あの後には下着だけじゃなくて、余った金で寝間着も買ってきたエンディミラ達を連れて、俺は再び自分の家へと帰ってきた。外から見て部屋に電気が付いていなかったから分かっていたけど、まだリサ達はアメリカから帰ってきていなかった。
「そういや、ちょっと聞いていいか?」
と、無人の我が家に戻った俺は電気のスイッチを入れ、灯りを取り戻したリビングに置いてある4人掛けのソファーに腰を下ろしながらエンディミラを見やる。なんか立ったまま喋りだしそうだったのでつい、と顎で指して座っていいよと示してやりながら。
「奴隷に聞いてはならないことなどありません。お気になさらずにどんなことでも」
すると、別にこっちに来なくても1人掛けの方でいいのに態々俺の真横に腰掛けたエンディミラとその横に順繰りに座ったテテティとレテティ。
「だから……いや、まぁいいや。皆ん前でそれ言わなきゃいいよ。……んで、エンディミラ、お前はなんでNに入った?」
イタリアはコロッセオで戦ったグランデュカは、Nのことそのものは何も話してくれなかったのだが、自分のことは割と話してくれた。だからエンディミラにも聞けば何か答えてくれるかなと思って少し気になっていたのだ。このやたらと知識の偏っているエルフがどこから来て、何故Nなんて所にいたのか。
「私は……故郷を追われてNに辿り着きました」
すると、エンディミラは案外容易く喋り出す。
「で、拾われた恩に報いるためにNの活動を手伝っていた、ってことか」
しかし故郷を追われた……か。穏やかな話じゃないな。コイツの国は内戦でもしてたのか……?いやまぁ出身地なんて羅針盤で調べれば直ぐなんだろうけど、聞いて済むならその方が楽だし。
「そうか……。気ぃ悪くしたなら謝るよ」
故郷を追われたっていう話で俺はシアやティオのことを思い出さざるを得ない。透華達も地元じゃろくな扱いじゃなかったし、どうしても俺はこの手の話題は苦手なんだよな。
「いえ、奴隷にそのような気遣いは無用ですので」
「そうけ……。んじゃ、エンディミラ達ってどこ出身なの?」
「私の故郷の森はノルザンガルナの南1日、西2日にありました。テテティとレテティの郷里は正確には分かりませんが、レクテンドの蛮地のどこかです」
ノルザ……レクテンド?どこだそこ。聞いたことねぇぞ。これはきっと俺の頭が悪いからとかではないはずだ。となると……
「───それは、この世界か?」
「いいえ……別の世界です。こことは別の……」
やはりか……やっぱりエンディミラ達はこの世界の人間……っていうかエルフか。この世界出身のエルフって何?って気もするけど。ともかくこの世界の出身ではない。ま、俺にとっちゃそんなの今更って感じだけど。
「ふぅん。じゃあ……エンディミラとテテティ、レテティはどこで?聞く限りお前らの出身は結構離れてそうなもんだけど」
「私とこの2人はそれぞれ流浪していたところで出会い、決闘に私が勝ったために私の奴隷となったのです」
ということはテテティ、レテティの2人よりもエンディミラの方が強いのか。
「へぇ……あ、忘れてた。これ返すよ」
と、決闘で思い出した俺は宝物庫から
「本当にいいのですか?」
「だから言ってんだろ?お前らが武装しても俺達ゃ怖くねぇんだ」
まぁ本当は渡しちゃうと銃刀法違反だから駄目なんだけど……コイツらは見せびらかす奴らじゃないから別にいいよね。
「んで、お前らは何でまた彷徨うなんてことになったんだ?」
俺がテーブルに置いたモーゼルを素人丸出しの持ち方で手元に寄せたエンディミラは少し目を伏せ、そしてまた俺の方を見て話し出した。
