セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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その殺意を教えて

 

 

「……は?」

 

俺は思わず周りを見やる。時間を引き伸ばしたアーティファクト生成部屋でゴチャゴチャと作業をしていたその時だった。急に視界が塗り潰されたと思ったら、これまでの俺が生きてきた中で何度目とも知れぬ異世界転移。そして晴れた視界に映ったのは人工的な建物の景色、そして白衣を纏った成人男性───ただし、日本人ではなく欧米人であろうことは見て分かった。更に見渡せば知っている顔が1つと知らない顔が2つ。知ってる顔は男の顔だ。高校生くらいの日本人男性。そう特徴的な顔をしているわけではないが覚えている。

 

───そう、この顔は遠藤浩介だ。

 

そしてその後ろにいる女2人は知らない。1人は遠藤より歳下だろうか。こちらもまた欧米人と思われる顔立ちで綺麗な金髪をした可愛らしい面をしている。もっとも、その顔は驚愕に染っているが。

 

そしてもう1人の女も欧米人。こちらは俺よりも歳上……成人はしているであろう女だった。コイツも中々に美人だが、やはり驚きに表情が固定されていた。そして、そこで俺はここがどこだか思い当たる。ここはきっとイギリスだ。前に香織や遠藤に、何やら自分らの周りを嗅ぎ回っている奴らがいると聞いて、俺はジャンヌやメヌエット、最近はネモの力まで借りて調査をしていたのだ。そして判明した黒幕……その一端に対して俺は遠藤を派遣。そいつらのいた場所がたまたまイギリスだったのだ。

 

「……では、さようならだ」

 

そして、俺の頭が混乱から開放されそうになる中、流暢な英語でそう告げた白衣の男が後ろにある用水路にその身を投げた。

 

そして───

 

 

──ドウッ!!──

 

「……は?」

 

用水路の方で何かが爆発した。いや、この臭いは人の肉だ。肉が爆発したのだ。そして、その肉片はきっと、あの白衣の男性のものだ。何故入水した奴が更に自身の肉体を爆発させるなんて込み入った自殺をするのかは俺にはよく分からない。だが、遠藤にはその意味が分かっているようで……

 

「───神代!その肉片に触れるな!!」

 

「……んっ」

 

俺はその場でわけも分からず絶対零度を発動。俺達に降り注ぐ肉片の全てを銀氷にして消し飛ばす。

 

「後ついでに、何使ってもいいからこの排水施設を消し飛ばしてくれ!さっきの人の体内にはヤバい猛毒が仕込まれてるんだ、あれが外に流れ出したら世界が終わる!」

 

「……あいよ」

 

取り敢えず事情は後で聞く。どう見ても一般人の少女と、こちらは逆にカタギでは無さそうな雰囲気の女の記憶は後でどうにかしてしまうとして、どうやら切羽詰まっている様子の遠藤の言うことは聞いてやろう。

 

「出来れば熱量兵器がいい。あれは空気感染はしない」

 

「分かった」

 

ならば手段は決まった。後は───やるだけだな。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「じゃあ、頼む」

 

「んっ」

 

どうやら浄水場だったらしいこの施設。その屋上に出た俺達は眼下に莫大な量の水を臨む。確かにこの中に猛毒が紛れてんなら……それも、人が腹ん中に抱えた量の毒なら一大事なんてもんじゃあないのかもな。

 

「そこ動くなよ」

 

俺はそう言い残し空中へと跳び上がる。空力で宙を蹴り、上空へと駆け上がる。そして200メートルほど昇ってから今度は越境鍵で高度4000メートルの空へと飛び出した。そしてそこで宝物庫から召喚するのは太陽光収束兵器。

 

羅針盤で特定した座標へ向けてその火力を解放すれば、地上にある配水施設なんてのは光の槍に貫かれ呑み込まれて消滅する他ない。

 

まさか竜の世界じゃあるまいし結界で阻まれることも無ければこれくらいじゃあ一仕事にもならない。ふぅと一息吐いて越境鍵で地上へ戻り、遠藤の真横に降り立つ。するとそれを見ていた女2人は顎が外れそうなほどに驚いていて、そして───

 

「あぁ……エミリー、ヴァネッサ───」

 

遠藤が2人の名前と思わしきそれを呼ぶと───

 

「ひゅぅわ!?」

 

「あふっ!?」

 

大人の女に肩を貸していた少女は驚きに腰を抜かし、どうやら何ヶ所か銃創を負っているらしい女をコンクリートの床に落とした。しかも……

 

「………………」

 

ちょろちょろと、静まり返ったこの空間に小さな水音がする。少女の方が……ちょっと全身の力が抜けてしまったらしい。

 

しかも遠藤が持っていた無線からは何やら今俺が放った光を見たらしい奴らから「今のは何だ!?」的な通信が入っているし、床に落とされた女は割と重傷らしく、傷口が開いたとかで出血が酷いようで、顔色が真っ青になっている。

 

一体マジで何があったんだ……。

 

 

 

───────────────

 

 

 

俺達の目の前にはこの世界の地球におけるイギリスの保安局局長がいた。別に、あの事件の黒幕がこの人で、俺と遠藤はこれからこの人を拷問する───なんてことではない。だが、この人があの劇毒──ベルセルクと言って人の肉体を随分と変質させるものらしい──の最後のデータを持っていることは確かだった。

 

「貴方が魔王様?」

 

と、マグダネスと言うらしい局長が俺の目を見てそう問うた。

 

「えぇ、天人。神代天人。コイツらとは違う地球で別の世界への転移に巻き込まれて、そして帰ってきた魔王です」

 

「……違う地球?そう言えば、あの帰還者のリストに貴方の顔は無かったわね」

 

「異世界転移の話を信じるなら世界は2つある。そして、2つの世界があると知って、なんで世界はその2つだけだと思うんです?」

 

