チキンハートの武偵生活 作:シオシオクレソン
「久しぶりだな4世」
「ブ…ラド…」
キンジの射撃を意にも介さず、理子の頭を鷲掴みにしたまま語る。
「檻に戻れ、養殖用牝犬。これがお前の人生最後の光景だ。しっかり目に焼き付けるんだな!ゲバババババ!」
理子は抵抗できず、ただただ大粒の涙を流す。
「あ…アリア…キンジ…誠実…」
絞り出したようなか細い声で名前を呼ぶ。
「た、す…けて…」
「「「言うのが遅い!」」」
◇◇◇
「まずは理子を助けるわよ!誠実、オオカミは任せるわ!」
「了解!」
言うが早いか、クイックドロウで二頭のオオカミを失神させる。
「逮捕してやるわよブラド!ママの冤罪99年分をしっかり証言させてやるんだから!」
「ゲバババババ!このオレをタイホと来たかホームズ家の娘!」
「アンタが一番正体不明でやり辛かった。けど、警戒もせずにあたしの前に姿を見せた。覚悟しなさい!」
「吸血鬼と人間は捕食者と餌の関係だ。狼がネズミを警戒すると思うか?」
「世の中には毒を持ったネズミもいるのよ」
ネズミは疫病や病原菌を運んだりするため、ペスト菌での死者を合わせると殺した人数は億を余裕で超える。結構侮れない存在なのだ。
「アリア下がれ!」
後方に居た誠実が
「おいおい誠実、レディーの扱いがなってないんじゃないか?」
「ちょいと雑だったのは承知してる!問題は相手が25mm口径弾食らってもすぐ再生することだな!」
伏射の体制のままスコープを覗く誠実の視線の先には、すでに左腕が再生しているブラドの姿があった。
「やっぱりあの目の部分を破壊しなければならないらしいな」
「しかも再生する前に全部とかムリゲーじゃないか?しかも肝心の四つ目が見当たらないし」
C4爆弾で丸ごと爆破するという手もないことはないが、設置する時間が足りない。
「ついでに言うと自己暗示する時間がなかったから近接戦闘できません!」
誠実は臆病ゆえに近接戦闘ができない。正確には刀で直接相手を傷つけることに強い抵抗があるのだ。それを自己暗示で誤魔化しているのだが、それでも相手を斬ることができない。
今の状態でブラドの魔臓を斬れと言われてできるはずもない。
「仕方ないな、俺がやる。誠実は理子を連れていってくれ」
「言われるまでもないね!」
臆病な誠実は理子を連れ、傷に障らない程度の速度で場を離れた。
◇◇◇
「ふぅ…ここまでくれば大丈夫かな…」
理子をコンクリートの上にそのまま寝かせるのは憚られるのか、ギターケースから毛布を取り出している。
「ねえ、マーくん…」
「うん?」
「なんでひとりで逃げなかったの…?あたしを囮にすれば…もう巻き込まれないのに…」
理子が弱々しく尋ねる。
「さあ、なんでかねぇ?」
誠実は自分でもわからない、といった表情で答える。
「あそこで一人で逃げて、このビルに爆弾なんかを仕掛ければ楽にブラドを倒せたはず。それがある意味一番合理的だってわかってた。なのに今から自分の力で倒そうとしてる。なんでだろうね」
白鞘の刀を握り、そう語る。
「でも、理子を守りたいとも思ってるかな?」
「…狙撃科に逃げた、臆病者のくせに…?」
「そうなんだよねぇ。自己暗示しなきゃまともに戦えないような俺が、そんなことを思ってるんだよねぇ」
理子の辛辣な言葉も気にせずあっけらかんと答え、ポケットから小さな十字架を取り出す。
「ほら、大事なものならしっかり持っときな」
「…!これ、お母様の、ロザリオ…!でも、いつの間に…?」
狙撃するため後方に居た誠実が本物のロザリオを回収する時間はなかった。
「そんなの最初からさ。紅鳴館の調査をした時からね」
誠実が使役する式神は弱い。真正面からの戦闘ならウサギにも負けかねない程だ。だがその弱さゆえに、いかなるセキュリティーもすり抜けることができるという唯一無二の特性を持つ。それに加えて本物と見分けがつかない偽物を作成する技術を持つ。それゆえに誰にも悟られることなく紅鳴館でロザリオをすり替え、キンジに偽物を盗ませ、理子の手に渡るように仕向けられたのだ。
「普通ならこんなことしようとは思わない。でも理子だから、やろうって思ったんだ」
「理子だから…?」
「そうだよ。だって理子は
◇◇◇
「人間を串刺しにするのは久しぶりだが、串はコイツでいいだろう。ガキ共、作戦は立ったか? 銀でもニンニクでも何でも持ってこい。俺はこの数十年の遺伝子上書きで、何もかも克服済みだ。まあ、いまだに好きではないがな」
ブラドはいつの間にか基地局のアンテナをへし折って自らの得物にしていた。
「ホームズ家の人間はパートナーがいると厄介だと聞いたんでな、まずは遠山キンジ。お前からだ。ワラキアの魔笛に酔え!」
胸部が尋常でない程に膨らむ。
ビャアアアアアアウヴァイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!