「私の故郷の森は焼かれたのです……。竜の魔女・ラスプーチナという者に……」
故郷を焼かれた。それはやはりどうしてもフェアベルゲンを追われたシア。それに、どの種族よりも高潔で誇り高いと言われていた竜人族が、エヒトにより周りと認識を狂わされて里を追われ、世界の果てに身を隠さざるを得なくなったティオを思い起こさせる。
「テテティとレテティの郷里もまたラスプーチナに焼かれたようです。彼女達はその時に随分とショックな光景を見たようで、そこから言葉を発せなくなったとのことです。……一時は復讐も考えましたが、どうやら魔女は死んだようです」
森を……故郷を焼かれ彷徨う果てにNに拾われたエンディミラとテテティ、レテティ。どうやってコイツらが別の世界であるこっちにやって来たのかは知らない。多分、この世界にも聖痕に依らずに別の世界へと渡る手段はあったのだろう。それを俺が知らなかっただけで。その手段をNは持っているのか、それとも偶発的に開く扉があって、たまたまエンディミラ達は迷い込んだだけなのか。
「悪いな……嫌なこと思い出させちまった」
「いえ……奴隷の身分にそのような気遣いは無用です」
あくまでも自分を奴隷扱いするエンディミラに俺は嘆息するしかない。けどま、何となくコイツらの考え方は分かってきた気がする。貨幣経済ではなく血筋による信用、それが無い者達には決闘で決まる勝敗による支配関係。それがコイツらの対人関係の基本なのだろう。まぁ分かり易いと言えば分かり易い。
「ん、ありがとな、色々話してくれて。取り敢えず俺は寝る。布団は……予備あったかなぁ……」
て言うか俺、そういうのが何処に仕舞ってあるのかよく知らねぇな。家事とか全部丸投げしてるからなぁ……。
ガサガサとリサの部屋を漁ってみるのだがそれらしきものは見当たらない。て言うか、もしかしたらジャンヌの分で使い切ってるのか……。んー、仕方ないし取り敢えずはリサ達のベッドでも借りるか、もしくは俺のベッドを貸して俺が誰かの布団に入るか、かな。多分それが1番波風立たない気がする。アイツらいつ帰ってくんのか知らねぇけど。
「んー、俺のベッドとリサ達の誰かのベッド、どっちがいい?」
「マスターと奥様方のベッド、ですか……」
と、エンディミラは何やら顎に指を当てて上を見ながら考えている。男の使ってる布団に入りたいとは思わねぇだろうけど、俺とリサ達の関係を知っているエンディミラからすれば女子連中の布団もそれなりに入り辛いのかもな。
「もし宜しければ、奥様方のベッドで……」
やはり男の布団には入りたくはないよな。
「うい。じゃあリサのでいっか。そっちの部屋で寝ていいから。あ、シャワーだけ浴びとけ。また少し動いたしな」
一旦風呂に入って身体洗いはしたけどその後飯食いに行って買い物もしたからな。一応俺もシャワー浴びて軽く流したいし。
ついでに俺はハサミを取ってきて「買ってきた服のタグはこれで切っといて。ゴミはそっち」と持ってきたハサミをテーブルに置いてさっさと浴室へと向かう。今回はちゃんと寝間着も持って、だ。
んで、俺はシャワーを浴びて布団に潜り、エンディミラ達もどうやら湯浴みを済ませて部屋に入ったのを音で確認して瞼を降ろした……
ところで───
───カタカタカタ……ガタガタガタ……
と、部屋が小刻みに揺れだした。どうやら地震みたいだな。震度は4くらいか?ただこの部屋は上階……って程でもないけど1階でもないから少し大きく感じるな。すると───
───ドタドタドタッ!
