セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

112 / 154
ユエVSルシフェリア

 

 

 

……これはとんでもないことになったぞ。

 

 

メイド……メイドか。ウチには世界最高のメイドさんであるリサがいるから、別にこれ以上メイドは要らないんだけどな。それはユエも分かっているとは思うんだけど……。まぁこっちに来てからは意外とぐうたらさんなユエにとってはもう1人お手伝いさんが欲しいのかもな。リサだっていつもユエの面倒ばかり見ていられるわけじゃないし。

 

「あぁ……一応言っとくけど、捕虜取扱法で捕虜に対する虐待は禁止されてるからな?」

 

絶対にこれを言っても聞いてくれないだろうけど、言っておかなきゃいけないことではあるので一応言っておく。

 

「……天人、これは虐待じゃなくて決闘。それも、女と女の戦い」

 

ほらな、やっぱり聞いてくれない。あと決闘も犯罪だからな。武偵同士じゃ決闘罪で捕まることなんて無いだろうけど、ルシフェリアはアリアに着せられたLサイズの女子制服を着ているだけで武偵高の生徒じゃないんだぞ。

 

「そうじゃ。主様と言えど、男が口を出すでないぞ」

 

しかもルシフェリアをメイドにさせられたらこの主様呼びを覆させるチャンスを失いそうだ……という個人的な理由により俺はこの決闘をどうにか無かったことに出来ないかと、無い頭を振り絞るのだが───

 

「……天人、浮島への扉を開いて。あそこなら広いし人目にも付かない」

 

どうやら俺の頭ではこの決闘を止める言葉を思いつかないようだった。観念した俺は仕方なく越境鍵で人のいない方の浮島へ続く扉を開く。すると部屋に潮の香りが漂う。ユエはルシフェリアにクイと扉の向こうを指差してからそれをくぐった。

 

ルシフェリアもそれに倣いユエに続く。興味本位なのかシアとティオ、ジャンヌまで続き、なんとエンディミラまでもが扉の向こうへと渡ってしまった。テテティとレテティもエンディミラに着いて行こうとするが、それはレミアに止められていた。

 

「あぁもう……」

 

ちょっと待っててねと、リサ達に告げて俺も扉の向こうへと渡る。て言うかユエよ、いきなり決闘だのなんだのと、貴女も随分と武偵高の悪いノリに染まってしまっているんじゃないのか……?

 

「……天人、ルシフェリアに掛けてる封印は解いて」

 

そして、俺が扉を閉めた途端にユエはそんなことを宣う。

 

「えぇ……」

 

どうやらユエはルシフェリアの力が俺によって封印されているのは直ぐに見抜いていたらしい。けれど、そもそもこの決闘に後ろ向きな俺はそれを渋る。ユエのことだから氷焔之皇による封印さえ解かなければ決闘を始めることはないだろうから、これは俺の最後の抵抗。

 

「天人よ、ルシフェリアに何かあっても妾がどうにかするのじゃ。だから安心してよいのじゃぞ」

 

と、ティオはもう決闘はユエの勝ちという前提で話している。ただ、いくらユエ様と言えどもそう簡単にルシフェリアに勝てるのかな……。

 

「……そもそも俺ぁこの決闘に後ろ向きなんだよ」

 

「だが、ユエももうやる気のようだぞ。これはもうやらせた方が良いだろう」

 

と、ジャンヌも呆れ半分興味半分でそんなことを言ってくる。

 

「ユエ、ルシフェリア様はレクテイアでも最上位に近い神です。油断はしないように」

 

エンディミラはエンディミラでそんな忠告をユエにしているけど、"神"ねぇ……。それは俺やユエにとってはある意味……

 

「……ふぅん」

 

───スイッチを入れる言葉でもある。そしてユエは俺の予想通り、エンディミラの言葉でより一層やる気満々になっている。もう目が完全に戦う意識に切り替わってるよ。瞳の奥には炎が見えるかのようだ。

 

「……天人」

 

「あぁもう……分かったよ……」

 

俺は仕方なしにルシフェリアに掛けていた氷焔之皇の封印を解く。すると自分の力が解放されて身体に力が漲るのが分かったのだろう。ルシフェリアがその大きな目を更に大きく見開いている。

 

「───ではいくぞ。我は女相手に加減する程愚かではないのだ」

 

