セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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双剣双銃の侵入者

 

クラス代表決定戦は俺の優勝で終わった。だが俺は、そんなものにはなりたくもない。なのでそそくさと織斑先生の元へと向かい、これを固辞。代わりに一夏を推薦したのだ。

俺と一夏の得票数は同数。ならば俺が一夏に入れれば必然的に一夏がクラス代表になるのだ。

そんな発表があったのがクラス代表決定戦の次の日の朝のSHR。

 

で、それからまた時は経ち、今日はグラウンドでISの飛行練習だ。ようやく座学ばかりの授業から開放されるようだ。

 

「オルコット、織斑、神代、アヴェ・デュ・アンク、試しに飛んでみろ」

 

なるほど、専用機持ちは直ぐにISを出せるからな。体の良い見本にされるわけか。

 

「はい」

 

と、返事をしないと頭をクソ硬い出席簿で叩かれるので俺は素直に返事をして前へ出る。

そしてそのまま待機形態だったIS(鎧牙)を展開。一瞬の浮遊感と光に包まれた後に色を取り戻した視界で俺は10数センチ程浮いていた。それにオルコット、リサ、一夏と続いて各々ISを展開する。

 

「神代さん、まだISに触れてから1,2ヶ月と聞いていましたが、随分と展開が早いですわね」

 

「まぁ、慣れてるからな、こういうの」

 

専用機のなったISの展開の仕方にはそれぞれスタイルがあるらしい。とは言え、とにかく集中するのが1番なのだが、俺は銀の腕を顕現させるイメージでISを出すのが1番分かりやすく、リサは耳と尻尾を出す感覚らしい。……リサ、人前でミスってISじゃなくて耳出すなよ?

 

「では飛んでみろ」

 

真上に飛ぶという行為にする際に習ったのは頭上に円錐を展開するイメージ。だが俺は銀の腕のスラスターを吹かすのと同じ感覚で鎧牙の背部ウイングスラスターを吹かせて飛翔。一瞬で200メートル上空へ辿り着きそこで急停止。確かに、この機動性は戦闘機でも出せないかもな。

そして俺とほぼ同着でオルコットが、その後に一夏、1番遅いのがリサだった。

 

「アヴェ・デュ・アンクはもう少し早く動けるようになれ。それではいい的だぞ」

 

「は、はい」

 

どうせ諍いになるだけだからこの場で言いはしないけれど、リサは俺が守るのだからISの展開だけ出来れば充分だと俺は思っている。だから俺はISのプライベート・チャンネルとかいう個別通話機能でリサに通信を飛ばす。

 

「気にすんな。何かあっても俺が守るから」

 

「はい、リサはご主人様を信じております」

 

リサも同じように個別のチャンネルでそう返してくる。

その様子を下から見ていた織斑先生の目は、俺達の会話をどこか見透かしているようにも思えた。

 

「……では次、急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表から10センチだ」

 

「はい」

 

俺は再びパイプ型のスラスターから焔を噴き出すイメージ。そして地面ギリギリにイメージの壁を描き、そこへ着地。

 

「……12センチか。まぁまぁだな」

 

……2センチ。眉間を狙った弾丸を首を振って避けたら眼球に直撃したって感じだな。まだまだだ。すると、オルコットも降りて来て地表間際で急停止。コチラは10.5センチ。俺のISがそう測定した。やはり細かな操縦技術ではまだオルコットには敵わない。もっとも───

 

 

 

───ッッッドォォォォォォォンンン!!!