俺の返しにマグダネス局長は黙り込む。だがそれは一瞬で、直ぐに言葉を紡ぎ出した。

 

「なら貴方は、もうすぐ元の世界に帰るのかしら?」

 

「さてね。……どうにもコイツらのことを嗅ぎ回っている奴らがいるみたいでね。俺ぁその捜査もしてるんですよ。だから直ぐに帰るかどうかは……この世界次第ですかね」

 

最後のはマグダネス局長や遠藤達を嗅ぎ回っている奴らに向けているフリで、本音はこの世界そのものに対する愚痴。いきなり俺のことを呼び出しやがって。けど、あそこで呼び出されたってことはあのベルセルクが流出したらこの世界が終わっていた可能性があるってことだ。最近の俺は幾つもの世界の防衛機構みたいな扱いをされている気がするよ。

 

「と言うことは、またしばらくこっちに?」

 

「えぇ。それと、コイツらに下手なちょっかいかけるなら……次はバッキンガム宮殿が消えるかも」

 

「そんなことはしないわ。あれを見て、貴方達と事を構えるなんて馬鹿な真似は国防の一端を担う者として出来ないもの」

 

そしてマグダネス局長はふぅと一息ついた。

 

「どっちみち、帰ってもまたこの世界に何かあれば俺ぁ今回みたいに強制的に呼び出されて、それの片付けをさせられるんでしょうけど。……そりゃあこの世界がそうしているだけで、コイツらとは関係無いんですよ」

 

だからもうちょっかいはかけないでね、という俺の脅しが通じたのか通じていないのか。マグダネス局長は表情を崩していなかった。ま、さっきは遠藤に──グランド・エミリーの一家をこっそり守れ──なんて脅しをかけられていたらかな。2度目は慣れたもんってわけだ。

 

「ま、お互い仲良くやりましょうよ。……具体的にはこっちにも俺達の拠点とか欲しいな」

 

俺達って言うかハウリア達の、だけど。シアは俺達の方にいるけどこっちにはラナがいるからな。お互いの行き来のためのインフラは整備しておきたいのだ。そしてやはり、インフラ整備には地元住民の協力ってやつが必要不可欠でしょ?

 

「勿論、アンタら(イギリス)にも利益のある話だと思いますよ?」

 

流石に苦虫を噛み潰したような顔をしたマグダネス局長に俺はそう囁く。

 

「確かに、貴方達と喧嘩するなんてことは───」

 

「違いますよ、今のはそんな脅しじゃありません。俺達が飛ばされた世界の魔法……ではないですけどね。俺ん地球にはこっちにはまだ無い技術があるんですよ」

 

と、俺は宝物庫から予備のワイシャツを取り出す。だが、パッと見は何の変哲もない白いワイシャツだけに、マグダネス局長はそれが何なのか理解が及んでいないようだった。

 

「それは……?」

 

「ワイシャツですよ。防弾防刃性のね。どうにもこっちには防弾防刃性の衣類を量産する縫製技術は無いみたいですから。……これはアドバンテージだと思いますよ?普通の衣類と同じ重さで弾丸もナイフも通さないワイシャツ。警察、軍隊……表には出せない特殊部隊etc…etc(エトセトラ)……。ま、どう使うかは任せますけど」

 

と、俺からワイシャツを受け取ったマグダネス局長はふむと頷きそれを眺める。

 

「……試します?」

 

「いえ、止めておくわ。だってこの薄さだもの。貫通は防いでも衝撃は消してくれないでしょ?」

 

「ま、そりゃあね。衝撃も分散してくれる超軽量アーマーも見たことはありますけど、俺ぁそんな高級品は持ってねぇですから」

 

前にエリア51に突撃する仕事の時に見たが、ジーサードが確かそんなやつを持っていたな。多重結界のある俺にとってはそれほど魅力のある物ではなかったが、あれだってこっちの奴らからしたら垂涎物だろうな。

 

「じゃ、俺ぁもう帰りますよ。俺んせいじゃないけど、俺ぁパスポートも持たずにここにいる不法入国者ですから」

 

だいたい、着の身着のまま別の世界に飛ばされて、それで世界を危機から1つ救うなんてことを予告も無しにやらせる世界さんは俺に期待し過ぎだと思うんですよ。しかも俺の意思なんてまるっと無視。こちとら機械じゃねぇんだからそんな歯車みたいに働いてられないってんだ。

 

と言う俺の愚痴は胸の中に仕舞ったまま俺はマグダネス局長の部屋から去る。もちろん歩いてゆっくり退室なんて真似はしない。いつでもお前の目の前に現れられるぞというパフォーマンスも兼ねて、越境鍵でノーチラスのエントランスまで世界の扉を開いたのだった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

1人でノーチラスを探検していたら急に異世界に召喚されたシアを取り戻してからまた数日。しかもその直後にはまた俺1人異世界転移によって香織達の世界のイギリス───ひいてはあの世界そのものを救ってからさらに数日。その間にミュウはノーチラスの乗組員達に猫っ可愛がりされるようになり、その母であるレミアも結構受け入れられているみたいだった。

 

もちろんそこにはエンディミラやテテティとレテティの協力もある。テテティとレテティは今もまだ言葉を話せるには至っていないけれど、身振り手振りで意思や思いを伝えてくれるし、それはここの奴らも皆分かっている事だった。

 

それに、霊長類としての人間ではあるが超能力者(ステルス)であるジャンヌや、あんまりコミュニケーションが得意ではないタイプの女の子であるユエも、やはり吸血鬼族であり人間ではないことが彼女達の警戒心を薄くするのか、割とすんなりと馴染んでいるように見える。もちろん、シアやティオは言わずもがな。

 

俺はと言えば、そんな彼女達と仲が良いからだろうか、リサ達ほどではないけれど段々と話しかけてくれる子も増えてきていた。

 

