トータスというらしいこの世界に1人転移させられてから3日目。いや、正確には1人ではないのか……。ただ、俺と同じようにこのトータスに来た異世界人は、俺のいた世界とよく似た世界ではあっても全くの別世界のようだ。
何人かにさり気なく武偵の存在を仄めかしたのだが、誰も心当たりがないのだ。知り合いに武偵がいなくても、彼らも聞く限りでは高校生。15,6の、それも日本で庶民程度の暮らしをしている奴らが武偵を全く知らないなんて流石に考えられない。
さて、しかも彼らは皆同じ高校の同じクラスの生徒だという。1人だけ教員が混ざっているのだが、その人も彼らの学校の教師。つまり大人数の異世界転移に巻き込まれた割に俺はこの世界で誰1人として知り合いがいないのだった。
もっとも、そんなことを嘆いている暇はない。俺達はエヒト様とやらの御意思によってこの世界に召喚され、ここの人類───人間族を魔人族──彼らと宗教的に敵対する存在──を守ってやらなくてはならないらしいのだから。
とは言え俺以外は皆平和な日本で平和に暮らしていたティーンエイジャーである。どうやら俺以外は皆この世界に召喚された時点で人並外れた力を得ているようだがそれでもいきなり戦争なんて到底無理な話。しかもこのトータスはリムルのいた世界のように魔法なんていう非科学が跋扈する世界。つまりそれは誰が使っても当てさえすれば同じ結果を得られる近代兵器がろくに存在しないということで。人数よりも個々人の質が大事になる戦争なのだ。
いくら強い力を持っているにしたって、その扱い方や命を奪う感覚に慣れなければ戦争なんてやってられない。俺達の世界の軍人だって人を殺すことが耐え難い苦痛に感じる時もあるのだ。そんなことをいきなり求められたって役割を果たせるわけがない。
───というわけでやって来ました。ここは俺達が召喚されたハイリヒ王国、その王都外縁。俺達は何人もの騎士様とその団長───メルドさんに付き添われて外に出ている。そして今日の目的は
「早速だが、今日はここで魔物と戦ってもらう。もっとも、俺達が付いているから安心していい。君達には怪我のないよう我々が守るつもりだ」
ということらしい。この世界の魔物の強さは正直よく分からない。ただ、2日目には俺に突っかかってきて即返り討ちにされた天之河があれでも強い方らしいのでそれほどの強さの魔物はこの世界にはいないのだろう。少なくとも、魔国連邦の奴らみたいなのはいない筈だ。
「まずは……そうだな、天人、やってみろ」
と、メルド団長から直々にご指名。しかし昨日今日この世界にやって来たばかりの奴にいきなりそんなハードなことやらせんの?いやまぁいいけど。
「はぁい」
仕方なしに俺はそう返事をして前に進み出る。
「では他の者は下がっていなさい」
そしてメルド団長は他の皆を後ろに下げさせる。彼らは距離を置きながらも俺を半円で囲むように立っているからか、何故だか俺はこの場で晒し者にされているような錯覚に陥る。
「……来るぞ」
俺の耳にもガサゴソと葉や枝を掻き分ける音は聞こえていた。すると林の向こうから狼のような姿をした魔物が現れた。その瞳はランランと赤く輝き殺意の色に濡れていた。
だがいくら魔物と言えどこちらにはそれなりの人数がいることは見て取れるらしい。そこでいきなり俺に飛びかかってきたりはしなかった。
「さて天人。初めて魔物の前に立った気分はどうだ?」
彼らは命を奪う感覚に慣れなければならない。メルド団長からすれば多少出身は違うことまでは把握できても俺と彼らの根本的な差は知らないのだろう。だからこそのこの質問。
「……やっぱり爪と牙は怖いですねぇ」