 

 

 

地面に墜落した一夏よりはマシだという自負はある。その後にはリサも、それ急降下?って言うくらいのゆったりとしたスピードで降りて停止。地表から13センチだった。

 

「織斑とアヴェ・デュ・アンクは何故そう極端なんだ……」

 

超スピードで墜落する一夏とゆっくりと降り立ったリサ。確かに両極端な2人だった。

 

「まぁいい、織斑、武装を展開してみろ」

 

「は、はぁ」

 

「返事は、はい、だ」

 

「は、はい!」

 

と、織斑先生にけしかけられて真正面に右腕を突き出し、それを左手で強く握る。そうして光の奔流を発生させながらも、一夏は雪片弐型とかいう銘の近接ブレードを呼び出した。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ」

 

確かに刀1本抜くのに1秒も2秒も使っていたらその間に何発の鉛玉をぶち込まれるか分かったものじゃない。しかも一夏は武器を出す時に目も閉じているからな。撃ち放題当て放題だ。

 

「次、オルコット。やってみろ」

 

「はい」

 

オルコットは返事をするや否や右腕を外に突き出し一瞬手元を光らせたかと思えば即座にビームライフルを展開。マガジンも接続されており、目視でセーフティも外す。この間約1秒。だが───

 

「流石は代表候補生、早いな。だがそのポーズはやめろ。横に銃を展開して誰を撃つ気だ?正面に展開できるようにしろ」

 

撃たれるのは俺だと思います、とオルコットの右手側にいた俺は心の中で1人ゴチる。

長年そのルーティンでやってきたのだろう、抵抗するオルコットを圧力で黙らせ、次に近接戦闘用の武装を展開させた。

しかし基本的に中・遠距離での狙撃が戦闘の中心にあるオルコットにとって近接武装はイメージしにくいらしい。苦労して、というか武器の名前を直接呼ぶという初心者向けの方法で無理矢理呼び出したがこれだけの時間を与えればアリアやレキが相手なら全身八つ裂きか蜂の巣だ。とても実戦で使い物になる代物ではない。

 

「神代、やってみろ」

 

「はい」

 

俺はクッと手首を上に軽く動かすだけで両手に拳銃を構える。当然マガジンは挿さっているし、セーフティも外してある。光も出さずに武装を展開した俺にオルコットと一夏は目を見開いている。

 

「ほう。なら武装の即時切り替えはできるか?」

 

「はい」

 

俺はさっきとは逆に後ろ側に手首を振って拳銃を格納(クローズ)する。そしてそのまま右手を振り上げ、一夏の正面で振り下ろす。

 

「っ!?」

 

振り下ろしながらメイスを展開(オープン)、一夏のIS──白式──のシールドエネルギーに触れる直前に寸止め。そのままメイスを収納しつつオルコットの方を向きながら腰溜めにアサルトライフルを召喚。銃口をオルコットの腹に向ける。突然銃口を向けられたオルコットが身構えるが俺はそのままライフルも収納してボケっとしていた一夏の眼前に拳銃の銃口を向けた。

 

「うぉっ!?」

 

「もういいだろう。織斑、オルコット、今すぐとは言わないがこれを目標に努力しろ」

 

「「は、はい!」」

 

2人の声が揃う。ここ最近、武装の出し入れの訓練を重点的に行ってきた甲斐があったな。まぁ、戦闘中に武器の出し入れなんかでまごついたいたら確実に殺される。武偵活動で銃を持つ感覚が身体に染み込んでいるのがこんな風に役立つとは思わなかったけどな。

 

「……本日はここまでとする。織斑、グラウンドに空けた穴は埋めておけよ」

 

一夏に与えられた宿題はとんでもない重労働だが自業自得な上に流石に手伝う気も起きない。

俺とリサは織斑先生の言葉に従ってISを収納し、そそくさと校舎の中へと戻っていった。

 

 

 

そして、その日の放課後に行われたクラス代表決定のお祝いパーティも終わり、俺とリサは寮の自室に戻っていた。

 

「……なーんか、濃かったなぁ」

 

「ですね」

 

自分のベッドに大の字で横たわる俺の脇にリサも腰掛ける。透けるような薄く美しい金髪の髪を俺は指先で弄びながらもそもそと身体を動かし、リサの太ももの上に頭を乗せる。

リサが俺の髪を撫で、俺もリサの髪を梳く。そこに言葉は無かったが、ただの空白の時間を楽しむだけの余裕はある。

いきなり知らない世界に飛ばされたが、それでも変わらないものはある。俺はリサがいてくれればそれだけで全部どうにかなりそうな気がしていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