とは言えそこはまだ恐る恐るといった風の子が殆どだし、警戒心を持って遠巻きに見ている子達が多数派ではあるのだが……。

 

ちなみにノーチラスの乗組員でネモと(そういや初日でネモにさり気なくそういうことにされていた)ルシフェリアを除けば俺に対して1番好感度が高そうなのはミサだ。理由は俺とリサが仲良しだから……ではなく、俺が越境鍵で時折陸上に戻って食料の調達を行っているからだ。正確には俺だけが行くわけじゃなく、シアやリサ、レミアといったノーチラスでお食事を作ってくれる人達の誰かと一緒に行くのだけれど、基本的にノーチラスから瞬間移動をするための道具は俺の持ち物であることは分かっているから、やはり俺がノーチラスの食料庫───特に長期間航海を行う艦にとっては燃料弾薬並に重要な甘味に余裕を持たせていることは大きいらしい。

 

甘味は昔からどこの海軍でも人間のストレス緩和の為に重要な物資とされていた。甘いものが無くなるとあの紀律正しい海上自衛隊の人達ですら暴動を起こすとか強襲科で聞いたことがあるくらいだ。

 

だからここノーチラスでも甘味の残量はかなり厳格に管理されている。しかし俺達の魔法があれば取り敢えず買う金さえくれれば日本でもフランスでもインドでも、どこへでも行って買って来れる。

 

しかも宝物庫があるから買い物袋に入れて持てる量だけ、なんてケチなことは言わなくていいのだ。最悪物陰で越境鍵を使って食料庫に直接放り投げても良いし。

 

そうやって果物、砂糖、お菓子等々……俺はリサやミサの(めい)を受けて時々甘味やその他食材を入手していたのだ。

 

そのおかげか、ミサだけは俺に対して比較的柔らかい態度で接してくれている。そして、そんな中で俺は艦内の雰囲気が浮き足立っているのを感じていた。

 

「……今日は何かイベントでもあんの?」

 

ふと、教室のモップかけをしてくれていたリサに訊ねる。

 

「もうすぐノーチラスが浮上するようですよ。まだ上陸ではありませんが」

 

「海の上で日光浴するんだ。ぼくも行く」

 

リサにそっくりのお顔とスタイルをしているのに結構男っぽい喋り方をするのがミサ。顔が顔だけにそのギャップは結構クるものがあるな。そんなこと、誰にも言わないけどね。

 

俺はノーチラスにいる間も越境鍵で食い物を買いに出たり香織達の地球の方へ行ってゴタゴタに手を貸したりしているから、潜水艦の中で生活している割には陽の光も浴びている。だから俺としては今聞いた話はそれほどテンションの上がる情報ではなかったけれど、そんな不粋は俺だけでありノーチラスの乗組員にとってはとても楽しみなイベントなのだろう。それに水を差しちゃ悪いしな、ここは俺もそれなりに楽しみにしている体でいこうか。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「深度ゼロ!浮上したー!!」

 

「外気温29度、晴れ!!」

 

「太陽だぁー!!」

 

そのうち、大はしゃぎする乗組員達の声が響いてきた。どうやらノーチラスが浮上したらしい。しかも外の天気は快晴。聞こえてきた気温からすれば、涼し過ぎるくらいのノーチラスから出て日光浴をするにはこれ以上ないくらいのベストコンディションに思える。

 

「はいはい、お目目閉じましょうね」

 

「分かってるってば」

 

すると、俺はその瞬間に後ろからやって来ていたシアの両手で視界を塞がれる。なにせ、ノーチラスが浮上した途端にそこら中にいたノーチラスの乗組員達がみーんな一斉に着ていた衣類を脱ぎ捨てたのだ。元々女の子しかいないノーチラスには更衣室の概念が無い。挙句男の目線というものを気にしない世界からやって来た奴らばかりなので当然俺がいようがいまいが普通に全員服を脱ぐ。

 

幾ら何でもそんな背徳的な光景を俺の視界に入れるわけにはいかないからな。シアの行動は迅速かつ的確なのだ。

 

で、俺は背中に触れるシアの身体の感触に違和感を覚えて後ろ手にペタペタとシアの身体を触る。ふむ、いつも通りお尻も太ももも柔らかくて触り心地が最高……いや、そうではなくてね。やはりシアも武偵高のセーラー服を着ていないな。だからってトータスでよく着ていた兎人族の露出過多な民族衣装でもないし。この布面積……この触り心地は───

 

「あ、あのぉ……天人さん?いきなりそんなに触られると幾ら何でも恥ずかしいと言いますか……」

 

「───水着着てる?」

 

「あ、はいですぅ。甲板上で水着パーティーをするとのことだったので、着替えてきました」

 

なるほど、だから皆して急に衣類を脱ぎ捨ててどっかに行ったのか。

 

と、どうやら周りから人がいなくなったらしく、シアが俺の視界を覆っていた手を外してくれる。それで俺が振り返るとそこには薄い桃色のビキニ水着を着ているシアがいた。しかもさっき触ったから分かったけどハーフバックのかなり露出が激しいやつ。まぁシアは民族衣装からしてだいぶ肌見せが激しいけどね。

 

「お、新しいやつ?似合ってるよ」

 

確か前にイタリアで見た時はブルーのやつだった気がするから、新しいのを買っていたのだろう。

 

「えへへ。ありがとうございます。この前のは1人で買ったんですが、夏にまた皆さんと買ったんですぅ」

 

そういやイタリアに行った時は一緒にいたのはシアだけだったな。あの時はシアが俺とイタリアの海で遊んだ話をしたら皆に睨まれたもんだ。まぁ、その後にちゃんとフォローはしたけどね。

 

「ミュウとエンディミラ達は先に行っておるようじゃよ」

 