───グルル……と、狼の魔物が喉を唸らせる。背中ではその声にビクリと震える気配がある。そりゃあそうか。普通の高校生なら野生の狼だって怖いはずだ。自分達にいくら力があると言われたってそれを昨日今日で克服できるはずもない。
だけど俺は違う。俺はこの程度の相手なんてビビってやらないし、戦い方も知っている。だから何も問題は無い。
王国から渡された1振りの
「……だからなるべく正面には立たないようにしたいですね」
それをすれ違うように躱し、狼が振り向くより早く刃を振り上げて奴の腹を切り裂く。
「……慣れないうちは肋骨の隙間を縫うのは難しいので下腹部でもいいですよね?それと、止めは忘れずに……」
そして鮮血を下腹部から吹き上げる狼の首に白刃を突き立てた。ビクリと1つ身体を痙攣させたそいつは、しかし直ぐにぐったりと動かなくなる。
俺が剣を首から抜けば一瞬身体を震わせるがそれだけ。刃に付いた血を払いながら振り向けばそこに広がっていたのはまるで俺を怪物かのように見る視線視線視線。
「あれ……俺何かやっちゃいました?」
どうやら襲い来る魔物を即座に斬って捨てるのは彼らにとってはショッキングな出来事のようだ。いや、メルド団長も驚いた顔をしているからどうやら俺が悪いらしい。
「あぁいや、そうではない。ただ、手馴れているなと思っただけだ」
あぁ、そういうこと。メルド団長は俺達が皆魔物なんていない世界の、それもとても平和な国から来たと思っているからな。だからそんな国の奴が、いくら弱いとはいえ魔物を一瞬で斬り捨てれば疑問にも思うか。
「別に……俺んところはちょっと偏差値低めで荒っぽいだけですよ」
武偵がどうのこうのとか、言っても誰にも伝わらないしな。むしろ余計な詮索を招きそうだしここは適当に御為倒しておこう。
「ヘンサ……?……まぁ、戦えるのならそれに越したことはない。これからも精進してくれ」
「はぁい」
メルド団長も俺の出自にはそれほど興味が無いのだろう。俺の出身がどうであれ、ここでの俺はエヒト様の御意思によって選ばれた強い力を持つ勇者一行でしかないのだから。
ただ、俺が皆の方へ戻る時に向けられた「コイツは何者なんだ……?」という視線だけはちょっと煩わしかった。
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メルド以下、ハイリヒ王国の騎士達にとって神代天人という存在は……悪く言えば異様に写っていた。エヒト様の御意思によって選ばれ、この世界に召喚されたという異世界からの来訪者。しかし本来は天之河光輝という少年を含めた一団の筈が、どうやら彼は光輝達とは違う集団に属する個人だと言う。ただ、何故そのようなことが起きたのかは本人もよく分からないらしいが、それをそれほど気にしている様子も無かった。
それ自体はエヒト様の成したことであり誰もそれほど疑問には思っていなかった。けれど地球と呼ばれる世界、その中でも殊更平和という日本などという国から来た光輝達とは確実に何かが違っていた。
メルドはその違和感の正体に勘付いていたがそれを誰かに言ったことは生涯なかった。果たして、平和な国から来て、暴力なんて精々が友人との喧嘩が精一杯というのが大半を占める10代半ばの少年少女達の中で1人だけ
神代天人を除いた中で1番のステータスと"勇者"の天職を持つ天之河光輝でさえ町の不良を成敗するのが目一杯の暴力との関わりだと言うのだから、メルドがそう思ってしまうのも致し方ない話ではあった。
だから大半の騎士達にとっては初めて魔物と戦うはずなのに事も無げに───それも優れたステータスによって叩き切るのではなく明らかに技術で魔物を切り伏せた神代天人は異様なのだった。