と、テテティとレテティがバタバタ右往左往して走り回っている音が聞こえてくる。流石に夜も更けたこの時間に部屋を走り回られるのは近所迷惑なのでエンディミラ達がいるはずのリサの部屋に入ると
「……大丈夫か?」
エンディミラが布団を頭から被って丸まっていた。俺はテテティとレテティを捕まえて大人しくさせてからエンディミラの被っている布団を剥いでみる。すると、エンディミラは頭を両手で抑えてエルフ特有の長い耳もペターンと倒していた。あ、それそうやって動くのね……。
「うう……」
と、どうやら地震慣れしていないらしいエンディミラが涙目で俺を見上げていた。俺は子供の頃に両親と日本に来た時にも多少の地震は経験したけど、イ・ウーを抜けた直後はリサも怖がってたな。船に揺られるのは慣れてるけど地面が揺れるってのは慣れてないと怖いもんらしい。
「あの、マスター……」
「……んー?」
エンディミラの庇護欲を唆られる表情に思わず言葉に詰まるがそれを顔には出さないようにしつつ地震を怖がってるっぽいエンディミラと目線を合わせてやる。
「申し訳ございません……できれば同じ布団で……」
あー……そういうやつか。まぁエンディミラ的には特に深い意味はなくてただ単に怖いから俺にいてほしいってだけなんだろうけど、そういうの危ねぇだろ……。
「奴隷の身分で差し出がましいこととは分かっていますが……」
「いいよ、気にすんな。リサも昔地震が怖いっつって同じ布団で寝たことあるし」
俺がリサの昔の話を思い出すと何やらエンディミラは少しムッとしたような顔を、一瞬だけして、直ぐに仕舞った。ま、テテティとレテティも地震が怖くて一緒に寝る気みたいだし、変なことにはならんだろ。
だがいくらその気がお互いに無くても、別の女とリサの布団で寝るのははばかられたので俺の部屋で4人集まって寝ることに。……流石に狭いな。て言うか、エンディミラが俺の右腕を取って身体を寄せてくるから右半身がとっても幸せなことになっている……と思ってたらテテティレテティもぎゅうぎゅうと寄せてくるしコイツらも身体の育ちだけは良いから柔らかさの暴力でしょこれ。
けどこっちだったトータスじゃユエとかシアとかに囲まれて寝てたんだ。このくらい、耐えて無事に寝てみせるぜ。
───────────────
「ご主人様、そろそろ起きてください。もうすぐお昼になってしまいます」
と、鈴の音を転がしたような愛らしい声に俺の瞼が持ち上がる。すると視界に入ってきたのは愛おしいリサの顔。服は私服で、いつもの防弾メイドセーラー服ではない。どうやらアメリカから帰ってきたみたいだ。
「おはよ、リサ。大丈夫だったか?」
「はい。特にトラブルもなく無事に全員帰ってこれました。ところで、その……」
と、どうやら無事に全員帰ってこれたみたいで良かった。確かに気配感知の固有魔法ではミュウ達もいる。エンディミラやテテティ、レテティの気配もある。ドタバタと音も聞こえてくるからミュウと遊んでいるんだろう。てことは珍しく歯切れの悪いリサの言いたいことはこれかな。
「あぁ……エンディミラ達のことか?」
「はい。ネモ様の元へは……」
「返そうとは思ってんだけどな。アイツも多分逃げられただろうし、様子だけ確認して大丈夫そうならとは思ってんだけどね……」
「何か問題でも?」
「エンディミラ的には俺達はNの敵らしい。んで、その敵の手に落ちたのだから自分を奴隷にしろとか言い出してな。ネモんとこに返すって言っても聞かないし。取引に使われるくらいなら自殺するとか言うし……」
改めて思い返せば捕虜なのになんて態度のデカさだ。扱い辛いにも程がある。
「んで、取り敢えず後でこっそりネモに連絡入れて、返せそうなら無理矢理投げ返す。後はまぁネモがどうにかすんだろ」
エンディミラ達は向こうでも特に酷い扱いを受けているわけじゃなさそうだし、ネモの元へ返しても問題はあるまい。ネモ達テロリストだけど……。
「なるほど、ではご主人様はエンディミラ様には指1本触れていないと」
……ん?なんだなんだ、リサの雰囲気が変わったぞ。て言うか笑顔が怖いよ怖い。目だけ笑ってないんだけど、どうしたのさ。
「あぁ、まぁそうだな」
全く完璧に接触が無いといえば嘘にはなるんだろうが、あの言い回しだとそういう意味ではなさそうだし、そっちの意味合いでは俺は確かに触れていないのだからセーフだろう。
「なのに同じお布団では寝られたのですね」
「え……いや何で知って───」
あれ、これ俺もしかして墓穴掘った?
