どうしようもなく、俺のホワイトデーはまちがっている。   作:サンダーソード

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これにて完結。なおこの話はヒッキーが酔わない宣言される前に作ったものなのでそんな設定はありません。実際作中飲んだわけじゃないんだからこうなる可能性も0じゃないし! とか言ってみるテスト。


どうしようもなく、彼と彼女らはお互いに合わせる顔がない。

「うわあああああああっ!」

 朝。昨日の記憶があたしのほっぺたを燃え上がらせる。布団を頭から被って、枕に顔を押し付けて、熱さのカタマリを吐き出すみたいに叫び声を上げる。

 ヒッキーがポロポロ泣いて助けを求めるようにあたしたちを見る姿が、あたしの心と理性を溶かしてしまった。

 止めらんなく、なってしまった。

 あ、あ、あ、あんな、あんな、ヒッキーを食べるみたいな……キス、を……うわあああああっ!

「~~~~~~っ!!」

 声にならない声を上げながら、布団の中でゴロゴロ転がる。多分髪もぐしゃぐしゃだし、パジャマも少しはだけてる。とてもヒッキーには見せられない格好。

 しかもヒッキーだけじゃなくて、ゆきのんにまでいっぱいちゅーして……。

 ゆきのんもかわいかったし、ヒッキーもなんていうか、守ってあげたく……ってそうじゃない!

 あとで許してもらえるまで謝るって、なに!? 何をどうやって謝るの!?

 泣いてるときにキスしてごめんって、ヒッキーのこと好きでごめんっていうの!?

「あああああああああっ!」

 ムリ! ムリだって! っていうかあたし、あんなえろっちくないし! あれは……あれは……えっと……。

 ヒッキーが……愛しすぎて……うあああああああああああっ!!

 またゴロゴロ転がって、布団が身体に絡みつく。火がついたみたく顔が熱い。心臓がバクバクいってる。

 ……しょーじき言うと、おなかの下の方も、締め付けるみたいに熱く……。

 ひょっとして、半泣きで熱っぽくて息が荒い今のあたしって、もしかするとえっちっぽく見えるんじゃ……。

 ない! そんなわけないから! あたしえろくないし! ぜんぜんやらしくないし!

「ううう……ああ……」

 でも、今のあたしがえっちくないとしても、昨日のあたしはどうしようもなくえろっちかった。多分。きっと。……もしかしたら違うといいけど。

 そしてそれは、ヒッキーとゆきのんからもそう見えたかもしれないってことで。いやでもひょっとしたらやらしく見えなかったかもしれないし……。

 昨日の帰りだって、平塚先生にヒッキーから引きはがされるときもなんか恥ずかしいこといってだだこねたような覚えがあるし……。でもあれは離されようとするときヒッキーが切なそうな目をしてたからだし! だからノーカン!

 ……でも、平塚先生に乗せられた車の中でもずっとキスしてたし、あたしの家についたときも二人と離れたくないってワガママいってたような……。

「ぅぅ……」

 こんな……こんなの……。ヒッキーにも……ゆきのんにも……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 目を覚ます。

 静かに目を開けて、視線だけをゆっくり動かし現状を確認する。

 制服を着たままベッドに入り、手には由比ヶ浜さんが贈ってくれた猫の手ミトンを嵌め、腕の中には比企谷くんが取ってくれたパンさんのぬいぐるみ。

 髪を赤いシュシュで括り、猫足ルームソックス。

 流石に眼鏡を掛けたまま寝るほどには分別を失っていなかったらしいことにかすかな満足感を感じてから。

「~~~~~~っ!」

 その僅かな高揚感ごと、自尊心が一瞬で地の底に叩きつけられた。

「ふふ……ふふふ……」

 あれが、あんな、幼子のように、捨てないでくれと二人に縋りついたのが、私?

 無様に、なんでもするからと、置いていかないでと、泣きながら哀れみを乞うたのが、私?