すると、シアの後ろから水着に着替えたティオもやってきた。ティオは黒いホルターネック・ビキニというやつを着ていて、腰にはレースのような形状の同色のパレオを巻いている。

 

それと、珍しく髪を結わっているな。ポニーテールか。これまたティオにしては珍しく、可愛らしい大きなリボンで結ばれている美しく長い黒髪が歩調に合わせてふわりと左右に振り子のように揺れていた。腰に手を当て凛と立つ姿と後頭部のリボンのギャップが愛らしい。

 

「おー、そうやって結ってんの珍しいじゃん。んー、綺麗だよ、ティオ」

 

「ふふっ。ありがとうなのじゃ」

 

俺に褒められてティオは頬を染める。それがまるで少女のようで、普段の大人びた……って言うか実際俺達の誰よりも歳上なティオとのギャップに俺はクラりとしてしまう。

 

「あれ、ユエとジャンヌは?」

 

ミュウがもう行ったということはレミアももう上にいるのだろう。リサも多分そうだろうし、エンディミラもいないということはテテティ達も一緒なんだろうな。すると残るはユエとジャンヌだ。

 

「あぁ、あの2人は───」

 

「……んっ、ほら、早く来て。似合ってるから大丈夫」

 

すると、向こうからユエの声が聞こえてくる。それと同時にユエの綺麗な金髪もフワリとお目見えだ。そしてそのユエが小さい身体を懸命に使って誰かを引っ張ってきた。───誰かを、というかジャンヌだ。

 

2人とも同じ形の水着───バンドゥ・ビキニを着ている。どうやら花柄で揃えた所謂お揃いコーデのようだ。ユエはヒマワリが咲いた水着を、ジャンヌは青いアサガオが咲いた水着を着ていた。

 

「……天人、どう?」

 

と、やたらと抵抗するジャンヌに対してユエは珍しく魔力を身体能力に変換してまで無理矢理に引っ張ってきて俺の前に立たせた。それと並んでこちらに水着を強調するように胸を張ったユエの、金髪をツインテールに結わった頭を撫でながら

 

「んっ、よく似合ってる。可愛いよ」

 

と俺は素直に褒める。女の子が新しい服を着ていたら取り敢えず褒めろってのは昔っからジャンヌが俺に教え込んだことだからな。

 

「ジャンヌも、その髪型も水着も、どっちもスゲェ似合ってるよ」

 

ジャンヌは輝くような銀髪を編み込んで纏めて一房にして肩から垂らしていた。普段はポニテの多いジャンヌには珍しい髪型だったから、俺はそこも褒めてやる。実際、黙ってりゃ大人びているジャンヌの雰囲気にはよく合っていると思ったからな。

 

「そ、そうか……。うん、ありがと……」

 

なんじゃそりゃ、可愛すぎるだろそれ。普段は堂々と胸を張って自信満々って感じのジャンヌが、そんな風に頬を染めたりしながら顔の横に垂らした髪を弄っている姿が俺の心に刺さる。

 

しかもいつもは男勝りな口調なのにこういう時だけしおらしくなるのは反則でしょうよ。

 

「……ジャンヌ、こういう水着着たことないからって恥ずかしがってる」

 

ツンツンと、ユエがジャンヌの頬を(つつ)いて弄る。あぁ、だから今更水着で照れてんのね。そんなに派手な水着でもなかったからなんであんなに渋ってたのか分からなかったけど、そういうことか。ジャンヌは同性からはかなりモテるし、その自覚もあるんだけど、幼少期から男勝りに育てられてきたせいか男から見た自分の可愛さにはあまり自覚的ではないんだよな。

 

まぁ、だからジャンヌは昔から俺に"女は褒めろ"と教えてきたわけだが。

 

「大丈夫だよジャンヌ。ジャンヌは可愛いよ。俺が保証する」

 

俺はそう言ってジャンヌの柔らかな頬を撫でる。するとジャンヌは「うん」と頷きながら俺の右手に自分の左手を重ねた。

 

「はいはい、では行きましょう!」

 

このままだとずっと動かなさそうな気配を感じ取ったのか、シアが声を掛けて歩き出した。俺もそのままジャンヌの左手を握り、ぴょこぴょこと尻尾を揺らしているシアの後ろを着いていく。

 

そうして甲板へと続く階段を上がれば、俺達は太陽の元へと顔を出すのであった。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「みゅ、パパやっと来たの〜!」

 

「おー」

 

噎せ返るような海水の匂いと11月とは思えない真夏の日差しの中、外に出る前に宝物庫を使った早着替えで水着を着ていた俺をまず出迎えたのはミュウだった。

 

ミュウの水着はピンクのワンピース。その後ろにいるレミアはフリルで飾られた白と桃色のオフショルダー・ビキニだった。

 

「んっ、レミアもそれ似合ってるよ」

 

と、俺は飛び込んできたミュウを抱え上げながらレミアの水着もちゃんと褒める。するとレミアは「うふふ。ありがとうございます」とはにかみながら返してきた。

 

「ミュウは?ミュウは?」

 

「んー?もち、ミュウもかわいいの買ったじゃん」

 

ミュウも褒めて!って顔に書いてあったし、実際可愛らしかったので俺は素直にそう褒めてやる。そうすればミュウも「えへへ」とアンダマン海のアクアマリン・ブルーの海の輝きにも引けを取らない笑顔を見せてくれる。

 

周りを見渡せば全長にして約200メートルはあるノーチラスの甲板の上に、数10メートルおきくらいの感覚でビニールプールが広げられていて、そこかしこでケモ耳ケモ尻尾の女の子達がキャイキャイはしゃいでいる。

 

原水はほぼ無限に淡水を作れるからな。ここではシャワーですら自由なのだった。当然、屋外プールを設営しての水着パーティーすら水の残量なんてきにせずに行える。

 