俺とリサが付き合っていることはIS学園では公然の事実となりつつある。

それもそうだ。何せ所構わずイチャイチャベタベタ。特に言い触らしているわけではないけれど、全く隠す気の感じられない行動を見せつけていればそうもなろう。

今朝もいつも通りリサを膝の上に抱えて駄弁っていたのだが、急に教室のドアが開けられたかと思うと、そこにいたのは小柄でやや明るい茶髪をツインテールに纏めた女子生徒だった。どうやら一夏に用があるみたいで、真ん中最前列の席に座っている一夏を目敏く見つけて呼び寄せていた。

 

だが俺がふと時計を見れば、もうすぐ朝のSHRの時間だ。チャイムが鳴るまであと1,2分。俺はリサを席に降ろすとそのまま自分の席へと向かう。それでもまだ一夏とツインテ女子は会話に花を咲かせていた。

だが時間は無情、鬼教官は非情。時間通りにやって来た織斑先生に追い出されたその子はすごすご……と言うには元気の有り余っている様子で自分の教室へと戻って行った。

 

 

 

その日の昼に食堂でリサの用意してくれた弁当を食べながら聞き耳を立てていると、どうやらあの茶髪ツインテールは隣の2組に転入してきた生徒だということ、凰鈴音(ファン・リンイン)という名前だということ、中国の代表候補生だということ、専用機も持っているということ、そして一夏と幼馴染みだというところまでは判明した。どうやら篠ノ之箒が引っ越した後に一夏と出会ったらしい。

 

「だとさ」

 

「織斑様も女性から好かれるのですね」

 

「アイツ、よく見なくてもイケメンだからな。キンジみたいに根暗って訳でもないし。そりゃ分かりやすくモテる」

 

まぁ、キンジもキンジでとんでもなくモテているが。本人はそういう話が苦手なのと、確かにキンジの暗さに1歩引いている女子もそれなりにいるからかキンジ自信にその自覚は無いだろうけど。

 

「……なんだその目は」

 

しかし、何故か俺は今リサからジト目で睨まれている。

 

「天人様はもう少し自分の行動を自覚した方が良いかと思います」

 

「……」

 

言わんとしていることは分かる。ジャンヌや透華達のことだろう。けれど俺が好きなのはリサだけで、他の奴らから好意を寄せられても、悪い気はしないけど応える気にはなれない。それは、ずっとリサには言っているし、他の奴らにも行動で示しているつもりだ。だから俺は透華達が居てもリサとベタつくのを止めたりはしないのだ。

 

「リサだけを愛してくれる。それは女性としてはとても嬉しいことです」

 

むしろ、当然のことのような気もするんだけどな。本能のままに生きる動物じゃないんだから、そんな何人もの女の子と同時に付き合うって感覚がよく分からん。俺はジャンヌや透華達を可愛いとは思えても恋愛的に好きとはどうしたって思えない気がするのだ。

 

「でもリサは知っています。本当の天人様は複数人の女性を同時に愛せるということを。ただ今は、リサの存在がそれを気付かせていないだけなのです」

 

「…………」

 

俺はリサの言葉を聞きながら無言で弁当を胃袋の中に収めていく。今日も最高に美味しい……美味しいのだけど、リサのその言葉にどうしたって引っ掛かりを覚えてしまうのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

5月。結局今になっても帰る手段は見つからない。図書館を漁ってもISの情報はそれなりに出てくるがそれも法律的な規制や技術的な部分ばかり。それも肝心肝要のコアに関してはよく分からん篠ノ之束本人しか作れんの一点張り。

この世界特有の神話の話とかも探ってみたがこれと言った手掛かりは無し。俺達の世界との相違点はその殆どが武偵とISだけのようだ。むしろ、超能力とか人外とかが存在している分元の世界の方がオカルトチックで、こっちはもっと科学技術寄りということが分かるだけだった。

 

