「あんた、自分がどういう選択をしたのか本当に分かってるの?」
あの後レクテイア組合を抜けた俺達はもうアーティファクトも外して夜道を歩いていた。ネモだけは一旦ノーチラスに戻るとかで、アーティファクトだけ俺に返してそのまま青い粒子と共に瞬間移動でどっかに消えていった。
それで俺とリサ、ルシフェリアにアリアとキンジだけになった駅への帰り道でアリアが俺に鋭い目線を向けてきたのだ。
「アメリカは"砦"の強硬派。日本もそれに追従しようとしている。しかも聞いたわよ、あんた日本の公安に従うか死ぬかの2択を迫られたって。そんな超要注意人物が堂々と扉派を宣言しちゃったら───消させるわよ」
アリアの目は本気だ。そして、その言葉があながち間違ってもいないことを俺は当然分かっている。下手をすればまたあの再生の聖痕が現れるだろう。
「そうだぜ天人。お前の言ってることは……確かに理想的なのかもしれないが……」
と、キンジもアリアに続いて俺に考え直すように訴えてくる。別に、コイツらはレクテイア人はこの地球に居ない方が良いとか思っているわけじゃあない。俺が堂々と扉派を宣言してしまったから、それを心配しているだけだ。それでも、俺の答えは変わらない。
「キンジ、アリア。俺ぁもう決めたんだよ、俺ぁレクテイア人の味方でいてやるってな」
「だけど……もし相手が手段を選ばなかったら?リサにレミアさん、ミュウちゃんまで危険な目に遭うかもしれないのよ?」
「そん時ゃ逃がす先はあるよ。言ったろ、俺ぁ色んな世界を巡ってきた。そん中にゃ俺達にも友好的な世界があるんだよ」
最悪、リサ達はトータスや香織達のいる地球に預けてしまえる。今の俺には魔力の制限が無いからな。今までは手早く世界を渡ろうと思ったら一旦聖痕の封印の無い地域まで飛んでから扉を開くっていう二度手間が必要だったが、もうそんな必要も無い。それこそ今この場で世界の隔たりを越えることだって可能なのだ。
そして魔力の制限がない今であれば仮に聖痕持ちと戦うことになったとしてもそれなりに勝算のある戦いになるだろう。俺とユエ、シアとティオの戦闘能力は今やそのレベルに達している。
「ご主人様……」
すると、リサが俺の裾をちょいと摘んで呼ぶ。
「んー?」
そして、夜を照らす街灯りに輝き薄く潤んだ瞳で俺を見上げ───
「リサは、メイドとして……いえ、ご主人様を愛する1人の女として、どんな時でもご主人様のお傍にいたいのです。戦いの役には立たないことは分かっています。それでも、リサをこの世界でご主人様が帰る場所、休む場所にしてほしいです」
とん……と、リサが俺の胸に飛び込む。それを抱き留め、柔らかいブロンドの髪の毛を梳いてやるとリサは俺の胸板に頭をグリグリと押し当ててきた。それがリサの不安や寂しさを表しているようで、俺はリサの腰を抱いて引き寄せた。
「ありがとな、リサ。リサが待っててくれるなら俺ぁ何とだって戦える、どんな戦いにだって勝てるよ。絶対に、リサの元へ帰るから」
俺はそうリサの耳元で囁いた。そしてリサも俺の腕の中で頷き「はい、はい……」と返してくれた。そして、本当ならもっとこうしてリサの身体の柔らかさや鼻腔を擽る香りを堪能していたかったのだが、キンジとアリアの目線がだいぶ厳しい上にルシフェリアが「我も抱くのじゃあー!」とか言って背中に飛び乗ってきたしで折角の雰囲気が壊れてしまった。
仕方なく俺はリサの身体を離し、俺の右手とリサの左手を繋いで家まで帰ることにした。そしてその間ずっと、アリアは俺を睨んでいたし、ルシフェリアは「我も主様と手を繋ぐのじゃ〜」とやかましかった。挙句にそのデカい胸に俺の腕を抱き込むものだから、リサが一瞬鬼の顔をしていらしたよ。
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「……それで?」
家に帰った俺達……と言うか俺は今またユエの前で正座させられていた。ユエ様はソファに腰掛け足を組んで俺を見下ろしている。細く生っ白い御御足が大変魅力的なのだが、今この場ではそこにうつつを抜かそうものなら大変冷たい視線が待っていることうけあい。しかも今日はなんとミュウまで起きて俺のことを待っていた。どうやらリサからメールで事情を多少聞いたらしいユエ達から、更にミュウも話を聞かされて待機していたらしい。そう本人が言ってた。
