セカイの扉を開く者   作:愛宕夏音

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第2回同窓会

 

 

時間延長のアーティファクトはとても便利だ。何故ならたったの数時間を何倍かにすれば半日以上の時間になるのだから。

 

そのアーティファクトの効果で家の中の時間を引き伸ばした俺達は1日グッスリと寝て、そして再び越境鍵でインドはムンバイに舞い戻る。

 

今回の同窓会の会場はインドのムンバイ湾に面して建つタージマハル・ホテル。20世紀初頭にインドの富豪タタが建てさせ、世界中から"アジアの星"と称されて愛された宮殿のようなホテル───とエリーザから教わっていた。

 

そんな豪奢なホテルのとあるホールに着いた午前8時55分。見ればキンジとアリア、レキの他にメヌエットにワトソン。更にはヒルダに名古屋女子(ナゴジョ)のカットオフセーラーを着た背の低い女の子───前に伊・Uで見た人間ではないっぽい奴だ。名前は知らない。

 

それとネモとエリーザもいた。いやネモいるんかい……。いるならなんで昨日あんなにぐずったんだよ……。という俺の視線を受けたネモはフイと顔を逸らす。まぁいいけどね、そんなことよりこの会場の微妙な空気はなんなのよ。皆朝食は食べ終わったみたいだからお腹が空いたわけじゃあないでしょうに。

 

俺は正式にシャーロックに招待されていたリサと、あの後すぐに電話でシャーロックからお誘いを(俺経由で)受けたルシフェリアを伴って空いている席に着いた。しかし何故だか今回の同窓会には()()を着てこいとの指定があった。俺とリサは普通に武偵高の制服があるから良かったのだが、ルシフェリアは黒いセーラー服をノーチラスから持ってくることになったしメヌエットは武偵高の赤いセーラー服、ネモは武偵高の夏服用の青いセーラー服だ。エリーザもどこの学校の制服なのか分からんけどジャンパースカート姿だ。

 

メヌエットは前に武偵高のセーラー服を模した赤い襟の服を着ていたけれど、こうしてちゃんと武偵高の制服を着た姿を見るのは初めてだし、ネモの夏服セーラーもエリーザのジャンパースカートも初めて見る服だ。俺は知り合いの女の子が新しい装いをして来た時の癖で3人それぞれに

 

「メヌエット、前に赤い襟の服は見せてもらったけど武偵高の防弾セーラーも似合うじゃん」

 

とか

 

「ネモ、その夏服のセーラー服いいな。髪の色と相まってとても爽やかだよ」

 

だとか

 

「エリーザ、軍服も格好良かったけどそういうジャンパースカートとかも似合うな」

 

という風に、取り敢えず出会い頭で褒めておく。ただ、それを受けた3人は褒められて嬉しかったのか頬を赤く染めているが、アリアやワトソン、ヒルダはジト目で俺を睨んでいる。名古屋女子のカットオフセーラーを着た子は「おぉ」とどこか感心したような顔をしているんだけどな。

 

「主様主様、我のことは褒めてくれないのか?ノーチラスの制服を着た姿は初めて見せたと思うのじゃが?」

 

すると、ルシフェリアが俺のジャケットの裾を引っ張って服を褒めろとのご要求。えぇ……正直ルシフェリアにまでこれするの面倒臭いんだけどなぁ……。

 

「あー……似合う似合う」

 

なので俺は随分と適当に返した。ルシフェリアも俺が適当に言っているのは分かっているのでちょっと不満気……ではあるが俺からそういう言葉を貰えるだけで嬉しいのか頬はちょっと緩んでいる。んー、ここまで素直に好かれているとこうもぞんざいに扱うのも段々罪悪感が沸いてくるようになってきたな。

 

「……アンタその癖まだ直してないの?」

 

すると、アリアからチクリとお小言が飛んでくる。仕方ないじゃん。俺にはもう()()することが魂にまで刻まれてるんだよ。

 

「文句はジャンヌに言ってくれ。……て言うか何でアイツは呼ばれてねぇんだ?」

 

イ・ウーの同窓会と言うのならアイツも呼ばれて然るべきだろう。ジャンヌ本人も「私は呼ばれていない」と言ってたけどさ。すると

 

「おはよう、諸君」

 

と、爽やかな声で朝の挨拶をしながら本日俺達をインドまでお呼びだてしたシャーロック・ホームズご本人が現れた。時間は9時丁度。何だか前にテレビでやってた魔法使いの映画にでも出てきそうな服を着ているな。あれもどこかの制服なんだろうか?