篠ノ之束にでも聞くしかないかなと思いつつある今日は1組と2組でクラス代表同士の試合をやるのだとか。どうやら食堂でデザート1年分だか食べ放題だかの食券を賭けての試合らしく、本人達はともかくその外野は大盛り上がりだ。

 

もっとも、一夏が相変わらずの唐変木を発揮した結果、周りの思惑とは別のところでクラス代表同士はヒートアップしているらしいのだが。

 

で、俺達専用機持ちだけは管制室に集められ特別待遇での観戦。他の奴らは皆アリーナの観覧席で試合を見ている。

だがその試合はほぼ2組の代表候補生である凰鈴音のワンサイドゲーム。甲龍という名前の機体とそれに載せられた特殊な兵器──龍咆──その砲身も砲弾も見えない空気圧の弾丸を射出する衝撃砲とか呼ばれる攻撃に全く対策が出来ていないのだ。

 

「話では聞いてましたけど、実際に見るとこうもやっかいとは……」

 

「神代、お前はどう見る?」

 

オルコットの呟きに、織斑先生が俺に話を振る。

 

「はい。俺なら……オルコットのブルー・ティアーズの方がやり辛いですね」

 

「ふふふ、そうでしょうとも。何せわたくしのブルー・ティアーズはイギリスの誇る最新鋭の機体ですもの」

 

「その理由は?」

 

オルコットの高笑いは完璧無視しつつ織斑先生がさらに掘り下げてくる。……これ、俺に答えさせる風を装ってコイツらへの授業にする気だろ。

 

「砲身も砲弾も見えなくても、発射点はあの肩のデカ物です。射角に制限は無さそうですが、リーチはオルコットのビームライフルより余程短いし発射までに少しラグもある。そこまでくれば遠距離を保つか張り付きゃアレは使えないことが分かります」

 

「だろうな。だが距離を保つのはともかく、張り付くためには、そして張り付き続けるにはどうする?」

 

「そうですね、まず凰鈴音は撃つ時に狙った場所を目で追う癖があります。それに、そもそも腕や脚なんかの末端は的が小さいから基本的に狙いは真っ直ぐ胴体が多い。あれを躱して懐に入るのはそれほど難しくはないです。張り付くのも、あの青龍刀は分割しても取り回しが良いわけではなさそうですから。殺傷圏内のさらに内側に入ってしまえば……」

 

と、そこまで一息に語ったが見ればオルコットと篠ノ之がポカンと口を開けている。山田先生もこちらを驚いた顔で覗いていた。

 

「……どうした」

 

「いえ、ティアーズの包囲をあれ程躱し続けた神代さんなら確かにそれも可能かも知れませんわね」

 

「じゃあ何に驚いてんだ」

 

「あなた、思ったより喋りますのね……。リサさん以外とはろくに会話できないのかと思っていましたわ」

 

「……表出ろしばき倒す」

 

確かにこっちに来てからほとんどリサとしか会話してないかもしれない。けれどその言い草は流石の俺も怒るよ?ホントに。なんなら織斑先生に頭掴まれていなければオルコットと殴り合いになっていた筈だ。

 

「なるほど、お前ならそれが出来るだろう。では織斑ならどうすればいい?」

 

……なるほど、確かに戦っているのは一夏だもんな。そして、この質問の意図はそれだけではない。きっと織斑先生はこの質問で俺の"眼"を量っているのだ。俺がこの試合でどれだけのことが見えているのか、見ることができるのか。

 

「……一夏が張り付くにはやはり衝撃砲を掻い潜らなきゃいけません。それにはやはり、見えない砲身が今どこを向いているのかを理解できるようにならなきゃ無理でしょう。それに、一夏の刀はリーチがある分取り回しは良くない。流石に分割した青龍刀の二刀には敵いません。"俺が"白式を使えと言われたら勝ち筋は見えますが、今の一夏が凰鈴音に勝てるかと言われると、可能性は限りなく低いと思います」

 

ただ、と俺は言葉を続ける。

 