「はい、俺はヒノト達……レクテイア人の味方をすることにしました。それで、モリアーティが目指すみたいな急激なサード・エンゲージじゃなくてもっと穏やかなエンゲージを起こすつもりです」
「……ヒノトって子は直ぐに天人を信用してくれたの?」
ユエからの尋問は続く。これは結構お怒りだな……。そりゃあそうか。何の相談も無しにこんなこと決めちゃったんだもんな……。
「いや……。あぁでも、今はもうバッチリだよ」
「ふぅん。……どうやったの?」
「え……」
それはつまり、俺が1回心臓を貫かれたことを話せ、ということでしょうか。けど今のこの流れでそれを素直に話したらまたユエ達に余計な心配を……いや、それでもユエ達には嘘はつけないよな。
「……ヒノトは1本だけ、絶対に狙ったものの心臓を貫くっていう武器を持ってんだ。俺ぁそれを受け止めた。それで、心も力もレクテイア人達の味方でいられるって信じてもらえたよ」
「心臓を貫く武器……ということは天人さんはヒノトさんに心臓を貫かれたってことですよね?受け止めたということは氷焔之皇で無効にしたんじゃないでしょうし」
と、ユエの隣に座っていたシアからズバリの一言が。俺はその言葉に「はい、その通りです」と頷く。
その瞬間にはユエ達が俺に飛びついてきた。俺が今こうして生きているってことはどうやら平気なのだと分かってはいても、さすがに心臓を貫かれたと聞けば心配もしてしまうだろうな。
「……本当に、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、心配かけてゴメンな。でも大丈夫だから……俺ぁユエ達を置いてどこかに行ったりしないよ」
「……うん、うん……っ!」
ギュッと、ユエを抱きしめる。そこにシアやティオ、ジャンヌにレミアにエンディミラにと、皆が俺に飛び込んでくるもんだから受け止めるだけでも一苦労だ。けれどその重みを感じることは苦痛ではない。それだけ俺がこの子達に愛されているという証なのだから。俺はただ黙ってそれを受け入れていた。
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「あ、そう言えば天人さんとリサさんにこんなのが届いてましたよ」
少しして皆が落ち着いてきた頃、シアが俺とリサに封筒を手渡してきた。1人につき1封の国際郵便。態々俺達2人にこんな郵便を送ってくる奴の心当たりなんて1人しかいない。
「こ、これは……」
そして、これを出てきた人物にもその内容にも心当たりのあるリサはそれを見てビクリと身体を震わせ、そのまま俺の後ろに隠れてしまった。
「ご、ご主人様……」
「あれ、リサさん……?」
そんなリサの様子にシアがキョトンとしている。
「あぁ……サンキュな。中身は分かってるから後でちゃんと確認するよ」
中身の見当が付いて怖がっているリサを自分の前に持ってきて抱きしめてやりながら俺はシアからその封筒を受け取……ろうとしたのだが、何故かシアが封筒を離してくれない。クイクイと引っ張ってもシアは俺……って言うよりは俺に抱かれているリサを見ていた。
「何……?」
「これ、何なんですか?」
「んー?多分同窓会の案内だよ」
「同窓会……それで怖がることあります?しかも案内ですよ、これ」
「……んっ、イ・ウーの同窓会」
と、それを見ていたユエがそう言い当てる。そう、これはイ・ウー同窓会の案内状に他ならない。そして当然差出人は───
「そう、
シャーロック・ホームズその人だ。まったく、5月だか6月にやったばかりだというのにまた同窓会か。シャーロックも好きだねぇ。どうせ集まるメンバーなんてそんなにいないだろうに。
「またですか?」
「多分な」
「それで、何でリサさんはこんなにビビってるんですか?」
今だに俺から離れようとしないリサを見ながらシアがワザと煽るような口調で尋ねる。ちなみにだけど、リサは実はもう震えてもなくて、ただ俺に抱きしめられるのが嬉しいのかベッタリくっ付いて甘えの体勢に移行していたりする。ま、シアもそれはとっくに分かっててあんなトーンなんだろうけど。
あとリサさんや、シアの言葉で逆にさ俺にさらにピッタリくっ付いてくるのはどうなのよ?いや、俺的には全然構わないどころか嬉しいんだけどさ。なんかそれシアのこと煽ってない?
