セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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灰槌VS蒼弓

 

ここIS学園では普通の学校と同じようなカリキュラムの合間にISに関する授業をねじ込んでいるので非常に多忙だ。どれくらい多忙かと言えば、始業式の当日から既に授業が始まっているくらいには忙しい。

半分専門学校なんだし……と思わないでもないが、そうなっているのだから仕方ない。ISの知識に関しては春休み前に織斑先生がクソ分厚い教本を渡してきたのでそれをリサと2人で読み込んだ。後は目の前に作った張本人がいるのだから聞けば早い。取り敢えず大雑把な規則とISの基本的な理屈は頭に叩き込んで授業に臨んでいるおかげか、今のところ突っかかる部分は出てきていない。むしろ、普通の授業の方が心配なくらいだ。

だが目の前の男はそうでもないらしい。むしろISのことなんてさっぱり分からんと、後ろから見てるだけでもハッキリと分かる。てかさっき、山田先生に「分からないことがあれば何でも聞いてくださいね」と言われて、なんも分からんと答えていたし。しかもこの野郎、あの分厚い教本を電話帳と間違って捨てたのだとか。それで織斑先生に頭叩かれてりゃ世話ないな。

コイツ、ISが危険な兵器であることを欠片も自覚していないらしい。それはそれで相当に危ない。

武器の扱い方を知らないのなら自分だけでなく、周りまで危険に晒すからな。俺としては織斑一夏のこの態度はあまり好ましいものではない。

ちなみにこの織斑一夏、一応俺より先に世界初の男性IS操縦者として世に顔を晒されている。俺はその次、しかし"あの"篠ノ之束の秘蔵っ子みたいな扱いをされたせいで正直世間に出るのが怖い。ただ、俺の戸籍が無い理由は作れたので良しとしよ……いや無理か。

というか、そんなことよりも重大な問題があった。なんと、あの篠ノ之束が新たにISを作ったのだ。操縦者は俺とリサ。世界に500と無いISのコアの数が急に2つも増えるのだ。世界はてんやわんやの大騒ぎ、だったらしい。俺は基本篠ノ之束の元に引き篭ってたからネットで調べた範囲でだけだけど。

 

そして篠ノ之束のことだ。当然今までのISとは一風変わった機能を乗せている。

どうにもISのコアはそれぞれが独立しているもののお互いに通信することも可能らしい。まぁ、でなきゃ超広大な宇宙空間でなんて活動させられないだろうけど。

で、篠ノ之束的には男なのに何故かISを動かせる俺に興味を持ち、そんな俺が溺愛するリサにもついでにISを与えてそのコアの連携の実験をしたかったらしい。この実験が成功し普遍的な技術に出来れば色んな問題が解決できそうなのだとか。要は体の良いモルモットだ。もっとも、そのISの管理を本人ではなく適当に指名したIS企業にやらせるらしく、そして俺はそこの実験にも協力することでそれなりの報奨金を得られる、そういう流れなのだからこっちに関しての文句は言うまい。

 

 

 

で、ちょうど2限目の授業の区切りを伝えるチャイムが鳴り休憩時間。視線が針のように突き刺さり精神的に疲れた俺はほぼ反射的にリサの元へと向かおうと席を立った、のだが───

 

「そこのお2人、宜しくて?」

 

金髪ロングの縦ロール、まるでヒルダみてぇな女がいきなり話しかけてきた。髪の色は恐らく地毛。顔の作りも日本人のそれじゃあないな。ま、ここIS学園は世界に唯一のIS専門の学校であると同時に未来あるIS操縦者を世界中から受け入れているから、そこかしこに日本人以外の肌の色や目の色をした奴らがいる。この感じは何となくイ・ウーを思い起こさせるな。あそこまで殺伐としてねぇけど。

で、個人的にはまったくもってよろしくないのだけれど、どうにもこいつは俺達を逃す気は無さそうだった。だからと言って俺はリサの元へ向かうのを止める気は欠片もないのだが。

 

「……宜しくないからまた後で」

 

俺は軽く手を挙げて思ってもない謝罪の意を示しつつ脇を通り抜けようとしたが───

 

「宜しいようですね」

 