「前にオルコットと一夏のクラス代表決定戦の試合を見ました。最後、一夏が一撃を入れる寸前に何故か白式のシールドエネルギーが尽きた。あれは、シールドエネルギーを削るリスクがある大技をそうと知らずに使って自滅、と俺は読んでいますが、どうですか?」

 

「……よく見ているな。確かに織斑の白式には単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)があり、それは相手のシールドエネルギーを無視して絶対防御を発動させるものだ」

 

……シールドエネルギーを無視することで絶対防御を発動?どういう原理なんだ?エネルギーを無効化しているのなら絶対防御も貫通して操縦者に直接刃が通りそうなものなのだが……。

 

「……確かにそれがあれば───」

 

「───っ!?この反応は!?」

 

と、急に山田先生が叫ぶ。そして次の瞬間───

 

 

──ドォォォォォンン!!──

 

 

と、アリーナを覆っていたシールドエネルギーを突き破って何かがアリーナ内へ侵入した。

 

「何だ!?」

 

「な、何が起こったんですの!?」

 

「……リサ、ここで待ってろ」

 

「はい、お気を付けて」

 

「待て神代」

 

「……何ですか?」

 

アリーナのシールドエネルギーを突き破る何かが侵入、なんてろくな事態じゃない。それを今この瞬間まで戦闘していた2人に対処させるわけにもいかないからと俺が飛び出そうとした瞬間に織斑先生に呼び止められる。

 

「どこへ行く気だ?」

 

「アリーナですよ。このIS学園に喧嘩売る奴が普通の奴らなわけがない。そんなのを相手に一夏と凰鈴音だけで凌がせるつもりですか?」

 

教員や上級生の代表候補生を動員するにしても、その時間を稼がなければならない。それを一夏と凰鈴音だけにやらせるのは不安すぎる。ならばこの場でもっとも早く駆けつけられる人間がまず動くべきだろう。

 

「見ろ、遮断シールドのレベルは4、しかもアリーナへと続く通路にある隔壁は全て降ろされてロックされている。全てこの一瞬で行われたことだ」

 

「……だから?悪いですけど、壁は全部壊していきます。そうすりゃ増援も直ぐに来れるでしょう?」

 

話は終わりだと、俺は織斑先生の返事を聞くこともなく管制室を飛び出す。

チラリと見た管制室のモニターにはこの騒ぎの下手人が映っていたが、その姿は黒い異形だった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「……来い、銀の腕」

 

俺はそうボソリと呟くと銀の腕を顕現させる。

管制室を飛び出し、まず1枚目の隔壁が目に入ったのだ。そして強化の聖痕も開き、5メートル程の助走を付けて、目の前の道を塞ぐ壁に超音速の拳を叩きつける。

そして立ちはだかる壁を破壊しまた通路を進む。その間に何枚もの隔壁が降りていたがそれらを全て腕力で叩き潰して進んでいく。

その間にもリサから逐一連絡が飛んできている。曰く、侵入したのはISと思われる人型兵器だが、シールドエネルギーによって分厚い装甲なんぞ要らないはずなのに全身装甲(フルスキン)という異形であること、そして開示義務のあるISのデータだが現状データベースにはヒットしない機体であるということ。

篠ノ之束が新たなISのコアを作らなくなって以来、新規にISを作ろうと思ったら現状ある機体をバラし、コアを初期化してから組み立てるしかない。しかしそれをすれば当然、その情報はすぐさま世界を駆け巡る。抜け駆けは許されないルールだからだ。しかし今俺達の目の前に現れた機体は完全な未登録。それはとりもなおさずこの機体がろくでもないところの出身であるということ、もしくは完全に新しいコアから作られたISである可能性の2択を突き付けているのだ。どこかの国がこれを仕掛けたという選択肢は除外だ。何故ならその行為が露見した際のリスクがあまりに高すぎる。世界各国から優秀な人材を集めたIS学園を、それも開示義務のある情報を開示せずに極秘裏に製作したISで襲ったなどとバレては世界中を敵に回すことになる。そんなリスクを取れるのは余程のアンダーグラウンドにいる奴らかもしくは───