 

「……あれ何のコスプレ?」

 

と、俺はレキのハイマキを足元に伏せさせている秂狼(ジェヴォーダン)のリサの耳元でそう囁く。

 

「シャーロック卿のお召し物はオックスフォード大学の制服だと思います。卿はケンブリッジ大学を入学後に退学となり、その後オックスフォード大学に入学し直しようです」

 

ふぅん。あんなに頭の良いシャーロック・ホームズ様でも退学とかするんだなぁ。大学とはいと恐ろしき世界よ……。いや、俺も前に大学に潜入(スリップ)したことあるけどそんな簡単に退学にならねぇだろ。何したんだアイツ……。

 

俺のジト目を知ってか知らずかシャーロックはアリアの紹介を受けてメヌエットにも「初めまして(ナイス・トゥー・ミート・ユー)」と丁寧に挨拶を交わしている。

 

「では改めて。おはよう諸君。殆どの顔とはお久しぶりだ。では開会を祝してチャイで乾杯しよう」

 

───何故ならここはムンバイ、インドなのだからね。と言うシャーロックの指パッチンに合わせてホテルのウェイター達が金属製の茶器を乗せたワゴンを運んでくる。

 

そしてウェイターが熱々のチャイを器から器に移しながら少しずつ冷ましている作業をBGMに何やらシャーロックが蘊蓄(うんちく)を語っているが俺はそれを無視して横にいたエリーザに「あの丈の短い武偵高のセーラー服を着たちびっ子は誰?」と尋ねる。するとエリーザは小声で

 

「知らんでち。ただ、トオヤマはあれもストライクゾーンに入っているようでち」

 

と、それはそれは冷たい眼差しをキンジに向けていた。いや、確かにキンジのストライクゾーンは凄く広いんだろうなとは思っていたけど、まさかあのロリっ子までもがその中に入るのか……。あの子、背が低いだけじゃなくて雰囲気もかなり幼いんだよな。ユエは実際300歳以上の歳上女子。前にトータスでステータスプレートを見た時に確定したけど、封印分を覗いても20歳は越えているはずだからな。あの子は合法なのである。

 

まぁあの子も魂は人間ではなさそうだからもしかしたら見た目の割に歳上なのかもしれないが……それでも雰囲気がロリ過ぎませんかね……?

 

と、俺もキンジにジト目をくれてやっていると、キンジは少し居心地が悪そうにしながらもここにいる人間の紹介を始める。そこでようやくあの名古屋女子のカットオフセーラーロリの正体が知らされる。

 

なんとあのロリっ子の正体は西遊記に登場する斉天大聖孫悟空本人だと言うのだ。あとキンジは自分が先祖の遠山金四郎から数えて何代目か知らないらしい。それでアリアやシャーロックから弄られている。

 

そして、そんなこんなでキンジの知己の奴らの紹介が終わったところで俺に視線が移される。どうやら俺も喋れということらしい。

 

「……こちらリサさん。リサ・アヴェ・デュ・アンク、オランダ出身。俺のメイド。こっちはレクテイア出身で向こうの神様?王族?のルシフェリアさん。あとはノーチラスから元Nの提督でありノーチラスの艦長、ネモ。同じく副艦長のエリーザ。レクテイアの貴族らしいです。んで俺ぁ皆さんご存知でしょうが神代天人。痣持ち……だけどムンバイじゃあ開けないな。ま、俺ぁ色んな世界で拾ってきた魔法があるんで戦闘には支障ないです」

 