しかも、その視線を感じて振り向いた天人の、驚かれたことに驚いた様な表情と、とぼける様な「あれ、俺何かやっちゃいました?」の一言は騎士達の背筋から力を抜くには充分だった。
そして、その後の属性魔法の訓練の際にも、騎士達は天人の言動に驚くことになった。
「───うん、氷の魔法は無理に相手の急所に当てなくていいよ。……もちろん当たるなら最善だけど、難しいならまずは的の大きな身体に当てることを目指そうか」
彼らに最初にステータスプレートが配られた時、天人から開示されたステータスでは彼に魔法の適性は全くと言って良いほどに0だった。肉体的ステータスはあの"勇者"を遥かに凌ぎ、レベル1の時点であのメルド団長をすら凌駕する程ではあったのだが、魔力と魔法攻撃への耐性だけはほとんどそこら辺の一般人と変わらず。
しかも天職は後衛……どころか完全に鍛治職であり戦争の前線ではなく国に残って武具の整備に尽力すべき錬成師だったのだ。しかも錬成師の天職はハイリヒ王国にも何十人といる、言ってしまえばありふれた職業。
そんな、あらゆることが噛み合わないステータスを持つ天人がまさか魔法の扱い方のアドバイスをしているのだ。それを受けている相手は同じく召喚組の女子生徒───宮崎奈々。どうやら彼女には水属性魔法、それも氷術師という氷を放つ魔法に向いた天職と技能を持っていたのだった。
とは言えそれでは蝶よ花よと愛でられていた10代半ばの女の子。確かに戦う技術や経験なんてものは持っておらず、誰かが指導する必要はあるのだが、それをしているのがまさか彼ら召喚組でもっとも魔法とは縁遠い少年なのだった。確かに"魔法の発動"に関する部分は完全に省略されていて、あくまで発動した魔法の扱い方、戦闘への組み込み方に限定されてはいるのだが、魔法のない世界から来たはずなのに数日で属性魔法の特性を掴んでいるのだ。
「そう……氷の塊はストッピングパワーが大きいから。……あぁ、要は突っ込んで来る相手を止める力が大きいんだよ。何せ氷は重いからね」
ハイリヒ王国の騎士にとって聞きなれない単語も時折混ざっているが、それは教わっている奈々も同じように思っているようで、耳慣れない単語に疑問符を浮かべていた。ただ、それに気付いた天人は直ぐに言葉を噛み砕いて説明してやっていた。
「うん───それでいいよ。上に外すよりは下に外した方が、敵の牽制にもなったりするからね。相手の体勢を崩すだけでも他の奴らが戦いやすくなる」
王国の魔法使いの訓練用に用意されていたマンシルエット。その土手っ腹に氷の塊を叩き込んだ奈々に天人が更にアドバイスを加えていく。
「狙う時も、両目を開けて敵をよく見るんだ。人の目は、両目で見ることで遠近感を掴むからね」
それからも天人は狙いを定めるやり方や、戦いの中で中・遠距離魔法を組み込むメソッドを奈々にレクチャーしていた。そのどれもが基本に忠実でしかも基礎の基礎で天人や奈々とは別の世界の騎士から見てもそれほど耳慣れないものではなかった。むしろ騎士からすれば訓練兵時代を思い起こさせるほどに
ただ、当然奈々はそんな戦い方なんて初めて聞いたし、騎士からしても魔法の適性が一切無い天人がそれを知っていて、かつ素人にもある程度分かりやすく噛み砕いた説明ができることが1番の驚きだった。
「───まぁ、そんな感じかな」
「ふむふむ……ありがと、神代くん」
「おう」
「なぁ神代、ちょっと俺も教えてほしいことがあるんだけど」
「んー?」
すると、今度は玉井という男子生徒が天人に声を掛けた。どうやら火属性魔法の扱いについて聞きたいらしい。
「こういう時の当て方なんだけどさ───」
「んー?……うん。火属性魔法なら難しいけど顔を狙っていこう。炎なら、熱で敵の眼球とか、口の中に入れば肺や内臓も焼けるからね」
