チキンハートの武偵生活 作:シオシオクレソン
なんか誠実君が置いて行かれそうなんですよねー
遭遇
「起きろキンジィ。新学期早々に遅刻する気かね」
「まだ目覚ましも鳴ってないだろ。もうすこし寝させてくれ」
「だめじゃだめじゃ、今すぐ起きろ。じゃないと白雪が合宿でいない間、家事やらんぞ」
「わかった起きる!起きるからやめてくれ!」
今キンジは家事を白雪と誠実に任せきりにしている。その二人の助けなしで生活するなどほぼ不可能だ。
「ほれほれ、さっさと着替えなさい。俺の勘だとそろそろ白雪が重箱持ってやってくるぞ」
「…なんでそんな具体的なんだよ」
「白雪が来るだけだとインパクト薄いじゃん」
ピンポーン
「ほら来たぞ」
控えめなインターホンの音が聞こえる。誠実とキンジは玄関にかけて行きドアを開ける。扉の先には重箱を持った白雪が立っていた。
「…ほんとだ」
「だろ?」
「?」
◇◇◇
「はあ、ひどい目にあった」
「どうした?ガチャ三回回したけど三回ともおんなじやつが出てきたときの俺みたいな顔してるぞー」
「ということはあったんだな…」
「こないだは五回やっても同じ結果だったぜ☆ぶっちゃけ泣きそう」
「…まあ、がんばれよ」
不幸。あまりにも不幸。しかし今に始まったことではないのが不幸たる所以…かもしれない。
「あはははは…ああ、そういえば話は変わるけど、このクラスに転入生が来るらしいぞ」
「転入生?」
「そうそう、ほらあの人」
誠実の指さす先には、ピンク色の髪をツインテールにした小柄な少女の姿があった。
「ゲッ…」
「先生、あたしアイツの隣に座りたい」
「良かったなキンジ!なんか知らんがお前にも春が来たみたいだぞ!先生!俺、転入生さんと席代わりますよ!」
焦るキンジとは裏腹に、話はトントン拍子で進んでいく。現実は非情である。
「キンジ、これ、さっきのベルト」
そしてアリアのこの一言。
「理子分かった!分かっちゃった!―――これ、フラグバッキバッキに立ってるよ!」
壮大に囃し立てかねないやつが真っ先に反応した。これはまずい。
(あ、これはまずい。まじでやばい。理子ォ!ヤメロォ!それ以上はいけない!)
大変なことになる未来を予知した誠実は心の中で、理子にその先は地獄だから止まるようとに叫ぶ。もちろんあたりまえのことだが届かない。届くはずがない。
「キーくんはベルトしてない!そのベルトをツインテールさんが持ってたってことは―――彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をしたってこと!つまり2人は熱い熱い恋愛の真っ最中なんだよ!」
(言っちゃったよこのおバカァ!)
盛り上がる生徒。焦るキンジ。冷汗が止まらない誠実。小刻みに震えるアリア。
ズキュンキュン!響く二発の銃声。犯人は顔をちょっと熟れたトマトのような赤色に染めたアリアだ。
「れ、恋愛なんて…くっだらない! 全員覚えておきなさい! そういうバカこと言うやつには―――風穴開けるわよ!」
教室は静まり返った。
(速報が入りました。先ほど東京武偵高校2年の妻鳥誠実さんの鼻先を、ガバメントの銃弾が通り過ぎたとのことです)
誠実も静かだった。思考が明後日の方向に飛んでいなければ。
◇◇◇
「ねえアンタ」
「はーい?」
またしても蘭豹に強襲科に連れ込まれそうになったが、命からがら逃げのびた誠実。買い物を終え、男子寮の階段の前までたどり着いた彼は、アニメのような声をした少女に呼び掛けられた。
「キンジの寮がどこか知らないかしら」
「知ってるも何も、俺ルームメイトだから」
「そう、なら好都合ね。私を連れて行きなさい!」
いったいキンジに何の用があるのか、誠実は訝しんだ。
「はーい、仰せのままに」
それでも連れて行ってしまうあたり、少々お人よしじみている。
(うーん、今日の夕飯もう一人分増やした方がいいかなー。でも合宿前だから白雪がなんか持ってくるかも…あ゛!?)
誠実は気が付いた。気が付いてしまった。白雪がアリアと相対した際の危険性に。
(いやいやいやいやいや…いやまだだ!まだ終わらんよ!まだあわてるような時間じゃない!大丈夫だ、もしかしたら白雪が来ない可能性が…ないな…)
あの白雪がキンジに何も言わずに合宿に行くなど万に一つ、億が一にもありえない。夢や希望があっても救いはこの世にはありませんでした。
(…もうどうにでもなーれ!)