ダラっと、それはそれはやる気の無さそうな紹介をそれぞれにしてやる。しかしそれを取り直すようにキンジがこの集まりを自称でリユニオンと呼ぼうと提案する。確かにこの集まりはもうイ・ウーの同窓会って感じじゃないな。イ・ウーやレクテイア、武偵に探偵に何か分からんけど仏様と、それぞれ立場が入り乱れすぎている。それを誰もが分かっているのかその提案はすんなり通り、キンジの後を引き継いだシャーロックがこの集まりの議題を掲げる。つまり、如何にしてNとモリアーティの起こすサード・エンゲージを阻止するかどうか、だ。だが───

 

「この話題、先に言っておくけど俺ぁサード・エンゲージそのものは起こすぜ。ただ、モリアーティのやるようなやり方じゃあねぇ」

 

まずは俺の方針を先に出しておく。サード・エンゲージ反対派のシャーロックが主催のこの集まりでこれを先に出すのは色々と頓挫する可能性もあるが、こういうのを後出しするのは好きじゃないんでね。そしてネモとエリーザ、ルシフェリアも俺の言葉に頷く。逆にシャーロックやアリア、ヒルダは苦い顔をし、メヌエットはどちらとも取れぬ表情だ。それで何となくこの場の奴らの派閥は誰もが把握しただろう。

 

「あぁでも、モリアーティのやり方は嫌いだからな。アイツを潰すってんなら当然力を貸すぜ」

 

「ふむ、そうしてくれると助かるよ。()()()はともかく、モリアーティ教授の暴挙を止めるためには君達の協力が不可欠だからね」

 

モリアーティの元には何人かの聖痕持ちがまだいるのだ。それに対抗する手段はコイツらには無い。あるのは俺達くらいなもんで、モリアーティの子飼いの聖痕持ちを抑えるのが俺達の役目、とシャーロックは考えているのだろうよ。

 

「さて、まずは確認だが、モリアーティ教授の軍勢の中には何人かの聖痕持ちがいる。これは間違いない」

 

「そうだな。モリアーティの戦力の全てまでは私も把握出来てはいないのだが、数人。少なくともあと3人はいる」

 

と、ネモがシャーロックの後に言葉を続けた。3人……しかも少なくともってことはそれ以上にいる可能性もあるってことか。厄介だな。ただでさえ人の理を外れた力を持つ聖痕持ちがそんなに集っているのか。しかもこちらは場合によっちゃ聖痕が全く使えない状況に陥ってしまうかもなのだ。それをどうにかしろとは軍港でシャーロックにゃ言われたが、正直そっちの心当たりは無い。まだ聖痕持ちを倒す戦闘力を手に入れる方がイメージしやすいな。

 

「あの力に対抗するには僕らだけでは火力不足だ。そこは天人くん達に期待するよ」

 

「分かってるよ」

 

「それと、彼については僕も正確な推理が出来ないから確実なことは言えないけれど、モリアーティ教授は自身でも聖痕の力を扱えるようになっている可能性がある」

 

「何……?」

 

それは、厄介なんてもんじゃないぞ。これまではモリアーティが聖痕の力を使えないなら手下の聖痕持ちを突破してしまえば俺の氷焔之皇でモリアーティの力を完封して逮捕すれば良いと考えていた。

 

だが俺の氷焔之皇をもってしても聖痕の力は封印できないのだ。それをモリアーティが手にしたとなればただでさえ向こうに傾いている戦力の均衡がよりモリアーティの側に傾くことになる。

 

「その上彼がどんな力を手にしたのかすら分からない。だから我々も聖痕封じを一時的にでもキャンセル出来る手段を見つけたい」

 

「……それなら旧公安0課、今の武装検事達が持ってるはずだぜ」

 

あの再生の聖痕の男───奏永人が放った異能は、その力を封じる領域で発せられたものだった。だからアイツらの持つ()()さえあれば、俺は自分の身体に秘められた力を全て解き放つことが出来る。そうなれば向こうに聖痕持ちが何人かいたとしても逆転の目はいくらでも作れるのだ。

 

「ふむ……とは言えそれを手に入れるのは容易ではないだろう。勿論僕もその研究は進めているけどね。時間的に間に合うかどうか───」

 

