シャワー浴びて、さてそろそろ夕飯でも食うかと思った矢先に話があると、俺とリサは一夏の部屋に呼ばれた。割とマジなトーンだったのでまぁ仕方ないかと夕飯は後回しにして彼とシャルルが入っている寮の部屋へと向かい、ドアをノックして声を掛ければ鍵は空いてるから入っていいぞと奥から一夏の声が聞こえた。
「どうした?」
と、俺がドアを開けて部屋に入ればこちらに背を向けてベッドに腰掛ける一夏と、その向こうでイヤに落ち込んだ雰囲気を醸し出しているシャルルがいた。というか、ジャージだから判り辛いけどあれ、コルセット外してないか?髪も解いているし、こうして見るとどう見たって女の子にしか見えない。
「天人、リサ……」
俺達が部屋にやって来たことを認めたらしいシャルルが顔を上げる。その顔は何だか泣きそうにも見えるしどこか清々しさすら感じる、色んな感情が折り重なった顔をしていた。
「一夏にも、バレちゃった……」
なるほど、さすがにこの狭い部屋で暮らす相手にずっと隠し通すのは難しかったか。
「シャルルが、お前達を呼んでくれって言ったんだ。事情は知っているからって」
ポツリと、一夏が呟くように告げた。あぁ、だから態々俺達が呼ばれたのか。
「織斑様、シャルロット様を責めないでください。シャルロット様も……」
「責めてるわけじゃねぇよ。ただちょっと、驚いただけで」
「ていうか、何でバレたんだ?一夏も最初から疑ってたのか?」
「あはは、お風呂でバッタリ、ね……」
……あぁ、これまた理子的に言うラッキースケベイベントとやらか。コイツも凄まじい勢いで巻き込まれていくな。
「……疑ってた?天人はシャルルが女だって疑ってたのか?」
「あぁ、見た目も、声も、仕草も全部女みたいだったからな」
「そっか……。それで、天人はどうやって分かったんだ?シャルルが女子だって」
「……話があるって部屋に呼んで、服ひん剥いた」
「なっ……お前、女子だって疑ってたんならもうちょいやり方が───」
俺のやり方が気に入らなかったらしい一夏は結構な勢いで立ち上がって俺の胸倉を掴む。その目は怒りに燃えていて、まぁ確かにこいつは俺のやり方は気に入らないだろうなぁとそんな風な考えだけが頭を巡っていた。
「隠してる奴に素直に聞いて答えると思うのか?」
「けど───っ!」
「そもそも、代表候補生なら性別を偽るなんてことしなくても入学できるはずのIS学園に、態々そんなことしてまで入ってくる奴がろくな事情を抱えてないことくらい分かるだろ?……理由次第じゃ相当に危険な奴かもしれねぇんだ、手早くやるに越したことはないだろうが」
「うっ……む……」
「いいんだよ一夏。天人も直ぐに服戻してくれたし。剥かれたって言っても、コルセット見られただけだからさ」
「シャルルがそう言うなら……」
シャルロットにまでそう言われたら一夏としてももう俺の胸倉は離すしかない。まだ憮然としたままだがそれでも一夏は俺の襟から手を離してベッドに座り込んだ。その重さにベッドのスプリングが軋む音が響く。
「……なぁシャルル、どうしてこんなこと」
「あぁ、うん。天人達には話したんだけどね───」
あまり何度もしたい話でもないだろうに、シャルロットは気丈に振る舞い、再び口を開いた。その時リサがシャルロットに寄り添い、膝の上に置かれた手を包み込むように握っていた。それに勇気を貰ったのかシャルロットの口調は、俺達に真実を打ち明けた時のそれよりも明るく思えた。
「───そんなこと、許していいのかよ……」
絞り出されるように一夏の口から漏れ出た言葉。
そこに込められた感情は純粋に怒りだった。シャルロットに対する憐れみや同情ではなかったことに俺は少し驚いた。コイツは一体、何に怒っているのだろうかと俺の中に疑問符が浮かび上がる。
「……一夏、お前───」
何に怒ってるんだ?という俺の言外の言葉を感じたのか、一夏はこちらを見ながら言葉を発する。
「俺は、俺と千冬姉は、親に……捨てられたから……」
その事実に、俺は「そうか」としか返せない。俺が誰かの親について何かを言う資格なんて無いからな。
そしてどうやら、この一夏の怒りはきっとシャルロットと自分を重ね合わせてのもののようだった。俺はそれを否定することはない。俺は、俺達がこの世界にいる間だけしかシャルロットの味方でいられないから。これからもずっと一緒にいられるコイツとは違う。
「で、一夏。お前はこれを知ってどうするんだ?」
「どうするって……?」
