深海棲艦に殺されたら、提督として戦うことになりました。(旧題)一度死んだら提督として戦うことになりました。 作:名無しの兵六
新型深海棲艦を載せた“しらね”を出迎えるために俺はミョルニルアーマーを着込んで係留用の岸壁に立っている。他に第1特機中隊と憲兵中隊から坂本大尉が直率して2個小隊が万が一に備え待機している。それと、ついて来なくてもいいと言ったのだが、霞と深雪もいる。2人とも近接戦闘パッケージまで付けた完全武装だ。あ、勿論、森原中佐もジョンソン上級曹長と電少佐を連れて来ている。
サイドスラスターを巧みに操りながら“しらね”がスーっと接岸する。接岸作業が終わると同時に、格納庫から伸びる後部スロープで扶桑たちがストレッチャーに載せた新型深海棲艦を運び出す。その様子を眺めていた森原中佐は怒りと悲しみが混じった表情をして両手を固く握っている。第1特機中隊は不測の事態に備え、半数がビーム・ライフルをストレッチャーに向けている。憲兵中隊は余人が立ち入らないように警戒をしてくれている。
程なくして俺のところへ扶桑たちがやってきた。
「提督、扶桑以下6名帰還しました。」
扶桑が敬礼して報告する。俺は答礼をしながらねぎらいの言葉をかける。
「ご苦労だった。小規模な戦闘と予期せぬ結果があったようだが無事に還ってきてくれて安堵している。さて、堅苦しいのはここまでだ。全員、楽にしてくれ。扶桑、このストレッチャーに載っているのが新型深海棲艦か?」
「ありがとうございます。はい、その通りです。新型深海棲艦の潜水艦となります。」
ストレッチャーに横たわる深海棲艦は龍田と時雨の機銃攻撃で負った傷口から未だに出血しているようでかけられた毛布が点々と赤くなっている。
「傷の状態を調べたい。この場合は医務室がいいか?どう思う、霞。」
「ええ、医務室で見ましょう。工廠だと暴れられた時に危ないから。」
「よし。扶桑たちはそのまま工廠に行って入渠に。ここからは第1特機中隊と憲兵中隊が引き継ぐ。」
「わかりました。それでは、失礼します。」
扶桑たちが敬礼をして、工廠へと向かう。
「さて、俺達は医務室に向かうぞ。霞、深雪、戸田先生に先触れを。」
「了解したわ。いきましょう、深雪さん。」
「おう。」
霞と深雪が駆けていく。俺は、第1特機中隊の中条大尉と憲兵中隊の坂本大尉に指示を出す。
「第1特機中隊は医務室前の警備を。憲兵中隊は建物へと出入りする人間の管理を。」
「了解。」
「了解しました。」
2人がそれぞれ隊に指示を出し始める。俺はストレッチャーに拘束されている深海棲艦に近づき話しかける。
「俺の言葉がわかるか?」
「・・・ワカル。」
「今からお前の治療のために移動をする。そこには医師や看護師がいる。非戦闘員だ。理解できるか?」
「医師ハ治療ヲシテクレル人。看護師モ同ジ。武器ヲ持タナイ。」
「そうだ。もし、お前が先生達に手を出そうとしたら俺がお前を殺す。だから、治療の間は多少痛くても大人しくしていろ。いいな?」
「ワカッタ。」
ふぅ、なんとか意思の疎通はできたようだ。中条大尉に声をかけ、第1特機で医務室までストレッチャーを移動させる。ジェスタが集まっていると特殊部隊感が凄いな。ガンダム好きなら写真を撮りたいに違いない。ちなみに俺はヘルメットカメラの機能で写真を撮っている。
医務室に入り、男性医師で中佐の戸田先生に引き渡す。第1特機は医務室に繋がる扉や窓のところで待機する。戸田先生は新型深海棲艦に掛けられていた毛布を剥ぎ、冷静に傷口を確認していく。流石、第1次・第2次首都圏防衛海戦で前線にて治療行為を行なっていた人だけのことはある。
「閣下、傷の手当の前に弾丸が体内に残っていないかレントゲンを撮り確認したいので補助をお願いできますか?それと、輸血の際の血液型も調べておきたいので採血をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。艤装はどうする?」
「そのままで。」
そしてまず、採血をした後にストレッチャーごとレントゲン室に運び入れる。レントゲン撮影台の上にストレッチャーから移乗させるときに呻かれたが気にしない。戸田先生の指示に従い、深海棲艦の体位を変えて撮影していく。
「終わりました。診察室へ戻しましょう。」
またストレッチャーに移乗させ診察室へと戻る。しばらくしてレントゲン室から撮影したモノを持って戸田先生が出てきた。
「6発が体内に残っています。他の傷口はこのまま縫合しますが、麻酔いりますかね?あぁ、それと、血液型はABでした。」
「さぁ、どうだろうな。本人に聞いてみよう。」
俺は深海棲艦に向き直り聞く。