「ま、イ・ウーの同窓会だからなぁ。俺だって乗り気にゃならん」
という俺の言葉に納得したのかシアはそれっきりイ・ウーの同窓会については何か言ってくることもなかった。他のみんなもそんなに興味のあることではないのか、特に何を言うでもなく何となく今日はこのままお休みって空気になった……ところで俺の携帯に着信がある。こんな夜中に誰だろうかと思って発信元を見ればネモの番号からだ。
「もしもし?」
そういやアイツどこ行ってたんだろうかと思いつつ俺がその着信に出れば
「あぁ、天人。こんな時間にすまない」
と、少し緊張したような声色のネモに繋がった。
「いや。それよりどうした?」
「少し……話したいことがあるのだ。私のところまで来られるか?」
「あぁ。……どこにいんの?」
別に羅針盤で探してもいいけど魔力を使わずに済むならその方が幾らか楽なので聞いてしまおうと思ったのだが、ネモから出てきた答えは、俺の想像の斜め上の回答だった。
「九十九里浜という海岸線の沖合だ。今ノーチラスは日本の領海を航行していて、浮上したところだ」
Nの提督が操る原子力潜水艦が日本領海を堂々と潜航してていいのかよ……。とは思うけどまぁNはどこにでもいるらしいからな。日本の政府にも翼賛者はいるみたいだし。今更俺がどうこう言うものでもないか。
「分かった。……鍵でそっちに飛んでも大丈夫そうかな?」
「あぁ。問題無い。ここなら陸からでは何も見えないだろう。それから、もし可能ならルシフェリアと、他に何人か天人の家族も連れてきてほしい」
「んー?いいけど、何でさ」
ルシフェリアは分かる。ネモが今ノーチラスにいるのなら、レクテイアでもアイドル的な扱いだったらしいルシフェリアの存在は乗組員にとっても大きなもののはずだ。その無事を実際に目で見られるのだから意味はある。けれど他の奴らはどういうことなのだろうか。それも、元乗組員のエンディミラやテテティとレテティの指名ではなく、誰か数人程度ってのが分からん。何か目的があるんだろうが、無いとは思うけど仮にもしネモが俺達と戦うつもりだったとして、ここで俺がユエとシアとティオを連れて行ったらどうする?という疑問がある。だからきっと戦闘が目的ではない。
仮に誰かと戦うつもりならば逆にユエ達を指名するだろうからその線も消える。て言うか、戦う可能性があるなら最初からそう言っているだろうし。マジでネモの目的がよく分からんな。
ま、どっちにしろそれほど血生臭い目的ではないってのは確実っぽいし、あんまり気にしないでいいか。ネモのことだからそんなに変な目的でもないだろうしな。
「大したことではない。ただの紹介だよ」
紹介……誰に?