コイツは人の話を聞かないようだ。俺が胡乱げに振り向けば織斑一夏も「なんだコイツ」った顔でヒルダっぽい風貌のこの女を見つめている。

 

「……誰お前」

 

一瞬、本当に一瞬だけ拳銃を抜きかけたけどそれをどうにか抑え込み、俺は席に着く。だが俺の質問が気に入らなかったのかその女はわざとらしく驚愕の顔をし始めた。

 

「知らない?このわたくし、セシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試首席であるわたくしを?」

 

お前の成績なんぞ知らねぇよ。だがまぁ、代表候補生ってのは知ってる。IS関係についてはこの世界から出るための鍵になるかと思って少し調べたからな。サッカーで言えば年代別のナショナルチーム選手みたいなもんだ。そして、そんなのが態々この学園にいるということはつまり、コイツは国からかなり期待され、国の最新式ISを渡されているということだろう。

 

このIS、兵器としての機能が高過ぎる上に製作者は日本人だ。恐れた他国が無理矢理にISの情報はどこの国も最新技術を即開示というルールを作った。その上日本に"絶対不可領域侵"としてのIS学園を作らせ、しかもそこに在籍している間にその中で採れたデータのみその期間だけは開示義務から逃れられる。という謎ルールまでも組み込んだのだ。

おかげでISは環境に優しい抑止力として世界の平和を保っております。アホか。

 

ちなみにこのセシリア・オルコットさん、織斑一夏も当然知らなかったらしい。でしょうね。

 

「お分かり頂けました?このわたくしに話しかけられるだけでも光栄なのだということが」

 

アリアの100倍くらい横柄な態度でコチラを見下げてくるオルコット。こちらとしては正直どうでも良いし1秒でも長くリサといたいのだけれど、コイツはそれを許してくれそうもない。

触らぬ神に祟りなしと、俺は適当に視線だけ向けておいて話を聞いているフリ。どうやら織斑一夏は会話する気があるみたいだからコイツに全部放り投げよう。

 

 

 

そうして10分もすれば次の授業の開始を告げるチャイムが鳴る。耳に届いた範囲だと和やかな雰囲気ではなかったがまぁ好きにやっててくれ。

 

「それでは3時限目の授業を始める」

 

と、教壇に立ったのは山田先生ではなく織斑先生。重要な話をするのか、山田先生もノートとペンを持って期待の眼差しを向けている。

 

「……だがその前にクラス代表を決めようと思う。クラス代表とは、簡単に言えばクラス長のようなものだ。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

クラス長、学級委員長みたいなもんか。俺はやる気ないし誰か勝手にやっておいてくれ。俺はそんなことよりもこの世界から出る方法を調べるのが優先なんだ。

と、興味がないからといってボケっとしていたら他薦の声が上がる上がる。それも、織斑一夏か俺か、どちらか一方をクラス代表に推薦する声だけだ。お前ら単に物珍しさで投票してるんじゃないだろうな。いや、確実にそうだろうな……。

 

この流れでリサまで俺をクラス代表に推すんじゃなかろうかと思ったが流石に俺がやりたくないことは察しているらしい。そちらに視線を向ければそれはしないと瞬きで返ってきた。良かった良かった。

 

「他にはいないか?……今のところ織斑と神代が同数だが───」

 

「───納得いきませんわ!!」

 

キンキンとよく通る声に俺と織斑一夏が振り向けば、さっきのオルコットが勢い良く席を立ち上がった。そして再び口を開けば自分が立候補するはともかく、極東の猿がどうだの男がどうだのと、口汚く俺達を罵る。そしてそれにカチンときたのか、織斑一夏も立ち上がり舌戦を繰り広げ始める。そしてついに───

 

「───決闘ですわ!!」

 

「いいぜ、四の五の言うより分かりやすい」

 

「そこの貴方も!分かりましたね!?」

 

……え、俺も?口喧嘩してたのお前らじゃん。面倒くせぇな本当。けどま……

 

「……売られた喧嘩は買わなきゃ強襲科の名折れだからな。いいよ、その喧嘩買った」

 

ちなみにオルコットが決闘とか言い出した辺りで本当は決闘罪になって俺達全員前科者になるのだが、現在進行形で銃刀法違反を犯している俺は何も言えないのであった。ていうか決闘罪なら武偵校でもやっちまってる。何も言われたことないけど。

