チキンハートの武偵生活 作:シオシオクレソン
「ああ、もうやだ絶対呪われてるよ俺…」
彼、妻鳥誠実は現在試験前にミジンコ以下の天使にそそのかされて助けてしまった男と同室と言うショックからめちゃくちゃネガティヴになっていた。それはもう後ろへ向けてNATO弾並の速度で移動しているかのようだ。
「いや、そんなにネガティブになることないだろ。このくらい俺もよくあるし」
「どーせ俺なんて雌鶏ですよ。タマゴうまされて絞められて内臓引っこ抜かれて煮るなり焼くなりされて食われるんだ…」
「いやおまえ男だろ」
男なのに
「そういう名前なんだよ…」
「はぁ…。あ、俺の名前は遠山キンジ。よろしくな」
「妻鳥誠実。つまのとりって書いてめんどり、誠実って書いてまさみつだ…誠実って呼んでくれ…」
「珍しい名字だな。少なくとも俺はほかに聞いたことがない」
「どっかのサイトで調べたけど1200人ぐらいしかいないそうだよ」
口下手なキンジの話術にまんまとのせられ、普通に会話し始めた誠実。ちょろいな。(確信)
ピンポーン
そんなこんなで陰険なムードを脱した部屋に、控えめなインターホンの音が響き渡る。
「だれだ?」
「じゃあ俺が見てくるわ」
ネガティヴから完全に立ち直った誠実は自ら尋ね人の正体を見破りに行く。
「はーい、どなたですか…」
扉を開け沈黙。目の前には大和撫子。どこかでみた顔である。
「あ、もしかしてあの時の…」
「うわああああ!!今日は厄日だあああああ!!」
◇◇◇
「へー、二人とも幼馴染だったのかー、へー」
「まあそうなるな」
「あはは…」
何とかキンジと白雪の奮闘によって平常心を取り戻した彼は、二人の話を聞いていた。万年ボッチな誠実からすれば、目の前の二人はとても輝いて見える。
「へー、神社のから出られなかった白雪をキンジが外に連れ出して以降こんな感じと」
「うん、そうだね」
「ふーん。どう考えても俺いらない子でしたね本当にありがとうございました」
突如わけのわからないことを口にしたかと思えば、首筋に日本刀を当て始めた。自分の軽率な行為を恥じ入ってのことなのだろうが明らかにやりすぎだ。
「おい待て誠実!何やってる、やめろ!」
「離せ!俺はもう自分が惨めで惨めで仕方がないんだ!頼むから自分の首くらい斬らせてくれぇぇぇ!」
誠実の暴挙を食い止めるべく羽交い締めにするキンジと、なんとかして日本刀を奪い取ろうとする白雪。その二人を振り払おうと暴れる誠実。一種のカオスがここに誕生した。
「馬鹿なことはやめろ!」
「そうだよ!生きていればいいことあるよ!」
「うるさぁぁぁい!俺は首を斬り落としてマイクになるんだ!」
「「マイクって誰!?」」
首なし鶏で検索。グロ注意です。
◇◇◇
「いやごめんごめん、俺小心者だからこんなんなっちゃうんだよねー」
「はぁ…」
再び平常心を取り戻した誠実は、己の行為について弁明していた。いや小心者だからという理由でここまで錯乱するものではないと思うのだが…。
「あ、それはそうと自分の荷物の整理全然してねーや。ちょっと荷物もってくるわ」
「ああ」
唐突に重要なことを思い出し、席を立つ誠実。キンジと白雪が荷物の正体に気が付くまであと十秒。
「いよっこいしょっと」
「…なぁ、これがお前の荷物か?」
「正確にはその一部かな?」
「一部!?」
「てことはまだあんのか!?」
「そうだよ。残念ながら仕事に必要だからまったく減らせないんだぜ。あ、一番上の段ボールさわんないでね。中身全部おまもりとか護符だから」
「まさか段ボール一杯に入ってるのか!?」
「箱越しでもすごく複雑な術がかけられてるのがわかるよ…」
「そうなんだよねー。俺ったらチキンハートだからこれくらいしないとぐっすり眠れないんだよ」
「こ、今度お祓いするよ…?」
「なんというか、難儀な性格だな」