「…………」

 言葉もない。

 浅ましくも自らの不安を喧伝し、由比ヶ浜さんに……その、口づけ……をもらって、安堵と承認欲求を満たされて泣き腫らす。

 胸が痛いと涙を流す比企谷くんを助けることも出来ず、自分の畏れを救ってもらおうとする。奉仕部部長の肩書きが泣くというもの。

 自己嫌悪と羞恥が極まって死にたくなる。

 ……ああ、比企谷くんがトラウマで目を腐らせているのって、こんな気分なのかしらね……。

 昨日の精神性をまだ引きずっているのか、こんな些細でどうしようもない彼らとの共通点を見出してほんの少し気分が上向く。

 そして持ち上がった分だけの勢いをつけて、更に深く底の底まで叩きつけられる。

 そんな些細でどうしようもない共通点に縋るほどにお前は脆く貪婪なのだと、自らの理性が突き付けてくる。

 鬱屈した倦怠感と捨て鉢な虚脱感で身体が鉛のように重く、金縛りにあったかのようにピクリとも動かない。ただ自責の感情だけが嫌悪と羞恥を食らって肥え太る。

 そう、それに、由比ヶ浜さんが帰るときにも彼女が離れる寂しさに耐えきれず、泣き出して比企谷くんに縋り付き……由比ヶ浜さんを真似て……私から……キスを……。

「嘘……よね……?」

 ざぁっ、と。血の気が引いた音が耳の奥で反響した。

 キスを……私から……ねだる、なんて……。

 比企谷くんまでもが帰る段になって私の幼児退行は極まり、相当な恥を口から吐き散らしたような記憶もある。

 学校に行きたくないと、ここまで切実に思ったのは初めてだ。一体、あの二人に……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「……………………」

 瞼を薄く開く。

 夢を、見ていた。

 幸せな、夢を。

「……………………ぐぅ」

 いやごめん無理。とても自分を誤魔化せない。夢ってことにまかりませんか? 駄目ですよね知ってた。あれだ、なんだ、取り敢えず事実確認だ。事実だけを追うんだ。じゃないと死にたくなるから。

 中身も確認せずに持って行ったお菓子が強い度数のウィスキーボンボンで、それを何も知らない二人にこっちからお願いまでして食わせた挙げ句、自分もボロ泣きして甘えて縋って、由比ヶ浜に……。

 待って。待とう。落ち着け。ステイ。冷静に考えよう。だから無理だっつってんだろサル! ここまでだけで何回死にたくなったと思ってんだ!!

 まず未成年の女子を酒に酔わせて、って時点で絞首刑。しかもその後……うおお……なんでこの人女の子の前で泣いてるの? それはね、クソぼっちのくせに心が弱いからだよ?

 しかも助けてくれって懇願して、由比ヶ浜に……キスを……あんな……。

 触覚がざらついた指の感触を覚えてようやく、自分が思わず指が唇をなぞっていたことに気付く。無意識に反芻する自分の気持ち悪さにまた一つ死にたいを積み重ね、同時に帰りの車の中、もう一人の女の子の唇の官能がフラッシュバックする。

 由比ヶ浜が車から降りるときにどうしようもない寂寥が膨れ上がり、そして由比ヶ浜もそうであると無批判に思い込み、由比ヶ浜からねだられるままに俺から……キスを……して……。

 雪ノ下も俺に倣い、由比ヶ浜と一つの影に繋がって。それで雪ノ下の箍も外れたのか、残る帰り道の途上、俺にもキスを求めてくるようになって。俺も……それに……応えて……。

「はははははははははは……」

 大丈夫? 息してる? してないかもしれない。虫の息ですね手遅れです。俺は虫けらか……。

 一夜の思い出で人間ここまで変われるんだね。死にたい。

 まず部室でいろはすに発見されたでしょ? 次に車で平塚先生に送られたでしょ? 帰るとき小町が俺を引き取ったでしょ? 絶対小町から母ちゃんに話通ってるでしょ?

 駄目だどう見ても絶望しかない。って言うか学校でアルコール摂取して不純異性交遊って停学でもおかしくないやつだよね? 俺の愚行で二人の経歴に瑕が付くとか考えただけでも申し訳なさで言葉も出ない。

 平塚先生に全力土下座で俺一人の責任であると理解してもらって、どんな対価でも呑む前提でいろはすに黙っていてくれるよう懇願もとい交渉して、小町の質問攻めと母ちゃんの生暖かい目はどうにかいなして。

 …………その辺の諸々をクリアしても、学校に行ったらあの二人とは自然と出会ってしまうわけで。

 頼む誰か教えてくれ。由比ヶ浜に。雪ノ下に。俺は。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どんな顔して会えばいいの……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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