ただ、リサやミサのような給仕係はトロピカルジュースやフルーツをあちらこちらに配ったりしていて大忙し、という雰囲気だ。

 

あと向こうで何故かお揃いのスク水を着ているテテティとレテティが、白いビキニを着たルシフェリアの頭の角で輪投げ遊びをしている。あの民族衣装よりも露出の少ない水着を着ているルシフェリアは、頭の角に引っ掛かった輪っかを頭を振ってまたテテティ達に返している。それってそんな風に遊んでいいものなんだな……。

 

「天人!」

 

すると、エンディミラが俺達の方へ駆け寄ってくる。パタパタと走ってくるもんだから赤い花柄のビキニに包まれた大きな胸が暴れ回っていて目にお優しい。

 

「おう、エンディミラ。……んっ、エンディミラも水着似合ってるよ。可愛い」

 

「あっ……。はい、ありがとうございます……」

 

俺の目の前に立ったエンディミラの頬を撫でながらそんなことを言ってやると、エンディミラも照れながらさらに1歩近寄り、トンと俺の胸に収まる。そう言えば、ユエ達の水着は夏に皆で買いに行ったとシアが言っていたけれど、エンディミラがウチに来たのは秋頃だったハズ。この水着はノーチラスに常備されているものなのだろうか。

 

「ふふっ、エンディミラ様達の水着は後で通販で買ったものです」

 

すると、こちらも明るい花柄のビキニを着たリサがフルーツジュースを皆に配りながらそう教えてくれる。

 

「へぇ」

 

本当はテテティとレテティがスク水を着ている理由も聞きたかったのだけど、それは何となく答えを聞くことが怖かったので敢えて聞かないでおこう。

 

「サイズも測ってから買ったので大丈夫でした」

 

リサからジュースを手渡されたエンディミラがそう答える。ただ、リサからジュースを受け取り、その代わりくっ付いていた俺から1歩離れたのだが、その隙にリサがするりと俺の腕を絡め取ったのでやや不機嫌そう。

 

しかも、リサは敢えて他の奴らからジュースを配り、俺に抱きついていたエンディミラを俺から引き剥がすことを後回しにしたことで自分が他の子にジュースを配るっていう隙を最低限にする強かさも見せていた。

 

「リサもそれ、新しいやつだろ?可愛いよ」

 

とは言え俺もリサの水着を褒めないわけにはいかない。お決まりの文句とは言え心からの感想を伝えればリサも嬉しそうに微笑み更にギュッと俺に抱きついてきた。

 

「ありがとうございます、ご主人様」

 

しかしまだ仕事が山ほどあるリサは俺と触れるだけの口付けを交わして直ぐに身体を離した。俺はそれに寂しさも覚えるけれど、仕方のないことなので「頑張って」とだけ残してリサの後ろ姿を見送った。

 

「ではあちらへ行きましょう」

 

すると、1歩先んじたエンディミラが俺の左手を取り、腕ごとその大きく実った果実の間に挟み込むのであった。行き先は、きっとテテティとレテティのところだろう。

 

 

 

───────────────

 

 

 

「これ……」

 

「んー?……あぁ、ありがと」

 

あの後ミュウやテテティ、レテティ達とも遊び呆けた俺は他の奴らから少し距離を置いて喧騒を眺めるように甲板の上に座り込んでいた。モリアーティがレクテイア人達を使ってこの世界で何をしようとしているのか、俺は足りない頭を使って考えていたのだ。

 

眼下には深い海が広がっていて、まるで手招きでもされているかのようだった。

 

するとそこへ、エリーザがやって来て俺にジュースを手渡した。この前の詫びのつもりなのだろうか、どこか所在なさげと言うか落ち着きのない感じだ。

 

まぁいいかと俺は渡されたジュースに刺さっていたストローでそれを飲む。すると、俺の固有魔法である()()()に反応があった。これ───エリーザに一服盛られたってことか。

 

俺は耐性に任せて更にそれを飲み込み、捕食者の胃袋に入れて解析を試みる。そしてその結果は───睡眠薬(ミンザイ)と思われた。多分、3交替で勤務するノーチラスで寝れないのは辛いだろうから、寝付けない子のために用意されているんだろうな。クマの船医もいたし。

 

俺がいるのは甲板の端っこ、すぐ下は海だ。しかも潜水艦の外縁は取っ掛りがなく、落ちたら普通は自力では上がれない。

 

どうにもエリーザの殺意は俺の想像より激しいらしい。あれでは諦めずに今度は毒を持って更に海へと突き落とすつもりなのだろう。

 

俺には上に戻る手段は幾らでもあるが、だからそこエリーザは睡眠薬を持ったのだろう。しかもこの量……寝るっていうか死ぬだろこれ、普通の奴なら。ま、下は海だ。寝落ちして転げ落ちるか、最悪突き飛ばしてしまっても証拠は残るまい。

 

まぁ、レクテイア人を知りたいと言ったのは俺だからな。こういう殺意も敵意も全部知っておかなければならない。自分の都合の良い面だけを見ても、本当にそいつを知ったとは言えないからな。

 

渡された睡眠薬入りのジュースをズズっと一気に飲み干すとコップを脇に置いた。

 

「ご馳走様」

 

「はいでち」

 

神経毒じゃないからかエリーザは俺が寝落ちするのを気長に待つつもりらしい。コップを預かると、それをリサ達の方へ戻しに行った。

 

しかし、睡眠薬が効いたわけじゃないけれど確かに少し眠くなってきた。多分慣れない考え事なんてしていたからだな。

 

と、俺は1つ大きな欠伸。そして体育座りをして立てた膝にデコを乗せた。それから数分後、俺の背後にエリーザの気配。そろりそろりと寄ってきていて、きっと俺が睡眠薬で寝入ったと思い込んで後ろから突き飛ばす算段なのだろう。

 