「……まぁいいや。じゃあ適当に行くわ」
「あぁ。待っている」
と、そこで俺は電話を切る。さて、誰に何をどう紹介するつもりかは知らないけど誰にするかな……。
ふと俺が顔を上げれば、皆がじっとこちらを見ている。リサは相変わらず俺に引っ付いたままだし、1人はリサでいいか。あとは……
「……ユエ、何か知らんがネモが何人か連れて来てくれって。……今から来れる?」
「……んっ」
ユエで大丈夫かな。武偵なら数日家を空けても問題無いし。シアでもいいんだけど、リサが抜けるとウチの家事力が激減するからレミアとシア、エンディミラの負担が増える。そこにシアまで抜けたら結構大変だと思うのでここはユエの方が良いかもな。
「えぇー!私も行きたいですぅ!」
「いや、態々そんなに連れてかなくても……」
「うぅ……駄目ですか?天人さん……」
「むぐっ……」
にべもなくシアの提案を却下したのだが、シアさんは俺の弱点を当然の如く分かり尽くしているので即座に涙目上目遣い。声も震わせてちょっと小首を傾げ……ウサミミもペタッとしている。うぅ……そんな……そんな可愛い顔しても……
「ま、ネモも何人か連れて来いって言ってたらいいか」
俺がシアの甘えに勝てるわけがないんだよなぁ。で、当然と言うかやっぱりと言うか、シアのそれは嘘泣きだったらしく、俺の言葉を聞いた瞬間には涙なんて無かったかのように消え失せ、直ぐ様ニコニコと花の咲くような笑顔を見せている。そんなシアをユエ達が胡散臭そうな目で見ているけど、最近はシアもこの手を使い慣れているからか、そんな視線も慣れたもんで気にする素振りもない。
「パパ……またお仕事なの?」
と、俺も最近は昼間でも家に居たが、それまでは結構家を空けることも多かったからかミュウが寂しそうな声を出した。けれども自分が俺の邪魔になってはいけないと感じているのか、それをなるべく堪えようとしているのも、直ぐに分かる。
「んー?……ちょっとネモお姉ちゃんの所に行くだけだよ。直ぐに帰るか……もしかしたらミュウが来てもいいかもな。その時ゃ迎えに行くよ」
ノーチラスの奴らであればミュウも海人族であることを隠さなくても良いだろう。むしろ、俺の家族にはこういう奴らもいるのだと知ってくれれば、ノーチラスの奴らからも信頼を得られるかもしれない。……って言うか、今そう考えて気付いたけど、ネモの言ってた『紹介』ってそういうことなのかもな。なら、むしろ皆でちょっとずつお邪魔するのも良いかもしれないな。
いずれは仲良くすることになるんだろうし、顔合わせだけでも先にしてしまうのも良いだろう。もしかしたら、ミュウと新しくお友達になってくれる奴もいるかもだし。
「みゅっ!待ってるの!なの!」
「おう」
じゃあ行ってくるよと俺は家族に告げ、越境鍵で扉を開く。そこから流れ込んでくる冷たい潮風は、けれども俺に悪い予感はさせなかった。
───────────────
潮風を浴びながら俺達はノーチラスの甲板に降り立った。そこにはもうネモが待っていて、俺達の姿を認めると1つ頷いた。
「おす」
「あぁ。リサとユエとシアか。……シアは耳を隠さないでいてくれるか?」
やはり、俺の予想通りネモは俺の家族をノーチラスの乗組員に紹介するつもりなのだ。それも、正体を明かさせて、この世界にはこういう奴らもいるのだと。人間とそうでない者も一緒に暮らせるのだと示すために。
「……はいですぅ」
一瞬シアが俺を見るが、1つ頷いた俺を見てシアも素直にアーティファクトを宝物庫に仕舞った。するとネモの目にもシアの愛らしいウサミミが認められる。すると、もう1人女の子が甲板に現れた。軍服を着た銀髪の女だ。ネモよりは背が高いけど、それでも小柄な褐色肌に縦ロールをしている。その子はシアを見て少しだけ驚き、そして直ぐにネモから折り畳んだ大きな黒い布を受け取った。
