大きく開いてハジメの方を向いており、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。

 

 

 

 それは、先程、メルド団長のもつ〝最後の忠誠〟に蓄えられていた膨大な魔力だ。周囲数メートルという限定範囲ではあるが、人一人消滅させるには十分以上の威力がある。

 

 

 

 その強大な魔力が限界まで圧縮され、次の瞬間、ハジメを標的に砲撃となって発射された。射線上の地面を抉り飛ばしながら迫る死の光に、しかし、ハジメは冷静に柩型の大盾を虚空に取り出すと左腕に装着、同時に〝金剛〟を発動しながらどっしりとかざした。地に根を生やした大樹の如く、不動の意志を示すハジメの瞳に焦燥の色は微塵もない。

 

 

 

 魔力の砲撃が直撃した瞬間、凄まじい轟音が響き渡り、空気がビリビリと震え、その威力の絶大さを物語る。しかし、直撃を受けた本人であるハジメは、その意志の示す通り一歩もその場を動いておらず、それどころか、いたずらっぽい笑みを口元に浮かべると盾に角度をつけて砲撃を受け流し始めた。逸らされた砲撃が向かう先は……

 

 

 

「ッ!? ちくしょう!」

 

 

 

 魔人族の女だ。ハジメがあっさり魔物を殺し始めた瞬間から、危機感に煽られて大威力の魔法を放つべく仰々しい詠唱を始めたのだが、それに気がついていたハジメが、アブソドの砲撃を指示したであろう魔人族の女に詠唱の邪魔ついでに砲撃を流したのだ。

 

 

 

 予想外の事態に、慌てて回避行動を取る魔人族の女に、ハジメは盾の角度を調整して追いかけるように砲撃を逸らしていく。壁を破壊しながら迫る光の奔流に、壁際を必死に走る魔人族の女。その表情に余裕は一切ない。

 

 

 

 しかし、いよいよ逸らされた砲撃が直ぐ背後まで迫り、魔人族の女が、自分の指示した攻撃に薙ぎ払われるのかと思われた直後、アブソドが蓄えた魔力が底を尽き砲撃が終ってしまった。

 

 

 

「チッ……」

 

 

 

 ハジメの舌打ちに反応する余裕もなく、冷や汗を流しながらホッと安堵の息を吐く魔人族の女だったが、次の瞬間には凍りついた。

 

 

 

ドパァンッ!

 

 

 

 炸裂音が轟くと同時に右頬を衝撃と熱波が通り過ぎ、パッと白い何かが飛び散ったからだ。

 

 

 

 その何かは、先程まで魔人族の女の肩に止まっていた白鴉の魔物の残骸だった。思惑通りにいかなかったハジメが、腹いせにドンナーをアブソドに、シュラークを白鴉に向けて発砲したのである。

 

 

 

 アブソドは、音すら軽く置き去りにする超速の弾丸を避けることも耐えることも、それどころか認識することもできずに、開けっ放しだった口内から蹂躙され、意識を永遠の闇に落とした。

 

 

 

 白鴉の方も、胴体を破裂させて一瞬で絶命し、その白い羽を血肉と共に撒き散らした。レールガンの余波を受けた魔人族の女は、衝撃にバランスを崩し尻餅を付きながら、茫然とした様子でそっと自分の頬を撫でる。そこには、白鴉の血肉がべっとりと付着しており、同時に、熱波によって酷い火傷が出来ていた。

 

 

 

 あと、数センチずれていたら……そんな事を考えて自然と体が身震いする魔人族の女。それはつまり、今も視線の先で、強力無比をうたった魔物の軍団をまるで戯れに虫を殺すがごとく駆逐しているハジメは、いつでも魔人族の女を殺すことが出来るということだ。今この瞬間も、彼女の命は握られているということだ。

 

 戦士たる強靭な精神をもっていると自負している魔人族の女だが、あり得べからざる化け物達の存在に体の震えが止まらない。あれは何だ? なぜあんなものが存在している? どうすればあの化け物達から生き残ることができる!? 魔人族の女の頭の中では、そんな思いがぐるぐると渦巻いていた。

 

 

 

 それは、光輝達も同じ気持ちだった。彼等は、白髪眼帯の少年達の正体を直ぐさまハジメと清水とは見抜けず、正体不明の何者かが突然、自分達を散々苦しめた魔物を歯牙にもかけず駆逐しているとしかわからなかったのだ。

 

 

 

