地味に変形します。こだわりです。
そして、出番も少ないままに撃墜されちゃいます。
だって初期設定だけの機体ですから。
また、朝が来た。
騒々しい朝だ。近場の部屋でまたもどたばたと激しく動き回る音が聞こえる。
やれやれ。自室で静かにトーストとコーヒーも楽しめないのか。
夏も本格的に近づいてきて、日の出がやたらと早くなり朝と言う時間を十二分に楽しむことが出来る季節になってきたと言うのに。
こいつらは季節を愉しむと言う事が出来ないのだろうか。
女が三人寄らば姦しいだとか言うが、まったくこの学園の生徒に至っては一人でも鬱陶しい程にやかましいものだからな。
これ以上ここにいても落ち着かない。授業が始まるまで食堂にでも移動しておこうか。
なんて考えたのは、間違いだったのかもしれない。
また来たよあの馬鹿ども。……なんだ、そんなに俺の邪魔をして楽しいのか。何が目的なんだ。俺の精神を乱しにかかってきているのか、俺の目的を知っているから。
頭が痛くなる。全く。
溜息を吐きながら教室へとおもむき、のんびりと読書に励む。ついでに俺の専用機のご機嫌もお伺いしておこう。気難しいやつだから、へそを曲げたままらしいし。
やがていつものように織斑千冬が教室に入ってきて、送れた馬鹿共が説教を食らう。学習をしないのかこの猿ども。
あの時以来、俺は連中と口をきいていない。俺の専用機について事細かに口を開く気はないし、そもそもこの件に関しての調査はまだ終わりを告げた訳ではない。
まぁ尤も、何処かの狂った科学者のお陰で俺はドイツくんだりまで出張しなくてもよくなったわけだが。あいつの目的が見えん。いったい何を考え、何の信念を元に行動しているのだろうか。
奴の目指している世界、奴の意図が全く理解できない。天才とは、こういった理解されないものなのだろうか。いや、理解はされないだけで理屈に則った行動を行うはずなのだが。あいつはありとあらゆる意味で規格外なのだ。此方の戦力を確かめるように無人機をUAVを送り込んできたかと思えば、今度は灰色の施設と思しき場所を攻撃、破壊とは。
何を考え、何をもって行動し、何の為にあるのだろうか。
確かに、大衆の考えは度し難い。ただ、それは大衆心理がそうさせるのであって、個々の心理はそこまで醜悪な代物ではないはずだ。
なれば、彼女をゆがめた原因はどこにある?
それを思考し、原因となる物はこの世界に多々ある。いや、ありすぎた、と言うところだろう。
何よりも天才を疎ましく思う者たち。大衆はおろかだ。故に愚民と呼称される。自分たちがどのような立場にいるのかさえも理解できていない。
水は、ただ流れるだけ。
それだけだ。小さな悪意は集合し、大きな悪意となって、個人に突き刺さる。恐ろしいのはそれを正しいと思い込んでいる所だ。
狂ってしまったのはそのせいだろうか。
そんな考えを抱きながら担任教師のありがたい情報に耳を傾けていた。
入学当初の予定通り来週から臨海学校が始まるらしい。
……あれほどにトラブルが連続して起こりながら予定通り行うとは。平和ボケとは恐ろしいものだ。普通この状況で郊外への遠出は禁物だろう。いったい何が起こるのやらわかったものでは無いと言うのに。
せめて軍などからの護衛を引き連れるものだが。ISが何よりの護衛と考えるのも致し方あるまいか。
平和的利用がなされているという体面上の理由も存在しているのかもしれないが。そんな事は絶対にありえないと言うのに。
そのいい例がこの俺であると言うのに。
実に面倒くさい一例だ。尤も、実戦を交えながらの情報収集は助かっているがね。
訓練機に登場した訓練生を教官が倒して入手できる情報など、微々たるものではあるが、たびたび起こるトラブルやアクシデントでの情報はそれらの損益を埋めて余りあるものばかりだ。
「水着を忘れたものはISスーツで泳いでもらう」
ふむ、それも悪くない、なんて思ってしまう自分がいる。
もともと水着のようなものだ。ISスーツなんて。こんな薄っぺらいものに対弾性を持たせたという、まさしくロボット的な発想は実に評価しよう。だがそれに加えて細部の生地を厚くしたりなどと言う発想はなかったのだろうか。
ま、たまには俺も休暇らしい事を楽しんでみるのもいいかもしれない。そうときまれば次の休日にでも町に出てみよう。