それはつまり、男は手加減してやって然るべき雑魚だって思っているってことだ。まぁ、その油断と慢心が今こうやって俺達の手に落ちている理由でもあるんだけどな。

 

だが、そうやって豪語するくらいには確かにルシフェリアは強い。それは氷焔之皇で問答無用に力を封印した俺が1番分かっている。そして巻き込まれちゃ敵わんと俺達は10メートルほど後ろに下がり、そこで氷の壁を張って宝物庫からソファーを取り出し、どっかりと腰を下ろした。するとシアとエンディミラが俺の脇に寄り添い、ジャンヌが俺の脚の間に収まった。

 

「……おい」

 

「まぁよいではないか」

 

ティオは何故か俺の頭に自分のデカい胸を乗せていやがるし。どうやらこの体勢が1番楽なんだとか。それをユエがジトっとした横目で少し睨み、直ぐにルシフェリア視線を戻す。すると───

 

 

───ザッバァァァァァァンン!!

 

 

と、いつの間にやら防弾制服を脱ぎ捨ててあの露出過多な水着みたいな格好になっていたルシフェリアの背後、浮遊島を囲んでいる海の水が跳ね上がった。どうやらルシフェリアの超能力の力のようだ。

 

「……へぇ」

 

だが金髪を跳ね上げられたユエはそれを片手で抑えるとただそれだけ呟いた。その紅玉のような瞳の奥には一欠片の興味と、目の前の敵を叩き潰してやるという嗜虐心が溢れていた。

 

「死ぬか、土下座の体勢を取らされた方の負けじゃ」

 

ルシフェリアがこの勝負の決着を告げる。

 

「……んっ」

 

それに頷いたユエが右手を前方に翳し───

 

「……風刃」

 

とだけ呟く。すると不可視の空気の刃がルシフェリアに向けて幾つも飛び出した。だがルシフェリアもそれを感じられないほど弱くはない。再び超能力──念力のようなもの──でその刃を雲散霧消させた。そして逆にその念力でユエの小さな身体を拘束。まるで見えない手に握られたように身体を軋ませるユエを、そのまま不可視の力で握り潰そうとする。

 

しかしユエの身体が柔らかい粘土のように潰れることはなかった。音も無くユエの姿が掻き消えたのだ。これはエヒトも使っていた天在とか言う、空間魔法とも違う理屈で発動する魔法だ。しかも普段の空間魔法と違って出入りのための門を作る必要なくその場から離脱できる瞬間移動能力。

 

「……禍天」

 

そしてユエの愛らしい声は上から。しかしその音色が放つ魔法は黒く苛烈。特大の重力の塊が殺意となってルシフェリアの肉体をコンクリートの染みにしようと迫る。

 

「ふん!」

 

けれどもルシフェリアはその闇色の球体に左手を翳すだけで受け止める。コンクリートの地面が蜘蛛の巣状にひび割れた。しかしそれだけでルシフェリアの身体が肉片になることはなかった。ユエの放つ重力魔法(禍天)を受け止めるか……。やはりルシフェリアは強い。コイツの持つ超能力の力は俺がこの世界で見た超能力者達の中じゃ断トツだ。だがユエもまだ本気じゃあない。五天龍も神罰之焔もまだ見せていないからな。

 

「……壊劫(えこう)

 

地面にフワリと降り立ったユエは更に重力魔法を発動。今度は広範囲をルシフェリアごと一気に押し潰さんとする。

 

「キェェェ!!」

 

だがルシフェリアは奇声と共に右手も掲げてそれに耐える。氷焔之皇の権能の副次的な効果で俺は相手の使っている魔法や超能力の類がどんなものかは何となく分かるのだが、ルシフェリアのこれは超強力な念動力(PK)の類のようだ。そのパワーによって重力による圧力を耐えているらしい。さらに───

 

「ハァ!!」

 

ユエの壊劫が雲散霧消した。どうやら自身にのしかかる重力そのものを念力で散らせたらしい。案外器用な奴だ。さらにルシフェリアはそのまま右正拳突きを()()()()繰り出した。だが空を切った拳とは裏腹に───

 

───パァン!!