 

 

──篠ノ之束──

 

 

もしかしたら俺達の世界で言えばイ・ウーみたいな存在がこの世界にもあって、そいつらが自分達もISのコアを作れるのだと世界に示す為のテロ行為なのかもしれない。

だがISのコアの研究は遅々として進んでいない筈だ。それを、いきなり完成させるなんて真似ができるのだろうか。それよりもむしろ、篠ノ之束が何らかの目的で新たに作ったISでここを襲ったと見る方がまだ実現の可能性としては高い。篠ノ之束は元々世界中からのお尋ね者だ。ここで多少暴れてもそう大した変化は無いはずだ。

もっとも、こちらの可能性は実現の可能性は高くとも理由が全くの不明になってしまうのだが……。

 

そうして思考を巡らせながら壁を破壊している内にようやく俺はアリーナまで辿り着いた。

そこで一夏と凰鈴音が戦っていたのは腕が不自然に大きく操縦者の輪郭も分からないほどに装甲に覆われた黒いIS。見る限り全身にスラスターが装備されており武装は両手からのビーム程度。だがその出力は高そうだ。

俺は鎧牙を起動、メイスを呼び出しながら一夏の使っていたピットからアリーナへと飛び出した。

そして即座に瞬時加速、謎の侵入者の背中へメイスを叩きつける。

 

 

──ゴッシャァァァ!!──

 

 

と吹き飛んだその黒いISへさらに追撃を加えようとした瞬間、俺のISのハイパーセンサーに新たな反応。これは……新たなIS!?

 

───ドォォォォォンン!!

 

と、砂煙を巻き上げてアリーナへと再びの侵入者が現れた。

そしてさらにその土埃の中から熱源反応、鎧牙が俺に伝えるのは新たな敵影にロックされたという報告。これは───

 

───バシュゥ!!

 

俺は咄嗟にメイスを身体の前に翳して即席の盾とした。そしてそこに飛び込んできたのはオルコットのスターライトmkⅢよりも高出力のビーム攻撃。舞い上がった砂煙が晴れるとそこにいたのは───

 

 

全身装甲ではあるものの先に襲いかかってきた奴とは対照的に、女性らしいフォルムをしたISだった。特徴的なのは頭部と見られる部分の斜め後ろ側、つまり側頭部か後頭部辺りから伸びた、人間でいやツインテールみたいな部分とその先に装着された切れ味のよさそうなブレード。オマケに今のビーム砲撃は腕部マニピュレーターからされたらしい。そしてそいつは俺の方を見ると、両手をこちらに向け、頭部ブレードもそれに合わせてゆらゆらと構えられる。その姿はどこからどう見ても双剣双銃(カドラ)と呼ばれる構えだった。

 

「……ちっ」

 

篠ノ之束にやらされた実験やISの調整の間に記憶でも読み込まれたか。あんなの、俺かリサの記憶でも読まねぇと思い付きゃしねぇだろう。

予想として選択肢には挙げていたが、これで今回の騒ぎの犯人は篠ノ之束で確定だろう。今だ目的が分からねぇのが薄気味悪いが、どうやらこれは俺のために用意されたんだろうな。

 

「一夏、凰鈴音、聞こえるか?」

 

「あぁ」

 

「えぇ」

 

「あの変なのは俺がやる。お前らはそっちのデカい方をやれ」

 

「……分かった」

 

「そうね、任せたわよ」

 

2人の返事を聞くが早いか俺は瞬時加速で双剣双銃のISの元へと飛び出した。

カチ上げるように繰り出した俺のメイスをそいつはブレードで軌道を逸らすことで躱した。

だが俺は勢いを殺すことなく、駆け抜けるようにしてその場を離脱。その瞬間には俺のいたはずの場所にそいつは両手からのビームを連射。俺が振り返る勢いでメイスを振り抜けばそれをしゃがむようにして躱し、即座に反転。両方のブレードで俺の肩を突き刺すように振るう。それを上体を逸らしつつ1歩下がって躱す。俺はそうしながら武装をメイスから2丁拳銃へと切り替える。

