チキンハートの武偵生活 作:シオシオクレソン
「…クソッ!」
アドシアード当日。こんな人が見ているなかで誘拐なんてありえない。そんな油断をしていたがゆえに、
(アリアも誠実も
キンジは
「白雪…」
守ると誓ったというのに白雪はさらわれてしまった。
「クソッ!」
キンジは焦る。その焦りが思考をさらにどん底へと導く。
「落ち着けキンジ」
不意にキンジの足元の一部が抉れ、聞き覚えのある声が耳に響いた。
「誠実か!」
「いったん落ち着けよ、そんなんじゃ誰も助けられないぜ?」
「…そうだな。誠実、目撃情報は?」
「最後に姿を確認できたのが地下倉庫前だ」
一転して真剣な表情でキンジの問いに答えた誠実。その目は瞳孔が開いたままだ。
「地下倉庫…」
「そういうことをするにはピッタリだとは思わないか?」
◇◇◇
「このあたりで銃を撃つと危険かー。俺のアイデンティティがなくなっちゃうなー。近接戦闘は頼んだよ」
「俺に頼むな、その腰に佩びてる刀は飾りなのか?」
「相手の剣がマジもんのデュランダルだったらどうしようもないからある意味飾りだね、うん」
デュランダルは、ローランの歌に登場する聖剣。柄に聖遺物が埋め込まれているとされ、ローランがへし折るために岩に叩きつけたところ、岩の方が両断されたという逸話が残っている。
一方、誠実が持っているのは無銘の日本刀。受け流しならまだしも、真正面からデュランダルを受け止めようものなら確実に折れる。
「そもそもデュランダルは聖剣だろ?なんで魔剣になるんだ?」
「さーねー?同じく聖剣のアロンダイトは、持ち主である『湖の騎士』ランスロットが裏切って戦友の兄弟を斬ったから魔剣に堕ちたって話があるけど、デュランダルにそういう話があったとは聞かないなー。せいぜい奪い合いが起きたってくらいだったと思うぞ」
この二人は相手に警戒していることを悟らせないため、くだらない雑談を続けている。あまり意味はないと思うが。
「そういえば、クラブのジャックはランスロットだったな。ダイヤのジャックもヘクトールっていうデュランダルを持っていたことのある人物だし。ほかにもスペードのジャックはカール大帝の騎士、オジェ・ル・ダノワ。ハートのジャックはジャンヌダルクの戦友、ラ・イルだったと思うよ」
「なんでそんなの知ってるんだよ」
「せめて知恵だけでもと思って。ちなみにトランプって本来は切り札って意味で、ほんとはプレイングカードとしか呼ばないそうだよ」
豆知識がポンポン出てくる誠実。
◇◇◇
「やっぱり
「そんなことしてる場合じゃないでしょ!?さっさと行くわよ!」
「フランスならヤタガンかなあ…でもヤタガンってこんなんだったっけ?」
思考の海どっぷりと浸かってしまった誠実。手に持ってるそれ、証拠品では?
「ほらいくぞ!」
「だー!わかったから、わかったから襟首つかまないで!歩く、自分の両足で歩くから!」
アリアとキンジに襟首を掴まれ、ずるずるとひきずられていく。こうまでしなければ動かないあたり、とことん集中するタイプであることが容易に推測できる。
「そーいえばなんかジャラジャラいってた気がするな。鎖でぐるぐる巻きにされてるのかな?」
その数分後、鍵付きの鎖で拘束された白雪が発見された。
「「ほんとだった…」」
「いやこんなの当たってもしょうがないんだけど」
「そ、それより早く鍵を…って水!?」
急いで白雪を解放しようとする三人の足元を大量の水が流れていく。
「これも
こうしている間にも、水嵩は増していく。このままいけば5分足らずで天井まで見たされてしまうだろう。
「こりゃ迷ってる場合じゃないな!」
右胸のホルスターから
「錠前だけ撃ち抜く!」
ガキン!弾かれた。
「…」
左胸から
「錠前だけ撃ち抜く!」
ガキン!弾かれた。
「…」
右腰のホルスターから
「錠前だけ撃ち抜く!」
ガキン!弾かれた。
「マグナムが効かねえぞ!?いったい何製なんだコイツ!こうなったら…!」
自慢の銃の弾丸が通用しないのが頭に来たのか、ギターケースからM320がとりつけられた
「待ちなさいよ誠実!そんなの使ったら白雪まで吹き飛んじゃうわよ!」
「こうなったら
「ピッキングするにしてもなー。アリアは泳げないから除外するとして、俺も繊細な銃をいくつか持ってきてるからだめだな」
「ちょっと!私は浮き輪さえあれば泳げるから!」
「そんなものはない」
それを世間一般では泳げないというのだ。
「それじゃ、さっさと行ってくる。土左衛門にはなるなよ!」
◇◇◇
「おーい、キンジィ。だいじょぶか?」
「俺は問題ない。ただ白雪が…」
「さっきのあれで流されたか…あれ、スパコンのとこに誰かいるな」
「!白雪じゃないの、大丈夫白雪!?」
大きく水が流れる音を聞きつけ駆けつけた二人。
「うん、ありがとうアリア」
だがなにか違和感を感じる。本当に些細な、しかし確実になにかいつもの白雪と違うものがある。
「どうしたのキンちゃん?」
「ところで白雪、唇は大丈夫か?」
「唇?なんともないよ」
なるほど、そういうことか。