「何なんだ……彼らは一体、何者なんだ!?」

光輝が動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。今、周りにいる全員が思っていることだった。その答えをもたらしたのは、先に逃がし、けれど自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤だった。

 

 

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつは南雲と清水だよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 

 

 遠藤の言葉に、光輝達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っているのが手に取るようにわかる。遠藤は、無理もないなぁ~と思いながらも、事実なんだから仕方ないと肩を竦めた。

 

 

 

「だから、南雲、南雲ハジメと清水清利だよ。あの日、橋から落ちた南雲だ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ! って俺も思うけど……事実だよ」

 

「南雲って、え? 南雲が生きていたのか!?」

光輝が驚愕の声を漏らす。そして、他の皆も一斉に、現在進行形で殲滅戦を行っている化け物じみた強さの少年を見つめ直し……やはり一斉に否定した。「どこをどう見たら南雲なんだ?」と。そんな心情もやはり、手に取るようにわかる遠藤は、「いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし」と乾いた笑みを浮かべながら、彼が南雲ハジメであることを再度伝える。

 

 

 

 皆が、信じられない思いで、ハジメの無双ぶりを茫然と眺めていると、ひどく狼狽した声で遠藤に喰ってかかる人物が現れた。

 

 

 

「う、うそだ。南雲は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

 

 

 遠藤の胸ぐらを掴んで無茶苦茶なことを言うのは檜山だ。顔を青ざめさせ尋常ではない様子でハジメの生存を否定する。周りにいる近藤達も檜山の様子に何事かと若干引いてしまっているようだ。

 

 

 

 そんな錯乱気味の檜山に、比喩ではなくそのままの意味で冷水が浴びせかけられた。檜山の頭上に突如発生した大量の水が小規模な滝となって降り注いだのだ。呼吸のタイミングが悪かったようで若干溺れかける檜山。水浸しになりながらゲホッゲホッと咳き込む。一体何が!? と混乱する檜山に、冷水以上に冷ややかな声がかけられる。

 

 

「……大人しくして。鬱陶しいから」

その物言いに再び激高しそうになった檜山だったが、声のする方へ視線を向けた途端、思わず言葉を呑み込んだ。なぜなら、その声の主、ユエの檜山を見る眼差しが、まるで虫けらでも見るかのような余りに冷たいものだったからだ。同時に、その理想の少女を模した最高級のビスクドールの如き美貌に状況も忘れて見蕩れてしまったというのも少なからずある。

 

 

 

 それは、光輝達も同じだったようで、突然現れた美貌の少女に男女関係なく自然と視線が吸い寄せられた。鈴などは明からさまに見蕩れて「ほわ~」と変な声を上げている。単に、美しい容姿というだけでなく、どこか妖艶な雰囲気を纏っているのも、見た目の幼さに反して光輝達を見蕩れさせている要因だろう。

 

 

 

 と、その時、魔人族の女が指示を出したのか、魔物が数体、光輝達へ襲いかかった。メルドの時と同じく、人質にでもしようと考えたのだろう。普通に挑んでも、ハジメを攻略できる未来がまるで見えない以上、常套手段だ。

 

 

 

 鈴が、咄嗟にシールドを発動させようとする。度重なる魔法の行使に、唯でさえ絶不調の体が悲鳴を上げる。ブラックアウトしそうな意識を唇を噛んで堪えようとするが……そんな鈴をユエの優しい手つきが制止した。頭をそっと撫でたユエに、鈴が「ほぇ?」と思わず緩んだ声を漏らして詠唱を止めてしまう。

 

 

 

「……大丈夫」

 

 

 

 ただ一言そう呟いたユエに、鈴は、何の根拠もないというのに「ああ、もう大丈夫なんだ」と体から力を抜いた。自分でも、なぜそうも簡単にユエの言葉を受け入れたのかは分からなかったが、まるで頼りになる姉にでも守られているような気がしたのだ。

 

 

 

 ユエが、視線を鈴から外し、今まさにその爪牙を、触手を、メイスを振るわんとしている魔物達を睥睨する。そして、ただ一言、魔法のトリガーを引いた。

 

 

 

「〝蒼龍〟」

 

 

 

 その瞬間、ユエ達の頭上に直径一メートル程の青白い球体が発生した。それは、炎系の魔法を扱うものなら知っている最上級魔法の一つ、あらゆる物を焼滅させる蒼炎の魔法〝蒼天〟だ。それを詠唱もせずにノータイムで発動など尋常ではない。特に、後衛組は、何が起こったのか分からず呆然と頭上の蒼く燃え盛る太陽を仰ぎ見た。