「妻鳥クンもそうだそうだといっています。てゆーか俺ほんと呪われてんじゃないかな…。こないだも並んだレジが一番遅かったし外出したら蘭豹先生に出くわして絡まれるしカップ焼きそば湯切り失敗するしそもそもあれ焼きそばっつってるけど焼いてないじゃんお湯でもどしてるじゃん焼売も焼いてないやんってツッコんだら中国語じゃ焼は過熱するって意味だって言われたしさーほんとなんなんだよ」
後半からはもはやただの愚痴である。
「やっぱり今お祓いした方がいいのかな…?」
「いやそういう問題じゃないだろ」
◇◇◇
「ふふふふふ…しあわせ…」
今現在誠実は日課である武器の整備をしていた。彼が持ってきた荷物のうちの過半数が銃器関連のものだというのだから驚きである。
「どんだけ持ってきてるんだよお前は」
「いやいや先刻言った通りこれ全部仕事道具だから。全部必要なんだよ。断じて趣味で集めてるんじゃないし、仮にそうだとしても全部実用性があるからいいんだよ」
「いや半分趣味だって認めてるようなもんだろ。聞いてもないのに話してるじゃないか」
反論しつつもコルト・ファイヤーアームズ社製作のアサルトカービンライフル、M4カービンのクリスの整備をする手は止めない誠実。ほかにもグレネードランチャーや手榴弾を所持しており、もはや武器商人と呼んでも差し支えないレベルだ。
「まったくもーうちの子たちの良さがわからないなんてほんとうにかわいそうな奴だなぁキン太くんは(ダミ声)」
「誰がキン太くんだ。銃の何がいいんだよ」
「なっ、まさかの全否定!?よろしい、ならば説明だ!銃の良さを余すことなく語りつくしてくれるわ!これでお前もガンマニアだ!」
「あ、これはまずい」
誠実の変なスイッチを押してしまったことを察したキンジ。だが気づいたときにはもう手遅れなのであった。(悲しみ)
「まずはこのM4カービン、クリスの魅力から伝えよう!見るがいい!この小柄なbodyを!M16A2の直系ながら銃身はなんと14.5インチ!すなわちおよそ37cmしかないのだ!銃床もテレスコピックストックでコンパクトに!さらにピカニティー・レールと銃身の括れによってM723では装備不可なM203、PEQ-15やM26MASSを装備し着飾ることもできるのだ!さらにさらにこのNATOのSTANGマガジンを―――(以下M4カービンの特徴についての発言が続く)」
M4カービン関連で数刻語り続けるような奴はそうそういないだろう。だが忘れてはいけない。今までに語ったのがM4カービンのみであることを。
「次はこの子!AR-10のマリアだ!歩兵用ライフルの礎を築いたアーマライト社の代表作であるAR-10は、1950年代の自動小銃と比較すると無骨で軽量、セミオートの射撃精度も高く、当時最高のバトルライフルと呼んでも差し支えないだろう!これほどまでにすぐれたものが何の爪痕も残さず消えてゆくはずもなく、世界で最も多く使われた軍用銃であるAK-47と並ぶほどの知名度を誇るM16に踏襲されている!この基本構造はユージン・ストーナーによって開発され―――(以下AR-10についての発言が続く)」
「もう、もうやめてくれ…」
その後夕食を作りに来た白雪が発見するまで、誠実の講義は止まらなかった。
誰にとっても厄日と言えます
誠実
狙撃科の他にも諜報科、探偵科、装備科でもやってけるハイスペック武偵。
ネガティヴとオタク気質が同居した結果、情緒不安定を疑うような言動に。少なくともまともな人間ではない。
キンジ
原作主人公。
ヒステリアモードでも認識できない程の早撃ちをした本人があんなのでびっくり。
誠実の講義にげっそり。
白雪
絶滅危惧種の大和撫子。
ガチで呪われてそうな誠実にお祓いするつもり。
誠実くんが使う拳銃は何がいいですか?
-
マテバ2006M
-
コルト・パイソン
-
トーラス・レイジングブル
-
RSH-12
-
ドッペルグロック