町の動向も興味がある。そろそろボーナスの時期だ。何か、たまには外食と言うのも、悪くない。
寝欠伸を一つ。俺は休日の予定を立てて、授業をぼんやりと過ごした。
山田真耶がいない事に気付いた生徒が一人、質問をした。どうやら下調べに行っているらしい。賢明な判断だ。情報漏えいを図りたくないならな。
そして待望の日曜日。こんな日にまで馬鹿どもに付き合いたくはない。ふだんからあの馬鹿どもの馬鹿騒ぎに付き合っているのだ。
これ以上、俺に面倒をかけさせられるのは、人間としてどうかしていると思っている。
今日に限ってはファントムを携帯している。俺以外には使いこなす事は不可能であるがね。起動は可能であるが、おそらく、まともに使いこなす事は出来ない。
それだけ癖が強く、機体の制動に難があると言う事だ。実在のF4とは実にその操作性が異なる。求めているのは凡庸さ、なのだけれど。
のんびりと人が行き交う街並みを眺める。
空からは夏の日差しが降り注ぎ、人々が様々な表情をうかべ、様々な感情を抱きながら、往来を歩いて行っている。
俺は駅前の広場でのんびりとそれを眺めていた。
平和だ。何もかもが。たとえここで小さな争いが起こったとしても、俺は平和だと言ってしまえるだけの自信がある。
燃えている街並み、無差別に落とされる爆弾、逃げ惑う人々。受け入れろと彼は言った。これが戦争だと。
戦争とは生きた力のぶつかりあいだと。戦争は無慈悲だ。どれだけ平和だと言っても、その平和の下では何万ガロンもの血が流れている。
その上に描かれた、これが「平和」か。
満喫させてもらおう。彼らが得た、ひとつの平和を。
デパートに入り、水着コーナーへと足を運ぶ。
「あれは……」
そんな言葉が口から出る。そして手のひらを額に当ててうつむいてしまう。
なんてこった。こんな日にまで連中とかち合うとは。今は二人だけだが……周囲には……。
やはり。
馬鹿どもが群をなして居やがった。デミット、どうしてこんな所にまで来て連中のアホ面を拝まなくてはならないのだ。
幸運と言うべきか、男は気づいていない、フランスは追跡者にビビっている、追跡者どもは目標をロスト。こちらに感づく事はないだろう。
俺は厄病神にでも憑かれているのだろうか。死神では無く厄病神にでも。
「本当についていないな……」
折角の休日をわざわざあんな連中と過ごして無為に終わらせたくはない。あいつらといるだけで俺の主観が崩れされていく。
水着は他の店で買うか。
なんてそんな事を考えていると、
「ん? 何をしている?」
げ、ブリュンヒルデ。見つかりたくない人間につかまった。
見なかったふりをして逃げるか? いいや、それでは……。
「声をかけたのに無視とは、随分な御挨拶だな」
「わざわざこんな所に貴様のようなのが出向くとはな。ブリュンヒルデ」
「先生と……いや、いい。私も人だ。休日にはショッピングくらい楽しむさ」
「気ままなものだな。世界最強の人間が、そんなことで。絡まれているのではないのか? 騎士さま?」
「心配いらんこの私に喧嘩を売る馬鹿はそうそういないからな」
「危険分子の内、最も巨大で鬱陶しい物はその周囲から排していくものだ。いかに貴様がそれらから守ったつもりでも、灰色は常にお前にへばりつく」
「……本当にお前は物知りだな。それが自分の寿命を縮める事にならない事を祈りたいものだ」
「長かろうが短かろうが俺に墓はない。どうせ死体すら見つからない場所で死ぬんだ」
「……お前はそれでいいのか? そんな場所で生きて、そんな場所で死んで」
鉄仮面のような表情に少し曇りが見えた。なるほど、私用で出歩いていると言うのは嘘ではないようだな。
俺は貴様のようにふ抜けた人間の同情なんて必要ないがな。
「そんなくだらない事を気にするよりも、お前の弟の方を気にしたらどうだ? その辺で不純異性交遊をしているぞ」
途端に目つきが変わりやがった。余裕なふりをしていてもやはりそう言ったところかね。
さて、この間に俺は撤収するか。残念だが、別の店で水着を見るか。
この連中とかかわってられるか。休日の監視なんて俺の任務内容には入っていない。
「ちょっとそこの貴方」
ん? なんだ?
