非処女は全員死ね   作:石黒ニク

4 / 4
第4話 処女は全員惑うな

「でも、あれですよね! このご時世に新しい別のアイドル志望の方がいてくださるなんて珍しいというか、なんというか! わたしも負けていられないですっ!」

「い、いや、その。私は、ええと……」

 

 どうしよう。私がアイドル志望だって勘違いされてしまっている。しかも、彼女のそのきらきらと眩しい笑顔が、訂正しようとする私の邪悪さを打ち消してくる。

 

「大丈夫ですよ! わたしはいつまでも待ちますから! 初めての場所って緊張しちゃいますよね! わたしも最初にここへ来たときは心臓ばくばくでしたから!」

「心臓ばくばく……? 美沙希ちゃんってずいぶんと渋い珍味が好物なんだね?」

「その『ばくばく』じゃないです! なんでアイドルの面接に来た人が、急に心臓の踊り食いをしないといけないんですか! ぜったい不合格じゃないですかっ」

 

 そもそも、心臓の踊り食いってなんだ。というか、そんなアイドル志望者……不合格以前に、人間としての何かが欠落している気がするんだけど。倫理とかね。

 

「なんだ、美沙希。おめー、ゲテモノアイドルとしてやっていきたかったのか?」

「ち、違います! 逸樹マネージャーまで変なこと言わないでくださいよ! どこの世界に、生の心臓を貪るアイドルが居るんですかっ! ひどい発案です……」

「お。心臓だけにハツ案ってか。さすがはハツドル。もう頭角を現しているな」

「美沙希ちゃんがハツドルなら、ヒヨリはアイドルとしてやっていきたいな!」

 

 美沙希さん、可哀想。逸樹マネージャーだけでなく、年下っぽい日和ちゃんにまでやり玉にあげられちゃって。まあ、私は蚊帳の外なんだけどね。ははっ。

 

「だから違いますってば! 日和ちゃんのはいままで通りじゃないですか! もういいです! お茶を汲みに行ってきます! ……それで、えっと。優花さん、でしたっけ。お茶とコーヒーでしたら、どっちがいいですか?」

「優花はコーヒーしか飲まないぞ。しかもハワイコナのエクストラファンシー以外を出すと、昭和の親父さながらのスナップで投げつけてくるから気をつけろよ?」

「ひええ……エクストラファンシーといえば、ハワイコナの最上級品じゃないですか!? そんなの、ありませんよ……! 優花さんって高級志向なんですね」

「ちょ、ちょっと、逸樹! 嘘を吐くなら、もっとリアリティのある嘘を吐きなさいよ! 美沙希ちゃん、その辺にある適当なインスタントのやつでいいから!」

 

 思わず、逸樹マネージャーにパンチしてしまったが、このくらいならいいだろう。というか、エクストラファンシーなんて、赤い対策係しか飲まないと思うけど。

 

「痛ってえ。顔面パンチはやり過ぎだろ。オレが幼なじみにやさしくてよかったな! これでおめえが非処女だったら、危うく慰謝料を請求するところだったぜ」

「ごめんごめん、ついカッとなって手が出ちゃった……っていうか、日和ちゃんという少女が居る前で、非処女とか言うのやめてくれる!? 間違いなく教育に悪いよ!」

「あ、そのことなら大丈夫ですよ。ヒヨリは世のなかの13歳で最も聡明かつ高貴で、酸いも甘いも知っていますから。なんてったってアイドルJCですし」

 

 と、彼女は意味深長な供述をしているが、明らかに悪影響だよね。逸樹の歯に衣着せぬ物言いは、無垢な少女のライフにダイレクトアタックしかねない。

 

「なので、優花さんが非処女だろうとそうでなかろうと、ヒヨリには何の影響もありません。そのモンスターは直接攻撃ができないんですよ、えっへん」

「まあ、そういうことだ。ちなみに美沙希は意味を知ったうえで聞き流しているぞ。アイドルと下ネタは、オレとおめえみたいに切っても切れない腐れ縁だからな」

 

 アイドルと下ネタの関係性についてはともかく、逸樹と私の関係ならすぐにでも断ち切れると思うけど。長年患っていたはずの彼への恋も冷めちゃったし。うん。

 

「それよりさ、美沙希ちゃんのことなんだけど……私、アイドル志望じゃないのに変にすごく期待されちゃって気まずいんだよね。どうしたらいいんだろ?」

「あいつは前橋プロダクションいちのマシンガントーク野郎だからな。ひとつ言えば25倍になって返ってくるぜ。果たしておめえさんは美沙希の疑いを晴らせるかな?」

 

 なんで江戸っ子口調なんだ……。美沙希ちゃんのマシンガントークに付け入る隙があれば話が変わってくるけど、いまのところ私が会話のマウントを取れることはまずないと思う。だからこそ、カミングアウトのタイミングは一度しかない。

 

「え、優花さんってアイドル志望じゃないんですか? そんなに可愛いのにもったいない! ソロでもやっていけるレベルだと思いますけどね、ヒヨリは!」

「そ、そうかな? あはは。容姿のことを褒めてくれるのは嬉しいけど、ソロデビューはさすがに恥ずかしいから遠慮させてもらうよ。そんな器でもないしさ」

「いやだなあ、優花さんってば。ヒヨリが言ったのは、いわゆる社交辞令ってやつですよ。家族が勝手にアイドル事務所に履歴書を送るレベルのお世辞ですねっ」

 

 なんだこの子。黒いオーラが見える。前世はひょっとして病み落ちしたメンヘラ? 子役タレントの闇というやつだろうか。あまり触れたくはないけど。




カクヨム版9/10話でした。次回は5/9の23:15でしょうかね。
ストック次第です。頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。