「全て、エンディミラ様がお話してくれました。昨夜、4人が帰ってきてから何をしたのか、存分に……仔細に語ってくださいましたから」
「待て待て待ってくれ。仔細にってんなら聞いただろ?昨日はこっちは少し大き目の地震があって───」
だから俺はエンディミラにはそういう意味では何もしていないのだと言おうとしたところ───
「はい、存じております」
「え、お、おう……」
なら良かった……のか?どうだろう、この流れで良いなんてこともなさそうなんだけど……。
「ご主人様が意外と女性にだらしがないのはもう皆様分かっていますから」
だらしなくはない、と言いたいけれど実際問題トータスから帰ってからこっち、ジャンヌを迎え入れ、メヌエットからは迫られ、向こうにもこっちにも恋愛感情は無さそうとは言えエンディミラをこうして連れて来ているという事実が俺から反論を奪ってしまう。そもそもトータスからもユエ達4人を──いくらミュウとの約束もあったとは言え──愛してしまったからと連れてきてしまったのだ。そんな俺に何を言うことができようか。いやまぁ全部俺自身が招いたことですけども。
「申し開きのしようもございません……」
と、確かに傍から見たらどう足掻いても異性にだらしがない俺は、ただただリサの前に項垂れるしかないのであった。
───────────────
リサに───まるで連行される犯人かのように連れられてリビングへと向かうと、そこには何やら頭を突き合わせてお話をしているユエとシアとエンディミラがいた。ティオはそれを傍から眺めてヤレヤレ……みたいな顔をしているし、ジャンヌに至ってはもはや我関せずでコーヒーを啜っている。
ミュウはテテティとレテティと絵を描いていてレミアはそれを眺めている。正直ちょっと人数が増えただけのいつも通りの光景がそこには広がっていた。つまりはまぁ、どこからも助け舟は出航されなさそうだった。
で、俺が起きてきたことに気付いたユエとシアがグルリ!と凄まじい勢いで俺の方を向き、エンディミラが恐縮そうに肩を窄めている。
「……天人」
「天人さん……」
「うす……」
2人の放つ威圧感に思わず俺はその場に正座。すると頭上から「ハァ……」と、それはそれは深ぁいため息が2つ発生していた。
「で、どうするのじゃ?」
と、傍から見物を決め込んでいたはずのティオが俺を見やり、スルりとエンディミラを見てそう聞いてくる。その目は言外に「作戦はバレてるぞ」と俺に告げているようだった。
「んー、どうするも何も……」
俺は、いつの間にか誰かが立ち上げていたデスクトップPCからスカイプのアプリを立ち上げ……もう既に立ち上がってるし、いつの間にやらティオからネモへとエンディミラ達をどうするのかっていう文言がフランス語のメッセージで送られてる。これもう俺に出来ることは何もないみたいですね。
「えぇ……」と俺がティオを見やればその瞬間にヒュボッとメッセージを受信した音が鳴る。……ネモからだ。なんだなんだ……
『エンディミラ達にはそちらで色々学ばせてやってくれ。彼女は頭が良い、きっと役に立つだろうから今回の護衛の報酬だと思ってくれ。それから、3人には「これまでの助力に感謝する。今までご苦労様だった」と伝えてくれるとありがたい』
という文面がフランス語で入っていた。
「えぇと、エンディミラ達が正式に……引き渡されました……」
正直ちょっと言葉は選んだ。流石に譲渡されましたは物扱いが過ぎるので……。でも加入ってのも変だし移籍も違うよなぁ……。
「あとエンディミラ、それからテテティとレテティにも「これまでの助力に感謝する。今までご苦労様だった」って、今ネモからきてた」