 

 

 

 しかし、彼等が本当に驚くべきはここからだった。なぜなら、燦然と燃え盛る蒼炎が突如うねりながら形を蛇のように変えて、今まさにメイスを振り降ろそうとしていたブルタールモドキ達に襲いかかるとそのまま呑み込み、一瞬で灰も残さず滅殺したからだ。

 

 

 

 宙を泳ぐように形を変えていく蒼炎は、やがてその姿を明確にしていく。それは蒼く燃え盛る龍だ。全長三十メートル程の蒼龍はユエを中心に光輝達を守るようにとぐろを巻くと鎌首をもたげた。そして、全てを滅する蒼き灼滅の業火に阻まれて接近すら出来ずに立ち往生していた魔物達に向かって、その顎門をガバッっと開く。

 

 

 

ゴァアアアアア!!!

 

 

 

 爆ぜる咆哮が轟く。と、その直後、たじろぐ魔物達の体が突如重力を感じさせず宙に浮いたかと思うと、次々に蒼龍の顎門へと向けて飛び込んでいった。突然の事態にパニックになりながらも必死に空中でもがき逃げようとする様子から自殺ではないとわかるが、一直線に飛び込んで灰すら残さず焼滅していく姿は身投げのようで、タチの悪い冗談にしか見えない。

 

 

 

「なに、この魔法……」

 

 

 

 それは誰の呟きか。周囲の魔物を余さず引き寄せ勝手に焼滅させていく知識にない魔法に、もう光輝達は空いた口が塞がらない。それも仕方のないことだ。なにせ、この魔法は、〝雷龍〟と同じく、炎系最上級魔法〝蒼天〟と神代魔法の一つ重力魔法の複合魔法でユエのオリジナルなのだから。

 

 

 

 ちなみに、なぜ〝雷龍〟ではなく〝蒼龍〟なのかというと、単にユエの鍛錬を兼ねているからという理由だったりする。雷龍は、風系の上級である雷系と重力魔法の複合なので、難易度や単純な威力では〝蒼龍〟の方が上なのだ。最近、ようやく最上級の複合も出来るようになってきたのでお披露目してみたのである。

 

 

 

 当然、そんな事情を知らない光輝達は、術者であるユエに説明を求めようと〝蒼龍〟から視線を戻した。しかし、背筋を伸ばして悠然と佇み蒼き龍の炎に照らされる、いっそ神々しくすら見えるユエの姿に息を呑み、説明を求める言葉を発することが出来なかった。そんなユエに早くも心奪われている者が数人……特に鈴の中の小さなおっさんが歓喜の声を上げているようだ。

 

 一方、魔人族の女は、遠くから〝蒼龍〟 の異様を目にして、内心「化け物ばっかりか!」と悪態をついていた。そして、次々と駆逐されていく魔物達に焦燥感をあらわにして、先程致命傷を負わせたメルドの傍らにいる兎人族の少女と離れたところで寄り添っている二人の少女に狙いを変更することにした。

 

 しかし、魔人族の女は、これより更なる理不尽に晒されることになる。

 

 シアに襲いかかったブルタールモドキは、振り向きざまのドリュッケンの一撃で頭部をピンボールのように吹き飛ばされ、逆方向から襲いかかった四つ目狼も最初の一撃を放った勢いのまま体を独楽のように回転させた、遠心力のたっぷり乗った一撃を頭部に受けて頭蓋を粉砕されあっさり絶命した。

 

また、香織と雫を狙ってキメラや黒猫が襲いかかった。殺意を撒き散らしながら迫り来る魔物に歯噛みしながら半ばから折れた剣を構えようとする雫だったが、それを制止するように、近くで待機していたミレディが間に入った、

「ハイハイ、邪魔しないの〜”黒天窮”」

黒い球体が現れ魔物たちを飲み込んで行った。

 

「ホントに……なんなのさ」

 

 

 

 力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。

 

 魔人族の女は、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法をハジメに向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。ハジメのいる場所に放たれたのは〝落牢〟だ。それが、ハジメの直ぐ傍で破裂し、石化の煙がハジメを包み込んだ。光輝達が息を飲み、香織と雫が悲鳴じみた声でハジメの名を呼ぶ。

 

「だから俺、存在忘れられてね?」by清水

 

 動揺する光輝達を尻目に、魔人族の女は、遂に出口の一つにたどり着いた。

 

 

 

 しかし……

 