「……時間があればいいんだな?」

 

シャーロックの言葉に、俺は1つ思い当たることがあった。俺達に足りないのは時間。次にモリアーティとネモが接触するのが来月らしいが、どうやらシャーロックが研究している聖痕封じを無効化する仕掛けは、完成までにまだ時間が掛かるようだ。だが時間の制約だけなら、俺には突破する方法がある。

 

「そうだね。だけど時間は有限にして平等なのだよ。それは君も分かっているだろう?」

 

「そうだな。何事も、いつかは終わりが来るのかもしれねぇ。けどそれを引き伸ばす術なら俺ぁ持ってんだよ」

 

と、俺は宝物庫からアーティファクトを1つ取り出す。それは区切られた空間の中の時間を引き伸ばすアーティファクト。俺が神話大戦の準備の折、オルクス大迷宮のオスカー邸で使い、その後もちょこちょこアーティファクトの作成やら何やらで便利使いさせてもらっているアーティファクトだ。

 

「それは……?」

 

と、俺がどこからともなく取り出した鉱石で出来た、サッカーのトレーニングで使うようなマーカーに似た形のアーティファクトに注目が集まる。

 

「一定空間の中に流れる時間を引き伸ばす魔法の道具だよ。例えばこの中での100日間を外の1日にするとか、倍率はある程度選べるぜ」

 

ネモはこれと同じような奴を俺の家で実際に見たことがあるからか特に表情を変えることはなかった。だが他の奴ら、特に(コウ)とか言う名古屋女子のカットオフセーラーを着た子は目を驚きに見開き、ヒルダは忌々しげに俺を睨んでいる。

 

そんな中俺に魔法の力や道具があることを知っているメヌエットは何故かドヤ顔。キンジやアリアは呆れ顔を晒していた。

 

「ふむ……君はやはり僕の条理予知(コグニス)の外側にいるんだね。それで、それはどれくらいの広さの空間の時間をどれくらい引き延ばせるのかな?」

 

「んー?……広さは……まぁこれ同じの何個かあるからこのホールくらいだったら補えるな。時間は……俺が触らねぇなら1000倍を外の時間で1日間ってくらいか」

 

俺のアーティファクトがあればたったの1日を1000日───2年と9ヶ月に引き伸ばすことが出来るのだ。だから時間の問題だと言うのならそれは解決したも同然。

 

「それだけあれば充分だよ。……さて、リユニオンの諸君」

 

すると、シャーロックが俺達を見渡す。その口から語られたのはこのインドにあるという秘宝。それはキンジ達には伝えられているようで、彼等はそれを神秘の器(ワンダーノッギン)と呼んでいるらしい。そしてそれがあればシャーロックの力は今の10倍程度まで引き上がるのだとか。そうすれば聖痕の力を抜いた奴らNの戦力と釣り合いが取れるらしい。

 

「それで?そんな御大層なもんを黙って眺めてるお前じゃねぇだろ?……取りに行かない理由はなんだ?」

 

「理由は3つあってね。1つは僕が不在の時にイ・ウーがNに襲われたら良くない。2つ、僕はインドの気候が苦手だからあまり長く出歩きたくないんだ。そして3つ目の理由───それは呪いだよ。他の者であれば誰でも近付けるが、僕はその器に近付くと大量の中性子線を浴びているような状態となり数時間で死ぬ」

 

なるほど、2つ目の理由はぶっ飛ばしたくなるけど他の2つは納得だ。特に3つ目、しかもこれが厄介なことに呪われているのはシャーロックそのものではないな。氷焔之皇で探ってみたがシャーロックには呪いは掛けられていない。恐らく器の方に何かされているのだろう。

 

そして、シャーロックは次にその器の来歴を話し始める。その次にモリアーティがレクテイアの神から命を貰うだのなんだの……ただ、この辺りから段々と話が複雑になり始め、俺の頭は許容量の限界を迎え始めた。

 

するとこの話が超常的な分野にまで及んできたからか、キンジもこの話に着いてこれなくなってシャーロックと猴は「もっと分かりやすく喋れ」と言い直しを要求されていた。すると今度は電池がどうのと話し始め、結局俺にはよく分からなかった。