 

「それで、ハンデはどのくらい付ける?」

 

と、織斑一夏がやけに自信満々にそんな情けないことを言い出した。……いや、コイツもしかして男と女が戦うのだから男側にハンデを与えるつもりじゃあないだろうな。

 

「あら、もうハンデの相談ですの?」

 

オルコットもやはり自分がハンデを背負う側だと確信しているようだ。

 

「……織斑、素手の喧嘩ならともかく、ISでの戦闘なら腕力の違いはあんまり意味ねぇぞ」

 

あまりにあんまりな発言に俺も思わず口を挟んでしまった。ISにはパワーアシストなんて機能があるから腕力差よりも機体の性能差の方が大きい。その上、アイツは代表候補生とか言っていたからな。確実に自分用に調整された専用機を持っている。そして俺達、というか特に織斑一夏はISに触れてから日が浅い上に訓練もまともにしていないだろう。だが代表候補生なら下手したらもう何年も訓練を積んでいるはずだ。そんなの相手にハンデとかアホだろコイツ。

 

「そ、そうだよ。流石にそれは代表候補生を舐め過ぎだよ」

 

と、織斑一夏のあまりに残念な発言に他の女子からもハンデはちょっと……というような声が挙がる。

 

「そもそも、俺達は喧嘩売られた側で、その上向こうの土俵でやってやるんだ。充分ハンデ付けてやってると思うけどな」

 

「え、お、おう……なら、ハンデはいい」

 

「でしょうね。むしろ、コチラがどれだけのハンデを与えて差し上げれば平等になるのか迷うところですわ」

 

コチラとしても言い返す言葉は無い。オルコットの言う通りだからな。ISの操縦に関しては向こうに一日の長がある。格下なのはむしろこっちなんだ。

 

「……では決まりだな。1週間後の月曜、放課後に第3アリーナで行う」

 

で、この騒ぎを普通に瞑目して聞いていた織斑先生が口を開いた。

この世界には決闘罪は無いのだろうか。あったら他のクラス連中はともかく、教師が承認するのは普通に駄目だろう。武偵校じゃねぇんだぞここ。

 

という言葉が喉まで出かかったが、俺の脇のホルスターに仕舞われている拳銃の重みがそれを抑え込んだ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

昼休みはリサを連れて人気の無い所へと逃げ果せた。イ・ウーや武偵校で培った技術がこんな所で役に立つとは思わなんだ。俺はリサと2人でゆっくり落ち着いて昼飯を食って午後の授業へと臨むことができた。

 

そんな風にして俺のIS学園での初日は放課後を迎えていた。だが俺達の教室の周りには学校中から集まったのか女子連中が大勢屯している。動物園の檻に入れられた動物達はこんな感覚だったのだろうか。元の世界に帰ったら解放運動でもしようかな……。

 

で、俺の目の前には俺よりもさらにグロッキーな男が1人。織斑一夏だ。

コイツは俺と同じように好奇の視線に晒された挙句、授業内容もさっぱり分からないときた。そりゃあ疲れただろうよ。

 

「……なぁ」

 

すると、遂に俺の方を振り返った織斑一夏は今日ここにきてようやく俺と初めて会話を交わす。

これまでは休み時間の度に俺がリサの元へと逃げていたからな。まぁ今も俺の隣で帰り支度をしているけれど。

 

「んー?」

 

「えと、俺は織斑一夏。君は……」

 

「神代天人。神の依代に天の人と書いて神代天人。仰々しいだろ?」

 

「それは漢字の例えが悪いんじゃないか……?あぁいや、それはともかく、なぁ……今日の授業内容付いてこれたか?」

 

「そりゃまぁな。一応教本読み込んだし。何より織斑先生も言ってたろ。ISは兵器なんだ。それを扱うのに勉強し過ぎなんてことはねぇだろ」

 

「でもさぁ、専門用語だらけだし辞書は無いしさ。ぶっちゃけ厳しくないか?」

 

「……それで怪我するのはお前じゃなくて周りの奴なんだぞ」

 

「うぐっ……それはそうなんだけどさ。もっとこう、授業にも手心というか……」

 

