深海棲艦に殺されたら、提督として戦うことになりました。(旧題)一度死んだら提督として戦うことになりました。   作:名無しの兵六

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第59話 意地

 11月に入ったばかりのこの日、幕僚監部に呼び出された。近海警備はナイトシーカーの増産によってかなり安定してきているはず。他に何か問題があったか?案内の士官を断り、部屋へと向かう。

 

「湊海軍大将入室します。」

 返事を待たずに入室する。どうせ俺より階級が上の者なんていない。役職上、上なだけだ。

 

「すまんな、急に呼び出して。」

 

 幕僚長が開口一番に謝罪の言葉を出す。

 

「いえ、ですが小官を呼び出すほどです。余程外部に漏れないようにする必要がある案件なのでしょう?」

 

「うむ、実はな中東との輸送航路が深海棲艦の襲撃を受ける頻度が増えてきている。」

 

「それは、また一大事ですな。」

 

 幕僚長が椅子を指さしたので着席する。

 

「それでだ、貴官の指揮下にある艦隊を出して欲しい。“外洋にてタンカー、コンテナ船等の商船を護衛し、日本の補給線を維持せよ。道中、遭遇する深海棲艦は極力排除すること。”の命令は忘れてはいないだろう?」

 

「忘れてはいません。しかし急すぎます。既存の艦娘搭載の護衛艦隊では無理ですか。」

 

「無理ではないが、無茶ではある。」

 

 さて、どう言うべきかな。森原中佐ではなく俺の指揮下ということだから、戦艦は金剛、扶桑。空母は鳳翔、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴。重・軽巡洋艦は青葉、鈴谷、熊野、愛宕、摩耶、天龍、龍田、夕張、大淀。駆逐艦は霞、吹雪、白雪、深雪、叢雲、曙、満潮。補助艦艇は明石、間宮、伊良湖。間宮と伊良湖は基本的に動かすことはしたくないな。それに駆逐艦の人数が少なすぎる。

 

「幕僚長閣下。小官の指揮下にいる艦娘では駆逐艦級の人数が少ないため任務の遂行は難しいかと。」

 

「無理ではないのだな。」

 

「はい、無理ではありません。“くらま”か“しらね”を共に送り出します。しかしながらそうなると、通常の民間航路警備などの任務に支障が出ます。」

 

「ふむ。」

 

 幕僚長が思考の姿勢をとると幕僚副長が首を突っ込んできた。

 

「召喚建造はしていないのかね?」

 

「ええ、できませんでした。RGM-86V“ナイトシーカー”の増産に“妖精さん”達は付きっきりでしたし、今は陸軍より新たに要望のあったMS艤装を開発中です。それらの資源は補填してくださっていますが、ハッキリと言って足りません。常に不足気味で泊地のプラントを最大稼働させています。」

 

 そう言うと陸軍大将の幕僚副長はバツが悪い顔をして引き下がった。

 

「他の鎮守府と協力してはどうだろうか?新たな泊地や警備府はまだ完成していないが既存の鎮守府には十分な人数の提督と艦娘がいる。」

 

 空軍中将の総務部長が話しを引き継ぐ。

 

「それも難しいかと。柱島泊地の艦娘の艤装は大幅な改良を受けています。そのため共同戦線をはるよりもある程度の艦隊行動の自由を認めてもらえれば別ですが。」

 

「護衛艦隊の指揮系統を分けるというのかね?」

 

「ま、簡単に言うとそうなりますな。ですが無理でしょう?」

 

 肩をすくめて答える。

 

「ならば、護衛艦隊の枠組みから外せばよいだけだな。」

 

 幕僚長の言葉に皆が注目する。

 

「船団の護衛艦隊の指揮下から外れ、先行して露払(つゆはら)いの役目ならこなせるだろう?」

 

「遊撃艦隊としてお使いになると?」

 

「その通り。どうかね?」

 

「命令ならば。」苦虫を噛み潰したような顔をしながら答える。

 

「よろしい。では、命令書は次期海上護衛任務の日程が決まり次第だ。退席してよろしい。」

 

 クソッタレ。こうなりゃあ陸も空も巻き込んでやる。

 

 柱島泊地に戻るとすぐに霞に状況を説明した。

 

「で、どうするつもりよ?」

 

「取り敢えずは、おおすみ型輸送艦1番艦“おおすみ”と高G耐性のあるパイロット8人、特級射撃徽章持ち1個分隊を要求する。」

 

「そして、またミクさん達の力を借りるということね。“おおすみ”の改造で航空機運用をできるようにして、射撃に特化したMS艤装を生産。というところかしら?」

 

「流石、よくわかってらっしゃる。というわけで、分捕るための準備をしよう。」

 

「はいはい。」

 