そうしてエリーザが俺の真後ろに到着。遂にその殺意の牙が俺に向けられた───

 

「えっ……!?わ、わわわ……っ!───あっ」

 

だが俺も黙って突き飛ばされる必要も無い。エリーザが俺を海に落とそうとした瞬間に真横に転がり、エリーザの両手を避けた。

 

しかしそれは良かったものの、俺の予想以上に思いっきりいこうとしていたらしいエリーザがその勢いを殺し切れずに足を滑らせ、浮上して停泊中だったノーチラスから眼下の海へと落下してしまった───

 

「ちょっ───」

 

「きゃっ───!ぁ……」

 

ゴンゴンと転がり落ちながら何度か頭をノーチラスの丸い壁面へとぶつけ、最後には何ら抵抗の動きを見せることなく海の中へと落ちるエリーザ。しかも直ぐには浮かんでこない。あれは失神した奴の落ち方だぞ……っ!

 

「あぁもう……っ!」

 

幸い俺も水着を着ている。海の中に潜る分には何の問題も無しだと、躊躇うことなく海中へダイブ。水中へ潜って直ぐにまずは真上に向かい浮上。

 

すると俺の真横からエリーザが浮いてきた。だがうつ伏せに浮いてきたのはあまり良いとは言えないな。このままだと直ぐに溺死してしまう。

 

俺は直ぐにエリーザを抱きかかえて顔を上げさせる。すると鼻や口から少量の水が流れ出る。うん、ある意味失神してから海中に落ちたのは運が良かったな。人間、パニくると自分から肺に水を入れてしまうことがあり、そうなると誤嚥性肺炎とかの危険性があるんだ。

 

「エリーザ、おい、エリーザ!」

 

そして、俺はエリーザに呼び掛ける。そうすると「う……ん……」と僅かだが反応が返ってきた。グッタリはしているけれど意識レベルはまぁ大丈夫(JCS20)って感じかな。

 

さてさて、上じゃバーベキューをやっていたけど、ある意味幸いだな。俺がこっそりエリーザを運んでも誰もこっちを気にしていない。重力操作のスキルで空を飛ぼうが空力でポンポンと飛び上がろうがバレずに上がれるからな。

 

俺はエリーザを抱き抱えたまま重力操作のスキルでフワリと浮き上がる。海中から全身を浮かび上がらせ、そのまま真上に昇ってノーチラスの甲板上へと舞い戻った。

 

「エリーザ、大丈夫か?」

 

頭を打った奴を揺するのは良くないから、俺はエリーザの肩をつついて呼び掛ける。するとエリーザは「う……うう……」と唸りながらも瞼を震わせながら目を開いた。

 

「大丈夫か?気分悪いとかないか?」

 

「うっ……ない……でち……」

 

薬物を盛って殺そうとした挙句にその相手に助けられたからか、エリーザはどこか居心地が悪そう。意識も体調も問題無さそうだが、俺と目を合わせてくれない。

 

「そうか、それなら良かったよ。けど頭打ってたからな。一応後で医務室で診てもらえ?」

 

「でも……」

 

「甲板のプールで遊んでて転んで頭打ったって言えばいいだろ」

 

案外真面目というか正直者というか、あのクマの女医さんに頭を打った理由を話したくなさそうなエリーザに俺はそう助け舟を出してやる。こんなの、適当にでっち上げちまえばいいのにな。

 

「なんで───」

 

「……天人、どうしたの?さっき下から浮いてきたけど」

 

すると、エリーザが何かを言いかけたタイミングでユエがやって来た。どうやらユエにはさっきの浮上を見られていたらしい。後ろからルシフェリアもトコトコと着いてきている。

 

「んー?いやぁ、遊んでたらエリーザが脚ぃ滑らせて下に落ちちゃってな。頭も打ってたから大丈夫かなって」

 

嘘は言っていない。俺はユエには嘘をつけない。俺からすれば俺を狙ってのあの程度の殺しなんて遊びと変わらない。俺の身体には睡眠薬も効果が無ければ、海に落とされたくらいで溺れて死ぬわけもないのだから。

 

「ふぅん……」

 

だが、流石はユエ様である。俺がちょっとだけ言い回しを変えたことには直ぐに気付いたらしい。ジト目で俺とエリーザを見比べている。

 

『本当は睡眠薬盛られて海に突き落とされそうになった。薬は効いてない。ただ、突き飛ばされんのも避けたらエリーザが勢い余って落ちちゃったんだよ』

 

一応ユエには念話で本当のホントのことを伝えておく。それを聞いたユエは「はぁ」と1つ大きな溜息。エリーザはエリーザで俺がユエにも誤魔化そうとしたからか驚きで目をパチクリさせていた。

 

「なんじゃ、主様のことだからエリーザとイケナイ水遊びでもしておったのかと思ったぞ」

 

と、ルシフェリアからは大変頭の悪そうな単語が飛び出してきた。なんだよイケナイ水遊びって。意味分からんわ。

 

「してねぇわ、んなこと。だいたい、水遊びにイケナイも何もねぇだろ」

 

「ふふふ、では我が主様にイケナイ水遊びを教えてやろう───」

 

「───あ、あのっ!」

 

俺とルシフェリアの会話の偏差値が下がり始めた頃、エリーザが声を上げた。その声は思いの外大きく、元々注目を集めるルシフェリアがこっちに来ていたのもあって「なんだなんだ」と言うように他のノーチラスの乗組員もぞろぞろ集まり始めてきた。

 

すると、エリーザはそれにも関わらずルシフェリアに向けて急に土下座───いつでも首を落とせる体勢をとったのだ。

 

それにユエもルシフェリアも驚きに目を見開き、集まってきたレクテイア人達も何事かとザワつき始める。しかもそれがさらに人を呼び、どんどんと俺達の周りにはノーチラスの乗組員が集まってきた。