「悪いなァ、ここから先は一方通行だァ」

「…主!」

「主?、はは……既に詰みだったわけだ」

「悪ぃが逃がす気はねェ。」

通路から輪廻が現れ、シュタインを向けていた。

乾いた笑いと共に、ずっと前、きっとハジメに攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げる魔人族の女。恐らくだが、ここでハジメ達を倒してもこの男がきっと逃がしはしないと、戦士としての本能でわかったのだ。

 

「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

 

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

「まァ、俺は既に人間やめてるがなァ、こいつらにも破壊神とか呼ばれるからなァ。」

 

 そんな軽口を叩きながら少し距離を置いて向かい合うハジメと魔人族の女。チラリと魔人族の女が部屋の中を見渡せば、いつの間にか本当に魔物が全滅しており、改めて、小さく「化け物め」と罵った。

 

 

 

 輪廻に首をクイッと向けられたハジメは、輪廻の言いたいことを理解した、すなわち、ここにいた理由を吐かせろと。ハジメはドンナーの銃口をスっと魔人族の女に照準する。眼前に突きつけられた死に対して、魔人族の女は死期を悟ったような澄んだ眼差しを向けた。

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

 

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

 

 

 

 嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し魔人族の女の両足を撃ち抜いた。

 

 

 

「あがぁあ!!」

 

 

 

 悲鳴を上げて崩れ落ちる魔人族の女。魔物が息絶え静寂が戻った部屋に悲鳴が響き渡る。情け容赦ないハジメの行為に、背後でクラスメイト達が息を呑むのがわかった。しかし、ハジメはそんな事は微塵も気にせず、ドンナーを魔人族の女に向けながら再度話しかけた。

 

 

 

「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

 

「……」

 

 

 

 痛みに歯を食いしばりながらも、ハジメを睨みつける魔人族の女。その瞳を見て、話すことはないだろうと悟ったハジメは、勝手に推測を話し始めた。

 

 

 

 「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」

 

 

 

 魔人族の女が、ハジメの言葉に眉をピクリと動かした。その様子をつぶさに観察しながらハジメが言葉を続ける。

 

 

 

「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

 

「どうして……まさか……」

 

 

 

 ハジメが口にした推測の尽くが図星だったようで、悔しそうに表情を歪める魔人族の女は、どうしてそこまで分かるのかと疑問を抱き、そして一つの可能性に思い至る。その表情を見て、ハジメは、魔人族の女が、ハジメ達もまた大迷宮の攻略者であると推測した事に気がつき、視線で「正解」と伝えてやった。

 

 

 

「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

 

「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」

 

捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると魔人族の女の表情が物語っていた。そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも。ハジメとしては神代魔法と攻略者が別にいるという情報を聞けただけで十分だったので、もう用済みだとその瞳に殺意を宿した。

 

 

 

 魔人族の女は、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながらハジメ達に言葉をぶつけた。

 

 

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

その言葉にチッ!と舌打ちしながら反応したのは輪廻だ。

ドンナーを向けて今にも発砲しそうなハジメに静止を掛ける。

「…チッ、ハジメちょっと待て、」

「何でしょうか?」

「あんまり俺もこういう事はしねぇんだがなァ、今日はちょっと気分が乗った、」

そう言うと輪廻はツカツカと魔人族の女に寄った。

「…てめぇ、恋人ってのは本当かァ?」

「あぁそうさ、あたしの恋人が殺すよ、あんた達をね」

「………そうかァ、しゃあねぇ、特別だァ、てめぇは無痛で送ってやる。」

「そうかい…さあ、一思いにやりな。」

「…………アァ。」

互いにもう話すことはないと口を閉じ、輪廻は、刀を女の首元に向かって構えた。

 

しかし、刀を抜くという瞬間、大声で制止がかかる。

 

 

 

「待て! 待つんだ、十五夜! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

 

「………………?」

 

輪廻は刀を構えながら、「アイツ、絶対精神内科と脳外科に行った方がいい。」と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。光輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。十五夜も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

 

 

 余りにツッコミどころ満載の言い分に、輪廻は音として耳に入れる価値すらないと即行で切って捨てた。そして、無言のまま…ある技を放った。

 

 

「……全集中・水の呼吸・伍の型、干天の慈雨。」

輪廻の刀は女の首に吸い込まれるように首を斬り飛ばした。

そして、

ドパンッ!