「お前の体内には弾丸が6発残っている。それを取り出さなければ治療が進まない。だが、その前に他の傷口を縫い合わせ止血する。縫い合わせの時に麻酔は必要か?」
「・・・大丈夫ダト思ウ。」
「よし、わかった。中佐、お願いする。」
「ええ、では縫合しましょう。一応、女性なので傷口が目立たないように真皮縫合を行います。おーい、池田君、これから縫合するぞ。輸血の準備も頼む。AB型だ」
「はい、先生。」
手術着を着た男性看護師の池田少尉がカートを押して手術室からやってきた。カートの上には様々な医療器具が載っているが、門外漢のおれにはさっぱりわからん。あ、輸血パックとメスだけはわかるな。
「さて、深海棲艦さん。今から消毒をしながら傷口を縫っていく。消毒はしみるだろうが暴れんでくれよ。」
「ワカッタ。」
そして、治療が始まる。戸田先生は慣れた手つき血管に針を刺し、輸血を開始する。そして手際よく縫い合わせていく。ベテランだからなのかみるみるうちに止血がされ傷口が塞がっていく。
「よし、これで大体は終わりだ。このままここで弾丸の摘出もしよう。そこまで深くはないようだかね。」
「はい、先生。松下さんを呼んできます。オペ室で待機していますので。」
「ああ、頼むよ。私もちょっと着ておこう」
そう言って、池田少尉は女性看護師の松下大尉を呼びに行く。というか、弾丸の摘出なんてそう簡単に出来るもんなのか?よくわからんなぁ。ランボーとかだと熱したサバイバルナイフで傷口を・・・としていたけどなぁ。
戸田先生は治療用のエプロンみたいな処置着から手術着に着替える。
「中佐、俺はいてもいいのかね?」
「閣下にいてもらえたほうが安心ですね。暴れてもすぐ取り押さえてくれるでしょう?」
「まぁ、そうだがね。医療行為とは言え医療関係者でない俺が、敵とはいえ女性の裸体を見るのはどうなんだと思ったんだよ。」
「気にされない方がいいですよ。それにこの医務室では私の指示が1番だと思ってください。そう思えば気が楽でしょう?」
「まあな。」
そんな感じで雑談をしていると、新しいカートと共に池田少尉と松下大尉がやってきた。
「よし、それではやろうか。」
戸田先生の掛け声とともに弾丸摘出術が始まる。メスで傷口を切り開いて、なんか引っかけるような器具で松下大尉が傷口をよく見えるようにしている。そしてハサミみたいな器具を使って弾丸を摘出する。早いな。
「いやぁ、浅い所で止まっていてよかったよかった。次に行きますね。」
そう俺に縫合しながら報告して次の弾丸の摘出を行う。いや、俺にいちいち報告しなくてもいいんだけどな。先生はこういうところが律儀なんだよなぁ。艦娘が入居するほどでもない軽い怪我をした時も内線で報告してくれるし。
そうこう思案しているうちに3個目も無事に摘出し縫合を終えるところだった。
「さて、では次に一番難しいところをやろうか。」
「?どこなんだ、中佐。」
質問をすると、下腹部辺りを指差す。それでもわからず首をかしげると、
「ここですよ。ここ。鼠蹊部になります。」
そう言って深海棲艦の股間付近を指で丸くなぞる。あ、ちょっと今、深海棲艦がビクッとしたぞ。しかし、凝視しにくい場所だな。
「弾丸の侵入痕はもっと上のほうにあるようだがそこまでいっているのか。」
「ええ、骨盤の近くでとまっています。靭帯や動脈、静脈にリンパ管、神経などが通っていますので少し難易度が上がりますね。あっ、血が跳ねるかもしれませんので注意してください。では、切開していきます。」
そう言ってメスで開口部を切り開く。
「ああ、よかった。血管は大丈夫みたいですね。このままサッサと終わらせます。」
そして、言った通りに4個目も無事に摘出した。残りの2個もすぐに摘出し、手術は無事に終わった。ちなみに深海棲艦は痛みのあまりに気絶していた。仕方ないな。俺も麻酔無しの手術なんてされたら耐えられる自信なんて無い。
「ありがとう、中佐。さて、医師の立場からの意見を聞きたい。この深海棲艦を独房にいれるべきかね?」
「いえ、2~3日はこちらで様子を見ます。思いの外、出血をしていたようでかなりの量の輸血をしましたから。」
「わかった。護衛と見張りに第1特機中隊をつける。何かあれば中佐が指揮を
「戦闘指揮は経験があまり無いんですがねぇ。仕方ありません。了解しました。」
「レンジャー徽章と空挺徽章を持っていてよく言う。」
「ハハ、趣味ですよ、趣味。まぁ、とにかく患者は小官の管理下でしっかりと治療します。」
「頼んだ。貴重な情報源だ。」
そう戸田先生に言って、医務室を後にする。報告書を上げたら今度の召喚の時に絶対に小言を言われるな。
読んでくださりありがとうございます。