 

分かったことと言えばモリアーティはレクテイアの神から命を幾つも授かったこと、その対価にこの世界そのものを差し出したこと、それだけはメヌエットが単刀直入に言ってくれたおかげで理解できた。

 

「あぁ、シャーロック。悪いんだけど電池がどうのとか言われてもさっぱり分からん。結論だけ言え、その上で俺達に何をしてもらいたいかも勿体ぶらずに単刀直入に頼む」

 

「ふむ……。ではまず君達への依頼から言おう。君達にはカーバンクルというレクテイアの神から神秘の器を取り返してほしい。その上で呪いの解呪も必須条件だ」

 

なんか新しい人……もとい、神様が出てきたな。カーバンクルがどなたかはとんと存じ上げないけど。

 

「主様よ、カーバンクルはレクテイアでは大地の神じゃ。どんな奴かは後で我が教えてやるぞ」

 

だからルシフェリアさんは語尾にハートマークが付きそうなくらいの甘ったるい喋り方をするのを止めてもらえませんか?ほら見てみろ、ネモとメヌエットが俺を刺すような眼差しで見ているぞ。

 

「……あいよ」

 

だけどあの2人に今の俺が何か言えようもないから俺は黙ってその視線を受け入れる他ない。

 

するとそれを見たシャーロックはまた言葉を続ける。カーバンクルという奴と交戦したこと、カーバンクルがモリアーティに命を与える前に横取りしたこと、今カーバンクルはシャーロックによって半分こにされたことで全盛期の力を殆ど失っていること、そいつが呪いを掛けたこと。

 

まぁ所詮シャーロックの言うことなので理解し難たかったが、そこはリサが俺の為に噛み砕いた説明をしてくれた。しかもスイッチ式の念話のアーティファクトでやってくれたので話の腰を折らないという行き届いた配慮もある。

 

そしてシャーロックの話は続く。カーバンクルは失った力を取り戻しそうであること、そうなれば渡し損ねた命がモリアーティに渡り、モリアーティは1000年を超える寿命と、死んでも7度まで復活できる不死性を手に入れること。

 

「んー?……じゃあ6回でも7回でもぶっ殺してから逮捕して、聖痕を閉じちまえばいいんじゃねぇのか?」

 

とは言え逮捕できる段階まできたらそれも可能ではないのだろうか。勿論殺したくないというのなら代わりに俺がやってしまってもいいしな。

 

「それがそうもいかないのじゃ、主様よ」

 

すると、それに反論したのはシャーロックではなくルシフェリアだった。俺がルシフェリアの方を見れば、彼女は言葉を続ける。

 

「恐らくモリアーティは復活の際のタイミングと場所をある程度自由に選べる。そうなればまた奴の居所を探すところから始めねばならんのじゃ」

 

そういや、前にルシフェリアから聞いたことがあったな。ルシフェリアは命が7つあって、1回寿命を迎えたり、仮に殺されたりしてもある程度任意の位置とタイミングで甦れるのだと。モリアーティも同じことができるってことか。

 

「ふぅん。……場所だけじゃなくタイミングも選べんのか。そりゃあ面倒臭いな」

 

場所だけなら羅針盤で即座に追いかけられるのだが、タイミングまである程度自由となると、俺にはモリアーティがいつ復活するのか分からない。命そのものは氷焔之皇でも封印できないし、復活の異能の方を封印したとしても、1度死んじまえば多分氷焔之皇の縛りからは解き放たれるだろうしな。

 

しかも、カーバンクルが力を取り戻しそうになっている理由はエンディミラが関わっているらしいのだ。エンディミラがレクテイアに帰る直前、その手段を用意してもらう代わりに日本政府に渡した魔法についての理論、それが即座に盗まれて裏で売られているらしく、シャーロックもそれを入手してヒルダに妨害用の魔法ウイルスを作ってもらったらしい。

 