「うひ〜」
天人のアドバイスに玉井は怖がっているが、騎士も実際にそのように教わったことを思い出した。火属性魔法はなるべく相手の顔を狙え。そうでなくとも牽制より直撃狙いだと。火属性魔法で放つ火炎弾は重量が足りないことが多く、末端に当てても効果が薄い時があるからだ。
だがそれは魔法のことをある程度勉強しなければそんな実感は湧かないはずで、それが魔法なんて無いという世界から来たのなら尚更だとその騎士は思った。
「───そう、火属性魔法はなるべく正中線を狙って。大きく爆発するような魔法ならともかく、初級魔法のレベルならまずは当てよう」
「なるほど……。ありがとな、神代」
「どういたしまして」
すると、玉井への指導を終えた天人がこちらを見る。どうやらずっと見ていたことに気付いたらしい。1つ首を傾げるとこちらへトコトコ歩いてきた。
「あの……俺また何かやっちゃいました?」
ちょっと不安げにそう訊ねる天人に、その騎士は1つ深い溜息をつくのであった。
「あ、あれ……?」
そして、それを見た天人は余計に混乱していくのだが、それを気にするものは近くには誰もいなかった。
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遂にオルクス大迷宮の攻略の日となった。彼らがこのトータスに召喚されてから2週間が経っていた。その間、上位の世界から来たという勇者一行は凄まじい速度で強くなっていた。そしてメルド団長も遂にオルクス大迷宮の攻略を彼らの修行に充てられると考えたのだろう。
そしてやはりその予想は的中した。……いや、第1層の魔物を勇者である光輝は事も無げに切り伏せていたから、むしろこんな高い階層ではさしたる修行にはならないかもしれない。
この世界に来たばかりの頃は魔物相手であっても人の恐怖を煽るような凶悪な見た目や生き物を殺す感覚に戸惑いを覚えていた彼らであったが、魔物がそこらの獣よりも意思がなくただ本能のままに人を喰らうだけの生き物だと分かってくると、それを躊躇うことはなくなっていた。
そしてその1番手はやはり───
「では天人、ここは1人でできるか?」
2階層目、目の前にいるのは異形の狼が3匹。メルド団長から指名された青年とも少年ともつかぬ年頃に見える男。天人はメルド団長の呼び掛けに「はい」と躊躇うこともなく答え、そして右手に両刃片手剣を握って四足歩行で頭に2本の角が生えた狼の魔物3匹の前に立つ。
「……錬成」
ボソリと声が聞こえる。すると天人の背後の足元に魔力の光が灯る。しかし目の前の魔物にはそれを見て何かを考える知能は無いようで、無警戒に1匹が天人に飛び掛った。
天人はそれを高く飛び上がり躱す。するとちょうど天人が数瞬前まで立っていた所にその獣が着地し───
「───グルガァッ」
───鮮血が噴き出した。
当然と言えば当然である。何せ天人の背後には洞窟の鉱石が槍のように生えていたのだから。
神代天人の持つ技能は錬成。これは鉱石の形を自在に加工できる。しかし言ってしまえばそれだけ。出来ることは鍛治職人が精々……そう思われていた。
だが天人はこれを戦闘にも応用する。先程のように自らの足元に罠を作り、無警戒に飛びかかってきた魔物を串刺しにして致命傷を与えたり、それこそ騎士は今初めてそれを見たが、今のように洞窟の天井に取っ手を錬成してそれを掴むことで天井に避難することも。
そして剣を口に咥えた天人が天井から左腕を振るう。
放たれたのは鉱石で出来た短刀。
騎士の誰もがそう思っているが、実際には天人が洞窟内の鉱石を即席で錬成した