「デュノア社にでも乗り込んでコイツの父親をぶん殴りにでも行くか?」
「えぇ!?」
「……冗談だよ。まぁどうするかはおいおい考えよう。少なくともシャルロットがこの学園にいる限りは向こうも下手に手を出せない」
それに、身バレしましたということが向こうにバレてもやはりここにいる間は安泰だろう。何せデュノア社は社長の娘を男と偽って入学させた張本人だ。それを表沙汰にされたくなければ……と言われたらある程度は従わざるを得ない。
だから全部向こうに打ち明けたとしても、これまでと同じようにデュノア社からのISに関する支援は受けられるだろうと、懸念事項であった部分は伝えておく。
「天人も色々考えてくれてるんだね……」
「ここに居ていいって言ったのは俺だからな。一応は、な」
これだって別に俺が何かしたわけじゃあない。何もしなくてもそうなるだろうという予測だけだからな。言われるほどのことじゃないさ。
「それでも、ありがと」
その時にシャルロットが見せた笑みは、俺の拙い語彙力で表現するならそう、まるで花の咲くような笑顔だった。
───────────────
とある休み時間、俺はフラフラと学園内を彷徨っていた。特に目的は無い。ただ周りの視線の届かない所にいたかっただけ。だがそんな俺の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうか、我がドイツに戻って再び指導をお願いします。ここでは教か……織斑先生の力の半分も活かされません」
声の1人はボーデヴィッヒだった。そしてその相手は織斑先生のようだ。特に後ろめたいことも無いはずなのに、俺は何故か気配を消してその会話に耳をそばだてていた。
「ほう、どうしてそう思う?」
「ここの生徒達は皆意識も低く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そんな者の為に織斑先生の貴重な時間と能力を割くなど……」
「その歳でもう選ばれた人間気取りか?偉くなった者だな、小娘」
スっと、織斑先生の声が冷える。そしてその迫力に、ボーデヴィッヒは肩を震わせ言葉が霞む。
「そんな……私はそんなこと……」
「そら、もうすぐ授業の時間だ。遅刻はするなよ?」
そしてさっきの底冷えするような声色から一変。パッといつもの声色に戻った織斑先生に急かされて、ボーデヴィッヒはその場を走り去る。そしてちょうど、俺の方へ向かって来る。
「よう、ボーデヴィッヒ」
「……なんだ」
なのですれ違い様に声を掛ける。だがさっきの今ではボーデヴィッヒの声にも張りがない。織斑先生にあぁ言われたからか、いつもは何者をも弾くようなその声は弱々しく聞こえた。
「……別に、お前は間違っちゃいないと思うぜ。俺も、ここの奴らのISに対する意識は甘いと思ってるし」
「貴様なんぞに言われても……」
織斑先生に対する執着は分からんが、少なくともこのIS学園の生徒──もっとも、俺がまともに見たことあるのは1組と2組の生徒だけだが──はISが人を殺す兵器であるということを自覚している人間はほとんどいないように思える。
それは代表候補生であるオルコットや凰も同じ。
実際、ファッションとまではいかなくても、ISを精々スポーツ感覚で考えている奴らが殆どだろう。もし武偵校で強襲科の1年があんな風な態度でいたら確実に蘭豹にボッコボコにされているだろうな。そういう意味じゃ、織斑先生もかなり対応が甘い。
「前に行ったろ。俺はISを兵器だって思ってる。思っているって言うか……実際そうだろ」
こっちに来てしばらく経つが、驚いた。代表候補生ってのはほとんどアイドルやファッションモデルみたいな扱いを受けていたのだ。そして皆それを当然のように受け入れていた。正直俺にはそれが恐ろしかった。この世界にも前の時代には核があり、というか今だってまだあるのだ。ただ、それよりもISの方が確実かつ余計な被害を出さずに殺したい奴を殺せるだけ。そしてそうやって世界の抑止力はISへと移り変わっただけだ。
だがISを取り巻く環境は、そんな側面をおくびにも出さずにただ新しいスポーツのように、そして搭乗者は国を代表するアイドルか何かのように扱われていた。それによって世界中の人々の目を誤魔化しているのだ。
別に、ISそのものには罪は無い。ISなんてのはただの道具で、この欺瞞に満ち溢れた世界を作り上げたのは人間なのだから。ISを憎むのはお門違いも良いところだ。だからこそ俺は日に日にこの世界が嫌いになっていくのだ。