と、隠しててもしょうがないので俺はエンディミラ達に、ネモから解雇通知(?)が届いたことを正直に伝える。するとやはりエンディミラは少しショックを受けたような顔をしてから顔を伏せ……
「そうですか。いえ、敵の手に落ちたのですから当たり前のことです」
と、無理に明るい顔を作って見せていた。まぁ、上役から御役御免なんて伝えられたら誰だって辛いよな、特にエンディミラにとってはNは故郷を追われてようやく辿り着いた居場所なんだから。
「みゅ?エンディミラお姉ちゃんどうしたの?」
と、人の感情の機微に敏いミュウがエンディミラにサッと寄り添う。そして言葉は喋れなくとも俺達の話を何となく理解しているテテティとレテティも同じようにエンディミラに寄り添っていた。
「んー?エンディミラお姉ちゃんとテテティとレテティがしばらくこっちにいるって話だよ」
本当はしばらくどころじゃ済まない気がしてるけどそれはそれ。そこまで伝えればミュウは顔を輝かせて「テテティちゃんとレテティちゃんとももっと遊べるの!」と喜んでいた。んー、まぁそれでいいか。今のコイツらにはこういう明るさも必要だ。
「よいのですか、マスター」
「他に行くあてもねぇだろ?……取り敢えず寝泊まりはレミアの方でいい?」
俺はこのマンションの部屋を2つ借りている。こっちと、便宜上レミアとミュウの家としている隣の部屋だ。普通に行き来しているし皆それぞれその時々で思い思いの方で寝てたり飯は結局一緒に食ったりしているけどな。
「ありがとうございます」
と、レミアが頷くのを見てエンディミラが俺に頭を下げ、テテティとレテティもそれに続いた。んで、テテティ・レテティコンビとお泊まりできると把握したらしいミュウも喜んでいる。んー、一応これで全員納得の形になるのかな……?
「ん、気にすんな。取り敢えず飯食おうぜ。俺ぁ朝も食べてねぇんだけど」
「それは天人さんが寝坊してるからですぅ」
「……んっ、お昼まで我慢して」
「あの、バナナならありますよ……?」
と、シアとユエからは割とお冷たい視線を頂戴した俺は俺の腹が減っていることを見越して用意されたバナナをリサから手渡され、その皮を剥いていくのであった。
───────────────
皆で昼飯を食べ、お
「で、こういうことになったわけなんだけど、流石に食客を3人は抱らんねぇぞ」
で、何ができるの?と聞けば
「私は聡明です」
それ自分で言う?
「エルフの森でも学者の職にありました。事象を大局的に観察、理解してそれを王や将、提督といった立場の者に具申することができます」
なるほど、補佐官的なことができるのね。
「そりゃいい。今俺達ゃ商売をやっててな。名義上のトップは俺なんだけど……基本俺にそういう才能は無い。んで、新しいボス候補がいるんだが、それの補佐が欲しかったんだよ」
ちなみに俺はほぼ社長のお仕事はしていない。ていうか無理、細かいこと分からんし。なのでほぼリサと、最近はティオやレミアもこっちに慣れてきていて持ち前の地頭の良さを発揮してもらっている状態なのだ。だがそれも限界があるし、正直そういうことができる奴がいてくれるのは助かる。まぁ今交渉中の新社長候補に必要なのかどうかは知らんが、アイツもアイツで性格にやや難アリだからな。エンディミラみたいなのがいてくれれば良い方向に持ってけるだろう。
「私に、職をくださるのですか?」
「そりゃあな。テテティとレテティも食わせていかにゃならんのだし」
て言うかコイツらもいるならもう一部屋借りた方が良くないか……?つか、もう会社のオフィスから何からちゃんと用意した方がいいかもな。今は雇ってる経理とかの人達にもノートPC支給でお家で仕事をしてもらっているから、そういう仕事場みたいなの用意できてないんだよな。何せ俺が錬成で鉱石を加工できちゃうからそういうのほぼ要らないんだよね、残ってんの事務処理とかばかりだし、出向くことはあってもこっちに招いてプレゼンするとかも無かったし。