 

咄嗟に身体を捻ったユエの左腕が吹き飛んだ。どうやら突きに合わせて念力を飛ばして相手を破壊する技らしい。もっとも、自動再生で魔力が続く限り、致命傷からですら即座に復帰できるユエにはそれほどの痛手ではない。今も吹き飛んだ傍から左腕が生えてきた。だが今の一撃、ユエが瞬時に殺気を感じて避けなければ胴体に風穴が空いていたな。ルシフェリアは最悪ユエを殺してでも勝つつもりらしい。

 

するとユエは重力魔法で浮かびながら再生魔法を発動。しかもこれは時間の巻き戻しではなく加速。体内時間を加速させるこれは、魔法の発動スピードも速くなり───

 

「……螺旋描く炎牙(スピラーレ・フィアンマ)

 

どうしてイタリア語なのかは分からないが、ともかくユエのオリジナル魔法が発動。と言っても雷龍のような複合魔法と言うよりも敵の周りを超高速で動きながら緋槍を放ち、その炎の牙で敵を貫くって技なのだが。

 

しかしルシフェリアはそれを正面から受け止める。全身に念力の鎧を纏い、ユエの放つ30発の緋槍を全て受け止め、弾き返した。そして10メートル程の間隔を開けて向かい合った2人。するとルシフェリアが右手を空に掲げた。

 

「……まだ陽は出ているな」

 

その言葉に俺は思わずまだ頭上にある太陽に目を向けた。その光の眩しさに少し目を細めるが、その大地を照らす明るさに徐々に陰りが見え始めた。これは……まさか───

 

「───蒸発するがいい!!」

 

俺は咄嗟にビット兵器を召喚。それらからワイヤーを射出して連結、俺達を覆うように空間遮断結界を展開した。そしてその刹那の後に太陽が陰り、失われた光が柱となってユエへと降り注ぐ。それは光と熱量の殺意。地球の外、宇宙から齎される大地を照らす恵みの光はしかし今、ルシフェリア(悪魔)の手に捕らえられ、ユエを殺すための槍となり、触れたものを即座に炭化させる熱量兵器として顕現した。あんなもの、俺だって熱変動無効がなければ即死ものだ。だがルシフェリアが超常の存在であるように、ユエもまた、この世の理から大きくはみ出した尋常の埒外の存在なのだ。

 

「……絶禍」

 

ユエの唱えた重力魔法。それは黒い渦となりユエの頭上数メートルのところに現れた。絶禍は莫大な重力であらゆるものを飲み込み押し潰す魔法。擬似的なブラックホールが、ルシフェリアが尋常ではない念力で操る集束太陽光の殺意を捉えた。

 

そしてその夜色の混沌は光も熱も逃しはしない。大飯食らいの孔が宇宙から降り注ぐ光を喰らっていく。

 

「……禍天」

 

ユエが畳み掛けるように重力魔法を発動していく。愛らしい鈴の音のような声と共にユエの放つ黄金の魔力光に紅い光が混ざる。そして現れたのは黒い玉が10個。それが互い違いに2列一直線に並び、ユエとルシフェリアの間にレールを渡した。

 

そして、重力で引かれたレールを光は渡る。ルシフェリアが地上に引き摺り落とした光と熱の槍が、今度はユエの手に捕らえられ、ルシフェリアに牙を剥く。

 

禍天は消費魔力量に比例してその出力を上げていく魔法であり、そしてその重力の向きはユエの思いのままだ。

 

「ギャア───ッ!?」

 

ユエが重力魔法でそのコントロールを奪った集束太陽光の槍がルシフェリアの腹を穿く。

 

だがルシフェリアの意地が、前のめりに倒れることを拒んだ。仰向けに倒れたルシフェリアにあったのは、例え技を返されたのだとしても負けを認めてやらないという意地と誇り。けれどかつて世界最強の座に着いていた吸血姫が、現世においてはこの世の理に干渉する神代魔法を7つ全て修めた理不尽の権化が、それをただ黙って認めるわけがない。

 

矜持も誇りも全て正面から簒奪し踏み潰してこその理不尽。正々堂々と正面から敵を叩き潰すからこその最強。

 

ユエが指を振るとルシフェリアの身体が2メートルほど浮かび上がる。ルシフェリアの腹に空いた風穴からはそれほど出血は無い。傷口が集束太陽光に焼かれているからだ。熱で焼かれた傷口からはそれほど血が出ないのは俺も経験済みだ。