 

「ルシフェリア様、私は……私は神代天人を殺そうとしたでち。睡眠薬を盛り、海に突き落とそうとしたのでち。それも、殺そうとしたのはこれで2度目でちた。それでも彼は私を許し、黙っていてくれたのでち!」

 

げ……ノーチラスのNo.2であるエリーザが俺を───男を殺そうとしたなんていう事実はこれからの歩み寄りにも支障が出るだろうし、何より俺を乗せたネモの顔に泥を塗ってしまうだろうからと黙っていたのだけど、本人の口から出てきちゃったよ。

 

「な、なんじゃと……主様を……殺そうとしたじゃと……っ!」

 

しかも俺を殺そうとしたことそのものがルシフェリアの逆鱗に触れたっぽい。わさぁっとルシフェリアの後ろ髪が持ち上がり、彼女の放つ気配がこれまでのどれよりも鋭く大きく……強大な力を感じさせるぞ。

 

しかも何か黒いオーラ?みたいなのが現れてるし、頭の角も大きくなって後ろには黒い輪っかも生じ始めた。……うわ、今の話を聞いていたらしいシアとティオも出てきちゃった。しかも2人ともそれぞれ淡青と黒い魔力光と殺気が溢れてきている。それを見て他のレクテイア人達は2人から逃げるように距離を置きはじめたぞ。

 

「待てルシフェリア、シアもティオも。俺ぁ大丈夫だから。そもそも武偵の───それも強襲科なんて(たま)ん取り合いが日常なんだからさ。ホント、じゃれあいみたいなもんなんだよ」

 

それに、切った張ったが常の強襲科武偵が一々殺されそうになっただのなんだのとチクっていたら良い笑いものだからなと、3人の殺意を抑えるように言うと、それでようやく3人とも気配を収めてくれた。

 

「主様は許すようじゃが、我はそうはいかん。この場は主様に免じて見逃すが、今我と主様は神聖な決闘の最中じゃ。確かに1勝3敗と負け越してはおるが、今に逆転するからの。エリーザよ、貴様が主様を殺すということは、我らの決闘に泥を塗ると知れ」

 

すると、ルシフェリアのその言葉にまた周りがザワつく。どうやら俺がルシフェリアに勝ち越していることが驚きのようだ。しかしルシフェリアのあんな強気な態度、最初に会った時に以来だな。こっちに連れてきてからのルシフェリアは何かこう、ふにゃっとしているというか抜けているというか。あぁいう上位者として君臨するってことがなかったからかな。何だか珍しいものを見た気分だ。

 

「───以後、2度と手を出さないことを守れるのなら、助命してやろう」

 

腕組みをしながらも殺気を抑えたルシフェリアは更に言葉を続ける。

 

「かつて主様は殺すべき我のことも助けた。───聞け、ノーチラスの皆よ!男とは女を助けてくれるものなのじゃ。助けられて助け返さぬは恥。エリーザよ、そちも助けられたからには主様の力になれ。女と男は助け合い、心の内にある声に耳を澄ませ。さすればこの世界の男というものにも理解を始められるじゃろう」

 

すると、周りの乗組員達が何やら俺を尊敬でもするかのような眼差しで見てくる。どうやら、ルシフェリアに勝ち越しているというのはここでは高い評価になるらしいな。ルシフェリアは本当に良いことを言っていたと思うのだけれど、フォーカスされるのはどっちが強いとかなのはどうにかなりませんかね?

 

 

 

───────────────

 

 

 

そして、俺とエリーザは見事に手繋ぎの刑罰を与えられた。別に喧嘩した訳じゃあないんだけどな。しかも俺が殺されかけた側だし。とは言え法は法である。俺は黙ってその刑罰を受け入れることにした。

 

そうして甲板上の艦首側にて俺は満天の星空の下、エリーザと2人手を繋いで空を眺めている。ここは陸地からも遠くて虫も全くいないからな。結構快適ではある。

 

───すみません嘘です。何せ手繋ぎの刑に処されてからこっち、俺とエリーザは2人してずっと、椅子に腰掛けたユエ様にジト目で睨まれているので居心地はすこぶる悪いです。

 

「あ、あのぉ……」

 

どうしてずっと見てるんです?と言おうとしたのだが、ユエ様のジト目に言葉が出てこない。

 

「……気にしないでいい」

 

そしてユエ様も随分な無茶を仰いますね。この状況で気にしないでいられるわけがないでしょう?

 

「……ちゃんと仲良くなれるか見ててあげるから」

 

この状況でエリーザと仲良くなれと?嫁に睨まれながら他の女の子と仲良くなれると思っていますの?いやまぁ確かに変な絆とか連帯感は生まれそうだけど。

 

「あ、その……」

 

すると、エリーザが俺に何か聞きたそうにしている。と、取り敢えず会話を繋ごう。このままだと小一時間ずっとユエ様に監視されながらの手繋ぎ刑だ。晒し罰としては沿っているのかもしれないけど何だがそういうことではない気がするし。

 

「んー?」

 

「お前には、毒や薬が効いていないのでちか?」

 

「あぁ。俺ぁ毒とか薬には耐性があってな。睡眠薬も筋弛緩剤も神経毒も効きやしねぇのよ」

 

「そんなの理不尽でち……」

 

「それが俺だからな」

 

俺の言葉にエリーザはガックリと項垂れる。

 

「……なんで」

 

「んー?」

 

すると、エリーザは項垂れたまま言葉を続ける。

 

「なんで私を庇ったでちか。私は2度も殺そうとしたのに……」

 

殺し殺され、戦いに負ければ死か隷属しか選択肢のないレクテイア人とは明らかに違う俺の選択肢。エリーザのその問いの答え……それは俺の中に1つだけあった。

 