と、俺達は今後の方針をリサやティオ、ジャンヌを交えて話し合う。取り敢えずエンディミラの身分証はジャンヌと、あと理子にも金を積むしかなさそうだが。
んで、その日の夕方、俺達の元へ1本のテレビ通話が入ってきた。
「ご機嫌よう、天人」
「おう、そっちは朝か?」
掛けてきたのはメヌエット。イギリスと日本の時差は9時間程だから向こうは朝だろう。
「えぇ。そちらは夜ね。……相変わらずモテモテのようで」
と、一緒にカメラの範囲に入っていたリサ達を見て何やらメヌエットが嫌味のようなことを言ってくるがまぁそれはスルーでいいだろう。ほぼ挨拶みたいなもんだし。
「んで、考えてくれたか?」
「そうね。結論から言えば、やってあげてもいいですよ」
「本当か!?助かるよ!」
俺がメヌエットに頼んでいたこと、それは俺の興した会社の社長をやってくれないかという依頼だ。俺は武偵だからあまりこういう場には名前を出しておきたくはないし何より器じゃない。能力も無いしな。リサやティオ、レミアも社長ってのは難しいだろう。リサには外向けの交渉事に力を発揮してもらいたいし。しかもティオとレミアは根本からして公文書偽装でこの世界に居座っているのだからあまり表に出るのは宜しくないだろうし。
そこで俺の知るこの世界産まれの人類……かつ俺が信頼を置ける人物の中で1番頭の良い人物に声を掛けていたのだ。それがメヌエット。コイツの頭の良さなら社長としてやってくれるだろうという期待の元──但しコイツも貴族の立場があるので半分ダメ元だったが──頼んでいたのだが、どうやらやってくれるようだ。
「貴方にはこの脚をくれた恩もありますし。今度またこちらに来てくださいな。私、遂に杖も無しで歩けるようになったのですよ」
「おぉ!やったな、メヌエット」
「えぇ。それで、肝心の件ですけれど、少し条件があります」
メヌエットからの報告は喜ばしいものだったし、メヌエットももう少しそのことについて話すのかと思ったけど、直ぐに話は元に戻される。
「んー?どんな?」
条件と聞いてリサも綻ばせていた顔を真面目モードに切り替える。
「いえ、大したことではありません。ただ、顧客のターゲット層をイギリスの王室や貴族……その他富裕層に軸足を置く、という方針を受け入れてくれるなら、というだけですから。武偵業の方は、貴方が考えている通りに進めば問題無いでしょうし」
ふむ……俺としてはそれに特に思うところはない。何せこの会社作ったのも、悪く言っちゃえばただ単に金儲けのためであるからして、別に社会貢献とか特に考えていないのだ。いや、建前は別としてね。だからぶっちゃけ今抱えている案件だけ終わらせて軸足をイギリスに移すこと自体は別に構わないと俺は思っている。まぁ、これは完全に素人考えなんだけども。
「リサ的にはどうだ?」
なのでその辺色々考えられるリサに話を振る。
「はい……今すぐではなく徐々にということでしたら問題ないかと」
なるほどな。メヌエットはイギリス人だし貴族だから王室や他の貴族との繋がりもあるのだろう。もちろん、貴族階級ではない金持ちとのパイプもあるはずだ。んで、メヌエット的にはそういう奴らをターゲットに絞りたいんだろう。
「ってわけだ。こっちはそれで大丈夫だよ」
と、画面越しに俺はメヌエットにそう伝える。
「分かりました。それでは引き受けましょう。もっとも、義務教育を終えてからになりますが」
「あぁ、分かってるよ。それでも俺ぁお前がいい」
俺はコイツより頭の良い人間を後はシャーロックくらいしか知らん。もしかしたらモリアーティはもっと頭が良いのかもしれないけど、どっちも個人的に信用ならないし、ネモには当然そんなこと頼めるわけもないし。