俺は不意にかけられた声に足を止めた。
「ちょっとこれをそこの棚に戻しておいて」
成程、どうでもいいな。
馬鹿を相手にするつもりはないし。
「ちょっと! 待ちなさい!」
こいつにはまだまだ可能性が秘められている。機体の基本性能を低く見積もり、自己進化プログラムによる自立性を求めた実験機。
人間が手を加えない事によって、機体がどれほどまでに進化し、何を求めるのかを確かめるためにある。
機体に意思はあるのか、それともただのガラクタ同然なのか。
もし、こいつに意思があるのだとすれば。それは一体何なのか。そしてあいつは一体何故、このようなものを作り出したのか。
「待ちなさいそこの男!」
なんだ小うるさい。
考え事をしていた俺の耳に女の声がけたたましく聞こえてくる。
足を止めて振り返る。そこに一人の女がいた。
「やっと止まったのね」
「俺に言っていたのか。それで? 何の用だ?」
「さっきも言ったじゃない。これを元の場所に戻してきなさい」
「自分でやれ」
「男のくせに口答えする気?」
「女の分際で俺に指図する気か?」
「あら、女である私にそんな態度をとってもいいのかしら?」
「だからどうした? 貴様が圧倒的な自信を持っている理由はISを「起動」する事が出来ると言う事だけだ。なぁ、それがどうした」
「何を……」
「勘違い女ってのはどこにでもいるもんだな。ISを起動させる事と使う事は異なる。そして、殺し合いが出来ると言う事はな」
「だったら何? それも出来やしないあなたたち男にそんな事を考える資格があるとでも思っているの?」
「ならば俺はこう問おう。人間、お前は自分が選ばれた人間だと思っているのか、と」
ISを部分展開。
「なぁ、人間。これが選ばれた人間だ。ISはもう、お前達だけの物じゃない。態度を改めるのだな。尤も、それを認めるだけの器量と知識、教養があると言うのならな」
「な……」
「なぁ、ISを使える奴が偉くて、使えない人間は従わなければならない。だと言うのなら、お前は俺の言葉に従わなければならない」
目の前にいる歪んだ人間が、恐怖に顔を青くする。
「俺の眼前から消えろ。その足で、手で眼で耳で、世界を感じたいなら」
この言葉で、女はそそくさと俺の前からいなくなる。周囲から奇異の目を向けられる。
ISは機密事項。だが、部分展開、しかも既に開示した情報の一部となれば別に構いはしないだろう。
あの女は世界の歪みのその表れだったのだろう。蒼い機体はその歪みを一応はリセットすることが出来たが、あの人間まではしらん。
全く休日になってまでこんな面倒をかけられる事になるとは……。
やれやれだ。
結局、水着なんてまともに見れないまま適当なものを購入し、そのまま臨海学校を迎える事となってしまった。
「海っ! 見えたぁっ!」
五月蝿い。見ればわかる。
バスに揺られながら気持ちよく昼寝をしていた所に、クラスの名前も覚えていない女の声が俺の耳に突き刺さった。
耳障りな歓声が車内を覆い尽くすせいで耳だけでなく頭にまで響き渡る。
まぁ、しかし、いい空だ。
窓から見える青い空、陽光を反射させて輝く水面。これが極北では無く、極東の、夏の海。
「The skies belong to everyone」
この空は全ての人のものである、か。
程なくして、旅館に到着した。出迎えたのは、お調子者が口笛を吹きそうな程度に美人な若女将。
何やら教師たちが会話をする。
成程、いい旅館だ。僅かながらにさびれている風には見えるが、きちんと手入れが行き届いている。
毎年この旅館に世話になっていると言うのだから、当然のことのようにも感じるが。
「あら、こちらが噂の……?」
女将が俺達を見て、ふとつぶやいた。
「ええまあ、今年は男子生徒がいるせいで浴場分けが難しくなってしまい申し訳ありません」
問題はそこか? 前々から思っていたが、この教師どこか一般常識とはかけ離れているような気がする。
「いえいえ、そんな。それにいい男の子じゃないですか。しっかりしていそうな感じを受けますよ」
