沖田さんと行く!人理修復の旅   作:青い灰

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バビロニア終了後の世界です。
やっとかないと設定忘れそうなんで。

投稿遅れてすいません。



番外編 獣の予兆

 

 

思考が支配される。

たった1つの願望が、渦を巻くように

脳内をぐるぐると回り続ける。

 

 

ベッドの端に座り、必死に空気を呷る。

 

 

息が詰まる。手が震える。

暖房の入った自室の筈だ。

なのに、恐ろしいほどの寒気がする。

 

 

「はぁ、っ、はぁ、っ、………か、ぁっ」

 

 

まだ、駄目だ。

まだ俺は立たねばならない。

まだ、カルデアの皆といなければ。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ………くそ………」

 

 

 

服を震える手で何とか脱ぎ、

そして刻まれた傷を見る。

まだドクターにも見せていない。

今は、ドクターに無理をさせるわけには、

心配をかけさせるわけにはいかない。

 

だが、右肩から左腰まで刻まれたその黒い傷は、

未だに脈動を続け………いや、脈動は徐々に

大きくなっている。

触れてみるが、痛みはない。

ベトリとした、泥の感覚だけ。

 

眺めていると、ドアがノックされる。

誰だろうか。

 

 

「…………少し、待って、くれ」

 

 

急いで服を着る。

そして深呼吸、自身を落ち着かせる。

鏡で顔を取り繕えているかを確かめる。

 

………多分、大丈夫だ。

 

 

「悪い、入ってくれ」

 

「おじゃましまーす、おかあさん」

 

「旦那はん、少ぉし時間、よろしおすな?」

 

「………ジャックに、酒呑か」

 

 

入ってきたのはジャックと酒呑童子だった。

不思議な組み合わせだ。

ジャックは珍しく、アリスや

オルタリリィと一緒じゃない。

どうしたのだろうか?

 

酒呑童子が俺の隣に座る。

 

 

「おかあさん、わたしたち、ちょっと話があるの」

 

「うん、どうした?」

 

「その前に、よっ、と。……えへへ」

 

 

ジャックが俺の膝の上に座り、笑う。

……今は少しでも人肌が恋しかった。

自然と、俺も頬が緩む。

 

 

「で、どんな話を?」

 

「うん、ちぃと困った旦那はんの話や」

 

「おかあさん、そろそろ死ぬでしょ?」

 

「────、──────何の話だ?」

 

「嘘ついちゃダメだよ。

 中の黒い聖女様も言ってる。

 おかあさん、もう限界だよね?」

 

 

気づかれていたのか。

取り繕った意味が全部なくなるし。

…………しまったな、みんなにバレるか?

 

 

「…………まだ大丈夫だ。

 俺の限界は死ぬ時だからな」

 

「じゃあ限界だよ。

 おかあさん、無理ばっかりしてるもん」

 

「霊器を取り込んで、身体を無理矢理動かして、

 それから今度は泥に呑まれたんやろ?

 大丈夫ってなんやろなぁ?」

 

「あー………じゃあ立香たちには黙っててくれ。

 ドクター、ダヴィンチ、あと、沖田にも」

 

 

その言葉に、

ジャックは怒ったように頬を膨らませ、

酒呑は寒気を感じる妖しい笑みを浮かべる。

 

 

「なぁ旦那はん?

 ここにいるうちらの属性、覚えとる?」

 

「……………混沌、悪か」

 

「そやねぇ、それで、なんやけどな?」

 

「おかあさん、ちょっと

 特異点から帰ってきてからおかしいんだよ?」

 

「おかしい?」

 

「んん、気づいとらんかったんやねぇ?

 まぁしょうがないなぁ、

 旦那はんは、()()人間やし」

 

「…………酒呑、悪いがはっきり言ってくれるか」

 

 

酒呑童子が焦らす性格なのは重々分かっている。

結局、どういうことなのかを知りたい。

 

 

「ふふっ、そんな目しなくても

 教えたるわぁ、ほんに、怖い怖い………」

 

「わたしたちが言っちゃうけど、

 おかあさんね、もう人間じゃないよ」

 

「……………これ、か」

 

「そうやなぁ、それは切っ掛け、

 旦那はんは耐えられんかもなぁ?」

 

「…………俺は、どうなる」

 

「死ぬなぁ」「死ぬよ」

 

 

まぁ答えるだろうとは思っていたけど。

頭を抱え、溜め息をつく。

 

 

「まぁうちもカルデアの1人やし、

 マスターの面目もあるわけなんや」

 

「わたしたちもおかあさんは死なせたくないよ?」

 

「…………ジャックはともかく、酒呑は胡散臭いな」

 

「いややわぁ、これでもうち、

 小僧よりも旦那はんは好みなんよ?

 ふふ、会った時から血の匂いが凄かったわぁ」

 

「そんなに俺って血生臭いか?」

 

「うーん、おかあさんの匂いは良い匂いだよ。

 だけど、わたしたちには何となく分かるんだ」

 

「うちも鬼、どれだけ殺してるかなんて

 雰囲気と匂いで分かってしまうんよねぇ。

 旦那はん、英霊より人殺しとるんやない?」

 

 

酒呑の見透かすような瞳がこちらを射抜く。

気がつけば、甘い匂いが漂っていた。

…………果実の酒気か。

 

 

「うぅん………」 

 

「酒呑童子」

 

「あぁもう、いけず………

 悪かったわ、ほんの確認なんよ?」

 

 

酒呑童子から瓢箪を奪う。

ジャックが泥酔していた。

酒呑の果実の酒気スキルは声や吐息に酒の香を

宿らせ、視線だけで泥酔させる。

 

 

「確認?」 

 

「まだ気づかないん?

 旦那はん、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「────」

 

 

そう言えば………確かにそうだ。

エウリュアレやステンノに何度か悪戯を

されたことがあるが、前は立香やマシュでさえ

おかしくなったというのに俺は何もなかった。

思い当たることは、何もない。

 

 

「返しとくれやす」

 

「…………やるなら言ってくれ。

 もしジャックが酔ったらどうする」

 

「考えとくわ。それにしても………旦那はん、

 鈍感、って訳でもないんよなぁ?」

 

「…………まぁ、そうだな。

 ()()考えを見抜くのは得意ではあるから」

 

 

酒呑は相変わらずクスクスと笑い、立つ。

眠ったジャックをベッドに横にして、

溜め息をつく。

 

 

「待ってくれ、それだけか?」

 

「それだけ………あぁ、忘れるとこやった、

 1つ、忠告させてもらうけど…………」

 

 

その時の酒呑童子は、どこか雰囲気が違った。

まるで、過去のトラウマを思い出したかのような。

 

 

 

 

 

 

 

「旦那はん、人として生きぃよ。

 人を捨てたら、それはただの獣やさかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柄にもないなぁ、とクスリと笑い、

酒呑童子は部屋を出る。

 

 

「…………人として生きろ、か」

 

 

意味は分からないが、

酒呑には何か考えがあるのは分かる。

覚えておいた方がいいだろう。

 

旅も終わる。

長いようで短かった旅も、この命も。

なら、今、自分に出来ることをしよう。

生きて欲しい人たちに、残せることをしよう。

 

 

 

 

 

「────」

 

 

───俺は、聖杯保管室へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒衣の殺人鬼が、既にその場から

いなくなっていることにも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

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