 

そして、いくら出血がなくとも、腹を穿かれたルシフェリアにはユエの重力魔法を振りほどく力は残されていなかった。そのまま抗うことすらなく地面に伏せられたルシフェリア。

 

ユエがその頭上に歩み寄る。

 

「……私の勝ち」

 

「……そちも、我を……殺さ、ぬの……か……?」

 

息も絶え絶えといった風のルシフェリアが、辛うじて顔だけ上げてそう答えた。

 

「……殺さない。言ったでしょ?私が勝ったらお前をメイドにするって」

 

「……そんな屈辱……受け入れ───」

 

「……お前の命は私が握っている。ここで私に負けて、殺されなかったお前の命も誇りも、全て私のもの」

 

恥は死よりも重いという考えのルシフェリアとしては戦いに負けてその上メイドとなって誰かに仕えるなんてこと到底認められないらしい。だがそんなルシフェリアに、ユエは彼女の顎を指先で持ち上げながらそう宣告した。

 

「ぐっ……」

 

どうやら決着は着いたと、俺は空間遮断結界を解きつつ氷の壁も砕いてジャンヌ達を立ち上がらせる。そしてソファーを宝物庫に仕舞い、ルシフェリアの方へ歩み寄った。

 

「……お前の負けだよルシフェリア。ま、その後の話は帰ってからにしようぜ」

 

と、俺がルシフェリアに氷焔之皇の封印を施すと共にティオが再生魔法でルシフェリアの身体の時間を戻した。再び超能力や魔術が失われた代わりに腹の風穴が無くなったルシフェリアが悔しげに俺達を睨む。

 

「そんだけ元気なら大丈夫だよ。……んっ、帰ろうぜ」

 

そして俺は虚空に鍵を差し込み、扉を開く。そこにはリサやレミア、ミュウ、テテティとレテティが心配そうな顔をして待っていた。

 

「あぁ……ただいま。リサ、メイド服ってある?」

 

 

 

───────────────

 

 

 

いくらなんでもいきなりルシフェリアの体格に合うメイド服なんてものは無かった。なので今はリサとエンディミラ、レミアでルシフェリアの採寸中。それから必要な布を買いに行くとのこと。自作すんの?と思ったのだがどうやらリサレベルになると既製品を買うより安いらしい。

 

「で、何でまたいきなりメイドだったんだよ」

 

吹き飛んだ防弾制服も再生魔法で元に戻したユエに俺はそう尋ねる。

 

「……んー?」

 

すると、ユエは顎に指を当てて少し考え込む仕草。そして人差し指を立てて何やら思い付いたみたいだ。

 

「……ムカついたから鼻っ柱をへし折りたかった」

 

と、もう隠す気も無いらしく、どストレートに本音を言い放った。

 

「……それとメイドに何の関係が?」

 

だがそれならメイドにする必要はない。ただ決闘してボコってやればいいのだ。だからメイドと言い出すからにはそれなりの理由があるのだろう。

 

「……んっ、ルシフェリアは自分が人の上に立つことを疑ってない」

 

確かに、それは俺も感じていることだったし、ナヴィガトリアではこの目でそれを見てもいた。ルシフェリアは人の上に立つ器があり、そして自身でもそれに一欠片の疑いも持っていなかった。

 

「……だからルシフェリアを私の元に(ひざまず)かせたかった」

 

ユエ様超ドSじゃん。いや知ってたけど。この子実は、俺の知ってる中じゃ綴の次くらいにはSっ気強いんだよね。あとそこのティオ、ちょっと羨ましそうな顔をするじゃあない。

 

「……メイドは立派な仕事だけど、ルシフェリアの性格だと絶対に向かない。だからちょうど良い」

 

「……自分で取り立てたメイドの面倒はちゃんと自分で見ろよ?」

 

もう返す言葉のなくなった俺は呆れ半分でそう返すに留まる。そしてユエは俺の言葉に───

 

「……んっ!」

 

と、これまたとびっきりに良い笑顔で頷くのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

今日の晩飯はリサの番だった。その配膳をレミアとシアが手伝い、テーブルに並べていく。とは言え11人もいっぺんに座れるテーブルなんて置いてられないので実は食事用のテーブルは宝物庫の中に放り込んであったりする。

 