そしてセイル上の低いマストにそれを結んでいく。あれは……何かの旗か。
「天人、私は決めたぞ」
すると、それを見ながらネモが何か決意を込めたような声を出す。そして、耳元に付けたインカムに向かって何かを伝えながら、こちらに振り向いた。
そして、銀髪の女が掲げた旗を後ろ手でバッと風に乗せた。
「ネ、ネモ様。これは何でちか……?」
と、その女は舌っ足らずな上にやけに訛った英語でネモに問い掛ける。
ネモが広げた旗にはNの文字が刺繍されていた。これまでのNの旗は3本の鍵によってNの字を象っていた。けれどこの旗に描かれたNは十字マークを背景に"
随分と丁寧に保管されていたらしく、古い筈なのにかなり状態が良い旗だった。
「これは初代ノーチラス号艦旗。私の曾祖父であり海洋中の革命家───初代ネモの旗だ。文字は同じでもこれはノーチラスのNでありネモのNでもある」
それは……この旗をネモがこの艦に掲げることの意味は───
「───私がこの旗を掲げた今、ノーチラスはネモの艦になった。つまりこれは教授への反旗だ。エリーザ……我々はNを離脱するぞ」
ネモがそう宣言すると、エリーザというらしい銀髪の縦ロール少女は幾何学模様の化粧を施した両手で口を抑え、卒倒しそうになるのを堪えて改めてネモに敬礼をしている。どうやらモリアーティよりもネモに対する忠誠心の方が高いらしい。
「ネモ……」
ネモは軍帽の下から俺を覗き込む。そこから見えるターゴイズブルーの瞳に、俺は思わず吸い込まれそうになった。そして───
「天人、私はお前と同士になると決めたよ。お前と共に───この世界を変える」
そう、宣言した。
「あぁ。───宜しく、ネモ・リンカルン」
「こちらこそ。頼りにしているぞ、神代天人」
そして俺達は互いに握手を交わす。すると、握られた俺達の右手にリサとユエ、シア、ルシフェリアの手も重なった。
「私達のことも忘れないでほしいですぅ」
「……んっ。私達も、天人といつまでも」
「一生……どこまででもお供致します。ご主人様」
「1番大事な花嫁を忘れてはおらぬか?主様よ」
ここには今はティオ達はいないけれど、いたらきっと彼女達も手を重ねただろう。今ここに地球とトータス、レクテイア。神代家とノーチラスの間で交わされた同盟。こことレクテイア、トータスという3つの世界をそれぞれがルーツに持つ俺達。
聖痕の力、魔女の力、レクテイアの神、
「───リサ、ユエ、シア、ネモ、ルシフェリア。俺ぁお前達を守るよ」
「私はご主人様と皆様の生活を……帰る家を守ります」
「……そして私達が」
「天人さん達を守ります」
「皆がお互いを守りあう。正しく愛じゃな」
「ならば私達は世界を作ろう。異能も異形も……誰もが差別無く暮らせる世界に」
お互いがお互いにそう宣言し、そしてそれぞれが見つめ合う。こうして俺達の新たな同盟がここに誕生したのだった。
───────────────
何重ものハッチをくぐってノーチラスの中へと入った俺達は、ハシゴを降りていく。そうして辿り着いたそこには見渡す限り女だらけ。それも髪の色はトータスでも中々見られないレベルでカラフル。俺の周りの女子の髪色も大概だけど、ここは人数が多い分余計にそう感じるな。しかも髪色だけではない。
頭に角が生えてたり獣の耳が頭頂部からお見えしていたり、尻尾がある奴もいる。服装はセーラー服で統一されていて、襟の色で階級が分けられているっぽい。数からすると、青、紺、黒の順に偉くなるのかな。しかし下半身の衣類にはそれほど統一感はなく、靴や靴下はバラバラだ。スニーカーやローファー、ブーツにヒールなど、普通に外を歩いてもさして目立たない普通の靴からローラーブレードや裸足なんて言う変わり種もいる。