「本を捨てたのは織斑、お前だろ?……どんなお題目を並べてもISは人を殺すための道具だ。そしてここはその扱いを学ぶ学園。その自覚が足りてねぇんじゃないのか?」

 

「人を殺すためなんて……。世界大会とかだって開かれてるんだぞ?兵器ってのは分かるけど、そんな悪く言う必要ないんじゃないか?」

 

「作成者の意図は知らねぇけどな。現実に今、ISは国防の要として扱われてる。けど軍縮の時代にいきなり新しい兵器に税金を注ぎ込みますなんて、国民が納得すると思うか?」

 

「む……」

 

「世界大会も、代表候補生なんてものも、全部税金を使うための方便だよ。まるでISを新しいスポーツか何かみたいに祭り上げてさ。オリンピックみたいなもんなら票も得やすいからな」

 

織斑一夏にとって、ISは最愛の姉、織斑千冬が世界大会で優勝したものなのだ。そして織斑達と篠ノ之姉妹は昔から交流があったと篠ノ之束から聞いている。そんなコイツにとってISのイメージはそれなり以上に良いものなのだろう。だからそれを貶めるような言い方は気に食わない、そんなとこか。

 

「あ、織斑くん、まだ教室にいたんですね。良かったです」

 

織斑一夏が何かを言いかけたが、言葉となる前に山田先生が夕暮れの教室へと入ってきた。何かと思えば織斑の寮の部屋が決まったのだとか。元々は1週間くらいは自宅から通学の予定だったらしいが、学園内でも既にこの騒ぎだ。外に出たらどんな目に遭うか知れたものじゃない。学園側も相当に急いだのだろう。

ちなみに俺はリサと同室を譲らなかった為に逆にすんなりと決まった。2人部屋を1つ空ければ良いだけだからな。

 

「じゃあ俺は帰るよ。織斑、お前もISがどんなもんか、もう1回考えた方が良いぞ」

 

「あぁ、分かったよ」

 

「じゃ、また明日」

 

「また明日。あぁそれと……」

 

「あん?」

 

「一夏でいいぜ。織斑だと千冬姉と被るだろ」

 

「あいよ。じゃあな、一夏」

 

「あぁ。また明日」

 

俺はリサを促して教室を出る。俺には物珍しさが込められた、俺と一緒にいるリサには羨望ややっかみの込められた視線がそれぞれ向けられる。

俺達はそれを丸っと無視して、遺恨と禍根と諍いの種を残した教室を後にしたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

それから1週間後、遂にクラス代表を決める決闘の日がやってきた。

その間に一夏も専用機が送られることが確定したり、俺は1人でアリーナを借りて訓練をしたり。そんな風に時間を過ごしたのだ。

そして第1試合、織斑一夏とセシリア・オルコットの試合が終わった。試合そのものを見ることは叶わなかったが結果はどうやらオルコットが勝ったようだ。これで次に俺とやるのはオルコット。

オルコットと一夏の戦いで機体に損傷があったらどうするのかと聞いたが、それは予備品やら何やらで修復するらしい。そして今は、その時間なんだとか。

 

「1時間くらいは掛かるかもしれませんが神代くんも準備を始めていてください」

 

「はい」

 

山田先生がピットに入ってきてそう説明する。ここ第3アリーナとこのピットは俺とリサが最初にIS学園に飛ばされた時の座標だったようだ。ここでの生活はそう不自由でもない。だがやはり、俺はどうしても自分がこの世界にとっての異物であるという感触が拭えないのだった。

 

 

──早く帰りたい──

 

 

逸る気持ちを押さえつけながら戦支度を整えていく。とは言っても、ISを扱う専用のスーツはもう着ているし、機体の調整だって済んでいるから、やることなんてそう無いのだけれど。

 

しかし、そうこうしているうちにオルコット側の準備も整ったようだった。アリーナに出ろと織斑先生からの放送がピットに入る。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「はい、天人様。お気を付けて」

 

リサは目を閉じ、その唇を差し出す。俺もそれに応え、その唇にキスを1つ落とす。触れるだけの軽いキス。いつもの儀式みたいなもんだ。

だがどうやら山田先生には刺激が強かったらしく、顔を手で覆って、しかしそれでも赤くなっているのが隠せていない。

 

「……来い、鎧牙(かいが)───」

 

俺はリサの唇から俺のそれを離す。そして数歩下がり、自分のISの名前を呼ぶ。そして───

 

───カッ!