だが、だからってその一言だけで、俺のそんな思いがボーデヴィッヒに伝わるなんてこともなく───
「貴様1人がどうだろうと、私の気持ちが変わることはない」
そう、振り返ることもなく口にしたボーデヴィッヒは遂に教室へと辿り着いた。それは即ち、俺達のコミュニケーションの断絶がやってきたということだ。
「そうか」
「あぁ」
ボーデヴィッヒは空いていた後ろの扉から教室の中に入る。そして俺は、前の扉から教室へ入る。俺が席に着いた瞬間、同じく前の扉から織斑先生が入ってきた。授業が、始まる。
───────────────
放課後、第3世アリーナへと俺は来ていた。1人で、ではない。シャルロットも一緒だ。今日は模擬戦でもやろうかという話になっていて、それなら急いで来て人が少ないうちに済ませようということでまだアリーナには俺達以外は来ていないようだった。
「じゃあ、やろうか」
「おう」
シャルロットがアサルトライフルを、俺が両手に拳銃を構えたところで───
「「あ」」
と、横合いから声が聞こえた。知っている声だ、オルコットと凰。どうやら月末に行われる学年別トーナメント向けてこちらも秘密の特訓に来ていたらしい。
こっちは勝手にやるから、という意思表示で俺は手をヒラヒラと振る。それを見た2人もどうやら俺の意思を汲み取ったようで、そっちはそっちでお互いの得物を構えて向かいあっていた。
さて気を取り直して、と思った次の瞬間───
──超音速の砲弾がアリーナの地面を深く抉った──
その砲弾を撃たれたのは俺達ではない。オルコット達の方だった。しかし、あの2人戦いではないその衝撃に何事かと見やればどうやらボーデヴィッヒがいきなり2人の間にレールカノンを叩き込んだようだ。
当のボーデヴィッヒはチラリとこちらを見たがすぐに視線を戻し、オルコット達の方へユラユラと向かって行った。
「ちょっと───」
「いや、いい」
こちらに向けではないにしても、クラスメイトにいきなりぶっ放したボーデヴィッヒに物申したいらしいシャルロットだったが、俺はそれを制した。
「天人?」
「ありゃアイツらが売られた喧嘩だろ」
「武偵憲章4条、武偵は自立せよ、要請無き手出しは無用のこと。アイツら別に俺達に助けてくれなんて言ってねぇだろ?」
まぁ、言われても助ける気は無い。同じ代表候補生同士なら、売られた喧嘩くらい自分らでどうにかしろとしか思えん。まぁ、最悪死にそうになったらさすがに助けてやるけども。
「……何それ」
「それに、月末のトーナメントもあるし、アイツらでも、2対1ならボーデヴィッヒの力を少しは出させられるだろ」
ちなみにこっちも割とマジな話。開示されてたデータじゃボーデヴィッヒの駆るIS──シュヴァルツェア・レーゲン──には
「でも───」
「まぁお互いISに乗ってんだ。喧嘩したって死にゃしねぇよ。……そら、始まるぞ」
俺がそっちに関わる気が無いこと、そしてシャルロットも俺に止められていることをオルコット達も察したのだろう。結局ボーデヴィッヒの挑発に乗せられて2対1での模擬戦が始まった。俺はシャルロットを引き摺りながら後ろへと下がり、戦況を見物する。今のところボーデヴィッヒは右肩のレールカノンと各部から展開されるワイヤーブレードでの中距離戦を展開している。オルコットと凰もそれに合わせてそれぞれの飛び道具を駆使してアリーナを駆け回る。だがオルコット達の攻撃はほとんど躱されている。たまに届きそうになっても何か見えない壁にぶつかったかのようにしてボーデヴィッヒのISには届くことはない。どうにもあれがAICってやつらしいな。
その後も、多少はボーデヴィッヒにもダメージは入ったが2人の損傷に比べれば非常に軽微。何よりも凰の衝撃砲とボーデヴィッヒのAICの相性が最悪だ。近接格闘戦でもボーデヴィッヒのプラズマ手刀と凰の双天牙月の二刀流では圧倒的にボーデヴィッヒの方が上だ。
そして決着の時はやってきた。
オルコットの自爆覚悟のゼロ距離ミサイル攻撃を完全に受け止めたボーデヴィッヒが瞬時加速で地表にいた凰に接近。蹴り飛ばした。そして至近距離からの砲撃でオルコットを吹き飛ばし、その2人をワイヤーで捕らえたのだ。そこから始まったのはボーデヴィッヒによる一方的な蹂躙。
ワイヤーで手繰り寄せ、拘束した2人にボーデヴィッヒはいっぽう拳を、蹴りを、叩き込んでいく。それにより2人のISのアーマーは砕け、シールドエネルギーは一気に危険域へ。これ以上この攻撃が続けば当然ISは強制解除される。そうすれば生命にも関わる事態だ。シャルロットなんて、俺が無理矢理押さえ込んでなきゃとっくに飛び出しているだろう。