俺の腹を狙った射撃は両腕を外側に弾くことで射線を逸らし、俺は1歩踏み込む。ここから先はアル=カタの距離だぜ。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「何ですか、あれは……」

 

真耶は管制室からの映像を見て驚愕した。

天人がようやく侵入者と対峙出来たと思ったらまた新たな侵入者が現れ、天人と戦い始めたのだ。それも、腕を4本にするのではなく、頭部にブレードを装備した異形のIS。あんなのを動かそうと思ったら、()()()()()()()()()感覚でも掴まなければまともに動かせなさそうだった。

 

だが現実問題として、2機目の侵入者はその異形の装備を十全に操っているようだ。

それに、天人も侵入者も戦い方が普通ではない。どちらも両手に構えているのは射撃武装なのに何故かお互いに近接格闘戦を繰り広げているのだ。それも、その中に射撃武装すらも組み込んで操っている。お互いのそれを肘で逸らし、掌底で跳ね上げることで射線を通さない。そうして弾かれた手から放たれた弾丸やビームが輝く短剣か槍かのように煌めいている。だが、両手足に加えて頭部のブレードまで動員している侵入者と手足しか戦闘に使えない天人では手数に圧倒的な差がある。そもそも、この近接格闘で2本のハンデを抱えながらこれまで数分もの間拮抗している時点で天人の接近戦の強さは尋常ではない。

 

この異様な戦いは天人の方から仕掛けた。つまり拳銃を近接格闘戦に組み込むという特異な戦闘スタイルは本来天人のもので、侵入者はそれに合わせて戦っているはず。最初に真耶はそう考えていた。だが───

 

「……順応や反応ではない、ですよね」

 

侵入者の戦い方は最初から戸惑いなんて見えなかった。見知った戦い方だとでも言うのか、まるで機械のように反応し、そしてまさしく同じような戦い方を選択しているのだ。

そう、例えるなら同じ流派の武闘家の試合のように。

 

セシリアと箒は既に管制室にはいない。いつの間にやら姿を失せていたのだ。しかし、どうせ行先は分かっているからとここまで千冬は放置していたのだ。そして、真耶の疑問に答える。

 

「おそらく、これが神代の言っていた武偵とやらの戦い方なのだろう」

 

「神代くんはともかく、それなら何故向こうも同じような戦い方を……」

 

そう、別の世界の戦闘スタイルであるアル=カタを何故こちらの世界の産物であるISで再現しているのか。そこが疑問なのだ。もっとも、世界中のデータベースに載っていない機体だということが判明した時点で千冬には犯人がおおよそ分かっていた。ただそれを真耶に伝える気が無いだけだ。

 

そして戦闘は更に混迷を極める。そう、また別の乱入者が現れたのだ。それは───

 

 

 

───────────────

 

 

 

このIS、双剣双銃のアル=カタを使いやがる。しかもその技術はアリア並。つまり理子とアリアの良いとこ取りをした戦闘力。それをISの基準でやりやがるのだ。戦闘技術じゃ俺はアリアには勝てない。つまり、ここでアル=カタでの勝負に拘っても俺に勝ち目は無い。そこまで把握し、俺が戦い方を切り替えようとしたその時───

 

 

 

「何をやっている一夏!!男なら……男ならその程度の壁は乗り越えて見せろ!!」

 

 

 

いきなり何事かと思ったらこの大声の犯人は篠ノ之箒だった。

どうやら先生をぶっ飛ばして放送席を占拠、そこのスピーカーで一夏に激励染みた事を叫んだらしい。しかしその声にいの一番に反応したのは俺達じゃない。侵入者その1だ。

そいつは篠ノ之の方へ腕を向けると躊躇いなくビームを発射する構え。俺は間に割って入ろうとするがこのアル=カタ使いの双剣双銃に阻まれて向かえない。ISも纏わずに出てきた馬鹿が死んだ───そう思った矢先だった。瞬時加速でも使ったのかとんでもない速度でそのISの腕を切り落とした。そして───

 

 

──ドォォォォォンン!!──

 

 

別方向からのビーム射撃。ハイパーセンサーで意識だけ向ければそこにいたのはブルー・ティアーズを纏ったオルコットだった。それにより大打撃を受けたその機体はしかし、油断した一夏に特大の最後っ屁を仕掛ける───!!