 

と、俺は光の奔流に呑み込まれる。だがそれも一瞬。次の瞬間には光は収まり───

 

 

「モーイ!とても格好良いです」

 

 

俺は濃淡入り交じった灰色、コンクリートのような色の都市迷彩柄の鎧を纏っていた。

 

これが俺のIS──鎧牙──

 

ISにより戦闘能力を上げるのではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()IS。

 

「用意はいいか?」

 

放送で、織斑先生の声が響く。俺はそれに一言"はい"とだけ返した。

 

「宜しい。では出ろ」

 

簡潔な織斑先生の指示に従い、俺はピット内の所定の位置に着く。

 

「神代天人、出ます」

 

そう宣言し、背中のスラスターを吹かす。そうすれば一瞬でピット中の殺風景な景色は流れ、俺は戦場へと飛び出した。

 

 

 

そして俺がピットからアリーナへ飛び立つとそこには既にその身にISを纏ったオルコットが構えていた。

 

──ISの情報は開示しなくてはならない──

 

もちろんIS学園内部で得られた戦闘データなどの情報の開示義務はないがオルコットは元々代表候補生。奴が纏っているISの情報もある程度は閲覧することが出来た。それによれば奴のIS、ブルー・ティアーズはガチガチの中・遠距離狙撃型。最大の特徴は6基のビットと呼ばれる遠隔操作式砲塔で、これらを自在に操り1機で局面を制圧することが出来るのだそうだ。あの時教室では言わなかったが、俺達に与えられたハンデはこっちの方が大きい。一夏のもそうだし俺の鎧牙(IS)も篠ノ之束が作ったもので、コアの登録もまだされていない。つまり外に情報が漏れていないのだ。俺達は一方的にオルコットのISの情報を仕入れられるが向こうにはそれが出来ない。この情報アドバンテージは大きい。

 

そして、一夏とオルコットの試合は公平性のため観覧することができなかったけど、多分ブルー・ティアーズの背中に浮いている羽のようなものがそのビットなのだろう。そして右手には大型のライフル。しかもこのブルー・ティアーズ、ビット4基とあのライフルはビームを放てるらしい。で、残り2基は小型の誘導ミサイルというのが公開情報だった。

 

しかし本当に厳格な開示義務があるんだな……。ここまで自国の兵器の性能を晒さなきゃいけないとは……。しかし、そもそも俺にはビーム兵器に対する戦闘経験が無い。多少篠ノ之束の元にいた時にシュミレーターでやったくらいだが、実際に受けたことは無いから、これが初体験になる。

というか、俺にはISによるISとの戦闘経験が皆無だ。鎧牙の受け渡しの際にISの動き方などは一通り教わったがその程度。後はアリーナで適当に演習をしてたくらいだ。そこに加えて向こうは訓練とは言え戦闘経験もあるだろうし、さてどうするか……。

 

 

「ふん、来ましたのね」

 

「はっ、売られた喧嘩は買う主義なんでな」

 

「言ってなさい。もう男だからといって油断はしませんわ。まぁあ?もし降参なさるというのであれば、許してあげなくもありませんが?」

 

許す?お前に俺が何の許しを乞うというのだろう。

 

「そりゃこっちの台詞だ。赤っ恥かきたくなきゃ降参をオススメするぜ」

 

売り言葉に買い言葉。お互いの舌戦が始まりかけたところで───

 

──ビーッ!──

 

試合開始のブザーがなる。その瞬間にオルコットは右手のビームライフルことスターライトmkIIIをぶっ放つ。

それを左側、相手の右手側に回避しさらにオルコットの銃が外に向くように回り込む。当然向こうも腕だけでなく身体全体でこちらを追随する。しかもその間もビームの連射は止むことがない。言うだけあってさすがの精度だが、やはりというか当たり前というか、レキの狙撃ほどの鋭さは無いな。

 

「油断はしないと、言ったでしょう!」

 

射撃の連撃の一瞬の間と共に展開される4基のビット、なんとこれもブルー・ティアーズと言うらしい。ややこしい機体だ。そして4基のビットが三次元的に動き回り俺をビームの檻で囲むように射撃を行う。そしてその合間にはオルコットのビームライフルからの狙撃。