俺も、完全に決着着いたしもういいかとシャルロットを離そうとしたが───
「その手を離せ!!」
と、観客席の方から一夏が瞬時加速で突撃。どうやらアリーナのシールドエネルギーは零落白夜──一夏のIS、白式の唯一単能力だ──で斬り裂いたようだ。だが───
「絵に書いたような単純で直情的な攻撃。愚図め」
恐らくAICもエネルギーで行われているはずで、そうであればエネルギーを無効化する零落白夜であれば突き抜けられるのだろうが、その刀身に触れることなく身体や腕を捕えられれば意味が無い。一夏も拘束されてしまったので俺は仕方なくシャルロットを解放し、そのまま右手に拳銃を召喚。こちらを見てもいないボーデヴィッヒのその横っ面に弾丸を叩き込む。
バシィッ!!と、思いっ切り頬を叩かれたような音がシュヴァルツェア・レーゲンから響き、一夏を戒めていた拘束が解かれる。
「オルコットさん!凰さん!」
シャルロットは即座にオルコット達に駆け寄り彼女らを
それに加え、一夏はボーデヴィッヒではなく俺の方へ怒声を発した。
「天人!!何でそこに居たのに見てるだけだったんだよ!!」
いや、今助けようとしてたし……なんて宿題をやれと親に言われた小学生みたいな言葉が口を出かかったがそれはどうにか堪え、俺はボーデヴィッヒに向けて拳銃のトリガーから指を離してクルリと下に向ける。戦う意思は無いというサインだ。
「……喧嘩売られたのはオルコット達だ。俺が介入することでもねぇよ」
あの時みたいに周りを巻き込む程に人で溢れてる訳でもないし。俺にはコイツらの喧嘩を止める理由がない。そう思ってしまうのは、武偵校でドンパチに慣れすぎているからだろうか。
「けどあれは!!」
「……もういいか?」
どうやら俺達の会話をただ横で聴いてるのも飽きたらしい。ボーデヴィッヒはレールカノンの照準を一夏に合わせ直している。
「てめぇ……!」
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れるんだ」
と、そこへやって来たのは織斑先生。しかもIS用の近接ブレードを肩に担いでいる。刀身だけで1.7メートル程はあるはずのそれを軽々と扱うその姿はどこか蘭豹と被って見えた。
「模擬戦をやるな、とは言わんがアリーナのバリアーを破壊される事態になっては教師としては黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントで着けてもらおうか」
「教官がそう仰るなら」
と、ボーデヴィッヒは存外素直にISの展開を解き、シュヴァルツェア・レーゲンを光の粒子にして仕舞う。
「お前達も、それでいいな」
「はい」
俺も別に何だっていいので素直にそう返事をする。シャルロットと一夏も、一応は納得したのか、それぞれ逆らうことも不満気な様子も無く肯定の意を示した。
「では学年別トーナメントまでの間、一切の私闘を禁止する!解散!!」
織斑先生がそう宣言し、手を叩く。その乾いた音はまるで銃声のようにアリーナに響いた。
───────────────
アリーナでの諍いから1時間ほどして今は保健室。オルコットと凰は全身に打撲傷があるがどうやらそう重傷ではないらしい。しかし場の空気は最悪。どうやら俺がただ見ていただけなのが一夏的には相当に気に入らないらしい。
「何であそこまでやられるまで黙って見てたんだよ」
「さっきも言ったろ。喧嘩ふっかけられたのはコイツらだ。けどま、殺されそうなら助けてもやるし、お前が来なけりゃ俺が入ったよ」
実際にはボーデヴィッヒのISの性能を見ておきたかったと言ったら多分一夏はもっと怒るだろうから言わないでおく。しかし、俺のそんな思惑も虚しくそれでも一夏が何か言い募ろうとしたその時───
──ダダダダダダ──
と、廊下の方が何やら騒がしい。騒がしい、というより何人もの人間の足音が響いている。何事かと思えばいきなり保健室のドアが勢いよく開かれる。
ッダァァン!!と、まるで銃声のような音を鳴らして叩きつけられるように開けられたドアから女子達がそう広くはない保健室に殺到する。学年で固定のリボンからすればどうやら1年生ばかり。そしてその顔はいつも教室で見た顔が多く、その殆どが1組か2組の生徒だと分かる。
「……何?」