それ以外にも、皆が一様に武装している。ただ、それは俺達への警戒や常在戦場的なギスギスした雰囲気は感じられない。どちらかと言えば、武器も服の一部っていう空気感だ。この分だと、宝物庫がある分普段はあまり武装をしていない俺達の方が浮きそうだ。
そして、ネモの号令によりルシフェリアは乗員。俺とリサ、ユエにシアが乗客という扱いになる。また、今後時間をおいて何人かがまたこの鑑に乗ってくるという情報も伝えられた。名前こそ出さなかったけど、多分ジャンヌ達のことだろう。確かにアイツらも皆コイツらと顔合わせはさせておいた方が良いだろうな。
ルシフェリアはやはりここでは人気者のようで、直ぐにノーチラスの乗組員達に囲まれていた。アイツなら放っておいても大丈夫だろうと俺達は一旦ルシフェリア達から離れる。すると、リサが急にケモ耳とオオカミの尻尾を出すくらいに驚いていた。
見れば、リサの視線の先には青い襟のセーラー服にエプロンを増設したリサ激似のケモ耳少女がいたのだ。その子もリサのケモ耳に気付いてぴょこぴょこと──コイツにもオオカミのようなフサフサした尻尾がある──駆け寄ってきた。
そこでリサが「うるる……」と、舌だけを鳴らす独特の発声でその子に話しかけていた。どうやらその言語も俺達の言語理解の対象のようで、リサが何を話しているのかは直ぐに理解できた。
そこで俺も「うるる……るる……」と、挨拶代わりに会話に混ざる。言語理解を知っているリサはそれには特に驚くことはなかったが、もう1人のリサ激似の女の子──ミサというらしい──はケモ耳と尻尾を大きく立たせて驚いていたので俺はミサにも言語理解の固有魔法のことを話しておく。
しかしこの子はリサとは違って元気印と言うか、日本風に言えば一人称は"ボク"って感じだな。しかもリサの遠縁か……。つまり、リサのルーツはレクテイアにあったんだな。
リサはもうしばらくはこのミサと話していたいようだったが、ネモが先にこっちへ来てくれと言うのでリサも泣く泣く……というか2人揃って手を握りあって何か今生の別れ感を出していますね……。直ぐに会えるでしょ……。
と、俺取り敢えず話が進まなさそうだったので握りあった白い指を俺が解き、ユエ、シアと共にネモについて艦内を歩いていく。すると、そこで小声でネモから忠告があった。
曰く、この鑑にいるなら最初のうちはネモからなるべく離れるなということ。ここではレクテイア出身の奴らが多数派だから、半分はそちらの常識が通ってしまうこと。それにこの鑑には1度も陸に上がったことの無い奴らも多いらしく、特に男の俺に対して誰が何と思うかは分からないんだと。
俺達はそれにうんと頷いてネモに案内され、螺旋階段から艦橋へと向かう。
艦橋───ネモは発令所へと俺達を通した。ここは原子力潜水艦の心臓部にしてノーチラスの頭脳。要はネモの仕事場なわけだが、ネモが直々に俺達をここに案内することで、周りから『神代天人、リサ・アヴェ・デュ・アンク、ユエ、シア・ハウリアはノーチラスの敵ではない』という認識を持ってもらおうというわけだ。これはネモに感謝せねばなるまい。こうしておけばある程度の信頼は得られるからな。
ま、それでも警戒する奴はするんだろうし、そこは俺達がこれから頑張らなければならないことだ。