「此方としても貴方がしっかりとした良識を持っていていただけているので助かりますよ。てっきり、女尊男卑の思想を持ち合わせているのではないのかとばかり思っていましたからね」
口からそんな言葉を吐いてやる。
社交辞令の礼だ。下らない。俺は遊びに来たわけじゃないのだからな。
「無礼なこと言うな! 申し訳ない、こいつは些か礼儀にかけておりまして……」
「そんな事はありませんよ。彼の心配ももっともなことですから」
相好を崩さずにそんな事を云う女将。なるほど、よく出来る。
これなら若干の心配事で済むのだろう。
俺達がそんな茶番劇を繰り広げているなか、織斑一夏は級友の女子に部屋の場所を聞かれている。後で遊びに行くのだそうだが。
そこに、俺がいるのを忘れてはいないのだろうか。
学生寮ならばともかく、こういった場所で部屋を分けると言う行為は行わない筈だ。つまり、織斑一夏と俺は同室であると言う事は確認するまでもない事実だが。
織斑一夏は廊下で寝るんじゃないのか、なんてうそぶくのだけれど、それはそれで勘弁してほしい。廊下で寝るくらいなら野宿した方がましだ。
「お前達の部屋はこっちだ。ついてこい」
そう言われて、俺達は織斑千冬の後をついて行く。恐らくは別個に用意されているんだろう。比較的女子の部屋からは離れた所に。
普通ならそう思って当然だろう。
「ここだ」
そう言われた場所そこに書いていた文字を俺は読みたくなかった。
「織斑教諭、俺にはここに書かれている文字が読めないのですが」
「そうか、関係はないがな」
「普通は部屋を別にとると思うのですが?」
「お前達だけ別の部屋にすれば風紀の乱れへつながりかねん」
何このブラコンシスター。嫌になってきた。
「そもそも、俺がいる時点で他の女子が近寄りがたいと思うのですけれど」
「お前の事を少しは気にしている女子だっている。自分が学園内に二人しかいない男子だと言う事を忘れるなよ?」
まぁ、俺はそう言った方面に対して別に拒絶している風を見せた記憶はないからな。ある程度は話もするし、情報共有だってする。
ただ、ハニートラップを警戒しているだけ。
もともと、仲良くしようと言う気もさらさらないが。
「そして貴女が女性であると言う事を忘れない事ですよ」
「なんだ私に気があるのか」
「貴女の弟の視線が痛いのでそのような冗談は止めて頂きたい」
本当にこいつらは一体何なんだ。近親相姦でもしているんじゃないか?
「冗談だ。それともなんだ? お前は私たちがそんな関係だと思っているのか?」
「……客観的論理データからすれば、織斑一夏には姉に対してのコンプレックスが見受けられる。そしてお前は過去のモンド・グロッソでの一件以降、弟に対して過保護気味だ。そういった関係に至るだけの心理的要因は整っている」
事実それだけの要因がそろっている以上、俺はそれを否定することが出来ない。
「……心外だが、まぁいい。今日は一日自由行動だ。荷物を置いたのなら好きに行動すると良い」
「えっと、織斑先生は?」
気まずそうに、弟の方が姉に話しかけた。
「私は他の先生との連絡なりなんなりとやる事がある」
しかしまぁ、と姉の方は続ける。
「軽く泳ぐくらいはしよう。どこかの弟がわざわざ選んでくれた事だしな」
そんな言動をするから大概だと言っているんだが。気づいているのかこの馬鹿どもは。
「では言葉通りに俺は出向かせて貰おう」
そう言うと俺は手荷物を下げ、部屋から出ようとした直前、ノックが鳴り響いた。
入ってきたのは山田教諭だった
その横を俺は素通りしていく。驚いた風だったが、大方、あの姉がわがままを通したのを忘れていたのだろう。
のんびりと旅館の中を歩いて行く。久方ぶりに心が安らぐ時間だ。誰もいない。俺はただひたすらに青空の下にいると言う事を感じている。
青空の、下に。
そんな中で、ズドンと音が響き渡る。なんだ? 警告は無かった。攻撃のよう音ではない。何かが落ちてきた音。何が、墜ちてきた?