 

 

「踊りなさい!このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

 

雨あられと降り注ぐ光槍を紙一重で躱し続ける。

最初の数発で分かったが、異世界のビームと言えど基本的に直進しかしないらしい。その上──どのみち障害物の無い砂地のアリーナでは起こり得ないが──実弾と違って跳弾も無い。こちらも銃弾撃ち(ビリヤード)──昔イ・ウーでカナが見せてくれた銃弾を銃弾で弾いて逸らす技だ──で返せないが、特別何か防ぐ手立てを考える必要も無いようだ。その上実弾よりは速いがそれでも光速と言うには余りに速度も遅く、ほぼ鉛玉と同じ対処方法で構わないようだった。

そうと分かれば避けるのは容易い。いくらビットが自由自在に動こうが所詮銃口は5つ。これ以上の銃口に囲まれたこともあるし、あの粒子の野郎の攻撃に比べれば断然温い。とにかく囲まれないことを意識しながら立ち回れば回避し続けるのは問題ない。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「神代くん、凄いですね……。初のIS戦闘とは思えないくらいです……」

 

「言うだけはあった、ということだろう。確かに撃たれ慣れているな。銃に対する避け方としては教科書通りだ」

 

管制室で行われる会話。真耶と千冬が眺める窓の外では天人とセシリアが戦闘を繰り広げていた。状況は硬直気味。天人がひたすらセシリアの射撃を交わし続けて数分が経っていた。

 

「天人……なんであんな簡単そうに避けられるんだ」

 

その他にこの戦闘を観ていた2人。一夏と箒であった。彼らは千冬から「この戦いは見ておけ」と言われて管制室へと招かれたのだったが、自分が苦労した5つの銃口からの正確無比な連続射撃をこうもあっさりと躱し続けているように見える天人に対し、感嘆しか出てこない様子であった。

 

「神代は避け方を知っているからだ。それは、何度も撃たれて身に付けたものだろう」

 

「それは訓練とかで……ってこと、ですか?」

 

「いいや、奴のあの避け方は訓練だけでは身に付かん。実戦だ」

 

「でも神代のISは姉さんが新たに作ったものだと……」

 

「あぁそうだ。だからシュミレーションはともかく、こうしたIS同士での戦闘経験は無いはずだ。だから奴のそれは、違う場所で違う方法で培ったものだ」

 

「違う場所って、もしかして、戦争、とか……」

 

「そこから先は本人にでも聞くんだな。私も詳しくは知らん」

 

「は、はぁ……」

 

(天人、お前……、いったい何を背負ってるんだ……)

 

神代天人は異世界から来た人間で、そこでは武偵という存在が警察と共に凶悪犯などを取り締まっている。さらに神代天人はその中でも直接犯罪者を強襲し、取り締まったり違法組織に乗り込んだりする武闘派であったらしい。などという説明を一夏や箒にしても理解されないだろうと、説明を省いた千冬であったが、それにより一夏達に余計な誤解を与えてしまったかもしれないと、思うのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

(くっ、当たらない……。どうしてこんな……)

 

その頃、セシリアは焦っていた。今だビームビットは4基全て健在。ライフルも無傷だ。けれども、撃てども撃てども当たらない。カスリもしない。上手く包囲網の中に誘導したと思ったら直前ですり抜けられてしまう。戦闘が始まって既に10分近くが経とうとしていた。なのにただの1度もビームが天人の機体を掠めることすらしなかった。しかも向こうは一切無言。これが効いていた。先の戦いでの一夏は、意味のある単語でなくとも何かしら声を上げることが多かった。気合いの声や苦悶の声、種類には様々あったが天人にはそれらしいものが一言たりともない。それが回避に専念しているからなのか、それともいつでも攻撃に転じられる余裕があるのかすら分からない。それにセシリアは焦らされていた。

 

「逃げてばかりで!」

 