で、飯を食う時だけテーブルを入れ替えて皆で食事を囲むのが俺達のいつもの食事のスタイル。朝や昼は結構バラバラなことが多いが夜はなるべく皆で揃って食べるようにしているからな。んで、今日からはルシフェリアも増えて12人の超大所帯での食事だ。だが、ルシフェリアは自分の前に並べられた食事を見て、その大きな瞳をさらに見開いている。

 

「……どうした?目ん玉落っこちそうだぞ」

 

「驚いただけで目がそんな簡単に落ちるわけなかろう。主様はアホなのか?それよりも、我にも食事を出すのか……?」

 

しれっと失礼なことを言われたがまぁいい。アホなのは承知の上って言うか返す言葉もございませんので。

 

「そりゃあ出すだろ。ユエからはルシフェリアも住み込みのメイドって聞いてるぞ」

 

取り敢えず今はシアの服を着せられているルシフェリア。コイツのメイド服を仕立てるための布は明日買いに行くとリサは言っていた。

 

そのルシフェリアは俺の言葉にキョトンと首を傾げている。

 

「我は捕まった身分なのにか?」

 

「腹ぁ減らねぇのか?」

 

「いや、腹は減るのじゃ。……ふむ、主様は気前が良いのう。それとも、我を肥えさせてから食うつもりか?ルシフェリアを食うとルシフェリアになれると信じておる種族もいるからのう」

 

まぁ確かに魔物を喰ったら魔物みたいになった俺とかもいますけどね。それでも見た目は人間のままだけど。

 

「ま、食った相手の特徴を奪うってのは聞かない話じゃないけどな。人間は魚を食っても魚にならねぇんだよ。だからお前を食べてもルシフェリアにはなれねぇ」

 

別になりたくもないけどね。その角、寝返り打つの大変そうだし。重心もズレて戦いの時も慣れるまでは不便そうだ。

 

「ふふっ、主様は面白いことを言うのう。まるで食べた相手の力を奪ったことがあるかのようじゃな」

 

「……飯の時にする話じゃねぇや。それより早く食べよう、折角の料理が冷めちゃうよ」

 

俺が手を合わせ、頂きますと言えば皆も合わせて頂きますと口にする。ルシフェリアにはその文化は無いのか周りを見渡し、お箸が使えないであろうルシフェリアの為にとリサが用意したナイフとフォークを手に取った。だがその顔は俺の過去に何か気付いたかのようでもあった。ま、コイツに知られちゃ不味い話なんてのは無いから別にいいけどさ。

 

そうして結局ルシフェリアもリサの飯を美味い美味いと言って全部食べ尽くし……挙句まだ食べていた俺の分にまで手を出そうとしてユエに手を(はた)かれていた。当然ルシフェリアはユエを睨むのだが、ユエがジト目と共に「主人の旦那の料理に手を出すメイドがどこにいるの?」と言うと、賭けの話を思い出したのか悔しそうにそこだけは引き下が───らないで「我も主様の花嫁じゃ」とか言い出すもんだからこれまたユエとドッタンバッタン大騒ぎ。

 

ユエはトータスにいた時も時々香織をからかって遊んでいたが、こっちに来てからはしばらくそういう相手もいなかったからなぁ。ユエの顔は半分ムカつき、半分それを楽しんでもいるような表情を浮かべていた。

 

で、最後にはミュウに「2人とも、食事中に品がないの」と言われて、2人して同じ顔してしょぼくれていたから、それが可笑しくって他の奴らは大いにそれを笑っていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

取り敢えず全員がそれぞれ風呂に入ったまでは良かったのだ。ウチは大家族なもんだからバラバラに風呂に入ると最初の1人目と最後まででとんでもなく時間がかかるってんで、基本的にグループで入るのだが、そこじゃルシフェリアはユエとシアと一緒に入っていた。そこでも暴れることなく大人しいもんだったらしい。

 

だが問題は寝る時。ルシフェリアは花嫁は番と寝るもんだとか言い出すし、ユエだけじゃなく、他の奴らも皆そんなことは認められないと反対したのだ。いやまぁ俺もルシフェリアと同じ布団は嫌なので反対してくれないと困るのだが。

 

で、本当は俺と同じ布団に潜る子はいつもはローテーションしているのだけど、何と今日はレミアとミュウの番。ルシフェリアのあの感じだと後でこっそり夜這いに来かねないし、そうなるとレミアとミュウがいるのは、追い返すにしろ音で起こしたら可哀相だ。