それがヒュンと風を切って狼の魔物へと迫る。しかしまだ2層目とは言えここはオルクス大迷宮。天井へと逃げた天人を2匹の魔物はしっかりと目で追っていて、天人の投擲した苦無も左右に散って躱した。だが天人にとって今の投擲は敵を動かすためのものだったようだ。
2手に散った狼のうちの1匹の背後へ天人は天井を蹴って飛び込む。そして壁面に足を付いて身体をバネの様に縮めると、それを解き放つ勢いで飛び上がり、その勢いで狼の腹を切り裂く。
視線を振られた狼はその一刀を躱すことが出来ずに腹から鮮血を噴き出して倒れ込んだ。すると天人はそれにはもう目もくれずに腰のポーチからもう1本の苦無を取り出して、左手首のスナップで残り1匹の狼へ向けて投げつける。
しかし2本角の狼はそれを事も無げに躱し、逆に3角飛びで天人に飛びかかる。だが天人は先程狼を斬り殺した時には既に足元を魔力光で光らせていたのだ。
飛びかかる狼の巨体とすれ違うように躱すと空中にある身体に手を添え、軌道を変えるように押し込む。その先には1匹目を殺したものよりは短い剣山があり、そこへ天人は狼の顔を叩き付けた。
「ギャウッ!」
顔に尖った鉱石が突き刺さった狼が叫び声をあげる。しかし天人はそんなことには全く頓着せずに白刃を煌めかせる。
鮮血に染められた刃が2本角の狼の喉笛を掻き切り、天人の前に立ち塞がった3匹の魔物は尽く息絶えた。
体力と地形を活かした3次元的な戦闘、己の技能をこれでもかと応用し罠を張り、かと思えば直接的かつ即興で武器を作り出し即座に攻撃に使用するアイデア。
天人にとってはこの程度はイ・ウーでシャーロックに叩き込まれた技術のほんの一端でしかないのだが、魔法と剣技による火力戦が多いハイリヒ王国騎士団と、そもそも戦争なんてものは歴史の教科書に書かれた文章か、精々がテレビの画面の向こう側で起きている出来事でしかない日本からやって来た光輝達にとって神代天人という人間の行う戦闘はどうしても奇異に映ってしまう。
そしてそんな視線を受けた天人が刃の血を払いながら振り向けば───
「……あれ、俺また何かやっちゃいました?」
真剣に驚いているコチラがまるで馬鹿に思える程に気の抜けた表情と声色でそう言い出すのであった。
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「───ってことがあったんだけどさ。あれ何だったの?」
俺はそう白崎に訊ねる。天之河達の顔を久々に見たのだが、それで前に彼らから変な目で見られたことが何度かあったことを思い出したのだ。だがそれを聞いた白崎は
「……はぁ」
と、1つ溜息をついてあの時のアイツらと全く同じ顔をした。あれ……これ俺が悪いのか……?
「あのね天人くん。そもそも普通の人は魔物を目の前にしたら怖いし、いきなりは戦えないよ?なのに天人くんは初めての筈なのに何にも怖くなさそうに魔物を倒すんだもん。私だって驚いたよ」
そしてジト目で俺を見上げながらそんな風にあの時の感想を伝えてくる。
「いやだって……俺ぁ魔物と戦うの初めてじゃないし……」
魔物なんてリムルの世界にいた時に散々ぱら殺したのだ。それに、その前だってアラガミなんていう、この世界でゴロゴロいる魔物の何十倍も強い化け物共とも殺し合ったのだ。あれに匹敵する魔物なんてこの世界じゃオルクス大迷宮の、それもかなり奥深くに潜らないと見かけないからな。俺からしたらあの程度の魔物なんてあの時の俺でも大した相手ではなかったのだが……。
「───えっ!?」
だが、俺のその言葉に白崎が大きく驚く。
「んー?」
「地球に魔物なんていなかったでしょ!?」
地球……?あれ……俺もしかして自分の世界の話を白崎には全くしてなかったっけ?
