深海棲艦に殺されたら、提督として戦うことになりました。(旧題)一度死んだら提督として戦うことになりました。   作:名無しの兵六

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第93話 葬送

 1つ、2つ、3つ・・・、“おおすみ”の最上甲板に並べられる遺体袋の数を頬杖をつきながら艦橋から数える。戦死13名、行方不明者1名。昨日、行われた第2次ペナン沖海戦の犠牲者だ。ため息しか出ないな。全員が通常艦から成る護衛艦隊の乗員だ。

 

 ちなみに行方不明とあるが、正確には死体が遺(のこ)らなかったからだ。実質、戦死だ。目撃していた乗組員によると、敵戦艦級の至近弾が着弾するほんの直前で甲板上から血煙を残して消え去ったらしい。装備していたモノも残らなかったようだ。死体の入っていない遺体袋には故人の階級章とネームのみが入っている。

 

 その遺体袋の横には護衛艦隊のSH-60Kが3機、係留状態にある。遺体は水葬せずにインドのチェンナイ国際空港にて空軍のC-130Hに引き渡すので、そこまで空路にて輸送する。そのためだ。船団の足を止めるわけにはいかないからな。特機の手によりSH-60Kへと遺体の搬入作業が開始されると、俺は頬杖をやめ、制帽を被りなおし、起立し敬礼する。艦橋要員で手が空いている者も皆が敬礼で見送る。

 

 遺体は遺品と共にC-130Hで日本へと空輸し、それぞれの故郷で葬儀を行う。空軍は完成したばかりのFFR-31“シルフィード”とFA-1“ファーン”をC-130Hの護衛につけるそうだ。

 

 ああ、チェンナイ空港まではガルーダと特機がSH-60Kを護衛するようにしている。まあ、インド近海は深海棲艦の目撃例も少ないので大丈夫だろうが、念のためにだな。

 

 ありがたいことに空軍は通信をしたらすぐに動いてくれた。今までの輸送船団の護衛艦隊は犠牲を出したことが無かったから国内でも衝撃もあったようだけどな。海上幕僚長は直々に中須少将へと通信をいれたらしい。叱責をしたわけではないようだが、海戦以降、中須少将は司令官室から出てこないとのことだ。

 

 そんなわけで階級が一番高い俺が代理で護衛艦隊と潜水艦隊の指揮をとっている。ハッキリと言って面倒だ。ああ、ヘリが発艦態勢にはいった。霧笛を鳴らすように合図を出す。船団の各艦、各船が霧笛を鳴らし、“おおすみ”上空をガルーダ隊がミッシングマンフォーメーションで通過する。それを合図に3機のSH-60Kは発艦しチェンナイ空港へと向かう。

 

 船団の速度に合わせているのですぐにヘリが見えなくなる。俺は制帽を取り、深く息を吐く。

 

「皆、即死だったのが救いかねぇ・・・。」

 

「小官は痛みに長時間さらされながら死を迎えるのは御免被りますな。」

 

「1回死んでいるが俺もだよ。死の瞬間は意識が刈り取られたほうがいい。さて、現在、“おおすみ”に収容中の者でその死をむかえそうな者はいるのかね?」

 

「いえ、永禮(ながれ)軍医長の報告によれば全員峠を越したようです。」

 

「彼らが生き残るために使用された医薬品類の残(ざん)はどうなっている?」

 

「あー、はい。当艦の往路分の3分の2を使用しました。ちなみに、食糧もだいぶ・・・。」

 

「指揮系統の一本化ができていれば“ましゅう”からの補給も即座に受けられるのにな。中央の連中は補給申請を当日中に決(けつ)をとることができんのか。戦時だぞ。今は。すぐにでも、ベッドを空けて欲しいぐらいだ。」

 

「まあ、当艦は医療設備が充実しておりますからな。仕方ないでしょう。」

 

「俺の部下のためのモノだ。乗員達から不満は?」

 

「特にありません。同じ海軍所属ですからね。」

 

「それなら、いい。」

 

 制帽を被りなおし、艦橋を出ようとすると金剛がやってきた。ちなみに、佐官用作業服を着ている。すぐに俺と出原中佐に向かって敬礼をする。俺はラフに、中佐はしっかりと答礼をする。

 

「どうした?金剛少佐。」

 