最悪の未来を予見した誠実は、考えるのをやめた。
◇◇◇
「ここが俺とキンジの寮だよ…おーいキンジィ!客だぞー!」
「お邪魔するわ」
「客…はぁ!?神崎!?なんでこんなとこに!?」
「アリアでいいわよ。ところでシャワールームはどこかしら?」
「あっちっす」
「ありがと、使わせてもらうわ」
「お、おい…」
「まあまあキンジくんちょっとお話ししましょうや」
「なんだよ…わかったわかったから引っ張るな!」
アリアがシャワールームにいるうちにキンジをリビングへ連れて行く誠実。
「キンジ、心して聞け。この後おそらくだがこの後白雪がやってくる。今日の献立は和食にしようと思う」
「ああそうか…って違うだろ!なんでアリアを連れてきたんだ!」
「なんかキンジに用があるって言ってたから案内した。後悔も反省もしていない。そしてこれについては元々お前さんの撒いた種だ自分で何とかしたまえ」
「はぁ!?いったい俺がなにを…まさかあれか!?」
「なんだい、心当たりがあるんじゃないか。そしてこれからのことを考えよう」
自分のやったことに後ろめたさをまるで感じていない、というよりかなぐり捨てた誠実は、原因を察して頭を抱えるキンジに精神的な追撃を行う。
「これからのこと…?」
「そうそう、さっき言ったとおりたぶんこの後…」
「なにコソコソしてんのよあんたたち」
「…イエ、ナンデモゴザイマセン」
魔王襲来。じゃなくて、シャワーを終えたアリアが二人の後ろから話しかけてきた。
「まあいいわ、トオヤマキンジ!」
シミひとつないきれいな指をビシィッ!といった効果音が付きそうな勢いで突きつける。
「あたしのドレイになりなさい!」
コロンブスだ!コンキスタドールがでたぞー!(錯乱)
◇◇◇
「つまり仕事仲間が欲しいということかいな」
「そうよ!あたしはいままでどんな犯罪者も逃がしたことはなかった。でもそこのバカは逃げ切ったのよ!」
「バカ言うな。そもそもパートナーならそこの誠実でもいいだろ。一応Sランクだし」
「俺を売るなよバカキンジ、非売品だ。あとSランクって言っても狙撃科のだからね?あっち強襲科だからそもそも土俵が違うんだよなぁ」
「だからバカ言うな」
武偵ランクがSランクだとひとくくりにしても、比較対照が前衛と後衛であるがゆえに評価するべき点がまるで違う。
「で?キンジはあたしのパートナーになる気になったかしら?」
「ならん、断る。俺は俺で忙しいんだ、そこの誠実にでも頼め」
「だから俺を売るなバカキンジ。またベッドボロボロにすっぞ」
「だからバカ言うな。あと買い替えが面倒だからやめろ」
あーだこーだ言ってうだうだと会話がヅルヅル長引いていく。こうしている間にも悪夢が迫ってきているというのに。
「ほらさっさと帰れアリア。もう夜だぞ」
「いやよ、帰らないわ。あんたがうんと言うまでここに泊まるから」
「…はぁ!?」
唐突に爆弾を投下したアリア。これには妻鳥君も昇天。(死んでない)
「ふざけんな、絶対だめだ!今すぐ帰れ!」
「うるさい!泊まってくったら泊まってく!」
(夕飯、きんぴらにするか)
言い争うキンジとアリア。一方の誠実は今日の献立を考えていた。リビングはまさしくカオスであった。
「だーかーらー!」
ピンポーン
いまだに言い争う二人を意に介さず、インターホンが鳴る。来ちゃった。
「…ふぅ、キンジ出てきて。四十秒でなんとかするから」
「あ、ああ」
「ちょっとどういうことなの!?」
◇◇◇
「どうしたんだ白雪?」
「えっとね、明日から合宿でご飯作れなくなるから…あ、誠実君がいるから迷惑かも知れないけど、今日のお夕飯にどうかなって、作って持ってきたから。…よかったらこれ食べてください!」
顔を赤くした白雪が風呂敷に包まれた重箱を手渡してきた。中身は今旬のたけのこ料理。
「ほーん、たけのこかー…」
キンジの後ろから気配もなく出没した
「うおっ!?」
「あ、誠実君。今日のお夕飯にどうかなって持ってきたんだけど、もしかしてもう作っちゃった…?」
「いやまだ。手間が省けて助かるよ」
「そっか…」
実際には『あ、色かぶってる…めんどくさいから作らなくていいか』といった思惑だった。物は言い様、オブラート。
「あ、じゃあ私帰るね。またねキンちゃん、誠実君」
「ああ」
「はーい」
満足したのかそのまま帰っていく白雪を見送った二人。リビングに戻ったキンジは衝撃的なものを目にした。
「なあ、誠実」
「なんだねキンジィ」
「これはなんだ?」
「ふむ、苦渋の決断でした。わかりますね?」
「いやわからん」
お札のついた紐でぐるぐる巻きにされたアリアの姿があった。これのどこが苦渋の決断なのか。
誠実
ストレスで思考がおかしくなっちゃった。
キンジ
まだ強襲科Sランク。
アリア
ついに来た原作ヒロイン。
白雪
通い妻。ただし誠実が大体やっちゃう。
誠実くんが使う拳銃は何がいいですか?
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