「さて……ここからがもう1つの依頼だよ。君達には神秘の器の奪還と共にその魔法円を破壊、ないしは機能停止に追い込んでカーバンクルの完全復活を阻止してほしい。でなければ最悪の力がモリアーティ教授に渡ることになる」

 

そして、シャーロックが俺を見る。

 

「そして、これらは天人くん、君に依頼したい」

 

しかしそう告げたシャーロックの言葉にホールはザワつく。特にヒルダが俺を強く睨んでいる。

 

「……何だよ」

 

「私はサード・エンゲージそのものに反対なのよ。レクテイア人の最近の動きは私も一通り調べたけど、不愉快だわ」

 

すると、そう告げたヒルダにルシフェリアが逆にガンを飛ばしている。

 

「ほう、不愉快とは?」

 

身体の周囲にバチバチとスパークを発生させたヒルダはルシフェリアに扇を向けたまま言葉を返した。

 

竜悴公(ドラキュラ)の一族は恐れられることで人を支配するものよ。なのに貴方達が大挙してこの世界にやって来たら人々が魔女に慣れて恐れなくなってしまうわ」

 

「───はっ、そもそも手前なんぞ恐れるに足りねぇってだけじゃねぇのかよ」

 

「貴様……っ」

 

ヒルダのことが嫌いな俺はそう横から口を挟む。て言うか、誰もが魔女なんてものを恐れない……むしろ魔女という言葉が消えるくらいに普遍的な価値にしたい俺としてはヒルダの思想とは相容れないのだ。だから俺達は睨み合う。バチ……バチ……とヒルダからスパークが迸る。俺も魔王覇気をドロリと垂れ流し始めた。

 

「先の話は後にしてもらえないかな?」

 

ズン……と重いプレッシャーがこの場に降り立つ。その発信源はシャーロック。それにヒルダはビクリと肩を震わせ、俺は鼻息1つで魔王覇気を収めた。

 

「分かった。お前が俺を指名した理由も、それを受けるという意味でもな」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

シャーロックのそれは嫌味でしかないが、取り敢えず理由の方も何となく分かっている。この任務、必要なのはチームワークだ。そして、往々にして()()振る舞いの求められるリーダーには男が求められることが多い。そうなるとリーダーをやるには俺かキンジのどちらかだろう。シャーロックは向かえないしな。

 

そしてキンジが行くならガイドが必要になる。それを担えるのはエリーザだが、キンジとエリーザはほぼ初対面で、しかもエリーザは基本的には男嫌いだからな。1番コミュニケーションが必要な奴とコミュニケーションが取れないのは致命的だろう。それに、レクテイアの神と相見えるならこちらもルシフェリアがいてくれると助かるが、キンジとルシフェリアもまたそれほど連携の取れる間柄ではない。

 

だが俺であれば2人とのコミュニケーションもそれほど問題は無いし、シャーロックがどこまで把握しているのかは知らないが、どちらにせよ俺には羅針盤と越境鍵がある。ガイドなんてなくてもこの場で器の在処とカーバンクルの所在を把握し、一気に乗り込むことができる。

 

逆に俺は魔法円を破壊できるヒルダとはこの通り今にも殺し合いになりそうではあるが、氷焔之皇があれば魔法円の破壊も1人で問題無い。カーバンクルと戦闘になったとしても俺であれば勝てるだろう。

 

「それに、キンジくんとアリアくんには私と来てもらいたいのだ。彼が神秘の器を回収している間に武力の高騰(パワーインフレ)をもう一度起こしてもらいたい」

 

と、キンジとアリアにはシャーロックから修行のご指名が入ったようだ。

 

「天人くんからは時間を引き伸ばすという素敵な道具を貸してもらえそうだからね。その時間で私と君達で武力の高騰を図ろう。それに、君達であれば僕の武力の高騰にもなりそうだ」

 

ふむ……そういうことなら……

 

「ならシャーロック、これも渡しとく」

 

と、俺は懐中電灯みたいなアーティファクトを宝物庫から取り出してシャーロックに投げ渡す。

 

「これは?」

 

それを受け取ったシャーロックは興味深げにそれを眺めている。

 