「何でって……。俺ぁお前達レクテイア人のことを知りたいと思ってこのノーチラスに乗ってんだぜ。知りたいってのは……地球の人類や男にとって都合の良いとこばっかじゃあねぇ。都合の悪いこと───それこそエリーザ達の俺への殺意だって知りたいと思うよ。知りたいって、理解し合いたいってそういうことだと思うから」

 

ただそれだけ。俺にはこの答えしかない。俺はトータスの奴らのことを知りたいとは思わなかった。何故ならあそこは俺にとってはただの牢獄でしかなかったから。だから数人の女の子を愛したとしても、それ以外の奴らで俺がもっと深く知り合いたいと思う奴らは少なかった。

 

「そ、そうでちか……」

 

俺はそうエリーザに告げると、エリーザはそれだけ言って顔をコチラから背けた。ただ、その耳の赤みは隠せていない。

 

「あ、あと誤解があるっぽいんだけど。俺ぁアスキュレピョスは殺してない。武偵は例え相手が犯人であっても殺したら自分も死刑になる決まりだからな。逮捕はしたけど、俺が生きてるってことがその証拠だ」

 

「……そ、そうだったんでちか……それは……悪かったでち……」

 

すると、モゾモゾとエリーザが指先を動かしてくる。これは……俺の指に自分の指を絡めているな。所謂恋人繋ぎってやつだ。だけどユエもいるし……何より俺としてはその気の全く無い相手とそんな手の繋ぎ方をするつもりはない。

 

なので───

 

「……ユエ、どうせならユエもエリーザと仲良くなろうぜ」

 

と、エリーザの指には合わせずに俺達の手の動きをそれはそれは冷たい目で見ていたユエに、フイっと普通の手繋ぎのままの俺達の手を見せながらそう声を掛ける。

 

「……んっ。ふふっ……」

 

するとユエは嬉しそうに俺の脚の間に潜り込み、空いていた俺の左手に自分の右手を絡め、左手でエリーザの右手を取った。すると今度はエリーザが「むむっ」と少し不機嫌そうな顔をして、俺に少し身体を寄せる。

 

しかしユエがエリーザの方へ身体を傾けてそれ以上彼女と俺の距離が近付かないように牽制し始めた。そして「ふふん」とエリーザに勝ち誇ったような顔を見せる。

 

まぁ、俺もレクテイア人とは仲良くやりたいとは思っているけれど、だからって()()()()仲になりたいわけじゃないからな。誰彼構わず受け入れてはやれないのだ。

 

けれどエリーザはユエのその顔が不服だったのか「ん」と俺に喉を見せてきた。

 

「んー?」

 

「撫でていいでちよ」

 

撫でる?喉を?あなたは猫なんですの?

 

「……両手が塞がってる」

 

「左手は繋ぐ必要がないでち」

 

「……なんで」

 

「お詫びの印でち。私はミリキリア族の血を引くレクテイア2世でち。とっても高い身分でちから、喉を撫でるのを許された経験があると言えばどの種族からも尊敬されるでちよ。ルシフェリア様みたいな王族じゃないけど、生まれながらの貴族でち」

 

ふうん。レクテイアには王族とか貴族とかあるんだ。

 

「……ま、気持ちだけ受け取っとくよ」

 

て言うか今は両手が塞がっちゃってるし、喉を撫でない言い訳の為にも外せないけど、この刑が終わったら直ぐにでもユエを撫でたい気分なのだ。しかもユエは自分が俺に抱きつけば、俺がユエを撫でたくなると知っていて、さっきからスリスリと水着のままの身体を擦りつけてくるから余計にな。

 

「むぅ……なら手繋ぎ刑が終わったら直ぐに撫でるでち」

 

と、エリーザは何故だか引き下がる気が微塵も無いようで、俺に無理にでも喉を撫でさせようとしてくる。

 

「……分かったよ」

 

ここで問答していてもエリーザは絶対に引かないだろうから、それを察して面倒になった俺は適当に返すことにした。後で1回か2回撫でてやってそれで終わりでいいだろう。

 

「ふふっ、約束でちよ?」

 

すると、今度はエリーザがユエにドヤ顔。けどユエはそれをいつものジト目で見やると、直ぐに俺の胸に額を擦りつけてきた。しかも喉からはゴロゴロと、ユエが気持ちよさそうな時の声を出している。ユエもこういうの、大概猫っぽいよなぁといつも思う。可愛いから良いけどさ。

 

そしてそれを見てまたエリーザがむむって顔をして……このままだとずっと繰り返しになりそうな俺は、別の話題を切り出した。

 

「そういや、3つあるシャワー室の1個が使用禁止になってたんだけど、壊れてんの?」

 

壊れ方次第では俺が行けばパパッと錬成で直せるかもしれない。最悪再生魔法を使っても修理するのはそれほど難しいことじゃあないからな。寝る場所こそ確保できたけど、シャワー室も数は限られてるからな。そんなに広くないとはいえ、シャワー室なら家族の誰かと入れる。だからってノーチラスの他の子も使ってる中に入るのは気が引けるからな。どうせなら直して回転率を上げてやりたい。

 

「あそこは使用禁止にしてるだけでち。前に身体の表面をしっとりさせていないといけないケルリ族の3姉妹が乗艦してきたでち。それで彼女達がシャワー室を四六時中使うから、元々1箇所だったシャワー室を3箇所に増設したでちが、降りたから掃除の手間を減らすために1つ閉鎖したんでち」

 

へぇ、じゃあ壊れてるわけじゃないんだな。しかしそんな理由だと俺のために開けてくれってのも言い辛いかな。仕方ない、これまで通り家族の誰かと一緒か、もしくは1人で入るとしよう。

 

俺は1つ息をつくとそれっきり黙って空を見上げるのだった。まだ浮上パーティーの喧騒は消えていない。耳には皆の楽しそうな声が届いていた。

 

 

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