 

爆発。

 

一夏が相打ち覚悟で突貫したのだ。もうああなってはどちらも無事じゃあ済まないだろう。だがこちらが1対2に追い込まれないのならそれでいい。ISには搭乗者保護機能が着いているから、一夏も怪我はしても命に別状は無いはずだ。なら俺は、このアル=カタ使いを叩き潰すことに集中する。

 

俺は半身になり相手の射撃を躱しつつ右手の拳銃を刀身が黒く塗られた近接ロングブレード──黒覇──へと切り替える。刀身だけで2メートルはあるそれを逆手に持ち、肘打ちをするように斬り上げる。それを向こうも1歩下がって躱すが俺はそのまま踏み込み上から刀を突き刺す。当然それもさらに下がることで躱されるがそれでもいい。俺は地面に突き刺した黒覇を順手に持ち替え、召喚時点から働かせていた()()()()()()()()()()()()振り抜く。奴はそれも後ろに下がることで回避しようとするが───

 

 

──ドッッッバァァァァ!!──

 

 

と、()()()()()()()()()()()()がそのISの装甲を斬り裂く。

これが俺のISに積まれた唯一のエネルギー武装。

この黒覇には超圧縮したエネルギーを刀身から解き放ち、()()()()()()ことが出来る。

その威力は並のISなら一撃で破壊することが可能だが、当然フルパワーで放つには相応のエネルギーと溜める時間が必要になる。刀の柄にもそれ用のエネルギーはチャージしてあるのだが、これを全て使っても臨界時の半分程度の威力も出せない。一応、エネルギーを飛ばさずに刀身に纏わせて斬れ味を上げる使い方もできるので、こちらはほぼそれのためにあるようなものだ。

 

そして、この大飯喰らいがこの戦いで俺がこの機能を使うことを躊躇った理由。

向こうの手の内が分からないのにこんな大技を使って、それが防がれた時には俺は残り少ないエネルギーで戦わなくてはならない。別に、ISなんて無くとも俺には聖痕があるのだからコイツを倒すだけなら可能かもしれない。しかし、ここには一夏や凰鈴音がいる。コイツらの目の前でISを使わずにISを倒すなんてことをしてしまえばどんな騒ぎになるか知れたものじゃない。

また、強化の聖痕ならISのパワーアシスト以上の力で腕を振るえるから、ISを装備したままでも力押しは可能だ。

けれどいきなりカタログスペック以上の出力で戦うのもやはり人目がある以上は避けたい。まぁ、腕力には使わなかったが反応速度では強化の聖痕に頼ってはいたのだが……。でなきゃアリアと理子の良いとこ取りの双剣双銃のアル=カタ戦闘になんて着いていけないからな。しかし……。

 

「……無人機か、これ」

 

()()()()()()()()()()()()()機体を見て、俺は思わず呟いた。

想定はしていた。篠ノ之束は破天荒で無茶苦茶で他人なんてほぼどうでも良いと思っている奴だが、誰かの犠牲を強いるやり方は好まない。というか、そういうのは本人の美学に反するのだとか。それだけは数ヶ月の短い共同生活で充分に分かっていた。

だがまさか無人機でここまでの動きをやらせることが可能な程に隔絶した技術を持っているとは思わなんだ。いや、ISなんてものを1人で作り上げたのだから、さもありなん、と言うべきか。

 

兎にも角にも、世界中から人の集まるIS学園相手に喧嘩を売るなんていう馬鹿げた騒動は、これにて一旦の決着をみることになった。

この事件で確かなのは、きっとそれだけだった。

 

 

 

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