 こちとら最年少の海軍大将で救国の英雄、さらには旭日大綬章の内定者、統合幕僚長の甥っ子。うん、分捕る脅し文句には困らない肩書きばかりだな。

 

 そんなこんなで書類を書き上げて霞にチェックしてもらうという作業を続けていると内線が鳴った。工廠からだ。

 

「『はい、湊大将。』」

 

『あ、提督。明石です。先程、提督宛のお荷物が届きました。二輪車です。』

 

「『ああ、了解。終業後に取りに向かう。・・・いじるなよ?』」

 

『了解です。それにいじる暇なんてありませんよ。陸軍さんのMS艤装の最終確認で忙しいんですから。』

 

「『ああ、そうだったな。すまんすまん。しかし、最終確認ということはすでに出来上がっているのか?』」

 

『はい、えっとですね。ミクさんが渡してくださった資料によると、RGM-79SP“ジム・スナイパーⅡ”だそうです。』

 

「『それはそれは。丁度いい。さらに1個分隊分を用意してくれ。』」

 

『え~、まあ、1機できていますから2番機以降は工期の短縮は出来ますけど。』

 

「『なら、頼む。それと、ミクに伝言を。“メイヴ”の生産を6機許可する。以上だ。』」

 

『ちょっ!?それって、凄く厄介事の臭いがするんですが!?』

 

「『間宮と伊良湖の“特別カフェ”1週間分でどうだ?』」

 

『了解です。任せてください!!』

 

 受話器を置くと霞がジト目でこちらを見ていた。

 

「・・・揚げもみじ饅頭が食べたいわ。それとカキ料理とアナゴご飯。」

 

「わかった。今度の休みの時に厳島に行こう。」

 

「わかっているじゃない。さっ、書類の続きをしましょう。」

 

 赤電話が鳴ることも無く、定期哨戒艦隊の帰還報告を受けて終業時刻まで書類仕事を続けた。チャイムの音ともに背伸びをして、

 

「霞、今日はここまでだ。」

 

「了解。今日もお疲れ様。」

 

「おう、お疲れ。そんじゃ、VTRを受け取りに工廠に行くか。霞も後ろに乗るわけだから一応見ておくだろう?」

 

 執務室を出て工廠へ向かう。途中で鈴熊コンビに会ったので声をかけると見てみたいということだったので4人で工廠内に入る。

 

「VTRを取りに来たぞー。」

 

「あっ、はーい。」

 

 作業着の上半分を腰に巻いたタンクトップ姿の夕張がやって来た。

 

「提督のバイクはこっちです。」

 

「すまないな。忙しいのに。」

 

「いえいえ、すきでやっていることなので。っと、こちらになります。一応、エンジンをかけさせてもらいました。でもキャブレター仕様なんですね。チョークを引きましたが遊びも十分にありました。アイドリングも安定していました。吹け上りも良かったですよ。灯火類にタイヤの空気圧、ブレーキパッド残量、チェーンの張り全てOKでした。今からでも乗れますよ?」

 

「いや、今日はやめとくよ。」

 

「そうですか。しかし、ビキニカウルにサイドとアンダーカウル、マフラーの交換もされていてパニアケースをつけるマウントもあって結構手を入れられているんですね。」

「まあな。マフラーはモリワキの既製品。パニアケースマウントはモトコって会社にワンオフで作ってもらった。(※どちらも実在の会社名です。)」

 

「サーキットを走られるんですよね?完全にツーリング使用という感じがしますけど?」

 

「まあ、バイクのほうは走行会とジムカーナが多かったからな。車は割とガチだったけど。国内Bライセンス持っているからな。」

 

「ほうほう。で、お車は何をお乗りに?」

 

「サーキット用はGT-R R33だな。普段乗りはインプレッサWRX STIだ。」

 

「どっちもお金かかる車ですねー。」

 

「というか、夕張がそこまで詳しいとは思わなかったぞ。その証拠に霞たちを見ろ。置いてきぼりをくらったかのような表情になっているじゃないか。」

 

「ああ、いえね。酒保に入る雑誌って趣味系も多いじゃないですか。それで、バイクと車の雑誌を試しに買ったら・・・。」

 

「ハマったわけだな。」

 

「はいっ!!お給料が貯まれば免許を取ってバイクや車に乗りたいと思っています。それが今の1番の目標です。」

 

 目を輝かせてそう言う夕張の頭を撫でながら、

 

「それならそういう趣味はこの戦争に勝って長く楽しまないとな。俺も頑張るよ。」

 

「はい、私、やりますよー!!」

 

「ほんじゃ、まずは演習を増やして力をつけないとな。」

 

「ええー、ミクさん達の改良した艤装があるからいいじゃないですかー。」

 

「慢心はダメだ。」

 