1発の弾丸が斬れると同時に女の心臓を穿った。

静寂が辺りを包む。クラスメイト達は、今更だと頭では分かっていても同じクラスメイトが目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。そんな彼等の中でも一番ショックを受けていたのは香織のようだった。

 

 

 

 人を殺したことにではない。それは、香織自身覚悟していたことだ。この世界で、戦いに身を投じるというのはそういうことなのだ。迷宮で魔物を相手にしていたのは、あくまで実戦訓練・・なのだから。

 

 

 

 だから、殺し合いになった時、敵対した人を殺さなければならない日は必ず来ると覚悟していた。自分が後衛職で治癒師である以上、直接手にかけるのは雫や光輝達だと思っていたから、その時は、手を血で汚した友人達を例え僅かでも、一瞬であっても忌避したりしないようにと心に決めていた。

 

 

 

 香織がショックを受けたのは、ハジメに、人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切なかったからである。息をするように自然に人を殺した。香織の知るハジメは、弱く抵抗する手段がなくとも、他人の為に渦中へ飛び込めるような優しく強い人だった。

 

 

 

 その〝強さ〟とは、決して暴力的な強さをいうのではない。どんな時でも、どんな状況でも〝他人を思いやれる〟という強さだ。だから、無抵抗で戦意を喪失している相手を何の躊躇いも感慨もなく殺せることが、自分の知るハジメと余りに異なり衝撃だったのだ。

 

 

 

 雫は、親友だからこそ、香織が強いショックを受けていることが手に取るようにわかった。そして、日本にいるとき、普段から散々聞かされてきたハジメの話しから、香織が何にショックを受けているのかも察していた。

 

 

 

 雫は、涼しい顔をしているハジメを見て、確かに変わりすぎだと思ったが、何も知らない自分がそんな文句を言うのはお門違いもいいところだということもわかっていた。なので、結局、何をすることも出来ず、ただ香織に寄り添うだけに止めた。

 

 

 

 だが、当然、正義感の塊たる勇者の方は黙っているはずがなく、静寂の満ちる空間に押し殺したような光輝の声が響いた。

 

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」

 

 ハジメは、シアの方へ歩みを進めながら、自分達を鋭い眼光で睨みつける光輝を視界の端に捉え、一瞬、どう答えようかと迷ったが、次の瞬間には、そもそも答える必要ないな! と考え、さらりと無視することにした。

 

輪廻の視界にはそもそも光輝は写ってないので、さっさと、シアとミレディがいる場所に一直線に行った。

 

必死に感情を押し殺した光輝の声が響く中、その言葉を向けられている当人はというと、まるでその言葉が聞こえていないかのように、スタスタと倒れ伏すメルドの傍に寄り添うシアのもとへ歩みを進めた。

 

 ユエの方も、光輝達の護衛はもういいだろうと、ハジメ達の方へ向かう。背後で「あぁ、お姉さまぁ!」と心の中に小さなおっさんを飼う鈴が叫んでいたがスルーだ。

 

「シア、メルドの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。……指示通り〝神水〟を使っておきましたけど……良かったのですか?」

 

「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

 

 ハジメは、龍太郎に支えられつつクラスメイト達と共に歩み寄ってくる光輝が、未だハジメを睨みつけているのをチラリと見ながら、シアに、メルドへの神水の使用許可を出した理由を話した。ちなみに、〝変なの〟とは、例えば、聖教教会のイシュタルのような人物のことである。

 

「どうだミレディ、そいつは大丈夫かァ?」

「うん、凄く危ない状態だったよ、もう少し遅ければ助からなかったかも。」

「………確かにやべぇな、右腕が粉砕骨折、折れた骨は、左脚、肋骨七本、肋5本、両鎖骨、右肩甲骨、ヒビが入ったのが左腕、右足、右足首、背骨、尾骶骨、左の肩甲骨、直接衝撃を食らった腹の周辺の3個の内蔵が破裂、……よく生きてんなこいつ。つうか、無意識に刀で守って無かったら内蔵が全部ぐちゃぐちゃになってたぞ。そもそもなんでこんなことになってんだァ?こいつらの実力なら、直ぐに倒せただろうに、誰かが意図的に邪魔したか、盾にしやがったなァ、そうでも無いとこいつらみたいな手練(輪廻達は例外)がそう簡単にこんな傷を負うわけがねェ。」

 

合流後

 

「おい、南雲。なぜ、彼女を……」

 

「ハジメくん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

 

 

 ハジメを問い詰めようとした光輝の言葉を遮って、香織が、真剣な表情でメルドの傍に膝を突き、詳しく容態を確かめながらハジメに尋ねた。

 

 

 