「そりゃあスイッチを入れると向けた人間を()()()()()()()()()()アーティファクトだ。用途は……言わんでも分かるだろ?」

 

崔淫作用があるわけではなくただ個人を性的に興奮させるだけの魂魄魔法入りのアーティファクト。そんなものの使い道なんて世界広しと言えど1つしかない。

 

「……使い道は分かるが、よくもまぁこれ程までに限定的な道具を作ったね」

 

「俺もキンジ以外に使った試しがねぇ」

 

そもそもそれ、キンジに使うためだけに作ったアーティファクトだからな。

 

「グリップに付いてるスイッチ入れれば起動する。時間延長の方も、裏側にスイッチ付いてるから」

 

「こんな道具をそんな簡単に使えていいのか……?」

 

と、キンジが半分呆れ顔で俺の渡した時間延長のアーティファクトを眺めている。

 

「んー?ま、そりゃあ敢えて誰でも扱えるようにしてあるんだよ。ちょっとそういう必要性があってな」

 

あと時間延長のアーティファクトは魔力消費が激しいという理由もある。何せ神代魔法だからな。アーティファクトを介するにしてもいちいち注ぐ必要のある魔力量は結構馬鹿にならない量なのだ。

 

だけど使う度にそれじゃあ大変だし、ハウリアに渡したアーティファクトみたいにスイッチ式にして時間制限はあっても魔力消費無しで使えた方が便利だったのだ。

 

「じゃ、そっちはそっちで宜しく。俺ぁ行くぜ」

 

取り敢えず羅針盤でカーバンクルと神秘の器の座標を特定して越境鍵で乗り込もうとした俺だったが

 

「まぁ待ちたまえ。早く走る子は転ぶものだよ」

 

と、シャーロックに引き留められる。なんだよ、俺はもうアーティファクトも提供したし、準備なんてもんも要らないんだけど。

 

「今度は何?」

 

「聖痕封じ返し……これを仮にアンティ・エクリプス(anti eclipse)と呼称するとして、これの研究開発とキンジくん、アリアくんの武力の高騰を合わせてある程度まとまった時間が欲しい。君の力なら高々数時間もあれば全て解決するのだろうが……」

 

「なんだよ、あんまり早く終わられると焦るからゆっくりやれって?」

 

「言い方は気に入らないけど概ねそういうことだよ。それに、これから先君達は同じ陣営になるのだろうから、親睦を深めてはどうかね?」

 

と、シャーロックは俺とエリーザを交互に見やりながらそう言った。

 

親睦って……俺と()()()()はもう手繋ぎの刑に処されてて仲良しだってんだよ。これ以上の()()()はちょっと甲斐性が過ぎるってもんでしょう?

 

「……何キョトンとしてんだ。一息に終わらせんなってことならエリーザ、お前に手伝ってもらわにゃならんだろうが」

 

「わ、私でち!?」

 

「他に誰がいるってんだよ。俺ぁヒンディー語は読めるけどインドの文化は分かんねぇ。道中ゆっくりって言うならエリーザの力が必要だよ」

 

「うぅ……」

 

俺は素直にエリーザが必要だと伝えただけなのだが、エリーザはそれで頬を赤らめて俯いてしまう。うーむ、ネモが言っていたエリーザの気持ちが正にその通りなのだとしたら、今のはもう少し言い方を考えた方が良かったのだろうか……?でも必要なもんは必要だしなぁ。

 

「それに、神秘の器の在処を僕は正確には把握していないのだが、十中八九その周りには多くの人間がいるだろうからね。天人くんは瞬間移動が出来るみたいだが、それでは無用な騒ぎを起こしてしまうだろうね」

 

「んー?……まぁいいや。じゃあネモ、エリーザしばらく借りるよ?」

 

「あぁ。ノーチラスの補給がまだ終わっていないから私は出られないが……」

 

物資に関してはある程度までは運び入れられたがそれも全て終わったわけではない。それに艦や設備の整備もまだやらなくてはならない。それが終わるまではネモも艦長としてノーチラスを離れられないだろうな。

 