 

氷で扉が開かないように塞いでしまうと今度は夜にレミアやミュウがトイレに行きたくなった時に俺を起こさなきゃだしで、却下。

 

結局、俺だけでなくユエやシア、ティオといったルシフェリアを力技で追い返せるメンバーが暫くは護衛として順繰りに俺の布団で寝るということになった。なった、のだけれど───

 

「初日から来るかよ普通……」

 

ルシフェリアさん、まさかの初日から夜這い決行の上、今日の当番になったシアに捕まえられていた。

 

「シア、落としちゃえ」

 

「はいですぅ」

 

「な、何じゃ!?何をす───」

 

キュッと、シアによる首は地獄背中は天国の裸絞め(チョークスリーパー)が決まり、静かにルシフェリアの意識を奪う。しかし初日からこのれか……俺はルシフェリアがいる間は安眠できる生活を奪われたままになるのでしょうか……?

 

 

 

───────────────

 

 

 

で、寝る時もそれはまぁすったもんだあったわけだが朝から更に問題発生。俺は一応まだ東京武偵高校に在学中の身である。既にお仕事により卒業に必要な単位は一通り揃っていて、別に授業なんて出なくても良いのだけれど、だからって1年間丸々フケてしまうのも良いこととは言えない。なので俺は学校に行ける時は取り敢えず行っているのだけれど、やはりと言うか当然というか、ルシフェリアも着いて行くと言い出したのだ。

 

関係者以外立ち入り禁止と言っても「我は主様の花嫁じゃから関係者なのじゃ」と言って聞かないし。制服が無いと入れないと言おうとしたがそもそもコイツはアリアが買ってきた微妙にサイズの合わないLサイズの防弾セーラー服を持っているからそこの問題はクリアしていた。

 

いや、そもそも生徒でも教師でもないという問題は解決できていないんですけどね。

 

「取り敢えず皆学校行っててくれ。俺ぁ今日は休むよ」

 

コイツの面倒見てやんなきゃいけなさそうだから、と俺の背中に引っ付いてきたルシフェリアを後ろ向きに親指で指し示した。それに、ここで暴れられてレミア達の仕事の邪魔になっても悪いしな。

 

「……大丈夫?」

 

と、ユエが心配そうな顔をして……いや違う。どちらかと言えば瞳に光が灯っていない系の顔だこれ。

 

「絶対に大丈夫。もうホント、約束する」

 

「大丈夫じゃユエ。妾も傍にいるからの」

 

と、ティオがユエの肩に手を置いてそう言った。何が悲しいってそれ俺のこと信用していないよねっていう。

 

「なんじゃ、そちまで我の邪魔をするか!」

 

「邪魔も何も、妾達が天人の花嫁で、お主こそ邪魔者なんじゃが……」

 

というティオさんの正論に俺はウンウンと頷く。だが俺が味方をしてくれなかったルシフェリアは"ガーン"と、見て分かるくらいに落ち込んでいる。けれど、そんな顔をされても俺はルシフェリアの言っていることに応えるつもりはない。

 

「取り敢えずその話はキリが無いから置いとくぞ。……ユエ達は武偵高行っててくれ」

 

と、俺は半ばユエ達を追い出すように武偵高に送り出した。こうでもしないとルシフェリアとずっと言い合いになるだろうからな。

 

そうしてレミアとエンディミラも自分の部屋に戻って仕事に入るとのことで、こっちには俺とルシフェリアにティオとミュウ、テテティとレテティだけになる。

 

「……早速暇だ」

 

「天人よ、ここは学生らしく勉強というのは───」

 

「ティオ……」

 

で、勉強を勧められた俺は無言で首を振る。それを見てティオはティオで深い深い溜息を1つ。

 

「主様よ、暇なら我と子ど───」

 

「しない」

 

「うぅ……」

 

で、ルシフェリアのそんな誘いはピシャリと跳ね除ける。するとミュウがルシフェリアの元へと寄ってきて

 

「みゅ、ルシフェリアお姉ちゃん、ミュウ達とお絵描きしようなの!」

 

と、クレヨンと紙を持ってそんなことを提案した。後ろじゃテテティとレテティも期待の眼差しでルシフェリアを見ていた。

 