「そうか」
それに気づいた俺は、はじかれる様にそこへ走り出した。
そして目撃した。兎の耳をつけたこの国の、めいどきっさ、なる所で来ているような服装をしていた人間が、その場からこれまた兎の耳をもって走り去っていったのを。
いた! 見つけた! 国際手配の人間だ。
「見つけた、見つけたぞ、元凶」
何という幸運。何という厄災。
「……束!」
殺意。恐らくは妹との接触の為にここに来たのだろう。まだ、まだその時ではない。奴の、奴だけが持つ力を俺は、手に入れなければならないのだから。
まぁ、とりあえずは海へ向かおう。水泳を楽しむと言うのも大切な事だ。
「わー……すごい……何あれ……」
俺の体を見て例によって顔も覚えていない生徒が呟いた。
「まさにムキムキマッチョマン。引き締まった体ってああいうのを言うんだろうねー」
「うんうん。どうやったらあそこまで鍛えられるんだろ?」
好き勝手言う。そもそも、兵器を扱うのに体を鍛えていなくてどうする。俺からしてみれば、お前達みたいに女の子であろうとしている方がおかしいんだよ。
「よう、お前も来ていたんだな」
「織斑一夏か」
じりじりと日差しが肌を焼く感覚を楽しみながら、水平線を眺めていると声をかけられた。
「しっかしいい体してんなお前。どんな鍛え方しているんだよ」
「気色悪いな。もう少し女の体に興味を持ったらどうだよ」
「五月蝿いな……興味あってもそんなことしたら殺されるだろ」
「だろうな。お前ならありうることだ。男に必要なのは酒と戦いと女ってな」
「お前の言葉じゃないだろ、それ」
「まぁな」
もともと、俺の言葉には借りものが多いがな。
借り物の信念。それでもそれは俺が俺である為に必要な事だ。
彼らの描いた未来。俺の望んだ未来。そして人々が望む世界。
世界は変わり続ける。変化し続けるんだ。ヒトが知識を得て望めば。
「い、ち、かぁぁぁぁ!」
そう叫びながら織斑一夏の肩に飛び乗ってくる女子。小柄なその体躯は鳳鈴音だった。
小柄だから出来る事だろう。彼女が来ると同時に俺は、その場を後にする。
軽く準備運動、そのあとに水の中へ足を進めていく。
生温い海水と、やわらかな波が脚先に触れる。
すぅ、と一つ呼吸をおいて、足で水を蹴りあげた。足の軌道に沿って巻き上げた水がかがやく。
そしてそれに交差させるようにもう一度足を蹴りあげた。
体はなまっていないな。ま、海に来た事だし、泳ごうか。初めてのスクランブルで、墜とされた時の事を思い出す。
訓練では味わう事のなかった緊張感に敗北、被弾した。機体の制御がきかなくなり、レバーを引きベイルアウトをした。
吐き出されたシート。
強烈なGが俺の体にかかったんだ。俺の乗っていた機体が爆炎に包まれて、墜ちていくのが視えていたんだ。
あの時の敗北感。そして眼前に広がる青空とドッグファイト。
そして着水した時の衝撃と、海水の生暖かさ。
屈辱だった。眼前で広がる戦いに、俺は。
懐かしいな。あれが、最初で最後のドッグファイトでの撃墜記録だ。生きて生還した時には言われたっけかね。かつてのエース達も墜ちた事はあるって。
それ以後はISがその地位をどんどんと奪って行った為に、なくなったが俺自身は戦闘機動を忘れていない。
そしてチャンスは訪れた。今、こうして。
のんびりと海の中で浮かんでいながら一日が過ぎていく。
そして夕食の時間。メニューは新鮮な刺身。俺の好物だ。おまけに旨そうなものだ。
これはうれしいが、相変わらず変なものだ。こんな所に金をかける。
予算の無駄だと、やはり思う。こういった訓練で基本的にレーションや僅かな食料だけで過ごしてきた俺にとって、違和感でしかない。
しかし食事の時間でさえもあいつの周りは女だらけだな。
姦しいのはごめんだ。さっさと食事を終わらせると、退出して夜の縁側に腰をおろして満点の星空を眺める。
「The journey begins, Starts from within, Things that I need to know. The song of the bird, Echoed in words, Flying for the need to fly...」
夜空を眺めながら、歌を歌う。あの歌だ。誰もが平和を望む歌。
歌声で集まった仲間たち。それが俺達の力となっている。だから、俺はその希望でなくてはならない。
きっと、絶対に。だから、俺は、何としてでもこのじゃじゃ馬を手懐けて無くてはならない。
ISは、ISでなくては落とせない。その常識を否定する。
「セシリアはエロいなぁ」
「いやぁぁぁ!」
……うるさいな。
「五月蝿いな。少しは黙っていられないのか蒼いの」
ISを部分展開したのは、別にその姿が露見してもいいと思ったためです。
というか、学校での使用はすでに公の場で使用しているのと同じだと考えていてください。
私的に利用してはならない、とありますが、別にこのくらいは構わないと思いますよ。
だって、世の中には理由のない悪意がいっぱいありますから。
そうであることに誇りを持って。
あ、国家機密と人一人の発言、どっちが重要視されるでしょうね?