「……なぁ、やっぱナンバー無かったり登録されてないナンバープレートのマイクロバスが走ってたら目立つかな?」

 

と、俺はコソッとエリーザにそう尋ねる。足の確保自体は俺の魔力駆動車を出せばそれで事足りるのだけど、アメリカで使った時みたいに砂漠の中を突っ切るのなら兎も角、インドの道路であれを走らせるのはそれこそ無用な騒ぎを起こしてしまう可能性もあった。

 

「当たり前でち。だいたい、そんなものどこで調達……いや、天人なら何でもありでちね」

 

と、エリーザは一瞬文句を言いかけて直ぐに止めてしまう。まぁどこからと言われても俺が錬成で作ったアーティファクトとしか言えないのであるが。

 

「んっ、それだと何日か掛かるかもだから……リサも来れる?」

 

そうなると必然、リサの存在が必要不可欠だ。具体的には俺の生活を支えてもらわねばならないからな。すると俺に話を振られたリサはニッコリ笑顔で「勿論です、ご主人様。ご主人様の旅路にリサはどこまでもお供いたします」と言葉をくれた。すると

 

「……では私も同行しましょう」

 

と、何故かメヌエットが俺達に着いてくると名乗りを上げた。

 

「勿論我も行くぞ、主様」

 

しかもルシフェリアまでそう言い出す。えぇ……そんなには沢山人手は要らないでしょ。火力は俺がいる以上は不足にはならないし魔術的な仕掛けに対しても俺なら全て破壊して進めるからな。まぁ、リサとエリーザを守らなければならない以上は拠点防衛を考えてルシフェリアくらいはいても良いかもしれないが……。

 

「そんな要らねぇだろ……」

 

とは言え別にメヌエットは着いてくる必要はないだろう。いくら狙撃銃(リー・エンフィールド)を持っているとは言え所詮は素人。長距離狙撃が必要になったとしても俺のアーティファクトや魔法であれば幾らでもカバーできる。

 

「リサとエリーザがいるし、億が一を考えてルシフェリアはまだしも、メヌエットは来てもなぁ……」

 

今回の仕事はそれほど難しいものでもない。神秘の器なるものを奪還し、カーバンクルなるレクテイアの神を打倒、奴がモリアーティに渡そうとしたという命を抑えれば勝ちなのだ。やることは2つだけ。それならば俺の足りない頭でもどうにか整理できる範囲だ。

 

「そうだね、天人くんの言う通り、メヌエットくんは行く必要が無い。彼ら4人がいれば問題無く任務は達成できるだろう」

 

「曾お祖父様の言う通りだわ、メヌ。態々天人になんてついて行く必要ないわよ。それよりもあたし達とモリアーティ教授への対策を考えましょう」

 

と、シャーロックとアリアは俺とメヌエットの間に距離を作りたいのかメヌエットの両肩をそれぞれがしっかりと掴んでこちらには行かせまいとしている。まぁ、大事な曾孫や妹が俺みたいなのと一緒に旅するなんて断固拒否したいだろうよ。俺もミュウをキンジと一緒にどっかに行かせたくはないし、気持ちはよく分かる。

 

「曾お祖父様、お姉様。それでも私は天人といたいのです。だからどうか行かせてくださいな」

 

ちょいと姿勢を落として2人の手を肩から外し振り返ったメヌエットは、アリアとシャーロックにそう告げる。その言葉の真意が分からぬ俺達ではない。俺は当然、アリアとシャーロックにだってメヌエットの決意の程は伝わっている。それでも、俺の胸には罪悪感があり、アリア達の胸の内は推し量るに余りある。とは言え、だ。

 

「……女にそこまで言われちゃ俺だってそれなりに応えてやらにゃならねぇな。……いいよ、一緒に来るだけなら連れてってやる」

 

ただし、連れて行くだけ。勿論危険があれば守ってもやるが、それだけだ。それ以上は深く踏み込まないし、踏み込ませない。だからホント、頼みますよ……?という何とも情けない視線をリサに向ければ、リサはニッコリ笑顔を返してくれるのであった。

 

その笑顔の真意や如何に───

 

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