「ふむ……まぁよかろう。ミュウよ、我の画力を見て恐れ慄くがよい!」

 

ミュウ達の純新無垢な笑顔に絆されたのか俺が相手してくれないと見たのか知らんがルシフェリアはミュウの提案に乗った。

 

お絵描きやら何やら、どうやら子作りとは無縁の平和なお遊戯に向かってくれるのなら特に言うことは無い俺はそれをティオとただ眺めていた。

 

 

 

───────────────

 

 

 

どうやらルシフェリアは子供と仲良くなるのが上手いらしい。昨日はあんなに訳の分からん騒ぎを起こしていたにも関わらず、もうミュウやテテティ、レテティと仲良くなっていた。まぁどうせ長居するのならあの子達と仲良くやっていけるに越したことはないからな。

 

だがしばらくすると───

 

「主様よ、勝負しろ」

 

とか言い出した。ミュウ達は?と見れば何やらお絵描きは終わっていて今は3人で仲良くブロックで遊んでいる。しかも画用紙やクレヨンは既に綺麗に片付けられている。ミュウちゃんマジ良い子。

 

「ヤダよ」

 

「ふむ、主様は女から挑まれた勝負を逃げるのか?」

 

「……そんな安い挑発にゃ乗らねぇぞ」

 

売られた喧嘩は買わなきゃ強襲科の名折れ。だからってコイツの無限勝負に付き合ってられるかよ。そもそも、それはもう俺の勝ちで終わった話だしな。だがルシフェリアの諦めの悪さと悪知恵の働き具合を俺は見誤っていたようだ。

 

「むー、ミュウよ、主様が我を無視するのじゃ」

 

なんとルシフェリアさん今度はミュウを巻き込み始めた。それも、まるで俺が悪者かのような言い回しで。そして何も知らないミュウは当然

 

「みゅ、パパ、そーゆーのは悪いことなの。……それとも、パパはルシフェリアお姉ちゃんのことが嫌いなの?」

 

と、それはそれは純粋な瞳で俺を見てくるのだった。ルシフェリアの野郎……まさかこれを狙ってミュウと仲良くなったんじゃなかろうな。ある程度はこっちのことを把握しているテテティとレテティは半分呆れ顔で俺を見ている。だが助け舟は出してくれないらしい。うぅ……ミュウよ、俺をそんな目で見ないで……。

 

「む……くっ……ルシフェリア、勝負たって何する気だ?」

 

で、ミュウまで使われたら折れるしかない俺は仕方なしにルシフェリアにそう返す。ティオはティオで俺の後ろで溜息だし。だからってティオもミュウに対して良い言葉は浮かばないのだろう。何か言うでもなく呆れ半分の顔でルシフェリアを見ていた。

 

「そうじゃの……では"あの"ポーズを取らされた方の負けじゃ」

 

結局いつものかよ。まぁいいや。それなら俺は絶対に負けないし。

 

「ふふふ……主様よ、今回は我もちと作戦を考えてきたのじゃ」

 

どうやらもう試合は始まっているらしい。構えたルシフェリアがスゥっと息を吸った瞬間───

 

「キ───むぐぉ───っ!?」

 

そのスッと通った綺麗な鼻筋を摘み、手のひらで口も塞ぐ。どうせデカい声で一瞬の隙を作ろうとしたんだろうけど、そもそもコイツの掛け声がデカいことは知っているからな。うるさい口は封じさせてもらおう。だいたい、マンションの一室であの声量は普通に迷惑。

 

で、俺はルシフェリアの鼻と口を塞いだまま小内刈りでルシフェリアを押し倒す。だがルシフェリアはくるりとボールみたいに丸まりながら転がって俺の下を抜け出し───

 

それを読めていた俺はルシフェリアが中腰になった瞬間に(たなごころ)で角の間の脳天を真下に押し込んでやる。

 

すると、それは想定外だったのかルシフェリアは「きゃうっ」とケツから床に落ちた。そして、頭を攻撃されると弱いらしくクラクラしながら呻いている。

 

「はぁ……"夜の森の嘶き"も……我の弱いところも主様には分かっておったんじゃなぁ。主様は本当に強いのじゃ」

 