ランドマークタワーを揺らすほどの咆哮。音が内臓を揺さぶり、脳が震える。耳を塞ぎ、堪えるので精一杯だ。
「ど、ドラキュラが吼えるなんて聞いてないわよ…!」
尻餅をついていたがすぐに立ち上がるアリア。しかし一方のキンジは呆けて動かない。
「フンッ!」
アンテナが振るわれる。このまま振るわれればキンジに当たる。だがキンジは動かない、動けない。
「させないよ」
振るわれたアンテナが、バラバラに斬られた。
「なッ!?」
「ほれ、ボケッとしてんじゃねえぞキンジ!」
キンジの目の前には、白鞘の刀を持った誠実の姿があった。
「ちょっと誠実!いままで何やってたのよ!」
「いやーちょっと手間取っちゃってさー」
怒鳴るアリアにいつものように語りかける。ただ纏う覇気はいつものものとは明らかに違う。
「ゲババババ!妻鳥誠実か。いまさら何しに来やがった」
「斬りに来た。たまには逃げずにやるのも悪くないだろう?」
ブラドの問いに、柄に手をかけながら答えた。
「ゲバババババ!おとなしく逃げていればオレに殺されずに済んだのになァ!」
「そっちこそ、理子に手ぇ出してなかったらひどい目に合わなかったかも知れないのにねぇ」
一閃。
「…は?」
ブラドの両腕が前触れなく地に落ちる。
「まあこんだけしゃべくってるんだから、多少痛めつけられても大丈夫でしょ」
そう、誠実が目視で確認できない程の速度で両腕を斬りおとしたのだ。
「…やるじゃねえか。だがいくら切ったところでオレは倒せねぇぞ?」
「はは、確かに。でもその様子だとその慢心が己を滅ぼすと気付いていないみたいだな。無限罪のブラド!」
瞳孔が大きく開いた眼でブラドを睨み付ける。普通の睨みならば対した効果はない。だが誠実のそれは訳が違う。
「…ッ!?な、なんだこれは!体が動かねェ…!」
「だから言ったろ?慢心が己を滅ぼすと」
柄を強く握り、腰を落とす。
「ついでにもう一つ教えてやろう。罪人は罪からは逃げられない、処刑人からは逃げられない」
一閃。両脚を斬られ、ブラドが膝をつく。
「悔い改めな、
一閃。両肩と右わき腹から血が噴き出る。
「「ぶわぁーか」」
閃光。旧式リボルバーがブラドの舌を撃ち抜いた。
「ガァァァ…4、世おまえ…!」
「あたしは四世じゃない、峰理子だ!」
誠実のスーパーブラックホークを握った理子が、倒れ伏したブラドに吠える。もうすぐ朝日が登る。
◇◇◇
『普通ならこんなことしようとは思わない。でも理子だから、やろうって思ったんだ』
『理子だから…?』
『そうだよ。だって理子は
誠実
FGOで言えば悪特攻・人型特攻・急所判定特攻・魔性特攻・地特攻持ち。刺さる相手には滅法強いが刺さらない相手には弱い。
理子
一話からの伏線。
ブラド
悪属性・人型・急所丸見え・魔性・地属性。めっちゃ刺さる。
誠実くんが使うライフルは何がいいですか?
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SDMー R
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SVー98
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ウィンチェスターM1895
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IMI ガリル
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ブッシュマスターACR