そしてついに堪えきれなくなり、虎の子を解き放つ。

数えるのも億劫になるくらいの回数包囲網を抜かれた。その瞬間に腰に装備されたブルー・ティアーズ、そのミサイルビットから小型の誘導ミサイルを発射する。腰部から放たれたそれは一直線に天人へと向かう。そして彼の纏うその鎧を撃ち砕くために火を噴く。だが天人は焦らない。少なくともセシリアからは焦っているようには見えず、誘導弾の特性を上手く利用しお互いを衝突させミサイルの無効化に成功した。そしてその右手には十文字に刃の付いた巨大なメイスが一振り。

遂に神代天人が隠していた牙を剝く。

 

 

 

───────────────

 

 

 

どうやらオルコットという人間は一々顔に出る女らしい。ビットとライフルでの誘導からすり抜けてみたり射撃を躱してみたり、色々回避はしてきたがその度に驚きや悔しさやらが顔に出ている。顔に出やすいアリアでさえも戦闘中はもう少し表情がフラットだ。

というか、油断はしないとか言っておいて実はかなり見くびられていたんじゃないか?でなきゃここまで顔に出ないだろ。しかも焦れたのか、残り2基のミサイルまで使ってくれた。正直ミサイルがどこから飛んでくるか分からなかったから、この情報アドバンテージは大きい。多分、決めるならここだろう。

そう決めた俺はまずは十文字に刃の付いた大型メイスを呼び出す。コイツの射撃はそれぞれそれなりに正確だしビットが三次元的に動き回るから回避にはそこそこ程度には気を遣わなくてはならないのだが、それでもビットの操作と自分自身の移動やライフルでの狙撃を同時に行えないことはもう分かっている。それに、ビットも基本的に俺の死角に回り込むようにばかり操作するからだいたいどこにあるかは分かるのだ。それに、ISには死角はない。ただ単に人間が元々の視界の外に意識を向けることが苦手なだけであって、そっちのカメラを見ようと思えば見られるのだ。だからビットの誘導も容易い。

そうして背面に誘導したビットの、その射撃を回転して躱し、真っ直ぐ加速、すれ違いざまにメイスを叩きつけ、ビットの1基をアリーナ壁面のシールドエネルギーに叩きつけて破壊。すぐさま上空に離脱しオルコットのライフル狙撃を回避。急降下からさらにもう1基のビットをメイスで地面に叩き落とす。さらに3基目のビットに向かって急加速、メイスを突き刺して叩き潰した。

そしてラスト1基、これは逃げ回るビットをひたすら追い回して遂にメイスで粉砕。これで衛星的に動き回りオルコットを守る邪魔物は消えた。

 

「クッ……」

 

苦虫を噛み潰したような顔のオルコットだが、まだライフルとミサイルビットは残されているからか、諦めの表情は見られない。

 

「フッ……」

 

背部スラスターからエネルギーを放出。それを推進力に変える前に貯めて、再びスラスターに吸収、爆発的なエネルギーを得て瞬間的に莫大な加速力を獲得し──瞬時加速という技術らしい──その加速でもってオルコットに急接近。メイスを突き込みそのままの勢いでアリーナのバリアーへ叩きつける。

 

「ゴッ──!?」

 

もちろんこれだけではシールドエネルギーは削り切れない。だから俺はそのままバリアーにオルコットを押し付けながら引きずり回す。バチバチと背中から火花を上げさせながらシールドエネルギーを削っていく。

 

「くっ……この……っ!」

 

それでもまだオルコットは諦めておらず、ミサイルをゼロ距離からぶっ放そうとする。案外大胆な奴だな……。

それをやられるのは適わないので20メートル程引きずった辺りで力任せにオルコットを投げ飛ばす。強かに地面に打ち付けられ、それでも浮き上がろうとするオルコットの背中に、俺は上空からの位置エネルギーと運動エネルギーマシマシのメイスを振り下ろす。

 

再び叩きつけられたオルコットを今度はメイスで打ち上げる。

 

砂埃も同時に舞い上がるがISの視界には関係無い。オルコットは俺の視界に捉え続けている。

 

もう一度メイスを振るい、アリーナ外壁のバリアーにオルコットを叩きつけ、更にトドメとばかりにメイスを腹に突き刺したその瞬間、オルコットのISのシールドエネルギーがゼロになったことを告げるブザーがアリーナに鳴り響いた。

 

 

俺の初陣であり、クラス代表決定戦トーナメントは神代天人の優勝で幕を下ろした。

 

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