「アリア、離れろ!」
出し抜きにベレッタM92Fを向け、発砲した。
「ちょっとキンジ、どういうこと!?」
「どうもこうもないね。ひとつ確かなのは、そこの白雪が偽物ってことだろうね。でしょ?」
「そのとおりだ」
抗議の声を上げるアリアをおざなりにして、誠実も
「ぐぅ…!」
白雪(偽)が息を吹きかけた途端、アリアの両手が凍り、銃を落としてしまう。
「おたくいったい何モンだい?本名デュランダルですってわけじゃないだろ?」
じりじりと距離を詰めながら誠実が問いかける。
「そうだな。
「本来の名?」
「そう、我こそはジャンヌ・ダルク30世。かの聖女、ジャンヌ・ダルクの末裔だ!」
◇◇◇
「はぁ!」
「セイッ!」
「おっとっと」
「誠実君大丈夫!?」
「ぶっちゃけ刀の方が先にダメになる!てかその刀思いっきり打ち合っても刃こぼれしないとかどうなってんのさ。1000万ぐらいならキャッシュでお支払いできるぞ」
「非売品です!」
誠実の刀は名刀や業物ではなく、一振り15万円で売られていそうな普通の刀だ。うまく受け流してはいるものの、刃が削れて無くなるのも時間の問題だ。
「どうしたその程度か?口ほどにもないな」
「まあそうなるよねー。それ貸してくれる?」
「え、だ、ダメ!これは星伽に伝わる刀!誰かの手に渡るなんて…!」
「さっきそこの聖女サマ30世にとられてたのはノーカンですか?」
「えーと、そのー…」
「ふざけているのか貴様らは?」
そんなすごい刀を見たら誰だってそうする、誠実もそうする。
「どのみちこのままだと詰みだな、なんか切り札ある?」
「…あるよ。ちょっとだけ、ほんのすこしだけでいいから時間を稼いでくれるかな?」
「ふーん…。時間を稼ぐのはいいが、別に倒してしまってもかまわんのだろう?」
「ほう、大きく出たな」
「…おまえそれを言いたかっただけだろ」
「自己暗示強めにかけたからハイになってんだよ」
白雪の言葉にあっさり応え、あまつさえ倒してしまうつもりらしい。自己暗示のご利用は計画的に。
「というわけでしばらくお相手させていただくよ。あーあ、イロカネアヤメが使えたら楽におわるだろうに」
「フン、所詮唯の剣をもった少々超能力が使えるだけの武偵がこの私に勝てるとでも思っているのか?」
「要は刃を打ち合わせなければいいわけだし、慢心してる相手に剣術で劣るほど弱くはないと思うのだけどね」
これが自己暗示なしなら、ひたすらに後ろ向きな発言をしていることだろう。
「あらよっと!」
左手でベレッタM93Rを抜き、それぞれ右肩、左肩、鳩尾に向けて銃弾を放つ。
「そんな攻撃が当たると思ったのか?」
直撃コースの二発を切り捨て、体を捩ることで残りの一発を躱す。
「
「ガッ!?」
突如背中に衝撃が伝わる。どうやら今の一瞬で背後を取ったようだ。
「ハァッ!」
振り下ろされたデュランダルの刃を刀で右に受け流し、地面に押さえつける。
「ていっ!」
「グハッ!?」
そのままのかっこうで鉄山靠を鳩尾に放ち、ジャンヌ・ダルクを吹き飛ばす。
「どーよ!多少なりとも目は覚めたろ!」
「ゴホッゴホッ…ああそうだな。先ほどの発言は訂正しよう」
「できることならこのまま白旗あげてくれるとうれしいんだけど…」
「それは無理だな」
「デスヨネー」
いまだ戦意が衰えないジャンヌとは対照的に、誠実は早くも逃げ腰だ。
「まあこうなることは想定済みだ。あとは頼んだよ白雪!」
「はい!」
準備が整ったのを察して白雪と選手交代。置き土産に刀をジャンヌに投げつける。
「チィッ!」
投てきされた刀を弾く隙に、イロカネアヤメを納刀した白雪が接近する。
「星伽候天流奥義、『緋緋星伽神』!」
抜刀。炎を纏ったイロカネアヤメがデュランダルを斬り落としにかかる。一瞬の拮抗もなく、不滅の剣は紅蓮の刃に敗れ去った。
◇◇◇
「お、折れてるぅぅぅぅ!音からしてやばいと思ってたけどマジか!くそぉぉぉ!」
「うるさいわよ誠実!」
誠実
通称、武器商人。自己暗示しないと刀で切るのは無理。
キンジ
途中から出番がなくなる。
?「俺をおいていった罰だ!」
アリア
あんまり出番ない。
白雪
誠実といっしょに戦った。結構相性はいい。
ジャンヌ・ダルク30世
敗因:誠実が思ったより強かった。
誠実くんが使うライフルは何がいいですか?
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SDMー R
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SVー98
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ウィンチェスターM1895
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IMI ガリル
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ブッシュマスターACR