「あぁいや……俺ぁ白崎達とも違う地球から来たし……」
確かこの話は畑山先生にはした気がするけど、白崎達にはそこまで伝わっていなかったのかもしれない。そう言えば俺が畑山先生に話したエヒトのことも天之河は知らなかったみたいだったな。多分俺達のことはほとんど何も言っていないのだろう。
「しかも俺ぁこのトータスに来る前に色んな世界を彷徨ってたこともあるからな。とある世界にはここみたいに魔物もいたんだよ」
「は、初耳なんだけど……。え、ユエ達は知ってたの!?」
「……んっ。私は天人と初めて会った時に聞いた」
「私もですぅ」
「妾も聞いておったよ?」
「ミュウもお兄ちゃんが色んなたびをしてたのは聞いてたの!」
と、白崎以外はほぼ旧知の事実であった。
「それに、俺ぁ腕っ節で飯食ってたからなぁ。オルクスの底に落ちる前に見せたのなんて、別に大したもんじゃあないよ」
「……あのね天人くん。そもそも皆そんなことは知らないし、普通の高校生がいきなりあんなに動けたらビックリするんだよ?しかも魔法の適性が無い人が1番魔法の使い方が上手とか、鍛治職人が当たり前の錬成師なのにむしろそれを戦闘に応用するとか、普通は有り得ないんだからぁ!」
と、何故だか段々とボルテージの上がっていく白崎。どうやら俺があの一行と一緒にいた間に見せた戦闘はこの世界の常識と照らし合わせても中々意外なものだったらしい。それで皆ポカンとしてたのか……。
「みゅ、香織お姉ちゃん、お兄ちゃんは前から強かったの?」
と、俺の頭の上でミュウが白崎にそんなことを訊いている。強さで言えば、あの時の俺はイ・ウーを出てから1番弱かったんだけどな。まぁ今も後ろから2番目だけど。
「うーんとね、強いって言うか、色々凄かったんだよね。魔法無しなら私達の中で1番強かったのは確かだけど、魔法が使えないのに誰よりも実践的な魔法の扱いを知ってるし」
ふむふむと、ミュウは白崎の言っていることを分かっているのかどうかはともかく取り敢えず頷いている。
「やっぱりお兄ちゃんは強くて凄いの!」
「おー」
やっぱりあんまり分かってなさそうなミュウの出した結論に白崎は「そういうことなのかな……?」と首を傾げているが、逆にユエ達はミュウに同意するように「うんうん」と頷いている。
「まぁ俺ぁ喧嘩で飯食ってたからなぁ。普通の高校生にゃ簡単には負けらんないわけよ」
「……天人くんって───」
「んー?」
「……ううん。何でもなーい」
「んー?」
何だそりゃ。まぁいいか。俺の出自なんて大した話じゃあない。ユエ達には話していることだし、白崎が聞かなくていいと言うのなら別にそれでも構わないか。
「───グルガァッ!!」
すると、前方左右の茂みから魔物が2匹現れた。
───ドドパァッ!
が、別にあの程度の魔物であればホルスターに収めていた電磁加速式拳銃の不可視の弾丸の2発で脳漿を散らして終わりなんだけどね。
「ガルオォッ!!」
そして今度は俺の背後から魔物の唸り声。気配感知で把握した数は4匹……どうやら多少は頭を使える魔物のようで俺達を挟撃したつもりらしい。もっともその程度───
───ドパァッ!
俺の真横から飛び掛ってきた奴らにはそれぞれ1発ずつ弾丸を叩き込み
───ドドパァッ!
半歩振り向いて斜め後ろから俺達を挟むように飛び込んで来た2匹の頭を散らす。
それで俺は魔力を注いで気配感知の固有魔法の索敵範囲を広げる。シアもウサミミを立てて伏兵の存在を探り───
「……行くか」
「ですねぇ」
「はぁ……」
だが溜息をついたのが1人、白崎だ。何やらジト目で俺を睨んでいる。あれ……今度は何だろう……。
「やっぱり事も無げ……」
「あれ……俺また何かやっちゃった……?」
「はぁ……」