すると、シアがウサミミをビビっとさせて目を輝かせている。今度はウサミミのレクテイア人でも見つけたのかと思ってシアの視線を追えば、まさにその通り。頭頂部付近から立派なウサミミを生やしたレクテイア人がソナーステーションの席に体育座りでソナー係をやっていた。そして、その髪色と髪型は狙撃科の麒麟児ことレキによく似ていた。
今にも飛んでいってその子の手を握りそうなくらいにシアのウサミミが喜びに震えている。しかしこのノーチラスはどうやら潜航寸前。そんな状況のソナー係にいきなり突撃するのも邪魔になるので俺は一応シアの赤いセーラー服の背中の布を引っ掴んでおく。
すると、どうやらノーチラスの潜航が始まったようだ。そして、号令で分かったけどこのノーチラスの行き先はインドのムンバイ。はぁ……着々とあの野郎に近付いているな。
───────────────
その後、ネモからエリーザへと案内係が代わり、俺達が行かされたのは医務室。どうやら身体検査を受けろとのことらしい。
そしてそこで医者をやっていたのはクマ耳を生やしたガタイと乳のデカいお姉さん。潜水艦は気圧の変化が大きいからか喉や体温など、結構念入りに検査される。しかも、この閉鎖空間で伝染病なんて持ち込まれたら一巻の終わり……レクテイア人と地球人じゃ病原菌への耐性が全く違うのだ。
一応風疹や麻疹、インフルエンザの予防接種は受けているようだが、それも絶対とは言い切れないからな。もっとも、俺は毒耐性でウイルスには強いしユエも自動再生のせいか風邪なんてひいたことがないらしい。シアはまぁ……気合と根性の女の子なので多分平気。……なのだがここは一応血液検査にも応じておくことで信用を得る方が得策だろう。
と思ったのだが、リサにユエとシアはブラウスの下から聴診器を突っ込んだだけなのに、俺だけは上半身の服を全部脱がされ、挙句ベタベタとこの女医さんに身体中触られまくっている。
その手つきには何ら含むものがないからかユエとシアの視線もそれほど冷たいものではないのが救いだったが、どうやら女しか診たことのないコイツにとっては男の身体というのは興味の湧くものらしい。
ほぼ成体なのに乳房が無いとか何とか、胸も腹も背中もベタベタとまさぐられている。
「うーん、こっちはどうなっとるやろか?」
と、今度は俺のズボンのベルトを外そうとしてくる。一応性的な意味は一切なく、ただの知識欲であるから、俺は振り向いて一旦リサ達の方を見やる。するとユエとシアの2人が揃って即座に両手でバツ印を出したので俺はその女医さんの両手を掴む。
「あぁ……悪いんだけどこっちは見せたくないな」
「どうして?」
「ええと……」
とは言えなんて説明したら良いのだろうか。んー、そもそもレクテイア人は人間と生殖行為の方法が完全に異なるからか、性器に対しても恥ずかしいとかの考え方が完全に違うんだろうし。
けどそこは感覚の違いということで、こっちの考え方を素直に伝えた方が今後のことを考えれば楽かなぁ。
そう思った俺が
ト・ト・テ・テ・ター!と、急にラッパの音が艦内放送で響き渡る。その瞬間にクマ耳の女医さんは俺のベルトから手を離して勢い良く立ち上がった。
「何これ……?」
「時報でち。ノーチラスは食事と睡眠のローテーションがあるからちょくちょくラッパの音がなるんでち」
へぇ。俺がいた頃のイ・ウーにゃそんなの無かったなぁ。
「メシやメシ」
すると、女医さんはお腹が空いていたのかさっさと医務室を出ていってしまった。そしてエリーザも「何なら4人とも何か食っていけでち。今は食料にも余裕があるでちよ」と、俺達にも食事を提供してくれる様子。同じ釜の飯を食うって言葉もあるが、出された食事を食べることは信用の第1歩だからな。俺はそれほど空腹ってわけでもないけど、くれると言うのなら貰っておこうかな。