 ハジメは、一瞬、自分に向けられた香織の視線に肝が冷えるような感覚を味わったが、気のせいだと思うことにして、香織の疑問に答えることにした。

 

 

 

「ああ、それな……ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

 

「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」

 

「そりゃ、伝説になってるくらいだしな……普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

 

「え、ええ……ありがとう」

 

 

 

 ハジメに声をかけられ、未だに記憶にあるハジメとのギャップに少しどもりながら薬を受け取り礼をいう雫。ハジメは、そんな雫の反応を特に気にするでもなく、香織にも魔力回復薬を投げ渡した。あわあわと言いながらも、きっちり薬瓶をキャッチした香織も、ハジメに一言礼を言って中身を飲み干す。リポビ○ンな味が広がり、少しずつ活力が戻ってくる。香織さえ回復すれば、クラスメイト達も直ぐに治癒されるだろう。

 

 

 

 取り敢えず、メルドは心配ないとわかり安堵の息を吐く香織達。そこで、光輝が再び口を開く。

 

 

 

「おい、南雲、十五夜、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」

 

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

 

 

 そして、再び、香織によって遮られた。光輝が、物凄く微妙な表情になっている。しかし、香織は、そんな光輝のことは全く気にせず真っ直ぐにハジメだけを見ていた。ハジメの変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。

 

 

 

 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した。

 

 

 

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 

 

 クラスメイトのうち、女子は香織の気持ちを察していたので生暖かい眼差しを向けており、男子の中でも何となく察していた者は同じような眼差しを、近藤達は苦虫を噛み潰したような目を、光輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている。鈍感主人公を地で行く光輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ。

 

 

 

 シア達は「もしや優花さんの新たなライバル?」「……そうかもしれない」「恋っていいねぇ〜」と言う女子トークをしていた。

 

 

 

 ハジメは、目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く香織が、遠藤に聞いていた通り、あの日からずっと自分の事を気にしていたのだと悟り、何とも言えない表情をした。

 

 

 ハジメは、困ったような迷うような表情をした後、苦笑いしながら香織に言葉を返した。

 

「……何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから……謝る必要はないし……その、何だ、泣かないでくれ」

 

 

 

 そう言って香織を見るハジメの眼差しは、いつか見た「守ってくれ」と言った時と同じ香織を気遣う優しさが宿っていた。その眼差しに、あの約束を交わした夜を思い出し、胸がいっぱいになる香織。思わずワッと泣き出し、そのままハジメの胸に飛び込んでしまった。

 

 

 

 胸元に縋り付いて泣く香織に、どうしたものかと両手をホールドアップしたまま途方に暮れるハジメ。他のクラスメイトだったら、問答無用に鬱陶しいと投げ飛ばすか、ヤクザキックで意識を刈り取るかするのだが、ここまで純粋に変わらない好意を向けられると、奈落に落ちる前のこともあり、邪険にしづらい。

 

 

 

 ただ、上に優花を待たせており、ここのことを言うかもしれないユエの手前、ほかの女を抱きしめるのははばかられたので、銃口を突きつけられた人のように両手をホールドアップさせたまま、香織の泣くに任せるという中途半端な対応になってしまった。実に、ハジメらしくない。

 

 

 

 傍らにいる雫から「私の親友が泣いているのよ! 抱きしめてあげてよぉ!」という視線が叩きつけられているが、無言で監察するように見つめてくるユエの視線もあるので身動きが取りづらい。仕方なく間をとって、ポンポンと軽く頭を撫でるに止めてみた。本当に、いつになくヘタレているハジメだった。

 

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲達は無抵抗の人を殺した十五夜と一緒にいるんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」

 

「……………………なァ、こいつ今すぐ殺していいか?」

「ちょ、待って待って。」

輪廻がガチで殺すためのスペルや破道を唱えそうになっているのを東方組と雫が必死に宥める。

しかも輪廻君怒りすぎて最早無表情。

 

クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが光輝に飛んだ。この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。

 

 

 

「ちょっと、光輝! 南雲君は、私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」

 

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」

 

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

 

「……そう言えばなァ、こいつを盾にしたのは誰だァ?」

「何を言ってるんだ十五夜、彼女を盾になんか誰もしてないぞ?」

「…こいつはこう言ってるが、本当はどうなんだ、お前ら。」

 

れ「……そいつよ」

 

「は?」

輪廻は何言ってんだこいつという顔をしている。

 

ア「…そこの馬鹿みたいにキラキラしてる奴の事よ。」

 

「は?」





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