「織斑くん!」
「デュノアくん!」
「神代くん!」
順番に、名前を呼ばれる俺達男子組。そして彼女達から一斉に突き出されたのはとあるA4のプリントだった。
そこには今度の学年別トーナメントのルール変更が記載されていた。曰く、先日の事件を鑑みて、生徒保護の観点及びより実践的な形で実力を測るために1対1ではなく2対2のタッグ戦にする、ということだった。
「はぁ……。で?」
「「「私と組んでください!!」」」
つまりは、完全な個人戦からコンビによる試合になったのでタッグを組んでくれというお誘いらしい。ふむ……元々このトーナメント、俺はともかくリサは体調不良ってことにしてお休みさせる予定だったのだ。何せ個人戦じゃ俺はどう足掻いてもリサを守ってやれないから、例え模擬戦でもリサに戦闘なんてさせられない。それに、元々が実力を測るためのものという建前があるので開始即時の降参が認められるとも思えない。だがこうなれば話は別だ。俺がリサと組み、実質1対2で戦えば良い。懸念すべきことは、俺が落ちてもリサの降参が認められない場合だ。これが現時点での才覚や能力を測る試合という建前がある以上その可能性は割と捨てきれないのが怖い。まぁもっとも、これは最終手段だが、リサが後ろにいる以上、俺は全力ではなく
聖痕で俺の腕力を強化させればISのパワーアシストもあって実質的な出力は上げられるというのも、反射神経その他諸々も上げられるというのも訓練や実戦で確認済みだ。
それをすると、公開されてる俺のISのデータからすれば異常な数値になってしまうだろうが、そもそもISというのは根本のコアがブラックボックスと化しているのだ。最悪知らぬ存ぜぬでシラを切り通すことも可能だ。何の問題もない。
「あぁ、悪い。俺はシャルルと組むって決めてんだ」
と、一夏はシャルロットの肩に手を置く。確かに、俺か一夏のどちらかがシャルロットと組めば彼女が本当は女であることが周りに露見する可能性は下がる。そして、それを聞いた女子達も、他の女の子と組むくらいなら男同士の方が……と、引き下がる。だがこのIS学園の男子は表向き3人だ。そして、その一夏とシャルロットが組むことになれば俺は必然的にアブれる訳で……。
「じゃあ神代くん!!」
と、俺に声が向かうのは当然のこと。もっとも───
「あぁ悪い。俺も組む相手は決めてんだ」
「え!?だ、誰!?」
「……言わなきゃ分かんない?」
「う……いえ……」
俺が男子以外で組むとしたらリサだけだろうというのは言わずとも伝わったらしい。まぁ、1番良いのは例えタッグマッチでもリサを出さないことで、優勝するだけなら俺がボーデヴィッヒと組むのが1番確実なのだろうが。恐らくボーデヴィッヒは1年の中じゃ俺以外には確実に勝てる。そして俺もボーデヴィッヒ以外には確実に勝てるだろう。俺達がお互いを負かす可能性がある相手はそれぞれ俺達だけなのだ。そこが組めばどんな相手でも勝ち切れる。
本来なら連携なんかもあるし、一概には言えないのだけれど、俺達は別だ。何せ、別にコンビで訓練なんかしなくても相手をそれぞれタイマンで相手取ればそれだけで勝てるからな。
例えどっちかが落とされても向こうも無傷とはいかない。確実に落とされる寸前まではダメージを入れられるだろうから、やはりどっちにしろ試合的に負けはない。
「じゃ、そういうことで。俺も相方と打ち合わせするから失礼するよ」
と、俺がどいてどいてと女子達の間に割って入ればモーゼの海割りよろしく人垣が別れて道ができる。俺は、その間を抜けていく。背中に一夏達の冷たい視線を浴びながら。
───────────────
「で、どうするリサ。出るなら俺が守るけど」
夕方、部屋に戻った俺はリサの意思を確認する。出たくないのならそれはそれ。出るなら俺が守る、それだけだ。
「リサはご主人様を信じています。絶対、守ってくださると」
「あぁ。何をしても俺はリサを守るよ。絶対」
そう、それだけは唯一絶対の約束。例え聖痕を使って有り得ない数値を叩き出して周りから何を追求されようが、俺はリサを守り抜く。それがどんな世界であっても俺が誓った絶対。
「えぇ、ですから大丈夫です。リサはご主人様と一緒に出ます」
「あぁ、分かった」
俺はリサのその意思を聞いて、職員室前に置いてあった申込用紙に自分とリサの名前、それからその他必要事項を書いていく。白い紙に黒い文字で書かれた消えないそれは、俺が絶対に守ると誓ったその意思を示しているかのようだった。