それは俺が強いというか超能力や魔術無しのルシフェリアが弱すぎるのだけど、それは言わないでいいか。変な絡まれ方しても面倒だし。

 

「そりゃあな。腕っ節だけが俺ん取り柄だし」

 

「みゅ、パパはケンカが強いだけじゃないの。ちゃんとやさしいの!」

 

と、俺達のこれを相撲ごっこか何かとティオに説明されていたミュウがそんなことを言ってくれる。

 

「けどちょっと女の子にだらしがないのは直した方がいいの!」

 

「ミュ、ミュウよ……天人が今の一言でノックアウトされたのじゃが……」

 

ルシフェリアの攻撃なんてものともしなかった俺はミュウの一言で部屋の角に追いやられて床に指で"の"の字を描いていた。自分でも自覚はしていたけれど、娘に直接言われるとこうも心にクるもんなんだな……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「主様」

 

と、今度はルシフェリアがキッチンの方から俺を呼ぶ。すると、カウンターには何やらマッシュポテトだかポテトサラダだかが盛り付けられた皿が置いてあった。

 

「んー?」

 

「今度はこれで勝負じゃ」

 

どうやら俺がいじけている間にルシフェリアは料理を作っていたらしい。少なくとも見た目はマトモ。コイツは料理をするようなタイプには見えないから意外だな。

 

「これは我の郷土料理に近いものじゃ。ちょうど材料で似たものがあったのでな」

 

「ふぅん。……で、勝ち負けは?」

 

「主様が美味いと言ったら我の勝ちじゃ」

 

なるほど、それなら分かりやすいしちょうど時間も正午だからな。腹を満たすのにもピッタリだ。

 

「りょーかい。……んっ」

 

と、俺は箸で一掴み、そのポテサラを口に運ぶ。もし毒が入っていたとしても俺には効かないし、それならそれで、毒入りを理由にコイツの負けにしてやろうと思ったのだが───

 

「……んっ」

 

毒は入っていないようだった。それどころかこれは───

 

「ふむ、主様なら毒を疑うかと思ったのじゃが」

 

「んぐんぐ……。入ってても俺ぁ毒は効かねぇし入ってたら入ってたでそれを理由にしてやって、美味いなんて言わねぇつもりだったよ」

 

「むー!花嫁の手料理を疑っておったのか。なんて酷い主様じゃ。でもそれでこそ……」

 

と、ルシフェリアは疑われていたというのに何故か嬉しそうだ。……なんなのそれ。

 

「ま、今回は俺ん負けだ。これ、凄く美味いよ」

 

けれど、ルシフェリアの作ったこれはとても美味かった。それも、ただ美味いってんじゃない。まるで中毒性でもあるかのように箸が止まらなくなる美味さだったのだ。嘘をついてもバレやしないのだろうが、何となく嘘はつきたくなかった俺は正直に白状した。

 

「そうじゃろそうじゃろ!やったぞ、我の勝ちじゃな。どうじゃ、これで主様は我無しでは生きてはいけなくなったか?おかわりも作ってやろう。赤子のように我があーんして食べさせてもやろう」

 

で、俺がルシフェリアの料理を褒めたら褒めたでコイツは今にも天に召されそうなくらいに幸せそうな顔をして喜んでいる。で、何故か両手を交互に自分の頬に触れさせている。それ、ルシフェリア族の喜びの舞なの?

 

「……あーんは要らない。けど、暫くウチにいるならルシフェリアも料理当番やってもらってもいいかもな」

 

で、どうにも最近俺は甘っちょろいみたいで、俺に料理を褒められてそれはもう見たことないほど喜んでいるルシフェリアに「別にお前がいなくても生きていけるよ」とは言えなかった。そして出てきた代わりの言葉がこれ。だからティオ、俺だって自分で分かっているからそんな冷たい目で見ないでほしい。

 

「ほう!ふふふ……遂に主様がこの家に我が居ることを認めたぞ!……いやいや、そもそも花嫁を追い出そうとしていた主様の方がおかしかったんじゃ」

 

うんうん、と勝手に頷いているルシフェリア。確かにウチにいることは認めちまったけど俺はまだお前が俺の花嫁だなんてのは認めてないからな。

 

というのは視線だけに留めておく。おかげでこっちを見ていないルシフェリアには俺の気持ちなんてこれっぽっちも通じていないのだけれど。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。