 ここで再起動した霞と鈴熊コンビも会話の輪に加わる。

 

「上官としてではなく、同じ艦娘として言わせてもらうと演習はやっといて損はないと思うわよ。」

 

「そーそー、何というか艤装が段々と自分の身体(からだ)に馴染んでいくのがわかるんだよねー。」

 

「言いたいことは全て言われてしまいましたわね。まあ、あえて言わせていただくなら(わたくし)達の艤装の可動部の消耗状況が以前よりも改善されていると思うのだけどいかがかしら?」

 

「確かに。明石を手伝ってみんなの艤装の整備をしているけど1カ月前より作業量が大分減ったわね。・・・鈴谷の“艤装が馴染んだ”っていうのはそういうことなの?」

 

「うん、そーいうこと。」

 

「ま、だから演習には積極的に参加してほしいわね。明石さんや夕張さんにも。」

 

「わかったわ。」

 

 バイクを取りに来ただけなのに話し込んでしまった。もう夕飯の時間だ。

 

「俺はVTRを宿舎になおしてくるから、みんな食堂に行くといい。夕飯だ。」

 

「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあ、鈴谷さん、熊野さん行きましょうか。夕張さんはどうするの?」

 

「んー、もう少し作業してから明石と一緒に行くから気にしないで。」

 

 そういうことで工廠にて霞たちと別れVTRを宿舎になおしに行った。KOMINE (※実在の会社名です。)のモーターサイクルドームを買っておいたので、それに収納する。これで雨露をしのげる。ミクはガレージを建ててくれるって言ってくれたけど丁重に断った。流石に軍所有の敷地内に個人の趣味の物はね。

 

 夕食後に鈴谷と霞のヘルメットとプロテクター入りジャケットをそれぞれの部屋に届けた。サイズは事前に申告してもらっているので大丈夫なはず。値段を聞かれたので正直に答えたら驚かれた。もっと安いモノだと思っていたらしい。いや、命を守るものだからお金はかけるよ?お金を払うって言ってきたけどプレゼントということにして押し付けて部屋を出た。艦娘のパジャマ姿は破壊力バツグンだなあ・・・。喪男には毒だから早く自室に戻って“エースコンバット”でもしようっと。

 

 翌日も“おおすみ”とパイロット、特級射撃徽章持ちを分捕るための書類を霞と共に作成していた。すると、ミクがやって来た。

 

「おはようございます~。」

 

「おはよう。ミク。何かあったか?」

 

「いえ、昨日のうちに伺うつもりだったんですが、鈴谷さんや霞さんと仲良くお話しされていたのでー。それでですね、制作するのは“ジム・スナイパーⅡ”1個分隊分と“FFR-41 メイヴ”でよろしかったんですよねー。」

 

「ああ、そうだよ。」

 

「でも、“メイヴ”は有人機ですよ。“FRX-99 レイフ”の方がよろしいのではないかと思いましてー。」

 

「俺も最初はそう思ったが、この戦争から人間を排除したくなかったんだよ。だからMS艤装も渋々だが建造している。」

 

「ヒトの意地・・・ですかー?」

 

「まあ、そんなもんかな。」

 

「わかりましたー。でも、“メイヴ”を運用できるようにするには滑走路が必要ですよー?」

 

「ああ、艦載機として使うつもりだ。おおすみ型輸送艦1番艦“おおすみ”を分捕るつもりだ。」

 

「それなら、改装しないといけませんねー。改装図案は明石さんと夕張さんと一緒に作成して今日中にお渡ししますねー。具体的な案があった方が上の方々を納得させやすいのではないでしょうかー。」

 

「確かにそうだな。頼む。」

 

 そう言いながら金平糖の小袋を渡す。ミクは嬉しそうに受け取ると、

 

「了解ですー。では、失礼しましたー。」

 

 と退室していった。ミクの退室と同時に霞が口を開いた。

 

「“この戦争から人間を排除したくなかった”なんて1回死んだのによく言えるわね。神様にでもなったつもり?」

 

「そんなわけあるかよ。ミクにも言ったが、意地だ。()られたから()り返す。それだけさ。」

 

「それが、全人類の意志ではないことは考えているんでしょうね。あなたの意地に他人を付き合わせて死なせたりするのは・・・。」

 

「そんなことはしない。これは俺の意地だ。戦いたくない人は戦わなくていいんだ。」

 

「それがわかっているなら私から言うことは無いわ。ごめんなさいね。気になったから。」

 

「いや、気にしていないから大丈夫だ。むしろ、そういうことはどんどん言ってほしい。」

 

「わかったわ。これからも秘書艦らしく諫言(かんげん)するわ。」

 

「お手柔らかに。」

 

 そう言って、笑い合った。




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