 司令官席に座り、金剛を近くに招く。

 

「ハイ。中須少将をどうされるのかと思いマシテ。」

 

「指揮系統が違うから何もできんと海戦が終わってから説明したと思うが?」

 

「覚えてイマス。しかし、失礼を承知で申し上げると中須少将には外部からの刺激が必要かと。それも強力な。」

 

「・・・俺に何をさせるつもりだ?」

 

「ミョルニルアーマーを着込んで、“こんごう”の司令官室で“お茶”をしてくると良いかと思イマス。」

 

 金剛は笑顔で俺に殴りこんでこいと言いやがった。まあ、ミョルニルアーマーの性能と俺のスパルタンとしての能力で破れない扉は現代には存在しないだろう。核シェルターの耐爆扉も壊せるんじゃないかね。試そうとは思わんが。

 

「中須少将の根性が気に入らんか?」

 

「ハイ。自ら危険な前線へと兵を死地に送り込み、しまいには部下の遺体の見送りもしないなど、艦隊司令の風上にも・・・モゴッ・・・。」

 

 金剛の口を片手で抑えながら言う。

 

「それ以上は言うな。上官の侮辱に抵触する可能性がある。愚痴はあとで執務室で聞いてやる。取り敢えずは俺が今から“こんごう”の司令官室に行くということで納得して自室で待機だ。いいな?」

 

「了解デス。」

 

 敬礼して金剛が艦橋を出る。俺は苦笑いしながら出原中佐に言う。

 

「聞こえたよな?」

 

「さあ?小官は世間話を聞いただけです。」

 

 出原中佐がとぼけてそう言うと、先程のやり取りが聞こえていたであろう艦橋要員たちも軽く頷く。

 

「そうか。では、少し離艦する。士気は出原中佐に一任する。」

 

「了解しました。」

 

 俺は自室に戻り、飲み物と茶菓子を背嚢に詰めて最下層甲板の整備室へ向かう。ミョルニルアーマーの前に立ち、ため息をついた。

 

「父親の年齢に近い人間に喝を入れにいかんとけないとはなぁ・・・。」

 

「海斗さんの一喝で済めば、それでいいんじゃないですかー?旅路は長いですからー。」

 

「おう、ミクか。そうだな。ああ、一緒に来てはくれないか?」

 

「いいですけど、何か問題でも?」

 

「壊す扉の修理をお願いしたい。」

 

「わかりましたー。」

 

 深く聞かずにミクは快諾してくれた。ミョルニルアーマーを着込み、背嚢を手に持つ。背負うとブースターが使えないからな。舷側エレベーターで最上甲板に上がる。その後は、助走をつけて、並走している“こんごう”めがけて大きくジャンプする。ブースターを数回噴かして“こんごう”の主砲正面に着艦する。

 

 艦橋要員が目を丸くしていたので敬礼すると、俺だと気づき慌てて敬礼してきた。そして、艦内の司令官室へと向かう。艦長と数名の士官が俺を止めようとやってきたが無駄だ。

 

「開けるぞ、中須少将。」

 

 そう言って、司令官室の扉をもぎ取る。あとの修復はミクに任せる。少将は、机で何かの作業をしていた。俺を一瞥するとすぐに作業に戻る。

 

「上官を無視するとはいい度胸じゃないか。」

 

 そう言って、俺は少将に近づく。彼は、遺族に向けて謝罪の手紙を書いていた。なるほど、これでこもっていたのか。しかし、一体、何枚書くつもりなんだ?机の上の端末には戦死した乗員の略歴などが表示されていた。

 

「少将、貴官は指揮を取れる状態か?」

 

「わ、私は、これを書かないといけないのです。そう、書かないと・・・。」

 

 俺の問いにそうブツブツと繰り返して言う。これはダメそうだな。

 

「医官を呼べ。診断が終わったら“おおすみ”に連絡を。俺は戻る。後は頼んだ。」

 

 艦長にそう言って、俺は“こんごう”をあとにした。

 

 結局、中須少将は強迫性障害とうつ病と診断された。2回目となる自分の指揮下での部下の死に心が耐えられなかったようだ。さて、海上幕僚長と幕僚監部に報告したらどうなるかね。まさか、俺を護衛艦隊の司令官にしねぇだろうな。




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