「あ……全く……天人はこれだから……」
と、何やらメヌエットが顔を赤くしている。リサやユエ達からの目線も冷たいし、どうやら俺は言葉を少し間違えたようだ。
「マスターはこんなに小さな子を働かせるつもりなのですか?」
と、ふとエンディミラが画面の中に映り込む。
「……天人、その女は誰ですか?」
すると突然メヌエットの顔が不機嫌そうになる。いやまぁいきなり出てきて小さいとか言われたらメヌエット的には怒るか。
「あぁ、コイツはエンディミラって言ってな。多分これからも会社の方を手伝ってもらうと思うから。できれば仲良くしてやってほしい」
とまぁ俺が正直に伝えたところそれでもメヌエットは不機嫌そうな顔を隠そうともしていない。
「それとなエンディミラ、コイツは背が低いだけで歳は俺と3つくらいしか変わらん。俺より頭良いしな」
「ふむ……ではこの方が先程マスターが言っていた候補というわけですね」
「そゆこと」
「……誰、というのはそのエンディミラという女と貴方がどんな関係かということです」
せっかく小さい子扱いをフォローしてやったのメヌエットはまだ機嫌が悪そうだ。ていうか、さっきよりも更に目線が冷たくなっている。ジト目、というより敵でも見るかのような目でエンディミラを睨んでいる。
「マスターは私のマスターです。それ以上でもそれ以下でもありません」
と、シア達のいる前では自分が奴隷だと言うなという約束はしっかりと守りつつ俺と自分との関係を説明しようとするエンディミラ。だがエンディミラよ、マスターはマスターです、は事情を知らん奴からすると意味分からんと思うぞ。
だがメヌエットはその卓越した推理力で、少なすぎる情報から何かを察したのか溜息を1つ付いて目線を弛めた。弛めたと言っても、今度はそのジト目──普段のそれよりも幾分か湿度の高いそれ──で俺を見やる。
「はぁ……まぁいいでしょう。何となく関係は掴めましたから」
やっぱコイツ凄いな。俺だったら意味分かんねぇ説明しろと言って暴れてるよ。
「その女の出自も何となく読めましたが、それはこの胸の中に仕舞っておきましょう」
あぁ……もしかしてエンディミラがNから来たことも今ので分かっちゃったの?何でだろ。アリアから俺とNの関係でも聞いたのかな。さもありなんだな。
「私としてはもう少し天人とお話をしていたいところなのですが、もうすぐリハビリの時間ですので今日はこれにて」
「おう、ありがとな。助かるよ」
「いえ。お気になさらず」
そう言ってメヌエットが通話を切った。俺はメッセージをやり取りする画面に戻ったアプリを見ながら1つ息を吐いた。取り敢えず、今後の目処は立ったな。後はエンディミラ達のことか……。
すると、俺の携帯から電話の着信音が鳴り響く。その音は教務科の……蘭豹からだっ!
俺は、それはそれは素早い動きで携帯電話を取り、その恐怖しか感じない着信に出る。
「はい、強襲科3年の神代天人です」
「おう、神代か。学校サボっていいご身分の」
「い、いえ、決してサボったとかそういうわけでは……」
蘭豹とか斬馬刀で俺の多重結界ぶち抜けそうな怖さがあるんだよな。マジで帝国の皇帝陛下なんぞよりも100億倍くらいの恐怖感がある。
「まぁええ。その代わりお前にはやってもらう仕事があるんや」
え、仕事……?しかも教務科からのご指名の?
「えと、それは……」
何それ今この会話の流れで……?普通に嫌な予感しかしないんですけど……。そして、俺の予感は蘭豹の次に続く言葉で見事に的中してしまう。
「───それはな、先生や!」
───ほらな、先生なんて俺に1番向かない職業なんですけど。どうすんのよこれ……。